魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

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第9話 行進の巫女4

 その後、私とセレナちゃんは紅葉林を歩いていた。

 

「ねえ、セレナちゃん。体調、悪いよね?」

 

 積もる落ち葉をサクサクと踏みながら歩く私は、拠点からある程度離れたのを見計らって、セレナちゃんに声を掛ける。

 

「どうしたんですか、こりすちゃん。藪から棒に」

「藪から棒じゃないよ。ずっと体調悪そうだったの、気づいてるよ」

「……こりすちゃんったら、相変わらず鋭いんですから。そうですね、ラブリナさんの力が増した影響でしょうか。黒晶石の強さに体が馴染んでいないみたいです」

 

 観念したようにそう言うセレナちゃん。平静を装うのを止めたせいか、その表情も一気に辛そうなものになっていた。

 どうやら、私が思っていたよりも体調が悪いみたい。

 

「今からでも学園に戻って休んでた方がいいんじゃないかな」

 

 セレナちゃんの体調を気遣って、少し歩く速さを遅くしながら私が言う。

 

「大丈夫です。気分がすぐれないだけで、少し前みたいに動けないわけではないんです。ラブリナさんに交代すれば問題なく戦えますし、足は引っ張らないと思います」

「頑張るのと無理をするのは違うから。体調が悪い時にちゃんと休むのは、セレナちゃんのためだけじゃなく、私のためでもあるんだからね」

「はい、承知しています……ただ、私とラブリナさんが抱える因縁は、結局の所進まないことには解決しませんから」

 

 決意を新たにするように、黒晶石が入った胸に手を当てて言うセレナちゃん。

 その言葉は恐らく正しい。ラフィールが最期に遺した言葉を信じるのなら、私達はこのダンジョンの最奥に向かう必要があるはずだ。

 

「わかった、セレナちゃんの気持ちを尊重する。でも、本当に体調が悪い時は休むって約束してね」

 

 だから、私はその約束だけ取り付けて、これ以上の言及はしないことにした。

 ただ危険から遠ざけるだけじゃ最良の結果は得られないって、私にもわかるから。

 

「はい、お約束します。……あの、こりすちゃん、もしかしてルミカさんの援護を申し出たのは、私の体調を確かめるためだったんですか?」

「勿論それもあったけど、ルミカちゃんを手助けしようと思っているのも事実だよ」

 

 ルミカちゃんの配信を映しているスマホを脇に浮かべながら、私はそう答える。

 

「そうなんですか?」

 

 不思議そうな顔で首を傾げるセレナちゃん。

 

「うん。ほら、私もルミカちゃんと同じで変身特化の魔法少女だから。リオちゃん達の言い分もわかるけど、ある程度は好きにやらせてあげたいなって」

「意外です。こりすちゃん、意外とルミカさんに好意的なんですね」

「うーん。ああいうスタンドプレー、個人的には好きじゃないよ。でも、魔法少女なんて因果なボランティア、自負と多少の我の強さがないと絶対に途中で折れちゃうから」

 

 他人を助けるために命がけで飛び込んでいくなんて、誰かに強制されて続けられるものじゃない。

 助けた人の笑顔とか、自分が皆の役に立っているんだって自負とか、そう言うプライドがないと絶対に折れる。私も魔法少女のはしくれだから、そこはよくわかる。

 

「ルミカさん、ボランティアどころか魔法少女として結構稼いでますよ? と言うか、セブンカラーズ全員世間一般より稼いでます」

「えっ、えっ? ……そ、それでもだよ! 命がけのお仕事には変わりないから! 頑張った対価が貰えるのはむしろいいことだし!」

 

 木々の合間から出現したパンダモンスターに拾った石を投げつけ、私はそう擁護する。

 思わぬ事実を知ってちょっと言葉に詰まったけれど、対価が貰えるのならそれに越したことはない。魔法少女は人助けの為に進んで地獄へ飛び込むんだから、それ位は許される……と思う。

 

「んもう、こりすちゃんたら。自分は一度も対価を貰ったことない癖に、棚に上げてよく言いますよね」

「私の場合は自分勝手で気まぐれな人助けだから。ちゃんと責任を持って魔法少女してるなら、やっぱり対価は貰ってもいいと思うよ」

 

 それが長い魔法少女生活で決めた、天狼こりすと魔法少女エリュシオンとの折り合いの付け方なのだ。

 エリュシオンなら労せず皆を助けられることは沢山ある。でも、そうなれば私は常にエリュシオンであることを強要され、天狼こりすの私生活はなくなってしまう。

 それに、エリュシオンが全て解決してしまったのなら、きっと皆はエリュシオンに依存して自分で解決する気持ちを忘れてしまう。

 

 だから、私は変身する際に一つのマイルールを課した。エリュシオンの力を使うのは、手の届く誰かが命の危機に瀕している時、あるいはエリュシオンでなければ対処できないトラブルだけだって。それはある意味、凄く無責任でもあると思う。

 そして、対価を貰うってことは行動に責任を持つこと。だから無責任で気まぐれなボランティアでしかない私は、皆から対価を受け取る権利がないのだ。

 

「そう言いながらプロ魔法少女のカバーをするんですから、損な性分というか、実にこりすちゃんらしいというか……」

 

 セレナちゃんは呆れたような困ったような顔をしながら、パンダモンスターへ魔法攻撃の狙いを定める。

 石を当てられて怒り心頭のパンダモンスターは、私へ狙いを定めて襲い掛かる寸前だった。

 

「それは元々私がしたいことだし。誰かを助けたい気持ちにプロも、素人も、強い弱いもないから」

「頑張る誰かの手助け。エリュシオンの行動理念は最初から同じですもんね」

「うん、それは変身してなくても同じ。ただ、体調が悪いセレナちゃんに迷惑かけちゃうのは申し訳ないけど」

 

 私は襲い掛かって来たパンダモンスターの懐へと飛び込み、繰り出してくる鋭い爪攻撃を回避しながら敵意を引き付け続ける。

 攻撃で隙ができたのを見計らって鉈でパンダの腕を斬り落とし、飛び退いて即座に離脱。間髪入れず、セレナちゃんが嵐の刃でパンダを斬り裂いた。

 

「お見事です。こりすちゃん、今レベル7なんでしたっけ? 完璧にレベル詐欺ですよね」

「魔法少女としての戦闘経験はレベルに加味されないからね。でも、前回のパンダより妙に堅かったかも……あ、黒晶石個体だったんだ」

 

 黒い煙を出して消えていくパンダの背中には、小さな黒晶石の結晶が突き出していた。

 スマホをちらりと一瞥すれば、ルミカちゃんがしている配信でも黒晶石個体が山盛りだ。普段なら滅多に見かけない黒晶石個体がこんなに沢山居るなんて……これもパレードの影響なのかな?

 

「そのことですが、こりす」

 

 訝しむ私の横、セレナちゃんの目が紫色に輝き、ラブリナさんへと切り替わる。

 

「先程ルミカが配信で倒していた黒晶石個体、それにこの個体……どちらも露出している黒晶石は後付けです」

「後付け?」

「はい、後天的に別の黒晶石を取り付けることによって強化されています。キメラのような合成モンスターだと考えてください」

 

 つまり、羊の体にライオンの頭を後付けしたみたいな、普通は居ないモンスターってこと?

 

「さっき呟いていた気になること、それだったんだね」

「はい。直にこの目で見た以上、断言できます。黒晶石の欠片である私からみれば、これらは不自然極まりない存在です」

「そうなんだ……。でも、後付けだとしたら誰かがしたってことになるよね」

 

 まるで秘密結社がよくやる改造生物みたい。そう考えた所で、クロノシアの言葉を思い出す。

 

「あ、まさか採掘場にあったクロノス社の秘密研究所に侵入したのは……」

「これが黒晶石の魔王(どうるい)によるものか、何らかの地下組織によるものかはわかりません。ただ、そのどちらであろうと、クロノス社が蓄積したデータは有益でしょう」

 

 この前、クロノス社の社長は黒晶石を使ってやりたい放題していた。

 しかも、最後は自分が黒晶石に飲み込まれてモンスターにまでなってしまった。無事元に戻った所まで含めて凄く貴重なデータなのは間違いない。

 

「そこで得た情報を基に性能実験をするなら、このパレードはうってつけだよね」

 

 これだけのモンスターが居れば黒晶石個体が数体紛れ込んでいても不思議はないし、証拠となる黒晶石はモンスターが倒されれば一緒に消えてしまう。

 黒晶石個体を使って悪事をするには向かないタイミングだけど、単なる性能実験なら絶好の機会だ。

 そして、こことルミカちゃんの所に黒晶石個体が沢山現れていることを勘案すれば、実験をしている連中は恐らくこの近辺に居るはずだ。

 最初にサポートを引き受けた時と状況が変わってしまった。この状態でルミカちゃんの変身解除を待ち続けるのは危険だ。その変身解除が致命的な隙になりかねない

 

『流石はパレード、黒晶石個体が雨あられだなっ! だけどなんの問題もないぞ! このセブンカラーズダイヤは黒晶石個体如きに負けないんだからな! 頼れ!』

 

 どうするべきかと迷いながら確認した配信では、ルミカちゃんが相変わらず黒晶石個体のモンスターを倒していた。

 でも、さっきとは技のチョイスが微妙に違う。派手な映える技から地味でも魔力消費が少ないものへと変わっている。本人はまだ無意識だろうけど消耗してきてる証拠だ。

 更に言えば、ルミカちゃんはさっきから配信場所が動いていない。恐らく変身時間切れを狙って黒晶石個体をけしかけ続けられている。

 

「セレナちゃん、この近くにライブカメラないよね?」

「はい、ないはずです。変身、するんですね」

「うん。犯人を探しつつ、配信に映らない程度にモンスターを散らしてくる」

 

 セレナちゃんに頷き、私は心のスイッチをエリュシオンへと切り替える

 よりも僅かに速く、ゴドンと鈍く大地に響くような音が聞こえた。

 

「こりす、醜悪なものが出てきたようです」

 

 再び切り替わったラブリナさんが不愉快そうに見上げる遥か先、紅葉している木々を押しのけるように黒い塊が蠢いていた。

 それは黒晶石によって無理矢理繋げられたモンスターの集合体だった。

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