魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

78 / 190
第9話 行進の巫女5

 ルミカの配信中、突如現れたのは無数のモンスターを繋ぎ合わせた黒い異形だった

 

 "なんだあれ……"

 "これもうデスパレードじゃん"

 "どこにいたの、こんなの……"

 "地獄のミートボールかよ"

 

 否が応でも目につく巨体にもかかわらず、降って湧いたように姿を現したモンスター。

 木々を押しのけながら(うごめく)くその異様な姿を見て、視聴者達がざわめき困惑する。

 

「何をうろたえてるんだ、お前等っ! 逆にこれは大ラッキーだぞ! 他の誰かが襲われる前に、この僕様が退治してやれるんだからな!」

 

 困惑する視聴者を一喝し、これこそが自分に相応しい相手だとルミカがランスを構える。

 

 "流石ルミカちゃん、クソガキだけど頼りになるぅ!"

 "高慢なクソガキなのにクソ強くてクソ戦い慣れてるのが、セブカラのクソガキちゃんのクソガキたる所以だな"

 "皆酷いぞ! クソガキちゃんのことをルミカって言うなよ!"

 

「お前らーっ、言い方ァ!! 見事ぶち殺したら、謝罪と感謝の投げ銭しろよ! 絶対だからな!」

 

 ルミカは落ち着きを取り戻した視聴者に向けて軽口を叩くと、ランスを構えて地面を削る勢いで一気突撃。巨体を削り取っての撃破を狙う。

 

「一点突破! セイクリッドインペール!」

『ヴォオオッ!』

 

 ランスの突撃が直撃し、塊の端に練り込まれていたオークが絶叫と共に黒い煙を噴き上げる。

 

「まだまだっ、光撃点火!」

 

 続けざまに槍を薙ぎ、オークの横で蠢いていたカボチャお化けを爆砕。

 

「蹴散らすっ!」

 

 上下左右前後、縦横無尽に駆け抜けるランスの立体突撃。

 ルミカは地面に積もった落ち葉を巻き上げながら、黒い巨体を構成しているモンスター達を素早く削り倒していく。

 

「なんだ、見掛け倒しかよ。ザコがいくらくっついたって弱々だな!」

 

 ルミカはそのまま危なげなく黒い塊を倒しきり、討伐されたモンスターから吹き上がる黒い煙が周囲を黒く埋め尽くす。

 

「……ほら、居るんだろ? さっさと出て来いよ!」

 

 黒い煙の先にランスの切っ先を向け、ルミカが不敵に笑う。

 

「やれやれ、気づかれていましたか。困りましたねぇ」

 

 煙の中からが聞こえる飄々とした声。

 モンスターが完全に消滅して黒い煙が晴れると、そこには二人の怪人が立っていた。

 それは、フードの付いたローブで顔を隠した司祭のような怪人と、三メートルはありそうな巨体の亀怪人のコンビ。

 そのどちらもモンスター化していて黒いオーラを纏っていた。

 

 "あー、やっぱ怪人が居たのか"

 "あの黒いキモンスター、地下組織の改造モンスターだったんか"

 "この前のクロノス社もそうだったけど、悪党どもはモンスターの悪用に余念がないな"

 

「お前等、僕様は暫く戦闘に専念するからな! 怪人、僕様はお前達をボコれる時を楽しみに待ってたんだぞ。まずは間引く、片方死ねッ!」

 

 怪人が臨戦態勢を取るのを待たず、ルミカがランスを構えて突撃。

 

「ははは、なんとも野蛮なお嬢さんだ。ギガントタートル君」

「ウス」

 

 後ろ手を組んだまま司祭怪人が指示を出し、前に進み出た大柄な亀の怪人がその甲羅でランスを受け流す。

 

 "マジか! ルミカちゃんのランスチャージいなした!?"

 

「ちいっ! やるじゃないか、クソ亀ぇ!」

 

 地面を削りながら急ブレーキをかけたルミカが向き直り、司祭怪人に向けて再度突撃。

 

「受け流しなさい」

「ウス」

 

 しかし、またしても亀怪人が盾となって、ランスの突撃を受け流した。

 

 "またいなした!"

 "亀怪人ガチで強い奴じゃん! これ、相手してるのがルミカちゃんでよかった!"

 

「ウザい鈍亀野郎~~ッ! 僕様相手にどこまで受け流せるか試してやるよ!」

 

 二度も攻撃を受け流されたことに苛立つルミカが、ランスの先端に光をまとわせる。

 

「おやおや、できるんですか? 間もなく魔力切れで変身解除寸前の貴方に。そもそも、万全なら先程の攻撃を受け流されることもなかった。違いますか?」

 

 だが、後ろ手を組んだままの司祭怪人がそれを嘲笑う。

 

「モンスターがやたらに多いと思ったら、僕様の変身解除狙いだったのか! はんっ、浅知恵だな!」

「有名人は大変ですねぇ、戦闘データが山ほどある。正確にとは言えませんが、おおよその制限時間は割り出せますよ」

「ふん、捕らぬ狸の皮算用って奴だ! 僕様はまだ時間切れしてない! お前等をぶち殺す位の時間は残ってるぞ! オラッ死ねッ!」

 

 ルミカは司祭怪人を睨みつけると、光を纏ったランスで突撃。

 

「ギガントタートル君」

「ウス」

 

 それを再び亀怪人が受け止めようとするが、今度は受け止めきれずに大穴を穿たれてしまう。

 

「はん、決まったな!」

「ええ、決まりましたね。どうですか、ギガントタートル君」 

「ウス。痛いっス、死ぬっス」

 

 自らの腹を貫いているランスを両手で掴んだまま、亀怪人が答える。

 

「そうでしょうね。では実証実験を始めるとしましょう」

 

 それを聞いた司祭怪人はさして慌てることもなく、尖った黒晶石の棒を懐から取り出すと、そのまま亀怪人の首筋へと突き立てる。

 途端、突き刺さった黒晶石が亀怪人の体を侵食し始め、その体を荒々しい黒晶石の塊へと変貌させていく。

 

「ウス! ウスウスウーッス!」

 

 亀怪人が纏う黒いオーラも勢いが増し、ルミカのランスを掴むその手にも再び力がみなぎっていく。

 

 "あ、これヤバい奴……"

 "残りの変身時間が短い状態で第二形態は絶対マズいって!"

 

「あぁ? なんだこいつ、キモイぞ!? ……ってヤバい、抜けない!」

 

 その変化に危機感を抱いたルミカは一旦距離を取ろうとするが、ランスを掴む亀怪人の力が増していて、その体に突き刺さったランスを引き抜くことができない。

 

「おやおや、これは思わぬ展開です。せっかくです、捕まえておきましょう。例外なく高い魔力を持つ魔法少女は、実験素体として有用そうですからねぇ」

「僕様を実験動物にするつもりか、お前等!? おい、待て、やめろ! それはマジでやめろ!」

 

 ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべる司祭怪人に、ルミカの顔が焦りに染まる。

 

「捕まえておきなさい、ギガントタートル君。間もなく彼女の変身時間も終わるでしょう」

「ウス、任せてください。ミンチになるまで徹底的にぶち殺すっス」

 

 指示を受けた亀怪人がランスを掴む手を離し、ルミカの頭を叩き潰すべく手を広げる。

 

「クソ亀野郎っ!!」

 

 このままでは直撃は免れないと判断したルミカは、残存する魔力をありったけランスへと注ぎ込んで暴発を促す。

 直後、ランスが白く発光して炸裂、その衝撃でルミカと亀怪人が互いに吹き飛ぶ。

 亀怪人の体を覆う黒晶石が弾けて剥がれ、その一片がルミカの衣装の胸元にあるペンダントのコアパーツに突き刺さった。

 

 "相打ち!?"

 "いや、ルミカちゃんは無事!"

 "いや、でも変身解除されてる!"

 

 瞬く間の窮地にざわつくコメント欄。

 

「うあ……」

 

 紅く巻き上がった落ち葉が視界を遮る中、コアパーツへのダメージと魔力切れで変身解除されたルミカが、ふらふらとした足取りで立ち上がる。

 

「どうやらチェックメイトのようですよ。ギガントタートル君」

「ウス」

 

 司祭怪人がそう言うと、ルミカとは逆方向に吹き飛ばされていた亀怪人が悠々と立ち上がる。

 腹を貫通していたランスの傷は黒晶石の侵食によって完全に塞がれ、黒いオーラを纏ったその全身にはパワーが満ちあふれていた。

 

「マジか、僕様が与えたダメージが……。これは黒晶石個体になったからなのか?」

「その通りですよ。さあ、改めて捕獲しなさい。手足をもいでもかまいませんが、決して殺さないようにお願いしますよ」

「ウス、今度こそ捕まえて息の根止めるっス」

 

 絶望するルミカ目掛け、亀怪人が突撃する。

 だが、ルミカの方へと動いたのは亀怪人の上半身だけだった。

 

「ギガントタートル君?」

「ウス、なんか体、動かないっス」

 

 腰の辺りで真っ二つに両断されていた亀怪人は、黒晶石化した断面から盛大に黒い煙を噴き上げて灰になっていく。

 突然の展開に驚いた司祭怪人が思わずルミカを確認すれば、その前には一人の魔法少女が立っていた。

 白いレオタードのような戦闘服(ドレス)に燐光纏い、銀のツインテールなびかせて、その魔法少女は腕を組み、黄金の瞳で司祭怪人を見据える。

 

 "あー、来た来た、来ましたよ"

 "やたらに強いと思ったらエリュシオン案件かぁ"

 

「人の助けを呼ぶ声あらば、燐光纏いて私は来よう。悪を断つ銀のシリウス、魔法少女エリュシオン」

「エリュシオン……」

「ごめん。君の所以外にも塊モンスターが居ると思わなかったから、見つけるのに時間がかかった」

「っ! 僕様助けなんて呼んでないからな!」

 

 唖然としていたルミカは、我に返って気丈にそう叫ぶ。

 

「そうだね、これは私が勝手にしていることだから気にしないで。ただ、怪人の相手は私が引き継ぐよ」

 

 睨みつけるルミカの視線を悠々と受け流し、エリュシオンは組んでいた腕をほどきながら司祭怪人へと視線を滑らせる。

 

「おやおや、ついに出てきてしまいましたねぇ。流石にエリュシオンの相手は想定していません。貴方の相手はまた次回、万全を期してさせていただきますよ」

 

 司祭怪人は震える声で平静を装うと、身を翻して撤退しようとする。

 だが、後ろを向けたのは上半身だけで、その下半身はついてこなかった。

 

「勝手に話を進めてるけど……君に次回なんて、ないから」

「えっえっ? あっ?」

 

 上半身が下半身から滑り落ち、理解が追いつかないまま黒い煙を上げる司祭怪人。

 

 "ヒエッ!"

 "画面見ながらマジで変な声出た"

 "エリュシオンの名乗りは悪に対する絶対の死刑宣告。今日はこれを覚えて帰ってくださいね"

 "その無慈悲さにワシは心底痺れたよ"

 

「あり得ない! あり得ない!? なんだコイツ、なんだコイツ!? 死ぬんですよ、この私が死ぬんですよ!?」

 

 体から黒い煙を噴き上げる司祭怪人は、最期の力を振り絞って取り出した黒晶石の結晶を、自らの胸に勢いよく突き立てる。

 

「まだだ、まだおわりませんよぉぉぉおおお!!」

 

 両断されていた体に黒晶石が侵食し、分かたれていた上半身と下半身を無理矢理繋ぎ合わせていく。

 

「ふはっ! ふはっ! 間に合った、間に合いましたよぉ! 私こそは秘密結社"真那由他会"所属、高司祭アークドラゴン!」

 

 切れ端となったローブを投げ捨て、正体を明かした司祭怪人改め竜怪人が咆哮するように叫ぶ。

 突き刺した黒晶石が全身を余す所なく侵食し、黒い竜鱗に覆われた体の上に強靭な黒晶石の鱗を纏わせていく。

 

「黒晶石によって鍛えられたこの竜鱗! はたして貴方に傷つけられますかねぇぇぇ!?」

「もう斬れてるけど」

「……はい? はい?」

 

 だが、それも一瞬限りのこと。

 既にその体は刺さった黒晶石ごと真っ二つに両断されていた。

 

 "圧倒的格上相手の強制蘇生って、ある意味残酷だよな……"

 "復活しても死ぬ回数が増えるだけなんだ。悔しいだろうが仕方ないんだ"

 "大丈夫。エリュシオンちゃんはやる気になれば普通に不死殺しとかするから"

 "よかった。それなら安心ですね"

 

「バカな! バカなッ! この私がァアア!!」

 

 二つに千切れた体で声にならない叫びをあげ、体を侵食する黒晶石諸共に灰となった竜怪人は、秋風に乗ってサラサラと消えていった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。