魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~ 作:文月なご
第二話 暴走の巫女
秋を感じる紅葉の森を抜けると、そこは一面の夏だった。なだらかな丘には芝みたいな草が青々と生い茂り、青い空には入道雲。
私の黒髪をふわりと揺らす風には、ほのかに塩の匂いが混ざっていて、左手に広がる砂浜からはさざ波のような音が聞こえてくる。
そこは平原エリアよりも生命力溢れる緑と青の世界。ここがダンジョン学園のある平原ルートにおける現在の最奥、攻略最前線こと海岸丘陵だ。
「ふぃーっ、なんとか全員無事に到着できた。もうやらん、絶対に二度とやらん」
パレードの最後尾、参加者全員が海岸丘陵との次元の裂け目をくぐったのを見届け、念のためアプリを確認したリオちゃんが、そこでようやくふーっと大きく息を吐いて安堵する。
パレード参加者は政府公認位置情報アプリの導入を義務付けられ、途中ではぐれないようになっている。
別の階層へと続く境界付近にはダン特の人が立っていて、余程のうっかりさんじゃない限り迷子になる心配も無い。ここまで来ればもう大丈夫、多分。
「お疲れさまでした。ここのエリア自体は二層ですからね、ダンジョン学園の生徒達なら苦も無く歩けるはずです」
「だから無理矢理に紅葉林を突破したんだよね」
大きな石に腰かけて体を休めているセレナちゃんが、魔法で私達の周りに冷風をまとわせてくれる。
今日は秋の気候の紅葉林から来たから長袖で、このエリアで冒険するには少し暑い恰好だ。明日は夏服にするのを忘れないようにしないと。
「そそ、後はここから拠点までは海岸沿いを歩くだけ。大規模襲撃もなかったし、余力も残ってるだろうからもう大丈夫っしょ。てか、大丈夫じゃなきゃウチが困る」
昨日は予想外のトラブルがあったものの、今日は予定通り大した襲撃もなく、比較的楽にここまで来れた。
もしかしたら、昨日戦ったモンスターの集合体が、根こそぎ紅葉林のモンスター達を吸収してくれていたのかもしれない。
「これで集団戦まで無事に終わったら、報酬で派手なビーチバカンスでもしよっか」
「リオちゃん、ま、まさかここでじゃないよね?」
「この浜辺、柵で区切られた範囲は遊泳可能らしいですよ。水質も良く変な微生物とかの心配も無いそうです。ちなみにエリア自体は海岸丘陵と呼ばれていますけれど、実際は巨大な塩湖だって調査結果が出ています」
言いながら、セレナちゃんが遠くに見える砂浜の方へと視線を向ける。
大要塞みたいな巨大拠点近くの砂浜、パラソルが花みたいに咲き乱れていた。水着姿で遊んでいる人達まで居る、しかも結構沢山。
え、正気なの?
「皆、度胸あるんだね。一応、二層だから森イノシシぐらいのモンスターは出るはずなのに」
「ここに到達できている時点で、ある程度高いレベルを持っているはずですからね。二層程度のモンスターは装備なしでも対処できるんだと思います」
「後は停滞感って奴? 攻略最前線、暫く攻略が滞ってるからさ。ここ二層の癖に、次の境界前に陣取ってる場違いモンスターだけが飛びぬけて強いんよ」
拠点への道すがらに小高い丘を登って行けば、遥か先に小高い山と並んで鎮座する黒い物体が見えた。黒い体の巨大芋虫だ。
あ、黒い物体オーラ出てる。まさか、あれモンスターなの? 嘘でしょ、ちょっと遠近感がバグってるよ!?
「こりっちゃん、遠近感バグってるとか思ってたっしょ」
驚く私を見て、リオちゃんがシシシと悪戯っぽく笑う。
「な、なんでわかったの?」
「初めて見た時、皆そう思うからに決まってんじゃん。ご察しの通りアレが今回討伐予定のレイドボス、地上部だけで100メートル越え、更に地下部分もあるって考えられてるヤバい奴だよ」
「うへぇ、大きいは強さだねぇ……。ミコトちゃん、流石にあれには突撃しちゃダメだよ」
「はいなのです」
あれをこれから倒すんだとげんなりしつつ、終始無言のミコトちゃんに会話を振ってみれば、返ってきたのは生返事。
いつもなら興味津々で大はしゃぎであろうミコトちゃんは、今日は終始無言で真剣な顔をしたままだ。やっぱり那由他会のことが気になるみたい。
昨日の様子を見た後だと、一人暴走していかないだけマシなのかもしれないけど。
「ミコトちゃん、那由他会を名乗った怪人のこと気にしてるの?」
「当然なのです。私の中のエリュシオン様が言うのです! 皆で協力して那由他の名を騙る悪漢達に立ち向かい、討滅せよと!」
「エリュシオン、絶対そんなこと言ってないよぉ!? むしろ心配だから大人しくしててって思ってる!」
言ってないし、思ってない! 私は断じて思ってない! エリュシオン昨日真逆なこと言ってたよね!? 恣意的解釈が過ぎる!
決意の握り拳を作るミコトちゃんの肩を持ち、ステイ、ステイと必死になだめながら速足で拠点へと急ぐ私達。
到着した拠点の中は人でごった返していた。
「ふへえぇ……。紅葉林拠点も拡張されて大きいなって思ったけど、ここはそれ以上だね」
元々のこの拠点を使っている冒険者さんに加え、今日はパレード参加者がほぼ全員居る。そう考えると、この拠点には千人以上の人が居るはず。
それなのに、大型ショッピングモールみたいなこの拠点は、まだまだ収容人数に余力があった。
「他の階層拠点とは注力の度合いが違うんよ、ここ。この階層、希少な資源が多く埋蔵されているって予想がされてるからさ。伊達に攻略最前線なんて呼ばれてないってわけ」
拠点内にある超有名企業の営業所を指差して、リオちゃんが歩きながら説明してくれる。
話によると、あの営業所では冒険者が持ってきた資源と有用なエリア情報を買い取ってくれるらしい。それだけ資源の持ち込みが沢山あるってことだよね。
「それともう一つ、このエリアが攻略最前線として重点攻略エリア指定を受けているのには理由があるんですよ」
そう説明してくれるセレナちゃんの所へ、営業所からスーツ姿の人達が大急ぎで飛び出して来て、慌てた様子でご挨拶してくる。
あの企業、
「だね。こりっちゃんは不思議に思わない? ダンジョンなんて国内だけでも山ほどあんのに、ここだけが特別に攻略最前線って呼ばれてんの」
「私、このダンジョンしか潜ったことないから当然に思ってた。でも言われてみればそうだよね、理由があるの?」
ふらふらと迷子になりそうなミコトちゃんの腕を掴んで捕まえつつ、言われてみればって首を傾げる。
ダンジョンは各国に大小山ほどある。この国にだって未攻略で資源の眠っているダンジョンはいくらでもあるだろう。
それなのに、ここが攻略最前線なんて大仰な名前になっているのは不思議だ。
「はい。魔法文明の遺跡だと推測されている地点があるんです」
「魔法文明の遺跡!」
「今現在、各国こぞって魔法技術競争を繰り広げていますからね。他国に一歩先んじれる技術的な何かがないか、今必死に解いている問題の答えがここにないか、そんな期待がされているんです」
そんなものがあるんだって一瞬思って、そう言えばうちのにゃん吉さんって異世界から来た魔法文明の猫だよね、って今更ながらに気づいてしまう。
前回の変身用ペンダントを見るに、にゃん吉さんの持ってる魔法技術は私達の世界より確実に上だ。今後は猫さらいに遭わないよう気をつけないと。
「そうなんだ。我が家にはにゃん吉さんが居るし、玄関とかに防犯カメラをつけた方がいい気がしてきたよ」
「そこは安心してください。こりすちゃんのお家近辺に不審者が居れば、即座に私の所へ連絡が来ますから」
「えっ?」
心配性ですねって、くすりと笑うセレナちゃん。
なんでセレナちゃんの所に連絡が来るんだろう。ちょっと意味がわからなくて頭に疑問符を浮かべながら歩ていると、転移ホール前の通路に人だかりができていた。