魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~ 作:文月なご
転移ホール前の人混みに行く手を阻まれる私達。
これはダンジョン学園へ帰るのにも苦労しそう。
「あれー、どうなってんだろ? ちょいちょい、これなにごとなん」
この人混みは何事なんだろうって、リオちゃんが近くに居た子に話しかけ、
「あ、リオちゃんだー! パレードおつかりー」
「うぃー、おつおつー。なんか凄いことになってるけど、これ全員魔力登録待ちなん?」
「今からレイド討伐パーティが来るらしいんだー。あ、後サインちょうだい!」
リオちゃんのファンらしいその子がそう教えてくれる。
「へー、あんがと。こんな魔法少女崩れのサインが欲しいなんて奇特なお方じゃん。ってことで皆の衆、こりゃ暫く魔力登録できそうもない感じだね」
差し出されたスマホカバーに可愛いサインをささっと書きつつ、リオちゃんが困ったように眉根を寄せる。
国家公認魔法少女はアイドル扱いされているって何度も聞いてたけど、サインを書き慣れてるリオちゃんを見るに、アイドル扱いされているのは本当らしい。
うん、私は国家公認魔法少女になれないって再確認できた。
「この混み具合では仕方ないですね。折角の機会ですから、私達も後学のために有名冒険者を見ておきましょう」
「私達がこの後レイドで援護する相手だもんね。ほら、ミコトちゃんも一緒に見ようよ」
「はいなのです」
セレナちゃんに頷きつつ、いつもと違って静かなミコトちゃんにもう一度話を振ってみる。
やっぱり返ってきたのは生返事だった。心配、何かしでかさないか本当に心配。
「ほ、ほら、ミコトちゃん、討伐パーティさんが来たみたいだよ」
なんとか那由他会から意識を逸らそうと、私はコミュ障ながらも踏ん張って話を振り続ける。
ミコトちゃんはキッズなハートの持ち主だから、上手く興味を引けばいつもの状態に戻ってくれるはず。いい加減戻ってくれないと困る。
「あれが、レベル47【三操剣】のクロウ・ブレード氏ね。見た目ムキムキの脳筋戦士っぽいけど、二本の属性剣を遠隔操作するテクニカルな三刀流魔法剣士なんよ」
クロウさんとか言うらしい黒い髪の厳つい大男の人がこっちに視線を向け、説明していたリオちゃんがひらひらと気安く手を振る。
あ、知り合いなんだ。普段は全く気にしてないけど、リオちゃんって本当に有名冒険者さんなんだねぇ。
次に出てきたのはスーツ姿にアタッシュケースを持った神経質そうな眼鏡の人。
「んで、あれが久世無音。【最強の企業戦士】って異名を持つ
リオちゃんの説明が聞こえたのか、神経質そうな眼鏡の人が水色の髪を撫で、眼鏡をクイッと動かしてリオちゃんを睨んだ。
あわわ!? リオちゃん、やっぱり耐久職の人にタフじゃないは失礼だよ! クロノシアは怪人で元々の基本スペックが違うんだし!
迂闊な一言に私が戦々恐々としていると、今度はやたら軽装な女の子がやってくる。
薄紫色の長い髪に釣り気味の紅い瞳、ぺったんこで薄い体、小さいフリルの付いた白いビキニ。更にその上から白いボディハーネスみたいなものを着けている。
全体的に色素薄めで白くて吸血鬼みたいな儚い雰囲気だけど、それよりも凄く軽装なのが気になる。まるで痴女さんだ。
「あれ? あの人、ビーチで泳いできたのかな」
「あー、違う違う、あれ私服。あれがルミカと並ぶセブカラのダブルエース、オニキスこと黒部ねね。通称おねねさん。あんな見た目で変身前もレベル35の【剣聖】だからメッチャ強いよ」
「えぇ、あれが私服って、本当に痴女さんだったの……」
恰好が気になって高レベルだって説明が頭に入ってこない。
ある意味強い、強すぎる。
「あれで平気な顔して街中歩くんだから嫌んなるよね。コンビニとかで不意に出くわすと脳が一瞬理解を拒むよ」
「に、人間はあの恰好でコンビニに入れるものなんだ……」
私は慄きながら、ねねちゃんの恰好を再確認する。
コスプレ会場で会っても攻めてるなって思うだろうその恰好、余程自分の容姿に自信がなきゃできない。私だったら道中で卒倒してる。
「こりすちゃんが着たら、たわわなお胸が更に強調されて確実にエッチですよね、あの恰好」
「私が着なくても完全にそうだよぉ!?」
誰が着てもそう! オールアウト! 周りにも目のやり場に困ってる人、沢山居るし!
インパクト抜群のねねちゃんに周囲がざわつく中、最後に登場したのは紫紺のくせっ毛を伸ばした巫女装束の小柄な子だった。
「あれは……。んー、あれは知らん子だわ。誰だろ」
さっきみたいに解説しようとして、小首を傾げるリオちゃん。
ミコトちゃんに雰囲気が似てるし、パーティ構成的にもやっぱりヒーラーさんなのかな。
なんて私が思っていると、件のミコトちゃんが人混みを掻き分け、その女の子の目の前に飛び出した。
「み、み、み、ミコトちゃん! なにやってるの、討伐パーティさんの迷惑になるよ!」
「こりす! こいつなのです! 昨日エリュシオン様に仇成した偽那由他会の一味に違いないのです!」
連れ戻そうとする私が人混みに悪戦苦闘していると、ミコトちゃんは皆の前でとんでもないことをのたまってしまう。
なんてこと口走っちゃってるのぉ!? もう完全に油断した。ふん捕まえて容赦なくお口チャックしておくべきだった!
顔面蒼白になった私は、強制回収から強制退去の王道コンボを決めるべく、大急ぎでミコトちゃんの手を引っ張る。
「くふっくふっ、姫巫女様も人が悪いですな。拙者は無関係、無関係ですぞー」
そこで紫紺の髪の子が足を止め、憤慨しているミコトちゃんにくっくっくっと悪そうな笑顔を向けた。
あれ、この感じ……まさか知り合いなの? 思わぬ展開にミコトちゃんを掴む手が緩んでしまう。
「ミコトちゃん、知り合いなの?」
「うー……多分、そうなのです! これは
まるで推理を披露する探偵のように、びしっとメイちゃんを指差すミコトちゃん。
多分、多分って何!? 知り合いなら断言してあげようよ!?
そう心の中でツッコんだ所で、メイちゃんと言う名前に聞き覚えがあることを思い出す。昨日ミコトちゃんが心配していた、那由他会に残して来たお友達のはずだ。
なら、どうしてこんなに敵愾心を露わにしているんだろう。
「禍々しいのです。絶対、悪魔か黒晶石かが憑いているのです!」
「くふっくふっ、心外至極ですな。拙者は正気も正気、姫巫女様の勘違いですぞー」
メイちゃんが悪そうな笑顔のまま、首を横に振って否定する。
「むー、ますます怪しい、絶対に中身が違うのです……。こりす、私が脱がせるから黒晶石がないか探すのです! ミレイの時みたいにパリガシャするのです!」
そんな態度を見たミコトちゃんは、私を巻き込んでそんなことを主張し始めた。
ようやく話が読めてきた。ミコトちゃんはメイちゃんが黒晶石に操られていると考えているんだ。
「ミコトちゃん、とりあえず後にしよう? 凄く悪目立ちしてるよ!」
でもだからって、こんな所でいきなり服を脱がして黒晶石の有無を確かめられるはずもない。
元々人目を惹く容姿なことも相まって、今のミコトちゃんは物凄く悪目立ちしている。お立ち台に電飾バリバリ、一人だけテーマパークのパレードをしているような目立ち方だ。
「こりすー! 大急ぎで捕まえて取り調べをするのです! 未然に悪行を防ぐのです!」
「ははは、その必要はないぞ!」
私まで悪目立ちの道連れにしようとするミコトちゃんの前、クリーム色の髪をした少女がご登場する。
更なる混迷の予感。私は心の中で天を仰いだ。
「る、ルミカちゃん……」
「宝石みたいに光沢のある白い髪に赤と青のオッドアイ。お前が宵月命だな!」
「はい、そうなのです! 犯人を捕まえたのです!」
はいっと手をあげて、誇らしげに大きな胸を張るミコトちゃん。
それを見たルミカちゃんが、ニヤリと意味深な笑みを浮かべた。
「ああ、そうだな。それじゃ、お前を国家戦略級魔法少女権限で逮捕する!」
ルミカちゃんがそう言うと同時、ダン特の制服を着た人達が私とミコトちゃんを素早く取り囲む。
その隙を衝いて、メイちゃんはさっさとパーティメンバーの所へ行ってしまった。
「いぅ、うえぇぇ!?」
右に左に視線を動かし、取り囲んでいるダン特の人達を確認する私。
予定外! 流石にここまでの展開は想像していなかった!
「こりすー、なんで私が拘束されているのです!? 不当逮捕、不当逮捕なのです!」
なんでって……あるよね!? 不当だとは思うけど、ミコトちゃんには心当たりが一杯あるよね!?
「不当でとばっちりなのは、ついでに取り囲まれてる私の方だよぉ!?」
「しらばっくれても無駄だぞ、宵月命! お前が那由他会所属の姫巫女であると喧伝しているのは、周囲の証言から既に調べがついてるんだからな」
「私は正義の那由他会なのです! むしろ、悪の那由他会に天誅をくだす側なのです!」
やましいことは何もないと胸を張って言い返すミコトちゃん。
ああ、再確認しちゃった……。普段から本当に悪気なく暗黒教団仕草してるんだ。
「僕様にそんな老舗和菓子屋の跡目争いみたいな言い訳が通用するかよ! 那由他会を名乗る悪党どもは全員まとめて逮捕、拉致、監禁、拷問だ!」
「い、謂れなきことなのですっ! 私はエリュシオン様を信仰する善良な那由他の姫巫女なのです!」
もはやどっちが悪の組織なのって感じの台詞を吐くルミカちゃん。
流石のミコトちゃんも、これは話の通じる相手じゃないぞって悟ったらしく、珍しく焦りを露わにして必死に弁明する。
これはマズい展開だ。主にルミカちゃんがマズイ、ミコトちゃんの説得で洗脳されかねない。この場でやり取りを続けるのは色々な意味で危険すぎる。
「問答無用。僕様は超忙しいんだよ!」
「少し待ってくださ……」
「いいよ、セレナちゃん。一度連れて行ってもらおう」
見かねて擁護に入ろうとするセレナちゃん。でも、私はそれを制止した。
今のミコトちゃんはちょっと悪目立ちが過ぎている。このままじゃ学園生活が送れないレベルの悪評が立ちかねない。
ルミカちゃんが洗脳されてしまう可能性もあるし、ここはさっさと強制連行して貰った方がお互いのためだ。
「こりすー! こりすー! 助けて欲しいのです! 当局による不当な弾圧が行われているのですー!! 私達の自由な信仰を勝ち取るために闘争を始めるのです!」
「わかってるよ、ミコトちゃん。ミコトちゃんは迷惑を掛けてるけど悪いことはしてないよね。後でちゃんと迎えに行くから、とりあえず取り調べを受けようね」
だから、私は助けを求めるミコトちゃんを容赦なく突き放す。心苦しいけれどこれが最善手なのだ。
「おい、何を他人事みたいに言ってるんだよ。お前も一緒に決まってるだろ。普段から宵月命と行動しているのは裏が取れてるんだからな」
と、そこで私に思わぬ飛び火。
待って!? 私が囲まれてたの、ついでじゃなかったの!? 焼け野原! 飛び火で焼け野原!
「うぇえ!? 待って、待って! 私も無実、無実だからっ!? 一緒に行動しているのはパーティメンバーだからだし!」
後、ミコトちゃんがよそ様にご迷惑をお掛けしないか心配なのもある。でも流石に本人の前でそれは言えない。
挙動不審になりながらも必死に自己弁護する私の黒髪に、背中の赤いフードがすぽっと被される。
「言い訳は取調室で聞いてやる。安心しろ、僕様は鬼じゃないからな、拠点での魔力登録ぐらいはさせてやるよ!」
かくして、私とミコトちゃんは順番飛ばしで学園に戻り、そのままダン特の人達に連行されてしまうのだった。