魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

85 / 190
第10話 暴走の巫女4

 宵闇に溶けるように立ち並ぶ窓の割れたビル、久しく手入れのされていない街路樹、砕けて波打つ道路。そして、その最奥に見えるダンジョンへの入り口。 

 そこはテラーニアが地上へと姿を現した爪痕が今も色濃く残る場所、ゴーストタウンと化した放棄区域だ。

 

「おお、巡礼怪人が居るわ居るわ。魔王であるテラーニア殿が倒れても、魔王を礼賛する怪人どもは健在……あるいは別の何者かを崇拝しているか、じゃの」

 

 自らの本性を隠してスーツ姿をしているカレンは、廃ビルの中に隠れながら、最奥にある深層との境界へと目を凝らす。

 そこではモンスター化した怪人達が列をなし、次々と次元の裂け目の向こう側へと姿を消していた。

 

「あの先は人の身では抜けられぬとのことじゃが。とすれば、連中は例外なくその身を黒晶石に変えておるのか」

 

 過去の調査結果によれば、放棄区域の先にある深層"怪人達の巡礼道"は人類にとって行き止まりに過ぎず、その先へ到達できるのは黒晶石の体を持つ者だけなのだと推察されている。

 事実、定期調査団が巡礼怪人と呼ばれるあの黒晶石信奉者達を深層で発見した報告はない。なのに巡礼怪人達があの先に消えるようになってから、境界の向こう側をうろつく異形のモンスター達は再び活性化している。

 今の所、活性化したモンスター達が再び地上へと出てくる気配はない。だが、それは今後の安心を保証しない。何かが起こっているのは確かなのだから。

 

「ふん、攻略最前線の押上げを急がねばならぬの。ここは妾の遊び場じゃ、せっかく面白くなってきた所を荒らされてなるものか」

 

 巡礼怪人達が深層へと消え去ったのを見届け、カレンは不愉快そうな顔で帰路につく。

 ダンジョンの入り口は世界各地無数にあるが、黒晶石の魔王が現れたのは攻略最前線がある一連のエリアのみ。

 ならば、あの深層の先にあるとされる超深層へと繋がる正規ルートは、攻略最前線の先であるに違いない。深層モンスターの地上進出は人類の存亡にもかかわる、攻略に注力する大義名分も十分だ。

 そんなことを考えながら立ち入り禁止区域を後にしたカレンは、高層ビルの谷間にある十字路で、先程深層に消えたのと同じ黒いローブ姿の一団に取り囲まれた。

 

「ダンジョン庁長官、鳳仙華恋だな?」

「おお、こんな夜更けに来客とは珍しい。古人は四辻で妖の類に遭うのを恐れておったが、今人は逆に四辻で妖を待ち構えるか。実に豪気なことよ」

 

 スーツ姿のカレンは余裕の表情を崩さず、取り囲む黒フード達を悠然と見回すと、

 

「……違ったの、お主達は人ならざる者であったな。しからば、妾が遠慮をする必要もなかろうて」

 

 くすりと邪な笑みを浮かべた。

 

「ふん、もはや隠し立ては不要か」

 

 ローブを脱ぎ捨てその正体を露わにした怪人達が、その体から黒いオーラを立ち昇らせる。

 その姿は黒い仮面に黒晶石のような黒い体。黒ずくめのその体は時折人の体から変化し、モンスターのような人外の姿へと変じ蠢いている。

 

「ふぅむ。見慣れぬ輩じゃが、近いとすれば洋物魔法結社が作った合成人間辺りかの……。つまらん、典型的な下級戦闘員じゃ」

「そんなままごと連中と一緒にされては困る。我等は那由他会を統べる鍵守様の加護を得た次世代怪人、黒晶石で地上が浄化された後の世で支配者となるべき存在なのだ」

 

 言って、怪人は自らの体に突き刺さった黒晶石をこれ見よがしに見せつける。

 それは紅葉林でエリュシオンに倒された怪人と同じ、後付けの黒晶石だった。

 

「これで一つ合点がいった、やはり珍妙な輩共が那由他の皮を被っておったか。さて次世代怪人とやら、妾を闇討ちして何を目論む?」

「ダンジョン庁長官鳳仙華恋。攻略最前線の突破を目論むお前の行動は、鍵守様の邪魔になる。これ以上計画の妨げをしないよう死んでもらう!」

 

 リーダー格の怪人が一歩飛び退き、カレンの四方を囲む怪人達が臨戦態勢を取る。

 

「そうかそうか、妾が邪魔故死ねと……げにつまらぬ戯言じゃ。十把一絡げの下級戦闘員如きが妾を害そうとは片腹痛い、死して詫びよ」

 

 臨戦態勢をとる怪人を順々に見やると、カレンは酷薄な口調でそう告げる。

 

「その言葉、そっくりそのまま返してやろう! やれっ!」

 

 隊長格である怪人が指示を出し、手下の怪人達が四方からカレンへと飛び掛かる。

 だが、飛び掛かった怪人達は次々と青く燃え上がり、カレンにただの一度も触れることなく、突き刺さった黒晶石諸共に燃え尽きてしまった。

 

「口だけ達者な青二才、おまけに彼我の力量差も読めぬ、そんな愚物は死して当然。下級モンスターの寄せ集めに黒晶石を突き刺した程度で、妾に届くとでも思うたか?」

 

 両手を影絵の狐の形にし、自らの周囲に青い火の玉を漂わせたカレンが隊長怪人へと向き直る。

 

「き、貴様っ!? ただの人間ではないなっ!?」

 

 冷酷な眼差しで見据えられ、隊長怪人が慄きながら一歩後退する。

 

「なにを今更、無知は悲劇よの。お主が真に那由他会の者であったのならば、妾の正体も察せたであろうにのう」

「くっ! 今日の所は見逃してやる! その首洗って待っているがいいッ!!」

 

 威圧感に呑まれた隊長怪人は必死に捨て台詞を絞り出すと、カレンに背を向け脱兎の如く走り出す。

 

「こんこ、冥土の土産に一つ忠告してやろう。古来より人は四辻で魔と出会うことを恐れたが、四辻で不運に出会うは人も魔も同じじゃぞ」

「なにっ?」

 

 そう言う怪人の前、ビルの灯りを反射した刃がきらりとひらめく。

 怪人がその存在に気付いた時には既に手遅れ、赤頭巾のようなフード着けた少女が鉈を構え、その懐に潜り込んでいた。

 

「えっ、あっ、あっ、あっ、赤頭巾」

 

 状況に判断が追いつかず、情けない声をあげて狼狽する怪人。それが彼の最期の言葉となった。

 少女は手にした鉈で迷いなく隊長怪人の首を刎ね、更に突き刺さった黒晶石を撥ね飛ばす。それは瞬く間の出来事だった。

 

「カレン!」

 

 道路に倒れた隊長怪人の体が黒い煙を上げて灰になる中、フードを着けた胸の大きい黒髪美少女、天狼こりすがカレンへと駆け寄って来る。

 

「おお、相変わらず惚れ惚れする胆力じゃ。怪人の懐に悠々飛び込み、瞬く間にねじ伏せるその技量も実に見事。レベル頼りの連中に見せてやりたいものよ。されど夜歩きは感心せぬぞ、夜は魑魅魍魎がひしめくでの」

「わかってるよ、目の前にその親玉格が居るんだし」

「こんここんこ、これは一本取られたわ」

 

 さっきまでの冷酷な雰囲気を跡形もなく霧散させ、お気に入りの玩具で遊んでいる子供のようにカレンが笑う。

 見目麗しい容姿、その内に秘められた狂気染みた胆力、その深淵をまるで見通せぬ怖気立つような底知れなさ。この天狼こりすと言う少女は、カレンが特別気に入っている観察対象(おもちゃ)の一人なのだ。

 

「ラブリナさんが街中なのに黒晶石の気配がするって言ってたから来たんだよ……あの怪人、那由他会だよね?」

 

 こりすが反応を窺うようにカレンを見つめ、その周りにこりすの仲間達が集まってくる。

 

「こりっちゃん別にそんな急がなくてもいいって。あれで長官クソ強だから」

「なんじゃ、リオ達までおるのか。とすれば、偶然通りかかったわけでもなさそうじゃな」

「……長官、怪人達がパレードに乱入して来るって知ってましたよね? ウチ等、それを確かめに来たんですけど」

 

 リオが非難するようにカレンを睨みつけ、

 

「おお、存外早く思い至ったの。見事見事、やはりお主達はあの三流怪人どもと違ってげに愉快な観察対象よ」

 

 それを見たカレンが口元を抑えて愉快そうに笑う。

 

「いやいや、そんな誉め言葉要らないんで、ちゃんと教えてくれません? マジで」

「無論教えるとも、この期に及んで隠すほど妾は狭量ではないぞ。されど、こんな場所で立ち話も無粋であろ? まずは場所を改めるとするかの」

 

 言って、カレンはダンジョン庁へと一行を案内するのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。