魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

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第10話 暴走の巫女5

「さて、念のため最初に確認しておくがの。妾が仔細を教えると言うことは、解決に尽力して貰うと言う意味じゃ。そこは理解しておるかの?」

 

 案内されたダンジョン庁の長官室、自分の席に座りながらカレンが言う。

 

「うん、わかってるよ」

 

 そんなの当然だ。怪人は捨て置けないし、何よりミコトちゃんが危なっかしくて見ていられない。

 即答した私を見て、カレンは満足そうに頷いた。

 

「うむ、そう来なくては張り合いがない。してお主等、どこまで事情を察しておる?」

「そう多くはありませんよ。カレンさんがパレードでの怪人襲撃を予期していたこと、審査の厳しいはずの討伐パーティに、何故か那由他会の鍵巫女が居たことぐらいでしょうか」

「外部の情報でわかるのは大方そんな所であろうな。実の所、連中の首魁は既にわかっておる」

 

 カレンは椅子にもたれかかりながら、書類の束からひょいと一枚の写真を抜き出す。

 

「ほれ、さっさと取りに参れ」

 

 カレンが催促するようにぴらぴらと写真を振ってみせる。

 ソファに腰かけたばかりの私は、渋々立ち上がってカレンの席へと写真を取りに行く。

 写真に写っていたのは紫紺の髪をした幼い感じの女の子、つまりメイちゃんだった。

 

「やっぱりメイちゃんだ」

「那由他会の鍵巫女朝陽冥(あさひめい)、こ奴が姫巫女不在となった那由他会の御神体じゃ。そこはクロノス社のゴードンからも裏付けが取れておる」

「メイさんが主導していると仮定した場合、事前に聞いていた話と矛盾しますね。裏でメイさんを操っている何者かが居るんでしょうか?」

「那由他会とは到底思えぬ怪人が妾を狙ってきた以上、別に黒幕が居る可能性は高いじゃろうな」

「カレン、今の那由他会は私の知っている那由他会なのですか?」

 

 吸い込まれそうな瞳でじっとカレンを見据え、いつになく真剣な表情でミコトちゃんが問う。

 

「こんこ、それはお主が問うていること自体が答えであろ。那由他の時をかけ、偉人や異能の血筋を交配し続けて完成させた"姫巫女"。そして、神代の権能を蘇らせた現人神である姫巫女と共に神を信奉する一団、それが本来の那由他会じゃ」

「うっわ、典型的な暗黒カルトじゃん」

「善・良・な! 暗黒教団なのです! ちょっと祀る神を間違えただけなのです!」

 

 ドン引きするリオちゃんに、ミコトちゃんが眉を吊り上げて反論する。

 そうだね、間違えて暗黒神呼び出しちゃっただけだもんね。うん、そんな理屈は通らない。

 って言うか、善良な暗黒教団って概念がもはや意味不明。人類に対して有害な地下組織であることを素直に認めていただきたい。

 

「那由他会本来の教義は置いておくとして、少なくとも怪人を使って要人暗殺を行うような組織ではないんですね」

「当然なのです! 悪いことをする輩が那由他会の名を騙っているだけなのです!」

 

 バンザイするように両手をあげて声高らかに主張するミコトちゃん。

 その主張が真実だとするのなら、中身が違うのにわざわざ那由他会の名前を使う理由はなんだろう。そう考え、私はミコトちゃんとメイちゃんの話を思い出す。

 

「だとすると……那由他会を乗っ取った奴は、メイちゃんが欲しくて那由他会の名前を騙っているのかな?」

 

 ミコトちゃん曰く、メイちゃんは自分の大事な場所だからと那由他会に残ったらしい。

 なら、那由他会と言う外箱を残すことで、そこが大事な場所だと思っているメイちゃんを手に入れることができる。きっとそれが理由だ。

 

「あー、メイって子も開門能力者なんだっけ? そりゃ欲しいよね、ウチも紅葉林の一件で開門の便利さがよくわかったし」

「姫巫女の去った那由他会に価値を見出すとすればそこしかあるまいな。数多の異能を持つ姫巫女ほどではないが、鍵巫女も重宝される程度には異能の持ち主じゃ」

「むむむー、そこまでは理解できたのです。でも、どうしてメイが集団戦の討伐パーティに選ばれているのです?」

 

 ミコトちゃんにじっと見つめられ、カレンがふむと椅子に深く腰かけなおす。

 

「それは妾にもわからぬ、上が強引にねじ込んできおった。故に捨て置いて動きを見ておる」

「なるほど。パレードでの襲撃を放置していた理由も同じですね」

 

 鋭い目つきでそう言うセレナちゃん。

 

「おかげで期待通り尻尾を出してくれたわ。ダン特からの報告によれば、彼奴等の潜伏先は海岸丘陵。自らの喉元に刃を突き付けられては、連中も流石に捨て置けぬのであろうな」

 

 鋭い視線をひらりと躱し、満足いく結果だったと全く悪びれずに言うカレン。

 ちょっとムッとしたけれど、いちいち相手にしていてもこっちが疲れるだけだ。スルーしてさっさと話を進めちゃおう。

 

「拠点が海岸丘陵にあるなら、間違いなく集団戦も妨害してくるよね」

「うむ、確実にの。エリュシオンまで現れた以上、連中は今頃大慌てで悪だくみの準備をしておることじゃろ。さて、これで妾の知り得る情報はこれで全てじゃ。後はお主達が直に足を運んで調べるがよい、冒険とは元来そう言うものじゃての」

 

 カレンはそう言って話を切り上げ、ひらひらと手を振る。これ以上の情報はないって意思表示なんだろう。

 私はさっきまでの話を頭の中で整理しながら、立ち上がって帰り支度をしていく。

 

「おお、妾としたことが一つ大切なことを忘れておった。リオ、ルミカの動向には重々気つけておけ」

「はぁ? なんでウチにそんなこと頼むんですか。さっきミコっちゃん達の嫌疑を晴らすのでさえ、滅茶苦茶難儀したんすけど」

 

 扉の前で顔だけカレンの方に向け、リオちゃんが心底嫌そうな顔をする。

 リオちゃんが嫌がるのも当然、ルミカちゃんの手綱を握れなんて、紅葉林パレードと同じぐらい無理難題だ。

 さっきまで容疑者扱いされていた私としても、率直に申し上げて関わり合いになりたくない。

 

「那由他会の潜伏先が海岸丘陵であると言ったが、その報告をあげたダン特隊員が海岸丘陵で消息を絶っておる。その隊員の名、設楽と言う」

 

 関わり合いにならないぞって心に決めていたはずなのに、思わぬ事実を聞かされた私はカレンの方へと振り返ってしまう。

 

「カレン、設楽ってつまり……」

「うむ、ルミカの姉じゃ」

「じゃあ、ルミカちゃんが強引なことしたり、スタンドプレーをしてたのも……」

 

 そんな理由があったのなら、エリュシオンが怪人を捕まえなかったことに文句を言っていたのも、ミコトちゃんや私を強引に捕まえたことにも納得がいく。

 ルミカちゃんはあの手この手で必死に那由他会の手掛かりを探していたのだ。海岸丘陵で行方不明になったお姉ちゃんを見つけるために。

 

「設楽はダンジョン特別戦闘部隊に入る前も対怪人特殊部隊に居た強者じゃ、無事である可能性は十分にある……それ故、ルミカの奴も余計に焦っているのであろうがな」

 

 まだ無事である可能性があるからこそ、少しでもその可能性を高くしたい。

 ルミカちゃんの気持ちと焦りは痛いぐらいにわかる。わかってしまう。

 

「あんのバカ! そんな理由があるならウチ等に打ち明けて相談しろっての!」

「わかった、私達もできる限り気にかけておく。そんな話を聞いちゃったら、私だって絶対に放置できないよ」

「こんこ。放置も何もルミカの奴はお主達を犯人と決めつけ、呼ばれずともお主達の所へ来るに決まっておろう。洋物言葉でヘイトコントロールと言う奴じゃ」

「…………」

 

 いつの間にか出していた九本の尻尾をぼっふぼっふと振って、愉しそうに笑うカレン。真面目な気分になっていたのに台無しだ、このいじめっ子妖怪!

 最後になんだか釈然としない気持ちを抱えつつ、私達はダンジョン庁を後にするのだった。

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