魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

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第10話 暴走の巫女7

「なるほどな、確かにそりゃ怪しいぞ。僕様もそう思う。いいさ、お前のレベル測定は後にしてやる。命拾いしたな」

「それはいい加減諦めてよぉ」

 

 コンテナの上、私達から依頼の内容を聞いたルミカちゃんは、それは確かに怪しい依頼だと賛同してくれる。

 でも、私のレベル測定は後でするつもりらしい。なんなの、その執念。もう苦笑いもできない。

 

「あー、クソめんどいね、この生物。こりゃ暫くロープ拘束続行だわ」

「いや、ほどけよ。人が沢山居るんだぞ! 僕様のイメージが損なわれるだろ」

「はっ、ナイスジョーク。ルミカのイメージなんて既に手遅れじゃん。諦めてヨゴレキャラでも極めときなー」

 

 リオちゃんはこれ見よがしにスマホを取り出し、ルミカちゃんの撮影を始めてしまう。

 流石のルミカちゃんも、こんな情けない姿は見せたくないらしく、必死に足を閉じてスカートの中を防御する。それを見たリオちゃんが、あえてスカートの中が見えそうなアングルへとスマホを動かした。

 ダメと言われたら絶対にやるこの精神。リオちゃん、恐ろしい子!

 

「やめろ、本気でやめろ! バカリオ! 僕様怒髪天だぞ!」

 

 防御ではダメだと思ったのか、今度は一転して足をバタバタさせながら威嚇するルミカちゃん。その姿はまるでパンツ丸出しのUFOキャッチャーだ。

 レイドボス迎撃予定エリアからほど近いこの辺りでは、大勢の人が集団戦の準備をしていて、あちらこちらで仮設テントや、大砲みたいなものを組み立てている。

 この状態で近くを通ったら、本当にルミカちゃんのイメージが地に落ちかねない。既に手遅れ感さえある。

 

「リオちゃん、流石に見るに堪えないからやめてあげようよ……」

「こりっちゃん、なんだかんだ甘いよね。パレード前から多大な迷惑被ってるウチとしては、徹底的に理解(わか)らせたいんだけど。ルミカ、こりっちゃんに五体投地で感謝しときなー」

 

 見るに見かねてロープをほどいてあげる私を見て、リオちゃんが感心しているのか呆れているのか判断しにくい顔で言う。

 

「ああ、殊勝な心掛けだな。僕様、大いに褒めてやるぞ。一足早く拘束アンカーで拘束されたマヌケだと思われたら、セブンカラーズの一大事だ」

 

 ようやく解放されたルミカちゃんは、凝り固まった腕を軽く回してストレッチすると、コンテナの上でどしんとあぐらをかいた。

 あれ? ルミカちゃん、あぐらなんてかいちゃっていいの? 今さっきまで気にしてたイメージ、大丈夫?

 

「拘束アンカーって、あちこちで組み立ててるあの大砲みたいな奴のことだっけ?」

「そうなのです! 実は私、拘束アンカー組み立て依頼にも興味があったのです! カッコいいのです!」

 

 スマホ片手に道案内をしながら、丘の上で組み立てられている拘束アンカーに目を輝かせるミコトちゃん。

 あの感じ、ようやくミコトちゃんも普段のテンションに戻ってくれたらしい。これなら目的地に着くまでは安心だろう。

 

「あの魔力充填式の拘束アンカーは、直接的なダメージには期待できませんが、超大型モンスターに唯一効果があるとされている兵器なんですよ」

「へぇ、非魔力兵器は弱いモンスターにさえ効かないけど、魔力を帯びた兵器なら通用するんだね」

「兵器と言うと大層な代物に聞こえますけれど、詰まるところは持ち運びできないサイズにした威力重視の魔法の杖ですから。ちゃんと人が魔力を注ぎ込んだ上で、手動操作しなければいけないんです」

「あ、魔石式ですらないんだ……」

 

 隣を歩くセレナちゃんの補足説明に、私はちょっとがっかりしてしまう。

 普通に魔法を使うよりは威力が出るんだろうけれど、エリュシオンの役目を肩代わりして貰える日まではまだまだ遠そうだ。

 

「しかも、そのサイズが曲者でさ。ダメージはないくせにデカくて魔力バカ食いして、更に一発ごとにメンテが必要なコスパ劣悪な物体に仕上がってるんよ。雑魚モンスターの事前処理と拘束アンカーの大量運用、この二つがパレードしてまで人員が欲しかった理由だね」

「なるほど。あのアンカーはあくまで拘束サポート用で、実際に倒すのは討伐パーティさんの役目なんだね」

「お前なー、討伐対象の行動範囲外からサポートするのは集団戦の常識じゃないか。そんなことも知らないだなんて、真面目に冒険者する気があるのか、コイツ」

 

 納得している私を見て、ルミカちゃんがコンテナの上でやれやれと首を横に振る。

 リオちゃんにぐるぐる巻きにされて少し頭が冷えたのか、ルミカちゃんは今まで見た中で一番落ち着いている。

 今なら私でも対話を試みれそう。ルミカちゃんの事情を詳しく聴くなら今がチャンスだ。

 

「ねえ、ルミカちゃん。ルミカちゃんが那由他会を必死に追っている理由、鳳仙長官から聞いたよ。行方不明になっているダン特の人、ルミカちゃんのお姉ちゃんなんだって」

「……だからなんだよ。僕様の肉親だったら那由他会のことを喋ってくれるのか?」

 

 ルミカちゃんは一瞬私を睨みつけたけれど、私がじっと見つめたままでいると、根負けして大きくため息をついた。

 

「そうだよ。ボクのお姉ちゃん……僕様の姉上、いや姉様だよ。鳳仙長官もプライバシーってもんがないだろクソめ」

「キャラ付け秒でぶれててウケる。設定ガバガバのガバ太郎じゃん」

「クソリオ! 今はそこを気にするタイミングじゃないだろ!?」

 

 茶化すリオちゃんに、上から携帯食の包みを投げつけるルミカちゃん。うん、今のはリオちゃんが悪い。

 お姉ちゃんの呼び方定まってないんだとか、僕様とかもやっぱりキャラ付けだったんだとか、私も頭の中では思ったけど、流石にここは言うべき空気じゃない。その程度の空気は私だって読める。

 

「え、ええと、ルミカちゃん。独断専行して配信してたのも、怪人を誘うためだったんだね」

 

 私は拾い上げた携帯食をおやつにしつつ、ルミカちゃんとお話を続ける。

 

「ああ、そうだよ。危ないことはさっさと止めて、強い魔法少女である僕様に全部頼れって、何度も何度も言ってたのにさ。案の定だよ」

 

 ふてくされるようにそう言って、ルミカちゃんはゴロンとコンテナの上で寝転った。

 ルミカちゃんの話ぶりから、二人は仲良し姉妹なんだろうなってわかって、ちょっと和んだ気分になる。

 

「少しは心配する方の身になれって言うんだよ。姉様は懲りずに何度も何度もピンチになって、その度エリュシオンに助けられてさ。僕様はそれを毎回歯がゆい思いで見守らなきゃいけなかったんだ」

 

 不意に投げつけられたその言葉に、私の胸がきゅっと痛む。

 もしかして、ルミカちゃんがセブンカラーズで魔法少女をしてるのは、活動休止していた私の代わりに、お姉ちゃんの力になろうとしていたからなんだろうか。

 

「姉様は"エリュシオンはギリギリまで来ない所がいい"ってふざけたこと言うけど、そんなの僕様に言わせて貰えば怠慢だろ。だから僕様は国家公認魔法少女に志願したんだ。エリュシオンみたいに気まぐれじゃなく、皆がいつでも全部任せられるような魔法少女になってやるってな」

 

 ルミカちゃんはコンテナの上であおむけになると、小高い丘の上で集団戦準備をしている人達を眺める。

 なんて言うか、気まぐれで不甲斐ないエリュシオンで申し訳ない。

 

「……ルミカさん、志は立派だと思いますけれど、その考え方は高慢と紙一重だと思います。ルミカさんのお姉さんの考え方、私は好きですよ。私も自分の限界までは自力で頑張りたい方ですから」

 

 私がちょっと申し訳ない気持ちになっていると、静かに話を聞いていたセレナちゃんが不意に言う。

 

「なんでだよ。強い奴が存分に頼れって言ってるんだぞ。頼ればいいじゃないか」

「相手に向ける感情は、自分と相手の強弱とは関係のない話ですから。相手がどれだけ強くても、例えばエリュシオン相手だったとしても心配はしますし、出来る限り助けてあげたいって思うものなんです」

 

 そこで私は気付いてしまう。

 セレナちゃんは、ルミカちゃんへの言葉を通じて、私にもう少し周囲を頼れって言ってない?

 

「ちぇっ、学園長代理は姉様の味方かよー。そりゃ僕様は青臭いお子様だよ、でも守りたいって気持ちは絶対に悪じゃないだろ」

 

 ごろんと寝返りをうって、拗ねるようにセレナちゃんと逆側を向くルミカちゃん。

 そんな会話を皆でしながら、対レイドボス用の拘束アンカーが並ぶ丘をぐるりと回り込むようにして更に歩き、私達はようやくコンテナ運びの目的地に到着する。

 

「到着なのです!」

 

 スマホを片手に先導していたミコトちゃんが、誇らしげな表情で私達の方へと向き直る。

 そこは緩やかな丘陵の一角なのに、ちょっとした木や高低差で上手く隠された地点。レイド準備をしている人達からは完全に死角になっている場所だ。

 ここなら軽く戦闘したって周囲にバレることはないだろう。わかっていてここを選んだのなら、依頼者は相当この海岸丘陵エリアに詳しいはずだ。

 

「ふーん、中々面白いロケーションじゃん。ウチもこんな場所があるなんて知らんかったし。これで魔法少女指定の依頼だって言うんだから、否が応でも期待が高まるね」

 

 軽口を叩くのとは裏腹に、リオちゃんは得物の槍を手にして注意深く周囲を見回している。

 この依頼が()()だって察したんだろう。

 

「こりすちゃん、危機感知スキル持ってましたよね。何か感じますか?」

「ううん、感じない。少なくとも敵意を持った相手が狙ってるんじゃないと思う、多分」

 

 危機感知レベル99とか言う意味不明なスキルは全く信頼してないけれど、私の歴戦の勘が敵意のある相手は近くに居ないと言っている。こっちは間違いなく信じられるはずだ。

 首を横に振る私の目の前、ミコトちゃんの手からスマホが浮き上がり『依頼達成』の文字が浮かんで電子マネーが入金された。

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