魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

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第10話 暴走の巫女8

「あ、依頼達成と報酬の入金が来たよ」

「つまりお出ましの合図なのです!」

 

 私達が依頼完了処理を行う前に入金が来た。それは依頼主が私達を直接見ていると言うことに他ならない。

 意気込みながら警戒するミコトちゃんの予想通り、近くの木の裏側にいつの間にか黒いフードを被った人影があった。

 その小さな人影は、木の右から左からフードに覆われた顔を出し、きょろきょろと私達の動向を窺っている。

 

「なんだあいつ。かくれんぼしてる子供みたいな奴だな」

 

 そのコミカルな動きに少し警戒感を緩ませて、ルミカちゃんが呆れた顔をする。

 でも、ダンジョンの奥にそんな子供が居るはずはない。油断は禁物だ。

 

「ルミカ、警戒心を緩めるのは止めておいた方がいいと思います。あのフードの人物からは強い黒晶石の気配がします」

「なんだって? どうしてそんなことがわかるんだよ、学園長代理」

 

 ラブリナさんの警告に、ルミカちゃんが驚き目を丸くする。

 強い黒晶石でなければ気配を察知できない。ラブリナさんはついこの間そう言っていた。

 なら、あの人影はある程度強いモンスターや怪人の類ってこと? ラブリナさんが言うのなら間違いないんだろうけど、あの人影からは敵意みたいなものを感じない。

 より一同の注目を集める形になった人影は、びくっと体を小さく震わせた後、

 

「んんー、どうしよ。姫巫女様居るなんて想定外だよー。でも時間ないし、約束は守らないとだからー」

 

 可愛らしい声音でそう言って、とてとてとこっちの方へと駆け寄って来る。

 声も動きも本当に子供みたいで、敵意は微塵も感じられない。この子、本当に黒晶石と関係あるの?

 気を抜いてはいけないと言い聞かせる私の横、その姿をミコトちゃんが真剣な顔で観察していた。あの目は、人の心の内を見透かす姫巫女の目だ。

 

「依頼受けた魔法少女の人、どこー?」

「あー、それウチになるけど」

 

 きょろきょろと一同を見回すフードの子を見て、リオちゃんが小さく手をあげる。

 それを見たフードの子がほっと胸を撫でおろす。

 

「よかた、魔法少女ちゃんと居たねー。ほいよー、これダン特の設楽から伝言だよー」

 

 そして、フードの中をガサガサとまさぐり、取り出したスマホをふわっと浮かべてリオちゃんへと滑らせる。

 カバー! なんか、凄く変なキャラクターのカバーついてる!? キモカワをキモ方向に100%程スライドさせた巨大なラバーカバー! あんなクリーチャーを装着してるスマホ初めて見た!

 

「このクソキモダサいスマホカバー……間違いない、姉様の奴だ!」

 

 でもリオちゃんが受け取る前に、そのスマホはルミカちゃんに横取りさてしまった。

 

「わー、設楽の妹ー? 似てるねー、参った。あわー、これも予定外なんだよー」

「それにダン特の設楽って言ったな!? お前は何者だ、姉様とどういう関係なんだ!?」

 

 巨大なスマホカバーを剥ぎ取って草むらに投げ捨て、ロックのかかっていないスマホを操作しながら、今にも飛び掛かりそうな勢いでルミカちゃんが尋ねる。

 

「……間違いないのです、メイ! お前の正体はメイなのです!」

 

 それよりも早く、ミコトちゃんがフードを剥ぎ取り、フードの下の素顔を露わにした。

 予想通り、その素顔はこの前拠点で見たメイちゃんそのものだった。

 

「ばあっ、正解だよー。姫巫女様、正体はメイなんだよー」

 

 おどけるような仕草でそう言うメイちゃん。

 違う、前回とキャラも挙動もまるで違う! そりゃあミコトちゃんも中身が違うって言うはずだよ! 本来の中身を知ってれば一目瞭然過ぎる!

 

「メイ、どうなってるのです! 全部説明するのです!」

「き、気をつけて、ミコトちゃん! ラブリナさんが言うには、メイちゃんはモンスター化してるから!」

 

 腕を掴んで問いただそうとするミコトちゃんを、私は羽交い絞めにしてメイちゃんから引き離す。

 気持ちはわかるけれど危険だ。メイちゃんからは黒晶石の気配が感じられていて、その安全はまだ証明されていない。

 

「わふ。そこの人が正しいよー、離れた方がいいよー。まずはスマホを見るがいいんだよー、メイは設楽の伝言を届ける約束してるんだよー」

 

 私の言葉に他ならぬメイちゃんが同意し、ルミカちゃんが設楽さんのスマホでメッセージを再生する。

 

「ルミカ、ウチ等にも見えるようにしときな」

「チッ、わかってるさ! 減るもんじゃないしな!」

 

 リオちゃんに言われ、ルミカちゃんが私達も見えるようにスマホを動かす。

 そこにはルミカちゃんと同じ、クリーム色の髪をした女の人が映っていた。

 

『第18736ダンジョン第二層Ta-B02、通称"攻略最前線"、ポイントB-T-2015。そこが私の現在地点だ。このメッセージを聞いている君もまた、攻略最前線付近に居る魔法少女であることと思う。

 現在の状況は非常に切迫している。魔法文明の遺物と開門能力者を取り込んだ黒晶石を使い、人為的に次元融解現象を引き起こそうとしている地下組織がある。連中の狙いは魔王の繭と呼ばれる黒晶石を地上に送り込んで羽化させることだ。至急ダンジョン庁に報告し、それを止めてくれ』

 

 それはかなり衝撃的なメッセージだった。

 人為的に次元融解現象を起こして、地上で魔王の繭を羽化させる。

 その話を言葉通りに受け取るのなら、地上に新しいダンジョン入り口ができて、そこから黒晶石の魔王が降臨する。

 

「ふざけんなよ、馬鹿姉ちゃんッ! なんでそんな事件の爆心地に居るんだよ!? だから魔法少女であるボクに全部任せて、危ない仕事は辞めろって言ってたんだ!」

「ってかさ、次元融解現象って狙って人為的に引き起こせるもんなん?」

「聞いたことがありませんね。ただ、開門能力は次元融解現象を誘発するとされています。そこに遺物と黒晶石が加わったのならば、可能性がないとは言い切れないでしょう」

 

 前回のクロノス社の魔石鉱山でも、開門跡が別の場所に繋がりそうになっていた。そのことを考えれば、全くの不可能とは言い切れない。

 それに我が家のにゃん吉さんは異世界から次元を超えてやって来た異世界猫。つまり、転移先を指定して次元を渡る技術自体は実在している。突拍子もない設楽さんの言葉も、あり得ないとは断じきれない。

 

「でも……おかしいのです。那由他会の開門能力者は私とメイだけなのです。開門能力者が取り込まれているのなら、目の前に居るメイは何者なのです?」

 

 ミコトちゃんは気持ちを抑え込むように、握った両手を震わせながらメイを見る。

 そうだ。ルミカちゃんのお姉ちゃんのメッセージでは、開門能力者は黒晶石に取り込まれたって言っていた。なら、今目の前に居るメイちゃんは何者なんだろう。

 

「このメイはねー、黒晶花で作った偽物の体なんだよー。変な魔王の力を借りて、こっそり隠れて連絡に来たんだよー」

 

 あっけらかんと言うメイちゃん。

 確かに、テラーニアやラフィールも以前同じようなことをしていた。だとすれば、誕生させようとしている魔王以外にも魔王が居て、メイちゃんに力を貸した? 状況が掴みきれない。

 

「メイ、どうして那由他会がそんなことになってしまったのです!?」

「メイはね、姫巫女様にメイ達のこと忘れて欲しくなかったんだよー。メイは頑張って乗っ取られた那由他会なんとかするから、落ち着いたら姫巫女様に戻って来て欲しいんだよー」

「それは、できないのです……」

「姫巫女様ー。そこはせめて一考ぐらいして欲しかったんだよー」

 

 メイちゃんが寂しげな顔でそう不満を漏らし、そこで急にその表情と気配が変わった。

 

「くふっくふっ、いかようにして拙者の中から抜け出したのやら。あげくにアジトの所在までばらして、油断も隙もありませんな。これは再教育が必要ですぞー」

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