魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

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第10話 暴走の巫女9

 突如癖のある喋り方になって下卑た笑みを浮かべるメイちゃん。

 その気配は海岸丘陵拠点で攻略パーティに会った時と同じ、更に今回はにじみ出る禍々しさを隠していない。間違いなくこいつは敵だ。

 

「むむむーっ、出てきたのです! 変な喋り方の奴! メイを直ちに返すのです!」

 

 私は今にも飛び掛かりそうなミコトちゃんを引っ張って、リオちゃんの後ろまで無理矢理後退させる。

 

「くふっくふっ、姫巫女様の体を頂ければ検討してもいいですぞ。開門、癒しの権能、天性の人心掌握術、その他諸々。姫巫女様の体は鍵巫女よりも高性能ですからな。利用価値有り有りですぞ」

「この体はエリュシオン様のものなのです! あげないのです!」

 

 メイちゃんの体を乗っ取った"それ"を睨みつけながら、力いっぱい主張するミコトちゃん。

 自分の体とトレードだなんて言われたら、安い挑発だとわかっていても怒るよね。でも、エリュシオンのものでもないから、自分の体は自分で大切にしていただきたい。

 

「ミコっちゃん、こう言った輩とは絶対に交渉しちゃいかんよ。コイツ、どう考えても約束守るような奴じゃないじゃん」

「はっ、珍しく同意見だな」

 

 ミコトちゃんが飛び出して行かないよう遮りつつ、リオちゃんとルミカちゃんが揃って前に出る。

 仲が悪いって言う割に、こういう所の息は合うんだ。二人とも正義感強いし、実は同族嫌悪な部分があったりしそう。

 

「くふっくふっ、実に野蛮な方々ですな。ですが拙者達の計画は至極順調。今頃は地上に送り込んだ怪人達が、ダンジョン庁を大混乱に陥れていることでしょうとも!」

「それが鳳仙長官を狙った黒い怪人達のことを言っているなら、昨日私達が倒しちゃったけど」

「……は?」

「怪人、倒しちゃったけど」

「んんん~~~!! それがどうしましたかな! 拙者達の計画には二の矢三の矢も当然あるのですな! とにかく拙者が黒晶石の魔王になる邪魔はさせませんぞー!」

 

 暫し呆けた後、開き直ったメイちゃんの体からモンスターの黒いオーラが激しく立ち昇り、メイちゃんの影から怪人が二体三体と這い出て来る。

 自分が魔王になる邪魔ってことは、メイちゃんの体を奪った中の人が魔王の繭そのもの? それとも魔王の繭を使って魔王へと変化するつもりなんだろうか。

 

「この前、ウチ等も魔王ってのと戦ったけどさ、本当になれるもんなのアレ? マジでなれるんなら、ウチ等はなる前に全力で叩き潰すけど」

「なれますとも、なってみせますとも! クロノス社が集めたデータ、かき集めた魔法文明の遺産、優秀な餌、そして……我が手中にある魔王ラブリナの欠片があれば!」

 

 メイちゃんが大きく両手を広げて歌う様に宣言し、出現したローブ姿の怪人達が臨戦態勢を取る。

 こいつもラブリナさんの欠片を持ってるんだ! なら、私にとっても絶対に捨て置けない相手だ。

 

「こりす、また私の欠片が与しているようです。手を貸して貰えませんか?」

「当然だよ、任せて」

 

 ラブリナさんが杖剣を構え、私が鉈を手にして臨戦態勢を取る。

 さっきのメッセージを聞く限り、次元融解現象が起こるまで時間がないらしい。さっさと怪人達を倒して押し通りたい。

 

「くふっくふっ、拙者がこの場で興味があるのは姫巫女様とラブリナ殿の欠片だけ。まずはその不要な肉の体から、ラブリナ殿の欠片を剥ぎ取らせて頂きますぞ!」

「なるほど。貴方の正体が如何なる者かは知りませんが、少なくとも人と呼ぶには下劣な中身であると理解しました」

 

 ギリと杖剣を強く握り構えるラブリナさん。

 どうやら、セレナちゃんを肉の体呼ばわりされたことを御立腹らしい。当然、私だって怒ってる。

 

「くふっくふっ、拙者が何者か気になるご様子。ならば肉の体時代の名を借りて、ソーニャとでも名乗っておきましょうかな」

 

 ソーニャと言うらしいメイちゃんを乗っ取っている"それ"が、くっくと下卑た笑みを浮かべる。

 

「お前等、どうして臨戦態勢取ってるんだよ。ここには僕様が居るんだぞ。お前達は安全な所まで下がってろ!」

 

 臨戦態勢で睨みあう私達の間をすり抜け、ルミカちゃんが再度最前列へと歩み出る。

 

「ま、待って、ルミカちゃん! 本気で変身するつもりなの!? あの怪人なら私達でも倒せるから、変身は温存しておいた方がいいよ!」

 

 ルミカちゃんが変身するつもりだと察し、私は慌ててルミカちゃんを制止する。

 前回、怪人達は変身時間切れを狙ってきた。今回だってそれを狙ってくる可能性は十分ある。

 それに後で絶対に変身が必要になってくるはず。急ぎたい気持ちは凄くよくわかるけど、ここぞと言うタイミングまで温存すべきだ。

 

「あのメッセージを聞いただろ!? 僕様の姉様は渦中に居るんだ! 悠長にお前等の戦いを見守ってられるかよ!」

 

 でも、ルミカちゃんは言うことを聞いてくれない。

 気持ちはわかるけど、わかるんだけど……それはどう考えても悪手だ。

 

「マナチェンバー、イグニッション!」

 

 結局、私の制止を振り切って、ルミカちゃんは変身してしまう。

 瞬間、ビキッという亀裂が入ったような音と共にルミカちゃんの姿が変わった。

 え、なに、今の異音? 普通の正規変身で出るような音じゃ断じてない。

 心配になってルミカちゃんの顔を見れば、その表情は苦痛に歪み、痛みを抑え込むように歯を強く食いしばっていた。

 

「る、ルミカちゃん、大丈夫!?」

「問題ない、見ればわかるだろ! ちょっと痛むだけだ!」

 

 ルミカちゃんはそう言って、怪人達を瞬く間に倒していく。

 今の所動きには影響なさそうだけれど、変身しただけで痛むのは間違いなく大問題だ。そんな変身、私は知らない。

 

「宵月命、こいつはモンスター化している上に偽物だ。僕様が倒すぞ!」

 

 ミコトちゃんが同意するのを待たず、ルミカちゃんがランスでソーニャであるメイちゃんの体に大穴を穿つ。

 

「おお、やられてしまいましたな。ですが虎の子の変身を使わせたのは重畳、実に重畳。……そこの赤頭巾ちゃん、これは決して拙者の負け惜しみではありませんからな!!」

 

 ソーニャは私に向かって負け惜しみじゃないアピールをすると、サラサラと灰になって消えてく。

 あれが偽の体だと言うことを差し引いても、流石にあっさりとし過ぎている。あまりに不自然。本人が主張していた通り、まだ何か隠し玉があるのは間違いなさそうだ。

 

「……ふぅ、まずはこれで一段落だな。僕様はこれから急ぎアジトに向かう、お前達はレイドの手伝いでもしててくれ」

 

 それを苦しげな表情で見届けたルミカちゃんは、にじんだ汗を白い手袋で拭って大きく息を吐く。

 大して苦戦もしていない戦闘だったのに、ルミカちゃんの顔には脂汗が浮かんでいる。間違いない、ルミカちゃんは無理をしている。

 

「ルミカ、止めておくべきです。……貴方のペンダント、僅かながら黒晶石に侵食されていますね?」

 

 不調の原因を突き止めようとルミカちゃんを注視する私の横、ラブリナさんが重々しく口を開く。

 気が付かなかった! 私がルミカちゃんの衣装をまじまじと観察すれば、胸の装飾に横一文字の薄く黒い傷が入っていた。

 

「……知ってたさ。でも大丈夫、疼くように痛むだけだ。別に僕様の正気が侵されてるとかじゃない」

「ルミカ! そう言う問題じゃないって! 一度メンテに戻してチェックしてもらいな!」

「一刻を争う状況なんだぞ!? できる訳ないだろ! そもそも、場数を踏んだ魔法少女のお前が変身アイテムを持てないぐらいなんだ。コアパーツに予備なんてないんだよ!」

「だからってさ、それで不覚取ったら無意味じゃん!」

 

 食ってかかるリオちゃんに、ルミカちゃんが不機嫌そうに舌打ちする。

 

「……僕様は、ねねやお前達みたいに変身前のレベルが高くない。変身しなきゃ無能なんだよ。変身してなきゃ他の誰かを、姉様を助ける力もなくなるんだ!」

「ルミカ!」

 

 腕を掴もうとしたリオちゃんをするりと躱し、ルミカちゃんが飛び退いて間合いを取る。

 

「る、ルミカちゃん! そういう時は私達を頼ってくれればいいんじゃないかな!?」

「逆なんだよ! 魔法少女じゃない奴等に無理させないため、僕様が無理をすべきなんだ!」

 

 結局、ルミカちゃんは私達の言葉に耳を貸さず、丘陵を滑るように駆け去っていく。

 変身していない私がルミカちゃんに追いつけるはずもなく、ルミカちゃんは瞬く間に姿を消してしまった。

 

「私が力ずくで止めるべきだったのでしょうか……?」

 

 ルミカちゃんの走り去った方向を見たまま、ラブリナさんが心配そうな顔をする。

 

「いや、ラブさんが力ずくで行ったら、アイツ本気で抵抗してたと思う。さっきのルミカ、それ位危なっかしかった」

 

 リオちゃんの言う通りだ。お姉ちゃんの無事を祈る焦り、魔法少女として戦えなくなる焦り、その両方に焦るルミカちゃんの姿は、見ていて心配なぐらい危なっかしかった。

 そして、魔法少女としての責任感であるはずの言葉は、傍から見れば高慢にも聞こえた。私も知らずのうちに高慢になっていないだろうか、少しだけ自分を省みてしまう。

 

「ミコトちゃんは一人で駆けて行っちゃダメだからね、私達と一緒に行こう」

「あのルミカを見たら、私にだってわかるのです。……ただ、お話が済んだのなら一刻も早く追いかけて欲しいのです!」

 

 既に目標地点の座標が入力されている地図アプリを見ながら、ミコトちゃんが私達に催促する。

 そう、助けたくて急いているのはルミカちゃんだけじゃない、ミコトちゃんも同じだ。それでもミコトちゃんはちゃんと我慢してくれた。偉い!

 

「そだね。よく堪えたミコっちゃん、ウチが褒めたげる。さ、場所を教えな」

「あそこなのです!」

 

 リオちゃんに促され、ミコトちゃんがレイド討伐対象である巨大芋虫を指差す。

 

「はぁ!? ミコっちゃん本気で言ってる!?」

「メッセージを聞きながらセレナが入力していたから間違いないのです! ルミカの走っていた方向も一緒なのです!」

「はい、座標に間違いはありません。黒晶石を御せない限り容易には抜けられない天然の門番……那由他会のアジトが見つからないわけですね」

 

 ラブリナさんから戻ったセレナちゃんが、芋虫の姿を見ながら浮かない顔で言う。

 

「とにかく急いだ方がよさそうだね。レイドが始まったら当然追いかけられなくなっちゃうし、ルミカちゃんが芋虫を刺激したら危ないから」

「いやいや、レイドボスを刺激するのは流石にギルティ過ぎるっしょ。幾らルミカが焦ってても……」

 

 リオちゃんがそう言いかけた瞬間、地鳴りのような音が丘陵に響き、それに続いてあちらこちらから悲鳴が聞こえてくる。

 

「あのバカ、まさか本気でやりやがったん!?」

 

 吐き捨てるようにそう言って、槍を手にして丘陵を駆けあがるリオちゃん。それに続く私達。

 丘の上から芋虫の姿を見下ろすと、犯人がルミカちゃんでないことはすぐにわかった。

 何故なら、暴れながらこちらへと迫る芋虫の額には、さっきまではなかった大きな黒晶石の角が生えていた。そう、紅葉林で戦った怪人達と同じように、後付けで黒晶石が装着されていたのだ。

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