魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

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第11話 鳥籠の巫女1

 

  第三話 鳥籠の巫女

 

「デカ芋虫の奴、全速力でこっちに向かって来てんじゃん! レイドの準備終わってないのにこれはマズいよ!?」

「レイドボスの黒晶石個体化……! ソーニャさんが余裕だったのはこれが理由だったんですね!」

 

 突如暴れだしたレイドボスを丘の上から見下ろし、セレナちゃんが重々しい顔をする。

 現在、芋虫は黒い体を伸ばしながらこちらへ向かって猛進中。お尻の場所は変わっていないのに顔側だけが伸びに伸びていている。そのにょろにょろっぷりは穴に入った芋虫を越え、もはや恐怖のデスチンアナゴだ。

 

 その上、芋虫に刺激されたのか、他のモンスターは追い立てられるようにこちらへと猛進して来ている。

 レイド準備は当然まだ完了していなくて、レイドパーティも到着していない。そもそもメンバーの一人は敵の手中に落ちている。状況は危機的だ。

 立ち塞がるモンスター量、放置した場合に想定される人的被害。ルミカちゃんを急いで追いかけようにも、二つの意味で追いかけられない。

 

「リオちゃん、ナナミちゃんとレイドパーティに連絡入れて! セレナちゃんは準備中の人達をまとめないと、エリアマスター権限使えるよね!?」

 

 だからこそ、ここで手をこまねいている暇はない。今こそ不測の事態に一番慣れている私が率先して動くべき時。私は凛と一喝するような声で二人に指示を出す。

 今この瞬間だけで判断するのなら、私がエリュシオンに変身するのが最良だけど、そうするにはまだ不確定要素が多過ぎる。

 最悪の場合、黒晶石の魔王と戦う可能性もある以上、今は皆と協力して天狼こりすとして対処するしかない。さっきルミカちゃんに言った言葉が、そのまま私に向かって跳ね返ってきている。

 

「こりすちゃん! はい、わかりました!」

「ああ、そっか! メイって子は絶賛囚われの身で、レイドパーティはヒーラー不在になってんじゃん!」

 

 二人がスマホを持って動き出し、それに安堵する間もなく再びどこかから悲鳴が上がる。

 声のする方を見れば、既に何匹ものモンスターが丘を駆け上っていて、冒険者さんが怪我をしていた。……しかも、あれは黒晶石個体だ!

 冒険者の人が沢山居るだけあって黒晶石個体はすぐに倒されてしまったけれど、すぐに別の黒晶石個体が現れて激しい戦闘が始まっている。

 

「むむむ、怪我人が沢山出そうなのです」

 

 周囲を見回しながらミコトちゃんが呟く。残念ながら私の見立ても同じだった。

 

「ミコトちゃん、レイドパーティが来るまでの間、メイちゃんを助けに行くのを我慢してくれないかな? 芋虫の動きが止まれば、押し寄せるモンスターの勢いが少し落ち着くはずだから」

 

 だから、私はミコトちゃんに苦渋の選択を頼む。

 いつ重傷者が現れるかわからないし、死傷者だって出かねない。それを癒せるミコトちゃんには、状況が安定するまで絶対ここに居て欲しい。

 ミコトちゃんは設楽さんのスマホを持つ手を強く握ると、

 

「……その代わり、メイを助けるのを手伝って欲しいのです」

 

 逸る自分を抑え込むようにそう言ってくれた。

 

「当然だよ、約束する。言われなくても手伝うよ。だって、私にとってミコトちゃんも大切なお友達だから」

「わかったのです! なら、私もこりすを信じるのです!」

 

 私の言葉にミコトちゃんが大きく頷いて、さっき怪我をしていた冒険者さんの所へぱたぱたと走っていく。

 

「こりっちゃん、ナナミと連絡取れた! ナナミは既に急行中で、レイドパーティもこっちに向かってくれてるってさ!」

「緊急レイドの発令をしておきました。公式配信による情報伝達はリオさんがしてください。冒険者への作戦指示は私が出します」

「配信はウチが引き受けるけどさ。この場を凌ぎきるにはラブさんの力も欲しいでしょ!」

 

 大急ぎで配信準備をするリオちゃんが、ラブリナさんの助力は得られないのかとセレナちゃんに尋ねる。

 

「この近辺はまだ黒晶石の侵食が進んでいません。今のラブリナさんではあの物量を捌くことはできないかと思います。既に準備のできている資材を有効利用して食い止めましょう」

「あー、なら仕方ないか! こりっちゃんもスマホで配信開いといて! ここからは逐一状況が変化してくよ!」

 

 丘陵を駆け上って来るモンスターを槍で迎撃しつつ、浮かべたスマホでレイド配信を開始するリオちゃん。

 

「わかった! 私もあの芋虫の足止めをしに行ってくる!」

 

 兎にも角にも、まずはあの芋虫を足止めしないと始まらない。私はスマホを浮かべて緊急レイド配信画面を開きながら、そう宣言して動き出す。

 例え変身していなくても、皆を助けたいって気持ちだけは誰にも負けない自信がある。

 

 "北側! 北側! 芋虫に追い立てられてモンスター多数!"

 "北西に強い黒晶石個体が居る! 至急高レベル冒険者の援護求む!!

 

 想像通り、緊急レイド配信のコメント欄は早くも大荒れだ。一刻も早くなんとかしないと!

 

「セレナちゃん! 魔力充填式の拘束アンカーってもう使えるの!? あれで巨大芋虫を拘束していく予定なんだよね!?」

 

 私は設営された拘束アンカーの位置を確認しながら、丘の上で全体を俯瞰しながら指示を出しているセレナちゃんへと声を掛ける。

 

「残念ながら、まだ全体の三分の一程度しか魔力の充填が終わっていません。魔力量が多い魔法職の人達が大急ぎで充填していますけれど、本来は一台につき三人がかりで魔力をチャージする代物ですから……」

 

 セレナちゃんは困ったような顔で、拘束アンカーに集まっている人達を見下ろす。

 魔力回復ポーションを飲みながら必死に魔力チャージしているみたいだけれど、一台あたり魔力三人前が必要だと考えると明らかに人数が足りていない。

 本来は時間をかけるか、もっと大勢でチャージする予定だったんだろう。

 

 "拘束アンカーまだ!? 芋虫到達まで時間ないよ!?"

 "時間稼ぎしてる冒険者、まるで足止めできてないんだけど!"

 "無茶言うな! 足止め出来たらレイドパーティに選抜されてるわ!"

 

 でもコメント欄を見る限り、そんな悠長なことをしている時間はなさそう。

 

「なら充填されてないアンカーは私がチャージしてそのまま打つよ」

「その……大丈夫なんですか? こりすちゃんの魔力残量は拘束アンカー一発よりも重い意味を持ちますよ」

 

 私に駆け寄って心配そうに小声で尋ねてくるセレナちゃん。

 エリュシオンの変身時間が短くなることを心配してくれているのだ。

 

「わからないけど、多分大丈夫。魔法は使えないけど魔力量は人より多いから。支障が出そうなら一発で打ち止めしておく」

 

 エリュシオンの戦闘力を下支えしているのは、人並外れた程度じゃ済まない私の魔力量。そして、それは幾多の戦闘で極限まで鍛えられている。

 だからきっと大丈夫、エリュシオンの活動時間には影響はないはず。……多分。

 

「わかりました、拘束アンカーの状態を確認するアプリを転送します。……それと、こりすちゃん。ちゃんと私達を頼ってくれてありがとうございます」

「ルミカちゃんを見てたら、自分の危なっかしさに気付くよ。セレナちゃんにも遠回しに言われたし」

「はい。こりすちゃんなら自分に向けて言ってるなって察してくれると思ってました」

 

 にっこりと笑うセレナちゃん。

 ああ、やっぱりあれ、私に向けての発言だったんだ……。どうやら普段の私は今のルミカちゃんと紙一重らしい、以後気をつけないと。

 

「他の人達と連携するタイミングの調整はお願い。あのアンカー、複数方向から打って拘束しないとダメなんだよね?」

「はい、そちらは任せてください!」

 

 私は下り坂の勢いを借りて空の拘束アンカーへと急行すると、魔力充填用の金属棒を握りしめる。

 瞬間、大砲脇の液晶パネルに表示されたメーターが赤色の0%から緑色の100%へと変化する。魔力の充填が完了したのだ。

 うん、大丈夫そう。この消費量ならパンチ一発分にも満たない。おやつを食べれば少しの時間で回復できる。

 私は大砲みたいな巨大な筒に取り付けられたハンドルへと持ち替えると、暴れる芋虫へと照準を合わせてセーフティを解除。そのまま迷いなく発射ボタンを押した。

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