魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~ 作:文月なご
筒から放たれた魔力の槍が芋虫の黒い体表に突き刺さり、筒と芋虫が魔力の鎖で繋がれる。
でも、芋虫の進撃は鈍らなかった。
「足止めにもなってない。やっぱり、単発じゃ大した効果はないんだ」
"チャージ0%だったアンカーが発射されてる!?"
"この状況でアプリ不具合は勘弁してくれ……"
"あ、拘束アンカーの重点チャージ指示が出てる。このシフトの感じだと、指揮側はアンカーのチャージ状態が正しく見えてるな"
"なら一安心だな! 人数かき集めて重点チャージアイコンへ急げーっ!"
でも、全くの無意味じゃない。私が拘束アンカーを発射したことで、レイド配信のコメント欄が少し活気づいている。
私も次の拘束アンカーへと急ぎつつ、鞄からおやつ用のチョコブラウニーを取り出し、包みを剥いて大きな口で頬張る。
我ながらお行儀が悪いけれど、魔力の早期回復には何か食べておかないといけない。今は緊急事態だから許して欲しい。
もぐもぐしながら二つ目のアンカーに魔力を充填し、同じ要領で拘束アンカーを発射。でも、繋がる魔力の鎖が二本に増えても芋虫の動きは全く鈍らなかった。
これは流石に間に合わないんじゃないかな。って思いかけた瞬間、私のいる場所とは別方向から、拘束アンカーが三つ四つと次々発射されていく。
遠くの丘を這い上がろうとしていた芋虫は鎖で雁字搦めになって、風船から空気が抜けたような絶叫をあげながら、勢いよく地面へと頭を打ち付けた。
「援護射撃! 私に合わせてくれたんだ!」
ここで頑張っているのは私だけじゃない。そんな至極当然なことを思い出し、エリュシオンへの変身を視野に入れかけていた自分を反省する。
私がなんとかしなくちゃは大事なことでもあるけれど、一歩間違えば高慢ちき、他人の力を軽んじていることと表裏一体になってしまう。
セレナちゃんの苦言の意味を実感しつつ、私はダメ押しのアンカーを突き刺す為に丘の上を必死に走る。
「こりっちゃん、今拘束アンカー打ったのそう!?」
途中、リオちゃんの近くを通りかかると、アイテムコンテナの回復薬を配っていたリオちゃんが声をかけてくる。
「あの中の二発はそう! リオちゃん、私もコンテナ資材少し貰っていい!?」
「うぃ、遠慮なく持ってきな。ただし、こういう時は少し多めに持って行くんよ。そうすれば途中で必要になってる誰かに分けてあげられるから」
「なるほど! じゃあ遠慮なく貰ってくね!」
私は自分用に携帯食のシリアルバーをしこたまバッグに詰め込みながら、途中でピンチの人に配る用の回復ポーションも二本ほど頂戴しておく。
「いやいや、なんで携帯食配り歩く予定なん? この状況でお食事会開かれても困るんだけど」
シリアルバーをできるだけ沢山詰めようと悪戦苦闘する私を見て、リオちゃんが呆れた顔をする。
「け、携帯食は自分用だから! お、おやつ!」
「いや、それ余計に引く奴じゃん……。まあいいや、レイドパーティとナナミはもうすぐ到着するっぽいから、後ひと踏ん張り頑張ってきな」
「わ、わ、わかった!」
結局、私はバッグを閉じるのを諦めて、シリアルバーを出したままに動くことにした。どうせ、すぐに食べるんだし。
「んでさ、滅茶苦茶申し訳ないんだけど……ウチ、ルミカ追いかけられそうもないや。ラブさんとセットの学園長代理は絶対そっちに行くべきだから、そうなるとこの場に指示出せる人が居なくなるんよ」
リオちゃんはスマホを操作しつつ、周囲の人達を見回して申し訳なさそうな顔をする。
"北西の黒晶石個体片付けた、次どこ!?"
"東七番ライブカメラの辺り、ヒーラーよこして! 骨見えてる!"
周囲では迫り来るモンスターを押し返そうと戦う人、アンカーの設置をしている人、後方から支援をしている人、色々な人が動いている。
各自判断して行動できる冒険者さん達でも、やっぱり陣頭指揮を取る人が必要になってくるのは私でもわかる。
「わかった。気にしないで、どっちも大事なことだって理解しているから。ルミカちゃんとメイちゃんは私達が責任もってやるよ」
私だってこの場での変身を温存した以上、一人たりとも死傷者なんて出さない覚悟だ。リオちゃんがそのために奮戦してくれるなら、むしろありがたい。
大丈夫だから任せてねってアピールするため、私は眉を吊り上げて頑張るぞのポーズをしてみせる。
「心苦しいけど頼んだ。突破口はおねねさんかナナミ辺りに開かせるからさ。はっ、ここでパレードマスターの経験が活きてくんだから、人間何がどうなるかわかんないもんだよね」
苦笑するリオちゃん。
多分、カレンはそう言う役目になることを期待して、リオちゃんにパレードマスター押し付けたんじゃないかなって、私は思う。
リオちゃん、セブカラ辞めても完全にカレンに唾つけられてるもんね……。
「リオちゃん頑張ってるなって、私はちゃんと評価してるからね!」
「はいはい。ウチはおだてられるよりも討伐パーティ到着まで頑張ってくれた方が嬉しいからさ。ほれ、さっさと急ぎなー」
台詞とは裏腹に、リオちゃんは照れくさそうな顔をすると、手に持った槍でまだ使える拘束アンカーを差してくれる。
おだてた訳じゃないんだけどなって思いながら、私は次の拘束アンカー目指して走り出す。
そう、リオちゃんは変身しなくても皆をちゃんと助けている。もしかすると、ルミカちゃんは魔法少女の万能感に慣れ過ぎて、元々の自分ができることを過小評価しているのかもしれない。
……そして、私もそれを忘れないようにしないといけない。そう心に強く刻みこむ。
「こりすー! 至急援護をお願いしたいのです!」
次のアンカーのすぐ近く、モンスターを食い止める人達の後ろで大きく手を振って、ミコトちゃんが私に救援を求めてくる。
見れば、ダンジョン学園の制服を着たパーティが、拘束アンカーを防衛するために黒晶石個体のオークと死闘を繰り広げていた。
「任せて!」
オークの意識は完全に向こうのパーティへと向けられている。今がチャンスだ。
私は意識の死角からオークの後背へと滑り込み、そのまま鉈をひらめかせてオークの首を撥ね飛ばす。
「「「おおおっ!」」」
「皆が頑張ってたのに、いい所だけ貰っちゃってごめん!」
首をなくしたオークの体がゴロゴロと丘を転がり落ちていく中、私は驚きの声をあげるパーティに謝って、拘束アンカーへの魔力充填を開始する。
チャージしながら芋虫の様子を確認すると、地面に縫い付けられた芋虫は、黒い巨体を縛る魔力の鎖を解こうと必死に体をうねらせていた。
「あと一息!」
私はダメ押しのアンカーを発射し、それに続いて更に四方八方から拘束アンカーが放たれる。
度重なる拘束アンカーの猛攻に屈し、ついに黒い芋虫が完全に地面へと縫い付けられた。その絵面はまるでホラー映画版ガリバー旅行記だ。
さあ次はどう動こうかと考えていると、私の傍で浮かんでいるスマホの画面が、レイド配信からリオちゃんとの通話に切り替わった。
『こりっちゃん、芋虫の動き止まったの確認した! 今のうちにミコっちゃん回収して戦場突破しな! 学園長代理にも合流するよう伝えとくからさ!』
私の応答を待たず、画面のリオちゃんが大声でそう告げる。
「わかった。ミコトちゃん、丁度すぐ近くに居るから、このまま連れて斜面下ってく!」
『タイミングいいじゃん! 動きが止まってても、芋虫の近くはくれぐれも注意しなよ。ああいう手合い、ホントにしぶとく抵抗してくるから!』
「大丈夫、知ってる! お待たせ、ミコトちゃん! メイちゃんとルミカちゃんを追いかけに行こう!」
「おおー、待ちわびたのです!」
むっふと意気込んで私に駆け寄って来るミコトちゃん。
「そこの人達、私達は行くけど無茶しないでね」
「ありがとー、助かったよー!」
私はバッグに入っていた回復ポーションをダン学パーティに手渡すと、手を振って見送るパーティに背を向ける。
そして、危なっかしい足取りのミコトちゃんの手を引いて、一気に斜面を駆け下りた。