魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~ 作:文月なご
「こりすちゃん、急ぎましょう。ラブリナさんの見立てだと、あの芋虫はまだかなりの余力を残しているみたいです。近いうちに拘束を引きちぎってきますよ」
「やっぱり……! ミコトちゃん、できる限り芋虫には近づかないようにしておいて!」
「了解なのです!」
斜面を下り終えた所でセレナちゃんと合流し、私達は原っぱを進む芋虫の脇を通り抜けて那由他会のアジトへと急ぐ。
その目の前、ひらりと黒晶花が一輪舞い落ちて、ドスンと重い音を立ててオークへと変化する。
「黒晶花! どこから!?」
行く手を遮るオークが臨戦態勢を取る前に手早く首を刎ね、私は大急ぎで黒晶花の出所を探す。
さっきまで黒晶花なんて影も形もなかったはず、一体どこから出て来たんだろう。出所をちゃんと確認しておかないと命取りになる。
「こりす、芋虫からなのです!」
その答えは隣のミコトちゃんが教えてくれた。
ちょっと視線を上に向けてみれば、拘束されながら上を向いた芋虫が、シャボン玉でも飛ばすように大きな口から黒晶花をまき散らしていた。
黒晶花はモンスターとイコールで結ばれる。つまり、芋虫が吹き出している山盛りの黒晶花は、言い換えればモンスターの大群に他ならない。
私達はそのモンスターの群れを今から突っ切る必要があるのだ。
「本当にしぶとく抵抗してくるよね! 嫌がらせの権化だよ!」
前回のラフィールもそうだったけど悪知恵が凄い。
あの手この手で黒晶石の侵食を進めようとしてくる……あれ、つまりあの芋虫、あんな見た目で結構賢いの?
「突破するのがかなり面倒になりましたね。どうしましょう、このエリアも黒晶石の侵食が進んでしまいましたから、今のラブリナさんなら突破できますけれど……」
「セレナちゃん、流石に大勢の前でラブリナさんに切り替わるのはハイリスクだよ」
私は小さく首を横に振る。ラブリナさんの戦闘スタイルは黒晶石を利用した禍々しい奴だ。
最初から仮面を着けて登場しているのならともかく、いきなりセレナちゃんから切り替わればよからぬ噂が立ちかねない。
最悪、第二、第三のクロノス社が現れる可能性もある。そんなのはごめんだ。
「それは、そうですよね……」
それはセレナちゃんも同意見らしく、ラブリナさんに頼るのは避けるべきだと納得してくれる。じゃあこの場をどう切り抜けるのか、その対案が問題になってくる。
私が傍に浮かせているスマホからリオちゃんの声が聞こえたのはその時だった。
『話聞こえてた。大丈夫、そこはレイドの主役連中をこき使えばいいから。んで、ウチもこれから援護に専念するんでルミカは任せた、悪いけどあのバカのこと頼んだよ』
向こうも向こうで慌ただしいらしく、私の返答を待たずリオちゃんとの通話が切れる。
そして、慌ただしくなってきたのはこっちも同じ。
那由他会アジトへと急ぎ走る私達の上、一度空へと巻き上がった黒晶花が、雨のように降り注ごうとしていた。
「こりすー! モンスターの大量発生なのです!」
「こりすちゃん、私でも辛うじて魔法で迎撃できますけれど!?」
「今はダメ! ここで足を止めたらモンスターの群れに呑み込まれちゃう! 傷は覚悟で走ろう!」
この物量、一度足止めされると抜けられなくなる。ここは手傷覚悟で強行突破するのが最善だ。
幸いにもこっちにはミコトちゃんが居る。私が死亡キャンセルで強制変身してしまうような致命傷と、ミコトちゃん本人の戦闘不能さえ防げれば後はどうとでもなる。
セレナちゃんには申し訳ないけれど、痛いのは我慢してもらうしかない。当然、体調不安のセレナちゃんに余計な負担がかからないよう、リスクはできる限りは私が請け負う。これは前提条件だ。
「選択としては確かに最善手なんだけど……。普通迷いなくそれを選べるかしら? 相変わらず頭のネジがイカれてるのね、アンタ」
そんな覚悟を決めた私達の前、水の弾丸が降り注ぎ、黒晶花から変化したモンスターが次々と一掃されていく。
「おおー、ナナミなのです!」
水の弾丸を放って援護してくれたのは、青い髪の魔法少女。変身したナナミちゃんだった。
「リオに頼まれて援護に来たわ。怪我してたら癒してあげようと思ったけど、掠り傷一つないみたいね。ねね、突破口は任せたわ! 暴れるのは得意でしょ!」
ナナミちゃんが私達を守るように並走し、代わりに猛スピードで私達を追い抜く人影が一つ。
「はいはいはーい、呼ばれて飛び出てなんとやら。そこの乳頭巾ちゃんさん、中々グッドな覚悟でございましたよ。ささ、今からおねねさんが突破口開くでございますからね、死ぬ気のダッシュで通り抜けくださいまし!」
両手に刀を構えた白ビキニのねねちゃんが、アクロバットのような動きでモンスターの中に飛び込み、くるくると踊るようにモンスターを次々と斬り裂いていく。
モンスターが血飛沫あげない生き物でよかった! これ、普通の生き物相手にやったら血の海ができる奴! 凄惨な光景がご誕生なさってしまう!
「あ、ありがとう。こっちはもう大丈夫そうだから、レイドボスと戦ってる方を援護してあげて!」
流れ弾でセレナちゃんの方に飛んできたオーガの頭を鉈で弾きつつ、私達は次々と切り刻まれて黒い煙を上げていくモンスターの群れを突っ切っていく。
ねねちゃんは変身してなくても強いって聞いてたから驚きはないけど、ちょっとドン引きする戦闘スタイルだ。もう徹頭徹尾バイオレンス、怖い。
「レイドのことは気にしなくていいわ。既に拘束アンカーまで入ってるし、他のメンバーも精鋭よ。アンタ達は自分の心配だけしてなさい」
ナナミちゃんの言葉に後ろを振り返ってみれば、眼鏡スーツの人がモンスターの注意を引きつけ、周囲に三本の剣を浮かべたおじさんが芋虫へと斬りかかっていた。
連携はバッチリ。芋虫が大きいから倒すのに時間はかかりそうだけど、あの感じなら怪我の心配もなさそうだ。
「わかった、頼らせてもらうね」
私は意気込んでいるミコトちゃんをちらりと一瞥して頷く。
「ええ、代わりにルミカのことをお願いね。生意気で面倒な性格してるけど、あれはあれで大切な仲間だから」
並走していたナナミちゃんが足を止め、近くのモンスターを倒しながら後ろへと振り返る。
ナナミちゃんが殿になりつつ、ねねちゃんがモンスターを薙ぎ倒して突破口を開くフォーメーションだ。
「ささ、道は出来上がったでございますよ。こちらはおねねさん達に任せて今のうちに進んでくださいまし!」
モンスター達の屍山血河を築き上げ、ようやく止まったねねちゃんが小さく手を振ってお見送りしてくれる。
切り刻まれたモンスターから立ち昇る黒い煙に、ねねちゃんの薄紫の髪と白いビキニが眩しく映えている。あれが血だったら、ねねちゃん含め全面赤一色間違いなしだ、凄惨。
そのままレイドに合流した二人と別れ、私達は黒晶花舞う危険エリアを突無事突破する。
「ねねちゃん、怖い戦闘スタイルだったね……」
モンスターの群れを抜けて安心した私は、走る足を少しだけ緩め、スマホでアジトの位置を再確認しながらぽつりと漏らす。
変身していないと心の弱い私としては、あの戦闘スタイルは見ているだけで怖い。今更冒険者の洗礼を受けた気分だ。
「あの、こりすちゃん……。一撃で首を撥ね飛ばしていくこりすちゃんも、他の人から同じ感想を持たれていますよ」
「嘘でしょ!?」
困ったような顔で言うセレナちゃん。
それは、今日一番の衝撃だった。