魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

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第11話 鳥籠の巫女4

 魔法少女エリュシオンはいつだってボクのヒーローだった。

 皆のピンチに駆け付けて、悪い奴等を倒して去っていく。

 特にボクのお姉ちゃんは怪人から皆を守る仕事をしていて、力及ばず何度も何度もエリュシオンに窮地を助けられていた。

 

 ボクはエリュシオンに感謝しつつ、もっと早くお姉ちゃんを助けに来てくれればいいのにって毎回思っていた。

 ボクが魔法少女ならもっと早く、皆がピンチになる前に助けてあげるのに。

 運命の悪戯かそんなボクの願いは叶い、ボクは魔法少女になった。

 

 だからボクは言ったんだ。"これからは悪い奴は全部ボクがやっつけるから、お姉ちゃんは全部ボクに任せてくれればいいんだよ"、って。

 それなのに、お姉ちゃんは笑ってこう言ったんだ。"私はエリュシオンみたいにギリギリに駆け付けてくれた方が嬉しいな"って。

 なんでだよ! ボクは正直腹が立った。

 

 普段、ボクがどれだけ心配してたか知らない癖に。

 いつもお姉ちゃんを助ける力が欲しいって思ってたのを知らない癖に。

 現に今もピンチになってる癖に。

 

 でも大丈夫、今のボクにはお姉ちゃんを助ける力がある。

 来るかどうかもわからないエリュシオンなんかじゃなく、ボクがお姉ちゃんを、皆を助けてやるんだ。

 ボクが居る限り皆は心配なんて要らない、何もしなくていい、危険はボクが全部追い払ってやる、危険なのはボクだけでいい。そんな決意でボクは今もダンジョンを駆けている。

 

 ……でも、どうしてだろう。

 いつの間にか大切な何かを見落としてしまった気がするのは。

 

  ***

 

「またかよ、邪魔をするなッ!」

 

 レイドボスである巨大芋虫によって隠されていた巨大洞窟の中、ルミカがモンスター化した怪人をランスで貫く。

 

「くそっ、もう二十は倒したぞ。どう考えても数が多すぎるだろ……!」

 

 ごちるルミカの表情には苦悶の色が浮かび、額には脂汗が滲んでいる。

 正直な所、ルミカは那由他会が潜むこのアジトの規模を侮っていた。冒険者が未だ到達していない攻略最前線の際、如何に怪人でもそんな場所に大規模な拠点など作れるはずがないと。

 だが、出迎えたのは黒晶石個体となった大量の怪人。結果、ルミカは多大な時間を費やす羽目になっていた。

 

「くそっ、本調子なら瞬殺だったのに!」

 

 いくら黒晶石個体になっているとは言え、並みの怪人如きに苦戦するルミカではない。本来ならば。

 それでも苦戦している要因は二つ、まだ姉が居るであろうこの洞窟の崩落を危惧して火力を抑えていること、そしてペンダントを侵食する黒晶石の影響で普段の力が出せないからだ。

 

「くそっ、あと少しでいいんだよ! お姉ちゃんを助けるまで持てばいいんだ……! 僕様は選ばれし魔法少女なんだぞ、それが一番助けたい相手を助けられなくてどうするんだよ!」

 

 下唇を嚙みながら痛みに耐え、真っすぐに前を向いて通路を進むルミカ。

 故に彼女は気づかない。洞窟を利用したアジトの天井や床が、既に黒晶石によって侵食されていることに。

 はらりと天井から舞い落ちる黒晶花がモンスターへと姿を変え、ルミカが慌ててランスで突き崩す。

 

「あらあら、勿体ない。せっかくの輝きがくすんでいますわ」

 

 モンスターが黒い煙となって消える後ろ、いつの間にか喪服の黒猫少女クライネが立っていた。

 

「新手の怪人か……!」

 

 ルミカは突然現れたクライネに敵意を向けつつも、逸る足を止めて出方を窺う。

 一目でわかる、この少女は強い。万全な状態でも勝てる保証がない、そう言う相手だ。

 

「わたくしはクライネ。扉守にして墓守、大海嘯、黒晶石の魔王。あらあら、最近も同じ名乗りをした気がしますわね」

 

 敵意と警戒心を向けるルミカとは対照的に、クライネが眠たげな瞳のままくすりと笑う。

 

「……お前だな。姉様達に力を貸した魔王とか言う奴は」

「あら、あの子達の妹でしたの。ええ、言われてみればそれとなく。ああ、勿体ない。同じ真っ直ぐな輝きを持ちながら、それをくすませてしまうだなんて」

 

 眠たげな目を更に細め、独り言のように呟くクライネ。

 

「なんだよ。僕様は急いでいるんだ、戦う気がないってんなら無視して行くからな」

「あらま、せっかちですのね。少し力添えしてあげようと思って来ましたのに」

 

 言って、クライネが差し出したのは一輪の黒晶花。

 それを見たルミカは、咄嗟に飛びのいて身構えた。

 

「っ、何が力添えだよ! 僕様、それが魔物になることぐらいは知ってるんだからな!」

「あらあら、理解が足りませんわね。黒晶花とは歪んだ願望器の成れ果て、魔物に変じさせるだけが能ではありませんわ。現に貴方のお姉様達も使っていたでしょう?」

「……っ、そうみたいだな。どの道、僕様にとって無用の長物なのは変わらないさ」

 

 ルミカは敵意を僅かに緩め、クライネがその手に持ったままの黒晶花を睨んだ。

 

「この黒晶花は貴方にとってのカナリア、不要ならば手元に残り続けるだけの話ですわ。本来魔法少女とは黒晶石の闇を払うほどの眩い輝きですもの、ねえ?」

 

 迂遠な言い回しで語るクライネ。

 ルミカはその意味を理解しきれないが、理解させぬようわざと迂遠な言い回しをしているのかもしれない。

 

「仮にお前の行動が善意だとして……。どうしてお前は僕様の手助けをする?」

「わたくしの望む答えを導いてくれるだろう報酬、罪滅ぼし……あるいは、擦り切れた記憶の彼方で見た誰かに似ているから。お好きな答えを選びなさい」

 

 静かにそう語るクライネの表情は、どことなく寂しげだった。

 

「チッ、受け取っておいてやるよ。本当に道中でモンスターに変わらないんだろうな」

「疑り深いのですわね、変わりませんわよ」

「今は感謝しない。感謝は終わった後にコイツが役立ってたらしてやるさ!」

 

 ルミカは恐る恐る黒晶花を受け取ると、足を止めた遅れを取り戻すように遺跡を駆け飛んでいく。

 

「……勿論、感謝など不要ですわよ。わたくし、貴方が黒晶石に魅入られるであろう末路を知って、止めずにここを通しましたもの。

 魔王に至れぬソーニャではあまりに力不足。エリュシオンの輝きを測るのならば、せめてわたくし達の同類でなければ」

 

 後ろで呟くクライネの言葉など気にも留めず、ルミカは再び遺跡の中を突き進む。

 遺跡の壁に咲く黒晶花から変じたモンスターを薙ぎ倒し、そこで脇の通路から気配を感じたルミカは、ランスを構えたまま動きを止める。

 通路から走って来たのは黒いローブ姿の女が一人と、それを追いかける怪人が二人。そして、ルミカはローブ姿の女に見覚えがあった。

 

「あれは……お姉ちゃん!?」

「もう逃げられんぞ!」

 

 足をもつれさせたローブの女が転倒し、それを好機と怪人が覆いかぶさるように飛び掛かろうとする。

 

「そんなことさせるかよ!」

 

 だが、それを庇うようにルミカが割って入り、瞬く間に怪人二人をハチの巣にしてしまう。

 怪人が灰となって消え去るのを待たず、ルミカが後ろへ振り返り、姉の腕を掴んで助け起こす。

 

「お姉ちゃん! だからボク、何度も言ってたよねぇ!? お姉ちゃんは魔法少女のボクより弱いんだから、危ない仕事なんて辞めろって!」

「くふっくふっ、やはり汝の姉上でしたか。拙者が一芝居打った甲斐がありましたぞ」

 

 だが姉の口から洩れたのは、姉ならざる者の声だった。

 

「お前っ……!」

「おお、乱暴は止めておくべきですぞ。この体が汝の姉君であることは事実ですからな」

 

 逆にルミカの腕を掴み返し、姉の体を奪った何者かがニタリと笑う。

 ルミカは直感する。今姉の体を奪っているのは、先程メイの体を奪っていたソーニャなのだと。

 

「お前、ソーニャとか言う奴だな!? 姉ちゃんに何をした!」

「くふっくふっ、ただ支配し、お借りしているだけですぞ。汝の姉上が迂遠な手段で連絡を取ろうとした理由、それは拙者に体を支配されていたからなんですな」

「つまりお前は黒晶石、モンスターの類か!」

 

 正体は見切ったと間合いを取ろうとするルミカだったが、何故かその足が動かない。

 

「既に感覚が無く、気づきませんでしたかな? いやはや、情に訴えるのは実に有効。やはり人間相手はこの手が一番ですぞ」

 

 下卑た笑みを浮かべる姉から視線を下に移せば、ルミカの足は床から侵食した黒晶石によって塗り固められていた。

 

「っ……!」

「侵食されたペンダントで変身してくれたのも実に僥倖。魔法少女の持つ力は魅力的なれど、その力故に精神干渉も肉体干渉も一切通用しませんからなぁ。こんな都合の良いイレギュラーが起こるとは、実に嬉しい誤算ですぞ」

 

 黒晶石の侵食がルミカの足から腰へと進む中、ソーニャが勝ち誇った顔で嬉々として語る。

 姉が絶対にしないであろう下卑た笑み。ルミカは怒りに震え強く拳を握るが、目の前の相手が姉の体であると思い出し、握っていた拳をほどいた。

 

「くそっ! 強いボクが姉ちゃんを助けなといけないのに! こういう時に助けたくて魔法少女になったのに! どうして手出しできないんだよ!?」

「悔しいですかな? 憎いですかな? それは実に素晴らしい負の感情ですぞ! 拙者の黒晶石も大いに成長するに違いない!」

 

 ソーニャが饒舌に語る間にも、ルミカの侵食は腰から胸に、更に顔へと達し、ついには全身を完全に呑み込まれてしまう。

 

「くふっくふっ、僥倖僥倖っ。笑いが止まりませんなぁ!」

 

 想定以上の戦果を得て大満足するソーニャ。

 だが、黒晶石の中で一輪の黒晶花が紐解け、ルミカが手にしたままのランスが鈍く黒く輝いた。

 

「な、なんですと?」

 

 身の危険を感じたソーニャがルミカの姉の体を手放し、洞窟に張り巡らせた黒晶石の中へと逃げ消える。

 直後、黒く輝くランスがルミカの姉の体を薙ぎ払い、その体を支配する闇を斬り裂いて強引に遠くへと弾き飛ばした。

 

『おお、危機一髪でしたな。まさか黒晶花を隠し持っているとは思いませんでしたぞ』

 

 救出された姉の代わりに、ルミカを呑み込んだ黒晶石が人ならざる声で震えて言う。

 通路の先では、意識を取り戻したルミカの姉が何処かへ逃げていく所だった。

 

『ふぅむ、あれはひとまず捨て置くしかありませんな。どう考えてもこの魔法少女の体と……この後来るであろう姫巫女様の体の方が重要ですからなぁ。くふっくふっ、拙者が黒晶石の魔王に至る時は近い、近いですぞー!』

 

 下卑た笑い声をあげるソーニャの後ろ、多くの人間と遺物を取り込んだ巨大な黒晶石が黒く輝いた。

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