魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

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第11話 鳥籠の巫女5

 スマホの座標を頼りにルミカちゃんを追いかける私達は、高低差と芋虫に隠されていたのであろう洞窟神殿の中へと突入する。

 でも、そこは予想に反して不気味なほど静かで、戦闘の音も、居るであろう那由他会信者の気配も感じない。

 聞こえるのは私達の足音だけ。この静けさは間違いなく嫌な静けさだ。

 

「嫌な予感がするのです。こりす、気をつけるのです」

「そうだね、人の気配が感じられない。セレナちゃん、ラブリナさんはどう言ってる?」

「周囲一帯、あの巨大芋虫が持つ気配に塗りつぶされているみたいです」

 

 小さく首を横に振るセレナちゃん。

 ラブリナさんは強い黒晶石の気配しかわからないと言っていた。あれだけ巨大で強そうな芋虫が居る以上、弱い黒晶石の気配は察知できないと考えた方がよさそうだ。

 

「そっか……あ、少し止まって。これ戦闘の跡、ルミカちゃんが来てたのは間違いないみたい」

 

 二人の前を歩く私が広い空間に出ると、そこには真新しい傷のついた床や壁。でも周囲に血痕はない。

 倒されたモンスター達は黒い煙だけで血痕を残さないから、ルミカちゃんがここでダメージを負った形跡はないと言うことだ。よかった。

 

「敵の気配もないね。大丈夫、来ていいよ。ここでルミカちゃんが負けた訳じゃなさそうだった」

 

 戦闘の痕跡と一緒に周囲の安全を確認した私は、通路で待機していたセレナちゃんとミコトちゃんを手招きして呼び寄せる。

 冒険者として手慣れたリオちゃんが居ない以上、道中は危機感知スキルを持つ私が先導していかないといけない。いや、本当はリオちゃんが居てもそうなんだけど。

 

「そうですか。ただ、あまり楽観視しない方がいいと思います。ルミカさんの場合、戦闘による敗北よりも、ペンダントの侵食による変身への悪影響が心配ですから」

 

 セレナちゃんの言葉に私は重々しく頷く。

 黒晶石による変身アイテムへの悪影響は未知数。単純に使えなくなる程度ならまだいいけれど、知らずの内に洗脳されちゃう可能性とかも捨てきれない。

 

「そうだね。ミコトちゃん、万が一の時は癒してあげてね」

「怪我なら体が粉微塵になってても治すのです。ただ、黒晶石の侵食になると上手く対処できる保証はないのです」

「わかってる」

 

 普通の致命傷を治せるだけでもありがたい。怪人に負けたパターンでも対応できるのは凄く大きい要素だ。

 私達はルミカちゃんの足取りを探しつつ、薄暗い灯りを頼りに洞窟神殿の中を慎重に進んでいく。

 

「こりす、違和感が強くなっているのです。開門の時に起こる揺らぎと同じ感じなのです」

 

 やがて辿り着いた少し豪華な扉の前で、ミコトちゃんが私に待ったをかける。

 

「ルミカちゃんのお姉ちゃんが言っていた、次元融解現象誘発の前兆かな?」

「可能性は高いですね。ここが洞窟神殿の中心と考えるのが妥当でしょう」

 

 セレナちゃんがラブリナさんに切り替わり、杖剣の先端に作った魔法の光源で周囲の壁を照らしてくれる。

 洞窟の闇に紛れ、黒晶石がそこかしこを侵食していた。

 

「黒晶石がコケみたいにびっしりなのです!」

「外の芋虫は黒晶花を大量にまき散らしていました。その黒晶花の出所は恐らくこの神殿、既に侵食が進んでいても不思議はありません」

「ラブリナさん、私達がこのまま進んでも大丈夫なのかな?」

 

 つまり、ここは敵のお腹の中みたいなもの。

 ミコトちゃんも居るし、いきなり全面モンスターみたいな展開は正直遠慮したい。

 

「壁の黒晶石は私が武器に纏わせる黒晶石と同質、直接の危険性はないと思います。ただし、この先に黒晶石を制御できる存在が居るのは確実です、そう言う意味では大丈夫とは言えませんね」

 

 私はちらりとミコトちゃんの表情を確認する。ミコトちゃんは行く気満々だった。

 ミコトちゃんにとっても退けない戦いなんだから、当然だろう。逆に待っててと言った方が先走りそうで危ない。

 

「なら、このまま進もう。ミコトちゃん、絶対に油断はしちゃダメだよ。開けた瞬間に先制攻撃されることも覚悟しておいて」

「わかったのです!」

 

 むむっと眉を吊り上げて表情を引き締めるミコトちゃん。

 私がラブリナさんに小さく頷くと、ラブリナさんも小さく頷き返してくれる。準備は整っているらしい。

 

「じゃあ、開けるからね」

 

 私が恐る恐る扉を開くと、そこは石畳の大広間。風化したような石畳が沢山混ざっているのを見るに、元々の遺跡を改修したものだろう。

 そして、妙に明るくて、洞窟の最奥とは思えないほど空気が通っている。その理由を探すべく広間の壁を見上げれば、黒晶石の壁に鏡のような物体が貼りつけられていた。

 私もよく知っている街の風景を映すその鏡は、縁から侵食する黒晶石にこじ開けられるように徐々に大きくなっている。

 

「も、もしかしてだけど……あれが次元融解現象の前触れなの、かな?」

「間違いないのです! 埋め込まれているあの物体が開門の揺らぎを増幅させているのです! きっと、あの物体のある場所に次元の裂け目ができるのです!」

「そんな風に狙いを定めることができるんだ!」

「いいえ、そんなことが可能だなんて聞いたことがありません。本当に可能なのだとしたら、それは黒晶石と魔法文明の遺物による合わせ技だと思います」

 

 魔法文明の遺物! 確かにここは遺跡、遺跡には遺物があっても不思議はない。

 でも正直、攻略最前線が攻略最前線たる由縁とこんな状況でご対面したくはなかった。

 

「でも遺物なら壊せるはずだよね」

 

 遺物なら人の作ったもの、なら壊せる。単に壊せば済むのなら、エリュシオンに変身して破壊してしまうのが最善だろう。

 何しろ、今この近くでは巨大芋虫が大暴れ中なのだ。こんな場所に地上との裂け目ができてしまったら、怪人と一緒に黒晶花をまき散らす芋虫が地上に降臨してしまう。それは絶対に避けたい。

 

「無駄なんだよー。そんなことすると遺物が暴発して次元融解現象が起こるんだよー」

 

 私の言葉を否定するように突然聞こえた明るい声。

 遺物の貼りつけられた壁の前、暗がりに浮かび上がるようにメイちゃんが立っていた。

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