魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

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第11話 鳥籠の巫女6

 突然姿を現したメイちゃん。

 居るのを見落としていた? 突然現れた? どちらも違う。多分、メイちゃんを捕まえている何かがこの闇に潜んでいる。

 

「姫巫女様、おかえりなんだよー。ようやく那由他会に帰って来てくれたんだよー」

 

 警戒する私達の前、遺物や次元融解現象なんて全く興味がなさそうに、メイちゃんは嬉々としてミコトちゃんへと話しかける。

 コンテナ運びで会った時と雰囲気が少し違い、その様子はどことなくおかしい。

 

「メイにはこんな所が那由他会に見えるのですか」

「あのねー、場所は関係ないんだよー。那由他会は特別な現人神である姫巫女様のための鳥籠なんだよー。姫巫女様が居ればそこが那由他会になるんだよー」

「那由他会は皆の幸せをエリュシオン様に祈る場所。私のための物ではないのです!」

「でもね、その為にはシンボルである姫巫女様が居ないとダメなんだよー。証拠にね、姫巫女様が居なくなった後の那由他会は、私にとって全然特別な場所じゃなくなっちゃったんだよ?」

「あの、それ、きっと元々メイちゃんにとって特別なのは、那由他会じゃなくてミコトちゃんだったんじゃないかな……」

 

 メイちゃん、それは少し間違えてるんじゃないかなって思って、私は横から恐る恐る言う。

 

「何もわからない部外者は黙ってるんだよ」

 

 途端、ホラー映画のような顔で私を威圧するメイちゃん。

 こ、怖い! 暗黒漏れ出してる!

 

「メイ! 威圧するのは止めるのです! 私にとってこりすは大切なお友達なのです!」

「は……?」

 

 ミコトちゃんの一言で、メイちゃんの表情がより一層暗く闇に沈んだ。怖い、怖いから!?

 ミコトちゃん、それ完全に火に油だよぉ!?

 

「姫巫女様、どうしてそんなに戻りたくないの? 姫巫女様だって那由他会に不満なんてなかったはずなんだよ」

「確かにメイの言う通り、あの頃の私にとって那由他会は完全な世界だったのです。……だからこそ、戻らないのです」

 

 真剣な顔でじっとメイちゃんを見据えるミコトちゃん。

 でも、メイちゃんは心底不思議そうな顔で小首を傾げるだけだった。

 

「どうして」

「エリュシオン様が現れて、私の世界の壁を壊して、気づいたのです。誰かに与えられた居心地のいい世界に固執するだけでは、緩慢に腐っていくことしかないのだと」

 

 いつになく真剣な顔で語るミコトちゃん。

 

「……私と同じように、宵月さんもエリュシオンに箱庭から出して貰ったんですね」

 

 その言葉を聞いて、セレナちゃんが呟く。

 私は箱庭から出した覚えはないけれど、どうやらセレナちゃんにとってもエリュシオンはそう言う存在だったらしい。

 

「姫巫女様が言っていること、メイには理解できないんだよー」

「メイ達が理解できないから戻らないと言っているのです。確かに私が皆を導くことはできるのです。でも私が全部導いたら、メイ達は自分で外の世界を歩く力も、考える意思さえも放棄してしまうのです」

 

 乗っ取られ、中身がまるで変ってしまったのに、それでも那由他会と言う鳥籠から逃げなかったメイちゃん。まるで茹でガエルだ。

 そんなメイちゃんの姿を目の当たりにしているからか、その言葉には重みがあった。

 

「そんなの姫巫女様の過大解釈だよー! エリュシオンは何も言ってない、何も導いてないんだよー! エリュシオンは外に出る痛みの責任なんて取らないんだよー!」

「それこそがお導きなのです。例えそれが痛みを伴ったとしても、誰かの言葉ではなく、自分で考え、自分の足で歩いて探し出せと教えているのです!」

 

 私はルミカちゃんとの会話を思い出す。

 "エリュシオンはギリギリまで来ない所がいい"、ルミカちゃんのお姉ちゃんはそう言っていたらしい。それは今ミコトちゃんが言っていることと同じ意味だったんだろう。

 唯一の正解ってわけじゃないだろうけど、私のスタンスは間違っていない。そう思ってもいいのかもしれない。

 あ、でも、狙って遅れてる訳じゃないから過大解釈かも……。

 

「……だから、教え導く姫巫女である私が去ることで、那由他会の皆も自分の意志で歩くことを思い出して欲しかったのです。でも、それはいきなり求めるべきものではなかった。今ならそのことがわかるのです」

「当然なんだよー。そう思うんなら、姫巫女様が戻って来て皆を導けばいいんだよー。そうすれば、皆だってちゃんとそっちへ歩いて行くんだよー!」

「むむー、だからそれがダメなのです! 今の私が導ける行動はただ一つ! 無理矢理、外に連れ出すのです!」

 

 埒が明かないとメイちゃんの手を掴んで連れ出そうとするミコトちゃん。

 

「メイはね、姫巫女様の言ってること何も理解できないんだよ。だから、もっとしっかり教えて欲しいんだよ……私達の世界の中で」

 

 その目の前でメイちゃんの気配が変わる。嫌な予感を感じた私は、咄嗟にミコトちゃんの手を掴んで引っ張った。

 洞のような瞳をしたメイちゃんは、引っ張られるミコトちゃんの姿をじっと見つめ、その手をミコトちゃんの方へと静かに伸ばす。

 この気配……下?

 

「下だ! 気をつけろ、そいつは闇に紛れて襲ってくるぞ!」

 

 私の直感を肯定するように大声が響き、私はミコトちゃんを抱きかかえるようにして大きく後ろに飛び退く。

 着地しながら状況を確認すれば、私達が居た場所で無数の黒い触手が空を切っていた。

 危なかった、間一髪だ。

 

「あれは黒晶石? メイさんは黒晶石と融合しているんですか……?」

「違う、メイは黒晶石に取り込まれて精神を支配されているだけだ。ソーニャは自らが魔王に至るため、那由他会の信徒全てを餌として取り込んでいる。かく言う私も、ついさっきまで取り込まれていた」

 

 警告してくれた声がそう教えてくれる。

 私達が来た扉側からやってきた声の主、それはメッセージに映っていたルミカちゃんのお姉ちゃん。設楽さんだった。

 

「ルミカちゃんのお姉ちゃん! え、ええとルミカちゃん、貴方を探してました!」

「なんだ君達はルミカの知り合いなのか。ルミカの奴め、ちゃんと友達が居るのにどうして頼らず一人で来たんだ……。知ってるさ、ルミカは私を助けるのと引き換えに取り込まれた」

 

 ルミカちゃんのお姉ちゃんである設楽さんが、苦々しい顔でメイちゃんを指差す。

 

「くふっくふっ、取るに足らぬ相手だと思って捨て置いたのは失敗でしたな。おかげで肝心要の姫巫女を頂戴し損ねましたぞ」

 

 途端、メイちゃんの様子が一変する。拠点で会った時と同じ雰囲気、つまりソーニャとか言う奴になったのだ。

 中身が入れ替わったのであろうメイちゃんの下半身が闇に溶け、そのまま闇がせり上がる。

 そして、そのおぞましい正体が露わになっていく。大きい……いや、大きいなんてもんじゃない!

 

 メイちゃんの下半身が埋め込まれているのは黒い塊。体には無数の黒晶石の棒が突き刺さっていて、黒い水槽みたいになっている部分には沢山の人影が見える。

 クロノス社の時と同じだとすれば、あれが取り込まれた那由他会の人達とルミカちゃんで、あの黒い巨体は後天的に黒晶石個体へと変化した融合モンスターなんだろう。

 なんて醜悪! どうして悪の組織ってこういうのが好きなんだろう!?

 

「なるほど、紅葉林での融合モンスターはこのための実験体でしたか。こりす、あれの正体がわかりました。あれはつまり、外で集団戦の討伐対象になっているあの芋虫です」

「え、そう言うことなの!?」

 

 だとすれば、開門できるメイちゃんを取り込んだだけで満足せず、こんな大掛かりな仕掛けを労しているのも納得だ。

 あの巨体は普通の開門で通れる大きさじゃない。ちゃんと安定した大きな次元の裂け目が作れなきゃ、地上まで這い出ることはできないだろう。

 

「左様。これこそ拙者が魔王に至るための道筋ですぞ。この那由他会とやらは特別な指導者が支配し導く鳥籠、この教団は拙者が力を蓄えるのにおあつらえ向きでしたぞー!」

「むむー! 酷いことをするのです! メイと信徒さん達を返すのです!」

「くふっくふっ、心外な物言いですな。この娘は姫巫女を連れ戻して自らの完全な世界を取り戻したかった。つまり、拙者はこの身に那由他会全てを取り込むことで、その手助けをしているのですな」

「歪んでる。メイちゃんはそんなこと考えてなかったはずだよ」

 

 私は思わず嫌悪感を露わにして、メイちゃんの体を乗っ取っているソーニャを睨みつける。

 

「それが拙者、ひいては黒晶石と言う存在ですからな。負の感情と言う極上の餌を育てるためには、歪んだ形で叶えてやるのが最適ですぞ。くふっくふっ、拙者、自分の勤勉さに感動を禁じ得ませんな」

「なるほど、黒晶石とは愚かしい生き物ですね」

「おお、これは心外な物言いですな。楽園の底に沈む黒晶石の女王、その一片であるラブリナ殿がそう言うとは」

 

 何を世迷い事をとソーニャが嘲笑う。

 楽園の底、黒晶石の女王。つまりラブリナさんの本体はダンジョンの奥深くに座する最強の魔王ってことなんだろうか。

 ほんの一片で多大な力を持つのだ、あり得る。

 

「拙者がこのようなことをしているのも、ラブリナ殿の欠片に認められ、魔王の座へと至るため。そして今、全ての準備は整いましたぞー!」

 

 ソーニャがそう宣言すると同時、芋虫の上で開門が起こり次元の裂け目が開く。

 そして、そこから落下した黒晶石の欠片が芋虫の巨体へと差し込まれた。

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