魔法少女エリュシオン~リア凸に怯える最強魔法少女はダンジョン配信に映りたくない~   作:文月なご

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第11話 鳥籠の巫女7

「あれは……! 私の欠片です!」

「ラブリナさんの欠片!? 隠しておくためにわざわざ開門を使うなんて!」

 

 芋虫に刺さった黒晶石の欠片を見て声をあげるラブリナさん。この使い方は想定していなかった。

 本来、度重なる開門は次元融解現象を誘発させかねない危険な行為、でも相手はその誘発を起こしたい。開門が一石二鳥の一手になっているのだ。

 

「さあ、ここで暴れる人間共の相手も飽いたですからな。雌伏の時を終え、地上へ羽ばたくと致しましょうぞ!」

 

 そう言うソーニャの背後、街の風景が徐々に大きくなっていく。

 開門の影響を受けて活性化してる!? あの感じ、もう時間がない!

 

「ラブリナさん、黒晶石から切り離せばメイちゃんを助けられるかな!?」

「恐らくは。……ただ、あの体は多くの怪人やモンスターが融合し、那由他会信者達を取り込んだ混沌の坩堝。万全を期すのなら、私が侵食を制御するべきでしょう」

「強引な手段はダメなのです! 開門を制御しているメイが気を失えば、一気に大規模な次元融解現象が誘発されるかもしれないのです!」

「むぅ……!」

 

 破壊する方向で対処しようとしていた私に、ミコトちゃんが待ったをかける。

 困った。エリュシオンに変身して電光石火でメイちゃんを取り戻す作戦は厳しそう。

 かと言って、悠長な対応をしていたら次元融解現象が起こって地上へと繋がってしまう。黒晶花や怪人がてんこ盛りの巨大芋虫、絶対地上に出したくない。

 

「くふっくふっ、潔く諦めなされ。この大ダンジョン時代、次元融解現象は元より数多く起こっておりますぞ。運がなかったと思えばいいのですな」

 

 ソーニャが諦めろっていやらしい笑みを浮かべてくるけれど、諦めてやる義理なんてない。

 悪党の企みなんて断固阻止、コテンパンにしてやるのが私の流儀だ。

 

「セレナちゃん、次元融解現象って周囲に大規模破壊とかは起こさないよね!?」

 

 ソーニャが言っていた通り、ダンジョンの入り口となる次元の裂け目は世界各地無数にあり、日夜増え続けている。

 でも、それで街が崩壊しただのってニュースは聞いたことがない。次元融解現象自体の危険性は低いはずだ。

 

「はい、元ある空間を押しのける形になります。建物などが歪んでしまうこともありますけれど、人が裂け目の発生地点に居ても軽く脇にはね飛ばされるだけですよ」

「なら……ミコトちゃん、私達が守るから開門準備して。私があの鏡みたいな遺物を奪って開門先に投げ入れるから!」

「ば、場所はどうするのです!?」

「できる限り安全な場所がいいけど、時間がないから場所より開門速度重視でお願い。多分、あの芋虫の近くよりはどこも安全だから。どこならできる?」

「むーっ……。拠点! ここのエリア拠点で魔力登録してあるので開門できるのです! そこが最短最速なのです!」

 

 ミコトちゃんは目を閉じて唸った後、はいっと手をあげてそう教えてくれる。

 ここは二層、目の前の芋虫を除けばそこまで危険なモンスターは居ない。リスクは許容範囲内だ。

 

「じゃあ拠点に開門をお願い! ミコトちゃんは私達が絶対守るから!」

「任せるのです! メイ達に酷いことをしたあの芋虫、絶対にぎゃふんと言わせてやるのです!」

「ラブリナさん、ミコトちゃんの防衛と遺物の切り離し、両方頼める!?」

「はい。あのモンスターはレイドパーティとの戦闘にも意識を割いているはずです。こりすの助力があれば可能でしょう」

 

 言いながら、ラブリナさんが杖剣に黒晶石をまとわせ、ミコトちゃんが開門の準備を開始する。

 

「話はわかった、私も防衛を手伝おう。ダン特の一員として多少は戦えるつもりだ」

 

 話を聞いていたルミカちゃんのお姉ちゃん、設楽さんもミコトちゃんの護衛を買って出てくれる。

 

「でも……」

「君達の方が強いであろうことはわかってる。だが、強かったり特別だから戦うんじゃない、特別な相手を守りたいから戦うんだ。あそこには妹のルミカが囚われている、姉である私が静観していられるはずがないだろう?」

 

 それは私達魔法少女が油断すると忘れてしまいそうになる、とてもシンプルで力強い回答だった。

 

「わかりました、お願いします! でも、無理はしないでください。ルミカちゃんが無茶するの、無茶した設楽さんを守るためですから!」

「はは、耳が痛いな……。重々承知した!」

 

 私はミコトちゃんの守りを二人に任せ、メイちゃんを取り込んだ芋虫の体へと駆ける。まずは後ろにある遺物を奪い取らないと。

 

「悪巧みの話し合いが筒抜けでしたぞー! そんな真似は許しませんな!」

 

 そんなことはさせないと、ソーニャが私を迎え撃ち、巨大芋虫の体から黒い触手を無数に伸ばす。

 

「貴方の意見は聞いてない。無理矢理にでも押し通すって言ってるんだよ」

 

 心のスイッチだけをエリュシオンに切り替えた私は、鉈でそれを捌きつつ、芋虫の体に飛び乗って駆け上る。

 うん、予想通り踏み台にできる。莫大な魔力を生み出す私の体は一種の聖域みたいなもので、精神干渉や概念攻撃、侵食や呪いに憑依など諸々一切を受け付けない。

 黒晶石に侵食されたり、他の人達みたいに取り込まれる心配はないのだ。

 

「かーっ! 小賢しいですなっ!」

 

 私を捕まえようと、黒い触手の数を増やして躍起になるソーニャ。

 あの触手に捕らえられる訳にはいかない。取り込まれる心配はないけれど、触手に絡めとられてしまった場合のタイムロスは致命的だ。

 相手もそれをわかっていて、体から生やした触手で私を不意打ちしたり、手を変え品を変えて私を捕まえようとしてくる。

 

「効かないよ」

 

 でも、残念ながら当たらない。殺気も動きも見え透いてる。

 鉈を巧みに使って巨体からの不意打ちと触手を回避し、お塩を舐めに行くヤギさんみたいに素早くジグザグと黒い体を駆け上っていく。

 

「んんー! なんですかな、なんですかな、これは! 理解の範疇を越えていますぞー!?」

 

 憤るソーニャがその身を震わせて私を振り落とそうとする。

 

「こりす! 足場に使ってください!」

「ぐええっ!?」

 

 そこにラブリナさんが黒晶石の塊を次々と打ち込み、私が上るための足場を作ってくれる。

 

「ありがとう!」

 

 ちらりと後ろを確認すれば、祝詞を奏上しているミコトちゃんの周りには黒晶石の盾が展開され、それをすり抜けて来る触手をラブリナさんと設楽さんが切り払っていた。

 ミコトちゃんをできる限り無傷で吸収したいんだろう、向こうを狙う触手の数は想定より少ない。

 その代わり、私を止めるために多くの触手を割いてきている。

 うん、これなら大丈夫。相手が私を狙ってくる限り、こんな単純な攻撃には当たらない。

 

「おのれー! かくなる上はっ!」

 

 私を止めきれないと判断したソーニャが、狙いを私から遺物へと変更する。

 そうか! 遺物が壊れたら暴発して即座に次元の裂け目ができるって言ってた!

 私はラブリナさんが作った黒晶石の足場を飛び移り、遺物へと迫る触手を次々切り落としていく。

 

「開門っ! こりす、最速で開いたのです!」

 

 その間に開門の準備が整い、ミコトちゃんの後ろに拠点の風景が広がった。

 これで準備万端、今こそソーニャの企みを瓦解させる時だ。

 

「ラブリナさん、遺物の周りを攻撃! ミコトちゃん、もう少しだけ次元の裂け目開いて!」

 

「はい! こりす、行きますよ!」

 

 ラブリナさんが遺物の周りに次々と黒晶石の花を咲かせ、遺物を固定している黒晶石を剥ぎ取っていく。

 

「とどめっ!」

 

 おまけに私が鉈を投げつけると、固定の緩んでいた遺物が落下する。

 私はそれをなんとか両手でキャッチ。何とか脇に抱え込める大きさの遺物は、鏡と言うよりも街の風景が映った水晶玉みたいな物体だった。

 

「こりすー! 境界を広げたのです! 急いで投げ入れるのです!」

「そうはさせませんぞーーーっ!」

 

 私と次元の裂け目の間、神殿の闇から無数の黒い触手が出現し、私の行く手を遮って遺物を奪い返そうと襲いかかる。

 でも、私は逆に襲ってくる触手をロープ代わりにして、ターザンみたいに飛び移りながら次元の裂け目を目指す。

 その間にも遺物は徐々に大きくなっている。多分、ミコトちゃんが開門したことによる影響も受けているのだ。本当に時間がない、急がないと。

 

「んんんんんーーー! あり得ない! ありえませんぞーっ! なんですかな、なんなのですかな、この小娘はっ!?」

 

 破れかぶれで触手を寄り集め、巨大触手を作り上げてくるソーニャ。

 流石にあの太さじゃロープ代わりにできない。

 

「ラブリナさん、後お願い! 私、そのまま拠点に突っ込むから! ミコトちゃん、私が入ったら触手が入らないように即閉めて!」

「わかりました、こりす。後は任せてください!」

「わかったのです!」

 

 苦渋の選択だけど仕方ない。絶対に失敗が許されない以上、このまま一か八かで投げ入れるわけにはいかない。

 私は襲ってくる巨大触手の側面を両足で蹴りつけて跳ねると、残っていた細い触手をロープ代わりにして勢いを殺しながら次元の境界を越える。

 それを追って触手が次元の境界を越えようとしてくるけれど、間一髪でミコトちゃんが間に合い、その前に次元の裂け目が閉じられた。

 

「ふーっ」

 

 見知った拠点の床に安堵する間もなく、遺物が急激に大きくなっていく。

 

「はなれてーっ! 皆、ここから離れてえええーっ!」

 

 私は恥をかく覚悟を決めると、何事かと集まって来る人達に向けてそう叫び、出来る限り人の居ない方向へと遺物を投げ飛ばす。

 遺物にピキピキとひびが入り、ひびが遺物からはみ出て目の前の空間へと伸びて、そのまま一気に天井を貫いて天へと伸びていく。

 伸びた次元のひびが拠点の屋根をこじ開け、私達の街と繋がる巨大な次元の裂け目が開いた。

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