壊却のオフィウクス   作:唯尊

1 / 21
こんばんは、唯尊です。

以前言っていた【Project Sekai SCP incident feat .】と共通の世界観を持つ別作品……ではありますが、以前告知した作品ではありません。それはまだまだ先になります。

ひとまずお先に、私めの初オリジナル作品をお楽しみ頂ければ幸いです。

 
 


第一章 【精霊使いの楽園】編
第一話 冷炎は世界を焼いた


 

 西暦------1946年……。

 

第二次世界大戦後、地球人類は、その時初めて異世界の存在を確認した。

 

異なる人種・民族・イデオロギー、そして魔法の存在……。

 

自分達の常識から大きく外れたもう1つの世界を、地球の人々は【リュージョン】と呼んだ。

 

やがて米ソ対立により勃発した東西冷戦の波はリージョンにも及び、地球同様の対立構造が誕生した。

 

…しかし、リュージョンの人々は理解していなかった。

 

彼等の世界に撒かれた冷たい炎が、全てを呑み込む事を……。

 

 

 

 

 

神星歴------1891年……。

 

少年は乾いた土を踏み締めながら力無く歩いていた。歳の頃は13歳程度だろうか、顔立ちは大人びていたが、目には覇気がなく虚に地面を見つめていた。

 

少年------アイレン・H・ユクスキュルは、ボロボロになった服を着ながら路地を歩いていた。

 

比較的地味だが、元は高貴な身の人間が着る品質の高い服は、煤や焦げで気品性を喪失している。

 

既に何日も雨が降っていない乾いた道には、驚く程の人が行き交い、あるいは何かのドラックをキメた人たちが座り込み何かを喚いている。

 

目を凝らせば配給物質が行き渡らず、剥がした松の皮を齧って飢えを凌いでいる老人がいた。老人の眼球がせりだして喉が異常に腫れている。草や樹木の皮を食べるしかない人間の大部分は、遠からず病気や下痢による脱水で死ぬ。

 

これまで歩いて来た道端には、病気で死んだ者と、それを避けて餓死した者、惨めな生活を拒否して自ら命を絶った者の死体が幾つか転がっていた。

 

小さく千切った干し芋を法外な値段で売り歩く男のポケットは、紙切れ同然になった高額紙幣でパンパンになっている。だが当の男はガリガリに痩せ細っていて、目の下には栄養失調を表す黄疸が出来ていた。

 

暫く歩いて辿り着いたのは難民キャンプだった。ボロ布を纏った人々が仮設テントやバラック小屋で身を寄せ合うように暮らしている。

 

テントの中からは先の冬を越せず凍死した人間の足が覗いていたが、雨風や寒さを確実に凌げる建物はどれも半壊しており、【地球】の最新技術をもって建造されたと言われても、入るのは躊躇われた。

 

ここにいる人間は皆、家財も住む家も国家も捨て、ここ西欧【プロキシオン王国】首都、【ゴメイサ】に逆疎開してきた難民だ。中欧や東欧、大陸東部から避難して者達も大勢いる。

 

彼らに共通しているのは土気色の顔をして、絶望と先の見えない不安に心を腐らせている事だ。キャンプの奥では配給される食料の奪い合いが殺し合いにまで発展し、タクティカルベストとヘッドギアに身を固めたプロキシオン王立騎士団国家警察隊(RKPNP)がM16やM4A1を構えながら押し留めているが、連日の暴動鎮圧に駆り出されている彼らは疲労困憊の顔を浮かべいた。

 

そこから少し離れた土嚢で作られた防御陣地やAPC(装甲兵員輸送車)のそばにいた国防軍所属の兵士達は、不安そうに自分達が守るべき人々の混乱を眺めている。

 

 

…少年はこの国の人間ではない、世界大戦勃発により祖国は戦火で焼かれ、戦線は崩壊。逃げ延びる為に我先にと避難船に乗り込む群衆の波の中を、貴族であり国防の重責を担っていた両親から『私達はこの国を守る。平和になるまで生き延びなさい』と少年の反抗を押し退けてチケットを握らされた少年は避難船でこの地に来た。彼は昔から一族ぐるみで付き合いのある同盟国プロキシオンの王家に預けられた。

 

------王家に保護されてから2ヶ月後、少年の元に両親の戦死報告と、祖国の完全占領が伝えられた。

 

葬儀は曇天の空の下行われた、空っぽの棺を見送った少年は2つの墓標の前で自失状態で立ち尽くしていると、自らの武の師であり、兄の様に慕っていた男から突然に言われた。

 

『お前をユクスキュルの養子にする。この国がお前の新たな祖国だ』

 

両親の死と祖国の消滅という残酷な現実を受け入れられない少年は、その時初めて、胸の内にあった全ての感情を爆発させた。

 

墓地を飛び出し、制止する声も無視して走り続けた結果、ここに辿り着いたのだ。

 

既に2日間何も食べてない。近くにあった公共水道の蛇口を捻ると変な匂いのする水が出てくる。喉が干からびそうだった少年はそれを無理矢理飲むと咳き込む、やがて体が拒絶反応を示しその場で嘔吐した。

 

近くにあった楓の木に力無く寄りかかる。目は虚で体力も気力も限界だった。配給券も持たない見知らぬ外国人に食べ物を分けてくれる人間はいない。

 

涙は出なかった。流す力もなかった。

 

自分はあの王家に------ユクスキュル家には戻りたくない。

 

新しい両親と、6つ離れた婚約者兼義妹、10歳年上の兄------。

 

彼らは自分を温かく迎えてくれたが、黄色人種の自分はこの国で生きていける自信がなく、この国が最後まで生き残るとは思えなかった。

 

この国の戦況は知っている。

 

今では国土の80%を敵に占領され、陸海空問わず国防軍も騎士団も殆どが壊滅状態。ここにいる兵士達も壊滅した部隊からの生き残りで臨時編成された首都防衛部隊であり、彼らのツギハギの装備は貧弱そうで頼りなかった。

 

信じられない数の人間が死に、これ以上死んでもおかしくない。当然だろう、史上初の世界大戦に適応できる国家や組織、人間がリュージョンにいるとは思えなかった。

 

地球から持ち込まれた技術や政治思想は魔法魔術の力を飛躍的に進化させたが、やがてそれまで最高位の魔法である【星域魔法】を超える【神域魔法】を誕生させ、世界のパワーバランスを変えてしまった。

 

崩壊はすぐに訪れた。

 

研鑽された魔法や魔術の応酬に加え、地球から持ち込まれた核や大量破壊兵器は世界を炎に包み、大地と空を黒く燃やした。

 

これから自分はどうすればいいのか。

 

死ぬ気にも生きる気にもなれない中、ただ呆然と砲撃やミサイルや爆発術式の魔術の生んだ黒雲を見上げていた。黒い雲から覗く空は赤く焼けている。

 

------ふと、空から轟音が聞こえた。

 

驚いた人々が一斉に空を見上げる。雷か何かだろうか?

 

最初は皆そう思っていたが、やがて轟音が何度も響き、それが何かの爆発音だと理解する。

 

「コッチに近づいてくるんじゃないか…?」

 

誰かのそんな呟きにより、周囲にどよめきが奔る。すると近くの教会の鐘楼の上に陣取っていた狙撃手が無線で何かを伝える様子が見えた。

 

無線を聞いた地上の兵士達が戦闘配置につき、対空機銃や魔法杖を構える。

 

黒雲の上の世界で何が起きているのか------。

 

近づく物の正体も分からず不気味な轟音だけが大きくなっていく中、群衆は恐怖を携えた表情のまま上を見上げている。一体何が来るのか------。

 

刹那、黒雲から光が見えた。流星の様に落ちて来たのは撃墜された戦闘機の残骸だった。空中でバラバラに飛散するF-15を見て群衆が息を呑む。

 

そして、その後に大きな影が黒雲を突き破り下界に躍り出た。

 

ゲェルァァァァァァァァァッ!!

 

けたたましい咆哮と共に現れたのは龍だった。

 

少年が昔家族と旅行に行った時に遠目に見た事があるが、それよりも大きく恐ろしいシルエットだった。

 

体長だけでも20mを優に越え、全身に装甲板らしき物が貼り付けられている。目は赤く、巨大な頭部には兜らしき外骨格が付けられている。前足のないワイバーンだ。

 

巨大なドラゴンの来襲を目の当たりにした群衆に狂乱が走り、一斉に波となって蠢く。倒れた子供や老人を踏みつけながら一歩でも遠くあの怪物から逃れようと足を進める中、腰を抜かして尻餅をついた少年はドラゴンから目を離せなかった。

 

刹那、黒雲から新たな飛翔者が飛び出してくる。怒号じみた轟音を鳴らしながらアフターバーナーを吹かせるのは先程僚機を落とされたプロキシオン空軍所属のF-15だった。

 

最新のアビオニクス(航空電子装置)を搭載した機体はドラゴンとの激しい空中戦に突入する。

 

激戦の最中、F-15から放たれた対空ミサイルを滅茶苦茶な動きで回避すると、振り向き様に口から豪炎を吐き出す。紙一重でF-15はそれを躱す。

 

戦闘機との空中戦から離脱したドラゴンは地上を見るや否や突然急降下を始めた。

 

双眼鏡でそれを確認した防空部隊指揮官が声を飛ばす。

 

「総員、対空戦闘始め!迎撃魔法はケチるなよッ」

 

指揮官の指示に応える様に、魔術礼装に身を包んだ魔術士達が前に出る。

 

服装や得物はバラバラだが、国防軍所属、あるいは傭兵として雇われた魔術死達が杖や魔導書、その他触媒を使って攻撃魔術を放つ。

 

しかし、彼らが放った火炎も、高速で飛ぶ水の槍も、雷もドラゴン手前1m前後で不可視の障壁に遮られる。

 

「駄目だッ、対魔術防壁を張られてる!!」

 

「チッ…!魔法部隊は退がれ!実弾で応射するッ」

 

すぐさまM2ブローニング対空機銃やM2ブラッドレー歩兵戦闘車の25ミリ機関砲が放たれるが、航空力学を無視した三次元起動と強固な追加装甲と外皮に命中弾を防がれ最新の電子装置による照準も追尾機能も意味を成さない。

 

だが弾幕を避けて高度をとった瞬間、反撃の機会を窺っていたF-15がAAM(空対空ミサイル)を切り離した。ジェットエンジンに点火したスパローミサイルは空中で身を捻るドラゴンの腹に狙い過たす命中、空に火炎の華を咲かせた。

 

------やった!ついに一矢報いた。

 

群衆から歓喜の声が上がるが、すぐさまそれは悲鳴に変わる。

 

「おい……上から何か来るぞ!!」

 

声に従って見上げると、高高度から敵のMiG-29がASM(空対地ミサイル)が切り離され、点火した所だった。

 

防空部隊が迎撃に入るが時既に遅し、少年から50m程離れた地点に着弾し、凄まじい熱波と衝撃波に体を吹き飛ばされる。

 

「グッ…!」

 

地面を跳ねながらゴロゴロと体が回転しやがて止まる。

 

全身の痛みに震えながら顔を上げると、全てが消え去っていた。

 

人も------キャンプ地も------国防軍も------騎士団も------。

 

「あ……あぁッ…!」

 

喉を震わせながら嗚咽を堪える。叫びたかった…『何故こんな事に』と。

 

その時、目の前に地鳴りと土埃が舞う。咳込みながら前を見れば、先程と同じタイプのドラゴンが此方を見据えていた。赤く燃える巨大な目は冷酷そうに細められ、猛烈な臭気を鼻から噴き出す。体長20m超、頭だけでも縦横に3mはあった。

 

------距離は50cmも離れていない、手を伸ばせば届く距離だ。

 

恐怖で悲鳴も出せない中、ドラゴンは大きな顎を開き、少年を飲み込もうとした瞬間------。

 

「うわッ!?」

 

暴力的な力で後ろ襟を掴まれ後方に引かれる。直後に顎がガチンッと閉じられた。

 

すぐさま騎士団がドラゴンを取り囲み、無反動砲の雨を降らせる。

 

その光景を見ながら暫く呆然としていたが、ハッとして自分を助けてくれた者の顔を見ようと首を上に向ける。

 

短く刈り込んだ金髪と太陽に照らされた海の様な青い瞳、見上げる程の長身は190を優に越え、全身には鎧の様な筋肉を纏っている。その上に騎士団正式採用のIMTVボディアーマーを着けているせいでより大きく見えた。

 

「兄……さん…?」

 

助けに来てくれたのか?こんな所にまで??

 

驚いた表情のまま固まっている少年に目を向けた巨漢------バルトロメウス・フォン・ユクスキュルは口を開く。

 

「抗え……世界に殺されるな」

 

刹那、首都に大量のロケット弾が降り注ぎ、大地が揺れた。

 

 

 

 

 

 神星歴------1891年。

 

地球とリュージョンの交流が樹立化してから半世紀以上が経った時代。

 

地球における米ソの軍拡競争と東西陣営の対立構造はリュージョンにまで及び、ソ連が支援し共産主義を掲げる【ラーフェンストヴォ社会主義共和国連邦】を盟主とした東側陣営と、アメリカが支援し資本主義を掲げる【イプト・アル・ジャウザ連邦共和国】を盟主とした西側陣営にリュージョンは分断され、両陣営の間では新たに生み出された大量破壊兵器『神域魔法』の開発による睨み合いが続いていた------。

 

 

そんな中、神星歴------1885年。

 

世界各地で散発的に引き起こされていた国際紛争は、東西盟主国同士の衝突による全面戦争を避けるべくガス抜きのように行われていたが、ラーフェン連邦が密かに開発していた神域魔法の暴走により引き起こされた『プレアデス事件』をきっかけに世界大戦に発展。

 

地球から持ち込まれた科学兵器と最先端の魔法・魔術による殺戮の応酬はリュージョンの総人口を三分の一以下まで減らし、リュージョンの大地を取り返しがつかない程汚染した。

 

最終的には両陣営の消耗による戦線の崩壊と経済難により、神星歴1891年、両陣営の間に終戦協定が結ばれ約6年間の【リュージョン大戦】は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして------------10年後、

 

 

 

 

 

 

抗いの物語が始まる------。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。