壊却のオフィウクス   作:唯尊

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第十一話 家族

 

 暑苦しいテント内にて、演習の具体スケジュールが公開される。

 

「今回の演習では、連合軍の機動打撃艦隊からなる海上戦力及び、空軍戦力が仮想敵となる」

 

冬華がプロジェクターを通じてスクリーンに投影されたアジール島と周辺海域が描かれた地形図をレーザーポインターで指し示しながら説明する。

 

「そもそも、面積の小さいヘスペリデス本島では、こちら側も容易に戦力を展開するのは困難だ。その為、仮に敵の主力梯団の上陸を許した場合、圧倒的な物量差から、我々は海に追い落とされる様に包囲殲滅されてしまう。ろくに身動きが取れぬままな…。よって-------我々は敵戦力をヘスペリデス本島に近づける前に、可能な限り陽動し、ここ…アジール島を拠点とした防衛戦闘を行う」

 

冬華の言ってる事はもっともだ。

 

 ヘスペリデスには学園の他に、電気や水道の他、ガスや食糧生産プラント、医療施設といったライフラインが多数存在する。

 

 また、支援国から多額の資金援助を受けて開発された研究ラボや貴重設備も揃っている。

 

 なまじ破壊力があるガイストの力を迂闊に振り回せば、最悪、回復不能なまでのダメージを負う形で自滅する。

 

 その為、巻き添え被害が出ないエリア-----------ヘスペリデスから1番遠く離れたアジール島に誘導し、そこで叩く作戦に出たという事だ。

 

「さて、我々ガイストには、破壊力のある『精霊武装』の他に、物量で勝るチェルノボーグに対抗する術がある。それは何か--------ユリーナ!」

 

冬華に指名されたユリーナが立ち上がる。

 

「空・陸・海を問わず自由に戦える三次元起動力ですわ」

 

 難なく答えるユリーナ。

 

「そうだ。飛行魔術を駆使し、十分な補給を受ければ、君達ガイストは長時間の戦闘を持続できる。ガイストの戦術利点はその万能性にある。ガイストには、精霊武装による"戦艦並みの火力"を持つ攻撃力、防御魔術を用いた"戦車並みの防御力"、そして飛行魔術による"戦闘機並みの機動力"を誇る。魔術の練度次第では高高度も飛べるし、深海に生身で潜る事も可能となる」

 

現代兵器の鉄則として『万能は無能である』がセオリーとなっている。リュージョンで開発された魔法兵器もその常識を覆す事は叶わなかった。

 

 魔法を兵器として利用するには限界がある。言ってしまえば、強力な戦術魔法は『人を殺し"過ぎる"』のだ。

 

 結局の所、地球で開発された大量破壊兵器と大して変わりない物しか作れなかったのだ。

 

 皮肉な事に、科学と魔術の叡智を尽くして完成したそれらは『神域魔法』と呼ばれ、先の大戦で殺戮の限りを尽くした。

 

 結果、それまでリュージョンに夢と希望を与えていた魔法は、霊脈の弱体化と消失に伴って、多くの人間から失望される事となった。

 

 戦後、魔術・魔法が安定した戦力として機能しなくなった各国は、軍や公的機関に所属する魔術師---------通称、"魔術士"の大幅削減を行い、地球から導入した科学兵器群を戦力の主軸に置き変え始めている。

 

 戦前から地球製兵器の導入は各国で頻繁に行われてきたが、現在、ごく一部を除いて魔術士を実戦配備している国家は少なくなりつつある。

 

 しかし、最新の電子装備を積んだ航空機や潜水艦を導入できるのは、経済的に余力のある国家だけだ。

 

 また、それらを効率的に実戦運用するノウハウも持ち合わせていない。

 

 そんな中、世界はガイストの軍事利用に目を向けた--------。

 

「大戦後期の頃から、既にガイストを戦闘部隊として前線に投入し、多大な戦火を挙げている国もある。まぁ、そのせいでガイストを危険視する世論を加速させた面もあるが……、君達には既存の陸戦兵器や海上戦力にある"縛り"がない。ミサイル駆逐艦は火力はあるが行動範囲が限定され、戦車は防御力は高いが機動力に難がある。攻撃ヘリや戦闘機は防御力が低い……だが……君らにはそれがない。我の勝機はそこにある!」

 

その後、プロジェクターが地図を消し、チェルノボーグの詳細データが各個体のイラストと共に表示される。

 

「今回が初実戦となる為、復習を兼ねて再度解説する。まずはチェルノボーグの基本的な生態についてだ--------」

 

 チェルノボーグは植物を含む凡ゆる生命体を攻撃する習性があり、寄生により繁殖する。特徴的なのは赤い目だが、個体の種類は複数確認されている。

 

「チェルノボーグの姿形や能力は多種多様だが、我々は基本的にサイズと重量で奴らを区別する」

 

 小さい順から、体長5メートル以下の非飛行種が『ビュグマイオイ(突撃兵型)』--------。

 

 体長15メートル以下の飛行種がアクイラ(強襲型)-------。

 

 体長20メートル以上の非飛行種が『トラルテクフトリ(要撃型)』となる---------。

 

「この3種が基本的な区別だ。この中には高出力のレーザーや火炎、毒煙などを射出する個体もいる。これら射撃能力が認められる個体の射撃精度は命中率98%を誇る。遮蔽物のない更地や空中ならばほぼ確実に仕留められると考えていい」

 

これら射撃能力を有する個体の登場により、制空権を奪われつつある人類は、迂闊に航空戦力を投入出来なくなった。何せ、"1番弱い"射撃能力持ちとして記録されている個体でも、戦車の装甲を一瞬で融解させるレーザーを持ち得ているレベルなのだから…。

 

 無論、個体差はあるが、地上と空中から高出力レーザーを放たれれば、回避する術ほない。現代の最新鋭戦闘機でも不可能だ。

 

 命中精度はもちろん、射程は長ければ直線距離で30km先の標的を仕留た個体も確認されている。紙屑同然の航空機の装甲ではとても太刀打ちできない。

 

「ガイストが飛行魔術で出せる最大速度は、マッハを超える。その上、戦闘機には実現不能な三次元機動による運動能力は大きな利点だ。魔術による敵の狙撃弾道の事前予測と組み合わせれば、十分に回避可能だ。元よりガイストは戦闘機より小さいしな」

 

急旋回や急上昇、非直線的で自由自在に動けるガイストは戦闘機よりも高い機動力と火力を持っている。

 

「作戦は前衛を連合軍主力、後衛を我々『討伐隊』が引き受ける事となった------」

 

その後、作戦概要の説明は続いたが、それらは聞けば聞くほど失意を隠せなくなり、優雨達は呆れ混じりの表情を濃くする。

 

 チェルノボーグの大半を連合軍が相手をし、その取りこぼしを討伐隊が駆逐する------といった単純な内容だったが、前衛と後衛の距離が離れ過ぎている。これでは万が一応援が必要な時に迅速に対応する事が出来ない。

 

 おそらく直接的に自分達の戦場に介入されるのを嫌う連合軍上層部の思惑だろう。

 

 "チェルノボーグからヘスペリデスを守ったのはあくまで我々、連合軍である"と、どうしても主張したいらしい。

 

 ガイストに手柄を横取りされるくらいなら、最初から作戦の隅に追いやろうといった魂胆なのだろう。

 

------ガイストには首輪を付けた上で、後方で留守番させる……か…。

 

冬華の表情を見れば、彼女も当然この作戦の真意に気づいており、ある種の失意と諦念を含んだ顔をしていた。

 

「今回の訓練では、実際にイージス艦から発射されるミサイルや、戦闘機との交戦がある。無論、全て訓練弾だが、当たれば「痛い」では済まない。各自、最低限の防御フィールドは常時展開を忘れるな!以上だ」

 

「全員、起立!」

 

優雨の号令により全員がその場で椅子から立つ。

 

「敬礼-----!」

 

直立したまま腰を10°まで曲げて、その場で礼をする。

 

 冬華は挙手式敬礼で返礼し、討伐隊の面子を見渡すと、一瞬、痛ましい表情を浮かべたかに見えたが------すぐさま表情を元の厳格なものに戻し、テントから出て行った。

 

 

 

 

 

 

殺人的な暑さのテントから解放されたアイレン達は、砂浜で穏やかに波打つ海面を眺めていた。

 

 その辺りには丁度、リュージョン連合第七方面軍隷下の第14機動打撃群に属する空母やイージス艦が浮かんでいる。

 

 地球で使用されてきた軍艦を中古で購入し、改修した艦が大半を占めている艦隊は、どの艦も船体が傷んでいるのか、全体的に錆びれた雰囲気を放っていた。

 

 明らかに故障してる様にしか見えない艦は甲板の上で作業員達が走り回っているのがここからでも見える。

 

 自力で航行できるか怪しそうな駆逐艦はただ浮いてるだけに見えて頼りなく、空母に至っては甲板に艦載機の存在が見られなかった。

 

 最初は甲板ではなく艦内に航空機が格納されているのかと思っていたが、さっきからその気配すらない。やがてカタパルトの辺りから煙が立ち昇り、あっという間に火災となっていた。

 

 どう見ても航空機を載せている様には見えない。というかさっきから一機たりとも艦隊の周囲に航空機が見られない。

 

「…とんでもない事になりましたね」

 

ポツリと小さく呟いたのは、アイレンの隣に立つ優雨だった。サイドアップにされた短めの黒髪が風で靡き、それを癖で右手で押さえていた。

 

「チェルノボーグがこのエリアに押し寄せるまであと1日……私達が第7号トゥルリスの再構築までの48時間を耐えきれなければ……」

 

「やめろ」

 

こことは違う別の世界を見据える様な目で虚に言葉を流す優雨を制止する。

 

「最悪のケースは想定しても無駄だ。生き残る事だけを考えろ」

 

「でも……チェルノボーグの進行速度が想定より早いんですよッ?大戦の傷で連合軍も十分な戦力を確保できてる訳じゃ…」

 

「いざとなったら、君達には『精霊武装』がある。そこらのミサイルや爆弾よりも協力な武器が君達にはあるんだ。むしろこっちの方が有利だろ…」

 

「今朝出撃した航空支援部隊だって半数が未帰還なんですよ!?」

 

たまらず叫ぶ優雨。もはや限界まで恐怖が高まっていた。

 

 砂浜での小休止に入ってから20分------。

 

 討伐隊は演習の準備が完了したにも拘らず、いっこうに演習が始まる気配すらない。

 

 予定していた海上の艦隊は見ての通りの有り様だし、地上の基地は機体トラブルだかで戦闘機を飛ばせず、演習を開始出来ないといった状況だ。

 

 そんな連合軍の醜態に呆れて言葉も出ず、こうして待機に待機を重ねている中、連合軍から無線が入った。

 

 ようやく演習開始かと思いきや、『今朝、航空支援に出撃した部隊が大損害を受けて帰投し、そっちの対応で更に遅れる』とかほざいてきた。

 

 流石の冬華もキレ散らかす寸前だったが、実際に帰還したF-15Eの大半が"何とか飛んでいる"状態であり、12機出撃した一個飛行隊で瀕死の3機のみが帰投。3機全てが損傷した各部から黒煙を出し、そのうち一機は途中で機体が空中分解------あえなく燃えながら墜落し、海の藻屑なったのを、優雨達の網膜に焼き付ける事となった。

 

 少女達からしてみれば恐怖の光景でしかなく、萎縮した精神を更に締め上げる事となった。

 

 冬華も初の実戦の緊張に震え、アイレンも彼女らにかける言葉が見つからない中------。

 

「皆さんッ!しっかりしなさい!!わたくし達は何の為にこの場にいるんですのッ?」

 

喝を入れる声が聞こえ、振り向いた先にはユリーナがいた。この場にいる大半の人間が戦意を喪失しかかっている状況でも、彼女はあくまで気丈に振舞っていた。

 

「今までわたくし達は、理不尽に己の生を否定され、人格を否定され、存在を否定されてきました……過酷な状況で何度も命の危機にさらされ、多くの仲間が犠牲になり、家族や友人からも引き離されてようやく得た居場所ですら脅かされる日々……それでもわたくしは、自分の人生を諦めません。このまま好き勝手に奪われ、悲しみと絶望の中で朽ちるのが運命なら、わたくしはそれに打ち勝って見せますッ…!今まで生きたいと願い、泣きながら死んでいった家族の為にも、わたくしは戦いますわ!必ずこの居場所を守って……皆さんとの日常を取り戻しますの!!」

 

 長い金髪は燃え上がる様に閃き、ユリーナは想いを叫ぶ。彼女とてこの状況は怖いだろう。それでも彼女は、同じガイストの同胞を"家族"と呼び、命をかけて守ると誓う。

 

「…そう、だね…。まぁ死にかけた事ならこれが初めてじゃ無いし、みんなとなら頑張れるかな!」

 

「はい!これ以上仲間を……家族を奪われるのは許せません!!必ず勝ちますッ、絶対に!!」

 

 由佳と優雨をはじめ、徐々に場の空気が勇ましいものに変わっていく。暫くもしないうちに、ユリーナは討伐隊の戦意を取り戻していた。

 

「まったく……頭が下がるな、ユリーナには…」

 

その様子を見ながら、有栖が溜息を吐く。そんな彼女に質問を投げる。

 

「なぁ有栖、ユリーナの言う"家族"って…」

 

「あぁ……私達ガイストは精霊紋の存在が確認されると、すぐに親元から離されて隔離されるんです。ご存知の通り、一度隔離されたガイストは成人になって能力を喪失するまで隔離区域から出られませんし、肉親との面会も制限されます。多感な思春期の子が多い中、ヘスペリデスでは孤独を感じない様にガイスト同士を家族として迎えるんです」

 

「家族…?」

 

「はい。家族としての強い絆で、互いに支え合うんです。私と同じ第一世代ガイストの皆んなが始めた取り組みなんですよ?私達の想いで、いつかガイストを普通の人間として迎えてくれる世界にしようって……」

 

「…なるほどな」

 

 その考えは重要だとアイレンには解る。

 

 自分のいた最前線にも、祖国の訓練所でも、確かに仲間との絆があった。

 

 戦友と呼べる家族や兄弟達の存在があったからこそ、辛い日々や過酷な現実を乗り越え------幾つもの夜を生き延び、こうして自分が在るのだから。

 

「その考えよく分かるよ。キツイ時こそ仲間が……自分を独りにしない家族が必要なんだ」

 

 アイレンが同意すると、有栖は嬉しそうに微笑む。

 

「そう言って貰えて嬉しいです。先生も、きっと私達と同じ家族になれると思います」

 

「え…?」

 

一瞬、呼吸が止まる。

 

------ガイストを散々殺してきた自分が……彼女達と…?

 

「言っておきますが、先生の事はまだ完全に認めた訳ではありませんのよ?」

 

いつの間にかアイレンの近くに来ていたユリーナが腰に手を当て近づいて来る。

 

「どうした?ユリーナは先生の事が嫌いか?」

 

「べ、別に嫌ってはいませんが……というより、家族を助けてくれた実績もありますし、多少は信頼を…」

 

そっぽを向きながら意地らしい態度をとるユリーナを見て、有栖は少し可笑しそうに笑う。

 

「ふふ……なるほど、思ったより好評そうだ。この様子だとお前は大丈夫そうだな」

 

「な、なるほどってなんですのッ?何が「なるほど」なんですの?どこを見てそう判断したんですの!?」

 

「さぁ、どこだろうな…」

 

コロコロと表情を変えるユリーナを見て面白そうに笑う有栖。ふと、さっきから会話に入ってこないアイレンが気になり、彼の方を見る。

 

「先生?どうされました?」

 

「------あ、いや…」

 

あまりに衝撃的な事を言われたアイレンの意識は、しばし虚空を彷徨っていたようだ。ハッと我に帰り、何か言おうとして言葉を探していると----。

 

 

 

「全員、集合だ!!」

 

 

冬華の大声が聞こえて振り向く。

 

アイレン達から20メートル程離れたテントのそばに、軍用無線を手にする冬華が見られた。

 

「ようやく先方の用意が出来たらしい。各自、予定通りのポイントにつけ!これより演習を開始する!!」

 

 

 

 

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