壊却のオフィウクス   作:唯尊

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第十三話 赫く染まる戦場

 

 空が赤く染まっている------。

 

 赤い光の正体は、無数のチェルノボーグの瞳が放つ憎悪の色だ。

 

 空だけではない。海面を見れば、あたり一面が赤く蠢いている。海中を移動するチェルノボーグの群れだ。既に海からは自然が持つ青い輝きが失われており、その全てをチェルノボーグに覆い尽くされていた。

 

 空と海がチェルノボーグに支配されている------。

 

 今、ズュートゼー海周辺は、血の色を思わせる赫く染まった世界と化していた。

 

 

 イージス艦から空に向けてミサイルが放たれる。しかし、空を埋め尽くすチェルノボーグに対して、数が圧倒的に足りない。

 

 前大戦の消耗により、主要な兵器の大半が充分な補給と整備を受けておらず、完全な攻撃能力を維持している艦はこの艦隊には存在しなかった。

 

 やがて、空から無数の光線や火炎が飛んでくる。

 

 アクイラがミサイルを撃ち落としていくのだ。

 

数刻としない内に、チェルノボーグに向けて放たれたミサイルの全てが消滅する。

 

 海中からはトラルテクフトリの大群が艦隊に向かって突進。津波となって押し寄せてくる。

 

 すぐさま魚雷が撃ち込まれるが、数十……数百……数千の巨体の波を押し留める事は叶わず、次々と呑み込まれていく。取り付かれた駆逐艦や巡洋艦クラスは艦橋をズタズタに破壊された後、何体もの大型チェルノボーグに老朽化した船体をバラバラにされていく。空母に関しては、艦載機を発艦する事すらできぬまま、赤く染まった海の底に沈んで行く。

 

 その後、シュッツアー基地から放たれたSSM(地対地ミサイル)と砲弾の雨が海域に降り注ぎ、海面のあちこちに水柱が立つ。

 

 しかし、それでもヘスペリデスへの進撃は止まらなかった------。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『クソッ!一体どれだけいるんだ!!』

 

 プロキシオン空軍117飛行中隊------通称"ホワイトバーン"に所属するクリストファー・エンリケス少尉は乗機から地上の光景を見渡して毒づく。

 

 シュッツアー基地に赴任して最初に下された命令は、現在クリス達が乗るF-15Eの受領と完熟訓練だった。

 

 幼い頃かや夢見ていた機体を操縦できる事に、最初は童心に帰って胸が踊ったが、まだ十分に感覚が身に付いていない中、突然スクランブル発進がかかったのだ。

 

ファントムⅡとは比べ物にならないエンジンパワーに惚れる暇もなく、クリスの機体は片っ端から爆弾を投下していく。

 

『喰らってろ!クソ共がッ」

 

海中でチェルノボーグが爆散し、死骸が浮かび上がるのが見えた。操縦桿と格闘し、何とか機体姿勢を維持しながら海面スレスレを飛んで行く。

 

 これ以上高度を上げれば、チェルノボーグの放つ熱線等の攻撃に晒される。海中にいるチェルノボーグは上陸してこない限り熱線を放たないので、こうして這う様に飛んでいれば下からは攻撃されない。それでも、高空の敵からの脅威は残るが…。

 

『クリス!兵装が尽きた。もう一発も残ってないッ』

 

 後部座席に座るWSO(兵装システム士官)のエリッヒ・クルーガー少尉が叫ぶ。ミサイルも爆弾も、今ので全て使い果たしたのだ。燃料計を見れば、危険域を指している。

 

『分かった……ホワイトバーン3よりホワイトバーン1!残弾ゼロ、推進剤残り2割!』

 

中隊長のオットーに無線を繋ぐと、すぐに返信が来る。

 

『ホワイトバーン1よりオールホワイトバーンズ!我々は一時帰投し、補給を受ける。我に続け!』

 

『『『了解!!』』』

 

機首を傾け、オットーの機体に続いてシュッツアー基地を目指す。

 

(クソッ……空母も沈んだ!海上の艦隊は全滅したし、航空隊も残ってるのは俺達だけか…!)

 

開戦から1時間も経っていない……にも拘わらず、既にシュッツアー基地に配備されていた一個航空団(戦闘機約36機)の内、空で戦っているのはホワイトバーンだけだった。

 

(想定よりチェルノボーグの数が多い…!数万どころか10万以上はいる!)

 

絶望的な状況の中、クリスはふとヘスペリデスにいる友人を思い出す。

 

 つい最近、空で共に戦い、友情を結んだ男の顔を……。

 

(死ぬなよ……アイレンッ…!)

 

 

 

 

 

 

 

アジール島上空にて、アイレン達は待機していた。

 

 アイレンの右手には銀色に輝くミスリル製の槍が握られ、ガイストの少女達の手には【精霊武装】が握られている。

 

「先生……連合軍…勝つでしょうか…」

 

「…分からん」

 

優雨の呟きに、緊張した声で返す。

 

 このまま連合軍が勝てば、自分達は戦う事なく危機は去る。

 

 アイレン達が見つめる方角には、砲弾とミサイルの硝煙から生まれた巨大な黒い雲がある。その先にはチェルノボーグの大群と、迎撃する連合軍が展開していた。そこから絶えず聞こえる爆発音と閃光……まだ戦闘は続いていた。

 

 この場にいる全員が、固唾を呑んでその様子を見守る。

 

------頼む…このまま終わってくれ…!

 

 胸の内で祈りながら、黒煙が立ち込める海域を睨みつける。雷に似た轟音が鳴り響く中、ふと戦闘音が途絶える------。

 

「…静かになったね…」

 

「連合軍が……勝ったのでしょうか?」

 

由花とユリーナが小さく呟く。

 

 それまでの狂騒が急に消え失せ、シン…と世界が静まり返った。

 

 戦闘が止んだのか……?

 

 不気味な静寂に嫌な汗を感じる。その時------、

 

 

 

 

 

 

------ゴォォォォォォォォ…!!

 

 

 鈍い風切り音と共に、何かが黒い雲から飛び出して来る。

 

「ッ!?」

 

それはアジール島の丘にまで飛んできた。確認しようと一目見ると、ミサイル駆逐艦の主砲だった。

 

 その無惨な姿を見て、アレが本来搭載されていた艦の末路を悟った直後、少女達の悲鳴じみた声が聞こえる。

 

「せ、先生ッ…!」

 

優雨が震える声で指を差した先には、黒煙の中から大量の赫い光が飛び出してくる。

 

 夥しい数のチェルノボーグが、絶望の雄叫びを上げアジールに押し寄せてきた。

 

「そ、そんな……」

 

由花が茫然と呟く。他の少女達も最悪の状況に固まっていた。その時、彼女達は連合軍の敗北を悟ったのだ。

 

「……ッ!総員、戦闘用意だ!」

 

一番先に我に帰った有栖が叫ぶ。

 

「海中のチェルノボーグに向けて、全員で一斉掃射を------」

 

 その時、アイレンは気体のイオン化によるプラズマ特有のオゾン臭を感じ取る。

 

「散開ッ!」

 

有栖より先に、アイレンが叫ぶ。少女達は反射的にバラバラに別れた。

 

 直後、高出力のレーザーが先程まで飛んでいた辺りを擦過する。

 

「ッ…!全員高度を下げろッ!黒焦げにされるぞ!!」

 

慌てて高度を下げたアイレン達は、アジール島の丘に着地する。

 

「全員無事か!?」

 

見渡すと、全員が荒い息を吐きながら何とか生きていた。被弾した者はいないが、先程の攻撃で想像以上の恐怖を味わったのか、アイリーン以外の顔は青ざめていた。

 

「有栖!この後はどうする!?」

 

「え、あ……」

 

 有栖の方を見ると、当初は茫然自失状態だっが、アイレンの声で気を取り直す。

 

「作戦通りに行く!ツーマンセルで行動し、敵を各個撃破だッ」

 

腕を水平に振り、指示を飛ばす。有栖の声に触発された様に、優雨達が面を上げる。

 

「私達ガイストは【精霊武装】を用いた火力で敵を噴き飛ばします。アイレン先生は、撃ち漏らした敵の掃討をお願いしますッ」

 

「了解だッ」

 

アイレンが頷くと、有栖は気迫のある声を張る。

 

「ヘスペリデスからもミサイルで援護される。巻き込まれない様に注意しろ!それと、全方位に魔術で防壁を張れ!高度も取りすぎるな、相手の攻撃力によっては一撃で防壁を貫通される!……私達の背後にはヘスペリデスが……この世で一つしかない私達の居場所があるんだ!絶対に守るぞ!!」

 

「「「はい!!」」」

 

 有栖の気力に背中を押されたのか、少女達が力強く頷く。

 

「行くぞ!」

 

 有栖が身体の周りに防壁を張り、海面を駆ける様に跳ぶ。それにアイリーンも付いていく。

 

「優雨!私達も行こう!」

 

「は、はい!」

 

「リナさん、わたくし達も行きますわよ!」

 

「うんッ」

 

『有栖・アイリーンペア』を第一班、『優雨・由花ペア』を第二班、『ユリーナ・リナペア』を第三班に別れて行動を始める。

 

 アイレンも短槍を握り直し、戦域に突入した---------。

 

 

 

 

 

 

 

 アジール島の空に向けてユリーナが槍を構える。

 

「『光よ射抜け、天より降り注ぐは神々の矢------ライトニング・アロー』!」

 

槍の先端に光属性の魔法陣が現れると、そこから数百本の光の矢が放たれていく。

 

 高空から攻撃してくるチェルノボーグが身体に無数の穴を空けていく。

 

「『水よ凍てつけ、爆ぜる氷の嵐を呼べ------アイス・レイジング」!」

 

続け様に、リナが氷礫の嵐をチェルノボーグ群向け放つ。二人の攻撃で数百体の異形が粉々になって地に堕ちていく、それでも、見上げる限り赫い瞳の怪物達は空を埋め尽くしていた。

 

「な、何体いるの!?これッ…!」

 

リナは思わず呻く。少なく見積もっても、飛行種だけで数千……いや、数万は優に超えている。先程の最大出力の攻撃でも、減らせたのは全体の1割以下だろう。

 

「いくら何でもこんな数……」

 

「怖気付いてはいけませんわ!わたくし達がやらないと------」

 

ユリーナが発破を掛けようとした時、頭上から炎が降ってきた。チェルノボーグの遠距離攻撃だ。

 

「クッ…!」

 

「このッ!」

 

二人は上に両手を翳し、防壁を最大出力で張る。

 

 炎が防壁にぶち当たる。貫通される事はなかったが、急激な炎は周囲の酸素を瞬く間に燃焼させ、攻撃を受ける間、二人の周りは一時的な無酸素状態となっていた。その上、熱までは完全には防げない。

 

「ゴホッ…ゴホッ…!」

 

「さ、酸素が…!」

 

魔術で多少の酸素を生み出す事は出来る。だが、身体にある魔力の大半を防壁生成に回している最中だ。今、余計な術式を発動すれば、防壁の強度が下がり、貫通されるかもしれない。

 

 何とか息を止めて、身体に襲いかかる高熱に耐える。

 

 やがて、敵の攻撃が収まり、二人はその隙に移動する。

 

「ゲホッ……ゆ、ユリーナ、無事…!?」

 

「えぇ…何とか…」

 

 とは言え、今の防壁生成で二人の体内魔力の4割を持っていかれた。この調子ではこちらが先に魔力切れになる。

 

『こちら第三班!魔力の消耗が予想以上に激しいよ!第二班と交代をお願い』

 

リナがイヤホン越しに無線を繋げる。優雨たち第二班から応答がくる。

 

『第二班、了解しました!アジール島まで一時後退し、補給を受けて下さい』

 

『そこにチェルノボーグは侵入してる!?』

 

『大丈夫です。そこに、アイレン先生もいます!』

 

 アイレンが補給地点を守っている------それだけで退がる恐怖がかなり緩和された。

 

『分かった!すぐに戻るから、こっちは任せるね!』

 

『はい!任せて下さい』

 

無線を切ると、ユリーナの方を向く。

 

「ユリーナ、行くよ!」

 

「えぇ!」

 

二人は休む間も無く放たれる敵の熱線や火炎を回避して飛びながら、アジール島の補給地点を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

キシャァァァァァァァァァッ!!

 

 

 ワニと鳥を掛け合わせた様なアクイラに向け、ミスリル製の槍をアイレンは構える。

 

 呼吸を落とし、集中力を高める------。

 

「蒼部式戦闘術、弐の型一番------」

 

15m級のアクイラが巨大な口を開けこちらに突っ込んでくる。ノコギリの刃を思わせる凶悪な歯がビッシリ生えているのが見えた。

 

「『豺狼四禅』ッ!」

 

 神速の踏み込みと同時に槍が直線に投擲される。魔力で強化した槍の穂先が口に入り、後頭部を貫通------頭蓋が消し飛んだ。

 

「『zurück(戻れ)』」

 

アイレンが呪文を唱えると、そのまま空の彼方まで飛んでいくかと思われた短槍が空中で光のチリとなって突如消失、そのチリがアイレンの手元に現れると、やがて短槍を形作っていき、一秒とかからず、元の短槍に戻っていた。

 

 その後、海面からビュグマイオイが5体飛び出してくる。

 

 アイレンは脇のホルスターからSIGをドロウし照準。4発発砲し、4体の頭蓋を撃ち抜くと、残りの一体が飛び掛かってくる。猿とヘビを融合させた様な人形の個体だ。鉤爪らしき手で肉迫してくるが、それを槍で弾き、そのまま胸を差し貫いた後、頭部に照準------3発発砲し、頭蓋を破壊して無力化。

 

 ズシンッ……と地鳴りがした方を見れば、亀の甲を背負った象の様な個体が上陸していた。30m級のトラルテクフトリだ。甲羅のあちこちに不自然な突起物が見て取れたが、その直後、突起物が一斉に煙を上げて噴射、ロケット弾の如くアイレン目掛けて頭上に降り注ぐ。

 

「『炎よ射抜け、百害を祓うは紅蓮の矢------ファイアー・アロー』!」

 

 大量の炎の矢を生成し32発の擲弾を撃ち落とす。しかし、『精霊武装』を持たないアイレンでは、今ので半分近く魔力を消費してしまう。

 

 だから自分は、わざわざ拳銃を所持しているのだ。短槍の穂先をトラルテクフトリに向ける。

 

「『炎よ息吹け、神が創造せし神秘の真髄------アグニ・ブレス』!」

 

噴き出された火炎がトラルテクフトリの全身を焼き尽くし、沈黙させた。

 

 その時、アイレンは僅かながらの眩暈を感じる。魔力欠乏症の症状だ。

 

「チッ…」

 

舌打ちしながら懐から小瓶を取り出す。中には緑色に光る液体が入っており、地球発祥のメロンジュースに似た見た目をしていた。

 

 栓を空けて一気に煽ると、眩暈がなくなり、力が漲ってくる。

 

 回復ポーションの一種であり、こんな手にスッポリ収まる大きさの瓶の内容量でも、尽きかけた魔力を全回復するには十分だった。

 

 魔力欠乏症は命に関わる。だが、この状態で優雨達の様な高火力の魔法や魔術を使えば、あっという間に枯れ果ててしまう。

 

 とは言え、自分がこの場を離れる訳にはいかない。第一班は海中、第二班と三班は高空のチェルノボーグの殲滅を担当しており、補給地点であるここを守れるのは自分だけなのだ。

 

(敵の数が多過ぎる……予想の倍以上はいるぞ…!優雨達の消耗も激しいだろうし、補給物資には手を出せない…)

 

 背後の仮設テントに備蓄されている補給物資を見ながら、アイレンは極力消耗を抑える戦いをする必要があった。

 

「アイレン先生!」

 

ふと、空からリナとユリーナが降りて来る。若干、頬や髪に煤が付いていたが、目立った外傷はなさそうだった。

 

「二人とも大丈夫かッ?」

 

「はい!」

 

「この程度、なんて事ありませんわ」

 

二人は余裕そうに笑顔を見せる。しかし、声が若干震えていた。自分もそうだったが、どうしても初実戦は緊張するし、恐怖を感じる物だ。

 

「よし、回復ポーションは奥のテントだ。ここは俺に任せてしっかり魔力を補充しろ」

 

「はい、お願いします!」

 

「任せましたわよ。アイレン先生!」

 

二人は奥のテントに駆けて行く。アイレンはそれを確認すると、槍を構え直す。

 

 今、高空の敵は優雨たち第三班が担当している筈だ。だが、予想以上の物量ゆえに、取りこぼす個体も多いと考えるべきだろう。

 

 ふと、アイレンは自分の周りの影が大きくなっていく事に気付く。その正体が判った瞬間、足のバネを全快にして横に跳んだ。

 

 直後、頭上から落下してきた物体が、アイレンの立っていた場所に猛烈な勢いで着地、地面を陥没させる。

 

 ギヂヂヂヂッ……と耳障りな鳴き声を発するのは、蠅の鳴り損ないみたいなビュグマイオイだった。体長3m程の身体を飛ばすには、明らかに羽が小さいし、空を飛べる様には見えなかった。おそらく、寄生体が宿主の遺伝子を書き換える上で、何らかのミスが発生したのだろう。

 

 魔力の消耗を避ける為、地面を転がりながら立ち上がったアイレンは短槍で迎え討とうとするが、ピュグマイオイの口から粘液の塊が吐き出される。

 

 かなりの初速で放たれたそれは、アイレンの短槍を後方へと弾き飛ばした。

 

 武器を失くした瞬間、こちらに吶喊してくる。

 

 先程の様に短槍を引き戻しては遅い……ならば!

 

 アイレンは再びSIGを抜き、蠅モドキのピュグマイオイに向け撃ちまくる。弾倉が空になり、スライドがホールドオープン状態になるまでミスリル弾を撃ち尽くすと、手足に命中したピュグマイオイの動きが鈍る。

 

 その隙を見逃さず、SIGを腰のベルトに挟んだアイレンは、腰を落とし脇を締めて拳を引き絞る。蒼部流の呼吸法により、全身の魔力を拳に集中させる。

 

 蒼部式戦闘術、壱の型一番------!

 

「『琥野刃風星』ッ!」

 

 渾身の右上段ストレートがピュグマイオイの頭部を捉え、一撃で粉砕、頭部の原型が無くなるほど破壊される。

 

 グチャグチャの肉塊と化したチェルノボーグを前に残心をとる。

 

 蒼部流は己の武器や肉体を魔力で強化するのが特徴的だが、直接魔法を使うよりも遥かに魔力の消耗が抑えられる。

 

「先生ッ!」

 

叫ぶ声が聞こえる。振り向けば、補給物資の回復ポーション……アイレンが使っていた物よりも質の良い赤色の液体が入ったボトルを手にしたリナが、こちらを心配そうに見つめていた。

 

「大丈夫だ!こっちは心配するな!」

 

呪文を唱え、短槍を取り戻しながらアイレンはリナに向けて手を振る。彼女の隣に居たユリーナが呆れた表情でこちらを見ていた。

 

「まったく……ハラハラさせないで下さい。あんな無茶な接近戦をするなんて……貴方メチャクチャですわ」

 

「仕方ないだろ。お前たちと違って俺は【精霊武装】が使えないんだ。バカデカい魔法をドカドカ撃っていたらあっという間に魔力切れになる」

 

小型種とはいえ、素手でチェルノボーグに立ち向かうなんて行動が理解出来ないのか、ユリーナは諦めた様子で溜息を吐いた。

 

「ハァ……まぁいいですわ、わたくし達もそろそろ優雨さん達と交代しなければ…」

 

ユリーナが耳元の通信端末に手をかざすと、前線で戦う優雨達に無線を繋ぐ。

 

『こちら第三班、補給が完了しました。そちらと交代しますので、早く補給に------』

 

ユリーナが呼び掛ける。あとは後退してくる優雨達に変わってユリーナのペアが戦線復帰すればいいだけだ。

 

 このまま最終防衛線であるアジールを守り抜けば、こちらが勝利する。

 

『……優雨さん?聞こえてますか…?あの…』

 

しかし、いつまで待っても応答がない。

 

『あのッ……優雨さん?由花さんッ?聞こえないんですの!?二人とも応答して下さい!どちらでも構いませんッ、何か言って下さい!!』

 

不安が募り、ユリーナが叫ぶ。その表情は恐怖に染まっていった。最悪の状況が脳裏を過ったのか、リナも顔面蒼白になる。

 

------まさか…!

 

 嫌な予感がすると、身体が勝手に動いた。

 

「------二人はここを守れ!」

 

アイレンが二人を置いて飛行魔術を展開------残存魔力の事など気にも留めず、優雨達の元に全速力で向かった。

 

 

 

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