壊却のオフィウクス   作:唯尊

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第十七話 スコーピオンvsオフィウクス

 

 全身の痛みに目を覚ました式織優雨は、顔面に砂の感触を覚えながら、うつ伏せになっていた上体を起こす。

 

「うッ…!」

 

一体どのくらい気を失っていたのだろうか……最後に覚えているのは、親友である由花の死を目の当たりにし、茫然自失状態となっていた自分。テントの中で抜け殻の様に、身動き一つ出来なくなっていた時、突如、テントの外から悲鳴が聞こえた。

 

 それでようやく我に返り、ここが戦場である事を思い出した優雨は、なんとか立ち上がると、【精霊武装】の展開を試みた。

 

 しかし、魔力回路を酷使した事による損耗と、由花を失った精神的ダメージが重なったのか、集めた魔力は霧となって霧散し、何度やっても【闇精の弓(ダンカー・ボーゲン)】を生成する事は叶わなかった。

 

 そうこうしている内に、テントの外では決着がついたのか、戦闘の音が静まった瞬間。

 

 優雨は衝撃とともに意識を刈り取られた---------。

 

 

 

 

 そして、意識を取り戻した瞬間、目の前の光景に言葉を失った。

 

「アイレン……先生…!?」

 

 全身から大量に放出している魔力には、6つの魔法属性の"色"がハッキリ視認出来た。魔法属性というのは、相当な量の魔力が出なければ肉眼では見えないし、そもそも命に関わる程の量なので、まず見る事はない。

 

 だが今のアイレンは、本来なら一瞬で枯渇する勢いで魔力を放出している……いや、むしろ溢れ出す勢いが増している。それだけでも常識を超えているが、炎属性の使い手であるアイレンがどうして全属性の魔力を持っているのか?

 

 優雨が状況を理解できず唖然としていると、アイレンの前に立ちはだかるユーリーは「ク、ククッ…」と不気味な笑い声を漏らす。装甲じみた仮面を右手で押さえると、ブツブツと小さく呟き始める。

 

「そうか……そういう事だったのか……、まさか君が噂に聞く13番目の……」

 

そこまで言うと、ユーリーは大仰に両手を開き、歓喜する。

 

「なんたる幸運だッ!!最初に会った頃から妙な親近感を覚えていたが、まさか本当に同類だったとは-----------遥々遠くからズュートゼーまで来た甲斐はあったッ、君を屠り、新たに築いた屍の山に、その心臓を加えてやる!!」

 

「黙れ!キサマと一緒にするな………俺はこの力を、大切な人達の為に振るうッ、貴様の様に暴力と流血を求めてはいないッ!」

 

「いいや、やはり君はゾディアックだ!私達と同じ存在だよアイレン。世界を憎み、世界を殺し、凡ゆる生命を、財産を、尊厳を!その全てを壊して奪い尽くすこの世の渦潮の怪物(カリュブディス)だッ!!そうだろうッ?『アドラーのガイスト殺し」よッ!」

 

 その言葉を聞いた瞬間、アイレンの中の何かが切れた。

 

「ユゥゥゥリィィィィィィィィィィィィィィィッ!!」

 

 暴風を纏ったアイレンの身体が、弾丸の如き速度で上空にいるユーリーに吶喊、肉薄する。

 

脇を締め、右腕を弓の弦の様に引き絞る。

 

 蒼部式戦闘術、壱の型一番------ッ!

 

「『 琥野刃風星(このはふうせい)』ッ!」

 

「『アプビルト・デア・レーゼ』ッ!」

 

アイレンの拳がユーリーの鉄仮面に届く直前、その間に人型の影が割って入り、攻撃を受け止めようとする。

 

 しかし、光属性の魔力を纏ったアイレンの右ストレートを食らった瞬間、影は煙の様に消し飛び、そのまま抜けた拳打がユーリーの顔面を捉える。

 

「ぉぉオオオオオオッ!!」

 

「グハッ…!」

 

魔力で強化されたアイレンの拳は、仮面にヒビを入れ、表面の金属が剥がれ、粉雪の様に舞う。

 

 アイレンはコレで確信した。やはり読み通り、ヤツの『影』の根幹は闇属性魔法だ。相性が最悪と言っていい光属性の魔法・魔力を用いれば、簡単に無力化できるッ。

 

 ユーリーは一旦退がると、顔に手を当てダメージの具合を確認する。口元が切れたのか、仮面の内側から血が滴っていた。

 

「この私に傷をつけるか……ならばッ」

 

ユーリーは魔術を無詠唱で行い、風を生んで急加速。アイレンとの間合いに入った瞬間、全身を横回転させて、胴回し回転蹴りを放つ。

 

頭部を右腕でガードするが、受け止めた瞬間に骨と筋組織が悲鳴を上げ、衝撃を殺し切れず下に吹き飛ばされる。

 

 海に落とされ、水面に背中を打った直後、目と鼻の同時に海水が入ってくる。

 

 慌てて海面から顔を出すと、空を見上げて戦慄した。

 

 直径5m、長さ30mはあろう巨大な影の槍が矛先を此方に向けていたのだ。

 

 ゾッとして風魔法を行使、その場から離脱した直後に巨槍が猛烈な勢いでさっきまで浮かんでいた場所に突き刺さる。津波じみた水飛沫が上がり、あとコンマ数秒遅れていたら、自分は銛に突き殺された魚の様になっていただろう。

 

「どうしたッ?私の『影』はまだまだあるぞ!」

 

ユーリーが右手を振りかぶると、何も無い所から『影』が生み出され、全長2m弱の槍を数百本生成。アイレン目掛けて一斉に放ってくる。

 

「くッ…!」

 

両脚を風で包むと、海面を滑走する様に移動。上から降り注ぐ槍を回避していくが、数が多過ぎる。

 

 防壁を展開し、回避し切れない部分は受け止めていくが、光属性の魔力を混ぜて展開しても、槍の攻撃は一撃一撃が重く鋭い。2〜3本も受ければ防壁に損傷が見られ、耐えられるのはこれが限界と判断。

 

 海面を跳躍し、上空へと翔ぶが、迫り来る槍は暴風雨の如く全方位から襲いくる。

 

「チ…!」

 

 小さく舌打ちすると、背中に風と光属性の魔力を集中----------脳内に浮かんだイメージが明確になった瞬間、アイレンは叫ぶ様に詠唱する。

 

「『光、在れ』ッ!!」

 

 短く唱えた術式は、アイレンの背中から天使を思わせる光の翼を2枚生み出し、そこに風の魔力が宿る。

 

「『浄滅旋風(ライニグング)』!」

 

 直後、翼から光の粒子が溢れ出し、竜巻となった風がそれらを巻き散らす。

 

 この粒子は、光の魔力を一時的に無質化した物であり、従来の魔術・魔法系統には存在しない独自術式(オリジナル)である。つまり、ユーリーの『影』と同じ要領だ。

 

 光の粒子に触れた槍の群れは、やがて一本残らず消滅する。

 

「ほぉ……やはり君もオリジナルの術式を生み出せるのかッ、いいぞ、私の中の心が踊るッ、ますます昂るッ!!」

 

 もはや興奮を隠せなくなったユーリーの胸部にSIGを照準し発砲。強烈な9ミリの反動を手首で殺す。

 

 しかし、心臓を捉えたはずの弾丸は何発撃ってもすり抜けていってしまう。

 

「貴様……身体そのものを『影』にしているのかッ」

 

「御名答。この身は全て、私が生み出す『影』によって再構築されている。血液以外の内臓から骨、脳に至るまで、私は影によって己を成し、影によって全てを滅ぼすッ。それが『スコーピオン』たる私だッ!」

 

やはり、最初の拳による打撃が効いたのは光の魔力で強化していたからだろう。思い返せば、先の『討伐隊』との戦闘時も、光属性の使い手であるユリーナの攻撃だけは、直撃を避けていた。

 

 相手の弱点を見出したアイレンは両手を広げる。

 

「『Magisches Team, mehrere Einsätze(魔法陣、複数展開)』!」

 

アイレンの背後に、約30個もの魔法陣が空中展開される。

 

「『ライトニング・スピア』!!」

 

本来なら非常に高度な技術である短略詠唱を行い、砲門となった全魔法陣から光の槍が無数に放たれる。

 

 魔力が尽きることのないゾディアック同士の戦い、それは、現代の魔術戦の常識を超えた、不条理な程の力と力の激突であった。

 

「アプビルトデアレーゼェェェェェェェェェェェッ!!」

 

 ユーリーの渾身の叫びに呼応するかの様に、突如として真下の海面が盛り上がり、海中から80m級の巨人が姿を表す。全身が闇より黒く、顔も表情も存在しないソレは、『影』が生み出した魔力の塊だった。

 

 ユーリーを背後に、盾となった巨人は光の槍を全て受け止め、腹の中に取り込んでしまう。幾ら相性が悪くとも、単純な魔力量で上回れば、容易に封じられてしまう。

 

「『Nach vorne(前へ)』!」

 

 アイレンが詠唱、光が手元に集まり、自身の身長の倍はあろうミスリル製の大剣が生成される。そこに光の魔力を流し込み、刀身が眩しく光る。

 

-----------『アドラー・フリューゲル】------出力最大。

 

 背中の翼から放たれる光が一層強くなり、炎の如く魔力が爆ぜる。赤く変色し、勢いを増しながら輝く光が溢れ、音速を超える速度で突撃、影の巨人に斬りかかる。

 

 黒い豪腕を振りかぶると、此方目掛けて拳を振り下ろしてくる。目にも留まらぬ速度で攻撃を回避し、頭部に接近、ミスリルの大剣------『ドラッヘン・トーター』を構え、頸を狙う。

 

 『龍殺し』の名を持つ大剣を振りかぶり、横薙ぎに払う。大木の幹よりも太い頸を跳ね飛ばし、切り離された頭部が陽炎の様にかき消える。

 

 直後、胴の切断面から大量の『影』の粒子が血飛沫の如く噴き出し、やがてそれらが3m級の人型を作る。それも100体を軽く超える数だ。破壊された雀蜂の巣から飛び出す様に、『影の使い魔』達が群がってくる。

 

 アレの手足は凡ゆる物を切り刻む。おそらく高周波振動を用いているのだろう。この地上で唯一、ミスリルを上回る最凶の精度を誇っていた。

 

 物理法則を完全に無視した速度で迫る刺客達を振り切ろうと、全魔力を『アドラー・フリューゲル』に回す。加速に加速を重ね、常人なら間違いなく命を落とすGになんとか耐え、神に匹敵する鷲の速度をコントロールし、一定の距離感を保ちながら、反撃のチャンスを窺う。

 

 その時、己の心臓に破壊的な負荷が掛かる。

 

「ガッ…!?」

 

一瞬よりも短い、 刹那の時間ではあったが、無限にも等しい加速の連続が止まった隙をついて、『ドラッヘン・トーター』を『影』に破壊される。強靭なミスリルの刃を紙屑の様に切り裂かれ、間髪入れずに全方位から影の斬撃が飛んでくる。

 

 すぐさま光の魔力を用いて術式を練り、防壁を張る。

 

 精神ごと削り取る様な斬撃音の中、ただひたすらに耐える。再び『ライニグング』を使おうにも、何故か必要な分の魔力を出せない、というより、心臓が今にも破裂しそうなほど苦しく、意識が途切れそうだった。

 

 やがて、防壁が破られ攻撃が通る。頬を切り裂かれ、脇腹を深く抉られ内臓が引き摺り出される。

 

「ぐおおおッ」

 

 激痛に顔を歪ませながら、空中で全身を回転させ、『アドラー・フリューゲル』の魔力構成を『炎属性』から『光属性』に緊急変換し、非実体の翼で巻き込むように払い飛ばす。

 

影の大群から一旦離れると、地上に戻り懐から回復ポーションを口から摂取する。

 

 身体の傷が見る見る内に塞がり、心臓の痛みが消えていく。

 

「ハァ、ハァ、ハァ……グッ…!」

 

荒い息を吐いていると、突如として吐血する。赤黒い血が地面を死の色で染めていき、疲労の波が全身に押し寄せる。身体が重油を被ったように重く、不快だった。受けたダメージが、回復ポーションで癒せる限度を超えていたのだ。

 

「練習不足だな。力を使いこなせていないと見える…」

 

 高空から緩い速度でユーリーが降下し、やや低めの高度から見下ろしてくる。

 

「ゾディアックが無限に魔力を生み出せるといっても、一度に生成できる量は限られている。その翼が消費する魔力量に対し、回復が追いついていない……今の君は、一時的な魔力欠乏状態だ」

 

アイレンがよろめきながらも、歯を食いしばって立ち上がり、目の前の敵を睨み据える。ユーリーは表情は仮面に隠されて見えない。

 

「ゾディアックの力は、使えば使うほど強くなる!私と来い、アイレン・H・ユクスキュルッ、私には協力なバックが付いている。君と二人ならリュージョンもッ、地球もッ、全てが手に入る!!欲望と本能のままに、文字通り全てを奪い尽くそう!君ならそこまで登りつめる事が出来るッ!!リュージョン大戦なんか比にもならない、殺戮の果てにある我らの楽園をともに築こう!」

 

「あの戦争で散々殺しておいて、まだ血を求めるのかッ?」

 

「当然だッ!!この程度の死で……我らの心が満たされるものかッ、ゾディアックは殺す為に生まれた存在だ。戦争のない世界など決して許容できない!我らを平和という鎖で縛りつけようだとッ?巫山戯るなッ!!我らは惰弱な人間に飼い慣らされ、ガイストの様に飼い殺しにされる気はない!!」

 

「だから殺すのか?関係のない大勢を巻き込んでッ!」

 

「弱さを理由に醜く振る舞う、それが人間だッ!人間だけじゃない。獣人、亜人、魔族でさえ、他人を陥れ、利用し騙し、欲望のまま生きている。そんな蛆どもが作った世界がコレだ!!そのルールに従って惨めに終わるくらいなら、私は全てを壊してでも作り変える!!そこに生きる者も、例外なく私が殺して殺して殺し尽くすッ!!」

 

 激しい憎悪を爆発させるユーリー。影の大群が再び襲来し、アイレンはその場で高く翔ぶ。

 

 魔法による攻撃はおろか、防壁を張る余力すらない、飛行と回避だけで精一杯だった。

 

 SIGの弾倉を交換し、弾頭に比較的少量の光の魔力を宿らせる。影に照準し、距離を詰めて来る敵に次々と撃ち込んでいく。

 

 魔力の消耗を抑える為の緊急的な手段ではあるが、弾丸を食らった影は煙のように消えていく。

 

 よし、効いているッ。

 

 しかし、拳銃程度の火力で大群に太刀打ちできる筈がなく、すぐさま弾切れを起こしスライドがホールドオープン。

 

「このッ……舐めんなァァァァァァッ!!」

 

光の魔力で強化した拳足を振るい、正面から殴り込む。影から振りかぶられたの手を手刀で切り払い、顔面に拳を捻じ込む。

 

 背後を取った影に対し、後蹴りを食らわせた後、裏拳で粉砕する。

 

「『Zusammen(共に)』!」

 

右手にミスリル短槍『シュテルン・プファール』を生成、装備した瞬間に光の魔力を短槍に流す。

 

「どけぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」

 

短槍をプロペラのように回転させながら、縦横無尽に切り伏せ、刺し貫きながら進む。

 

 どれだけ影が多くとも、それを操るユーリーを仕留めれば全てに決着が着くッ。

 

 血眼になって影の主を探していると、目の前に3体の『影』が向かってくる。手の影を変形させ、剣の形を作り襲いかかる。

 

「蒼部式戦闘術、弍の型三十七番-------『三驢水穿(さんろすいせん)』ッ」

 

神速の刺突を三連撃繰り出し、瞬時に排除する。直後、その背後に隠れていたユーリーが肉薄、此方との間合いに入りかける。

 

------かかったッ!

 

 その瞬間、ユーリーの間近に光の球体を数個生成、やがてそれらは雷を迸らせ、一気に爆発。ヤツがこちらに近づくタイミングを見計らって、光属性の攻撃魔法、『デプス・チャージ』を無詠唱で発動させたのだ。これなら……。

 

「……なッ…!?」

 

驚愕に思わず固まる。爆発により生じた煙の中から影の球体が飛び出してきたかと思うと、その中からユーリーが飛び出してきたのだ。

 

 影を利用し、球体状に変形させシールドを張ったのだ。

 

 既にこちらの間合いに完璧に入られており、攻撃の回避は不可能であると悟る。

 

「新たな世界の礎として---------」

 

その手に影の槍が生成されていくのを見て、脳が死の警報を鳴らす。

 

「くたばれェェェェェェェェェェェェッ!!」

 

 刹那、巨大な影の槍がアイレンの腹を貫いた。

 

「ガハァッ…!?」

 

穿たれた部分に視線を向けると、内臓と肋骨が丸ごとなくなり、大穴が空いていた。そして、身体が思い出したかのように大量出血を起こし、信じられない量の鉄臭い液体が零れ落ちる。同時に手から力が抜け、短槍を落とす。

 

「ぐッ……あぁ…!?」

 

 地上へと一旦降りると、激痛で意識がブラックアウトしかけ、糸の切れた人形の様に血溜まりに倒れる。自分の血が作った池に、顔を沈めて溺れかける。

 

 回復魔術をかけようとするが、一向に回復する気配がない。ダメだ……魔力の供給が待に合わない。今まで限定的にしかこの力を使えなかった為に、魔力回路も生身の肉体も、それに見合った(クオリティ)を備えていないのだ。今の自分は、ゾディアックとして完成されていない未成熟な状態。悪逆の権化たる『スコーピオン』相手では、潜在能力(ポテンシャル)からして圧倒的な差があった。

 

 やられる……負ける。ここが……自分の死に場所なのだろうか?『アドラーのガイスト殺し』と呼ばれ、真のゾディアックに勝てるなどと……全て、思い上がりだったのだろうか。

 

 この世界の不条理に抗える力を求め、やっと手にした絶大な力は、自分の理想とは程遠い場所で、ただひたすらに生命を奪い合う血生臭い環境での生活を強いられた。殺すか殺されるか、そんな究極の二択の中で善悪の是非もなく、戦いの意味すら見失って、自分はひたすらに殺してきた。それだけしか、なかったから…。

 

 やっと-------自分が生きる他の意味を、守りたい人の為に戦うと決める事が出来たのに、ここで終わるのか?全てが……無へと帰るのか?

 

 もはや、呼吸も絶えかける。周りの音が聴こえなくなり、静寂とともに死の淵へと落ちかける------。

 

 

 

 

 

 

 

 

「----------先生ェッ!!」

 

 

必死の叫び声が聞こえた瞬間、身体に何かが突き刺さる感覚を覚える。数秒後、爆発的な力が全身に宿る。

 

 いや------これは……。

 

「戻って……いく…?」

 

一番最初に封印を解き、ゾディアックの力を解放した直後の、強大な魔力が溢れ出す感覚---------あの時と全く同じコンディションになっていた。もらった傷も、時間が巻き戻るかの様に塞がっていき、砕かれた骨の破片と内臓の一部が身体へと戻っていく。パズルのピースをはめていくかのように繋げられ、再構築されたアイレンは、完全に復活した。

 

 見れば、優雨が少し離れた位置で『ダンカー・ボーゲン』を膝立ちの姿勢で構えていた。【精霊武装】としてかろうじて機能している幻影のような弓が、その手に握られている。

 

 自身の背中を見ると、細く白い矢が刺さっていた。不思議と痛みはなく、やがて小さくバラバラに砕け散った。

 

 まさか、これを優雨が…?

 

 今まで見た事もない事象にアイレンは驚愕と戸惑いを覚えるが、すぐさま思考を戦闘状態に切り替える。

 

 今は考えるのはよそう。彼女が一体何をしたのかは分からないが、これは紛れもなく千載一遇のチャンスだ。

 

 

 

 

 

 ありがとう、優雨。俺は---------お前たちの為に戦うと誓ったんだッ!!

 

 

 

 『シュテルン・プファール』を再度生成。腰を落とし、大地を踏み締め、蒼部式戦闘術、『一望無垠(いちぼうむぎん)の構え』をとる。果てしなく広がる世界の光景の中で、自分が倒すべき敵を捉えて逃さない。

 

「アイレン君……いや、それよりも今のは…」

 

動揺を隠せないユーリーに対し、アイレンは『アドラー・フリューゲル』を最大展開、残像を残して猛加速。

 

 ユーリーがガバメントクローンを抜き発砲してくるが、遅い。

 

 今のアイレンには、弾丸の速度など蠅のスピードに等しい。45口径の弾丸を全て躱し切り、肩口から体当たりを食らわす。

 

「くッ…!」

 

後方にふき飛ばされ、姿勢を崩した隙を逃さず。重心移動をかけて身体ごと短槍を突き込む。

 

 蒼部式戦闘術、弍の型五十番------。

 

「『雷霆湧汛(らいていゆうしん)』ッ!」

 

 上段の顔面を狙った刺突、先程と同じように影を用いて幾重にも盾を作るが、一枚目に接触した瞬間、数秒間拮抗する様子を見せると、硝子のように砕ける。そのまま二枚目、三枚目------と貫いていき、最後の四枚目を突破すると、重厚な仮面の表面を、短槍の穂先が捉えた瞬間、仮面を貫通し、顔面から頭蓋を串刺しにする。

 

「ア……アァ…!」

 

間髪入れずに、新たな短槍を左手で生成、突き刺した短槍を手放すと、新たな短槍を構え直し、身体を沈ませて下からユーリーの顎を打ち上げる。鞠のように身体が直上に跳ね上がった瞬間、アイレンはその頭上をとるように急上昇、残った魔力を全てを使い、下にいるユーリー目掛けて短槍を構える。

 

蒼部式戦闘術、肆の型零番------。

 

 

 

 

 

「『玖龕驃騎鳴霞(くがんひょうきめいか)』ッ!!」

 

 

 天から振り下ろされた雷の如き神槍が、ユーリーの胴体に命中。

 

 貫かれた勢いと衝撃により、身体を形成していた影ごと内側から消し飛ばされる。

 

 砕かれた仮面を残し、『スコーピオン』がこの世から消滅した------。

 

 

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