ロボアニメによくいるライバルキャラを甘やかして手駒にする極悪女 作:聖成 家康
綺麗な花には棘がある。
それはある種の固定概念を植え付ける巧妙な言葉である。
エリュシオン連邦第零研究所
ジャコウ•村雨
◇
《やめてくれ! 少尉!》
"ゼラキエル"は彼の言葉とは裏腹に、迷いなく荷電粒子の剣――ビームセイヴァーを抜いた。
それでいい。お前も戦いに呑まれろ!!
私は感情に身を預けるまま機体を駆る。
ブレードで斬りかかれば、シールドによりその矛先は歪められる。
構わず、腰部の拡散砲を至近距離で爆ぜさせた。
目まぐるしく舞い散る荷電粒子を、"ゼラキエル"の装甲はもろともしない。
やはりまだ未熟だ。
お前は所詮、その機体の性能に頼りきっているにすぎないのだ!!
ブレードによる高速攻撃を捌けるパイロットなど中々いない。現に、奴もシールドで防ぐのが手一杯で、攻撃の手が緩んでしまっている。
勝てる。
やはり《レギオン》のパイロットといえど民間人。特別な人間などではない。
この世に特別な人間は存在しない――ここで奴を殺し、証明してみせる。
「さっさと――墜ちろッ!!」
腰部拡散ビーム砲を放ち、奴に防御態勢を保持させる。
その間に全力でスラスターを吹かし、蒼炎とその残像で奴を翻弄。
奴が迎撃態勢に入った隙をつき、ブレードを振りかぶりながら突撃した。
鉄塊同士がぶつかり合い、私のコックピットを激しく振動させる。
《貴女はそれでいいのか!? 連邦は腐ってる!! 貴女も分かってるはずだ!!》
「お前のような子供に何がわかる!」
子供が一丁前に大人の世界に口を出しやがる。
大人は皆腐ってる。そんな物で組織されているなら、連邦だろうとEASだろうと腐るに決まってるじゃないか。
――戦いに集中していないのが腹が立つ。
私との戦いはどうでも良いと言うのか!?
《アマリリス少尉!!》
「気にしている場合かッ!!」
"ゼラキエル"のシールドを弾き飛ばし、ようやく斬撃を本体へと命中させられた。
しかし、《レギオン》の装甲は生半可な武装じゃ壊せない。きぃぃと、耳障りな音と火花を散らし、刃先は表面で拮抗している。
《ぐっ、うぅ……!》
「ここまでだ、羽根付き!」
何故攻撃してこない……!!
今更、私に情でも湧いたというのか? 愚か者だ。戦場で感情など、何の役にも立ちはしないというのに。
腕部のバーニアを吹かし、トドメを刺そうとしたときのことだ。死角からレーダーに反応があった。
反射的に機体を"ゼラキエル"から離す。
割って入ってきたのは、何の変哲もない"ステア•リベルグ"だった。
しかし、そこから聞こえてきた声は予想外のものであった。
◇
「……あの機体。通信をしてるのか」
戦闘を傍観していた私は、突然大人しくなった彼女の様子を不思議に思い、通信の傍受を試みた。
アマリィには悪いが盗み聞きさせてもらおう。
――《アマリィ――して――》
男の声。だが《レギオン》を強奪した少年の声かと言われると疑問が残る。
というより、やはり宇宙粒子の影響かノイズが目立つ。声の識別が辛うじてできるくらいか。
《アゲハ――君も――》
《――じゃないか? ――連邦は腐ってる――だってわかってるはずだろう》
《火種をまいたのはEASでしょ……! なんで貴方までそんなおかしな思想に染まるのよ!》
お、はっきり聞こえた。
アマリィの言葉使いが柔らかくなってる。
アゲハ……人の名前なのだろうか? だとしたらそれは果たしてEASの人間なのか、少年と同じく離反者なのか……。
《邪魔だっ!! どけっ!!》
スラスターを吹かし、"トルギオ"がブレードを振りかざした。
しかし、どういうわけか、躊躇なく剣を振っていたはずの手が一瞬だけ止まった。
「ん」
機体の不整備? いいや、私に限ってそんな事はありえない。その証拠として先程まであれだけ無茶な機動をして形を保っていたではないか。
目の前の機体を殺すことを躊躇した"トルギオ"。
"ゼラキエル"はその一瞬の隙を逃さず、ビームセイヴァーによる一閃で"トルギオ"の腕を切り飛ばした。
焦った"トルギオ"は背部にマウントされた破砕砲に手を出し、そしてろくに照準も定めずにぶっぱなす。
当然当たるわけもなく、反動で動けない"トルギオ"を差し置いて、二機には撤退されてしまった。
「あー、反動が大きいのか。やっぱりゲイズチェイサに載せるものじゃないな」
どうしてあそこで止まった?
そこに至るまでの操縦で関節系がいかれたからか、拡散砲を連射していたために電力供給が追いつかなくなったからか。
いや、どれも違う。
アゲハ――それが人の名前だと仮定しよう。
離反者は民間人の少年だけではないと聞く。
その離反者がアゲハという名で、彼女と交流があった。
そして今、アゲハは敵の機体に乗って目の前にやってきて彼女は躊躇した……?
「ふーん?」
なら疑問が残る。
彼女は民間人の少年とも交流はあった。なのに彼女はそれを殺すことに躊躇いを見せる様子はなかった。
軍人が命に優劣をつけているとでも?
ありえない。彼女に限ってそんなこと。
私が見込んだ最高の狂犬だ。
どれだけ可愛くても、軍人は軍人でなくては。
◇
……最悪の気分だ。
あと少しで墜とせた。いや、あそこじゃなきゃ墜とせなかった。
なのに、どうして。
私は最悪な気分のまま研究所に帰ってきた。
ここももう自分の家のような感覚だ。
第零研究所。事実上、ジャコウ•村雨が独自で利用するゲイズチェイサ関係技術を統括する研究部門。
ジャコウはゲイズチェイサ関連の技術において、卓越したものを持っている。でも、あの人はどこか危ない雰囲気がある。第零研究所も悪い噂は聞かないが、同時にいい噂も皆無である。
「おかえりなさい。惜しかったね」
彼女はソファでコーヒーを飲んでいた。
私が《レギオン》に執着しているのを見透かして、そんな言葉をかけてくる。今、それは私を苛立たせる他何の役にも立たない。
募る物が爆発して、柄にもなく壁を殴りつけてしまった。
この部屋は格納庫がそのまま見えるような構造になっており、傷ついた"トルギオ"が横目に薄っすらと映る。
「あーあー、溢れちゃうから」
慌てて言った彼女の言葉に、視線を下へと向ければ棚の上に、一人分くらいの量を蓄えたコーヒーメーカーが置かれていた。
「機体壊した事とか怒ってないから。飲んで落ちついて」
空のマグカップを差し出しながらジャコウは微笑む。
生憎コーヒーは趣味じゃない。
「お疲れね。あんな操縦してれば無理もないか」
「……機体は」
「あー。試験機だから。あのまま倉庫行き。君には新しいのを用意してあげないとね。大丈夫、予算はたっぷりあるから」
コーヒーを注ぎながら、私は苛立ちを募らせる。
この女は私を実験道具か何かとしか思っていないのではないか?
コーヒーを一口啜り、思わず顔を顰める。苦い。こんな苦い飲み物の何が美味しいのだろう。
「また戦闘、見させてもらったよ。君は射撃より格闘戦が得意なんだね。なら、あの"トルギオ"みたいな機体は合わなかったね。でもあそこまで戦えるのは流石の技量といったところかな」
この女はいつも私の戦闘をくまなく観察する。
――ということはあれも見られていたということだ。悟られていなければいいが。
「――ところで、ちょっと機体の調子悪かった? あれが決定打になったねぇ」
思っていた矢先、そんな事を言われ、募っていた怒りが爆発した。
ステンレスのマグカップが、不味い液体を撒き散らしながら耳障りな音を立てる。
怒りを発散しようにも、そのやり方がわからず、荒く息をしながら黙り込むしかできなかった。
本当、情けない。
――こんなの私じゃないのに。
あれ以来、私の心には屈辱と怒りしかない。
あの少年を憎み、妬み、執着して何も考えられなくなっている。
私はもっと、普通の人間だったはずなのに。
溢れたコーヒーを見ていると、突然視界が真っ黒に包まれた。
鼻に飛び込んでくるのは、やわらかい香水の匂い。
……自分がジャコウに抱きしめられているのだと気づくのに、そう時間はかからなかった。
「何をっ……!」
「いいの。もうそういうのやめなよ」
ジャコウの甘い吐息のような声に、私は思わず身体を強張らせ、彼女に身を預けてしまった。
「つらいね。君が悪いわけじゃないのに、何もかも責任取らされることになって」
さす、さすと、彼女の手が私の背中を這うのが分かった。
こんなことをしてもらうのはいつぶりだろう。母親にされたかどうかも、もはや思い出すことができない。
「ほら。しばらくこうしていていいから。落ち着くまで」
私を抱いたまま彼女はソファに腰を下ろし、私は赤子のように足を絡める形になってしまった。
なんとも屈辱的な格好だ。
でも、抵抗ができない。この甘い香りと仄かな柔らかさに、私は魅入られてしまっているようだ。
「ぎゅぅってされて、身体がちがちになってる。もっとリラックスしなきゃ」
後頭部をとんとんと撫でられ、私は身体から力が抜けていくのを感じた。
「つらいね」
辛い。同情されるのは好きではない。
でも、この気持ちを吐露せずにはいられない。
「……うん」
「あ、言えた。偉いぞ」
その褒美と言わんばかりに強く抱きしめられる。
力が強まるほどに、彼女の身体のやわらかさをより感じるようになり、甘い香りが服に染みつきそうになる。
しばらくそのままでいたら、突然、ホールドから解放されたかと思えば、彼女の膝の上に頭を乗せていた。
「今日は、もうこのまま寝よう。嫌なことは、寝て忘れちゃおうね」
「……撫でるな」
「えぇ? 聞こえなーい」
膝枕で頭を撫でるなど、百歩譲って恋人同士なら良いがただの上司と部下の関係なのにこんなこと……。
まぁ、抵抗できないのだが。
(くやしい……)
私の口に広がる屈辱は苦味ではなく、甘みを帯びたものに変わっていた。
次第に、疲弊した身体はそれに酔いしれて、視界は暗闇に覆われていくのだった。
すぅすぅと寝息を立てる姿は愛おしい。昼間の彼女を知っていたらなおさらだ。
アマリィを膝に置いたまま、タブレット端末を取り出して次の機体の仕入れの手続きを進める。
予算はたっぷりある、と豪語はしたが、流石にゼロから機体を開発できるだけの余力はない。何かしらベース機が必要である。
「うーん。特化機なら、もう"トルギオ"みたいな汎用量産機をベースにするのはやめたほうがいいな……基礎スペックは多少劣るかもだけど、ジェネレーターの交換とかで何とか賄うとして……」
液晶をスライドし、私は頭を抱えた。
まず目に入るは型式番号 EULM-208 "クラヴング"。
五年と少し前、連邦軍とクーデター派との戦争が過激化した頃に開発された格闘戦特化のエース用量産機。難点は装甲が薄すぎること。棺桶同然。
次に目に入るは型式番号EUL-112"ストラティス"。
こちらも同時期に開発された機体で、格闘戦特化とまではいかないが近接用武装豊富な機体だ。ピーキーな性能ゆえ量産には至らなかったがいいスペック。操縦性に難ありだが、アマリィなら難なく扱えそうだ。
「ん……」
膝上で眠るアマリィの身体がぴく、と震え、私の白衣の裾を握る。長身な彼女がソファに対応するために少し体を縮こませて寝るのは、猫か何かを見ているようだ。
「お疲れ。次も死なないでね」
こんな楽しいおもちゃ、壊させるものか。
そう思うと、俄然やる気が出てきた。
《Terms》
ゲイズチェイサ
EASが初出の人型兵器。宇宙粒子による電波妨害が顕著な地球侵略のために開発された。動力源はハイテクバッテリー。装甲材には主にフラストカーボンという超軽量物質が用いられる。
レギオン
ゲイズチェイサの中でも特別な意味を持つ機体。
初代のレギオンには高機能AIによる多角型の学習機能により、一つの戦闘データから一つの戦略のみならず、派生した戦略も構築可能だった。
現在ではそれは普遍的な物になり、レギオンは単なる象徴的な役割になりつつある。
エリュシオン連邦
皆大好き地球連邦的なもの。
宇宙コロニーやテラフォーミングに積極的だが、地球と宇宙は地続きだと考えている節がある。
EAS(イアス)
正式名称は《Evolved Axis Sphere》。
皆大好きジオ○的なもの。宇宙至上主義《アストラニズム》の思想のもと、宇宙開拓を進める国家群。
一度大規模な戦争を終えてもなお、崩壊せず残っている。
無理くり機動戦士と関連付けるならZAF○が一番近い。