ロボアニメによくいるライバルキャラを甘やかして手駒にする極悪女 作:聖成 家康
花を摘む時、私達は彩りを意識する。
もしも花に込められた言葉を意識して摘んだなら、きっとその束は血に染まるだろう。
エリュシオン連邦第零研究所
ジャコウ•村雨
◇
翌朝、トーストとミルクを用意していた私に気難しそうな顔をしたアマリィが歩み寄ってくる。
「おはよう。寝付きが悪かった?」
「……そんなことはない」
「じゃ、なんで気難しい顔してるのさ」
そう聞くと、アマリィは顔を歪めながら言う。
「私は昨晩あの後……」
「うん。私のお膝でぐっすり」
私の言葉を聞けば、彼女は悶絶するように顔を手で覆った。
「私っ……今年でいくつなのっ……!」
「いいじゃん気にしなくて。君も乗り気だったし」
顔を真っ赤にして、彼女は私の用意した朝食を頬張りはじめる。
こうして一緒に過ごしてみれば、彼女はまだまだ未熟だとひしひし感じられる。
だからこそ遊び甲斐がある。
お願いだから死なないでね。
そんな事を思っていると、自然と彼女に顔を寄せてしまっていた。
「何……」
困り顔のアマリィが視界を埋め尽くす。
キレイな顔。人形みたいで、触れたらすぐ壊れてしまいそうだ。
きっと壊れるときは、さぞ爽快なんだろうな。
「んー? 君が愛おしいのよ。ぎゅっ」
「やめろ」
思わず抱き寄せると、アマリィは本気で拒否してきた。昨日のあれが相当屈辱だったらしい。
朝食を済ませしばらく胃を休めてから、今日の予定を彼女に伝える。
「さて、今日は色々テストしたいことがあってね。仕入れていた機体が届いたから、それも使って模擬戦をしてもらいたい」
「……戦いは」
「ウチは秘密兵器なんだって。そう何度も出してくれないよ。第一、ロクな機体がないでしょ」
焦る彼女を諭す。彼女の〈レギオン〉への執着は大したものだ。――相当、イイ経験をしたようだし。
第零研究所はどういうわけか悪評高い。そのため、戦闘に参加させてもらえるのは、よほど戦力に不安があるときくらいだ。
まぁ、そんな状況を改善するためにも、この子には頑張ってもらわないといけないのだが。
「さ、今日はあれに乗ってもらうよ」
そう言って私は格納庫が映るガラス張りの壁を指差す。
そこには昨夜注文し、朝早く納品されたゲイズチェイサ――"ストラティス"が屹立していた。
〈レギオン〉を思わせるツインアイが埋め込まれた頭部は、どことなくカマキリを連想させる。深緑と黒で構成されたスリムなボディに似合わず、武装は大型ブレードやパイルバンカーなど攻撃的だ。
「旧式……」
「そだよ。ジェネレーターとか変えて色々改造するの。その前に一度試運転してもらいたいんだ」
アマリィは不満そうだ。
まぁ、言いたいことは分かる。こうも戦争だらけだと、皮肉にもこの世で一番発達するのは兵器関連産業だ。そのぶん流行り廃りも激しく、五年も経てばすっかり旧式である。
「何を試運転する必要があるの? 十分データはあるでしょ」
「うーん、なんて言うの。君のデータがほしいの。しかも他のデータからの流用じゃなくナマモノの」
「必要ならいいけれど」
これもまた難しい説明になる。
汎用性に長けた"トルギオ"と近接特化の"ストラティス"ではデータの分野が違う。
IT企業に務めた人間のノウハウを営業職に就く人間に活かそうというのが無理な話であるのと同じだ。
訓練に取り掛かろうとしていた私達を拒んだのは、研究所内に流れ込むアナウンスだった。
《第零研究所に通達する。〈レギオン〉発見。貴官らの協力を要請する》
アマリィの目に火が灯る。
この子なら実戦でも平気か。
メカニックとしてあるべき考えを、私は最近するようになってしまった。
◇
――昨日の失態がどうしても喉に引っかかる。
私はどうして討てなかった。
これでは、あの少年と何ら変わりないではないか。
パイロットスーツに着替え、コックピットの中で私は生温いため息を吐露する。
《今回は空中戦にはならないだろう。君の機体の得意分野だ。無茶はしないようにね。乗ったことないんだろう?》
「……アマリリス、出る」
〈レギオン〉。私の目にはそれしかない。
カタパルトにより射出される"ストラティス"の中で、私は血眼になって戦場を模索する。
今回の戦地は市街地。既にEAS軍と連邦軍が交戦しており、それに乱入する形になる。
羽根付き――"ゼラキエル"は、大気圏飛行能力を有する機体だ。だが、市街地においてはそうそう高く飛行する必要はない。ビルに隠れる機体を討つために、敵機も地上戦に適応する必要があるはずだ。
市街地に立ち、"ストラティス"で手始めに目の前に目の前に現れた"ステア•リベルグ"を大型ブレードで真っ二つにする。
ビルの影から覗く"ステア•リベルグ"を見据え、腕部に仕込んだショートビームガンで牽制。
引っ込んだところで一気に距離を詰め、パイルバンカーをぶっぱなす。
熱を孕んだ鉄の槍が炸裂と共に排出され、薔薇の棘かのような先端が装甲を穿つ。
"ステア•リベルグ"は、抵抗虚しく爆散した。
ビルの幅が狭くなってきた。大型ブレードを背に収め、腕部に仕込まれたビームブレードと、腰部にマウントされているビームセイヴァーを抜刀。動きやすく武装を変更する。
「どこにいる……〈レギオン〉!!」
私の声が聞こえたかのように、それは現れた。
"ゼラキエル"が上空から舞い降り、ビームセイヴァーで牽制してきた。
腕部の光刃がその矛先を妨げ、鍔迫り合いの後に相打ちとなり、"ゼラキエル"は地に足をつく。
「羽根付き……今日こそは!」
セイヴァーを構え、スラスターも用いた高速機動で翻弄しつつ、剣を振るう。
"ゼラキエル"はシールドで矛先を消し、バルカンという舐めた攻撃を仕掛けてくる。
「私を舐めているのかっ!!」
《アマリリス少尉、もうやめましょう!》
「今更っ!!」
《アゲハ軍曹が悲しみます……!》
私はその名を聞き、思わず息を呑んだ。
ぎっ、と歯を食いしばる。
卑怯者めが……!!
「あんな男、私にとってはもう敵でしかない!!」
《嘘だっ!!》
私の剣筋を見切るかのように、"ゼラキエル"は素早い剣捌きで迎えうった。
また、ヤツは頭部のバルカンを浴びせるように吐き出す。
こいつ、本当に私を説得する気なのか。
「スイレン、貴様は私がこの手で倒す!!」
自らを奮い立たせ、再び覚悟を蘇らせる。
敵に情けをかけた、お前の過ちだ!
私は"ストラティス"の大型ブレードを抜き取り、"ゼラキエル"をコックピットごと叩き潰そうとした。
しかし、また、熱源が割り込んでくるのを確認しすかさず後退する。
《やめろアマリィ!!》
オレンジに装飾された"ステア•リベルグ"。その色合いには、間違いなく見覚えがあった。
「アゲハ……」
アゲハ•バーン。私と同じ特務部隊所属だった男で、機体をオレンジ色に塗る変な趣味を持っていた。
でも、そんなのが気にならないくらい、優しくて素敵な人だった。
なのに――あの日、〈レギオン〉とともに連邦を離反し、こうして今、敵同士として巡り合っている。
「アゲハ、なんでっ……! なんで!」
《連邦の腐り具合は君にも分かるだろう!? 君のような人がいてはいけない場所だ!!》
なんで。なんで私を否定してしまうの?
記憶の中にいるアゲハは、私のことを何でも受け入れて、何にでも微笑んでくれたのに。
「黙れ黙れ黙れっっ!! アゲハは、アゲハはそんなこと言わないっ!!」
機器系統を無茶苦茶に叩きつけ、私は自分でもわかるくらいの金切り声を上げた。
ふざけるな。
私の、私のアゲハは。もっと優しい。
「私の……! 私の優しいアゲハ返せぇぇっ!」
《アマリィ……!?》
目の前の偽物を殺さんと、私は我を忘れて機体を駆る。
本当はわかってるはずなのに。
あの中身が、私には見透かすように見えているはずなのに、自分を騙して、こうするしかないのだ。
《アマリリス少尉! だめだ!》
近づいても抵抗しないオレンジの"ステア•リベルグ"に向け、パイルバンカーを躊躇なくぶっ放した。
コックピットを、熱された槍が穿つ。
電気系統、装甲、あらゆるものが飛び散る中、その最中に赤黒い肉塊のようなものが見えたような気がした。
《あ……》
爆散しながら倒れるオレンジの機体。私はそれを見て声高々に笑った。
「は……ははは!! ざまぁない!! アゲハを、アゲハを偽るからそうなるんだ!! ははは!!」
次第に、息ができなくなってきた。
私は偽物を倒した。優しくて素敵なアゲハは、離反さえしたけれど、今もどこかできっと生きている。
なのに、私はどうして、泣いているのだろう。
◇
格納庫に帰ってきた"ストラティス"を、私は高揚した目で見つめた。
旧式の"ストラティス"が、こんなにも輝かしく見えることは他にない。
彼女は格闘戦の天才だ。下手に射撃武装を持たせないほうが、1on1の戦いにおいては絶対に輝ける。
「お疲れ。惚れ惚れしたよ。君の今の動き。いいデータが取れた。これを元に機体を作っていくからね」
ハッチを開けると、アマリィは息を荒くして胸を抑えつけていた。
一体何だろう? 戦闘終了直後までバイタルに特に異常はなかったのだけれど。
「平気?」
「だいっ……じょうぶ」
「その息切れは大丈夫じゃないね。おいで」
彼女をコックピットから引っ張りだし、格納庫に置かれてある整備班用のベンチへ共に腰を掛けた。
背中をさすって、執拗に心配してやる。
この症状は心理的なストレスから来る過呼吸だろう。あれだけ激しい戦闘が終わり、そのツケが一気に来たのだ。
「しっかり息して」
「無……理っ……」
「死んじゃうよ」
その一言で、彼女は瞳に涙を浮かべた。
あーかわいい。ぴくって、一瞬止まってからまた苦しみだす姿は、お腹を空かせる子猫を見ている気分に近い。
「死んじゃう、死んじゃう。死にたくないでしょ。なら頑張って息吸わないと。手伝ってあげようか? 私がきみのお口の中に指入れて、喉がぴくぴくするの治してあげようか?」
私の指を咥内に入れると、生温い唾液が絡まり、歯が当たるのも相まって心地が良かった。
本当に可愛いなぁ。
苦痛に歪む中、とろけそうになっている彼女の顔を見て、私は心の底からそう思った。
優しくされたり、いじめられたり、頭の中がぐちゃぐちゃで整理が追いつかないのかな。あー、可愛い。もっとやりたいけど、ほんとに死んだら困るしな。
この子を死なない兵士にして、一生玩具として使い古したいなぁ。
科学が行くところまで行ってしまったら、それも実現できるのかな。
◇
「うぐっぅ……ぇへ」
苦しい苦しい苦しい苦しい。
細い指が喉にぶち込まれた針金のように思えてきて、思わずえずきそうになる。
だらしなく唾液が垂れているのは分かっているが、体が痙攣して抵抗できない。
心を追い込みすぎた。体が限界を迎えてしまったのだ。あれ以来ろくに眠れていないし、食事も簡素なものしか取っていなかった。
今、こうして悪徳な女に騙されて、死ぬほど辛い目にあっている。
信じるんじゃなかった。こんな女のこと。
こんなやつ、ただの愉快犯じゃないか。
後悔する私を差し置き、彼女は指をさらに奥まで入れた。
「おぐっ……え……!」
吐瀉物がせり上がりそうになるのを必死にこらえた。過呼吸はまだ収まらない。
「死ぬのはこれくらい苦しいんだよ。君が殺してきたパイロットも、そして君が殺そうとしている〈レギオン〉のパイロットもこれを味わうんだ。ね? いやでしょ。なら頑張らないとね」
――〈レギオン〉。その言葉を聞いて意識がはっきりする。
そうだ。私はあれを倒すために、こうしてここに生きているんじゃないか。それでいいんだ。昔の私がどうとか関係ない。
あぁ、やっとすっきりした。
喉につかえていた物がストンと落ちるのを感じた。
だから私は、もっと強くならなきゃいけないんじゃないか。技術だけじゃなく、心も。こんなことで死にかけてはいられない。
この人はそれを気づかせてくれたのかな。
この胸の高鳴りは、この人へのときめきなのだろうか。
喉から彼女の指がスポンと抜ける。
「つらかったね。でも、よく頑張った。偉いぞ」
何度も嘔吐く私を、彼女は優しく包容してくれた。
この人は悪い人だと思っていたが、案外、そんなことはないのかもしれない。全部、私を思っての行動をしてくれているような、そんな気がする。
頭を撫でてもらい、冷や汗も引いた。
甘い香りが私の心を麻痺から救い出してくれる。
「まぁ、あんまり無茶しちゃ駄目ってこと。分かった?」
うん、と私は声には出せなかったが深く頷く。
この人に癒やしてもらおう。
今はこの人だけが心の拠り所だ。
少し不服だが、私はそう思うことにした。