ロボアニメによくいるライバルキャラを甘やかして手駒にする極悪女 作:聖成 家康
蛹を二分割されたまま羽化し、羽ばたく蝶がいる。
己が恵まれない者だと気がつけるのは、おそらくは人間だけであろう。
エリュシオン連邦第零研究所
ジャコウ•村雨
◇
犬の調子 悪いとき 対処法
なんて検索ボックスに入れて、このもどかしさが解消されたらどれだけ楽か。
私はコーヒー片手にため息をつく。
あれだけ可愛がってあげたのに……まだ気分が晴れないのだろうか。
アマリィは訓練以外はソファかベッドにいることが多くなった。犬か、と突っ込みたくなるくらいには寝るか座るばかりである。犬と唯一違うのは、私に尻尾を振らないこと。
「アマリィ。もしもーし」
「……何?」
一応返事はしてくれるが、どこか素っ気ない。
例えるなら、常に機嫌が悪い……みたいな。
「なんか怒ってるの? 言ってご覧」
私は耐えかねて、少し食い気味に語気を強めて詰め寄る。
アマリィは思った通り、びく、と肩を強張らせて私の方を見た。もうこうなったら、吐かざるを得まい。我ながらいい策だ。
「……び」
「ん? 何?」
末尾だけ聞こえた言葉をーーなんとなく想像はつくが、最後まで吐かせる。
「ごほうび……訓練終わりのご褒美、くれなくなった……」
私は思わず目を丸くした。
そして、くす、と吹き出してしまう。あぁごめんね。笑うのは良くないよね。
「ご褒美かぁ、そういえば最近あげてなかったね」
彼女にしか分からないだろうが、きっと私はものすごくニヤニヤしていることだろう。だってしょうがないではないか。プログラマーがコードを打ってその通りに動く、プラモデラーが難解なプラモデルを組み終わる、それと同じことだ。
彼女はもじもじして、肝心の中身に触れない。
「何してほしい? 自分で言わないと、してあげないよ」
そう言うと、顔がぽっと赤くなって目を俯かせる。
数回はくはくとした口から、ある言葉が溢れた。
「……ぎゅうって……してください」
「はーい。よく言えました」
私はたまらなく嬉しくなりながら、彼女を胸の中に迎え入れてあげる。仄かな汗の香りとそれを上書きする甘い匂いが私の鼻腔に飛び込む。従順な犬の香り。まだまだ改善の余地がありそうだ。
ぎゅうっと、腕で彼女の柔らかな肢体を抱いてあげる。
髪が肌をくすぐり、その感覚すらも愛おしい……と言っておこう。
「えらーいえらい。アマリィはよく頑張ってるよ」
なで、なでと。彼女の艶やかな髪を撫でる。この子の顔を見れないのは残念だが、体の力の抜け具合で、どんな顔かは予想がつく。
ぎゅっ、と彼女の手が私の服にシワをつける。
本人はきっとバレてないつもりだろうが、どさくさに紛れて私の香りを嗅いでいるのがまるわかりだ。
可愛い、可愛い。気が狂うくらい可愛い。
壊さないようにしようという決意と、壊れる寸前が見たいという好奇心がせめぎ合い、私の腹をくすぐってくる。
もうどうしよう。この子のためなら、何でもしよう。
私はそんなことを思いながら、彼女をより強く抱きしめてあげるのだった。
◇
《EAS》のアークレギン級戦艦"マサリウス"の一室で僕はーースイレン•ハレルヤは酷く肩を落としていた。
アマリリス少尉は、最悪の罪を犯した。
昔好きだった人を、その手で殺すなんて。人がやっていい行為じゃない。
アゲハ中尉。僕が連邦側にいるほんの一瞬のことだったが、アマリリス少尉との仲の良さはよく分かった。
肩を寄せ合い、憎まれ口を叩けるくらいには親しい仲ーーそれなのに、口も効かず迷い無く殺すなんて。
僕が、アゲハ中尉を巻き込んでしまった。
僕がーーEASに行くなんて言わなければ。
〈レギオン〉はどう言うだろう。
いいや、何も言わない。あれは所詮兵器だ。皆誰も彼も、たかが人殺しの道具に、大層な理想を押し付けすぎだ。
だからーー人が死ぬ。兵器に理想なんていらないのだ。
僕は頰を叩き、気持ちを入れ替える。
いや……入れ替えちゃいけないのかもしれない。でも、僕が始めてしまったのは戦争だ。
割り切らないと、次にアゲハ中尉のようになるのは僕かもしれないのだから。
《全クルーに入電! 付近の前哨基地に連邦軍の襲撃あり! ただちに援護に向かう! 繰り返すーー》
アラートと共に、艦長の忙しい声が聞こえてきた。
また戦わないと。
倒すべきは連邦なんだ。連邦がいる限り、この腐った世界は直らない。
僕のこの思い込みこそ、争いを呼ぶ原因だとわかりながらもーー僕はやっぱり連邦を許すことができなかった。
船の格納庫に向かう僕を引き留めたのは、一人の女の子だった。
小柄で、なのにしっかり大人の女性らしい。綺麗な翡翠色の髪をポニーテールにして、茶色の襟詰め軍服に身を包んだ可愛い女の子。
名前は確かーーパリス•フラジールだったか。厳格な将校の娘さんだとか。
「戦いに行くんでしょ、スイレンくん」
「うん。僕は帰ってくるから、大丈夫」
「そう……不思議ね、私、連邦のこと嫌いなのに。連邦から来た君は、あんまり嫌いじゃない」
彼女は苦く笑う。あんまり嫌いじゃない、ということは好きではないということか。無理はない。今僕は《EAS》に道具も同然の扱いをされている。母なる地球を汚すーーそんな悪行をする連邦と戦争をしている彼らにとって、僕は悪意の対象でしかないはずだ。
「じゃあ、いってらっしゃい」
パリスは少し背伸びをした。
僕の頬に、つやつやして柔らかい、彼女の唇が押し当てられる。
「ふぇ……」
「ふふ。ちゃんと帰ってきたらまたしてあげるね」
にこ、と微笑む彼女に、僕は思わず顔が熱くなる。
柄にもないことをされ、恥ずかしくなって静かに格納庫へ駆けていく。
ーーまいったな。
思想の違いは確かにあるけれど、所属する組織が違うだけで、こんなにもスキンシップの文化が異なるのか。
◇
今回の基地奇襲作戦。〈レギオン〉も出てくると踏んでの作戦らしいから、どうにか頼み込んで第零研究所の見せ場も作ってもらった。
カルメラ級の艦内にあるモニタリング部屋で、私はコーヒー片手に出撃前の彼女の様子を観察する。
出撃になると、彼女の興味は私から〈レギオン〉に移る。
〈レギオン〉を恨み、復讐すら望むのだから当然と言えば当然か。
でも、それ以外は?
きっと彼女は、戦闘外では何にも興味を持たない。事実、アマリィは現在連邦内では例の件で除け者扱いだ。
そこに私という存在を与えることで……あの子を従順な犬にする。
目論見は順調ーーいいや、もう成功したといっていいかもしれない。
あとは私のやりたいようにやるだけ。あぁ、楽しいな。
啜ったノーマルコーヒーが、異様に甘く感じられた。
この前の戦闘を受けて"ストラティス"には改良を加えた。
まず、武装面。彼女は近接戦闘でも、ブレードを多用する傾向にある。だから、パイルバンカーというピーキーな武装は外し、代わりに面白い物をつけてあげた。
新たな機体"ストラティス•ワイヤワーム"。有線式の刺突兵装 ニードルヘッグ。硬質ワイヤーの先端にブレードがついたシンプルな武装。遠隔が主流だが、彼女なら近接でもきっと使いこなしてくれる。
あとはそれに伴う関節系の調整。彼女はよく跳ねたり蹴ったり忙しいから、そこのところは頑丈に、動きやすく。それ応じて装甲も見直した。
いいデータを取らせてね、アマリィ。
素敵なご褒美、あげるから。
◇
新たな機体"ストラティス•ワイヤワーム"で出撃する。
私の目にはもう〈レギオン〉しか映らない。
ーーあんな目に遭うのは、全部あいつのせいだ。
そう思わざるを得ない。そう思わなくてはいけない。
だから、私はあいつを殺して、それを事実と自分に思い込まさなくてはならない。
私はスイレン•ハレルヤを殺して、自分を取り戻す。
その決意をさらなる殺意に変え、作戦空域を駆け抜けていく。
EAS軍基地の対空砲火が空へと降り注ぐ流星の如く、私達に襲い来る。
流星群の波をくぐり抜け、私は体に降りかかるGすらも憎悪へ昇華させ、〈レギオン〉を血眼になって探す。
斬りかかってきたステア•リベルグに蹴りを叩き込み、怯んだところで、通り際にブレードで射抜く。
ワイヤーが絶叫を模すように唸りながら撓り、"ストラティス"の背部に戻ってくる。
その後も"ステア•リベルグ"を数多も撃墜しながら、難なく基地に接近。
もう基地が目前にまで迫ったときだった。
見覚えのあるビームが、私の目先を撃ち抜いた。
「見つけたぞ……スイレン!」
私は思わず叫ぶ。
現れるは私にとって憎悪の対象でしかない天使ーー"ゼラキエル"。
"ゼラキエル"はすぐにビームセイヴァーを引き抜き、臨戦態勢に入る。
その羽が、うざったいほど輝いて見えた。
terms
ビームセイヴァー
名前の通り、よくあるアレ。SE○Dの設定に近い。荷電粒子を宇宙由来の特殊な電磁波で刃状に形成しており、反発し合う。