ロボアニメによくいるライバルキャラを甘やかして手駒にする極悪女 作:聖成 家康
根を生やした花は、枯れるまで離れることはできない。
光を生力に変えることを繰り返すだけの日々が始まるのである。
エリュシオン連邦 第零研究所
ジャコウ•村雨
◇
「おーおー、はじまった」
私はコーヒー片手に、映画感覚で彼女の戦いを傍観していた。〈レギオン〉を前にすると、アマリィはどうしても感情的になる節が見られる。研究者としてどうにかすべき事態ではあるが、それが彼女の面白いところ。無理に消してしまったら面白みが皆無になるというのがむず痒い。
"ゼラキエル"を捉えた彼女は、猪突猛進を体現するような行動に走る。
ワイヤーブレードを即座に展開し、常に虎視眈々とその矛先を奴へ向けさせた。
それを囮に使うかのように、大型ブレードで猛撃を仕掛ける。
ビームセイヴァーとの拮抗でも劣らぬ、彼女の凄まじい剣戟に、私は思わず口笛を漏らす。
やはり、アマリィの戦いは見ていて面白い。
自分の兵器が、自分の思うように動くことなど滅多にないのだから。
「村雨博士……よろしいのですか?」
「んー、なにが」
別の研究所の職員が口を挟んでくる。鬱陶しくて、私はつい口が尖った。
「あの機体、例の新型装甲を用いているとのことですが。〈レギオン〉の材質とほぼ同一という、あの」
「あー。いいのいいの。成果を出せば上は認めるから」
連邦ーーもとい、私のお偉いさん達は《EAS》に勝つことができればなんだっていいのだ。
《EAS》と連邦の戦いが勃発してから、早数十年になるか。きっかけは《EAS》派の過激な抗議活動の中で、とある国の皇太子が流れ弾に巻き込まれ死亡したという、私にとっては些細なことだ。それが、ここまで大きくなるなどと誰が予想しただろう。
地球には問題が山積みだ。
電波は使い物にならず、有視界戦闘を強いられる原因となる大気中の宇宙粒子。長年の怠惰が祟ったエネルギー危機に伴う気候変動。
あぁ、愚かしい。
私は地球の人間を愚かだとは思うが、《EAS》に賛同しようとまでは思わない。
私は楽しければ何でもいい。
「アマリィ、私の期待に応えてね」
◇
「今日こそ沈めッ!! 〈レギオン〉!!」
喉が灼くかのように声を張り上げ、己を鼓舞する。
メインモニター越しに煌めく荷電粒子の火花が網膜をチクチクと突き刺す。
"ゼラキエル"のツインアイが、憎たらしく煌めいた。
《アマリリス少尉……!! 貴女は、貴女はもう許さない!!》
「それでいい!! 私を恨め……!! 私がお前にそうするように!!」
"ストラティス"が唸りを上げたように聞こえた。
この機体は私に答えてくれる。だから、今日こそは。
ブレードで牽制し、奴が蹌踉めいた隙を突いてワイヤーブレードで奇襲する。
肩装甲に亀裂を入れれば、電気系統の漏らす稲妻が私の高揚を表すように迸った。
次はその羽をもいでやる……!!
"ストラティス"は身体をぐい、と撚る。
そこから、ブレードを投げ槍のように投擲。機体の全体重がかけられたそのブレードが目前まで迫り、"ゼラキエル"の双眼は盾の影に消える。
ブレードは火花と轟音を発し、奴の盾を天空へと舞い上がらせる。
《少尉! 貴女は……! 貴女はそれでも連邦につくのか!?》
彼の主張は一貫してそうだ。
連邦は腐ってるーー見ればわかる。権力に固執し、未だに〈レギオン〉という形だけの英雄を作り出している。
そんな連邦が地球を汚している、など見ればわかる。
地球の大気は宇宙粒子に汚染され、ゲイズチェイサなどという兵器が生まれた。今もどこかで災害が頻発し、大勢の人間が飢えている。
「だからどうした!! 私をこうしたのは、お前だっ!!」
なら《EAS》はどうだ。
母なる地球を救い、宇宙を新たな拠り所とするなどというくだらない思想に、今まで何人死んできた。
私も、《EAS》に何人も知り合いを殺された。
何も知らない子供が、知ったようなことを。
「ここで死ねっ!! スイレンっ!!」
《貴女という人は……!!》
光刃と豪刃が互いの物理干渉を滅さんと拮抗する。
弾かれた剣筋は幾多もの軌跡を紡ぎながら衝突し、互いに譲らぬ剣戟が続いた。
所詮は〈レギオン〉の学習プログラムに頼った素人だ。
そう長くは続かない。
奴の死角から、ワイヤーブレードが迫る。
その矛先の憤怒を、頭部と胴体の付け根に直撃を喰らった"ゼラキエル"の機体が悲鳴をあげた。
吹き出る煙と迸る稲妻。滑稽だ。こんな姿。
「ふっ……ははは!! 沈め、〈レギオン〉!!」
私は高揚と共に剣を振るう。
その剣立ちは、"ゼラキエル"の肩に突き刺さり、そのままコックピットまで達することなど容易だった。
「命乞いをしろ、スイレン!!」
《……》
嫌な静寂が走る。
鉄が鉄を裂く、耳を劈くような音が響く中で、彼は嫌に冷静であるように思えた。
私は焦燥に駆られ、握るブレードへ全ての力を集中させた。早く仕留めないとーーその焦りが、仇となった。
地に足をついている。その事実を疑いたくなる出来事が起こった。
奴の両翼が展開され、今にも飛翔するかのごとく開かれた。
「飛ぶ気か……?」
そう呟き、私は即座に自身を否定する。
奴の翼は、光っていたーー否、何かを吸収している。光を吸い込んでいるかのように見えた。
やがて、その現象は拡大の兆しを見せる。
大気中に漂う、煌めく粒子が"ゼラキエル"の両翼へと集められてく。鋼鉄の表面をコーティングするよう点在し、それは淡い黄緑色に光り輝いた。
「宇宙粒子……? なんだ……これは」
そうは呟いたが、私にはこの現象が理解できなかった。
宇宙粒子……? これが? 大気中に紛れて、せいぜい電波妨害程度しか役に立たない物質が、こんな煌めきを放つなど聞いたこともない。
流星のような煌々とする現象。それはやがて、奴の翼で収束するかのように、一時の静けさを見せた。
"ゼラキエル"の様子が急変する。
蒼く発光する装甲。頭部のスリットが亀裂のように展開され、それはさながらーー生物が持つ口を思わせる形に変形した。
「ありえない……」
恐怖で手がすくむ。
あたりに響き渡る轟音は、"ゼラキエル"の咆哮を思わせる。
恐れに打ち勝とうとするも、"ストラティス"が動かない。
否ーー私には、動かせなかった。この状況で、奴に立ち向かうことなどできなかった。
それでも、私はこいつを殺すと決めた。
ブレードを引き抜き、ワイヤーを兼ねた猛攻を仕掛けようと動き出したときだった。
《貴女は……裁かれるべきだ!! 自らの行いを!!》
「裁くだと……!? 人が人を裁けるものか!!」
彼の声を聞き、正気を取り戻す。
どこまでも子供らしい、正義気取りの奴を殺さなくてはならないーー使命感にも似た強迫観念に迫られ、私は奮起する。
だが。
その禍々しき装甲を斬りつけようとした矛先に、火花が帯びる。
「……は……」
モニターが砂嵐に包まれたかと思えば、コックピットが激しく振動。コックピットが身を喰らわんとしているかのように、肩の骨を砕くかの如く壁が迫ってくる。鉄の破片が雨のように降り注ぎ、体中に切り傷をつけた。
ーー何が起きた?
消滅するコックピットの照明。もはや、私に道を示すものは何も無くなった。操縦系等は一瞬のうちにダウン。それは、機体が粉微塵に大破したことを指している。
あそこまで来て……負けた?
◇
"ゼラキエル"の発光現象。
それそのものが生み出したかのような巨大な粒子の塊が、翼に上乗せされるようーー否、新たな翼を生み出すかのように展開された刹那、彼女の乗る"ストラティス"含め四方八方、あらゆる物を両断した。
どれだけスローにしても、切断の瞬間は確認できない。
何で、どのように斬ったのか、またあれほどの出力のビームセイヴァーの媒体は果たして何なのか。
何もかも分からぬことだらけで、私は口も塞いで映像に没頭していた。
アマリィ……は、多分生きてる。
あれだけの執着があるのに死んだなら、拍子抜けだ。
それよりも、あの〈レギオン〉の真相を解き明かさないことには、科学者としての名が廃る。
でも映像で分かることは限られているーー生きたサンプルが欲しい。
なおさら、アマリィには生きていてくれなければ。
「村雨博士。ミーティア少尉が帰還しましたが」
「あー。行く行く」
顔を覗かせた部下に、目もくれずに手だけで返事をしてから、私は渋々ホロウィンドウのスイッチを切る。
カメラアイも潰されて、機体を真っ二つにされたパイロットが私より情報を得ているとは思えないが、聞いてみる価値はある。
それよりも、あの機体の残骸のほうが役に立ちそうなものだが。
私はすぐさま格納庫に向かい、上半身だけで帰ってきた"ストラティス"を見て、思わず笑いが漏れそうになる。
これで生きてる? 笑わせる。
赤黒く変色した切断面。ありとあらゆる電気系統が焼き払われ、焼け溶けている基盤さえ見られた。バッテリーに誘発して大爆発を起こさなかったのが不幸中の幸いか。とはいえ、コックピットのひしゃげ具合からして死んでいてもおかしくはなさそうだが……
ぎぃぃ、と音を立てながら、頬や腕に小さな切り傷を負った程度のアマリィがコックピットから出てくる。
少し肩を震わせながら、何かを言おうとした彼女に、駆け寄りながら抱きついた。
「おかえり。心配したよ」
むぎゅう、と私の胸に押し込めてやれば、彼女の緊迫した顔はすぐに解けて、兵士がして良い顔ではなくなる。
ほんと、扱いやすくて助かる。
「ごめんなさい……機体」
「いいのよ。どうせ試作機だから。壊れてナンボなの」
そう言って、彼女の頭をぽんぽんと叩く。
するとアマリィは猫のように身体を丸め、私へさらに身体を預けてきた。
まだ身体に力が入っている。愛犬のケアもしてやらなくてはならないのが、忙しさに拍車をかける。とはいえ、どちらにせよ楽しいからいいのだが。
◇
研究室へ帰り、アマリィの衣服を剥いだ。
黒い色気のない下着を身に着けていた彼女は、怪訝そうに私の方を見つめてくる。
「可愛い顔に傷がついてる。あとお肌にも」
「……ごめんなさい……?」
「なんで謝るの」
私はおかしくなって笑うフリをするが、それは望みどおりになって大笑いしたくなるのを堪えた結果だ。
彼女の柔肌に触れ、傷の具合を確認する。
金属片に切られた以外、目立った外傷は見られない。細胞活性装置を使うような傷でもない。
救急キットを取り出し、ソファに寝かせた彼女の傷を手始めに消毒する。
可愛い声を漏らした。痛いのかな。兵士なのに、猫が尾を踏まれたような声だ。
「動かないでよ。金属片が中に入ってるから」
「ぅ……」
ピンセットで傷口の細かな金属を取り除く。この子の傷口は、艶やかで惚れ惚れする。まだ腐敗していない綺麗な血液が滴る様は、果実か何かを見ている気分。
金属片を取り除いた青あとは、消毒をして包帯やガーゼで封をするだけ。
最後に普段着の白いシャツを一枚着せてやり、彼女を戦いから日常へと引きずり込む。
そう、この子の普段着はこの白いシャツ一枚と決めている。だが、あんまり抵抗がなかったのが残念だ。
「さ、今日は美味しいお菓子を仕入れてきたの。無事に帰ってきたご褒美として」
「……」
アマリィは唇を尖らせた。いまそんなことをしなくても、寝るときに可愛がってあげるよ。
私は冷蔵庫から皿に乗ったスイーツを取り出した。
近頃噂の高級ガトーショコラ。そのしっとりとした表面だけで、口の中に味は浮かんでくる。
下の人間が持ってきたのだが、あいにく私はこういうのは好かない。この子にあげちゃえ。
フォークで一欠片すくう。あー、甘そう。
ほろほろと崩れそうになるそれを掌に乗せて、彼女の鼻の前に差し出した。
「……?」
アマリィは眉をひそめ、私の顔を二度見してくる。
ーーあぁ。そうか。ごめんねアマリィ。何も言わずに出されてもわからないよね。
「どうぞ」
アマリィは戸惑いながらも、ゆっくり口を開け、舌で舐めとるようにして一欠片を口に含んだ。生暖かいものが掌を這う感覚は、少しくすぐったくて愛おしい。私はついつい、もう片方の手で彼女の頭を撫でた。
もきゅもきゅと咀嚼し、嚥下するまでを見届けてから、私はもう一欠片を掌に乗せてあげる。
そうすると、彼女はだんだん慣れてきたらしく、私の手首を持って動かないようにしてから、美味しい欠片を口に入れる。
そんな事を繰り返していると、当然私の手は汚れてくる。犬用のエサを飼い主が食べるのはいただけない。これもきちんとお掃除してもらわないと。
「ほら、これも舐めていいよ」
「っえ……」
掌についたチョコレートソースや小さな欠片を見せる。
彼女はどうしてか顔を赤くしながら、私の手首を優しく掴んで、掌に舌を這わせた。
数分足らずで、彼女は全部綺麗にできた。
「んー、えらいねぇ」
髪を巻き込んで、彼女の頬を挟み込むようにして撫でる。少し上顎をあげてアピールしてくるものだから、ついそれに乗っかってしまう。
顎の下を撫でると、アマリィの顔から自然と笑顔が漏れる。
可愛い。
この一言が、どうしてこの子にはこんなにも似合うのかな。
「……怖かった」
突然何を言うかと思えば、アマリィは唇を震わせながらそう吐露する。
「死ぬかと思った。けど……博士の機体が、私のことを守ってくれたよ」
「……ふふ。違うよ、アマリィ。あなたが生きて帰ってこれたのは、あなたの実力のおかげ。私はあなたに手助けをしただけよ」
なんて可愛いんだろう。
彼女を胸の中に抱いて、私は熱い物を噛み締めた。
誰にも渡さない、殺させない。
この子は一生ーーいいや、最悪死んでも、私のおもちゃのままでいてもらうから。
◇
"ゼラキエル"が、泣いていた。
あれは一体何だったんだろう。
僕を守ろうとしてくれたのか、それとも怒りを覚えていたのかーーいや、何を考えているんだろう。
あれは単なる機械に過ぎない。あの現象は、"ゼラキエル"に組み込まれた超常的なメカニズムなのだろう。
そうでなければ、困る。
僕が俯きながら部屋に向かっていると、目の前にひんやりとした物が差し出された。
安っぽいソフトクリーム。この戦艦の食堂で販売されているものだ。
「おかえり」
目の前に立つパリスがにこ、と微笑んだ。
両手にはソフトクリームが握られている。
僕に受け取れとでも言わんばかりに差し出されたため、困惑しながらもコーンを握る。ひんやりしていて、体の緊迫が抜けていくのを感じた。
「一緒に食べよう。私からのご褒美」
彼女の笑顔に、僕は自然と癒やされていた。
こんな可愛い女の子が近くにいてくれたら、僕はもう少し、まともな人生を送れていたと思えるほどに。
休憩所のベンチに腰掛け、雑談しながらソフトクリームを嗜んだ。
パリスは僕の話に、相槌したり、笑ったりしながら耳を傾けてくれた。内容は……ほんとにしょうもない。学校でのこと、趣味、好きな食べ物。いずれも、彼女は一切否定せず聞いてくれた。
そんな中で、話題に困った僕はとうとう"ゼラキエル"について触れた。
「……"ゼラキエル"が泣いてたんだ」
そう言うと、コーンまで平らげた彼女は眉をぴくりと動かした。
「あれはただのマシンのはずなのに、何か不思議なものを感じてしまう……怖いんだ。僕はいつか、あれに飲み込まれてしまうんじゃないかって」
僕はつい、奥底にある不安まで吐露してしまった。
それでも、パリスはそんな馬鹿な話にも付き合ってくれた。
「……私には、あのゲイズチェイサが何なのかなんて分からない。けれど、スイレンくんなら大丈夫」
そう言った彼女の唇が、僕の頬に触れる。
一瞬だったけど、その感覚はまるで火傷でもしたかのように、長いこと残り続けた。
「もしもそんなことがあったら、私が引っ張り出してあげる。ね? これで安心でしょ」
パリスは優しく笑った。女神のようだ。と、僕はあまりにもベタな感想が頭を過る。
この子は、優しいな。
僕はその優しさが心に染みて、目頭が熱くなる。
ーー怖がっていられない。こんな優しい子を守るためには、戦うしかないんだ。