妙な浮遊感と不規則な揺れを感じて、"ブロリー"は薄く瞼を開いた。
「・・・・・?」
流れていく景色。
視線を上げれば、先程まで殺し合っていた筈の腹の立つ顔がすぐ近くにあった。
腕を回されて、肩に担がれたまま飛んでいるらしい。
「・・・なに、を・・・している・・・・・」
「あ、おきた」
掠れた声で絞り出すように訊けば、奴も気付いたようでちらりと目線をこちらへと向けた。
「見たらわかるだろ、はこんでる」
「・・・やめろ・・・・・捨て置け・・・」
「いやだ。おまえの言うことなんて聞いてやらない」
きっぱりと言い切って再びぷい、と顔を逸らし正面を向いてしまう。
一見すると切り捨てるような発言だが、実際の行動は明らかに自分を助けようとしているものだった。
「・・・・・・・」
それ以上言い返す気力も無く、視線だけで抗議するももはやこちらを見もしないし全く意に介さない。
もはや振りほどく力すらも残されてはいなかったが、舌打ちは零れ出た。
抵抗出来ずにただ成すがままにされる。
てっきり、あの最後の一撃であの世へ送られたのだとばかり思っていたのに。
・・・いまさら敗北者がおめおめと生き延びて、何になるというのか。
そうこうしているうちに目的の場所へ辿り着いたのか、何を言うこともなく急に腕を離して放り落とされた。
どしゃっとその場にそのまま崩れ落ちた"ブロリー"を放置して、ブロリーが小走りで駆けていく。
「おとうさん!」
聞こえた声に"ブロリー"が再び視線を上げると、瓦礫に背を預けながらへたり込む父親の姿が見えた。
どうやら自分と同じく奴に命を拾われてそのまま助かったらしい。
「よう、来たな」
「悟空!おとうさんの怪我は・・・」
「まあ酷い状態ではあるけど、すぐにどうこうなっちまうほどでもねえよ。このままじゃ自分で動けねえだろうけどな」
「そうか・・・よかった」
カカロットの声がして一瞬精神が波立つも、相変わらず動く気力は無くそのまま視線を外して項垂れた。
奴と話す内容だけが滔々と耳に入ってくる。
やがて意識が途切れ途切れになり、このままもう目覚めないことを望みながら瞼を閉じた。
そんな"ブロリー"をよそに、悟空とブロリーはパラガスを前にして話し続ける。
「せめて仙豆がまだ残ってたら食わせてやっても良かったんだけど、もう全部使っちまってるからなあ・・・」
「・・・せんず?」
「おめえもさっきピッコロに貰っただろ?食ったら怪我が治るちっちぇえ豆だよ」
「・・・・・??・・・せん、ず・・・・・あっ!!」
どこかで聞き覚えのある単語のような気がして記憶を掘り起こしていたブロリーは急に声を上げた。
そしてゴソゴソと身体のあちこちを探り、えーとえーとと独り言をつぶやき始める。
リストバンドを外し、端の巻き込んでいた部分をほどくと中から小さな粒が転がり出た。
「どした・・・?あっ!おめえ仙豆持ってたんか!」
「ずっと前に悟空がくれたやつだ。おれもわすれてた」
かつて地球からバンパに戻ってすぐの頃、チライ達に悟空が持たせてくれたもの。
『―――あとこれ仙豆ってんだけど、二粒やる。"やべえ死ぬ"って思ったときに食うといい。病気は無理だけど、怪我とかならすっかり治って体力も満タンになるぞ』
そうだ。思い出してみれば説明もそのままじゃないか。
あれから結局使う機会は無かったが、日常的に狩りや荒事の多い自分のほうが持っておけとチライに渡されて仕込んでおいたまますっかり忘れ去っていた。
「おとうさん、これ、たべて」
出てきた仙豆を手にとり、ブロリーはまだ辛うじて意識があったパラガスへとそれを食べさせる。
すると問題なく効果はあったようで、見る間に回復したパラガスは困惑したように声を上げた。
「おぉ・・・こ、これは・・・・・?」
「ちゃんと治った・・・よかった・・・・・」
安堵したように眉尻を下げたブロリーへ、パラガスは事態を悟ったのか神妙な顔で問いかける。
「何故・・・俺を助けたのだ・・・・・」
「死んでほしくなかった。・・・おれのおとうさんじゃないってわかってても、"おとうさん"を見殺しになんてしたくない」
それだけ、と言って悲しげに笑うブロリーを見て目を見張るパラガスはややあって「すまなかった」と頭を垂れた。
すっかり毒気の抜けたらしいその姿に頷くと、ブロリーは悟空のほうへ振り返って尋ねる。
「悟空・・・この"せんず"って、半分にしても効くのか?」
「おお、完全には回復しねえけどある程度は治ったはずだ。戦うには心許ねえと思うけど瀕死からでも動ける程度にはなる」
「・・・・・そうか」
ほんの少しの間考え込む素振りを見せたブロリーは、先程とは反対側のリストバンドを外してもう一粒の仙豆を取り出すと爪を立ててそれを半分に割った。
片方を自分の口に放り込んで飲み込み、もう片方を手にとったまま踵を返す。
頽れたままいつの間にか意識を飛ばしていた"ブロリー"へ近づくと、仙豆の欠片をその前に突き付けた。
「食え」
当たり前だが反応はない。
するとブロリーは項垂れていた顔を引っ掴み、無理矢理口へ突っ込んで"ブロリー"の頭を力任せにぶんぶん振った。
「食え!!!」
「ぶ、ブロリー!それやめとけって!!ほんとに首もげそうになっから!!」
数刻前に自分もやられた悟空は慌てて止めるも、眉を吊り上げたブロリーは聞く耳を持たない。
やがて力なく垂れ下がっていた"ブロリー"の腕が抵抗の意を示したところでようやくブロリーは手を離した。
一応ちゃんと飲み込んだのだろう。悟空の言葉通り動けるようにはなったという意味であり、解放された"ブロリー"は再び崩れ落ちてげほごほと噎せ返る。
それを見下ろしながらブロリーはふん、と彼にしては珍しく威圧的な態度をとってみせた。
「・・・なんの、つもりだ」
「なんのもなにも、そのままだ。おまえあのまま放っておいたら死んでただろ」
「余計な真似を・・・」
仙豆により多少は気が戻った様子の"ブロリー"を見て、もしかすると再度攻撃してくるやもと悟空は警戒していたが意外にも今のところはその様子は見られない。
一歩引き、ブロリーが彼のことをどうするのか成行を見守ることにした。
「・・・・・もう、いい・・・」
何かが折れてしまったのか、あのまま死なせてくれれば良かったのにと言わんばかりに昏い目をしながら"ブロリー"はぽつりぽつりと言葉を零す。
「俺には・・・もう、何もない」
そう、何一つもう自分には残っていない。
手放したくなかったはずのものも、今や全て無くしてしまった。
だが、その言葉を聞いたブロリーは眉をひそめて言い放つ。
「そんなわけあるか」
なに言ってるんだおまえ、としゃがみ込んで目線を合わせたブロリーは真っすぐに訴えかけた。
「おまえもおまえのおとうさんも、ちゃんと生きてる。何も無くなってなんてない」
「・・・・・このまま・・・生き延びて、生き恥を晒すことに・・・何の、意味がある・・・」
「そんなことおれはしらない。意味がほしいなら自分で見つけろ」
「・・・勝手なことを・・・何様の、」
「おまえが言ったんだぞ!」
「!?」
ビシ、と目の前に指を突き付けブロリーは語気を強めて言葉を遮る。
「強ければ何してもいいって!えぇと、せーさつ・・・なんだ?わすれた!けど強い奴は弱い奴をどうしてもいいって、おまえが言った!」
「・・・・・・・」
そういえば、そんなやり取りもあったかもしれない。
"ブロリー"は半分自分のものではないような意識下の状態だったこともあって早々に忘れかけていたが。
「おれはおまえよりつよい。だから、おまえはおれの言うことを聞かなくちゃいけない」
「だから遜れとでも?馬鹿な・・・」
「おまえはひどいこともたくさんしてきたんだろ。それなのに一度負けただけでもういやだ、おしまいにしたいなんてそんなの勝手だ」
「・・・死んで贖うべきだとは、思わないのか」
「そんなのおまえが決めることじゃないし、今消えたがってるおまえが死んだところでそんなのはおまえが楽になるだけだ。誰も喜ばない」
「・・・・・・・」
「それに、」
苛立ったようにブロリーは手を伸ばし、ずっと目を合わせようとしない"ブロリー"の顔を左右からガッシリ掴んで自分のほうへ向けた。
至近距離で、じっと覗き込むように凝視する。
「・・・おまえ、いつまでそんなところに閉じこもってるつもりだ?」
「!?」
おもむろに言い放ったその言葉は、"ブロリー"を動揺させるには充分だった。
これまでに何度か感じた違和感は気のせいではない。
こいつには、"こちら側"が視えている。
「・・・やめろ・・・・・」
「うるさい。もうにげるな。おまえをそこに閉じ込めてた"わるいもの"はもう無いはずだ」
暗がりの中で、絶えず纏わりついていた"それ"はあの虹の奔流が押し流してくれた。
あとは、ひとつだけ。
「・・・ブロリーよ」
ふいに聞こえた声に目をやると、幾分憂いを帯びた様子のパラガスが二人の傍まで寄ってきていた。
「お前がずっと何に囚われていたのか、俺はずっと気づけなかった。抑えつけることで護れるものもあると信じてはいたが、それは必ずしもお前の為になるとは限らなかったのに」
「・・・それこそ、今更だ」
「ああ・・・今更になってしまったが、それでも謝らなければならん。・・・すまなかった、ブロリー」
パラガスは目を伏せ、"ブロリー"の手を握って頭を下げる。
―――その瞬間ふと、遠い記憶が脳裏を掠めた。
打ち棄てられたあの時から、この父親がずっと、幼い自分の手を握って離さなかったこと。
力に溺れて自分を見失うまで、ずっと我武者羅に守ろうと躍起になっていた父親の姿を確かに自分は見ていたのだ。
それを思い出したとき、罅割れて亀裂の入っていた"何か"が硬い音を立てて砕けた気がした。
「・・・もう、いい・・・・・」
零したのは先程と同じ台詞だったが、その中に含まれた意味は先程とは違って聞こえる。
「・・・これでもまだ、何も残ってないと思うか?」
ブロリーの再度の問いかけに、答えに窮する"ブロリー"の瞳が揺れた。
「命があって、自由があって、もうおまえを縛るものもない!だから!」
尚も迷いの残る様子を見て、ブロリーは再び目の前の顔を左右から鷲掴む。
そして一瞬身を引いた後、思いっきり頭突きで額をぶつけた。
「・・・ッッ!!?」
鈍い音と共に強いノイズが走る。
一瞬真っ白になった意識の中で、"ブロリー"は幻視した。
暗がりの中で蹲っていた自分のほうへ、水面を超えて"奴"が手を伸ばしてくる。
砕けた楔は、もう無い。
「お前も!!こっちに、来い!!!」
―――拒む間もなく、そのまま手を掴まれて引き摺り出された。
「・・・・・・・」
割れた額から血をだくだくと流しながら、呆然とする"ブロリー"の顔を見てブロリーはようやく手を放した。
「・・・本当に、一度ぜんぶ無くしたって思うなら・・・またゼロから始めればいいとおもう」
同じく血を流す額を拭って、落ち着いた口調で語り出す。
「やったことは無くならないし変わらない。でもこれからのことだったらいくらでも変えられる。・・・だから、おまえはこれからも生きていけ。嫌になっても苦しくても、生きていけ」
いつか、それが贖いになる日も来るかもしれないから。
ブロリーはそう言うと口角を上げて微笑んだ。
一方の"ブロリー"は自嘲するように笑ってぽつりと一言だけ零す。
「・・・・・傲慢だな」
「おまえにだけだ」
ふん、と鼻で笑ったのはどちらだったか。
・・・落ち着くべきところに落ち着いた様子の二人を見て、悟空も安堵したように息を吐く。
そしてあとは"アレ"をどうにかしないとなあ、と明るすぎる空を仰ぎ見た。
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今回のこれで、このお話でやりたかったことはひと通り済んだ気がします(´ω`)
次がたぶん最終回になる気がする。
以下ふたたびアンケートです。
次回作考えてるんですけどWブロ二人セットで異世界に放り込む話(他作品クロスオーバー)とか需要ありますか??
・この連載の続編扱いになるので文章のノリなどはほぼ変わらずでMAD要素も無し
・特殊設定もりもり
・Not無双チート、むしろ多分えらい目に遭う
・仕様上ブロ同士の会話多めになる予定
続編(Wブロin異世界)について
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