悪魔と獣。   作:こねこねこ

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あくまとけだもの.2

 

 

 

あれから何時間経っただろうか。

 

 

「・・・・・、こまった」

 

正直言ってブロリーは途方に暮れていた。

 

大きな宇宙船が飛び立つのを見送ったあと、再び探索に出てみたはいいものの成果はサッパリである。

 

・・・"ここ"に来る前に見た黒い物体も黒い穴も、さほど大きいものではなかった。

 

建物だらけの廃墟は死角も多く、空から眺めているだけでは見落とす可能性が高い。

とは言えじっくり丁寧に見て回るには、この星の広さを考えると骨が折れるどころの話ではなかった。

・・・せめて気配のようなものでも探れれば話が変わってくるのに。

 

生きている人間の気の探知すら未だままならないブロリーにはもう為す術がない。

うーんうーんと唸ってみても良い考えなど浮かばないし、無駄に時間だけを浪費しずっと飛び回っていたせいで腹も減ってきた。

 

ショボショボと落ち込みながら瓦礫まみれの道に降り立った、そのとき。

 

突如目の前に見覚えのあるシルエットが現れた。

 

「!!」

 

姿だけではない、この唐突に何もなかった空間に現れる登場の仕方。覚えがある。

先ほどまで誰の気配もなかった筈のそこに、鮮やかな山吹色の道着姿に特徴的な髪型の男が立っていた。

 

「カカロット!?カカロットだ!!」

 

やっと知った顔に会えた!

パッと表情が明るくなったブロリーが駆け寄るも、当の相手はキョトンとした顔をブロリーへ向けて思いもよらないひと言を放った。

 

「ん?・・・おめえ誰だ?どこかで会ったことあったっけ?」

「・・・・・え」

 

思わず足が止まる。

 

「カカロット・・・?」

「オラのことをそう呼ぶってことは、サイヤ人か。んー、でも捜してたヤツじゃあなさそうだよなあ・・・?」

「・・・おれのこと、おぼえて・・・ない・・・?」

 

半ば茫然としながら呟くように問い掛けるが、カカロットは首を捻るばかりだった。

 

「いや、おぼえてねえって言うより・・・初対面じゃねぇか?顔はともかくそんな馬鹿でけえ気、一度覚えたら忘れるとは思えねえし」

「ばか・・・?」

「あ、悪ぃ悪ぃ。オラ南の銀河で暴れたっちゅー超サイヤ人を捜してんだけどさ、こっちの方探ってたら感じたことのねえ巨大な気があったもんだから瞬間移動で来てみたんだ」

 

ああ、そういえばとブロリーは思い出す。

いつかカカロットにもゴジータにも言われたことがあった。

 

『デカい気がだだ漏れになってるから遠くからでも分りやすい』・・・と。

 

気というものの扱い方を習い始めて日が浅いブロリーは、自身の気の隠匿も遠距離での探知もまだ難しい。

精々が近くにいる相手の力の大きさをなんとなく感じられる程度のものだ。

しかし彼らほど練達していれば、宇宙規模で離れていても相手の位置や状態を読み取るのは容易なことなんだろう。

 

「一応訊くけどよ、おめえじゃねえんだよな?」

「ちがう。おれは暴れてない」

 

・・・"まだ"、という注釈付きではあるが。

一度自失してしまうと見境がなくなるため可能性が全くないとは言い切れないものの、ブロリー自身には理由もなく暴れる気もないし暴れ回りたいとも思わない。

ぶんぶんと首を振ったブロリーに悟空も納得したように頷いた。

 

「だよな~、見たところ悪い奴って感じもしねぇし。・・・まだ名前も聞いてなかったけど、何でオラのこと知ってたんだ?」

 

ちょっと話でも聞いてみるかと瓦礫の塊に腰を下ろし、お前も座れと促してニカっと笑う。

よく見知ったその顔に少し安心したのかブロリーも表情を和らげ、適当に近くへ座り込んだ。

 

しかしブロリーが名前と共にかいつまんでここまでの経緯を話しても、やはり悟空は心当たりが無いと首を傾げている。

 

「やっぱりオラには覚えがねえ話ばっかだなあ・・・フリーザが生きてるってのもおかしいし」

「しんだのか?」

「ああ、何年も前にな。今頃は地獄に居るはずだ」

「じごく」

「わりー奴が死んだら行くところ。生き返ったとしたら十中八九ドラゴンボール使ってるはずだし、そうなったら仲間の誰かしらが気づくと思うんだよなあ・・・?まあそれはいいや。んで、おめえらはバンパってところで暮らしてて、オラがちょくちょく訪ねて行ってたと」

「カカロットは、いろいろ良くしてくれてた。・・・やっぱり、おぼえてない、のか」

「悪ぃけどサッパリだな。おめえみてぇな強そうな奴と修行すんのはすっげぇ楽しそうだけど」

 

はは、と笑うカカロットの言葉に再度内心落胆するが、それとは別に少し引っかかるものを感じていたブロリーはじっと顔を見た。

 

「・・・もしかして・・・カカロットって呼ばれるの、イヤか?」

 

先ほどから名前が出る度に、ほんの少しだが表情が微妙に歪んでいる気がする。

そこを突っ込まれるとは思っていなかったのか、カカロットは若干気まずそうに頬を掻いた。

 

「お?あー、まあ・・・イヤっちゅうか・・・違和感はまだあんな。オラはずっと孫悟空って名前で地球で育ってきたから」

「・・・じゃあ、おれもそう呼ぶ」

「いや無理にとは言わねえけどよ」

「カカロットは・・・悟空は、名前をふたつ教えてくれた。おれにとってはどっちも同じだ。だったら、イヤじゃない呼び方のほうがいい」

「お、おう・・・初めてだなそんなこと言ってくれたやつ。ベジータなんか何回言っても全然聞きやしねぇのに」

 

照れ臭そうに笑う悟空は真っすぐにブロリーを見る。

至って真面目な顔で見つめたままのその相貌には邪気など微塵も感じられず、やがてふにゃりと表情を崩すとブロリーも僅かに口角を上げて笑んだ。

 

「・・・おめえ、やっぱり良い奴だな」

「だとしたら、それはきっと悟空やチライたちのおかげ」

「さっき話してた仲間か・・・ちゃんと帰れるといいな。オラもこっちの用件がぜんぶ片付いたらそのときは手伝ってやるよ」

「・・・うん」

 

じゅうぶん休憩したしそろそろ戻るかー、と悟空は瓦礫から勢いよく飛び降りて背筋を伸ばす。

 

「行くのか」

「ああ、まだ他の星にも微かに気を感じるからそっちも当たってみねぇと。そんじゃまたなー」

 

立ち上がったブロリーが見送る中、額に指を当てて軽く手を上げた悟空は来た時と同じく一瞬で姿を消した。

 

「・・・・・・・」

 

再びぽつんと独り取り残される。

見ればいつの間にかすっかり日は傾き、夕闇がじわりと迫ってきていた。

冷たくなってきた風に煽られて空を眺めながら、ブロリーは考える。

 

 

 

・・・先ほどのやり取りで、ひとつ確信したこと。

悟空もおとうさんも、自分のことを知らないと言った。たぶん、嘘じゃない。

そもそも忘れたんじゃなくて、"出会う前"だったのではないか。

おとうさんの髪がまだ黒いのも、時間が戻ってしまったからなのだとしたら説明がつく。

サイヤ人は老化が始まるのが遅いと言っていたし、実際におとうさんの見た目が変わり始めたのはそんなに前のことじゃなかった。

 

・・・だとしたら、自分がいた時代よりも年単位でズレたところにいるのだとしたら。

 

今ここから宇宙船を借りてバンパに行けたとしても、そこにはチライもレモも、たぶん居ない。

仮に会えたとしても、きっと悟空のように自分のことを知らないと言うだろう。

 

この世界中の誰も、自分のことを覚えていない。

それはブロリーにとって、何よりも恐ろしいことのように思えた。

 

そしてそれだけじゃない。

ブロリーは物心ついてからの数十年間、ごく最近に至るまではずっと父親一人としか接することは無かった。

閉鎖的な環境であるが故に、それは逆に父親のほうもそうだったはずだ。ずっとずっと自分と一緒に居た。

 

その"おとうさん"が、過去と思われる今現在バンパではなくこの星にいたということは。

そして、その隣にいた自分と同じ名前を持つ男の存在。あれは、つまり。

 

手のひらで顔を覆う。

前髪がぐしゃりとひしゃげた。

 

泣きたいような、叫びたいような、どうしようもない感情がぐるぐるとない交ぜになっているのをどうにか抑え込む。

 

「・・・・・ッ、」

 

少し前までの自分だったら、衝動的に周囲に八つ当たりをしていただろうか。

だが閉じた瞼の裏に今浮かぶのは、居なくなった自分をきっと案じているであろう二人の姿。

 

帰りたい。

今すぐにあそこに帰って、どこ行ってたんだよ心配しただろと怒られながらいつものように少し乱暴にぐしゃぐしゃと頭を撫でられて。

たいへんだったんだと泣き言を言っても、きっと許される。

 

ゆっくりと息を吐いて、再び空を見上げた。

瞬き始めた星々の、そのどれもが自分の知っているものとは違う。

 

 

・・・おれは、きっとこの世界にいちゃいけない。

 

 

ここには既にもう"ブロリー"が居る。

自分は、この世界にとっては完全に異物でしかないんだろう。

 

帰らなきゃ。

まだ、方法はわからないけど。

 

冷えた空気が、高まりかけた熱を沈めてくれた。

じきに辺りはもっと暗くなる。今探索を強行してもきっとうまくいかないだろうし、ひとまずは宮殿に戻ろう。

 

丁度腹からもぐぎゅると音がして、ブロリーは踵を返して飛び立った。

 

 

 

 

 

宮殿まで戻ってみると上のほうに灯りはついていなかったので、今度は下のほうへ降りてみる。

 

ちゃんと入口らしき場所から入って進んでいくと、しわがれた声の異星人に「御食事の準備が整っております」と広間の方へ連れられた。

大きなテーブルにたくさんの料理が並べられていて、卓について黙々とそれを食っている人物がひとり。

 

「・・・・・あっ」

 

"ブロリー"だった。

 

はす向かいの席の椅子を従僕らしき異星人が引き、どうぞと促されて少々気まずく思いながらも席に着く。

従僕はそのまま出て行って、部屋には二人だけになってしまった。

 

「・・・おれも、たべていいか?」

 

並べられた料理は明らかに一人分ではないと思ったが、少し迷って一応声をかけてみる。

彼は食事の手を止めないままブロリーのほうをチラリとだけ一瞥し、そのまま視線を戻してしまった。

無視。・・・いや、勝手にしろという意思表示なのだろうか。

 

諦めて眉尻を下げつつブロリーは目の前の肉に手を伸ばした。

 

悟空がいつも持ってきてくれる食べ物も自分にとっては目新しいものばかりだったが、その上でも見たことのない料理がたくさん並んでいる。

顔を寄せふんふんと匂いを嗅ぎ、噛り付いて美味いと思ったものを片っ端から口に詰め込んだ。

 

「・・・まるで獣だな」

 

しばらく経った頃だろうか、不意にそんな一言がぽつりと聞こえてきてブロリーは動きを止めてぱちぱちと瞠目する。

見れば向かいの席の彼は既に食べ終わっているのか、ブロリーに対して蔑んだ目を向けながら頬杖をついてグラスを傾けていた。

 

"ケダモノ"?

一応きょろきょろと見回してみるが左右にも背後にも誰もいない。

目の前に視線を戻すと放置されたナイフやフォークなどは乱雑と散らばったままで、殆ど手掴みで手当たり次第食い散らかしていた。

 

・・・言いたいことは一応わかる。

食い方が汚いと指摘されたのはチライ達を筆頭に一度や二度ではない。

 

頬がぱんぱんになるまで詰め込んでいた口の中の物を飲み込み、また少し気まずくなって何とか別のことに話を逸らそうとしたブロリーは思い出したように口を開いた。

 

「おとうさんは、まだ帰ってきてないのか?」

「・・・お前の父親ではないと何度言えば」

「わかってる。それは、もうわかってる・・・けど、他になんて呼べばいいのかわからない」

「そこまで拘って父親扱いすることもないだろうに。名前で呼べばいいだろう」

 

舐めるように飲んでいたグラスを一気に呷って、傍らにあったボトルの中身を注ぎながら呆れたように息を吐く。

なんだかとても甘い香りがした。

 

「・・・おまえは、おとうさんのこと、好きじゃないのか?」

 

手に持ったままだった饅頭をかじりながら問うてみたが、返事は聞こえない。

目をやると、動作が固まったまま苦虫でも噛み潰したような表情でこちらを凝視している。飲み物に何か入っていたんだろうか。

 

「へんなかお」

「お前が気色悪いことを言い出すからだ」

 

硬直が解けたらしい彼は溢れかけたグラスを再び呷る。

 

「おれは、おとうさんのこと好き。・・・だった。」

 

過去形になっている理由は昼間に経緯を話した際に伝わっていたはずだ。覚えられていればだが。

 

「お前の父親がどうかは知らんが、あれはただの禄でもない復讐鬼だ」

「おれのおとうさんも、似てた。ずっとずっと何十年も、復讐したいって」

 

まるで呪詛のように、来る日も来る日も同じことばかりを聞かされ続けてきた。

今思えば、極限に近い環境の中でのある意味心の拠り所だったんだと思う。

 

「いいひとだったのかって言われたら、そうじゃないかもしれない。でも、それでも」

「・・・血縁だからとでも言うつもりか」

「それもある、けど・・・」

 

食べる手はいつの間にか止まっていた。

真っすぐに見つめるが、黒曜のような瞳からは今ひとつ感情が読み取れない。

 

「いっしょにいてくれたから」

「・・・・・・・」

「追放されたおれを追いかけて、助けにきてくれて、ずっとずっといっしょにいてくれたんだ」

 

だから、それだけでよかったんだ。

 

そう言うと、彼はふいにブロリーから目線を逸らしてグラスを傾けながら「腑抜けが」と小さく溢した。

息をするように貶されたブロリーも、なにも全てが伝わるとまでは思っていない。少し困ったように眉尻を下げ、再び料理を口へと運ぶ。

 

会話はそこで終わってしまった。

また少し無言の間が続き、やがて従僕が追加の料理を持ってきてテーブルに並べると彼はそれに手を付け始める。

 

・・・食べ終わってたわけじゃなかったのか。

自分の話を聞くためだけに席を立たないでくれていたのではなかったことに納得して、ブロリーもそのまま食事を続ける。

 

そこでふと、自分の傍らにも彼が先ほどまで飲んでいた飲み物のボトルが置かれていることに気がついた。

隣に伏せてあったグラスをひっくり返して、中身を注いでみる。

先ほどと同じ甘い匂いが強く鼻をつき、琥珀色の液体が揺れるグラスを興味本位のまま一気に呷った。

 

・・・そして一瞬遅れて、その大部分を噴き出す羽目になる。

 

喉がまるで焼けるようだ。

げほごほと噎せ込んで、涙目になりながら必死に嘔吐く。

 

「な、なに、これ・・・!?」

「・・・知らずに飲んだのか、馬鹿が」

 

目の前の男はまるで水のようにぐびぐび飲み干していたというのに。信じられない。

酒というもの自体にこれまでほとんど触れてこなかったブロリーには全く知る由もなかったが、それは酒の中でもかなり酒精の強い種類のものだった。

 

心配など欠片もされずにただ呆れたような声で貶されるも、ブロリーの耳にはもうほとんど届かない。

大部分は吐き出したものの数口分くらいは飲み下してしまったせいだろう、顔がカッと熱くなって目の前がぐるぐるまわる。

 

 

 

そのまま数秒の間ふらふらと揺れていたが、やがてテーブルに突っ伏してブロリーは昏倒した。

 

 

 

 

 

**********





超ブロの悟空への名前の呼び方ですが、てっきり悟空なのかとおもってたらどうやらゲームのほうではカカロット呼びをしていて漫画とは表記揺れしてる状態らしいというのを後から知ったのでこういう形にしてみました。

あとこれは完全に偏見なんだけどZブロってラム酒とか好きそう。んで結構強そう。そしてこの始末。

次回から映画本編シナリオに合流する予定です(・∀・)
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