翌朝の早朝。
言い争うような声がしてブロリーは目を覚ました。
ゆるゆると身体を起こし、見れば空の端には薄く宵闇が残っている。
夜が明けてすぐなのだろう。まだかなり早い時間だ。
昨夜は随分と寝るのが遅くなったせいで、睡眠が全く足りていない。
・・・何か、変な夢を見た気がする。
思い出そうとしてみるも、その内容はまるで氷解するかの如く瞬く間に消えて分からなくなってしまった。
「・・・・・?」
窓の外から聞こえてくる騒音の元へ目をやると、遠くのほうで歩きながら口論・・・というか、一方が執拗に食い下がっているようだ。
よく見るとベジータとトランクスだった。
そういえば、昨夜あれだけの騒ぎがあったのに結局二人ともどこかへ消えたまま出てこなかったなと思い返す。
向こうは向こうで何かあったのかもしれない。
まだ少し判然としない頭で考え事をしていると、視線の先でトランクスがどこかへ飛んでいった。
ベジータはそのまま歩いて行き、今度はそれをパラガスが慌てた様子で追いかけ始める。
そこまで見て、急に意識が覚醒した。
・・・そうだ。
昨夜の一件ですでに渦中の超サイヤ人が誰なのかは解っている。
悟空がもう皆に伝えているのかどうかはわからないが、何か大きなことが起こるとしたら恐らくは今日だろう。
ブロリーは表情を曇らせ顔を伏せた。
正直なところ、少しだけ迷いがある。
戦いが起こったとして、自分がそれに首を突っ込むべきなのかどうか。
・・・いや、それこそ今更の話だ。
昨夜アイツのことを追いかけて立ち塞がった時点で、どうするかはほぼ決まったようなもの。
迷いを振り払うように首を振った。
ブロリーは生粋のサイヤ人にしてはかなり珍しく、その精神は善性に寄っている。
目の前に困っている者がいれば手を伸ばすし、助けられるものは助けたい。
それは誰に対してもそうだ。
アイツのことも。もし"よくないこと"をしているなら、止めてやりたいと思う。
自分にどこまでのことが出来るかはわからない。
それに迷い込んだ異物である以上、本来であれば悟空たちだけでアイツの相手をしたはずだ。
・・・それでも。この手の届く範囲で、やれることはやりたいと思った。
意を決してベッドから降り立ち、毛布代わりにしていたバアの耳を巻き直す。
部屋を出て、迷いなくそのまま外へ向かった。
先ほど見えた宇宙船の発着場への道。
ブロリーが飛んで近づくと、ベジータを中心として既に何人かが集まっているのがわかった。
ベジータの行く先には悟空が立ち、一方パラガスの背後には同じ名前の"ブロリー"も居る。
ふと横手に目をやると、シャモ星人たちを抱えた悟飯やクリリンが廃墟の方角から飛んできた。
道から少し離れた足場に降り立つと、シャモが口々に騒ぎ出す。
「あいつだ・・・!!おれたちの星で暴れたのは!」
彼らが指さした先は、やはりアイツだった。
悟飯たちと共に戻ってきたトランクスがベジータの前に立ち、シャモと同じくベジータの後ろを指す。
「これで信じて頂けましたか、父さん。後ろにいる彼が件の超サイヤ人であり、新惑星ベジータを再興するなんていう話は全て嘘です」
「・・・騙したな」
ベジータがパラガスのほうを向いて詰ると、開き直ったようにパラガスは笑い出した。
「ふん、やっと能天気なお前でも飲み込めたようだな」
彗星の衝突するこの星を利用しただけだということ。
真の狙いはベジータ達を一掃した後に地球へ移住すること。
何かに酔ったかのように一人でひたすらに喋り出すパラガスをブロリーは表情を曇らせて見ていた。
「お前らをこの新惑星ベジータと共に葬り去れば、俺たちの敵はもはや一人もおらん!北の銀河はもちろん、東も、西の銀河も、わけなく支配できる。俺とブロリーの帝国は、永遠に不滅になるというわけだぁ!」
・・・それはどうだろうか?
ブロリーの脳裏に神々しいほどの蒼いオーラがちらついた。
地球に居るであろう"彼"が黙ってそれを許すとは思えないのだが。
高笑いを上げるパラガスの眼前にブロリーは降り立った。
・・・もう、これだけ聞けば十分だ。
悲しげに眉根を寄せるブロリーに対してパラガスは不敵な笑みを湛えたまま片手を差し出す。
「お前も、事と次第によってはこちらに加えてもよいのだぞ?」
ブロリーは黙ったまま首を振った。
もうやめてくれと言おうとしたが、口には出せないままふと顔色を変える。
パラガスの背後に立っていた"ブロリー"が、急速に殺気立って唸りを上げていた。
「カカロット・・・!」
「!!ブロリー!?」
思わず道を開けたパラガスを意にも介さず、気を膨らませながら歩き出す。
その視線は昨夜のように悟空のほうへと向けられていた。
髪が逆立って青く輝き、足音が次第に重くなる。
「くっ・・・伝説の・・・超サイヤ人・・・!!」
ベジータがいきり立って超サイヤ人に姿を変え、背後から首筋目掛けて蹴りを入れた。
歩みは止まらない。
衝撃すら受けた気配も何もなく、ただひとつの名前を呼びながら。
「カカロットォ・・・!!」
「ベジータの攻撃にビクともしやしねぇ・・・!カカロットじゃねえ!オラ孫悟空だ!」
悟空は冷や汗を流しながら後ろへ飛び退る。
強者への期待感よりも、得体の知れなさのほうが勝っているようだ。
「はははははは!いいぞぉ!もはや彗星など待つ必要はない!今のお前のパワーで、サイヤ人をこの世から消し去ってしまえぇ!」
パラガスは再び高笑いを上げながら右手を翳すも、違和感に気づいて顔色を変えた。
ベジータが飛びあがって、高密度の気弾を投げつける。
「やべ!!」
「!あぶない!」
悟空は飛びのき、ブロリーはシャモ達のほうへ立ち塞がる。
爆発の余波は辺り一帯を吹き飛ばした。
舞い上がった粉塵が晴れた跡には、無傷で立つ"ブロリー"の姿。
その目は血走り、堪え切れずに天へ向かって吼える。
満ち溢れる膨大な気に大地が震え、地面がひび割れ始めた。
「おぉ・・・、だめだ!やめろブロリー!それ以上気を高めるな!」
爆風でひっくり返っていたパラガスが慌てて右手を翳し叫ぶ。
制御装置は最大限の輝きを放つも、一向に収まる気配はない。
「やめろブロリー!!落ち着けぇ!」
稲妻が天より降り、その場にいる全員が動けないまま成行を見守る。
"ブロリー"の髪は黄緑色に染まっていた。
一瞬気が静まりかけるも、ほんのわずかな間を置いて一気に溢れ出す。
・・・ブロリーにはその表情がどこか悲しげに歪んだように見えた。
溢れ出す気の奔流と共に、額に掛けられた金冠がついに粉砕し弾け飛ぶ。
膨大な気が内側から爆発するように拡がり、世界の色を一瞬塗り替えた。
やがてそれが収束したとき、その場に残っていたのはまるで別人のように巨大化した肉体。
気の奔流は収まることなく、緑掛かった黄金に輝いている。
―――伝説の超サイヤ人。
この世界で最初で最後となる、まさしく伝説そのものが顕現した瞬間であった。
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ブロリー二人が並んで三人称寄りの視点にするとややこしくてしゃーない。