誰もが圧倒されていた。
元々超サイヤ人化というのは多くの変化をその者にもたらすものだが、見た目も内から湧き出でる力もまるで比べ物にならない。
そのあまりの変貌に、本当に同一人物かを疑いたくなった。
「伝説の・・・超サイヤ人・・・!!」
ベジータが力なく崩折れる。
伝説の超サイヤ人。名実一体となったそれは悟空を指差し淡々と告げた。
「カカロット・・・まずお前から血祭りに上げてやる」
「お父さん!」
悟飯が立ち塞がるも、突進してきた巨体を前に悟空がそれを突飛ばし辛うじて躱す。
掴み損ねた"ブロリー"はその場で振り向くと高めた気を爆発させた。
始まった戦いにブロリーも向かおうと全身に力を籠める。
しかし飛び出そうとした矢先、視界の隅のほうで身を寄せ合い震えるシャモの子供たちが目に入った。
「・・・・・ッ、」
このままここにいたら、あぶない。
悟飯が悟空のもとへ向かってしまったため、彼が連れてきた分のシャモ達をまとめて抱き抱えてクリリンと共にその場を離れる。
ちらりと振り返れば、相変わらずアイツは悟空しか眼中にないようで幸いにもこちらを追ってくる気配はない。
ある程度距離をおいた場所に退避させれば大丈夫だろう。
彼らの仕事場になっていた竪穴の近くの開けた場所にひとまず降ろし、戦況を見る。
悟空たちは逃げの一手のようだった。
追い縋る巨体から逃げ回り、巻き添えをくったあちこちが爆散して煙を上げている。
―――そのときだった。
緑の気を凝縮し構えていた気弾を投げ放つ寸前、アイツがその向きを急にブロリー達の方向へ変えたのは。
「・・・は!?」
驚くも、咄嗟に飛び出して飛来した気弾の軌道をどうにか弾いて変える。
明後日の方向に飛んでいったそれは空中で大爆発を起こした。
大気が揺れ、それを見たブロリーは思わず目を剥く。
・・・今、あの攻撃は確かに穴のほうへ向かって落ちてきていた。
中にはまだたくさんのシャモ達がいる。
もしあれが、穴の中で炸裂していたら。
「・・・・・おまえ・・・いま、何しようとした」
シャモ達は弱く、戦う力など到底ない。
ただ怯えるだけの生き物を、意味も必要もなく虐殺しようとしたのか。
握った拳がギリリと鳴る。
急速に沸き起こった怒りに震えるブロリーとは対称的に、"伝説の戦士"は高らかに笑いながら言い放った。
「はははははは!!お前たちが戦う意志を見せなければ、俺はこの星を破壊しつくすだけだ!」
「・・・・・そうか・・・おまえは、"そう"なんだな」
何が伝説だ。ふざけるな。
・・・戦わなければ殺すというのなら、やってやる。
もはや躊躇いなど無い。
次に目を開けたとき、ブロリーの瞳は輝く月の色へと変わっていた。
空に向かって吼え、濃い緑色の気が全身から噴き出す。
ギラリと睨み付け構えると、不敵な笑みを浮かべたまま悠々と浮かぶ奴のもとへ一瞬にして肉薄した。
「ほう、面白い・・・!」
向けられた拳を軽々と受け止めた"ブロリー"は愉しげに笑う。
片腕をとられたブロリーはそのまま膝を蹴り上げた。
しかしもう片方の腕で防がれ、逆に胴を踏み抜くようにして蹴り飛ばされる。
吹っ飛ぶ最中に体勢を整え、再度距離を詰めて殴り掛かった。
迎え撃つ拳が当たる寸前で背後をとり、しかし一撃加える前に即座に飛んできた肘鉄を屈んで避ける。
直後起こった気の爆発をまともに浴びて弾き飛ばされるも、次の瞬間には三度喰らい付いていった。
「俺の名を騙るだけはあるということか。力も本物かどうか、確かめてやろう」
「ッなんで、」
次々に浴びせる攻撃を難無くいなしながら、"ブロリー"は嗤っている。
「どうして、あんなことをする!」
「何の話だ」
「殺そうとした!」
「・・・なんだ、奴隷共のことを言っているのか?あんな戦闘力もないクズのことを何故そこまで気にかける」
それを聞いてブロリーは歯噛みした。
何故、平気でそんなことが言えるんだ。
「強ければ、何をしてもいいのか!?」
「当然だ。強者が弱者の生殺与奪を支配するのは当たり前のこと」
・・・ダメだ。
根本的に考え方が違う。
ブロリーは悲しげに眉根を寄せた。
「お前のほうこそ、サイヤ人とは思えん感性をしている」
「!そんな、ことは・・・」
異質なのはお前だと返され、ほんの一瞬だけ怯む。
人と違う環境で、社会というものから隔絶されて生きてきたブロリーにとってそれがどうしても払拭仕切れない一面であることは間違いない。
僅かな逡巡の隙を突かれ、巨大な拳が眼前にまで迫る。
・・・しまった。
「!!」
「うおりゃああぁぁぁ!!!」
しかしそのとき、聞き慣れた声と共に反対側の死角から突撃してきた金色の塊が"ブロリー"の巨体を揺らした。
お陰でブレた攻撃を紙一重で躱し、ブロリーは距離を置く。
「!!悟空!」
「悪ィな、任せっきりになっちまってよ」
堂々と不意打ちをかました悟空はブロリーへいつものようにニッと笑った。
「カカロット・・・!!余計な邪魔を、」
台詞を遮るようにして、悟飯とトランクスの気功波が巨体を呑む。
苛立たしげにそれを払った"ブロリー"は、しかし大したダメージもなく本来の目的であった悟空が乱入してきたことにより再度標的をそちらへと変えた。
迫りくる攻撃を避けて各人が散り散りになる。
その寸前、悟空はブロリーへ一言だけ残していった。
「おめぇだけじゃねえ、心配すんな」
「・・・・・!」
先程のやり取りを聞かれていたのかはわからないが、それを聞いてずっと強張っていた表情が僅かに緩む。
ブロリーはこれまでに多くのサイヤ人と接してきたわけではない。だけど、悟空だってゴジータだって優しかった。
戦うときは本気だったが、弱いものを虐げたりなんてしない。
そしてここで出会ったトランクスや悟飯だってそれは同じ。
・・・そうだ。やっぱり間違っているなんて思わない。
"自分の正しいと思えることを"。
コイツは、ここで自分が止めるべきだ。
再度撃ち込む手に力を籠め、ブロリーの眼に意志が宿る。
「おまえは、」
受け止められた拳をさらに力任せに押し込んだ。
「ここで!!たおす!!!」
激しさを増す攻防の中、一方の"ブロリー"はあくまで冷静に状況を見ていた。
相対する相手の中、群がる羽虫のような他の連中とは違い"奴"はやはり異質で一歩抜きん出ている。
打ち込んでくる攻撃の重さ、回避力、耐久、被弾時の復帰速度、そのどれもが時間を経るにつれて加速度的に上昇しているのだ。
一言で言えば成長速度が異常なのである。
癪ではあるが平常時ならば間違いなく奴の方が上だっただろう。しかし、殻を破った今となっては自分のほうが遥かに格上であることは自明の理。
その領域まで、急速に駆け上がってこようとしている。・・・恐らくは、それが"奴"の特性。
それに加えてどうだ、他の連中は既に超サイヤ人へと変化してなお今の有様だというのに。
奴だけはひとり、未だその姿に変貌が見られない。
未変異の状態でこれということは、まだまだ上があるということだ。
・・・興味が湧いた。
伝説とまで称された自分と本当に対等に戦える者が存在するのか否か。
もしそうであれば、可能な限りその力を引き出した上でカカロット共々完膚なきまでに叩き潰す。
それが最強の存在としての証明。深く刻まれたこの傷への慰めにもなろうというもの。
―――なあ、そう思うだろう?
自らの内へ語りかけ、高らかに笑う。
愉しくて仕方が無かった。
攻防の激しさに岩場が崩れ落ち、逃げるカカロットを追って狭い裂け目を吹き飛ばしながら突き進むと開けた場所に出る。
そこで止まった連中の前に降り立つと、"奴"もすぐ後ろに追い縋ってきた。
小休止といったところか。見れば雑魚共は既に肩で息をしていて疲弊の色が濃い。
背後にいる奴だけがまだまだ元気そうだ。飽きもせず唸りを上げてこちらを睨めつけている。
するとそこに、崩れた岩と共に崖上から大量の人影が落ちてきた。
カカロットの一味徒党だか何だか知らないがわけのわからないことをほざいている爺はともかくとして、それと一緒に落ちてきた連中へと"ブロリー"は目を留める。
「・・・惑星シャモから連れて来られた奴隷共か」
そう呟いたのを聞いて"奴"が素早く反応した。
やはりそうだ。先ほど奴が怒りを露わにしたのも奴隷へ攻撃を仕掛けた時。
ロクに関わりもない連中の何を好き好んでそこまで庇うのかは知らないが、カカロット含めああいう手合いの者は自分の痛みよりも目の前で他者が傷つけられた時のほうがよほど堪えるものだ。
「いつかは自分たちの惑星に帰りたいと星を眺めていたな・・・」
淡々と言葉にしながら、掌へ気を集める。
「・・・いつかは帰れるといいなあ」
そして振り返りざまにそれを投げつけた。
"奴"が素早く奴隷共の前へ出て守ろうとするが、ぶつかる寸前で気弾の軌道を強引に変える。
遥か空の彼方へ飛んで行ったそれに一瞬唖然としていたが、直後起こった爆発に何が起きたのかを全員が悟っただろう。
シャモ星人が嘆きながら崩れ落ちる。
そう、帰りたいと願っていたその故郷を目の前で消してやった。
「ふふふふ・・・ははははは・・・!!!」
愉悦に思わず笑いがこみ上げて止まらない。
・・・ふと何処かで何かが軋んだ音を聞いた気がしたが、それを気にする間もなく目の前では劇的な変化が起きていた。
見れば呆然と空を見ていた"奴"が、殺意といって遜色ないほどの敵意を剥き出しにして咆哮を上げる。
その髪は逆立ち、筋肉がひと回り膨張し体格が数段増した。
やっと本気を出したらしいが、意外にも思う。
追い込めば奴も超化するものと思っていた。金髪碧眼ではないこの姿は奴特有の形態変異か。
どちらにせよ先ほどまでとは比べるべくもない。
黄金の瞳に敵意を漲らせて飛び掛かる獣を前に、高らかに笑い声を上げながら"ブロリー"は嬉々として迎え撃つのであった。
―――ブロリーはもはや言葉を失っていた。
大猿の力を人の身に宿すこの形態は激しい怒りをその切っ掛けとして発現し、戦闘力を10倍にも引き上げるものの理性への侵食が激しい。
自分の意思でのコントロールが殆ど利かないために、自我をギリギリ失わないよう細い糸のようなそれを握りしめ続けるだけで精一杯だ。
ただ目の前の敵を打ち倒すことだけに集中する。
ブロリーが何よりも恐れるのは、理性の箍を外して見境を無くし味方のほうにまでその牙を向けてしまうことだ。
ここには、巻き添えにしてはいけない者たちが多すぎた。
自らの精神、その目の前に引かれたラインを踏み越えないように全力で抑えて踏み留まる。
周りへの影響を気にすることが出来るようになったのは成長でもあるが、その一方で全身全霊の本気を出すという選択が採れないのは強大な敵を前にする今の状況では致命的でもあった。
結果、その選択が巡り巡って戦局を大きく変えることになる。
「・・・つまらん」
幾度の衝突、激闘を経てどれくらいの時が経った頃だったろうか。
そう呟いた"ブロリー"の大きな掌が、遂にブロリーの首を掴んだ。
「期待させておいて、その程度か」
「がッ・・・、グゥゥ・・・・・!!」
唸りながら掴む手に爪を立てるも一向に振り解けない。
一時僅差まで肉薄したかに思えたその戦力差は再び拡がってしまっていた。
格上を相手にした際のブロリーの力の上昇倍率は確かに目覚ましい。
しかし、一方で"ブロリー"の持つ特性もまたその真価を発揮していた。
伝説とまで謳われたその理由のひとつ。
"継戦状態が続く限り際限なく力が上昇し続ける"というそれは、ブロリーのそれより上位互換とも呼べるもの。
結果として、実力の差は縮まり切ることなくこうして決め手に至ってしまったようであった。
「・・・もう、いい」
諦めたような声色と共に、ブロリーの瞳へ失望したような相手の表情が映り込んだ。
落胆の色を隠さないまま、掴んだ手に力を籠めて締め上げる。
―――そのままブツンと、電源を落としたかのようにブロリーの意識は途切れてしまった。
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超ブロぶちぎれぷんぷんまるの回。
そろそろ佳境が近づいて参りました(・∀・)さいごまでがんばるぞ~
※追記
今回のこのお話(というか連載)についてちょっと活動報告のほうに一件投稿があります。
気になっちゃった人はみてみてくださ~い。