悪魔と獣。   作:こねこねこ

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※ここから先、一部劇中イベントの発生順が前後したりします。ご了承ください。


あくまとけだもの.9

 

 

 

・・・泣き声が、聞こえる。

 

 

 

ふと気がついた時、ブロリーはいつの間にか知らない場所にいた。

 

一瞬また違う世界に行ってしまったのかと思ったが、全身の感覚が妙にふわふわしていることからこれは夢だと考え直す。

 

ここはどこだろう。真っ暗だ。

 

どこか聞き覚えのあるような声に導かれるようにしてふらふらと歩き出すと、いつの間にか違う場所に出ていた。

屋内に、何かの丸い容器がたくさん並んでいる。泣き声はそのうちのひとつから響き渡っていた。

近づいてみると、容器の中にはとても小さな子供が横たわっている。

まるで生まれたばかりのような、小さな小さな生き物。

 

ブロリーは赤ん坊というものを見たことがなかったが、人の幼体であろうということは容易に想像がついた。

まるで火がついたかのように泣き喚くその赤子の髪形には見覚えがある。

 

「・・・悟空・・・・・?」

 

容器に付けられたパネルには、読めはしないものの文字が5つ書かれていた。

恐らくは、"カカロット"。

 

ぼんやりとそれを見ていると、隣の容器からも微かに声が聞こえることに気がついた。

目をやると、そこにも赤子がひとり寝かされている。

隣から聞こえる爆音の泣き声とは対称的に、控え目ながらも顔をくしゃくしゃにしながら嫌がるように愚図っていた。

 

・・・なんだろう。この子にも、見覚えがある気がする。

 

そうしているうちに、部屋へ誰かが入ってきた。

ブロリーのことを全く気にする様子もなく、それどころか動けずにいたブロリーの身体を"すり抜けて"容器の前へと歩いてくる。

男は先程までブロリーが見ていた悟空の隣の容器の前で足を止めた。

 

そして、寝かされていた赤ん坊の脚をおもむろに掴んで乱暴に持ち上げる。

 

「!なにするんだ、」

 

男の手にはナイフが握られていた。

ブロリーが驚いて手を伸ばすも、やはり触れずにすり抜けてしまう。

「だめだ!!!」

 

振りかぶった刃は、泣きじゃくる赤ん坊の胸に深く突き刺さった。

思わず叫んだ声も手も何も届かない。

しかしすり抜けた手が赤子の身体に触れたとき、頭が痛くなるほどの感情の波が流れ込んできた。

 

こわい。

いやだ。

いたい。いやだ。こわい。こわいこわいこわいこわい―――!!

 

押し寄せる膨大な負の感情に当てられて、ブロリーは思わず頭を抱える。

 

・・・カカロットの泣き声だけが、耳にこびりつくように響いていた。

ずっと、ずっと。

 

 

 

 

 

血まみれになってしまった小さい身体は、まるでゴミを捨てるかのように乱雑に打ち棄てられてしまった。

そしてそのすぐ後に、大人がひとり同じく傷だらけの状態で投げ込まれてくる。

その顔には見知った面影があった。

 

「・・・おとう、さん」

 

ブロリーは二人を見下ろしながら茫然と呟く。

どこか若さの残るパラガスは、息も絶え絶えになりながら手を伸ばしてぐったりと投げ出されている赤子の小さな手を握った。

 

『ブ・・・ブロリー・・・』

 

絞り出すように呼ばれた名前を聞いて、ブロリーは痛々しげに表情を曇らせる。

 

・・・ああ、やっぱり。この子は"アイツ"の過去なんだ。

 

感情が、今も流れ込んでくる。

苦しくて痛くて、でも何より悲しかった。とてもとても悲しくて、涙が勝手に溢れて止まらない。

 

そんな中、辺りに轟音が響き渡ったかと思うと眩しい光に満ち溢れた。

 

・・・何なんだ。もうこれ以上、辛い思いをすることなんてないのに。

 

全身を焼くような強烈な光の中で、それまで静かに泣くだけだった赤ん坊が急に叫びを上げた。

それまで溜め込んでいた全てを解き放つように激情を迸らせながら、ゆっくりと空へと昇っていく。

―――その手をしっかりと握ったままの父親と共に。

 

ああ、どうか。

そのままずっと離さないでいてほしい。

 

ブロリーはそれを見上げながら、祈りにも似たささやかな願いを胸に抱く。

ここが過去の記憶の中なのだとしたら、もう届かないのだとわかってはいても。

 

そして辺りが光に満ち溢れて、視界を白く染めて―――消えた。

 

 

 

 

 

泣き声がする。

聞いたことのある声。

 

・・・いや、違う。

それは絶叫だった。

 

ブロリーはうっすらと瞼を開く。

身体が、動かない。

全身の感覚がおかしくて、どこもかしこも言うことを聞いてくれなかった。

浅い息を吐いて、そのまま再び力尽きる。

意識が途切れ途切れになって、時間の感覚もよくわからない。

 

『ヤツを倒せる、パワーをくれ・・・!!』

 

・・・今度はハッキリと聞こえた。

悟空の声。

 

でもごめん、身体が動かないんだ。

 

 

 

「―――おい!生きてるか」

「・・・・・?」

 

誰か知らない声と共に揺さぶられて、また少しだけ目を開ける。

 

「意識が戻ったか。どうにかこれだけでも飲み込め」

 

何か小さいものを口に突っ込まれた。

わけもわからないままロクに噛み砕きもせず無理やり飲み下す。

すると不思議なことに、急に痛みがひいて身体の感覚が見る間に戻っていった。

 

驚きながらゆっくり起き上がってみると、見たことのない緑色の人がこっちを見ている。

 

「だ、だれ」

「なんとか間に合ったようだな。お前だろう、孫が言っていた"もう一人"というのは」

「孫・・・孫悟空?・・・そうか・・・・・ありがとう、たすかった」

「首を完全にやられていた。生きていたのは奇跡のようなものだったな」

 

どうやら危うく死んでしまうところだったらしい。

悟空の仲間が助けてくれたようだ。

 

「・・・時間がない。お前、これを孫悟空の所まで持っていって食わせてやれ」

 

これが最後のひとつだ、と小さな粒を渡された。

 

「おまえは」

「俺はいい、どうせもう限界だ。それに今更回復したところであの化け物相手では戦力の足しにもなりそうにない。・・・託すぞ、お前達に」

 

どうやら悠長にしていられる余裕はないらしい。

傷だらけでそう諭す緑色の人に、ブロリーは粒を受け取ってしっかりと頷く。

 

向こうのほうにいる、と指された方向へ急いで飛び立った。

 

気を失ってどれくらい時間が経ったのかはわからないが、どこもかしこもボロボロに崩壊している。

やがて大きなクレーターのように凹んだ岩場の真ん中に、同じくボロボロになって打ち棄てられている悟空らしき人影を見つけた。

一応周囲を見回してみるも、近くに"アイツ"の姿は無い。

 

「悟空!」

 

降り立って確認すると虫の息ではあるものの、まだ辛うじて生きている。

胴体は悲惨なことになっているが、首から上は大丈夫そうだったので持ってきた粒を急いで口に突っ込んだ。

 

「しぬな!たべろ!」

 

口を閉じて頭をぐわんぐわん振るとどうやら飲み込めたのか悟空は息を吹き返した。

首がもげる!と開口一番に喚いたのを聞いて慌てて手を離す。

 

「・・・あー、今度こそ死ぬかと思った・・・」

 

げほごほと噎せ込んでそう溢す悟空に安堵するも、ブロリーは眉尻を下げて目を伏せた。

 

「・・・すまない。おれの、せいだ」

 

おれがアイツを止められなかったから、と悔いるブロリーに悟空はぱちぱちと瞠目して首を振る。

 

「へ?んなこたねぇよ、オラ達だって結局手も足も出なかった。・・・皆のパワー集めたらどうにかなるんじゃねぇかと思ったんだけんどなぁ・・・ちきしょう・・・・・」

 

そう言いながら悟空は悔しそうに顔を顰めた。

先ほど朧気な意識の中で聞こえた呼び掛けはやはり悟空の声だったのかとブロリーは思い返す。

 

「それ、おれの力を足してもダメそうだったか?」

「・・・どうだろうな。正直わかんねぇ。奴の力はオラ達が思ってたよりも相当上だった」

 

 

・・・実際のところ。

本来であれば、悟空達の結集したパワーを持ってすればそこで決着がついていた筈だったのだ。

継戦状態を持続する限り無限に力が上昇していく伝説の超サイヤ人を止めるには、力が上昇し切るより前にそれより上の力で叩くしかない。

ブロリー本人にすら知る由も無かったが、異物の介入によって実力の近い相手とぶつかり合ったためにこうして本来の歴史の流れとのズレが決定的になる程にまで"ブロリー"の力は膨れ上がってしまっていた。

 

 

まだ何とかなるんじゃないかと、見通しが甘すぎるままに行動していたのはブロリーとて同じこと。

 

・・・自分の力に対して臆病になりすぎていた。

出し惜しみした挙げ句に殺されかけるなんて、ゴジータが聞いたら呆れ返る・・・・・、

 

そこまで考えてはた、とブロリーは思い至り悟空を振り返った。

 

「・・・なあ悟空、ゴジータは?ここに呼べないのか?」

 

ブロリーの知る人物のうち、現状揺るがない最強の座に君臨しているのが彼だ。

強さという一点において、畏れと共に全幅の信頼を置いている。

 

しかし期待に反し、悟空は聞いたことのない名前だと首を振った。

 

「そうか・・・」

 

まだ悟空と知り合う前なのかとブロリーは落胆しながらも納得したが、そもそも勘違いをしていることに気付いていない。

これは元の世界で主にベジータが頑なに合体する瞬間を見せることを拒んでいたせいでもあるのだが、こと此処に至るまでブロリーに対してゴジータが融合体であることを誰も一度も説明していなかった。

仮にフュージョンのことを知っていたとしてもこの時代のベジータの協力が必要である以上ほぼ不可能に近いのだが、どちらにせよ今ここでは当てに出来ないことに変わりはない。

 

・・・やはり、自分達で何とかするしかないのだ。

既に万策尽きつつあったが、もしかすると突破口になり得るかもしれない手段がひとつ残されていることには二人とも気付いていた。

 

「・・・なあブロリー。おめぇ、まだ全力出し切れてねぇんだろ」

「・・・・・、」

 

先に口火を切ったのは悟空のほう。

ブロリーが超サイヤ人へ変身可能であること。しかしそれによってほぼ確実に暴走してしまうであろうことから踏み切れずにいること。

ひと通りの事情は既に悟飯を通じて聞き及んでいた。

 

「・・・わかっては、いる。もう躊躇ってる場合じゃないってこと」

 

あれだけの無様を晒してしまったのだ、もう同じ轍は踏めないだろう。

 

・・・それでも。

それでも、怖い。

自らの手で全てを破壊してしまうかもしれないということが。

 

「仮に本気の全力を出せたらよ、奴に勝てると思うか?」

「・・・それは、たぶん大丈夫だとおもう」

「言い切っちまうのか。よっぽど強ぇんだな」

 

むしろ問題なのはその後だ。

アイツを倒せたとしても、悟空達まで皆殺しにしてしまったらそれこそ取り返しがつかないしブロリー自身の精神だって保たないだろう。

 

ブロリーは、過去に二度暴走したときのことを朧気ながらも覚えている。

理性をなくして暴れまわっている間、自分の言う通りに体は動いてくれないが意識もそこに残ったまま只見ていることしか出来なくなるのだ。

そんな状態で仲間に手をかけてしまったら。・・・もう戻って来れる自信がない。

 

そう吐露するブロリーは、ふとそこで引っ掛かりをおぼえた。

破壊衝動に呑まれてしまったら、自分の意思で戻ってくることは出来ない。だからこそブロリー自身ここまで過剰に恐れている。

 

・・・もし、もしもだ。

"アイツ"も、それと同じ状態なのだとしたら。

 

破壊を楽しみ饒舌に語るアイツの言動は、人格まで変わったのかと思うほどに普段の姿とはかけ離れていた。

どちらが本性なのかはわからない。だけどもし、本意でないまま暴れていたのだとしたら?

 

"アイツが、制御装置を自分で壊さなかった理由はなんだ?"

 

心の底から破壊を望んでいるなら邪魔にしかならないはずのあの輪っかは、アイツがその気になればいつでも引き千切れた筈だ。

考えなくてもわかる。・・・何故なら、自分がそうだったから。

ずっと首に掛けられていたあの銀の輪は、ビリビリするのは嫌だったけどそれでも"必要なもの"だということは理解していた。

衝動的に理性を見失いがちだった自分のために、おとうさんが用意してくれたもの。

時折煩わしくなることはあれど、壊そうと思ったことは終ぞ一度もなかった。

 

もし、自分と同じなのだとしたら。

もしも、破壊衝動をどうにかした先にアイツの本心がうずもれていたとしたら。

 

自分と同じように、まだ、引き戻せるんじゃないのか。

 

「・・・悟空」

 

ずっと黙りこくってしまっていたブロリーは顔を上げた。

 

「馬鹿なこと言ってるって、わかってる。・・・だけど」

「ああ」

「おれは・・・アイツのこと、死なせたくない」

 

悟空は一瞬驚いたように目を見張る。

が、すぐに表情を崩すと項垂れるブロリーの頭にぽんと手を置いた。

 

「アイツはわるいことをした。・・・だけど・・・・・、」

「・・・わかった。大丈夫だ」

 

まるで幼子にそうするが如くぽんぽんと宥めるように頭を撫でたあと、悟空はいつもの人好きのする笑みを浮かべる。

ブロリーはどこか不思議な感覚をおぼえた。この一瞬だけで何かが伝わったみたいだ。

 

「誰かを助けたいって思うことは馬鹿なんかじゃねえさ。・・・だけど相手が相手だからな~、きっちぃぞ」

 

殺すも助けるも、その判断が出来るのはまずあの化け物相手に勝てた後の話である。

まずは倒す方法を考えなければどちらにせよ始まらない。

 

「うん。・・・今度こそ、やれることはやる」

「ここで負けたら、どうせ皆死んじまうんだ。・・・見せてくれよ、おめえの全力」

 

ブロリーは今度こそしっかりと頷く。・・・覚悟は決まった。

 

あとは、打てる手は全て打ってどうにかするしかない。

あまり長々と話している時間もない中、情報を出し合っていくつかの策を練った。

 

「・・・後はやっぱ何か切っ掛けがあればな・・・なあブロリー、お前何かねえんか?"これだけは絶対に忘れねえ"って信じられるやつ」

「きっかけ・・・・・」

 

少しの間思案したブロリーは、ややあってひとつ思い当たったのかごそごそと身動ぎする。

 

「・・・悟空。これ、預かっててほしい」

 

腰から外して悟空のほうへ差し出したのは、いつも肌身離さずずっと身に着けていた緑色の毛皮だった。

ブロリーの一番の心の拠り所だったもの。自我を失ったブロリーに揺さぶりをかけられるものといえば、恐らくこれしかない。

 

「いいんか?大事な"トモダチ"だろ」

「うん。・・・だから、あとでちゃんと、かえして」

 

二人とも無事で、全てが終わったら。

 

口角を上げて"未来の話"をするブロリーに、悟空もわかったと頷いて毛皮を手に取る。

上手くいく保証なんてないけれど、そう信じられるための約束を。

 

「よーし、後はもうやるっきゃねえ!行くぞ!」

 

十全とは言えないだろうが、現状出来る範囲のことはもうやった。

立ち上がって掌に拳を打つ悟空に、緊張の滲む顔でブロリーも頷く。

 

 

 

空から彗星の輝きが徐々に近づきつつある中、今度こそ決着をつけるべく二人は再び飛び立った。

 

 

 

 

 

**********




超ブロ再起動。
なかなか話が進まなくてもうしわけない(´・ω・`)

悟空さって確か相手の頭に触れて記憶だか考えを読み取る力みたいなの持ってたよね??最近ぜんぜん使ってないけど。






前回のお話の投稿のあと、追記でも書いたんですが
活動報告のほうで先週に一件この連載についての投稿があります。
まだ見てないよって方は一応見て頂けるとうれしいです。
(中身はただの言い訳とお気持ち表明みたいなもんなので大したことは書いてないです)
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=330670&uid=271404
※前回の追記でお知らせした内容そのままの再掲なのでもう見たって方はスルーしてください。
書いた時点でもうすでに8話結構な数閲覧された後だったので一応今回も記載してみました。。。
なにとぞなにとぞ。。。。。
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