鉄仮面の魔法少女   作:17HMR

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来週また観に行きます


ドッペルゲンガ―

三連休の最終日

暑かった夏の日々は終わり、秋の穏やかな風が別館の開け放たれた窓から入り込む

その風は夏の残り香のような暖かさを与える一方、近づいてくる冬の寒さおも秘めていた

心地よい風にその身を委ねながら、真は午後の倦怠を楽しんでいた

目の前のテーブルにはライムの細切が入れられたイッタラのピッチャー

中には日本では希少な本物のキニーネを使ったトニックウォーターが満たされている

日本ではトニックウォーターはジンやウォッカを飲むための「割り水」として使われているが、本来の役割はマラニアの特効薬として、イギリスやオランダの植民地で裕福な婦女子たちがワイン替わりに楽しんでいたもの

故に、ジンやウォッカで割るのではなく、そのまま楽しむのが本道だ

 

カラン・・・・

 

飲み干されたグラスの中の氷が音を立てる

真はソファーから身を起こすと、ピッチャーの中のトニックウォーターをグラスに注ぐ

中学校から出された課題は既に終えている

何時もはここに姦しい美樹さやかが居るところではあるが、今日は友人たちと一緒に出掛けていて今別館には真一人しかいない

父親のコレクションの一つである、棺桶のような形状で独特の意匠を凝らした針が奔放に動く「ド・マリニーの時計」

真一人しかいない別館に、ド・マリニーの時計の時を刻む音がいつもよりも大きく響いていた

時計の刻む、その音は独特のリズムを持っていて、それはまるで子守歌のように真を微睡の中へと導いていった・・・・

 

 

~ あ・・あれ? ~

 

彼が目を覚ますと、そこは別館のリビングではなかった

空を見上げると青みがかった夜空に月は二つのぼり彼を見つめていた

そして地上に目線を戻すと、真の目の前に広がるのは大海を思わせる白銀の砂漠

それは地平線まで広がり、果てしなく感じた

 

「何処だろう?」

 

真が屈んで、足元の砂を掴む

公園の砂のような小石まじりの砂ではなく、それは何度もふるいにかけられたかのように滑らかだった

あまりにも現実感のない世界

画家が幻想の中に思い描く、砂漠のように神秘的な光景だ

 

― 何時もの「夢」 ―

 

真はそう判断する

だが、足元の砂はさらさらと流れ、彼にはそれは現実のように感じた

彼はその銀の砂漠に足を踏み入れた

 

「待っていたほうがいい」

 

彼の理性がそう囁きかける

そう

「夢」ならば、果てしない砂漠をわざわざ歩き回らず、その場に立ち尽くして「夢」が覚めるのを待てばいい・・・・

でも、彼はその歩みを止めることはなかった

あの先

その先の砂丘へ

まるで、そこに出会わねばならない人物が彼を待っているかのように感じた

理由は分からない

だが、あの「紅い髪の少女」の幻影を見て以来、言い知れようない感覚に囚われてしまうことがあった

夢の中で夢を見ているような、現実を現実と思えない感覚

自分が精神に変調を来たのかとも思った

しかし、カウンセリングを受けても異常はなかった

カウンセラーからは思春期における精神的な不調、大人になる上で誰しもがかかる「はしか」のようなモノと言われた

彼もその診断に納得した

そして彼も、恋人である「美樹さやか」のいる日常を大切に思い、あの「紅い髪の少女」を忘れることにした

 

「そうだ。手に入らないものを望んで何になる?人は人らしく、閉じた輪の中で楽しく暮らせばいいんだ。幻影を求めても、先には絶望しかない」

 

その時不意に声が響いた

 

― 貴方が魂を対価にしても得たかったのは、そんな幸せ? ―

 

「・・・・・さやかさん?」

 

真がまわりを見渡すが、この砂漠には彼一人しかいなかった

その時だ

 

「スクワルタ・トォーーレ!!!!!!」

 

ハリのあるハスキーな声

間違いない、それは彼の恋人である「美樹さやか」の声に間違いなかった

 

「さやかさん・・・・!」

 

真は砂に足を取られながらも、砂丘を超えて声のした方向へと進んだ

 

 

「さやか・・・さん?」

 

そこに立っていたのは、白い僧侶のような姿をした巨人にサーベルを向ける「美樹さやか」の姿だった

状況も異常だったが、さやかの姿もそれに輪を掛けるように異常だった

白銀のマントを着用し、胸当てを付けた剣士のような衣装をしており、斜めラインのスカートと肩を出しスタイルが特徴的だった。

そして、彼女の瞳はいつものようない優しい瞳ではなく、獲物を狩るハンターのようだった

 

「恋人が剣士の姿をして怪物と戦っている」

 

あまりにも現実離れをした状況

しかし同時に、夢とするのならこの状況はあまりにも「現実的」過ぎた

そう

まるでかつて同じ光景を見たかのように・・・

 

「ガッ・・・・!!!!」

 

頭の内部からハンマーで叩かれるような頭痛が彼を襲う

 

~ 痛い!!!!!でも・・・・・・! ~

 

今ならわかる

この痛みの先に求めていた「真実」がある

真にはその確証があった

 

ス・・・・・・

 

急に真の目の前が暗くなった

顔を上げると、目の前にはさやかが立っていた

 

「さ・・・や・・・かさん・・・・・」

 

なおも痛みは彼を追い詰めていた

さやかは何も言葉を発さなかった

ただ、グローブに包まれた手を彼に差し出しただけだった

真は縋るようにその手を掴む

瞬間、全てが溶けるように消えた・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 




文中のキニーネを使ったトニックウォーターってのは、実在したりしています
甘いんだけど、独特の苦みがあるんでそのまま飲んでも美味しいですよ
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