鉄仮面の魔法少女   作:17HMR

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投下


二つの身体、二つの人生

暗い水の中から浮かび上がる感触

息をしなければ死んでしまう

しかし、彼の肺はピクリとも動かず息をすることすらできない

まるで陸に揚げられた魚がするように、彼もただただもがき続けるほかない

そして手や足を動かそうにも、それらはまるで石になったのかのようにピクリとも動かなかった

人間は危機的な状態になればなるほど、その思考は澄み渡っていく

彼は無駄な抵抗を辞め、意識を集中させる

そう、彼はこの感覚を知っている

そしてこのような状況を選んだのが、彼自身であることも

それは・・・・

 

 

バッ!!

 

「ハァ・・・・ハァッハァハァ!!!!!」

 

掛けられた毛布をはねのけ、一人の少年がキングサイズのベットからその身を起こす

寝汗の所為か、彼が着ている寝間着はじっとりと彼の身体に張り付き、寝ている間にもがいた所為かシーツは荒々しく乱れていた

少年が息を整えながら、部屋の外に耳を傾ける

ベットの様子からすると、かなり暴れていたようだが家人を起すほどではなかったようだ

 

「成功・・・したのかな・・・・」

 

結果からすれば成功したと考えていい

「潜行」前に事前確認した通り、家具の配置も身体付きも異常がない

彼が見る限り、そこは何時も彼が寝ている部屋に他ならなかった

否、「この世界」の「彼自身」である、「美国真」がだが・・・・・・

 

ギッ・・・・・!

 

ベットが軋む

まだ彼自身がこの身体に慣れていない可能性も考え、真は先程と比べゆっくりと身体をほぐすように動かす

違和感なく、この身体は動かせそうだ

無論、ここは「敵のテリトリー」であると同時に、「美国ゆま」のテリトリーでもある

彼女に負担を掛けずに、覚醒の為の情報をできる限り採取する

それが真がゆまの夢に今回侵入した目的だ

情報は彼らの命綱

選べる選択肢は多いほうがいい

ゆまはこれまでの魔法少女達と比べると様々な点が異なる

まず、プレアデス聖団の皆は魔法少女に強制的にさせられたが、ゆまは自分の意識で契約している

プレアデス聖団は自分自身が魔法少女であることを知っているが、ゆまはその記憶を消去されている

覚醒にはゆまの魔法少女としての力が必要になる

魔法少女は「結界」を張ることができる

真も含め、全ての魔法少女を直列につなぎ、干渉を拒絶するフィールド「結界」を形成する、それがこの「夢の牢獄」からの脱出方法

だからこそ、幼いゆまには酷とはいえ、自分が魔法少女であることを思い出させるしかない

それも痛みの少ない方法で

覚醒させても、絶望させては意味がないのだ

でも・・・・・

選べる手段はもう残り少ない

敵の手によって過去を忘れ、理想の夢に溺れていたプレアデス聖団の皆は全て覚醒した

残るは美国ゆまと聖カンナという少女だけ

しかし安心できない

覚醒したプレアデス聖団の皆を信じていないわけではないが、動ける人間が増えるということは同時に敵にそれが察知される危険性も増えている

特にサキと海香はこの世界からの脱出を最優先に考えているフシがある

サキは敵に怒りを感じ、海香は自分が世間に忘れられていないか不安に感じている

それは真とて同じだ

だからこそ慎重に行動せねばならない

心の焦りが行動に現れて、それから敵が察知しないとも限らない

 

「・・・・・・・・・」

 

真がふと、窓の外を見る

間取りも窓から見える風景も、「夢」の外側から見たモノと同じ

ならば・・・・

これから起るであろう光景を思い浮かべる

 

「そろそろかな・・・・」

 

真が再びベットに横になる

「彼女」のシナリオでは朝食は当番制、でも今日の当番は「彼女」だ

階下では何者かの足音が響き、それは確実に近づいてきていた

そして・・・

 

バン!!!!!!

 

真の部屋の扉が勢いよく開かれた

 

「おい!兄貴!!!朝だよ!!!!!!さっさと起きろ!!!!」

 

目が一瞬で覚めるような大声

その声の主が「誰」であるか、既に知っている以上真は苦笑せざるを得なかった

 

~ 今のゆまちゃんを見たら織莉子さんはどう思うかな? ~

 

目の前には幾分か、成長した「美国ゆま」が立っていた

 

 

オーソドックスな朝食

そしてそれを囲むのは真と妹という設定の「美国ゆま」

美国家長女の織莉子は中学を卒業し見滝原を出て別の高校に進学している

そして美国家の当主である美国久臣は織莉子と一緒に別宅で暮らしている

時折、織莉子がこの本宅へ戻ってくることもあるが、いつも住んでいるわけではない

つまりは、見滝原にある本宅には長男である「美国真」と次女の「美国ゆま」の二人しかいないのだ

 

「何よ兄貴?チラチラ見て」

 

セーラー服を着たゆまが真を怪訝な表情で見つめていた

 

「いや、姉さんが見たらどういうかなと思って」

 

「ひっど!それってアタシにはお淑やかさがないって言いたいワケ?」

 

「昔と比べたら、大分変ったなってね・・・・・」

 

その通りだ

「あの夜」以来、真がゆまを預かることが多くなった

真から見て、ゆまは物静かな少女だった

でも目の前の少女は快活そのものだ

夢の世界ではその対象の願いが大きく反映される

彼女は「快活な自分」を夢に望んだのだ

明るく笑う彼女の姿を見て、真の奥底がチクリと痛んだ

 

 

 

 

 

 




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