ソリティア回なので前編では先輩の出番が少なめです。
肥ゆる秋の土曜日、僕は普段よりもずっと整頓されて内装を飾り付けられ、本来なら部外者の人と精霊が数多く居る教室で、『ノーリミットレギュ、勝ったら代金無料!』の看板を背後に執事服を着て、プレイマットを敷いたテーブルの前に座っていた。
今日は、篠ノ芽高校の文化祭──新芽祭当日である。
◆
数日前の帰りのHR、ふと思い出したように葉山先生が言った。
「そういえば今週末は文化祭なんで、招待したい相手が居るなら配布した入場コードを送っておくように。以上」
僕は両親と風見に送ってあった。来るかは本人達に任せるので当日来るのかはちょっと分からないが。
ちょっと気になったので先輩にも訊いてみた。
「先輩は家族以外の誰かに送りました?」
「来てくれるのかはわからないけど『もいらい』の店長さんとモヒカンさんと蒲原ちゃんに送ったよ!」
「葉山先生ェーッ!!!」
僕は即座に教室から出ようとしていた葉山先生に助けを求めた。
前2人はともかく最後はマズイよ先輩!
「聖岳何かした?」
「してないです……でも先輩がしました……サキちゃんに入場コード送っちゃったらしくて……」
「そっかー……ちょっとPJ部に今日俺監督室に居ないから自主練って言っといてくれ」
「ウッス」
葉山先生は駆け出した。多分職員室に。
ところで僕ら最近事実上のPJ部みたいな扱いされてない? 気のせい?
「そんなに不味かったかな……?」
「先輩、サキちゃんの知名度を考えてみてください」
「…………………………ア!」
こうして、先輩の認知上においてはサキちゃんが最年少Aランクプロ蒲原サキではなくただの歳下の友人である蒲原サキちゃんである事が証明された。
これにはサキちゃんも喜んでいる事だろう。平時と変わらず接してくれる相手が少なくて困ってるとかこないだ言ってたからな……。
そして翌日、おそらく葉山先生が超特急で手を尽くした結果なのだろう、昨夜サキちゃんのSNSアカウントと篠ノ芽高校の公式アカウントでも報され急遽行われた全体朝礼で、文化祭に特別ゲストとしてサキちゃんが来る事が知らされ、当然校内は沸いた。
これ葉山先生相当頑張ったんだろうな……全体朝礼なのに姿見えないし多分監督室に引っ込んで寝転んでるんだと思う……。
「公式に蒲原ちゃんが来てくれるのは嬉しいね……」
「非公式にオフで来てたら絶対とんでもない騒ぎになってましたよこれ……」
間に合って良かった……!
◆
と、そのような騒動があり今に至る。先生の尊い犠牲に涙を禁じ得ない。
ウチのクラスは定番だがメイド&執事カフェを催す事が随分前に決まっていたので、僕もちょっと窮屈ではあるが執事服を着せられた。任せられた役割はPJ部のレギュラー面々による策略でマッチに勝ったら割引サービスの無料になる対戦枠だ。
別に構わないけど、僕は言われればスタンダードでも応じる基本ノーリミレギュ対戦だから今日は全く自重してないデッキ群となる。
近頃ノーリミレギュではモヒカンさんとやるくらいだったので、久々に相性を考えずに回せるのは嬉しいね。
僕としては先輩の神々しいメイド服姿が見れたので今日はもう収支プラスだ。着替え中もクラスの女子達から「桜子ちゃんかわいい〜!」といった声が上がっていたし、先輩の可愛さは同性にも効く事が判明した。
「手札が14枚になったので僕の勝ちですね。対戦ありがとうございました。2ターン目の打ち消しはあと1ターン我慢できればもう3ターンほど生き延びれる目があったと思いますよ。お会計はあちらとなります」
「アッハイ」
事前に葉山先生から伝えられた時間まではこの役目を全うするとしよう。
ところでさっきから僕に挑む人多くない? 僕としてはたくさん対戦できるから満足だけど他の割引担当の面々がちょっと暇そうだ。
「あの無料チャレンジ担当の糸目執事絶対ドSだよ……」
「噂の羆君とマッチできるって訊いて従姉妹に頼み込んで来たけど無理だ……! 勝てねえ……!」
「誰か挑む度にデッキ変わってるの怖くない? 俺は怖い」
羆君って何!? 僕ネット上でそんな通称付けられてんの!?
「せめてスタンダードなら……」
次の対戦相手の人がそう呟いていたので案内しておく。
「あっ裏メニュー扱いでスタンダード構築もありますよ? そっちでやります?」
「あるのかよ……!? 一応そっちでお願いします……」
『聖岳、割引裏メニューでーす』
『出目は19』
『了解でーす』
今日は葉山先生からのお願いもあってデッキもたくさん持ってきてある。全部合わせて40種、持ってくるのには疲れたが、ともあれ使うデッキはバックヤードに居るクラスメイトに20面ダイスを振ってもらって決めている。
「合計ブレイク20になったムキムキのバリアントヴォイスで攻撃しますが、何か反応はありますか? それととりあえず20点になります」
「ないです……」
「では僕の勝ちです。対戦ありがとうございました。連雀を止めるか即貼り返せないって時はキャラの除去に専念した方が良いですね。これは回すの難しいですが、ちゃんとスタンダード準拠なので良かったら使ってみてくださいね。お会計はあちらとなります」
「何このデッキ……!?」
しかしカフェ内を忙しなく動き回る先輩が可愛い……おいそこの客何不埒な目で先輩のお山を見ているんだ僕も押し付けてもらった事しか無いんだぞ。
「あの糸目執事ずっとあのおっぱい大きい娘見てんな」
「可愛い娘見ながらスッとマッチで勝っていくのなんかそういう妖怪なんじゃないかと思えてきたぞ俺……」
「道明の学園祭参加諦めてこっち来たの正解だったかもしれん」
「半額チャレンジの娘も凄いよね、高身長ムチムチでメカクレ……大人様ランチか?」
あと10分くらいで時間が来る。多分あと3人くらいなら消化できるだろうからあとは中戸さんに任せよう……それに多分中戸さんの方がビジュアル的には人気だろう。
「すみませんがお知らせでーす! 今並んでる人までは僕が担当しますが、所用で席を外す為以後は隣の半額チャレンジの方が無料チャレンジ担当となります! 繰り上がりで1割引きの担当が増えますので皆さん是非チャレンジしていってくださいね! 失礼しました、5リソースと手札から黒2枚青3枚で【時の彼方へ】をプレイしてから【公正取引】をプレイしてお互いに3枚ドローします。そちらのデッキとダストボックスが無くなったので僕の勝ちですね。相手のデッキ見当の速度をあと2ターン早くできると勝率がグッと伸びると思いますよ。お会計はあちらとなります」
「なんだこの執事!? 怖いぞ!!!」
今日は大会とも違う感じで色んな相手とやれてとても良い日だ。自由時間がたくさんあったらなお良かったが、贅沢は言えない。
◆
そんな訳で所定の時間となったので席を外し、着替えてからデッキの詰まったキャリーバッグとバックヤードで爆睡していたクランプスも連れ、もう少しで始まる毎年恒例の新芽祭非公式大会会場……という名の体育館に設置された裏方に来ていた。
「サキちゃん久しぶり」
「葉山センセに話し相手が来るだろうからちょっと待っとって貰える? って言われたから大人しくしてたらアンタかいな」
「僕も先生に呼ばれてね」
裏には勿論ゲストとしてねじ込まれたサキちゃんも来ていた。今日はサキちゃんに憑く精霊であるセキト……ウサギ? の精霊も一緒だ。
この後大会の特別ゲスト兼MCを任されているので、今年の新芽祭大会はめちゃくちゃ盛り上がるだろう。
優勝者にはサキちゃんから持ってきてる何かにサインの賞品があるので多分参加者の数もエグい。文化祭ではあってもおそらく来客者に対する参加比率が凄まじい事になってるはずだ。流石に参加抽選か何かするとは思う。葉山先生であればそれくらいの用意はしっかりしてあるだろう。
サキちゃんにはそれくらいの人気があるからね。
「呼ばれたってなんかしたんか?」
「なんか訊いた話だと賞品受け渡した後にサキちゃんとのエキシビションマッチに出ろって言われててね」
葉山先生は最近僕の人使いが荒い。
今回は先輩がうっかりしたので大人しく受けるが。
「非公式やし……ウチ3のタケ7ってとこかね」
「ノーリミだってさ。多分サキちゃんもノーリミ持ってきてって言われたでしょ?」
「ノーリミの方は出かける時いつも持ってきとるからな。しかしノーリミなら4:6……いやタケの握るデッキによるか? アンタいくつデッキ持って来てん」
サキちゃんは真面目な顔で悩み始めた。
「40個だね。ノーリミなら半分だよ」
「アホか……!?」
「しょうがないじゃん執事&メイド喫茶の仕事があったんだから……それでわざわざ実家まで行ってキャリーバッグ父さんから借りて持って来たんだよ」
「あ゛ーウチも仕事として受けずに一般参加者として来た方が良かったかもしれん……」
「絶対やらないでね」
「冗談や。なぁセキト?」
「プゥ」
ニッと笑ってサキちゃんがセキトを撫で、セキトも応える。相変わらずよく懐いているのは良い事だ。
「ノーリミあんまやらんのよな。あっち専業でやってるプロの人らも十数人くらいやし。たまに気晴らしにやるとかは結構な人がしとるけど」
「めちゃくちゃ早いからね競技環境のノーリミ……対応も難しい部類だし、少ないのも仕方ないよ。なんならエキシビションでプロ環境のノーリミの実態でも伝えてみる? ちょうど制限改訂で弄ったデッキがあるんだ。ノーリミレギュにおける制限改訂の影響ってどれくらいあるか? とか言ってさ」
「まあ講義形式でならアンタが勝っても大ごとにはなりにくいかもしれん……幸いエキシビションどうするかはウチに一任されとるし、そういう方向でやってみよか。一発勝負やから気ィ張るんやで!」
それとついでにこのカードの釈放ダメじゃない? って奴が居るから悪用例出して再収監したいんだ。
そんな事を考えていた矢先、スマホが震える。
「ん?」
「コースケちゃう? さっきウチのとこに『タケどこに居るか知らない?』ってメッセージ来てたし」
僕に直接訊いたら良いじゃん……いや結構来てるな僕にメッセージ。5件くらい来てる。
最新は『サキに訊いた場所に居ないじゃん!』ってメッセージだけど。
非公式大会に居るよって送っとこ。
「それとアンタSNSでちょいバズしてるで」
「また?」
「スタンダードレギュ準拠で回せるワンショット回しててせん訳ないやろアホ! ハァ……余計に【バード】のパーツ高なるやんけ……前のバズで嫌な予感したからシングル買いでパーツ集めといて良かったわ……」
「結構難しいんだけどね実戦であのデッキ回すの」
かなり枠カツカツだからブラフも仕込み辛いし、従来の【バード】ビート用の対処札が刺さりやすいから決まりにくいんだよね。
「客相手に平然と回しててよう言うわ。だいたいアンタの言う難しいってプロシーン想定やろ?」
「どうしてもそうなっちゃうね。かなりバレやすいから相性差激しいよあのデッキ。奇襲か手の内読み切れてる相手用だね」
「ほ〜ん……ウチも帰ったら組んでみよかな……」
そこにウチの先生の1人である照井先生がやって来る。この人は先日僕が合法版害鳥ワンショットの試運転に使っちゃった先生だ。
「蒲原プロお待たせしました。そろそろ準備をお願いします」
「了解ですーお世話になります。すみませんちょっとエキシビションの内容考えてたんですけど、お互い本気のデッキでやると呆気なく終わるかめちゃくちゃ時間かかるかなもんで、サッと終わって残りは講義っちゅうかトークで持たせようかなーってさっき思い至りまして。その方向でも構いませんか?」
「エキシビションは予定時間の超過にさえ気をつけてくれれば蒲原プロにお任せします。内容ちょっと変えるのも担当の葉山先生にお伝えしておきますね。それと聖岳君も解説お願いね」
「僕も!? なんで!?」
「葉山先生がどうしてもって……無理なら一応私が解説に出るけど……ダメかい?」
それなら……仕方ないな……。
「葉山先生にはよく迷惑掛けてるんでそれなら……僕は何したら良いんです?」
「助かるよ。ベスト8からの試合の解説とディスプレイに映ってる試合の盤面見ながら解説が仕事だね」
「すみませんお水用意して貰えませんか? 結構喋る事になりそうなんで……」
「勿論準備済み。飲み干した時用の替えも冷蔵庫で冷やしておくね」
「ありがとうございます」
「タケ、ほどほどにやぞ」
「ほどほどね、分かったよ」
ほどほどに為になる感じの解説しろって事だね?
いきなり結構な大仕事が投げられたな……事前に言われてたら多分断ってたのは確かだけど……。
◆
『今ディスプレイに映ってる【イリーガル】テーマの人はあと2ターンくらいで負けそうですね』
『だから始める前ほどほどにって言うたやんアホ! コイツの言ってる事を翻訳すると今現在見えてる札で相手対処できる札が落ち切ってるし引けないからこのまま削り切られるねって意味ですわ』
『【イリーガル】テンプレートから銀弾として4枠だけ弄ってるからかなり読みやすい内容ですね。今後の成長に期待です』
『誰やねんコイツって思ってる人向けに伝えておくと、ウチが夏休み中に投稿してた神代高校の氷川選手が酷い目に遭った試合の対戦相手で、分かりやすく言うとその辺の大会にいきなり出て来る羆です。羆で足りるかな……まあPJの腕はウチがプロ入り前の公式戦だと勝った事ないんでお墨付きです。その代わり人心がちょっとアレですけど』
『僕のクラスではマッチで割引チャレンジ付き執事&メイド喫茶を開催してるのでちょっと時間あったら是非立ち寄ってくださいね』
『無反応とか心強すぎるやろコイツ……』
すまないサキちゃん、僕の心の強さは両親譲りなんだ。
『予選代わりの無差別先着勝ち抜き戦も終わり、あっという間にベスト8となりました。現在残っている参加者のデッキは【災宴陵墓】が2人、
【ハートビート】が1人、【バード】が1人、【魔法の国】が1人、【行商】が1人、【龍の儀式】が1人、【密林の王座】が1人ですね』
『デッキパワー的にはブン回っとる時の【行商】が抜けとるけど、安定性に欠けるからそこも見るなら【魔法の国】やな』
『この中だと突き抜けて不利なのは【ハートビート】ですね。持久力が全く無いので……』
『持久力尽きる前に殴り倒せたらええねんけどな』
『これが普段から殴り倒せてる人の言葉です。参考にならないという事を覚えておきましょう』
『シバくでコラァ!』
この口が微妙に悪い辺りもサキちゃんの人気の一因だったりする。
PJプロの社会的立ち位置的には暴言とかは処罰されそうなものだが、世の中精霊とか適性とか不思議な事は多いのでなんでか受け入れられている。
親しみやすいってのは多分あると思うけどね。
『準決勝、【災宴】擬似ミラーやな』
『まあ今青い顔してる方が勝つでしょう。見てくれこそFXで大金溶かした後みたいな表情してますが、ベスト8での動きを見る限り今日はノッてる日っぽいので残ってる参加プレイヤーの中だと適性が抜けて高いですね。なんかとても不幸な目に遭わなきゃ多分彼が優勝すると思います。あと【災宴】ミラーの経験もありますしね』
『ノッとる時をもうちょい安定できたら文句なしやねんけどな……』
『こればかりは難しいですね。本人の成長次第です』
『ムラっ気のあるプレイヤーの悩ましい所やなあ』
風見のような日によってムラがあるプレイヤーは、安定化に至れればノッてる時の高適性が維持される傾向にある。
なので早く安定化して欲しいというのが僕とサキちゃんの本音だ。
『いよいよ決勝戦やな。見立てやとどっち?』
『【災宴】ですね。ちょっとプレイヤー本人の地力の差が大き過ぎる。相手も強いんですけどこれは事故ですね。他の人相手なら9割勝ててそうなので』
『ちょっと相手さんの【魔法の国】は気の毒やな……デッキ相性的には有利なくらいなんやけど……』
『僕が鍛えましたからね。対コントロールだと不利跳ね除けて強いですよ彼』
『ウチも鍛えたしな。下手なビートなら先に倒せるし……』
『まあ相手も有利対面で負けるのも糧になるでしょう。【災宴】が良い回り方してますね、先日施行の制限改訂もなんのそのです』
『プロ目指すなら負けて凹む前に立ち上がるくらいできんと辛いからなー……あっ相手プレイミス。痛いなー』
『【災宴】相手にここでミスだと立て直しは理想的に回って2ターン後になんとかって感じになりますね……おっと連続のプレイミス、これはいけません勝てる目がほぼ消えました』
そして相手には悪いが何事もなく風見が勝った。
僕共々めちゃくちゃ視線向けられてる感覚あるけど大丈夫か? これ多分観客に紛れ込んでるスカウトマンの視線だぞ。
「友達に会いに来ただけでここまで苦労する事ある……?」
会場の拍手に迎えられ、疲れた様子で風見が壇上まで上がってきた。連戦の後ではあるけど、もうちょっと体力つけた方が良いと思う。
『成り行きで参加したら優勝しちゃって困ってます……そこの2人とは幼馴染なんで会いに来ただけだったのに……』
もうちょっと他になんか言うことあるだろ!
とりあえず賞品贈呈はマッチによるカツアゲを想定して裏に回ってやりつつ、その間は照井先生が次のコーナーへの準備しつつアナウンスしている。
「コースケもはよプロなれや。Aはまだ掛かるけどBなら今でもなれるやろ。ほんでサインは何に書いたらええ? 顔?」
「顔はやめて……せめて高校卒業はしたいしぃ〜……そういや賞品はサインなんだっけ……んじゃこれ」
風見がデッキケースから取り出したのは、ハードプロテクターに差し込まれている古びたサイン済みのカードだった。
風見が昔からお守りに持ってるやつだ。
「アンタこれもうウチの書いてあるやん」
「別に……トモ……ダチ……だし……そんなありがたがるもんでもないだろ?」
サキちゃんがプロテクターからカードを取り出し、さらさらとサインが書かれていなかった裏面に記して風見に返す。
「風情の無いやっちゃなー。サイン色紙でも今度そっちの家に贈っとくわ」
「飾る場所に悩むからやめてくれ……」
「そのうち高うなるから部屋の隅に寝かしときや」
なんか同窓会みたいな大会の〆になったな。
と思ってたら、照井先生が小型のホログラムプロジェクターテーブルをガラガラ引いてきて設定し始めた。
「聖岳君、エキシビジョン……!」
「あ、ちょっと時間押してたの忘れてた。悪い風見、今から僕とサキちゃんでエキシビジョンやるんだけど見てく?」
風見が少し考えて答える。
「椅子ある? 立ちっぱで疲れた……」
「僕かサキちゃんの使ってた席座ってて良いよ。あと解説もよろしく。多分解説する先生が知識と経験そこまでだから……」
葉山先生どこに居るのか分かんないんだけどあの人今何してんの?
「無茶振り!」
「すまん遅れた。俺が観客にカード効果の解説やるから、偶にサポートよろしくな風見幸助君」
噂をすれば影、葉山先生が来た。勝ったな。
ついでに風見が仕事頼まれててニッコリ。
「誰ぇ……!?」
「僕の担任の葉山先生。元全国4位プロ」
「もうロートルだよロートル……聖岳に全然勝てねえし」
「タケに安定して勝てたらヤバいですよ」
「そんなバケモン居ったらもっと有名やろ……」
「そんな訳でエキシビションマッチはフリプ感覚で良いが、効果処理だけは割とキッチリやってくれ。こっちも解説が追いつかないからな」
まだ会った事ないけど僕に安定して勝てる人も多分どっかに居るでしょ。
居てくれないかな。
◆
壇上のテーブルを挟み、お互いにデッキをシャッフル、先攻後攻はジャンケンで僕が貰った。
それじゃあ始めて行こう、ぶっつけ本番のエキシビション講義。
「ほんならエキシビションでわかる! ノーリミプロ環境の現実、始めて行くで! 対戦よろしくな!」
「対戦よろしくお願いします」
「先攻貰ったんでスタンバイからドロー、2枚伏せて1リソースと黒1枚で【記録焼却】をプレイ、手札を2枚選んで捨ててね」
「黒か……黒込みやとこの辺が嫌やねんなぁ……」
「基本的にはその後の展開もあるから1〜2枚で済むけど、たまーに手札全部燃やすくらいの勢いでやってくるプレイヤーが居るのがちょっと怖いよね、ハンデスデッキに先攻取られるの」
せやなー、とサキちゃんが答え、ダストボックスに2枚のカードを置いた。片方はマッドネスだ。
処理の口上に先んじて、ホログラムエリア上に見るからにアホそうなダチョウが目にうるさい待機モーションで現れる。
出た! 非公式ムカつく待機アニメーションのキャラクター選手権ぶっちぎりの1位なノイジー・オストリッチさんだ!
「1枚が相手の効果で捨てた時に効果反応や。【ノイジー・オストリッチ】が場に出るで。出た時の効果での保有テーマ選択は【ドリーム・ラビッツ】や。ウチのターン開始時に立ってた時のテーマ選択も同じにしとくで」
僕の予想通りサキちゃんは【ドリーム・ラビッツ】だった。というかサキちゃんが普段から持ち歩いてるノーリミって多分これしかないからなんだけど。
こいつは現状見つかっているサキちゃんの最適性テーマであり、今はレギュの関係でノーリミじゃないと使えないデッキである。
そしてサキちゃんの最適性テーマという事はもうお気付きだろうが超速い。本当に速い。スタンダード時代ならともかく、ノーリミの今は持久力が高い代わりに突然エクストラウィンをキメてくる【ハートビート】って感じなので。
「OKです。それじゃそのままターンエンドまで」
こっちはやりたい事やって勝つデッキなので対処札そこまで積んでないんだよね。
「ターン貰うで。ターン開始時の保有テーマ選択はさっき伝えた通り、そんでドローしてリソース1の赤1で【不思議の案内者】をプレイ、出た時の効果でデッキからコスト2以下の【ドリーム・ラビッツ】を持つカードをコストを支払わずにプレイできる。まあ出すのはそっちも分かってるやろうけどエリアイベントの【凍てつく都コルドロン】や。こっちに反応は?」
「無いね」
コルドロンは【炎獄】のようなトークンを貯蔵して貯まったら強力な効果を発揮するタイプのエリアイベントだ。能力発揮までにはトークンが10個必要だが、貯まると追加ターンを獲得できる。
本来PJにおける追加ターンは非常に重く、大抵は結構な前準備が必要だがそれはコルドロンも例外ではない。
コルドロンが例から外れているのはトークンの増える条件である。自身のコスト4以下のキャラクターが場に出る度に貯まるので、その点が異例の軽さとして見られている。
なお今現在は2枚制限だ。
「んじゃバトル、まずはオストリッチでプレイヤーに。チャンスフェイズの公開は【穴掘り遊び】で手札に加えるけどそっちはなんかあるか?」
「無いね、通すよ」
「なら3点通してもろてそのまま【不思議の案内者】で攻撃、チャンスフェイズやけどなんかあるか? 多分ある感じすんねんけど」
サキちゃんのプレイ感もどんどん鋭くなってきてるな。嬉しい。
「そっちは反応あるね。このターン中にダメージを受けているので、手札の青1枚として【多次元通信手】を支払って伏せの【トラウマ】をプレイ。とりあえず【多次元通信手】がダストに送られたので除外ゾーンに移動します。【多次元通信手】が除外ゾーンにある時、手札上限がお互いに+1される。これが重複可能効果なのは知ってるよね。そしてお互いに1枚ドロー、【トラウマ】の効果、このターン中受けたダメージ+1枚ドローし、引いた半分の枚数を捨てる。なので僕は4枚引いて【多次元通信手】と【タリムの亡骸】を捨てる。さっきと同じように手札上限が+1されてお互い1ドローし、【タリムの亡骸】がダストボックスに置かれた時の効果で【ノイジー・オストリッチ】をサキちゃんの手札に戻すね」
トラウマの反応が美味しい形で通ったのは結構助かる。この感じだと次やる時は美味しい形では通せなさそうだけど。
「ほんならトップ公開は……【ハッピードリーム!】やな。そんで1ダメ通してターンエンド。デカいプレミしたなー……」
「嫌なもの引かれちゃったな……」
「そらこっちの台詞やぞ。エグいデッキ使いよって……」
「僕のは多分サキちゃんが考えてる方じゃないよ。アレ本来のパーツが他の巻き添え食らって禁止制限に飛ばされてるから使う時は代用しないといけないし。これは別軸だね。キーカードは同じだけど」
「まあウチの考えてた方ならやろうと思えば先攻1ターン目で勝てるやろうしな……」
「今回は引きがちょっと悪かっただけでやろうと思えば1ターン目勝利のルートもあるよ」
割と急造だったからまだ吟味しきれてないんだ。
吟味しきったら引きもちょっと良くなるからそこそこ1ターン勝利もできると思うけど。
「タチ悪……アンタのターンやで」
「はーいスタンバイからドロー……伏せ札もないこのターンで勝つのが1番良いかな。手札から【情報の海】をプレイ。エリアイベントなのでコルドロンはダストに送られます」
「ういうい」
「1リソースと手札の青5で【アイダンの愛し子】をプレイ」
問題のカードだ。野放しだった頃は保有色さえ合えばどんなデッキにも入ると言われたトンデモカードが、先日の改訂で何故か釈放されたので入れた。
ダメだよこんなカード釈放したら……。
「うわ出た……こいつ釈放せん方が良かったと思うんやけどな」
「当時の事知ってたり調べたプレイヤーなら皆そう言うと思うよ。アイダンのプレイ時効果でプレイコストとして支払った青のカードの枚数分ドロー出来ます。先にコストとして【多次元通信手】が2枚捨てられたのでお互い2枚ドロー、そして5枚ドロー。手札上限は今11枚、手札から【公正取引】をプレイしてお互いに3枚引き、この時エリアの【情報の海】が反応するので僕が追加で1枚引けます」
「コイツの全盛期がウチらまだ小学生の頃で良かったわ……」
ここ篠ノ芽高校や道明学園といったPJに力を入れている学校ではスタンダードレギュが採用されているが、小中高全体で見ればスタンダードレギュを試験のレギュレーションとして適用している学校は割合として少ない。
理由は簡単で数年おきのレギュレーション切り替えに巻き込まれると組み直すのが大変だからである。
しかし高校になると個人でスタンダードレギュ準拠で組むプレイヤーも増えてくるので、今は世間的には高校辺りからスタンダード準拠で組んでいこうという方向に変わってきつつある。いつか高校からは一律スタンダード! ってなるかもしれないね。
では中学までのレギュレーションはというと、親や兄弟から引き継いだ物をなんでも使えるノーリミットレギュを採用している場合が多い。
カード種がとんでもなく多い事もあり広い範囲をカバーしてはいる物の、前提として相応のカード資産が無ければそもそもスタンダードレギュにも立つのは難しい……というのは篠ノ芽PJ部も抱える問題だ。
幸い? なのは適性があるならパック剥いたりで相性良いカードは引けるので、大抵レギュ内で相応に強いデッキも組めるという点だ。
ちなみに聞いた話だが、道明学園のPJ部は新弾発売時に所属生徒へちょっと補助金が出るらしい。最寄りのカードショップまで自転車で40分くらいかかるという立地の悪さへの代償なのだろうか?
一応学園内にコンビニがあるので、そこで予約注文するのが殆どだそうだが。
少し脱線した。今はちょっと困った状況でもある。若干引き運に頼らなければいけない。
この手のデッキにおいて運勢要素は天敵だと言うのに!
「んーこれだと……1リソースと手札の青1枚で【宝物庫】をプレイするよ」
「おっ良いカードや……スタンダードに帰って来んかな……」
「これあるだけでかなり動きやすくなるデッキ増えるよねえ」
「中速デッキでも採用できるくらい便利やしな」
「だね。僕のリソース最大値が1増加し、このターン中のみリソースが4追加、更にリソース1と手札の青6枚で【叡智の集積 デュアルセブン】をプレイ」
「ああ勝ち筋そっちなんか。処理どうぞ」
「出た時に4枚引き、こいつが場に居る限り僕の手札上限が7増え、僕の手札が14枚以上ある時僕はゲームに勝ちます……おっ引けた。それじゃ【公正取引】を再度プレイ、僕が【情報の海】の効果で4枚引いてサキちゃんが3枚引く。手札上限超過したカードは除外へどうぞ」
「超過ペナムカつくわ〜……」
「分かるよ……」
PJでは手札上限の超過による除外ペナルティはターン終了時ではなく即時処理となる。これを利用した盤面強化を軸にしたデッキが大崎の今のメインデッキだ。
僕の本気デッキもそのペナルティを利用するが、僕のは悪い使い方なので自分ではなくペナルティを相手にだけ受けてもらう形だ。
「リソース1で【会議は踊る】をプレイ。自分の場にある公開されている青のカードの数だけドローできます。合計4枚引くね」
「正直降参したいけど流石に自分のプレミやしなぁ……この感じならすぐ終わりそうやから我慢するけどな」
「ヨシ、もう一度【会議は踊る】をプレイして4枚引きます。すると僕の手札が14枚以上になったので僕の勝ちです。対戦ありがとうございました」
「対戦ありがとうな。こりゃもうちょい感覚鍛えなあかんなー」
なんとか勝てた。これターン返してたら負けてたな……。
それじゃ2人で解説席の空いてる席まで移動して感想戦の時間だ。
「サキちゃんの敗因は初手の【記憶焼却】に気を取られて打ち消しとか妨害札伏せなかった事ですね。でも僕が持ってる別のデッキなら伏せずに殴る方が正解なので読み違えただけになります」
「今回のマッチはウチが一方的にやられたっぽく見えるけど実際は違うねんな」
「ノーリミットのプロ環境に詳しい人ならご存知だとは思いますが、【ドリーム・ラビッツ】のテーマはエクストラウィン内蔵型ビートダウンです。エクストラウィンを主軸にするなら最速勝利は2〜3ターンくらいになります」
「実際ターン回って来れば勝てたやろな、回って来んかったけど。最初はてっきり【ワームホール】やら使って【多次元通信手】を除外とダスト反復横跳びさせて勝つ型かと思っとったわ」
サキちゃんが言っているのは【多次元通信手】以外にも手札上限を増やすキャラクターを立てて、それから通信手の除外時ドロー効果で相手の山札を除外に飛ばすタイプのデッキだ。
「アレ強いけど時間長くなっちゃうから僕個人としてはあんまり使いたくないね」
「ノーリミットプロ環境は決まると返せない状況を如何にして作り出すかに先鋭化してきてるもんで、見てて分かりやすい対戦になりにくいんよな」
「やっぱり殴って返されてのやり取りの方が見てて楽しいからね」
アイダンが野放しの頃、一部の適性あるコントロール使い向けに流行った構築として【死の大地ループ】というデッキがある。
こいつは起動すると相手の手札と盤面とオマケにリソースも破壊し尽くすというとんでもないループコンボデッキで、PJとしては珍しい事にスタンダード環境下からアイダン共々キーパーツが纏めて一発で禁止に送られたくらいのヤバいデッキだった。
こいつはコンボ自体は凶悪なんだけど、そこからの勝ち手段が地道に殴るしか無かったのも多分禁止送りの原因だと僕は見ている。全く返せない状況にされるのにそこから更に数ターン引き伸ばされて殴られるのはやってても見てても普通に楽しくないからね。
「アンタがそのデッキ崩れるような制限施行するなら何制限する?」
「まあアイダンでしょ。これを上限1枚制限にするだけで結構決まりにくくなるよ、決まりにくくなるだけだからそこまで抑制できないけどね。僕としてはまた禁止送りでも良いと思う」
「こら再収監されるやろなあ……」
サキちゃんの言葉に、解説席は4人揃って頷いた。
生まれたカードに罪はないとはいえ、アイダンに関しては忌子だったと言わざるを得ない。
それはおそらくこいつの存在を知っているプレイヤーなら全員が言うであろう。
◆
それから。
解説挟みながらの感想戦も終わり、いつもの3人となって執事&メイド喫茶へ向かっていると、先輩がメイド服のまま現れてこっちへ駆けてきた。ちょっと慌ててる?
「やっと戻ってきた! 蒲原ちゃん久しぶり、風見君もこの間ぶりだね!」
「ちわっす門倉さん」
「うわ桜子ちゃん可愛い! 後で写真撮ってええ?」
「先輩何かありました?」
「写真は構わないよ! 何かというかお店がちょっと大変というか……」
「?」
「聖岳君のご両親が来てるんだ! それでぼくが話し相手にされてたからちょっとお店の回転に支障が出てたんだよ!」
「おっちゃんの顔見るの久々になるな……」
「
「母さんはともかく父さんは仕事っぽかったから来ないかなって思ってたけど、揃って来るとは……」
先輩の代わりに相手してくれって事だなこれ。
僕らは早足で教室に向かった。
アイダンの愛し子 青黒 コスト6
パワー3000 ブレイク2 【永久の語り部】
自動 このカードが手札からプレイされた時、あなたが支払ったコストに青のカードがあるなら、あなたはX枚引いてもよい。Xはあなたがこのカードをプレイする時に支払った青のカードの枚数に等しい。
自動 このカードが手札からプレイされた時、あなたが支払ったコストに黒のカードがあるなら、あなたは自身のダストボックスからX枚を手札に戻してもよい。Xはあなたがこのカードをプレイする時に支払った黒のカードの枚数に等しい。
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アイダンの愛し子君の輝かしい経歴
スタンダード環境でループパーツに使われて他のパーツ諸共1発禁止送り
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そろそろええやろ?との見込みで先日3枚制限で仮釈放
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悪用例がお出しされる←今ここ
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1枚制限に
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止まらなかったので無事再収監
PJ公式「行けるかなって思ったけどやっぱダメだった」