今回は対戦ないです。
教室に戻ると客席の一画、青髪と黒髪の男女が座るカップル席から、あからさまなイチャつきのオーラを感じた。
父さんと母さんだった。……新芽祭に託けてデートしに来ただろ2人とも!
「海〜こっちこっち! サキちゃんも幸助君もおひさ〜」
「お疲れ様海、幸助君もサキちゃんも久しぶりだね」
両親に呼ばれるままに席に着く。風見とサキちゃんは隣の席の位置をずらしてもらっての対応となった……サキちゃんめっちゃ写真撮られてんな。
「写真撮りたいんやったら言ってくれたら受けるで〜……、そこの店員さんなんか適当な飲み物貰ってええ? 冷たいの。席じゃなくてウチの所に直接配膳くれたら助かるわ」
「ハイ!」
すぐさまその事に気付いたサキちゃんが、その辺を巡回していたクラスメイトに告げてから席を立ち、撮りたそうな人達の方に歩いて行った。
この辺スマートにやるんだよなサキちゃん……僕としてはPJプロは天職だと思う。
「サキちゃんがテレビに出るようになるなんて遊びに来るようになった頃は思ってもなかったわねえ……」
「俺とタケは本当にプロになるだろうなって友達になってからずっと思ってましたけども」
「良いね……友情だね! いつも言ってるけれど、海と友達で居てくれてありがとう」
風見の言葉に父さんがお決まりの言葉で答え、風見もまた同様に答えた。
「礼言われるような事じゃないすよ……」
風見やサキちゃんは、このやり取りをこれまで父さんと何十回もやっているので返答も慣れっこだ。
先輩はこれのバージョンアップしたやつなのでまだ慣れていない。
僕から先輩へ別れを切り出すつもりは毛頭ないが、先輩から切り出されたら流石に了承する他ないので、父さんとエンカウントした時の一連のやり取りが負担になってないことを祈るばかりだ。なっていたら父さんへのマッチ沙汰要求も辞さない構えである。
僕がすくすく育とうとも、父さんとしては僕が心配らしい……そんなに頼りない感じがするのだろうか?
「2人とも今日はデート?」
「うん。今年は中々有給使う暇もなくて良い機会だったし、たまには
「私としては今日1日ゆっくり自宅デートでも構わなかったんだけど、やっぱり新芽祭は行きたいって
キャッと声を上げて父さんへじゃれ合い始めた母さんと応対する父さんを眺めながらお冷やを啜っていると、お盆を持ったクラスメイトが来た。
先輩だった。
「先輩後で僕も写真撮って良いですか? それと僕と風見はまだ飲み物頼んでなかった筈なんですが……」
「勿論さ! それとこれは大仕事を頼まれた聖岳君と非公式大会で優勝した風見君へのサービスだってさ。それに皆に話してきて良いよーって送り出されちゃったんだ……同席させて貰っても良いかい?」
「勿論ですよ」
「ありがとう、さっきぶりです胡桃さんに一伊さん……本人が居る時に訊くべきだと思っていたんですが、やっぱり聖岳君……海君を育てた時って大変だったんですか? こんな場所で訊くのもどうかと思いましたがすみません、最近ぼくらにも多少進展があって、気が少し楽になったと思ったらふと頭に残ってしまって……」
先輩に名前で呼ばれるとなんだかむず痒い……こういう時は仕方ないが、普段は苗字で呼んでもらっている。
そして先輩の質問も興味深い。
僕は……手は掛からなかったとは思っているが、僕からするとわからない部分は絶対あるだろう。
「桜子ちゃんもやっぱり気になるよね〜その辺。私も一伊君も学生時代は部の県大会に出れるくらいにはPJ強かったけどさ、海はその程度じゃないもんね」
母さんは僕に視線を一度向けて、ふっと思い直すような仕草をしてから答えた。
「サキちゃんや幸助君は分かってるだろうけどさ、私は今でさえちょっと心配ではあるよ。海は……向き過ぎてるからね」
「あータケが……才能で言ったらプロに向き過ぎてるのはそうすね……なんでかタケは学歴もしっかりしてからなるつもりですけども」
まるで役に立たない事に定評のある前世の記憶がここぞとばかりに主張するのが確かに大卒を目指す理由の大部分ではある。しかし残りは単純に色んな人と知り合ってPJしたいなと言うのが本音だ。
一人暮らししてるとはいえ、県外に出たとかでもないしね。市外くらいだ。
「最初……4歳くらいかな? PJを触り始めた頃はわくわくしたよ。物凄い勢いでPJについて学んで、あの頃はまだ拙かったけど自分でデッキも組んでさ、この子天才かも! って2人で喜んでた」
「へ〜……割と記憶朧げなんだよねそれくらいの時って」
「タケ、お前の事だぞ!?」
とはいえ本当にその頃ってあんまり覚えてないんだよね、なにこの記憶邪魔! それよりPJ楽しい! PJ楽しい! ってなってたのは覚えてるんだけど。今と変わんないな。
「でも小学校に上がる直前くらいは……確か結構な頻度で海が寝てから一伊君と話してたよね、どうしようかって」
母さんに話題を振られ、コーヒーをちびちびと飲んでいた父さんも口を開いた。
「あの頃で僕らじゃ敵わなかったんだよね、対戦中に見えてる物、デッキの完成度、プロインタビューなんかで話に聞く感覚的な部分……僕らじゃ本当にこの子の才能を伸ばし切れるのか? 然るべきクラブとかに行かせた方が良いのか? ってさ……でも僕らは海を当人が思うようにさせようって決めたんだ。この子はプロになりたいとか特に言わなかったしね」
「少しは不安もあったし、小5の頃に近所のショップ大会あらかた出禁になったって言われた時は、私も流石にびっくりしたけどね!」
「そうそう無いですもんねショップ大会出禁。サキが中学の時なっちゃってしばらく荒れてたな……」
「確か出禁食らったのは小4の時だよ母さん……」
「そんな頃だっけ……? タケの出禁は小3とかじゃなかったっけ……?」
「そうだっけ?」
記憶が超ぼんやりしている。
まあ小学生時代って暇さえあれば風見かサキちゃんか他の子達とPJしてたから仕方ない。大会は余技だ。それに大会参加は出来なかったけどフリプはやらせてもらえたしね。
部に入ったのも中学上がってからだったし……。
「でもまあ小学校で風見君やサキちゃんと会って、僕らじゃ教えてあげられないような所まで一気に伸びて行ったしね……そういう意味で僕らは風見君やサキちゃんに感謝してるんだ」
「俺もサキも一方的にタケにボコボコにされてるだけだったんですけど……」
「でも風見もサキちゃんも僕にフリプで初めて勝ったのが中学上がる前だったじゃん。あの時は風見が【
「あの時はタケが【フォルトゥナの凍星】で……サキの時が……」
「アイダンが禁止に送られてからの【永久の語り部】だね。楽しい対戦だったよ」
「あの時のサキが汗ダラダラでぶっ倒れそうだったの覚えてねえの!?」
「僕あの時初めて同年代に負けて感動してたから……」
「アレ悔しくて泣いてるのかと思ってたんだけど違ったの!?」
あの時は……サキちゃんが僕の伏せ札に気付いて2ターン分リーサル遅らせてから勝ったんだったかな。
勝つ為の道筋がわざとリーサルを遅らせる部分にしか残ってなかった事に気付けたのを見ておお……! ってなったんだ。
僕は昔から相手の最適解の道筋にこっちの勝ち筋まで逸れるルートを仕込んだりするので、当時のサキちゃんは特に引っかかりやすかった。
あの時の対戦以降、サキちゃんの実力は飛躍的に伸びて楽しい対戦になる比率が増えたので僕も頑張った甲斐があったよ。
「もしかして……海がめちゃくちゃ機嫌良く帰ってきた日ってその時?」
「多分そうなんじゃない?」
母さんが目をまん丸にしながらストローでサイダーを口に含み僕に訊ねた。
サキちゃんに初めて負けた日なのか風見に初めて負けた日なのかは分からないけど、多分どちらかじゃないだろうか。
「聖岳君は子供の頃から結構変だったんだねえ……けど、ぼくが見た事ある人だと1番楽しそうにPJを遊んでるから好きだよ!」
先輩の言葉に、父さんがうんうんと頷きながら懐かしそうに口を開いた。
「海はいつもニコニコしながらPJしてるんだよね。ごく稀にスン……って真顔になるけど」
「多分プレミした時かな。相手に申し訳なくて……」
「聖岳君の真顔はちょっとだけ怖いから、ぼくはニコニコしてる方が良いかな」
先輩に頼まれては仕方ない。プレイミスを今以上に減らすように心掛けよう。
「そういや中学までタケとしょっちゅうPJしてたから高校上がって気付いたんだけど……タケって長考しないんだよな。だから試合速度が基本的に速いんだよ」
「僕は大抵1〜2ターン先くらいまで相手の動き読み込んでプレイしてるから多分そのせいだね」
あとは挙動で自分の状況読ませないようにする癖が付いてるのもあるから、サクサク処理しがちだ……もうちょっと矯正した方が良いのかもしれない。
そんな事を思っていると、父さんがふと腕時計を確認して母さんに目配せした。
母さんも同様にスマホの時計に目をやり、ハッと口を押さえる。
「すまないね海、少し長居し過ぎたみたいだ。これから胡桃ちゃんとディナーデートの準備があるからまた今度……年末年始に帰省した時にでも色々話そう。桜子ちゃんもね」
「2人とも楽しんできてね」
「楽しんでくださいね!」
「あっ帰る前に胡桃おばさん一つ教えて! ……タケって未だに辛いのダメなんすか?」
どさくさに紛れて何を訊いている風見ィ!
「アハハ、ダメだよ〜」
母さんも笑いながら普通に答えないでよ!
「ヨシ、タケの弱点は変わらないまま……! んじゃ俺ちょっとサキに伝えてくるから席外すわ!」
逃げるように風見が席を立った。
「聖岳君……カレーを作る時は甘めの方が良いかい?」
「最大でも中辛まででお願いします先輩! 風見ィ! 覚えてろよォ!」
風見がサキちゃんの方に向かう後ろ姿に恨み節を吐き、先輩にもちゃんと返答する。
「ごめんね、聖岳君はあんまりそういう事話してくれないからさ、大会前に風見君がこっちまで来てね、その時ついでに協力してもらったんだ……ご両親まで来るとは思ってなかったけどね!」
「父さんが来るとはまあ僕も思ってませんでしたが……」
父さんは年中忙しい年とまあまあ休める年が交互に来ている。以前もしかしてそういう勤務体系なのか? と思って訊いてみた所、まあまあ休める年は父さんが担当している取引先との仕事が中心だが、忙しい年はマッチ営業に負けて帰ってきた同僚のリベンジマッチ担当が重なるのでめちゃくちゃ忙しくなるらしい。
営業にリベンジマッチ……? 大丈夫なのかこの社会……? と思ったのは内緒だ。
「しかし……そんなに辛いのが苦手なのかい?」
「例を挙げると中学の夏休みの時、風見の家に泊まった時があるんですけども。アイツ僕に内緒で激辛カレーを仕込んで出してきた事がありまして……」
あの事は今でもちょっと嫌な思い出だ。
「……興味本位で訊くんだけど、どうなったんだい?」
「徹夜でマッチをしました。僕が復帰できた夜10時くらいから朝10時くらいまで」
「うん……うん……?」
街灯や家の明かりや月明かりを頼りに夜通しマッチだ。
「庭先にアイツの部屋にあるちゃぶ台持ってきて、あと腰掛ける小さい椅子も用意して貰って、一応保護者代わりにタミロウ……風見の精霊に監視頼みましてね、まあ流石に風見のお母さんにいつまでやってんだって2人揃って頭叩かれたから朝10時で止めたんですが……」
「うんまあそうだろうね!?」
僕は頭叩かれるだけで済んだけど、風見が朦朧としたままめちゃくちゃ叱られてたんだよなあの時。
「なので知らないならともかく分かってて辛い物を食べさせようとするのはやめてください……お願いします……」
「しかしそうかあ……聖岳君に作ってあげられる料理のレパートリーが少し減るかもしれないね」
先輩の言葉に、僕は物凄く悩んで答えた。
「……許容値を上げられるように頑張ります……」
「無理しなくて良いんだよ!?」
先輩が慌てたように僕を宥めてくれる。ありがたい……。
「それにしても聞く限り、風見君とは随分親しい仲なんだね?」
そうかな……?
「同級生で友達なので……」
「世間一般では多分親友の括りになると思うんだけどなあ……」
「僕と風見だと幼馴染とかの方が近くなるかもしれないですね」
「小学校からの仲だっけ? ならそうかもね!」
先輩がお日様のような笑顔でそう言う。これは大会前の糖分より効く。
その時、入口のあたりがざわめいた。
サキちゃん居るのにざわめくって何事? と、僕は先輩と揃って入口を見た。
モヒカンの偉丈夫が、女性をファイヤーマンズキャリー*1していた。
モヒカンさんだった。なんなら女性は店長さんだった。
「おうタケちゃん、ちょっと休ませてくれ……おっと店員さん、冷たい飲み物一つ……いや二つくれ」
「ど……どうぞ……」
そりゃざわめくわ。
◆
「ムーさんがどうしても新芽祭は参加したいってんで午後から臨時休業して来てみたら入って5分くらいでバテバテになってよぉ……」
「デカ過ぎるアオハルの摂取は私の寿命を伸ばすのさ……!」
息も絶え絶えじゃねえか店長さん。
「俺はちょっと会いたくない人も居るからあんまり来たくは無かったんだが……去年も一昨年もムーさんを迎えに来たから流石に気付いたんだよ……臨時休業にして2人で来た方が良いってよ……!」
「私も色々懐かしの校内を回れるし一石二鳥だよね。でもモヒ君の私の運び方はどうかと思う」
「お姫様抱っこの方がよかったですかい? めちゃくちゃ目立って客増えるかもしれませんぜ」
そういや店長さん去年は校庭のベンチでぐったりしてて保健室に運ばれてたな……。
「お客さん増え過ぎるのは嫌だな〜。今で十分な暮らしできてるし、モヒ君のお賃金もちゃんと増やしてあげれてるし」
「かと言って人員増やすとペイ出来るまで結構かかるし……」
「「ま、当分は2人体制かな」」
結構自営業としてどうかと思う発言が飛び出してきた!
「やっぱり卒業生だし近場にお店構えたからさ……新芽祭は見たいんだよね。朝から閉会までは今じゃ難しいけど」
あっだからさっき懐かしいとか言ってたのか。なるほどなあ。
「店長さんってここのOGだったのかい?」
「ギリギリ卒業だったけどね。常連さんから聞いてたと思うけど、私も桜子ちゃんみたいに適性あるカードが見つかんなくって見つかったのも進級ギリギリだったんだ。あの時は生きた心地がしなかったね……だから個人的に応援してるよ……関係の進展もね!」
店長さんはそう言ってサムズアップする。その仕草に先輩も目をキラキラと輝かせながら答えた。
「ちょうどさっき聖岳君の苦手な食べ物を聞いたから役立ちそうだよ!」
「いいねいいね! その調子だよ桜子ちゃん!」
女子トークが盛り上がってしまっている! これでは僕はただ可愛い先輩を眺める事しかできない!
「そういえばこれまで特に気にしてなかったんだが……今の嬢ちゃんのクラスの担任って誰なんだ?」
「僕と同じクラスなのでPJ部監督もやってる葉山先生ですね。モヒカンさんも篠ノ芽出身だったりするんですか?」
「マジか……別の所で休めば良かったかな……ムーさん目立つしこれ来るやつじゃん……」
「モヒカンさん?」
「俺は道明出身なんだ……ただ、葉山さんも道明のOBで……」
「うわ、マジで来てるじゃん神田……お前もうちょっと奇行を人から見られた時の事考えた方が良いぞ……通報何件かされてんぞ」
「……ちょっと交流があってな……」
モヒカンさんが肩を落とし、吐き出すように言った。
噂をすれば影という。葉山先生が教室に戻って来た所に鉢合わせたのは『もいらい』の2人にとって良い事なのだろうか悪い事なのだろうか……というか店長さん通報されてんだ……。
先生はそのまま僕とモヒカンさんの方を訝しげに……いやこれモヒカンさんの方だな訝しんでるの。
「…………人違いだったら悪いんだが、道明に居た森部か?」
「ウッス森部です……昔はお世話になりました……」
「ところで新芽祭はスカウトマンの入場お断りって注意事項にあるんだが……今年も何人か引っ掛かってるし」
あーあの入場コードの規約の隅っこにめっちゃ小さく書いてあるやつ……。
「2年ほど前にスカウトマンは辞めて今ムーさんの店で店員してるんスよ……」
「そうなの? 収入結構減ったんじゃない?」
「道明出身なら知ってるでしょ……あそこの待遇良くても立地がちょっと……」
「まあ確かに道明の立地はゴミだが」
「めっちゃハッキリ言って良いんですか先生!?」
僕の言葉に、葉山先生がため息を吐いてこちらを向き答える。
「聖岳は道明スカウト蹴ったって言ってたから分からんだろう……あそこに三年拘束されるという地獄を……」
「俺達の世代の卒業直後でやっとコンビニ出来たからな。まあ22時で閉まるんだけどあのコンビニ。売店って名乗れよ……俺が初対面でマッチ持ちかけた時にタケちゃんの名前知ってたのも、スカウトマンやってた頃にスカウトマン間で有名だったからだな。多分道明は今でも狙ってるぞタケちゃんの事」
「えぇ……」
めちゃくちゃ愚痴混じりの話をされる。
僕からするとあそこあんまり強い人居ないし……何人かは居るけど同期の何人かだけだし……。あと寮生活になるのが嫌。
「立地がもっとマシなら考える目もあったんですけど、仮にもPJ強豪校なのに最寄りのカードショップまで自転車で40分っておかしいでしょあそこ……プロ見るなら早いうちに色んな人と対戦してカードプールとかテーマ毎の差とかを肌感覚で覚えた方が良いと思います」
僕の言葉に2人とも頷いた。
「ここ10年くらい……まあ俺が監督やるようになってからなんだけど、最近の道明出身のプロってだいたいB止まりなんだよな……ウチとどっこいなんだぞこれ。全国高校大会はあんだけ勝ててるのに」
「今の僕と同級になる生徒の中なら強いの何人か居ますよ」
「ああ噂の黄金世代って言われてる子らね……どうだろうなぁ……それと金あるんだから学内にカードショップ作ればいいのになってのは俺の居た頃から言ってるぞ。まあ聖岳取れて大会出てくれたら全国個人も団体も余裕で勝てるだろうしな……もし気が向いたら道明に転校して、それからわざと負けて今の道明の監督の名声を地に落としてもいいぞ聖岳」
OBなのに道明嫌い過ぎない?
それとも単純に道明の立地がこの世の終わりみたいになってるだけ?
「先輩居ないので行きませんしマッチに手を抜けないので……」
「そうか。残念だ……」
「近いうちに大ポカしてくれねえかな真面目に……選手の才能と層の厚さだけで勝ててるような状態だし……もうちょっとプロ以後の道も考えてやった方が良いと思うんだが……」
2人ともちょっとマジっぽい声で言うのやめてくれない!?
「そういえば去年も思ってたんですけど、道明の監督蹴って篠ノ芽の監督業受けたのってやっぱり立地なんですか?」
実力だけならもっと上が居るけど、元々の気質と指導力で考えると多分何処でも監督業携われるんだよな葉山先生。
「立地もあるけど一応地元の県だしってのと……あとまあ大きな理由が一個あってな」
「はい」
「道明って敷地が篠ノ芽の三倍くらいある癖に喫煙所3箇所しか無いのが気に食わなくて蹴った」
ロックだな先生。
懐かしむような目になってモヒカンさんが言った。
「あー……理事長になったらタバコ吸い放題ですよ。俺が居た時も役員達が大抵理事長室でタバコ吸ってて偶に理事長にキレられてましたからね。キレるくらいなら喫煙所を増やせって反論されてましたけど」
「良いなそれ。俺が国内1位取れてたらそんな今もあったかもしれん」
そういや今の道明の理事長って先生の同期な国内1位なんだっけ……。
もし機会が許すなら一度対戦してみたいところだ。
「
葉山先生がふっと僕に向けて言った。
「え?」
「いややってみたいなーって感じの顔してたから忠告しただけだ。衰えもあるだろうが、あいつは知識や経験はあっても適性ありきで回すタイプだからな……多分聖岳みたいなのは天敵だな。初対戦で考えても俺のがまだ保つはずだ。一番の問題は聖岳のようなプレイヤーに遭う経験がまず起こらない事なんだが……」
葉山先生がそこまで言うならやめておこう。
流石に中年男性が泣いて降参する姿は2度も見たくない。
「オイ聖岳、なんか失礼な事考えてるだろお前……」
「そんなに顔に出ますかねえ……」
「考えてんじゃねえか。門倉と過ごすようになってからかなり表情に出るようになった感じだな。いずれプロになるんだろうから気をつけとけ」
「なるほど……」
競技シーン用のマインドセットでも練習しておくべきかな。
今日はやっておいた方が良さそうな事がたくさん見つかる日だ。
「俺はタケちゃんほどに才能あるなら多分廊下に居る蒲原プロみたいなタイプになると思ってたんだが……なんでか葉山さんが近いタイプになってるのは面白いもんだよな」
「俺よりよっぽどタチ悪いけどなコイツ……ん、沁みるなー水……ただ、
「同じ?」
先生がお冷やを飲み干してそう言った。対してモヒカンさんは、葉山先生の言葉の意味がなんだか分かっていないような表情だ。
「森部は精霊もあって、適性に合ったデッキを使いたいからプロ諦めたろ? 俺は違ったからな」
「そういやいつだったかの講話で言ってましたね、才能が足りないのが分かってたけど食らいついたって……」
そこだ、と先生が人差し指を立てた。
「聖岳は才能があるのに考え方が俺というか適性が足りてないのを分かっててなお足掻いてるプロに近い。中戸……あそこで無料チャレンジやってる生徒だが、あっちはもっと昔の俺と似てる。才能の限界が自分で見えてて、だからやれる事は当然やるし今のうちに評価伸ばして無理せずプロを続けていきたいってタイプだ。道明だと準レギュラーで結構見るタイプだが、何かのきっかけで夢を見ちまうから平均してのプロ寿命は短くなる傾向にあるのが難点だな。だが聖岳は違う、当然やれる事はやる。その上で才能があるから同等の対戦相手も見えていて、相手のデッキや適性に合った動きで最適リーサルに沿ってその場で自分が勝てるまでのレールを順次組んでいる。複数並べられたレールでちゃんと勝てるのは一つだ。それを読まなきゃならんのにレール間の距離が近過ぎて読めない」
おー流石元国内4位。ちゃんと僕がよくやってる事を言語化できてるのは初めて見たかも。
「
「まあ違うデッキでやりますよね。それしか使えないって訳じゃないんですし」
「こいつの適性高いのに範囲もクソ広いから余計分かりにくいんだよな……」
何? 僕はたくさんデッキを組んで遊べて嬉しい、皆も色んなデッキを知る事ができて嬉しいとなるものではないのか?
となっていたのが中学時代の僕の回答である。
しかしこの間先輩から習ったので、これはなんかめちゃくちゃデッキ切り替えられるヤバい奴として見られるらしい。だってたくさんやれるの嬉しいし……それに今日くらいは許してくれ。
お互いが楽しいアトラクションの為には僕は身を切ることも辞さない。
「コントロールが得意で代わりに最適性のギミックタイプがもっと得意なだけですって……」
「それはだけとは言わねえ。門倉はよくこいつ殴らずに居られるな……」
「ムーさんが聞いたら泣くぞそれ。1%でいいから私に頂戴! 信じて! とか言うぞ」
「店長さんはまあ一回マッチしてデッキ見てからですかね……」
「俺はあんま見ない方がいいと思うけどなあのデッキ……」
そう言われると余計気になってくるな……。
「しかし森部が神田の店に居たとはなぁ……森部、お前今は楽しいか?」
「前よりはずっとですね。何しろ、夢破れて心も折れた子供を見なくて済む」
「実際には全国だけが生徒の目指す道って訳でもないからケアした方がいいんだがな……もしも道明に俺が居たら今頃違う物が見れたかもしれん。まあ篠ノ芽に来てこうなってるから諦めてくれ」
「俺としては篠ノ芽と道明が同レベルくらいになって、毎年ちょっかい掛けにくる高校がもう1〜2校くらいあるとテレビでやってる試合中継も楽しんで見れそうなんですけどね」
「何年掛かるんだよそれ……」
「俺は篠ノ芽対道明で勝率トントンは結構早いと思いますがね」
「黄金世代によるかなぁ……」
「プロになれるくらいには強いですよ。A級のは2人ですかね」
「お前のは参考にならんから喋らなくてよろしい」
「そんなー」
先生僕への当たり強めだよね。まあ迷惑よくかけてるから許すけど。
◆
「本日は沢山のお客様に来て頂き誠に有難う御座います──」
先生がまた呼ばれて何処かへ去ったり、回復? 出来た店長さんが他の場所へ向かおうとしてサキちゃんと風見を見て崩れ落ちたり、崩れ落ちた店長さんをモヒカンさんが拾って帰って行ったりと色々ありつつも、〆の閉会式は平和に終わった。
帰り支度と行きたいところだが、僕らにはまだ仕事が残っている。喫茶店の後片付けだ。
そんな訳でクラス一同後片付けに勤しむ最中、女子組の騒がしい声が教室内に響いている有様だったが、大崎が僕に話しかけてきた。
「さっき金目と話しててじゃあ聞いてみるかって思ったんだけどさ、タケちゃんが門倉さんの1番好きな所って何なんだ?」
「メンタルかな。僕より強いからね」
先輩のあのメンタルの強さは遍くPJプレイヤーにあると僕が嬉しい。もちろん僕があの心の強さを獲得しても嬉しい。
「じゃあ肉体面だと?」
おい今君は地雷を踏んだぞ。
「髪がふわふわで触り心地いいし目がめちゃくちゃ綺麗だし偶にキラキラ光るような目の色に見えるのが最高に可愛いし低い身長も素敵だしボディランゲージがかなり多いし偶に私って言って顔赤らめる時も可愛いし──」
「分かった。俺が悪かった。ストップ」
「足が小ぶりなんだけど爪切りしてあげる時に目を閉じるのと切ってから恐る恐る目を開けるところとかいいよね──」
「なんかもの凄い事を聞かされてないか俺!?」
「聖岳君と? そうだねえ……」
そうして大崎の質問に答えていると、聖岳イヤーが女子グループの中から選り分けた先輩の声をキャッチした。
「後は試験と進級を頑張るだけだね! とりあえず今度の三連休はお泊まり特訓だよ!」
そんな言葉を察知し、僕は膝から崩れ落ちた。
尊過ぎたのだ。
「門倉さん! ちょっと聖岳の事見てやってくれない!?俺じゃ無理なんだよ!」
相変わらず先輩は僕へのメタカードとしての機能を失いそうにない。
○クソザコお役立たない情報
サキちゃんに憑く精霊であるセキトの鳴き声は渋い低音。