TCGクソザコナメクジ先輩と僕。   作:餅屋

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執筆の息抜きにカードを考えたりしながら投稿です。


14.ぼくと進級試験。

 

 卒業式が終わった。

 かつて見知った元同級生達が、思い思いの面々と固まりながら、語り合いながら、篠ノ芽高校を去っていく。

 悔しくもぼくはその中には入れなかったが、それでもぼくの元に来る人たちは少なからず居る。

 例えば今話している近山君や、その彼女である葛里(くずり)ちゃんがそうだ。

 

「門倉、進級頑張ってくれよ。応援してる。聖岳も頼んだぞ」

「桜子ちゃんきっと進級してね! それで私と同じ学校に来てまた勉強教えてね!!! 聖岳君は……新入生にはお手柔らかにね」

「葛里先輩、残念ですが……僕はPJに手を抜くという概念を随分昔に投げ捨てているので……」

「近山君はともかく葛里ちゃんはどうなのさそれ……」

「PJ部って接点が無かったら私きっと留年しちゃうよ! ……待てよ? 留年したら桜子ちゃんと同級生になるからむしろアド……?」

「その考えはやめた方が良いよ!?」

 

 特にPJ部の面々は、ぼくに声をかけてくれる。

 ぼくはもうPJ部じゃないのにね。

 不思議な感触だ。一度ほどけたはずの縁が、後になってまた結ばれたというのは。

 それはきっと、今ぼくの隣に居る海君のおかげだろう。

 入れ替わり立ち替わり、誰かがぼくらに声を掛けて去っていく。ぼくも海君も、篠ノ芽の生徒からすると問題児カップルだからね。衆目はまあまあ集める方だ。

 

 今では在学生で海君にマッチを挑む者は殆どいない。

 居てもPJ部に在籍する子くらいのもので、別の部活をやりながら腕に自信のある生徒は大抵が羆大将事件*1なんて呼ばれている去年の夏の出来事を知ってしまったりや、勇んで挑んできたは良いが返り討ちにされた対戦後のアドバイス*2で心にそこそこのダメージを負って挑まなくなっていった。

 つまるところこれは、対戦相手のマンネリ化が起きつつあるって事だ。海君自身はハイレベルに扱える範囲がめちゃくちゃ広いから余計にね。

 

 そのせいなのか、最近の彼はぼくのデッキ構成や回し方の研究にお熱だ。

 ぼくとしてはもっと自由にPJを楽しんでもらいたいと思っているけれど、ぼくが持つ数少ない頼みの綱なサキちゃんやパパは忙しくて気軽に呼ぶわけには行かないし、この時期では葉山先生も諸々の業務で忙しい。

 

 海君がしばしば頼っている風見君にしても、高校卒業後のプロ挑戦に向けて、3年生からはこれまでのようには付き合えなくなりそう、と以前言っていたから、そろそろ暇もなくなってきた事だろう。

 

 となれば現状まだまだ弱いぼくとしては、今できる最善でラスボスこと進級試験を打ち倒し、憂いのない状態で海君とPJができる段階まで高めていきたい物である。

 まあぼくのデッキの完成にはまだまだ遠くて、なんとか海君が言うところの最低ラインである適性無し8枚までなんとか絞り込んでからは全く進んでいないのだが。

 

「……そろそろお開きかな?」

「そんな感じですかね。それじゃ、ちょっと後片付けしに行きますか……」

 

 海君とそうやり取りをしながら、ぼくは足を校舎へ進めた。隣に歩幅を合わせてくれる人が居ることの、なんて安心できることだろうか。

 ぼくと彼が、付き合い始めてからもう2ヶ月ほどすれば2年になる。

 ぼくらはどれくらい進むことが出来たのだろうか? 直接訊くには怖さがあるのは内緒だ。

 それにしても。

 

「まさか……明日から進級試験になるとはね……」

 

 篠ノ芽高校の進級試験は必須カリキュラム上の問題で放課後に行われる実技試験が先にあり、そのあとの日程で学科試験なのだ。なのでこの時期の先生たちは、いつにも増して忙しそうになる。今年はスケジュールがズレ込んだので若干遅れている。

 

 

「今年の2年実技は葉山先生が全員担当するって聞いたんで、多分その関係でスケジュールが例年とズレたんでしょうね……ま、ここまで来たらやるしかないでしょう。僕が代わりに受けるわけにも行かないので、先輩の試験の時は廊下で応援しておきます」

 

 ぼくらはまあまあ不安の残る状態で、ラスボス戦に挑む事となっていた。

 この後教室に戻ったら、クラスメイトに「二人とも手伝うのは良いから試験用のデッキ検討してて!」って言われた。ぼくは幸せ者である。

 

 ○

 

「あと8枚……どうしようか……?」

「手に入る限りは試しちゃいましたし、このパターンだと多分今後の新弾で増えるやつなんですよね……」

 

 その日の夜のこと。ぼくはいつものように海君のお家でうぬぬと唸っていた。

 彼のPJに対する見立てはほぼ正しい。となると残りの8枚分を何にすべきかなのだけど……。

 

「桜子さん」

「なんだい?」

 

 海君がぼくにアドバイスをする時は、いつも優しい顔をしている。

 

「僕は桜子さんがこのデッキで何を取り入れたいかで8枚分の枠は決めてしまって良いと思います。その方がデッキも楽しく扱えますからね」

「楽しく扱う……そういう物なのかい……?」

 

 悔しくはあるが、ぼくは今でもPJでの勝利の味を知らない。

 だからか海君が言うには、「先輩はプレイヤーとしての素質は抜群ですが、まだまだ雛鳥ですね」となるそうだ。

 この言葉はぼくにとって厳しくも優しい物だ。僕はプレイヤーとしての最初に踏むべき地点に到達してさえいないという事だから。

 

 しかしそう言いながらも、海君はぼくとの対戦で一切容赦をしない。

 これまで少なく見ても1000回くらいはやっているであろう彼との対戦での動き方は、実践での体感としての方法論を根付かせるアドバイスとして僕の中に息付いている。

 最近やっとその意味が分かりかけてきた所だ。ぼくは彼の一番弟子と言えるのかもしれない。

 

「今適性を持つデッキを触って改めて自覚出来たとは思いますが、適性があってもPJに事故は起きる物なんです。とは言っても以前ほどじゃないですけどね。なら自分が楽しくプレイ出来るように組む方が僕は良いと思います」

「楽しくプレイ……」

 

 海君がよく言う言葉だ。実際彼はマッチ中いつも楽しそうだし、楽しくなさそうな時は何か海君の考えなりでのプレイミスをした時になるらしい。

 いきなりスンッてするからね。スンッて。近頃はあんまり見ないけど。

 

「モチベーションも上がりますからね」

 

 考えてみよう。

 ぼくのデッキのキーカードを担当する【散乱光】は染色特化テーマだ。

 狙われやすいが、染色しない領域はほぼ無いと言っていい。なので染色ギミックが持つ大抵のギミック──プレイコスト軽減、盤面へのバフデバフ、プレイ条件など──も内包出来ている。

 それにかなり珍しい部類に入る、相手への強制染色すら備えている。

 構成はコントロール、テーマもあり白や黒の札は比較的少ない。となると……。

 

「リソースブーストは数が少なくなってるから入れたいね……」

「リソースブースト系も汎用系は大抵試しましたね……」

「となるとそれ以外……試してないのってテーマ持ちとかになるのかな?」

 

 試した限りでは、テーマ持ちのカードはほぼ相性が悪かった。ただ全色持ちのカードはそうでもなくて、例えば【虹のフラミンゴ】は無事デッキ入りした。あのカードは面白いフレーバーテキストだよね。

 

「殆どがテーマ持ちですが、一部はコスト比が著しく悪かったり、デメリットが大きいと見做されてる物になりますね。ちょっと眺めてみてピンと来たら入れるとかしても良いですし、これまで試したことのある物から特に好みの動きが出来る物を入れても良いと思います。適性の縛りがなければこの辺自由なんですけどね……」

「海君ならどうするんだい?」

 

 ぼくが訊ねると、海君は悩ましい顔から、優しい表情になって言う。

 

「僕は……ここまで来ると桜子さんに言えることは無いですね」

「困ったなあ……ぼくは優柔不断だから……」

「僕が思うに……」

「?」

「精霊や適性というオカルトめいた物が実在する以上、善し悪しはともかく桜子さんが選んだという事にも何かしらの意味が生まれているはずです。なので僕は桜子さんの選択を信じて祈るだけですね」

「海君……」

 

 ぼくが海君の言葉に嬉しくなっていると、クランプスちゃんがちょっと不機嫌そうにアイマスクを上げ、ぼくらのところまでふよふよやってきて言った。

 

『試験は大事なんだろう。早く寝ろ……クランプスのように……』

「クランプスの機嫌がよくないですね」

「最近こういう事が増えたねえ」

 

 年明けくらいからすごく増えた気がする。理由はよく分からない。

 そのままクランプスちゃんは珍しくため息を吐いて、海君に言った。

 

『ご主人、クランプスは今度の休日からしばらくご主人の実家で過ごしたいと思う』

「いいけど……何かあった?」

『……チッ』

「舌打ち!?」

 

 クランプスちゃんがご機嫌ななめな夜は、ぼくらも早く眠って英気を養うに限る。

 

 そんなこんなで海君の助言通り、ぼくは残りの8枚を埋め、やっぱりいつものように彼と一緒に就寝した。

 クラスと名前順的に、ぼくは試験早々本番な事もあり、流石に緊張して眠れないかと思ったのだが……ベッドで彼のにおいを感じながら目を瞑ると、すぅっと意識を手放してしまった。

 

 ◆

 

「おはよう」

「おはよー!」

 

 翌日、海君と共に登校して入ったクラス内は、普段に比べると俄然ピリピリとした雰囲気に包まれていた。皆もやっぱり緊張しているらしい。

 

 今日実技進級試験を受けるのはぼくが最後。明日は聖岳君で最後。今日明日が葉山先生の負荷もあってちょっと特殊な日程で、明後日以降は1日15〜20人ペースで消化していくと聞いている。

 なので来週頭くらいから学科試験の始まりだ。海君やPJ部の面々と勉強会もしないとね。

 

「タケちゃん! 先生何使ってくると思う!?」

「スタンダードレギュのテーマデッキでしょ。昨日も帰りのHRで言ってたよね?」

 

 例年に倣うと、一応最新弾とその一個前の弾のテーマデッキからどれか、という感じになる。なので範囲として見るならテーマ種はだいたい70種類弱くらいだ。

 デッキ相性の善し悪しもあるので勝敗はやはり関係ない。ただ中間や期末の実技よりも厳しいのは確かで、プレイミスを何度もしていたりすると落ちるらしい……と近山君とかが言っていた。

 ぼくはそれ以前の問題だったけどね! 

 

「ノー……そういうのではなく……」

「海君だと葉山先生は何使ってくると思う?」

「【クエーサーコントロール】ですかね。葉山先生の最適性がそれって聞いた覚えあるので」

「ねえそれ……ノーリミ……」

「ほら、僕の時は特例で先生がノーリミだから……」

「進級試験でも特例のままなんだね……」

 

 それだけやらないと何事もなく海君が勝つからだろうか? 

 でもぼくは最近思うんだ。スタンダードでもノーリミットでも、海君から視線を外してるととんでもないデッキ作ってるんじゃないかなって。

 

「そういやそうだった……」

「肝心な時は助言が心許ないね……」

「まあ大崎も自分の一番自信あるデッキで挑むんでしょ? プレミしないように気を付けながら全力でプレイしてたら進級出来るはずだよ。去年の進級試験の感じだと勝つ為に必要な冷静さや諦めずに食らいつける執念を見てるはずだから、適当なプレイをしてると容赦なく落とされるって形だと思う」

「出来るかな……」

「そういえば……海君は試験で何のデッキを使うんだい? お互い試験が終わったらフリープレイをしたいんだ」

 

 海君はほっておくとデッキが増減している。なのでぼくもやったことの無いデッキがたくさんあるし、たまにめちゃくちゃ短期間で崩されて別物になっているデッキもある。

 ぼくとしては是非見逃さずコンプリートしてみたい気持ちがあるのだ。

 

「僕はせっかくなんで先週弄り直した【五道】デッキでやろうかなって思ってます。牢主も活躍したそうな感覚伝えてきてますから。……直前で気が変わる可能性も十分ありますが」

「タケちゃん、初手牢主はするんじゃないぞ」

「検討しておくね」

 

 絶対検討しないつもりの答えに大崎君が顔を覆っていた。多分するんだろうな……。

 ともあれ、今一度ぼくら全員の進級を願った。

 

「……皆進級しようね!」

「門倉ちゃん……一番心配されてるのは門倉ちゃんだよ……」

 

 しかし、即金目ちゃんに水を差されてしまった。

 まあ……だよね! 

 

 ○

 

「失礼します」

 

 試験会場であるマッチルームは静かだった。

 普段立ち寄る時は生徒で賑やかな場所だが、今は先生とぼくだけが存在する深夜のコロセウムのように物寂しい雰囲気だ。

 

「時刻よし、では出席番号10番、門倉桜子の進級試験を開始する」

「はい! よろしくお願いします!」

 

 今回こそ、乗り越えてやろう。

 ぼくはそう心に決めて、試験へ臨む。

 

「マッチ開始、試験要項に則りこちらが先攻を貰う。スタンバイからドローまで、手札1枚を伏せ、1リソースと手札の緑1枚で【闇市の妖精】をプレイ。選択するのは上の効果だ」

 

【闇市の妖精】は【ブラックマーケット】テーマにおける優秀かつコンボの基点になるカードだ。リソースブーストが終わっても、その時は下の効果である妖精以外を選んでそのターン中パワー+1000とブレイク+1で非常に腐りにくい。

 これに加えて別のカードとのコンボでコスト無視踏み倒しの条件の一つでもあるんだから凄いカードだよね。

 

「リソース上限と一時リソースをそれぞれ1獲得し、続けて1リソースで【タイムセール】をプレイ。俺が先攻の時、奇数ターンなら2枚引くことが、後攻なら偶数ターンの時に2枚引ける……まあ勿論覚えているな。なので2枚引き……追加で1枚伏せてターン終了だ」

「ぼくのターンです。スタンバイからドローまで、反応はありますか?」

「無しだ。門倉、時間省略も兼ねて反応があれば都度こちらで手を挙げるからそう畏まらなくていい。これは門倉の方も同様だ。それも込みでお前と聖岳は実施日最後の順番にしている」

 

 ぼくはともかく……海君とマッチするとヘトヘトになりそうだもんね。

 ともあれ気を引き締め直し、プレイ再開だ。

 

「分かりました。では手札を2枚伏せ、【万華鏡職人】をプレイします。効果でぼくは手札を1枚捨て、その後山札から捨てた色と同じ色を持つイベントを公開してから手札に加える事ができます。この時捨てたカードが全色を持っている場合、サーチ後に追加でドローが可能です。ぼくは山札から【色彩の大河】を手札に加え、1枚ドロー。ではバトルフェイズに入ります」

 

 先生が手を挙げる。

 このタイミングで反応となると更にブーストとか……? 

 

「バトルフェイズに入った際、反応する。伏せの【ブラックリスト】をプレイ。俺の山札の上から2枚を除外ゾーンに送り、送られたカードのコスト合計分以下のカードを相手の場と手札から全て除外ゾーンに送る」

「場の【万華鏡職人】を除外ゾーンへ、手札を公開しますが該当カードはありません。バトルフェイズに入りましたが、キャラが存在しない為エンドフェイズまで、先生のターンです」

 

【ブラックリスト】はこちらの手札を見るのが本命だったようだ。想定よりもかなり早くデッキが理解されていく。緊張で冷や汗をかいてしまう。

 

「スタンバイからドロー、ドローフェイズ時に伏せが反応、【水先案内人】をプレイする。現在の自分のリソース上限以下のコストを持つカードを山札から1枚選び、公開してから手札に加える事ができる。加えるのは【マーケットの掃除屋】、そしてドロー。反応はなし、2リソース、手札から【闇市の妖精(ティンカー)】をプレイ、再び上の効果を使用し、続けて1リソースと手札の【マーケットの女主人 耀鳴】による白3をコストに支払い【闇市の仕立て屋(テイラー)】をプレイ」

「っ」

 

 ほんの少し、1秒にも満たないくらいだけど、ぼくは悩んだ。

 海君ならマッチが終わってからもうちょっと早く判断しましょう、と助言してくれるくらいの、遅延した判断だ。

 

「仕立て屋のプレイコスト支払いに反応、1リソースと手札の赤1を支払い伏せの【スペクトラム】をプレイ、コストとして支払った白3を黒3に変更します」

「おっと、そうか……そういう型か……。了解だ。仕立て屋のプレイが中止される。バトルフェイズへ」

 

 葉山先生が静かに呟いた。

 海君曰く──先生は、現在のBランクプロ基準であれば間違いなく一番強いプレイヤーになるという。今の海君のように場違いなくらいの。

 

 現代での基準こそ満たさないが、かつてプロとして全国4位を獲ったのは伊達でもなんでもない。

 才能が足りないからこそ出来ることを、それこそ一時的に弱くなる事さえ飲み込んでなんでもやったプレイヤーの行きつく先がかつての葉山先生なのだと、海君が言っていた。

 

 その経験からなのか、指導力はなんで篠ノ芽に所属しているのかわからないくらいに高い。葉山先生の能力の高さであればもっと別の場所に、篠ノ芽よりも良い待遇で迎え入れられる事も出来ただろう。

 

 程度の差はあれどほぼ全てのデッキを扱う事が、人に指導できるレベルで可能な監督など国内には数える程しか居ないだろうし、その中でも葉山先生はトップに立てるだけの能力を持っている。

 僕が篠ノ芽を目指したのも、夢への道筋として狙える場所だったというのと、入学前に伝え聞いていた葉山先生の見識ならばあるいは、という考えが少なからずあったからだ。

 

 しかし実力に見合わず、葉山先生は篠ノ芽で教鞭を執っている。その真意は分からないが、今この時は嬉しくも辛くもある。

 

 デッキタイプがバレるという事は、先生相手には辛いがやるしかない。ぼくの今出せる全力をぶつけなければ。

 

「1体目の【闇市の妖精】でプレイヤーへ攻撃、チャンスステップで公開されたのは【マーケットの女主人 耀鳴】、1ダメージ。続けて2体目の妖精で攻撃。公開されたのは【闇市の棺桶屋】。再び1ダメージ。ターン終了だ」

 

 耀鳴が補充された。【ブラックマーケット】相手では、いの1番に警戒されるカードが【マーケットの女主人 耀鳴】である。手札に入れさせてもダメ、場に出させてもダメという能力を持つ為、制限されるべきという声も大きい。

 ぼくは良い効果デザインしてると思うんだけどね。あとイラストが美人さんでかっこいいし。

 

「スタンバイからドロー、2リソースと手札の黒1で【色彩の大河】をプレイ。プレイ時にぼくの手札から1枚を除外ゾーンへ送り、そのカードが持つ色の数だけ山札の上から公開し、それぞれ違う色を持つカードを手札に加えます……5枚中色被りは1なので4枚手札へ」

 

 海君曰く、これがPJ部レギュラー相当のプレイヤーにおける一般的な事故にあたるらしい。ぼくとしてはまだまだ新体験ではあるが、今この瞬間はこれがありがたい。

 強烈なカウンターとして機能するスペクトラムも見せた。このデッキが詳らかになるのは遅いか早いかの違いしかない。

 見せた札がどこまで葉山先生相手に通じるかがぼくの今後の展開に大きく影響するだろう。

 

 葉山先生の力量は僕が知る中ではサキちゃんの次に高い。そのレベルであれば、山札の一周はデッキの中身や内蔵されている仕組みをほぼ把握される事に等しい。

 

 一周する前にアドバンテージを広げられれば良いのだが、残念ながらぼくのデッキも、今回の葉山先生のデッキも同じコントロール。

 決着までに山札は数周する事を前提としたプレイが必要だ。

 

 だからぼくのレベルではともかく、プレイヤーとしての葉山先生には公開情報はより優位に働いている。

 

「……手札から2枚を伏せ、【いのちの色】をプレイ、プレイ時に手札から全色となるように手札を公開、公開するのは全色持ちの【虹のフラミンゴ】です。リソース上限を2増やし、そのままエンドまで」

 

【いのちの色】は【散乱光】を持つブースト。テーマデッキなら怖くはないが、ぼくのデッキは【散乱光】軸のフルカラーデッキなので、手札を見せ過ぎる必要に駆られることもある。今回は上手くいったので一安心。

 

「ターンを貰う。スタンバイからドローまで、3リソースに手札の白1を支払い【闇市の仕立て屋】をプレイ。プレイ時効果で手札を1枚捨て、俺の山札からチャンスカードを2枚まで選び場にセットできる。続けて1リソースと手札の黒1を支払い【闇市の棺桶屋】をプレイ。ダストボックスからキャラクターを2枚選び、手札に加える事ができる。回収するのは【マーケットの女主人 耀鳴】と【闇市の用心棒】だ。バトルフェイズに入るぞ」

 

 ぼくは手を挙げる。そろそろ妖精を処理できないとまずいからだ。

 

「伏せの【内乱幇助】を反応させます。ぼくが手札の緑1枚を捨て、場にその色を持ち、同じテーマを持つキャラクターが2体以上存在する時、そのうちの2体をバトルさせる事ができます」

「【闇市の妖精】2体がダストへ送られ、【闇市の仕立て屋】は場に居るが今はブレイク0の為プレイヤーには攻撃できない。ターンエンドだな」

「僕のターンです。スタンバイからドロー……」

 

 静かにターンが進んでいく。

 刻々と。

 

 ○

 

 今は、何ターン目だったかな。

 ぼくのライフは12。先生のライフは16。

 盤面はぼくが伏せ3キャラ2エリア1、先生が伏せ2キャラ3となっている。

 手札はお互い4枚。

 

 疲れが出ている。これはぼくに長丁場の実戦経験が不足しているから。

 真剣なマッチでここまで持ち堪えられた事は、これまで無かったからね。

 

「門倉は体力作りが課題だな。適性的にも長丁場に耐えられるようになった方が良いだろう、それと今は25ターン目だ。俺のターンを始める。スタンバイからドロー、場の耀鳴2体による軽減が入り、リソース6と手札の黒1を支払い【マーケットの顔役 大旦那】をプレイ。2体の耀鳴を疲労させ、大旦那のパワーとブレイクを上昇。そしてバトルに入るぞ」

 

 先生の言うとおり、多分人から見ると今のぼくはふらふらしているんだろう。

 でも、なんとなくわかってきた。

 これまで海君がぼくに教えてくれた事。勝つ為に必要な事。

 ぼくに足りなかったものが。

 

「バトルに入った際、伏せの【人身御供】が反応します。手札の【揺蕩うマアンナ】を捨て、15コスト以下のキャラクターをダストボックスに。対象は【マーケットの顔役 大旦那】」

「【人身御供】にこちらの伏せである【抹消屋】を反応、場の【闇市の妖精】をダストボックスに送り、【人身御供】の効果を無効とする。そして1枚引く。更に反応は?」

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

 止める事はできる。でも、今やるべきではないと感じた。

 一歩間違えれば負けそうなライフなのに。

 

「ありません」

「改めてバトルフェイズに入る。大旦那でプレイヤーへ攻撃、攻撃時に大旦那の効果が発動、このカードのチャンスステップ時にカードを1枚ではなく2枚公開し、その中から【ブラックマーケット】テーマを持つキャラクターを1枚まで1リソースの支払いでプレイできる。公開された中から【闇市の用心棒】をプレイ」

 

【マーケットの顔役 大旦那】は、【ブラックマーケット】のフィニッシャーの1枚。強力な展開能力と貫通効果、そして自身の能力も相まって中々場を離れる事がない、優秀なカード。

 

「対象変更、攻撃対象をぼくから場の【潜むカーバンクル】へ」

「バトル、【潜むカーバンクル】はダストボックスへ。貫通効果が反応し、相手へ6ダメージ」

「バトルによりカーバンクルがダストに送られます。ダストに送られた時の効果、カーバンクルが持つ色の数だけ、相手の場のキャラクターを選び、次のぼくのターンの終わりまで、攻撃と能力の任意発動を行えなくなります。カーバンクルは場の【未知色領域】により全色を保持、全体にその効果を付与します」

 

【潜むカーバンクル】のようなカードが持つ能力の任意使用不可はテキストに比べて実情がかなり変わっていて、攻撃対象の変更も使用不可の中に含んでいる。

 だから今必要。

 

「これでやれる事はないな。ターンを渡す」

「ぼくのターン、スタンバイからドロー……」

 

 勝てるのか? という疑問がぼくの頭に過る。この手札からのリーサルは、多分可能だ。

 ただ、それは不確定だ。不確定な状況でそれを狙えるのか? 

 それでもぼくが、このターンを逃して先生に勝てる可能性は限りなく低い。でも、カーバンクルが効果を発揮した今じゃないとリーサルは狙えない。

 ふと、海君が言っていた事を思い出す。

 

「プレイヤー自身がデッキを信じてやれば、応えてくれますよ。程度の差はありますが……僕達プレイヤーがデッキを信じてあげるべきです。なんてったって組んだのは僕達ですからね」

 

 完全に非合理的な言葉だ。特にぼくには信じがたい事でもある。

 それでも、少しは。

 今日ここまで頑張ってくれたこの子は。

 

「3リソース、【色彩の大河】をプレイします」

 

 信じても良いって思えた。

 

「赤、青、緑、黒の計4枚を手札に加え、続けて2リソース支払い、【光の三原色】をプレイします。お互いに場の全てのカードを公開状態に、その後、赤、緑、青のいずれかを持たないカードが全てダストに贈られます。ぼくは伏せの【法治】がダストへ」

「俺は伏せの【写し鏡】と【闇市の用心棒】をダストに」

 

 先生の伏せに、ぼくが警戒していた種類の札はない。

 

「1リソースに各色の手札を支払い、【答え待つもの】をプレイします。そのままバトルフェイズに。【答え待つもの】で攻撃時に各能力が反応します」

 

 海君にも縁の深い、このデッキとは非常に相性の良いフィニッシャー。頼らせてもらうよ。

 

「赤のバーン、青のセット、緑のライフ回復、白の選択不可、黒の盤面破壊。再行動効果の処理は後に回そう。ひとまず俺が4点受け、門倉のライフが4回復する」

「青の効果、ダストからセットするのは【スペクトラム】。黒の効果、山札の上から2枚をダストに送り、先生の場の伏せの【合言葉】をダストへ。再行動効果を使います──」

 

 ──考える、考えた。

 先生の残り山札は7枚。あのデッキは殆どのカードが4枚積みによる8種で構成されていた。【闇市のもぐら(スパイ)】を利用した踏み倒しの為、それらのキーカードである妖精や仕立て屋、用心棒は4枚投入されている。

 ダストに落ち切っているのは4枚投入のうち7種類、残り1種がおそらく僅かに山札に残っていて、それ以外は枚数が少ない。

 ピン刺しのカードは数枚見えたが、今はそのうちの1枚しか見えていない。

 2枚以上投入されているのなら、それは使う場面が多いと考えられたり、除去される事を前提としてプレイする為の物。

 

「宣言は、一番上です」

「ああ。カード名は?」

 

 ぼくは先生の除外ゾーンに視線をやった。

 置かれているのは【マーケットの顔役 大旦那】と【マーケットの女主人 耀鳴】、それに【ブラックリスト】、【闇市の用心棒】の4枚。

 思い浮かんだ名前がある。それは確率的には低い物だ。今まさに見えているのだから、絶対数が少ない。だから合理的じゃない。

 でも。

 

「ぼくが宣言するカード名は……【ブラックリスト】」

 

 でも、ぼくはこれまで合理的じゃない手札や山札をずっと見てきたんだ。1枚だけでも見えていないのなら、その可能性はゼロじゃない。

 

「俺の山札の上から1枚をダストに置く……置かれたのは【ブラックリスト】」

「【答え待つもの】が回復し、チャンスフェイズで公開されたのは【揺蕩うマアンナ】、再度攻撃です」

 

 マアンナ、これも使ってやりたいカードだ。今回はダメだったけど、いつかこのカードにお世話になる日も来るだろう。

 今は素直にそう思える。

 

「2度目のバーンダメージと攻撃ダメージが通って俺が敗北する……おめでとう門倉、初勝利だな」

「対戦、ありがとうございました!」

 

 先生の言葉に、じんわり涙が浮かんできた。

 ぼくは先生に頭を下げた。

 

「こちらこそありがとう。これなら文句なしの合格だろう……ただまあ、体力は付けておけ。足元に気をつけて帰るんだぞ」

「はい!」

 

 再度先生に礼をして、廊下で待っている海君の元へ走っていく。

 

 海君、君にその瞬間を見せてあげられなかったのは残念だけど。

 

 ぼくは、勝てたよ! 

 

 ○

 

 勢いのままに海君を見つけて、ぼくは彼に思い切り抱きついた。彼もぎゅっと控えめに抱き返してくれる。

 

「お疲れ様でした。先輩も雛鳥卒業ですね」

「海君や、皆や、先生達のおかげだよ」

「これは僕も負けていられませんね……葉山先生には悪いんですが、ちょっと【五道】を適性一時上げ用に弄り直ししますか……」

 

 ぼくはその言葉を聞いて思わず振り向き、多分監督室の方に居るであろう葉山先生に敬礼をした。

 

「桜子さんどうしたんです?」

「いやあちょっと……明日の先生が不憫に思えてね……?」

「先生なら僕がそれくらいの事はしてくるって多分分かってるだろうし大丈夫ですよ。強いですし。まあ僕の方が強いですが」

「海君はいつも変わらないねえ……」

 

 僕の言葉にか、ふっと海君が足を止めた。

 

「僕は先輩に会ってから、ずっと変わってますよ。毎日みたいに」

「そうなのかい?」

 

 ぼくとしてはあんまりわからない。

 だって海君はぼくにずっと優しいし、PJにおいてもずっと容赦しない。これらはこれからも変わらないだろう。

 

「僕の進級が確定してるみたいであんまりよくないんですが……桜子さん、これからもよろしくお願いしますね」

 

 その言葉に、ぼくはこれまでの人生で最も大きく、胸を張って答えた。

 

「もちろんさ!」

 

*1
氷川君「ゆ……許されないのか……?一回……たった一回のミスなのに……」

*2
善意のアドバイス。




次話は本編最終話ですが、後日談も色々考えてはあるのでまあ一区切りつく回ですね。
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