TCGクソザコナメクジ先輩と僕。   作:餅屋

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先輩から負けヒロインの匂いがしている気がしますが投稿です。
今日2話目なので注意。
7/21 ちょっと効果処理で書き忘れ部分があったので書き足し。


2.先輩は心が強い。

 

 プレイマットヨシ! 

 リソースサプライヨシ! 

 デッキヨシ! 

 シャッフル*1&カット*2ヨシ! 

 

「あっ先攻後攻カード出し忘れた。ヨシ!」

「そっちのシャッフルも念入りにね」

 

 別にジャンケンで決めても良いのだが、僕と先輩がジャンケンをすると高確率であいこになって長引きやすいので、公式からパック箱のオマケで付いている先攻後攻カードを使う事が多い。これでも被りがちなので指差すのが早い方が優先となっている。

『もいらい』ではレジ前のご自由にお持ちください箱の中にいつも山積みになっているくらいには余りがちなやつだ。

 

 カードを伏せてせーのでお互いに指差す。今回は先輩の方が僅かに指差すのが早かったのでそちらが優先だ。

 

「ぼくの先攻だね。スタンバイ時にリソースを増やすよ。ドローからメインフェイズに移行して手札を2枚伏せる。更に手札から【天体の巡り】をプレイ。イベントを山札から5枚まで選んで山札の一番上に好きな順番で乗せ……ちゃんとカットしてくれって言ってるじゃないか……!」

「しましたよ……! 見てたでしょう……!」

「いつもこうだからちくしょう!*3

 

 先輩が絶望的な声で文句を言った。僕は悪くない。

 しかし普段とは違いウォームアップに便利な【天体の巡り】を引けてプレイ出来たのは先輩にとって非常に大きい。先輩は僕のデッキタイプが分からない状況なので本来なら後攻1ターン目にプレイできるのが理想形だが、引きだけ芸術的にクソザコな先輩にとって、相手の手を読みつつ準備を整えていけるカードは本来相性が非常に良いのだ。

 その手のカードも引けないので何もできないのがこれまでの先輩だった。

 これは革新的なプレイの進歩であると言えよう……僕は食後にアイスも差し上げる事をそっと心に決めた。

 

「カットをお願いするよ」

「はい」

「それじゃリソース1と手札の白カード1枚をダストに置いて【トリニティ・コール】をプレイするよ。山札の上から3枚を手札に加える。この時引いた3枚にコスト3以下のキャラクターが居た場合、その場で公開するとコストを支払わずにプレイ出来るので【天命の観測者】をプレイ」

「うんうん」

「【天命の観測者】がプレイされた際の効果が反応、山札の一番下から4枚をダストへ置き、その中からイベントカードを1枚選んで手札に加えられるんだけど……」

「出てないですね」

「先攻だと殴れないからぼくのターンは終わりだよゥッッッ!」

「惜しかったですね……それじゃ僕のターン貰いますね。スタンバイ時にリソース置いて……と」

 

 手札を見つつアストレア軸のコントロールは何があったかを考える。

 出てきたキャラからして大々的なテーマだった【天塵(てんじん)】だろうか? だとすると早めに動かないと不味い、リソースが10溜まると即死まで見える。

 

「ドローして手札から【オーシャンベリー】をプレイしますね。このカードをゲームから除外してリソースを1増やします。更に2リソースと手札の緑1枚を払って【クラムのスプリッツァー】をプレイ、リソースを2増やし2枚ドロー。場にカードを1枚伏せてから【アペリティフ】をプレイ、更に2リソースを支払い【旅人シェフ】を場に」

「ランプデッキかあ……僕には扱えないデッキで羨ましいよ……」

 

 ランプはいわゆる前世でのビッグマナとか呼ばれる早期にリソースを加速して重量級カードをぶん回すタイプのデッキだ。先輩だと加速カードを引けなくてワァ…ァ…*4ってなってしまう。

 まあこのデッキは半ランプくらいだけど。

 

「この手のは事故ると酷いので先輩に触らせるのはもっと先ですね……【旅人シェフ】の出た時効果で山札から【旅人シェフ】2枚か好きなキャラを相手に見せてから手札に加える事が出来ます。今回は【貪食王タウ】を加えますね。シャッフル&カットお願いします。この時【アペリティフ】が反応するので準備ストックを1つ置きます」

「ほい。【フード】テーマとは珍しいね」

「結構出力あってどんなデッキにも対応しやすいから良いテーマなんですよ。キーパーツが高いのが難点ですが……」

 

【フード】は去年推されていたテーマの一つである。構成色的にライフ回復と加速に優れ、高パワーと優れた常在効果を持つ重量級キャラで盤面のアドバンテージをガンガン取っていくタイプのテーマだ。その代わり基本ブレイク値は控えめなので結構こまめに殴るかイベントによる瞬間強化で一気呵成に仕留めるかの2択になりやすい。

 

「それじゃバトルに入ります。シェフを疲労状態*5にしてプレイヤーに攻撃」

「通すよ」

「チャンスステップ時にトップ*6を公開して手札に加えます。公開されたのは【恵みの滴】。【恵みの滴】自体の効果で即座に場に伏せる事が出来ます。そして代わりに1枚ドロー。そのままエンドです」

 

【恵みの滴】はチャンスステップ時に山札から公開されると即座に伏せる事の出来るチャンスカードだ。その時ついでに1ドロー出来る。チャンス時効果こそキャラクター1体の回復と地味だがどうなっても腐らず、即伏せとオマケの1ドローが凶悪過ぎてフードテーマのみならず色さえ合えばほぼ入ってくる超汎用札でもある。キャラ回復チャンスカードの常として連パンにも利用できるし。

 どうして1ドローを付けた! ありがとう! 

 欠点はコストが白青緑の3リソースと若干重いデザインなのでチャンスステップ時に公開して踏み倒すの前提な事くらいだ。それでも実践値考えると異様に安いくらいなんだけど。

 

「嫌な物がセットされたね……」

「良いカードですね」

「次のターン殴るべきかちょっと考えてしまうじゃないか! PJは殴れなかったら手札枯渇しやすいのに!」

「だからビートダウンがいつも環境から消えないんですねえ*7

「やろうと思えば中速ビートも出来るランプデッキとか存在しちゃいけないよ……スタンバイ時にリソース回復&増加、ドローするよ」

『つがいはわがまま、クランプスとやるか?』

「これよりもっと酷い事になるから嫌だねえ!」

 

 先輩は心底苦々しく答えながらプレイを続ける。

 僕の本気はとてもよくないデッキタイプなので先輩の反応は正しい。

 ちなみにこのフードデッキは僕が去年のカードゲーム試験で使った物だ。偶々とんでもないブン回り方をして8ターン目くらいでリーサルまで行ってしまった。

 先生にはちょっと悪い事をしたと思う。でも本気のデッキじゃなかったから許して欲しい。

「入学試験時のデッキは絶対使わないでくれ」などと言ってきた先生が悪いんだよ……。

 

 ◆

 

「ターンエンド。ジリ貧が押し寄せてくるよ……」

「スタンバイ時にキャラ回復してドローしますね……これはリーサル行けるかも」

「ひぃん……」

 

 14ターン目となった。

 残ライフは僕が17、先輩が14、お互い2度のリシャッフルを挟んでライフ最大値は2減っている。

 盤面は先輩がキャラ3イベント1伏せ2、僕はキャラ5の伏せ1だ。

 手札はお互い6枚。

 先輩はちょっと警戒して手札を惜しみ過ぎかな。フィニッシュカードが引けてないのもありそうだけど。

 

「行きますねー。4リソースで【貪食王タウ】をプレイ、プレイ時に山札の上から5枚を公開し、その中から緑かつ【フード】のキャラを好きな数選んでゲームから除外します……大当たりですね。5枚飛ばします」

「するとどうなる?」

「知らんのか、タウのブレイク値が伸びる。5点アタッカーが生まれました。かわいいね」

「打点がかわいくないよぉ!」

 

 しかも場を離れない限りは永続だ。その代わり基礎ブレイク値が0である。ちょっと打点確保が難しいものの、運が良ければ6〜7コス級アタッカーを4コスで出せるような物なので【フード】を扱うプレイヤーはこいつによく頼る。僕も頼る。

 こいつの欠点はデザインがグロいのでホログラムバトルを行う大きい大会だと使うのを躊躇いたい事と……。

 

「純正【フード】だとトップ操作入れられる枠が全然なんで運任せですけどね」

 

 手が光らないと十全に扱えなかった事だ。

 なんなら去年の公式全国大会開催時のリリースだと【フード】と相性の良いトップ操作カードは全く無かった。

 従来のデッキの色バランスを崩してまでタウ大当たりの為にトップ操作カードを積むべきかどうか? は当時の【フード】使い永遠の課題である。なお大会開催後のパックにはタウと組ませてくださいと言わんばかりのトップ操作用イベントが収録された。アコギな商売しやがるぜ……。

 

「つまり?」

「先輩が何も無しで使うと多分空撃ちしたついでに別のキーパーツがボトムに去っていきます」

「ちくしょう……!」

 

 それはそれとしてタウは強いのだが。今でも【フード】のフィニッシャーとして大活躍している。

 元々のデザインとしてパワーが高く、かつブレイク値が無い事がデメリットとして査定されているので同コスト帯+2〜3コストに匹敵するパワーラインを持つ事、PJのデザイン上除外行為の補正が大きく目玉の特殊効果による査定が軽く済んでいる事、そして【オーシャンベリー】などのプレイ時に除外するカードが【フード】には結構な頻度で収録されている事などからデッキ圧縮によるヒット率増加は結構容易なのだ。今も僕の除外ゾーンには【オーシャンベリー】など計8枚のカードが置かれている。

 そんな訳でこいつは高い。最前線を引いた今でも1枚6万円とかする。全盛期の去年は1枚10万まで伸びていたのを見たくらいだ。

 

「手札から【オーバーチュア】をプレイ、お互いに伏せてあるカードを全てダストに送ります。反応あります?」

「ある。伏せの【星の報せ】を発動して【オーバーチュア】を打ち消す。そっちの対抗はある?」

「無いですね。じゃあ【オーバーチュア】は不発、続けて伏せてある【大嘗祭(だいしょうさい)】を展開します。これに反応は?」

「うっ……無いよ……新規エリアが出たからぼくの【涵養(かんよう)の天文台】がダストに送られる。この時【涵養の天文台】の効果でストックされていたトークンに応じて一度だけイベントのプレイコストをトークン分軽減出来るようになるよ」

「OKです。それじゃ2リソースと手札の白1枚を払って手札から【千食万来】をプレイしますね。反応は?」

「無いねえ……」

「OKです。じゃあ効果処理しますね。山札から3枚を見て好きな数の【フード】をゲームから除外し、その後除外ゾーンに置かれているフードの枚数の半分のブレイク値を場のキャラクター1枚を指定して強化します。今は6枚あるのでブレイク+3。対象はタウで」

 

 これでタウ単独で8点、ムキムキだ。

 もうちょっとムキムキにするが。

 

「うん……」

「更にカードが除外されるイベントをプレイしたので、エリア【大嘗祭】の効果が発動します。僕のキャラ全体にブレイク値+1です。更に1リソース支払い手札から【ストラの秘蔵レシピ】をプレイ。自分のキャラを1枚選び、『貫通』と『幻影』*8のどちらかを付ける事が出来ますがこれは相手に選択させます。先輩はどっちが良いですか?」

「どっちも痛いからそりゃ『貫通』の方が多少マシだよ!」

「はいじゃあ『貫通』をタウに付けますね」

「知ってた」

 

 先輩は感情が抜け落ちたような声で言った。すまない先輩、僕はTCGに手を抜く事は出来ないんだ。

 

「【ストラの秘蔵レシピ】はプレイ後除外されるので更に全体にブレイク+1です。それじゃあバトルフェイズ入りますね」

「はーい……」

「タウでプレイヤーにアタック、アタック時にトップ公開……【恵みの滴】が出たので即伏せして1枚ドロー。山札が無くなったのでダストをリシャッフル……先輩シャッフル&カットお願いします」

「こんなに物悲しいリシャッフルは数ヶ月ぶりな気がするよ……」

 

 心なし先輩のシャッフルの勢いが落ちている。これは対抗策準備できなかった奴だな……。

 

「多分先月の間違いですね。防御はしますか?」

「したいのは山々なんだけど凌げる未来が全く見えなくてねえ……詰みだと思うんだ……降参だよ……」

「ですね……」

 

『貫通』はキャラで防御してもブレイクダメージが相手のブレイク値を上回った分プレイヤーに与えられる。場のキャラの数は僕の方が多く、また先輩の場に残るキャラのブレイク値も最大が3なので10点タウパンチの貫通7点が痛過ぎる。

【恵みの滴】による擬似連パンも出来る状態になってしまったのでタウをふきとばせなければ確定14点で詰みである。

 壁に掛けた時計を見る。針はまもなく18時を指そうとしている。先輩結構考えてたし一戦が長くなったな……。

 

「感想戦はご飯食べながらにしましょうか。今日はアイスもつけますよ」

「本当かい? やったね!」

 

 負ける寸前の先輩のテンションはアイスですぐさま回復していた。

 

『ご主人、クランプスもアイス食べる』

「少しだけね」

『成し遂げたぜ』

 

 君は浮いていただけじゃないか……? 

 

 ◆

 

 ちゅるちゅると麺を啜る音が部屋に響いている。

 酸味が暑気疲れに効いている感じがする。やっぱ夏はさっぱりした物に限る。

 

「……防御札を中盤に切り過ぎたかな……?」

「こっちのデッキタイプ見誤って伏せ除去警戒し過ぎて手札温存に走っちゃったのもあんまりよくなかったですね。【天塵】なら打ち消し系2枚くらい仕込んどいて都度チャンスやら手打ちイベントで天文台のストックガンガン貯めながら【天塵の法則】撃つまで遅滞戦法する方が良いです。キャラ出すテンポは悪くなかったと思うのでそこは問題ないと思います」

 

【天塵の法則】は場のキャラクターを全てダストに送り、ダストに送られたキャラのブレイク値の合計値を相手プレイヤーのライフに直接与えるという【天塵】テーマの切り札としてデザインされた超重量級イベントだ。

 コストも16と普通に手打ちできるデザインではなく、【涵養の天文台】を初めとした各種軽減を駆使して打ち込んで決着まで持っていく形となる。

 2回も打てばほぼ勝てるので、比較的キャラ数を並べがちな高速〜中速ビートダウンのデッキには天敵だった。まあちゃんと回ればだが。

 

「PJのテーマは多過ぎて実際に触ってみないと分からない部分も多いねえ……」

「相手のデッキにもよりますけど実際触ってみると想像よりずっと強いって事が結構あるんですよね……」

『ご主人、アイスもう一個欲しい』

「お腹壊すからだめだよ」

『え〜……』

 

 クランプスのわがままを叱りつつ、先輩の動きを思い返してみる。やっぱり動き自体は問題ないんだよな……引きが壊滅的なだけで……。

 今回のプレイミスも初めて触った【天塵】と【フード】テーマに対しての実践値の浅さが出ただけなので、今後は改善していけるはずだ。

 

「? どうかしたのかい?」

 

 先輩を眺めていると、視線に気付いた先輩がふにゃっと微笑みながら僕へ訊ねる。

 

「いや何も……2学期初めの試験乗り切りましょうね」

「聖岳君が居るからきっと大丈夫さ! さてそれじゃいつも通り勉強の時間だ。最近何処か分からない事はあるかい?」

「えーっと最近だと歴史の……」

 

 和気藹々とした空気がアパートの一室を満たしていく。お互い持ちつ持たれつだ。

 

 この日先輩は、僕の部屋に泊まって行った。

 クラスメイトからはまたかよ……という目で見られたが、僕らは無傷だ。

 

*1
山札を無作為に混ぜる事。

*2
山札を無作為に分けてから積み直す事。

*3
現実では稀によくある。稀にじゃない人もたまに居る。

*4
泣いちゃった!

*5
要するにタップ。MtGやデュエマなどのWoC社はタップアンタップを商標登録しているそう。

*6
山札の一番上の俗称。

*7
健全!

*8
攻撃対象を選択された時に防御側プレイヤーが対象を別のキャラに変更する事が出来なくなるキーワード能力。要するにアンブロッカブル。

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