TCGクソザコナメクジ先輩と僕。   作:餅屋

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寝落ちとかで遅れました!
次回はワタル君の強敵は山ほど居るけどライバル枠居なかったなって事に昨日気付いたので新キャラが増えます。道明革命の兆しはその後になりそうですね。


後日談1.アンティマッチは計画的に。

 

 ある春の土曜日の午前。

 僕と桜子さんが『もいらい』へ寄ると、あんまり見ない顔があった。

 

「ターン貰うよ〜、スタンバイからドロー、2体目の【霊長ミニマリスト】をプレイするね〜」

 

 小岬さんと逸見君がフリプしていた。どういう組み合わせ? 

 

「プレイ時効果で場のカードが4枚以上あるからそっちの伏せをダストに、それじゃバトルに入って1枚目の【霊長ミニマリスト】で攻撃。チャンスステップで捲れたのは【午睡のクルール】、キャラクターだから私の場のキャラの数だけブレイクを+3するね、12点ね」

 

 おおブン回っている……。

 今はスタン落ちしてるからフリプじゃないと使えないけど、【密林の午後】は小岬さんの最適性デッキだ。

 

 ドギツい制限とドギツいメリットを上手く使い分けながら扱う必要のある超高速ビートダウンが有名なテーマになっている。というかこのテーマはランプタイプも存在するのだが、超高速型を支えている【霊長ミニマリスト】の火力が化け物過ぎてそっちばかり知られている。

 その分制限もめちゃくちゃキツいから釣り合いは取れてるんだけど。

 

 ちなみにこれはハンデスとか盤面ロックが大の苦手なデッキとなる。僕からすると良いカモとも言う。

 今にして思うとあの頃はハンデスが苦手な異常火力持ちのデッキ多かったな……【月虹】とか……。

 

 彼女に憑いている精霊はというと、今その頭上で目をキラキラさせて盤面を眺めている子猿のキンタロウ君だ。意思疎通は出来ないタイプらしい。

 何故か僕はあんまり好かれてないらしく、キンタロウに気付かれると彼が隠れる。なんでだろう……。

 

「それじゃ2枚目の【霊長ミニマリスト】で攻撃……チャンスステップで捲れたのは【目印ティミー】。キャラクターだからこっちもキャラの数だけブレイクを+3するね。反応はある〜?」

「無いな……超高速ビートダウンってここまでのレベルになるのか……」

 

 逸見君がそう呟いた。早い決着だった。

 盤面を見るに最速ルートを走られたみたいだ。

 この辺の最適解を上手い事崩して不意を打つプレイが出来るようになるのが小岬さんの今の課題だね。あと学力も。

 

「小岬ちゃん珍しいね『もいらい』に来るの……お相手は……逸見君?」

 

 先輩の言葉に、小岬さんがいつものようにゆるっと答える。

 

「今日……補習でさ……あっ通った? 対戦ありがと〜」

「対ありー……聞いてた通りめちゃくちゃ早いんだな【密林の午後】……勉強になる。おっと、タケさんこんちわっス。門倉さんも」

 

 逸見君もこちらを向き、挨拶してくれる。少し間があったのは多分対処法を考えていたからだろう。ダストのカードを見るに【エステラの喜劇】かな? これは確か今逸見君が一番強く扱えるテーマだった筈だ。

ノーリミでフリプしてるからお互い一番扱えるデッキでマッチしてみたのかもしれない。

 

「逸見君がはるばる『もいらい』に来てるのは初めて見たねえ……遠征かい?」

 

 先輩の言う通り、逸見君の住む所はここからだと割と遠い。大会があるのならともかく、今日は大会をやってない『もいらい』に来るのは少しばかり疑問が浮かぶ。

 

「俺は近所のショップだと流行デッキがある程度把握出来ちゃったんで、プチ遠征って感じですね。お二人は?」

「僕らは今日店長さんに見せたいものがあるって呼ばれたんだよね」

 

 なるほど、ちょっと遠出ついでに研究といった感じか。気持ちは分かりそうで僕には分からない。逸見君と違い、僕がやったプチ遠征や遠征は地元のショップ大会出禁が原因だったからだ。

 逸見君は勤勉で良いね……大崎に爪の垢を煎じて飲ませてやりたくなるくらいだよ。

 

「ここの店長さんってそんな気さくな人なんスね。見た目怖いのに」

「……?」

「……??」

 

 しかし逸見君が続けた言葉に僕と桜子さんは揃って首を傾げた。

 店長さんの見た目が……怖い……? 

 先輩がハッとしてぱん、と手を打つ。

 

「──ああ、モヒカンさんなら店員だよ。店長はおねーさんの方」

 

 すると小岬さんの方が反応した。

 

「エッそうなの!?」

 

 いや……その反応は思ってもなかったな……。

 

「なんで小岬ちゃんが気付いてないんだい!? 割とここ来てるよね!?」

「さん付けだし割とフランクな店長さんなのかなって思ってて……」

 

 桜子さんのツッコミがマッチスペースに響く。かわいい。

 

「まあ……本物店長さんもフランクな人ではあるね……」

 

 フランクさだとモヒカンさんより高い気もする。

 ちょっと変な生態してるけど。

 その時、店内に来客があった。

 

「ここですぜ姐さん」

「店狭っ……」

「アンタがデカ過ぎるんだよ。ここが噂の【ワイズマン】があるって店かい……」

 

 男性2人、女性1人の3人組だった。

 細身の男性は全身パンク風の服装、巨漢の男性は緑のタンクトップにカーゴパンツ、女性はバイクスーツと中々攻めた見た目だ。

 細いの大きいの引き連れたリーダーが女性はキャラ濃くない? それにしても全員背が高い。一番低くて女性の人だけどそれでも僕と同じくらい背丈がありそうだから、170くらいはありそうだ。

 

「いらっしゃいませー……キャラ濃っ!」

 

 どうやらモヒカンさんも僕と似たような事を考えたらしい。

 でもさ……。

 

「モヒカンさんが言っても鏡渡されるだけだと思うんだけどなあ……」

「思っても言わないのが吉だよ海君……」

 

 桜子さんに諭された。でも僕は変な事言ってないと思う! 

 

「アンタがここのお店の店長かい? 【ワイズマン】の購入権利を賭けてアタシ達とアンティで勝負しな! こっちの賭ける物は現金50万! そっちが賭けるのは50万で【ワイズマン】をアタシ達に売る約束! あっこれ役所からの書類です……」

「あっ第一印象よりマトモな人だった」

「アンティマッチを見るのは初めてだねえ」

 

 この世界において、アンティマッチは正規の手続きを取れば合法である。ただこれを行う場合は、強制的にレギュレーションがノーリミットとなる。

 日本であれば挑む側が役所で必要書類を書き、お役所がこのアンティでの賭けには釣り合いが取れていると判断されれば認可され、挑戦される側にこれくらいの時期にアンティマッチが来ますよとハガキが送られてくる。

 不服があればまた別の手続きを行えば中止処理がなされ、白紙の状態に戻るという。

 

 なおプロは……というかプロライセンスを所持している人はアンティマッチ手続きを行えない。ちょっと長くなるので簡略化してアンティマッチが許可されている関係を図のように表すなら、

 

 民間人⇔民間人はOK。

 企業⇔企業もOK

 民間人⇔企業もOK。

 企業→プロもOK。

 プロ⇔民間人はダメ。

 プロ→企業もダメ。

 

 となる。僕の父さんが仕事でやっている営業マッチやリベンジ営業マッチはこの中では企業⇔企業にあたる。

 これはある程度のクールダウン期間はあるが、割と日常的に行われているそうだ。

 ではプロの実力を持っていてもライセンスを取らなければ良いのでは? と思われるが……僕にこれらの関連を教えてくれた桜子さん曰く、そう上手くは行かないのだという。

 

 まず精霊界から出向して協力してくれている精霊がライセンス未所持のプロ級プレイヤーをオカルトパワーで察知、それからアンティで荒稼ぎしている証拠を速やかに集め、然るべき手続きを経て、司法がもしもし? ちょっとジャンプしてみろよホラ早く……してくるそうだ。怖いね……。

 

 ちなみに僕はアンティマッチをやった事がない。もっと穏便に解決したいしね。

 

 日本はこれでもアンティマッチのあれこれは相当整備されてる方で、国外だとほぼノールールで野放し状態という地域もあるそうだ。

 サキちゃん曰く、そういう地域で暴れ過ぎたならず者プレイヤーの元には、国連からPJ公式を通じて依頼されたノーリミ専門プロがお小遣い稼ぎにやって来て、ならず者の身包み全部剥いで帰って行くらしい。

 

 ついでに巻き込まれた一般ならず者も結構出るそうだが、それは置いておこう。

 先日この話を聞いた時、僕は絶対にノーリミ専門プロにはならないようにしようと誓った物だ。サキちゃんと風見も同様だった。

 

 あとノーリミプロシーンってやってる側としては結構色々考えるから面白いけど、観る側としては知識とかめちゃくちゃ要るから盛り上がりにくいんだよね。

 僕としては興行のあり方的にそれはめちゃくちゃ悪い面だと思うから、新たにプロ専用の制限禁止リストでも作った方が良いと思っている。

 

「俺は店長じゃないぞ。俺で良いなら俺やるけど。店長ー! アンティマッチ狙いの客ですよー! 多分ハガキに覚えあるでしょー?」

「あの貫禄で店長じゃない……!?」

「ちょっと気にしてるんだから言わないでくれ……」

「モヒカンさん……店長さんの心配とかしないんですか?」

 

 モヒカンさんへ近付いてそう聞くと、モヒカンさんは心配無用といった表情で答えた。

 

「ん? まあこれはちょっと理由があってな……終わったら話すわ。タケちゃん的にはあの3人組と俺、どっちが強いと思う?」

 

 言われたので軽く探ってみる……失礼とは知りつつも凄く弱い。今の実力ではよくてCプロ安定行けるかなくらいだ。

 

「モヒカンさんですね。あの人達だと一番高いのがリーダーっぽい女の人で……適性リーサル外握ってる時の小岬さんくらい?」

「それだと案外強……いや弱い……?」

「ん〜、3年間でレギュラー上がれるか怪しいライン?」

 

 一般的には強い側だけど上知ってるといや……くらいの位置かな。小岬さんもこの点には自覚的なので僕に続くように答えた。

 

「それくらいだね〜」

「えー……また?ここ一年多い気がするなー……」

「あっ真店長さんだ。今度からムーさんじゃなくて店長さんって呼びますね!」

 

 小岬さんがバックヤードの方からちょっと荒んだ顔でのそのそと出てきた店長さんを見ながら言った。寝起きみたいな顔だ。

 

「えっ何……真店長? まあそれはいいけど……あと今私ちょっとストレス溜まってるから覚悟はしてね。マッチルールはどれが良い? シングル3連戦? それともレイドルール? えーっと名前なんだったっけ……」

「アタシは紅丸姫乃(べにまるひめの)。こっちのノッポは細野鋭次(ほそのえいじ)、デカいのは権藤恵太(ごんどうけいた)だよ」

「ああそんなだった。ごめん返事したの送られてからすぐだったし忘れてたよ。それでどうする?」

「レイドとはまた大きく出たね……それならレイドルールで頼むよ」

 

 レイドルールはPJにおける特殊ルールの1つである。

 1人対多数で遊ぶ為のルールで、1人側のライフに多側の人数×10が追加され、多側は平常通りライフ25で始めるルールだ。プレイ順はジャンケンやダイスを振って決定され、ベーシックとはかなり違うプレイ感が味わえるプレイルールとなる。

 ただこれは基本的には未熟なプレイヤーへの教導などに使われるスタイルで、アンティで使われるというのは僕も初めて聞いたし見た。

 相当強いんだろうか今の店長さん……。

 

()()()()()()()()。手続きもあるから短めに終わらせたいしね」

「店長さんが不機嫌そうな姿、ぼくは初めて見たかも」

 

 僕も初めて見るよ。

 この感じだと……Aプロ中堅は薙ぎ払えそうなくらいかな? トッププロに近い感じがする。

 ムラが激しいって聞いてたけどここまで激しい人は初めて見たな。精霊剥離の影響もあるのかもしれない。

 風見が日毎で変わるのに対して、店長さんは30分毎とか1時間毎とか異様に短いスパンっぽい。

 

「さあアンタ達、アタシ達の力を見せてやろうじゃないのさ! 対戦行くよ!」

 

 仲良いなあの人たち。

 そのメンタル面は手放しに称賛できるが、実力が伴っていないのが残念だ。ちゃんと鍛えたら結構伸びそうなんだけどな……Bプロ中堅くらいまで。

 

「プレイ順はどうする? ジャンケン? ダイス? コイントス?」

 

 いつもとは違う雰囲気の店長さんの言葉に、紅……丸……さん? が答える。

 

「ダイスだね……2だ」

「4にござい」

「5だ」

「私は6。先攻貰うねー」

「今出目見ずに答えてませんでした?」

 

 僕の動体視力はそこまででもないが、それでも確定前に言ってた気がする。

 

「ムーさんは妙なムラでな……ソシャゲで現金天井した直後が一番強いんだよ」

「……もしかして、今がそうだったりします?」

 

 人為的な適性ムラの操作とか解明できたらノーベル賞貰えると思う。

 

「昨夜の〆作業の時にガチャの更新があったらしくて天井悩んでたから、正直そろそろかなって気がしてたんだよなー……」

 

 モヒカンさんがこめかみを掻きながら言った。

 

「なんか手慣れてたの見るに……割と来るんですねアンティマッチ狙いの客……」

「1季1回くらいで来るな。時間帯はバラバラだが……で、そういう強い時のムーさんは必ず先攻取るんだよな何故か」

「何故か」

 

 桜子さんとはまた違う方向の超常的な性質……? 

 

「という訳ですぐ終わるぞこのマッチ。俺も最初見た時何これってなったからな」

「そう言われると見るの怖いんスけど」

 

 勉強と思って見てみな、と逸見君がモヒカンさんに促される。

 

「私の先攻でスタンバイからドロー、リソース1と手札の青4で【ヘイルメアリー・パス】をプレイ。効果コストとして残りの手札全てを除外ゾーンに置き、ライフ最大値を-5し、5ダメージ受けるね」

「あっ……」

「ノーリミだし今プレイしたカードがヤバいんスか?」

「流石にタケちゃんだと気付くの早いな……」

「最大バリュー出せるならヤバいよ。でも初手で打つ人は初めて見たよ……」

 

 すぐ終わるって言われたら今から何起こるか判っちゃった。

 

「ギャンブルデッキって訳かい? アンティマッチにゃ向かないと思うけどね」

「それじゃ効果処理ね。はい私の山札から1枚裏向きのまま選んでね」

「なら細野が選びな」

「うーん……これ?」

 

 細野さんがカードを選ぶ。

 さて運命の選択だ。この後の展開も読めるけど。

 

「すると選ばれたカードに対して私がカード名を宣言し、合ってたらコストを支払わずにプレイ、違ってたらそのカードを除外ゾーンに置く。それじゃ私が宣言するのは【大賢者 ルフラン】。カードを公開、()()()()()()()()()。このカード当てを累計5回分やるからあと4枚選んでね」

「ワァ……ァ……」

 

 僕は思わずそう洩らした。

 

「海君が恐怖している……!?」

「聖岳君もそうなる事あるんだね。もっとなって私達レギュラー組の気持ちも分かってね?」

 

【ヘイルメアリー・パス】は元々のデザインとしてはある程度山札を減らした上で少し仕込みを入れて打つ事や、当てられるレベルまで減らした山札で打つ事を前提としてデザインされた博打イベントである。

 プレイ時に支払うコストも重いが、その分当てた時のバリューは凄まじく大きい。

 

 僕も仕込みアリで山札が半分くらいになったら使う形かなーと考えるくらいの、バリュー確定までが非常に難しいカードだ。

 しかしこれを初手に引き込んで打つという事が何を意味するか。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 僕もそこまでには至っていない。できたら宝くじ買ったほうが良かったかも……って思ったりする、そういうレベルの話である。

 しかし店長さんはそうなると知っているかのように処理を進めた。

 

「早く選んでねー?」

「権藤、1枚選びな。アタシは残りの3枚を選ぶ」

「ならこれで」

「アタシはこれ」

 

 2人が選ぶ。

 経験した場数の差か、それともレベルの差なのか、彼女らの表情に焦りは見られない。おそらくは今、どれほど恐ろしい事が起こっているのかを理解しきれていないからだ。

 

 今の店長さんは、初手の段階で山札を見ずに、個々のカードを確定出来るレベルで適性が伸びているという事実を。

 

 傍の桜子さんにちらりと目をやると、疑問符を浮かべているような表情で続く処理を見ていた。桜子さん的にはまだそうだよね。初手撃ちからの的中は非常に低確率になるはずだから。

 こういったプレイを経験として実感してるかどうかは大きく違う。桜子さんも体験はしているが、まだまだ経験値が足りない。下方向への経験値なら僕が知る中では一番多いんだけどね。

 

 適性による引きは、確率論を易々と飛び越えて行く。

 僕が、ほぼ確実に欲しいタイミングで【答え待つもの】を引けるように。

 あるいは、桜子さんがかつて不要なフルハウスを見たように。

 現代において、確率論はオカルトパワーに敗北を喫したのだ。

 

「2枚目、【天罰】。合ってるのでプレイ。ルフランの効果によりイベントが再度発動できるので10点が2回ね。そっちの細い人に計20点」

「ぐえーっ!」

 

 のっぽの人が脱落した。流石にこれで様子のおかしさに他2人も気付いたようだ。

 でもルール処理的にはもう何もかも終わった後なんだよね……。

 

「3枚目、【予期せぬ不運】。合ってるのでプレイ。これもイベントなので2度発動、私のデッキから1枚を裏向きのまま除外ゾーンに送ってから公開、そのカードがキャラクターであれば、コスト分のダメージを相手プレイヤーに与える。1度目に送られたのは【終焉のテッセラクト】、10点を細い人に」

「細野ーッ!」

「続いて2度目、【揺蕩うマアンナ】が送られたので15ダメージ。太い方の人へ」

 

 巨漢の人がやっと気付いたらしく紅丸さんへ訊ねる。もう試合終了寸前なんだけどね。

 

「ねえ姐さん……これ俺たち何もできずに負けるんじゃ……?」

「権藤、分かってても言うもんじゃないよ!」

 

 メンタル面は実力に見合わないくらいしっかりしてるなこの人達。なんでアンティで小銭稼ぎしようとしてるのか不思議なくらいだ。

 

「思ってたより根性ありますねあの人たち」

「ちょっと手段が変だけど真面目にやってたらもっと強そうだよな」

「なんでアンティマッチに手を出したのか……全然分かりません」

「借金とかか……?」

 

 アンティで格安買いを狙うのはちょっと怪しいよね。

 ギリギリ企業チームに入れるくらいの実力はあるし、僕からすると伸び代自体は結構あるからそっちの方が良さそうに思えるんだけど。

 

「4枚目、【終わりを告げる星】。合ってるのでプレイ。これもイベントなので2度発動。10点が2回なので太い人に10点、リーダーの人に10点」

「姐さん……!」

「権藤……」

 

 権藤と呼ばれている巨漢の人が倒れた。残るはリーダーらしい紅丸さん1人だけ。

 ここからライフを消し飛ばすなら【終わりを告げる星】の2枚目であれば……なんだけど多分入ってないと思う。

 となると当然ここからプレイされるカードはひとつだ。

 

「5枚目、【ヘイルメアリー・パス】。合ってるのでプレイ。効果は言わなくても良いよね? これは1回だけのプレイにするね。また山札から5枚選んでね」

「降参だよゥッッッ!」

「ひどいもの見たな……」

 

 流石にヘイルメアリー・パス2度目は辛かったらしい。

 僕としても熱出した時の夢みたいな光景だ。

 先攻さえ取れればなんとかできそうなんだけど、モヒカンさんが言う通り多分先攻は取れないんだよね……一番強い店長さんの時のマッチって……そういう感覚がさっきしてたから……。

 

「はいじゃあ私の勝ち。アンティマッチだからちゃんと賭け金支払ってね」

「ううう……こんなバケモンだとは……受け取りな……」

 

 紅丸さんが持ってきていたバッグからいそいそと封筒を取り出し、店長に渡す。

 以前桜子さんと勉強した奴だと、この手のアンティマッチによる現金のやり取りはちゃんと手続きを行なっていれば課税額も減額されるそうだ。なので手続きした方がずっとお得となっている。

 

 このアンティマッチ関連の法や手続きの成立はPJが出た直後にまで遡り、発売後即PJが新たな賭け事として人気が出る事を危惧した当時の政府が、なるべく国民側に不満も出なさそうな形で制定したという流れがある。元々富籤や各種ギャンブルが浸透しているお国柄なのもあってか、浸透も早かったのだとか。

 

「という訳でだな。ムーさんがノってる時は必ず先攻取るしそのままワンキルするんだ。多分タケちゃん相手でも変わらんと思う」

「えっ怖……」

 

 逸見君がドン引きした表情でそうぼやいた。僕もそう思う。

 続けて桜子さんもため息を吐いてから言葉を紡いだ。

 

「……ノってる時は理不尽の化身みたいになるんだね……あれ、そうなるとノってない時は?」

「嬢ちゃん程じゃないが凄え事故り方して自爆したりするな」

「えぇ……」

 

 ちょっと事故ってる時も見てみたさがあるな……。

 

「モヒくーん! 私ちょっと役所にアンティ報酬手続きの追加書類取りに行くからしばらくお店お願いねー!」

「はーい! と、いう訳で俺はレジ内に居るからなんかあったらまた言ってくれな」

 

 店長さんがこちらを向いてよく通る声で伝えてくる。モヒカンさんの返答も慣れたものだ。

 紅丸さん達はというと、項垂れつつ地面にのの字を書いてぶつぶつぼやいていた。

 

「アンティで美品ワイズマンを格安で買って【ジェネシス】コレクターに売っぱらって小金持ちになろうとした計画が……」

 

 だいぶ俗な理由でアンティしてたんだなこの人達……でもまあ美品ワイズマンを50万で買えるかもってなったらちょっと気持ちはわからないでもない。あれはちゃんとした所で買い取ってもらうなら間違いなく倍以上の値段になる奴だし。

 まあ結果は今の薙ぎ倒されて50万徴収された姿だけど。

 

「お姉さん達あんまり強くないんで、普通に鍛え直してから企業チーム面接にでも行って就職でもした方が良いと思いますけどね……」

 

 僕がそう言うと、紅丸さんが不機嫌そうに答える。

 

「へっガキに何がわかるんだい……アタシに勝ってから言いな……」

「えっやって良いんですか? じゃあフリプやりましょう! 僕スタンダードでやりますね!」

「あ゛っ……」

 

 先輩がちょっとヤバそうな声を上げる。

 今日持ってきてあるデッキは5つ! 最悪足りなく感じたらその場でバラして組むか『もいらい』のストレージの中身でデッキを組もう……! 

 

「えっなんだいその反応怖っ……」

 

 ちょっとだけなんです! ちゃんとデッキ選択でいい感じにお互いプレイ経験が積めるように難易度調節もするので許してください! プレイ中の手加減はできませんが! 

 

「虎の尾を踏んでる……」

「聖岳君もめちゃくちゃ強いからお姉さん達頑張ってね〜!」

 

 逸見君が綺麗に死亡フラグを建てるキャラを見たような声で言い、続くように小岬さんが紅丸さん達にエールを送る。

 この後桜子さん以外の全員でめちゃくちゃフリプした。

 僕は負けなかった。

 いい休日だね。

 

 ○

 

「海君の楽しそうな顔はいいね……ところでモヒカンさん」

「何かあったか嬢ちゃん?」

「ぼくらは店長さんから見せたい物があるって言われて今日遊びに来たんだけど、何か知らないかい?」

「見せたい物ねえ……あ、多分こないだホロプロジェクターテーブル導入したからそれだと思うぞ。俺が知る限りだとそれ以外は思いつかない」

「それかぁ〜」

「だが設備投資の出費を考えると……また【ジェネシス】をどっかで手に入れてきたのを内緒にしてる可能性もある」

「そっちじゃない事を祈ろうかな……!」

「全くだ……」

 

 





○テンチョー(ソシャゲ天井直後の姿)
作中最大の理不尽存在。世界の命運を6万円とか9万円で救える女、ただしいつマッチするのかを本人が覚えていない場合に限る。
精霊が憑いていた頃はギャンブルデッキではあったもののまだ大人しいプレイだった。剥離を起こして以降は弱い時はとことん弱いが、ブン回り時はこの世のものとは思えない光景を作り出す。
聖岳君達やワタル君達がランボーの視点アニメだとすると、テンチョーの視点はポプテピピック。それくらい変な生き物。
ハッピーな人生だぜ!

◆チンピラーズ
元々はならず者ケヒャリスト三人組にしようかなと思っていたが、作者的には台詞書くのが面倒過ぎた為急遽チンピラーズ?として転生、ちょっと魔がさした一般ピープルとしてちゃんと人語を喋るように。
再登場することもあるかもしれない。

○細野鋭次
青黒が得意。
ナイフ舐めて鉄分補給してそうな顔立ちだが特にそういうことはしていない。
本業はアパレルショップのスタッフ。

○権藤恵太
緑白が得意。
外見は勉強が苦手そうだが逆にインテリ寄り。
本業はジムトレーナー。

○紅丸姫乃
赤白黒が得意。
他2人に姐さんと呼ばれているがただの幼馴染である。別に電撃が出せたりはしない。
本業は整備士。

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