次話から偶に番外編挟みつつ道明革命編に入ると思います。
「ほんでコースケが高校卒業したらプロなる言うたし、なるならウチみたいにAプロスタートにせーよって答えたらアイツ顔青くしてテキスト貸してくれって言ってきてな……んーダストファンクでプレイヤーに、チャンスでの公開は『Like A Prayer』や」
今日は木曜日……なのだが。
桜子さんが葉山先生とホワイトボードを使って下級生達に知識面を教える声が響くマッチルームで、僕はというと来客者証を着けたサキちゃんとのフリプに付き合っていた。
今年の一騎当千杯が明後日から大阪で始まるのだが、特急を使わないのんびり経路であれば道すがら篠ノ芽に寄る事が容易であるからか、時間の空いたサキちゃんがウォームアップついでにと篠ノ芽までやって来たのが理由である。
宿は風見のおばさんに快諾されたという事で、お泊まりさせてもらったついでに相談に乗ったのだとか。
つまり僕は惚気話を聞かされているのに等しい。まあそれは僕もするから痛み分けと言うところか。
なんなら桜子さんとのメッセージでも結構聞かされているらしいので、僕らが優位だ。
「4リソースで伏せをプレイ、『記録刻印』。手札の『酔人』を捨ててダストの『幸運の芽』をプレイ、そのまま通って3点。それで結局貸したの?」
プロ資格試験学科用のテキストって更新頻繁にするから数年遅れるとあんまり使い物にならない気がするんだけど。
「ちょっと古いから参考にする程度にせんと足元掬われるでって教えて貸したわ。貸したってかばーちゃん家に置いとるから取りに行ってええでって言った形になるけど。コースケは学科苦手そうやしなあ……ターン渡すわ。やり難いわ〜また気色悪いデッキ作りよって……アンタ以外の誰が回せると思ってんねんそんなデッキ……」
僕が今使っているのは先日組んだばかりのビート軸を持つテーマ4種混合のコントロール系デッキだ。とはいえ仕込んであるギミックの関係上、速度は中速ビートダウンになりがちだが。
この手の相性が悪めなカード群で組んだデッキを回すのは難しいが、それ自体は僕の糧にもなるし、何より僕らが在籍しているうちに下級生の相手テーマ判別までの早さをみっちり鍛えていきたいというのもある。
それもあって最近はこの手のテーマ混合デッキを複数作ってみている。先週は3種混合を作ってみたので今週は4種混合を作ってみた。
動きこそ悪めだが、もっとテーマを増やしてみても問題はなさそうだ。ただ欠点としては、これ回せるのが篠ノ芽PJ部だと僕しか居ないんだよね。
葉山先生にも見せて早々「俺の正気を削って退職させる気か?」とか言われたし。
3種を回せた先生なら握れる範囲広いからいけると思ったんだけどな……。
出来ればデッキアーキタイプさえ合えば回せるってくらいの優しい混合デッキを複数残し、今後の後輩たちが自ら練習できる形にしておきたい。
どうにもならなかったら葉山先生の協力を仰ぐつもりだ。今後絶対必要になるだろうし多分協力はしてくれると思っている。
「 何処かにいるでしょ多分……風見の実力はA安定までには育ってきたけど、知識面が課題だよね。スタンバイからドロー、4リソースと手札の耀鳴を支払って計7コスト、『大迷惑 D・ジェーン』をプレイ」
D・ジェーンは自傷型のビートテーマである【NO FUTURE】のカードだ。ぱっと見は重そうだが出た時に除去出来て案外取り回しが良く、凌がれると後が辛いが1撃25点もかなり現実的に狙えるという除去効果時の支払いコストに応じたブレイクバフが非常に面白い。良いカードだ。
「うわ出た耀鳴……年内に制限食らうんちゃうかとか言われてるで耀鳴」
「僕は適性も合うし大型出しやすくなるしでめちゃくちゃ使ってるから制限はちょっと困るな……出た時の効果でダストの黒のカードを好きな枚数除外し、除外した数だけ相手の場のキャラをダストに置く。除外は闇市の用心棒と闇市の棺桶屋、対象はダストファンクと0aNOT。あとは風見のムラが本番に来ないのを祈るだけか……」
なんとか……耀鳴は2枚制限くらいでまかりませんか?
「2体をダストに。こら前のターンでちょっと甘く動いてたな……ちょっと警戒し過ぎたわ。アイツのムラも中々治らへんなあ……」
「何かきっかけがあったらすぐだと思うんだけどねえ……。バトル、ジェーンでプレイヤーに、チャンス公開は『
風見のムラも安定しそうでしないのが数年続いている。この手の適性ムラはダメダメな日に格上と当たったりすると治る……とよく言われているのだが、今の風見の場合ダメダメな日で逸見君と同等くらいでこれは相当高い部類。逸見君クラスがその辺に居る場所なんて、道明みたいな全国常連のPJ強豪校になる。
しかし目下道明で1番強そうな日野君もノってる日の風見相手だと普通に負けるだろうし、あと普通に中学まではやり合ってたから慣れてるしで良い感じの格上が全然見つからない。
ぜーんぜんだ。
かと言って手っ取り早く風見より格上にあたる僕やサキちゃんが相手する訳にもいかない。僕ら2人相手じゃ日野君達以上に慣れてるからだ。
サキちゃん共々もしかして鍛え過ぎてる……? と思ってたりする。でもなんかこうプロでもないのに僕ら以外が風見に勝つのは癪なのだ。
なので2人してちょいちょい風見を鍛え続けてたのだが、その結果がサキちゃんに3割勝てる一般人の誕生だった。
そりゃ文化祭で紛れ込んでたスカウトマンも凄い視線になるってものだ。突然ピカピカの原石が目の前に転送されてきたみたいな物だし。
ライセンス取れたら多分所属プロダクション勧誘合戦が始まるんだろうな……。
勝率の差に関してだと、僕は大抵風見が苦手なターンまで引き延ばせるから、サキちゃんの方が僕よりかなり負けやすいんだよね。あと単純に扱うデッキの差で僕の方がメタられにくいのもある。
それと今サキちゃんに凄い負けそう。
「スタンバイからドロー……お、これは行けるか。伏せ1、プレイ軽減入って5リソースと手札の赤1で『
「OK」
ピッタリリーサルとは言うものの、この状況だと多分ブレイクバフなりが反応して多少のダメージ軽減を挟んでも多分通し切られる。
適性によるオカルト引きってそういうものなので慣れたが、それはそれとして悔しいのは確かだ。次やる時は勝とう。
「ファンクでプレイヤーへ攻撃、チャンス公開は『
「対象変更でジェーンに」
サキちゃんもこの動きは織り込み済み。多分0a NOTを防ごうとすると逆にジェーンを飛ばされる。そういう伏せっぽい。
「ファンクがダストへ、続いてテクナートでプレイヤーへ攻撃、チャンス公開は『Remix』、チャンス時に公開された為コストを支払わずにプレイ、ダストのコスト3以下の【ハートビート】のキャラを山札の1番下に戻し、そのキャラクターが持つブレイク値を場の好きなキャラに追加できる。戻すのは『ソウルアンプ』で追加は3。対象は……テクナートやな」
ほら来たブレイクバフ。『Remix』は【ハートビート】専用ではあるが、適性があるプレイヤーにとっては押し込みに使い易くて良いデザインをしている。
僕はこのテーマと相性が悪いから、使えないのが残念だ。
「通るよ。このデッキもまだ調整が要るな……」
とはいえ僕に合わせても意味がないので他の人が扱える形で弄っていくことになる。ほどほどに急ぎつつマイペースに構築していこう。
「最後に0aNOTで攻撃、チャンス公開は『ハンドクラップス』」
「伏せの『向かい風』を反応、『0a NOT』を手札へ」
バウンスのチャンスを反応はさせたが、打つ前の手応えも良くなかったのでおそらく通らない。
「伏せに反応して『Noisy』をプレイで向かい風を無効や。そのまま通るな?」
ですよねー。やっぱりあるよなあ打ち消し。
このまま通って僕の負け。うーん久々に負けた……前が……正月に風見と遊んでた時だったかな?
「だね。対戦ありがとうございました。この感じだと……6枠空くからそこ吟味かな」
「こっちこそ対戦ありがとな〜……なあ〜タケ……
サキちゃんが訝しんでいる視線で僕に訊ねる。
うぉっ気付かれてる……いやサキちゃんだとまあ気付くか? いくら変な構成でも僕のデッキでこの手の負け方ってそうそう無いし。
「組んでる最中に動き確認してたの除けば三戦目だね。もうちょっと超高速型に対応出来るようにしたいかな」
一戦目は桜子さんの【散乱光】と、二戦目は先生の【カーディナル】とやって、【カーディナル】がかなり危ない場面も見られた。
なのでサキちゃんとプレイできるというのは僕としてはかなり嬉しい。【カーディナル】は設計的な部分もあり、対コントロールではかなり有利に立ち回れるのが強みではあったがビート系との確認はまだまだだったからね。
「組んで三戦目のデッキにこんな引き伸ばし喰らったのまあまあヤバいな……ウチもちょっと中身見直そ……」
サキちゃんが先程まで使っていたデッキを表にし、ざっと広げて眺める。
「今変えたら慣らすまでちょっと面倒じゃない? 一騎当千杯なんだし不安要素あるのはよくないんじゃないかな……」
「アホかまだ2日弱もあるねんぞ。そんだけあったらアンタも十分やろ」
それはまあそう。
やる相手が欲しいところではあるけどね。
「でも慣らし済ませてもこなれてないデッキで稲谷プロとやるのはちょっと不安要素ない?」
稲谷プロは壮年のプロであり、ビートダウンが非常に強い。サキちゃんに勝って優勝した経験もある、数少ないサキちゃんレベルのベテランプロだ。経歴もCスタートから長年掛けてトッププロまでじわじわ登り詰めた生粋の叩き上げなのだが……年々少しずつ出場数が減っているので近年中に引退しそうである。
僕としては引退前に是非マッチさせてもらいたい気持ちもあるので、僕がプロになる年まで頑張ってくれると嬉しい。
「稲谷のおっちゃんは今年不参加や。去年腰痛めたのがキツい言うて今年と来年出るのは賞金高い後半に絞るらしいで……一騎当千杯で去年のリベンジしたかってんけどな」
「意外! 最大の敵は腰! ……でもまあ稲谷プロは下からレート上げでの叩き上げだもんなあ。そりゃ身体もガタ来てるか」
「健康は金で買うの難しいしなあ……ウチも気を付けよ……」
プロ引退の遠因とも言われるしね……健康……。
「やり取りがハイレベル過ぎて着いて行けない……」
「なんかすっかりたまにある風景になりつつあるけどさ……普通プロがホイホイ来たりはしないんだよね……?」
中戸さんと金目さんが、僕らのやり取りを見ながらそう漏らす。
「せやな。でもプロになるとフリプ相手探すのに難儀したりとか相応の苦労もあるで? やからウチがちょうど都合の良い時にお邪魔しとるんよ」
「本気のデッキで回す時はプロ相手に頼むの躊躇したりとかあるらしいからね」
僕としては本番とは一部変えて回して変えた部分の本来のパーツはまた別のデッキで回してそれぞれ感覚覚えるとかでよくない? と思ってたんだけど、これこないだサキちゃんに言ったら一発お腹に良いの貰ったんだよな。
なのでよくない答えらしい。
「そういう意味では今のタケにちょっと助かってるんよな。本気のデッキでやって実になるフリプ相手でプロやないし。コースケ相手も実になるけどタケに比べるとまだまだやしな」
「僕も色々頼る事があるからね、それくらいなら全然付き合うよ」
特に今年はちょこちょこ頼む側になりそうだ。昔からの貸しを一気に返して貰うような形になる。
「仕事ならちゃんとウチの所属事務所経由するんやで? 予定は大会と被ってるとかじゃなけりゃまあ空けといたる。ウチとコースケの誕生日はアカンけど」
「それでもありがたい……とりあえず直近だとGW中に2日分仕事をお願いする形になるかな。マネージャーさんからもう聞いてたりする?」
こないだ頼んだって先生が言ってたから多分話は行ってる筈だけど。
「なんや道明の合同合宿に特別講師として参加して欲しいって話はされたけどそれ?」
「そう、それ。篠ノ芽と道明の合同なんだよね」
「まあ分かったけどウチ教えられるのはビートだけやぞ」
その辺はもちろん織り込み済みだ。
答えたサキちゃんは、広げていたデッキ内のカードから数枚を逆向きにして戻す。弄る部分が決まったようだ。
「サキちゃんは言語化して教えるの上手いし座学部分中心になるんじゃないかな。コントロールは僕と葉山先生でやるからまあ多分大丈夫だと思うよ」
「ならええか……」
「ねえ聖岳君さあ……あたしその合宿の話聞いてないんだけど……」
「私も……」
金目さんと中戸さんにそう言われて、気が付いた。
「あっそういえばまだ言ってなかった」
最近は葉山先生と色々詰めてたから伝達忘れてた。葉山先生も仕事とかに追われてるし僕も先生も忘れてたやつだ。
「わ……私のスイーツビュッフェ巡りが……」
「まあ絶対強くなれるだろうから良いけどさ……今度からもっと早めに伝達してね……夏休みだったら終わってたよ」
「本当ごめんね!」
「失礼しますわ!」
僕が謝るのとほとんど同時に、マッチルームに来客。エナドリのデザインみたいな黒地に緑の髪色がなんだか目を引く女子だった。
知らない顔だし見る限りは多分僕らより歳下っぽい。来客者証を提げてるけど今日平日だし他校の生徒がわざわざウチ来るなんて事あるのかな?
「お客さんかな? マッチルームに来たって事は何かPJ部に用事かい?」
僕が訊ねると、溌剌とした声で彼女は答える。
「龍宮ワタルという一年生が此方に居ると聞いたのですが……」
「ワタル君ならあそこで座学に唸ってるよ」
「ああ……ワタルは勉強が苦……手……」
「?」
なんだろう、この子僕の顔を見てどんどん顔色が悪くなっている。
「ひ……羆──!」
「いったいどこまで広まってるのその通称!?」
○
「初対面なのに失礼致しました聖岳先輩、わたくしは蓮香・マーロウと申します。ところでワタルは今何を学んで……?」
ペコペコと頭を下げてマーロウさんが謝ってくる。僕が困惑してるのは羆という通称がどこまで広がってるかなのであってマーロウさん自身に不満を感じた訳ではないんだけど……。
「よろしくマーロウさん。今日はアーキタイプの判別だね。見えた汎用札の種類や使われるタイミングからどれなのかを判別する際、どのように考えるべきかを教えているはずだよ」
「タケー、ウチのマグどこやー?」
「監督室の扉の横のテーブル! しかし面白い才能してるね君。よければちょっと見ていくかい?」
サキちゃんの質問を適度にあしらいつつマーロウさんへの応対に戻るが、彼女は即気付いてしまったようだ。
めっちゃ人気あるしなサキちゃん。
「は……えっ!? あっ……えっ!? サキ様……!?」
「様!? ……おっと、あの子は蒲原プロとは一切関係ない人だよ」
一応フォローしとこ。ワンチャン流してくれるかもしれないし。
「アッハイ」
「なんや見た顔やなと思ったら去年の中学覇者の蓮香ちゃんやん。
「やっぱりサキ様じゃないですの!」
「僕の誤魔化しが速攻でゴミになった……」
しかしサキちゃん当人の乱入によって僕の目論見は儚く崩れ去った。
そもそもサキちゃんはファンサもガンガンするから普段変装すらしないスタイルなのが悪いみたいなとこはある。以前と変わらない対応してくれる相手が少ないのはそれもあるんじゃ? と僕は思っているが、真相は定かではない。
「なんでサキ様がこんな所に……いやでも配信で話していた内容などを考えるに別に変でもない……?」
「一騎当千杯への移動ついでに寄ってフリプしててん。この羆異常に強いし相手にはピッタリやろ?」
「そろそろ羆以外の通称を広めてくれない?」
「もう無理やろ」
真顔で無理って答えるのやめてよ! というか明日も来るのかよ!
「わたくし去年の全国大会でワタルと勝負する気満々だったんですの。でもワタルったら何か大事な用があったらしくて休場してましたのよ! なので改めて宣戦布告とついでに篠ノ芽がどんな環境なのかを確認しようと思いまして!」
良い姿勢だ。僕としては好感が持てる。
「めちゃくちゃ堂々と偵察に来てる……」
「面白いねこの子」
中戸さんはちょっとびっくりした表情だが、金目さんはけらけら笑ってそう言った。
「偵察くらいならいいよ。じゃあちょっと途中参加だけど座学にも参加してみようか。多分君ならすんなり飲み込めるはずだよ……桜子さん、先生、この子は鳳学院のマーロウさん。ワタル君に会うついでに偵察に来たんだってさ。ちょっと下級生向けの練習に参加させてあげてくれる?」
僕らの所から少し離れた座学講義中の2人のところへマーロウさんを連れて行き、紹介した。
「偵察になるかこれ? 体験学習だろ」
「うん、分かったよ。はいこれ今日の分のプリントね」
反応はそれぞれだが、好感触のようだ。まあ偵察って良い結果になったりならなかったりで博打みたいなもんだからね。
いちいち気にしても仕方ない所はある。
「良いんでしょうかここまでしてもらって……?」
「この羆はこんなでもPJシーン全体の実力底上げが夢らしいから素だ。気にしたら負けだぞ」
「素敵な夢ですのね!」
「というか偵察されるのスルーする大将なんて居るんだ……? 巳蔵部長の頃とかめちゃくちゃ気にしてたのにな……」
着いてきてマーロウさんの様子を見ていた金目さんがそう呟いた。
チーム戦の観点で考えると偵察も使いようだ。完全にシャットアウトしてもそれはそれで怪しまれるし、良い感じにそれっぽい情報を渡して穏便に帰らせるチームもある。
僕はされた方が楽しい試合ができる事が多いから歓迎というスタンス。
なんなら偵察された上で相手の予測を上回るくらいが1番良いと思っている。
そんな事を考えつつ元のテーブルへ戻ると、金目さんの疑問に気付いたのか、サキちゃんが口を開いた。
「タケは偵察されるのもチーム編成の判断材料に使うから偵察に来たのは悪手やぞ。あと単純にタケが強過ぎて勝ち抜けまで上がられたら偵察で何とかなるようなもんやないし」
自分への言葉であると理解した金目さんは少し考えて。
「言われてみればそうだわ……」
そう納得した。
チーム戦となるとサキちゃんの頭脳が光る。僕も中学の頃は中々悩まされたものだ。
元々地頭が相当良いのと、超高速型が得意なので誤解されがちだが、サキちゃんはバリバリの理論派である。
「今年はちょっとスタイルを変えて偵察されても問題ないくらいにまで鍛えるつもりだから、皆頑張ってね」
僕の言葉に2人が不満げな表情をする。
「うげぇ……」
「その……ほどほどにしてね?」
「よっしデッキ弄るしちょっと帰るか。ほんならまた明日なー」
一方で残っていたマグカップのお茶を飲み干したサキちゃんは、カップを洗ってからそう言いつつ帰って行った。
「2人は多分大丈夫だよ。問題は大崎と小岬さんだから……」
「ああ……知識面……」
そこを補えればグッと伸びそうなんだけど、まだまだ先は長そうだ。
桜子さんの適性探しより苦労しそうと思ってすらいる。
「あの2人センスはあたし達より高いんだけどねー……あれ、そうなるとあたし達の伸び代はもう全然ない……?」
「色んな格上とやってたら壁抜けてまたしばらく伸びるんじゃないかな? 今はちょっと停滞期って感じがするね。2年の頃からやってた知識面で伸びる部分が少なくなって来たから緩やかになってるけど、強くなってはいると思うよ」
中戸さんと金目さんは僕を胡乱な目で見ながら言う。
実際2人とも着実に強くなっている。これは2人の適性が比較的僕と近い方向性だから教えやすかったのもあると思う。大崎と小岬さんに関しては僕じゃ教えきれない部分が割とあるし。
「聖岳君ってさ……人間センサーだよね」
「判別出来過ぎて正直引く」
「これは癖みたいな物だから直すのは難しいんだ。ごめんね」
「そうなると……さっきちょっと言ってたマーロウさんの才能ってどんな感じなの?」
「えっとね……多分格下には絶対落ちない代わりに格上食いが無理かな」
「無理?」
「例えば中戸さんはプレイが安定してて、格上食いが苦手だけどできない訳じゃないよね? でもマーロウさんの才能だとガチガチに盤石だから格下には一切崩されないけど格上相手だと全く一矢報いられない。まあ今後の成長で出来るようになるかもしれないけどそれでも苦手な部類になるかな……チーム員としてだと副将か大将向けだね」
聞いていた中戸さんが口元に指を当てて言った。
「つまり……私のほぼ上位互換みたいな感じ……?」
「完全とまでは行かないけど大体そうだね。でも今の所はまだ中戸さんの方が強いよ。来年だとわからないけどね」
「なるほど」
「ワタル君と比べると?」
「まだワタル君の方が弱いかな? ただ彼の場合は格上食い能力がとんでもないから実戦だと五分か有利くらいになるんじゃないかな」
「……もしかしてさ、ワタル君って香奈タイプだったりする?」
「僕が見た限りでは小岬さんのリーサルがめちゃくちゃ広がってるような感じだね。あと伸び代が物凄いというか彼より凄い人を見た事ないくらい」
「すっごい世代なんだな今……自信無くなってきた……」
「私も……」
「今は2人とも道明に所属してても不思議じゃないくらいだからもっと自信持っても良いと思うよ?」
「聖岳君に言われなかったらもっと自信付きそうなんだけどな……」
「それ」
「えぇー……」
僕の事は気にしなくても良いのに……。
○
それからしばらく時間が経ち、桜子さんがぱん、と手を叩いて皆に告げる。
「はい、座学お疲れ様。それじゃ好きな相手とペアを組んで、さっき習った事を思い出しながら一戦やってみようか。今日は対戦終わった人から上がっていいよー」
俄かにマッチルーム内が騒がしくなり、桜子さんもほっとしたように胸元を撫でていた。
「お疲れ桜子さん」
「途中参加のマーロウさんにも楽しんでもらえたみたいで何よりだったよ」
僕らが今年行なっている座学と実践のサイクルはかなり高度な物であるらしく、従来ならどの辺りで学ぶ部分であるのかを知っている葉山先生も当初は難色を示していたのだが……。
ワタル君が来た翌日くらいには何があったのかいいぞどんどんやれ、と勧めてきた。先生が悪い事を企んでいる……!
「そこは桜子さんの教え方が上手いのもあると思いますけどね」
「えへへぇ……」
照れ照れとしている桜子さんの姿に和みつつ、あたふたとしているマーロウさんに気付く。ワタル君は……もう別の子とペア組んどる! そこはマーロウさんと組んであげるべきなんじゃないかい!
「マーロウさんは……ぼくらのうちの誰かとやった方が良さそうだね」
「実力的には大崎や小岬さんが妥当なんだけど……」
ちょいちょいとマーロウさんに手招きしつつ、学力が心許ないレギュラー2人を見ると椅子で放心状態になっていた。
「2人とも燃え尽きてる……難し過ぎたんだね……」
先輩が2人の姿を見てそう呟いた。きっと明日はもっと分かりやすくなる事だろう。
「さて、それじゃマーロウさんの相手は僕ら上級生組がするよ」
「なら差し出がましいお願いなのですが……」
「相手の希望があったりする?」
「羆さん……じゃなくて、聖岳先輩とマッチしてみたいですわ」
マーロウさんが少し不安そうな表情でそう口にした。
サキちゃんの配信で僕の強さは多少知っているからこその表情なのだろう、それでも挑んでみたいという向上心があるのは良い事だ。
「うん、良いよ」
「本当に良いのですか?」
「僕もマーロウさんの適性がどういう物なのかはもうちょっと詳しく見てみたいからね。それで出来るアドバイスもあるだろうし歓迎するよ」
あとやった事ない人とマッチするのは楽しいからね。僕が請ける理由の8割くらいは楽しさだ。
「では厚意に甘えさせて頂いて……よろしくお願いしますわ!」
○
今日の先攻後攻はコイントスだ。
「それじゃ弾くよー。ほい」
審判役を買って出た金目さんが澄んだ音で硬貨を弾き、手に収める。
「選択はマーロウさんからで良いよ。当たった方が先攻という事で」
「それなら表ですわ」
「僕が裏だね。さあどっちかな?」
「表でーす。蓮香ちゃんが先攻ね」
「対戦よろしくお願いしますわ」
「対戦よろしく。あんまり気負わずにやろうね」
「伏せ反応がある時は都度手を挙げてね。それと聖岳君相手に気負わずやるのは無理でしょ」
3年になり僕らがPJ部に統合加入してから、金目さんがちょくちょく僕に塩対応だ。何か僕の知らない所で嫌なことでもあったのかもしれない。進路とか。
「スタンバイ、ドロー、1枚伏せて、1リソースで『朝のルセット』をプレイしますわ。効果で山札の上から4枚を見て好きな順番で入れ替えてから戻し、1枚引きます。『夕のルセット』がダストにあるなら追加効果もありますが……当然先攻で無いのでターンを終了しますわ」
『朝のルセット』は最新弾で実装されたカードであり、汎用カードとしてデザインされている。1コストの朝、3コストの昼、5コストの夕の3種類があり、それぞれ前の段階のカードがあると追加で効果を得る。
朝は夕があると相手プレイヤーに2点、昼は朝があるとリソース上限を2増加させ、夕は昼があるとプレイヤーのライフを5回復させる。
しかし早々に使うのは逸り過ぎかな。
「あと1ターン待っても良かったかもしれないね。コントロールを扱うなら流れを整えるのは大事だけど、初ターンならルセットを使うよりは伏せてそのまま終了の方が誤魔化しが利くかな。とはいえデッキタイプによってはルセットを使う方が当たりだから二重丸とは行かないけど丸にはなると思う。後攻なら二重丸だね。もし違ってたらごめんね」
手札の状況やデッキによるけど、コントロールデッキが背負う先攻は伏せるだけ伏せて動けなくても問題はない。思いっきり動くのはそれこそハンデスでガッツリ初期手札を削り取りたい時くらいで良い。
「はいですの! ……あれ? わたくし、聖岳先輩に何のデッキを扱うのか話しましたっけ……?」
元気よく返事をしたマーロウさんが不思議そうな顔で首を傾げた。この感じだと見当能力は今の金目さんにちょっと劣るくらいだろうか?
「今はルセットをプレイした時の所作で判別したね。ビートダウンを扱うならもう少し早いだろうから決着までが遅めなデッキ、ランプなら中継ぎが必要だから入れ替えはしなくても問題ないか中継ぎが適切に来るように変える事が多い。コントロールならその時に合わせて対応出来るように入れ替える所作が少し多くなる。さっきのマーロウさんのルセット処理は思考時間が長く、入れ替えた仕草が多かった。だからコントロールデッキかなって推測したんだ」
「……? ……???」
僕の解説に目を白黒させているマーロウさんへ、金目さんがため息を吐いて言った。
「蓮香ちゃん、聖岳君の事は普通に強いプレイヤーって思わない方がいいよ? 別次元の生き物の方が近いだろうから……」
「なんだか今日は僕への当たりが強いね金目さん」
「普通に連絡忘れへの仕返しだけど」
「甘んじて受けるね……さて、僕のターンだね。スタンバイからドロー」
僕が握るのはサキちゃんともフリプしていた4テーマ混合コントロール。うん、良い初手だ。
「手札を1枚伏せ、『兆しの忠犬』をプレイ。山札から『濤のファラン』を手札に加えるよ。一応シャッフルをお願い出来るかい? この後もう一回シャッフルを挟むから手間をかけさせることになるけども」
フリプだから省略しても良いんだけど、できる限り処理はちゃんとしたい。
「はいですの!」
「ありがとう。1リソースで『氷炎坊』をプレイ。プレイ時効果で『風雷坊』をノーコストで手札からプレイするよ。この時『風雷坊』のプレイ時効果で僕は山札から『壺天将』」を1枚選び、裏向きにして『風雷坊』の下に置く。ではシャッフル。またお願いね」
「【災宴陵墓】相手は久しぶりですの……どうぞ」
PJプレイヤーは山札切れによるリシャッフルもあり、大抵シャッフルに慣れている。マーロウさんもその例に漏れず、慣れた手つきだ。
まあシャッフルあっても適性とかでそんな引きある? ってなったりはするのだが。シャッフルが大きく響くのは適性外であったり、適性が僕らに比べるとずっと低い……もっとカジュアルな層のプレイになる。
篠ノ芽PJ部の非レギュラーの人達でも世間からしたらかなり強い部類だったりするしね。ほぼ全員ショップ大会での優勝経験あるし。
「バトルに入るよ。反応は?」
「ありませんわ」
「OK、バトルに入って氷炎坊でプレイヤーへ攻撃、チャンス時公開は『濤のファラン』、1点」
「通しますわ」
「続いて風雷坊でプレイヤーへ。公開は『闇市の妖精』。1点だね」
「これも通しますわ……うん? テーマ混合?」
「このデッキ判別訓練用のデッキなんだ。僕しか扱えないのが欠点だから、まだ調整中なんだけどね。ターン終了、どうぞ」
僕のデッキの内容に不審そうな表情で、マーロウはポツリと口にする。
「ううーん……なんだか侮られている感じがしますわ……」
「侮りはしないし、プレイにも手は抜かないよ。それは保証する。マーロウさんが僕に勝てるかはわからないけどね」
「負けるつもりで対戦するプレイヤーなんて居ませんの。スタンバイ、ドロー、1枚を伏せますの」
「良い姿勢だね。僕もそうあり続けたいと思うよ」
メンタル面も良好。これは安定してプレイが出来そうだが、それにしては少々落ち着きがないような仕草が多い。
うーんこれはターン返ってきたらちょっと探ってみよう。
「1リソースと手札の白2で『昼のルセット』をプレイしますわ。3枚ドローし、ダストに朝のルセットがあるのでリソース上限が2増加。手札から『貴き童』をプレイ、出た時の効果で山札から『マグナ・カルタ』を手札に加えますわ。シャッフルをお願いしますの。ではバトルへ」
「良い判断だね。しかし【大憲章】とは中々渋いデッキだ。プレイミスには気を付けてね」
【大憲章】はコントロール系ではあるが、盤面コントロールに重きを置いたテーマだ。核となる『マグナ・カルタ』を有効に扱う必要がある為なかなか難しい評価のデッキで、適切にプレイできているなら特に対コントロール戦や対除去ビートダウン戦に向いている。
全体除去をモロに食らった時の立て直しが非常に辛いのが分かりやすい弱点かな。
「もちろんですわ! 『貴き童』で『兆しの忠犬』へ攻撃時に反応ですの。『公平化』をプレイし、低い方を選択します。現在の場のパワー最低値は1000なのでそうではないキャラクターを全て山札の下へ」
「『公平化』に反応するよ。伏せの『ルール無用』をプレイ。僕の場の『兆しの忠犬』をダストに置き、公平化を打ち消す。これに反応はあるかい?」
「むう……ありませんの。チャンス公開は『
チャンスを使うタイミングはもうちょっと辛抱しても良いんだけど、これは多分僕のデッキを読み違えてるかな?
おそらくテーマ混合ビートとして勘違いしている。そういう作りにしたから仕方ないが、まあそれもさっき打った『ルール無用』で違和感は掴めているはず。
「僕のターンだね、スタンバイ時に『風雷坊』の効果、下に置かれた『壺天将』へ成り代わる。ドロー、リソース2で『闇市の妖精』をプレイ、プレイ時効果で上を選択。僕のリソース上限と保持リソースを+1。1枚伏せてバトルに入るよ。『壺天将』でプレイヤーへ攻撃。チャンス公開は『大迷惑 D・ジェーン』、2点だね」
「通しますわ」
「続いて『氷炎坊』で『貴き童』へ攻撃。チャンス公開は『NO FUTURE』、ターンを渡すね」
そろそろマーロウさんの性質も本格的に見ていきたい。なのでちょっと助言を行なった。
「ターンを貰います。スタンバイからドロー……何か?」
「マーロウさん、ちょっと深呼吸してみてくれる?」
「? はい……」
「うん、今マーロウさんが握ってるデッキは【大憲章】、それは間違いないと僕は思ってる。だから焦っちゃだめだよ。相手が誰であれ、今の君に出来る最善のプレイをすればいい……ちょっとは気が楽になった?」
「……はいですの!」
ぱあっと表情が晴れた感じがする。やっぱり気負い過ぎだったようだ。
そんな彼女を見つつ、金目さんがぼやいた。
「聖岳君ほんと好きだよねーアドバイス。それが原因で負けるかもとか思わないの?」
「むしろ僕が負けるくらい強くなってくれると嬉しいね!」
僕と五分くらいのプレイヤーに会えるととても嬉しい。僕に勝ち越しできると文句なしだ。
しかし残念ながら今の所会った事はない。
「怖っ……あっごめんね続けていいよ」
「では……スタンバイからドロー、3コスト支払い『歴史ある訓練場』をプレイしますわ。効果は……言わなくても知ってるみたいですわね……」
「そっちのターン終了時にパワー1000、ブレイク1の新兵トークンを発生させる効果だね。OK、反応はないよ」
「それから1枚伏せ、バトルを飛ばしてエンドまで。新兵トークンが増えますわ」
「僕のターンだね。うん、マーロウさん本来の調子が出てきたみたいで何よりだ。それじゃ動かせてもらうよ……」
さて、どの程度まで見ようかな。
○
「ターンを貰うよ。スタンバイからドロー」
今は25ターン目、山札は3周目。
僕のライフは14。マーロウさんが8。
場は僕がキャラ2伏せ2にマーロウさんが伏せ2キャラ4エリア1。
今回は色々見たかったので、狙えたリーサルを数度流している。流さなかったらきっと9ターン目で勝ってたかな。
20ターンを越えたあたりでマーロウさんの動きが酷く精彩を欠くようになってきた。おそらくは適性リーサルから外れたのと体力が尽きたのだろう。
感じ取れた適性的にこれはかなり大きな弱点になる。適性リーサルはともかく、体力面なら容易にアドバイスもできる。
この長期戦での弱点面が多分ワタル君に負けた原因の一つでもありそうだ。彼は僕と似ていて長期戦であればあるほどプレイングのキレが上がり続けていくからね。
先生が許すなら、ワタル君には夏合宿で10先とかの連戦を体験させてみたいところだ。
「軽減込み6コストで『大迷惑 D・ジェーン』をプレイ。プレイ時効果でダストの黒のカードを好きな数除外、『闇市の棺桶屋』を2枚、『濤のファラン』を2枚、『消せない想い』を2枚の計6枚、ダストへ置く対象は新兵トークン2枚、『歴史ある訓練場』、『血が赦さずとも ランドルフ』、『汝資格ありき クリストファー』の5枚。反応はあるかい?」
手が挙げられる。疲れからかちょっと鈍い動きではあるが。
「あり、ます。伏せの『緊急確保』をプレイ、わたくしの場のキャラ2枚……新兵トークン2枚をダストに置き、ジェーンの効果を無効にしダストへ」
「『緊急確保』に伏せの『閉演』をプレイ。これに反応は?」
「通します。わたくしの場がすっからかんですの……」
ここでリーサル。精彩を欠いても5ターン分諦めずに動けたのは立派だ。今後の成長も大いに楽しみだ。
「OK、ちょっと確認したかった事があったから、辛かっただろうけど長引かせて貰ったよ、ごめんね。それじゃバトルだ。ジェーンでプレイヤーに攻撃、攻撃時に効果が反応、ジェーンの登場時効果で除外されたカードの枚数分、ブレイクが増加するよ。8点だけど反応はできるかい?」
「ありませんの……ありがとうございましたわ……」
対戦終了でどっと気が抜けたのか、マーロウさんは深呼吸をして椅子に凭れた。
「対戦ありがとうございました。さて、それじゃマーロウさんの目下の弱点とその対策について考えてみようか……」
「あ、やっと終わった? そんじゃあたし杓ちゃんと帰るから、戸締りお願いね。おつかれ〜」
後半から暇見つつ支度を進めていた金目さんが、ひらひらと手を振って待っていた中戸さんの元へ歩いて行った。
「金目さんもお疲れ様。今度ジュースでも奢るよ」
「蓮香のプレイを途中から横で見てたけどどうやってるのか全然わかんなかった……」
残って終わるのを待っていたワタル君がそう呟いた。ワタル君が今のランプビートダウンに加えてコントロールも扱えるようになると僕としては嬉しいので、この調子でマーロウさんと高め合って欲しいところだ。
「海君が複数回リーサル逃しするのは珍しいね。何か実験中かい?」
「確認したい部分が色々あったので、長引かせて貰いました。マーロウさんには悪いと思ってましたが」
桜子さんの言葉に、僕は同意する。
さて簡単ながら感想戦の時間だ。
「マーロウさんと対戦した感じ、適性はコントロール、今使ってたデッキは最近調整して不調、適性リーサルは20ターン前後が限界だけどそれとは別にマッチ体力に不安あり、それと……格上食いができない。これが一番大きな弱点になるね」
「そうですか……やはり体力が……」
マーロウさんは思う節があったようで、そう独り言ちる。
普段からかなりプレイ研究もしてそうだし、気付いてない筈ないよなとは思っていたけど合っていたようだ。
「苦手っていうのはよく聞くけど、できないとは大きく違うのかい?」
桜子さんからの問いに、僕は再び頷いた。
「ワタル君が丁度格上食いが得意だから多分分かるかな、格上食いは直感的ではあるけど、幾つかケースを集めてみるとちゃんとその時の感覚には傾向があるんだ。ワタル君はこれまでに格上食いができた時、何か共通する感覚がなかったかい?」
「うーん………………あっ!」
ワタル君がひとしきり唸ってから気付いたように顔を上げた。
「肌がゾワゾワしてた!」
そして
「正解だ。感じ取る形は色々あるけど、格上食いが出来る時のプレイヤーは相手のリーサルやその前兆に対して敏感になる。例えばぼんやり今は危なそうとか、今動かないと不味いって理由のない焦燥感に駆られたりとかだね」
「? ……???」
桜子さんとマーロウさんの2人が頭上に疑問符を浮かべる。先輩は経験不足から、マーロウさんは多分……。
「苦手なプレイヤーでも多少はそういう感覚の違和感を覚える物なんだけど、多分マーロウさんにはこの感覚が無い。PJに限り危険予測が機能してないというか……
それが僕がリーサル見送りを複数回行なって反応を見てから出した結論だ。
「体力があるうちは普段から学んでるデータ面での補助が利いてるからそう問題は起こらないし気付きにくい。ただ精神的に焦ってしまったり、体力が尽きると一気にプレイングの質が落ちる」
「では、これまでそれらがほぼ起きなかったのは……?」
「単にこれまで大会で格上と当たった事が無かったんだと思うよ。となるとフリプで格上とプレイ出来るようになったのはかなり最近かな? それにマーロウさんの実力なら今のワタル君より上だからね。だから運良く……運悪くとも言えるかな? 格上食いに関してなら、今すぐウチのレギュラーの席に割り込めそうなワタル君に会うまで格下に負けた事が無かったんじゃないかな」
ぽん、と手を打ってマーロウさんが言う。
「道理でワタルとやった時だけ異様に勝率が低いと……地味な疑問が氷解しましたわ」
そんなに対ワタル君の戦績悪かったのか……。
「さて……これを解決する助言は簡単だ。まず一つ、マッチ体力を付ける。二つ、判断速度と精度を上げて消費する体力を減らす。三つ、地力そのものを伸ばして常に自分が相手より格上になれるようにする」
「三つ目が厳し過ぎると思うなあ……」
桜子さんがジト目で僕を見ながらそう言った。
「二つ目と三つ目もじゃなくて!?」
「ワタル君、桜子さんはPJこそまだまだだけど他のスペックは僕が裸足で逃げるくらい凄いからね? 入学してからPJ含む学科試験の学年1位をずっと維持してるくらいに」
「体育も苦手だよ? 特に長座体前屈」
ワタル君のごもっともな言葉に、桜子さんを例に挙げて答える。ほんとPJ以外は物凄いんだよ……。だからこそ篠ノ芽に残れたと言うのもあるけれど。
「門倉部長! テスト前に頼っても良いですか!」
「学科の方なら良いよ。でも実技は海君に訊いてね」
ワタル君は学科が苦手なのもあってか、大崎と小岬さんにはよく懐いている。2人とも感覚派な感性から繰り出されるふわふわアドバイスも自分なりに飲み込んで糧に出来ているのは見ていて微笑ましい。
それはそれとして年々桜子さんに頼る部員が増えてきている……!
そんなやり取りを横目に、困ったような声でマーロウさんが訊ねる。
「それで……その……わたくしはどうするべきなのですか……?」
「おっとごめんね。一番簡単なのはマッチ体力を付ける事だね。ただこれは実戦をひたすら繰り返す形になるから時間が取れないのなら二つ目の判断速度と精度を上げる練習をオススメするよ」
これなら時間が取れなくてもできる。その代わり才能は要るが、その点マーロウさんは問題もなさそうだ。
「それなら二つ目でしょうか……何にしろ、助言ありがとうございました。次はもっと強くなった姿をお見せしたいと思いますわ」
「良い姿勢だね。僕も君がもっと強くなるように応援しておくよ」
差し出された手と握手して今後を祈る。
あとは彼女次第だ。
「でも海先輩ってオレが今まで対戦した中で一番強いんですけど……」
「世界は広いからね、僕より強い人もきっと居るさ……先生なんで急に明後日の方を向いたんです?」
静かに僕らのやり取りを眺めてると思ったら、首痛めそうな速度で急に他所向いたから何かと。
「いやちょっと……妙な物が見えたような気がしてよく見たくてな……本当だぞ?」
「また内心僕に毒吐いてるのかと思いましたよ」
「お前に毒吐くなら面と向かって言うようにしてるからそれは無い」
先生が堂々と言う。僕もあんまり気にしてないのでこれは普段からのじゃれあいみたいな物だ。
「それはそれとしていい時間になっちゃったんで〆る支度しますか……悪いけど、マーロウさんもちょっとでいいから手伝ってくれるかい?」
「勿論ですの!」
うーん良い子だなマーロウさん……伸び代こそワタル君に劣るが、彼とバリバリ成長して欲しい物だ。
「あっ海君、今夜のご飯は何が良いんだい?」
「昨日はお肉で攻めましたし……魚ですかね?」
「それなら帰りは庵ストアーにでも寄ろっか」
「お前らさ……一応教師の前でそう言う事話すのやめない?」
諦めたような表情で先生がお決まりの文句を言う。
この手の文句は数十回目だがまだ諦めてはくれない。そろそろ折れてほしい。
「ほら……僕らがカップルなのは周知の事実ですし……」
「ハーッ……俺煙草吸いに行くから鍵はそこのテーブルに置いといてくれ……」
そう言って先生が外へ歩いて行った。
「蓮香、時間あったら帰りにショップでちょっとオレとやろうぜ!」
「うーん……今日は時間が怪しいのでまた別の機会にしませんこと? 来週末なら空いてるので待ち合わせしましょう!」
2人も仲が良くて結構だ。ところで来週末って、春CSの予選があった気がする。
「来週末なら一緒にCS予選出よう!」
「ペア部門なら考えますわね……」
「良いねペア! 初めてだから楽しみになってきたぜ!」
そんな後輩達のやり取りを聞きつつ、僕と桜子さんはマッチルームの片付けや戸締り点検をしてから皆揃って校門から出ると、黒塗りの高級車が待ち構えていた。
車の側で立っていた如何にも執事といった風情の人が僕らを見て、静かに言う。
「蓮香お嬢様……少し遅刻ですよ」
「沙村、申し訳ありませんわ……ところで、この方達も乗せてあげてくださる?」
「勿論です。皆様、蓮香お嬢様がお世話になったようで感謝致します」
どうやらマーロウさんのお迎えだったらしく、ついでに厚意で僕らも乗せて貰ってちょっと楽な帰路を楽しませて貰った。
めちゃくちゃお嬢様じゃんマーロウさん。
○4テーマ混合コントロール
採用テーマは盤面コントロール役の【災宴陵墓】、潤滑油役の【ブラックマーケット】、除去とフィニッシャー役の【NO FUTURE】、メタキャラクターと手札補給と打ち消し役の【夢想楽土】の4種。
盤面コントロールを主軸に時折ハンデスを混ぜ、ジェーンのブレイクバフによる一撃必殺が主な勝ち筋。偶に災宴軸でそのまま殴り勝ったりもする。
○蓮香・マーロウ
ワタル君のライバル兼メインヒロイン(多分)。
関東の強豪校である鳳学院に通うお嬢様であり、実家の資産を考えると別にPJプロを目指す必要も無いのだが……過去にワタル君に出会ったり助けられたり対戦したりと色々あってワタル君にご執心。
しかしワタル君からの認識は仲の良い友達。
○沙村
蓮香ちゃんお付きの運転手。今後の登場は未定。
○庵ストアー
CMの決まり文句は「月を見るたび思い出せ!」。
鮮魚系に非常に強い個人スーパー。