次回の投稿はもっと早くなります。
道行く光景は木々と空と道路。
田舎だな……と率直な感想が浮かぶ。
「話には聞いてたけど、本当に凄い立地だねここ……」
「僕としては最寄りのカードショップに行きたくても麓に下りないとダメな辺りが最高に終わってると思ってますね」
僕の言葉に運転中の葉山先生が反応する。
「良いぞ聖岳もっと言え」
「目指さなくて良かったって改めて思うなこれ……」
「それでも大崎レベルがゴロゴロ居るからね道明。やっぱりネームバリューは凄いよ」
各々の辛辣な感想が飛び交うマイクロバス車内。
来たるGW前半、僕ら篠ノ芽PJ部はそれぞれバスに乗って道明学園へ向かっていた。
「それじゃ道明の頂点とタケちゃんだとどっちが凄いの?」
「……」
頂点って誰にすれば良いんだろう?
日野君とすれば良いのかまだ見ぬ原石とすれば良いのかそれとも唐川理事長とすれば良いのか。
「……せめてなんか言ってよ!」
「今日野君がどれくらい強くなってるのか推察してたけど、ちょっと分かんないね」
「ねえそれ道明の基準に達してなかったらボコボコにされるやつじゃない!?」
「多分僕よりは弱いから大丈夫だよ。でも僕に勝ちそうなくらいになってくれてると嬉しいね。いや本当に」
「安心できねえ〜!」
大崎の悲鳴っぽい物が車内に響き、繋ぐように葉山先生がのんびり安全運転しつつぼやいた。
「この立地だからこそ今でもスポーツ強かったりするんだが……PJ人気に押されてるから地味なんだよな……」
「そもそもPJの発売前に建ってますもんね道明」
「だな。ここらの私立だと1番古いくらいだったはずだ。なので学園周りの発展は望めないのもわかるが……」
「聞いてる限り、せめて売店の営業時間は見直した方が良いと思いますけどね……」
「今の時間帯なら……もう数分で運動部の奴らが走ってるコースのはずだな」
今の篠ノ芽がPJ一点突破な成績なのに対し、道明はPJ以外も普通に強い。
ただPJ人気もあってそっちに注力してるのがここ30年くらい。他はぼちぼちでありつつも全国大会で良い成績取れたりもしてるのは不思議。
唐川理事長や葉山先生の世代はちょうどその火付け役になった世代となる。
ただ葉山先生は同期と違い早々に引退して教職に就いた事もあり、当時を知る人からは懐かしの名選手って枠になるそうだ。指導者としてなら今でもかなり名を知られているが、一般層にはそこまで……という感じ。とはいえ今の若い世代がちゃんとプロを目指そうってなると間違いなく聞く名前でもある。
なお一方で唐川理事長は非常に有名で、当時の国際大会を幾つか獲り、国内プロの決戦場とされる『ニューイヤー・トーナメント』で一位を何度も獲ったレジェンド枠だ。それもあって今の道明は西日本の……特に近畿地方においては強豪高としての地位が盤石となっている。
その結果がプロの成績が奮わないここ10年くらいというのは皮肉な結果だが……。
「ちらほら生徒が見えてきたろ。道明のトレーニング環境は運動部にとっちゃ魅力的に映る。デメリットも大きいが……まあ体力が有り余ってる年頃だしそこまで問題にはならん。PJ部なら話は別だが」
「この辺りでもう道明学園の敷地扱いなんでしたっけ?」
「一応そうなるが正確には借りている扱いだな。俺の世代よりもっと昔に道明の卒業生が出資した法人で、学園敷地の外の辺りを買い上げてな。立ち上げた法人が所有する私有地って事になってる。だからなのか、道路の舗装やここまでにあったちょっとした休憩所なんかは修繕が早かったりするな」
「比較的動きが早いのならカードショップも作ってくれたりしそうだけど……」
「出資したのがPJが出る以前の卒業生だったそうでな……それもあってPJ関連には動きがめちゃくちゃ鈍いんだ。まあ学園側がPJ関連に積極的に金出してるから妥当ではある。それとカードショップの出店がない1番の理由はな……卒業生による自分も耐えたんだからさ……って意見だ」
うーんこの。
「にんげんはおろか……」
「君が猫ちゃんみたいな事言ってどうするんだい大崎……」
「もう5分ほどすると着くからお前ら降りる準備しておけよ」
「はい」
ワタル君達下級生の車内も和気藹々としてそうだ……あっちは僕らと違って普通にバス借りてたけど。
○
「ようこそ篠ノ芽の皆さん! 本日と明日はよろしくお願いします!」
そんな訳で到着し、降りるなり日野君達道明のPJ部の面々がお迎えしてくれたので、僕らも揃ってお辞儀を返す。
「篠ノ芽の部長を務めさせて貰っています門倉です。本日はよろしくお願いします」
そんな歓迎される事かな? と思ったけどよく見たら歓迎ムードなの日野君と銀舎君だけだこれ。
他は大抵が不信感の方が大きい表情だ。講師もその表情……ではないな……なんか僕にめっちゃ視線向けられてる。
とりあえず葉山先生を盾にしとこう。
「お前なんで俺を盾にしてんの? もっと前出ろ」
「えぇーっ……」
「葉山先輩……その……彼が?」
「先月ぶりだな
「めっちゃ喧嘩売るなこの人」
それと無冠の悪魔って何です? 僕の知らない所で僕の悪名がどんどん増えている。
「久しぶり海! 是非とも学ばせてもらうよ!」
「日野君久しぶり。こちらこそ学ばせてもらうね。銀舎君も久しぶり。後でちょっと頼みあるから聞いてくれない?」
「久しぶりタケ君。俺も金ちゃんもかなり伸びたから楽しみにしてくれ。頼みは了解した」
日野君が生来の金髪を日に煌めかせながら、中学の頃と全然変わらず明るく言う。銀舎君も昔と変わらず落ち着いた雰囲気だが、心なし声が弾んでいる気がした。
「そういえばサキちゃんはもう来てる?」
「少し遅れるそうだ。昼までには着くらしい」
「分かった。……他のレギュラーの子は? なんか僕の事怖がってるみたいだけど」
「海と昔やった事があるからだろう。怖がっちゃいるが、まあ明日には治ってるはずだ」
「治ってるというか……多分治らざるを得なくなる……」
銀舎君がため息を吐きながら言った。なんか見覚えのある顔も居るから、その人達とはやった事がある……と思う!
「とりあえず皆ウチのマッチルームに案内するよ。ついてから今回の具体的な練習内容を伝えるから」
「そういうのって……もっと前から伝えるべきでは……?」
伝えてくれたらこっちも準備できたのに。
とはいえ今回も文化祭の時よろしく父さんからキャリーバッグを借りてデッキを持ってきたので、何が来たってばっちこいだ。
「すまんが理事長に口止めされてるんだ。悪い」
「多分タケ君の力量測るのも兼ねてると思うからなあ」
「偵察に来たら偵察されてる図だねえ……」
「門倉さんは海の彼女さんって幸助から聞いてたけど……」
「めちゃくちゃマトモそうで安心するな……」
桜子さんを眺めて2人が言う。桜子さんは可愛かろう、僕の彼女だ。
羨ましかろう。
「桜子さんは学力オバケだよ。僕は割と勉強見てもらってる」
「代わりにぼくは海君にPJを習ってるね!」
「……という事は門倉さんはPJそこまででもない?」
「桜子さんだとちょっと事情があって最適性以外は使えないけど、最適性ならBプロ中堅安定くらいかな? 最適性を握れるなら道明でもPJの強さは中の上くらいになるんじゃないかな」
結構できる方だな……? と銀舎君が懐からメモを取り出して書き込んだ。メモ魔なのは相変わらずらしい。
それと僕は日野君よりは銀舎君の方が会話していて楽である。日野君は……光属性な感じだからね。
「道明は強い人が沢山居るんだねえ」
「プロ成績が腐った今でも西の道明って呼ばれてるから、入学者の平均値は高いんだよね。何もしなくても俺や金ちゃんみたいなのが出たから名声はまた戻るとは思うけど、それだと改善まで結構時間もかかりそうだし……」
「そこに僕の声掛けもあって乗った形って訳だ」
「だな」
「今日と明日は存分に暴れてくれて良いぞ」
「どれくらいなら良いの!? 100人組手とかして良い!?」
僕の言葉に2人が狼狽え……真面目に考え始める。
100人組手をやれるんならやりたいのは本気である。
篠ノ芽でもできない事はないけど大抵皆負け前提でやって来るから実にならないのだ。
篠ノ芽で僕に勝つつもりでやってくれるのは葉山先生とワタル君と小岬さんくらいである。僕は悲しい。
「100人……俺たちは平気だから構わないんだけど……あんまり後遺症が残らない感じで頼む」
「うわぁなんだか大変な事になっちゃった……〆る時間決めた方がいいよお2人さん……海君は水分補給さえ出来れば丸一日マッチやれるらしいから」
「試した事無いけど多分行けると思う。半日は昔やったし」
風見が僕にやらかしましてねの時だ。あの時でも全然行けそうだったし今なら一日中でも余裕だと推測している。
「えっまたマッチ体力伸びたの? 昔から運動面普通なのに?」
「コワ〜……おっとここが道明のマッチルームだ」
日野君が紹介した建物はどう見てもルームなんてものじゃなかった。
「ねえこれルームじゃなくない?」
「小さめの校舎くらいないかい?」
体育館+αみたいな大きさしてるけどこれほんとにルーム呼びで良いの?
「今回みたいな泊まりがけの際の宿泊スペース込みだから大きいんだよね。中で他の面々も居る。海に見覚えのある奴もまだ居るかもしれないな。それじゃ改めて、ようこそ道明PJ部へ」
「よろしくね」
「よろしくお願いするよ!」
で、早速中で軽い紹介と力量に合わせたチーム分けが行われたんだけど……。
「ねえ先生……どうして僕と桜子さんが講師用のスペースに座らされてるんです?」
「門倉は資質がプレイヤーよりも指導者や監督向けだからだな」
先生が僕の方を見ずに答えた。
「ねえ先生僕は?」
「それじゃ各々がやってる場をぐるぐる歩き回って、気づいた事をこのノートに書き込んでいってくれ。プレイミスとかデッキ傾向から見られる相性の良い別テーマの候補とかでも良い」
「先生?」
「門倉、これ聖岳の分な」
「はい」
一向に僕の方を見ないまま、先生は桜子さんに2冊のノートと筆記具を渡していた。
「有無を言わさず僕を講師側として動かすつもりだこの人!」
「人数に対して教えられる側が少ないが頑張ってくれ!」
にこやかに葉山先生は言い、3年生の居るあたりに歩いて行った。
ちくしょう!
◆
ともあれ観念して要望通りに各テーブルを見ていく。とりあえず1年のエリアから。
この広さだと大型店舗のCS会場より余裕がありそうだが、人数も多いので案外人口密度は高い。今日は少し暑い事もあり、エアコンが無ければプレイヤーの熱気で雲が出来そうだ。
「君は多分デッキ構築見直した方が良いかな? ちょっと合ってない感じがするね。龍宮君はプレイ精度を上げてみようか。見落としが多い」
「ウッス!」
ワタル君を見かけたので卓を覗いてみると、適性的にはワタル君の方が上だがなんか不思議な膠着をしていたので双方に助言をしておく。
「はいプレイストップ。お互いもう1〜2ターン我慢してみてね。じゃあ再開していいよ」
「えっ……?」
知らない子達だが、盤面とダストを見つつ助言する。
「【シルク・ド・エト】を扱うなら相手の公開情報をもう少し気にする方が良いね。君だと【コズミック・アワー】や【スチームエイジ】を扱ってみればもっとそのデッキは上手く扱えるようになると思うよ」
「? ……???」
ちょっと見過ごせない甘えたプレイがあったので助言する。
文句は言ったものの、色々見れるのは結構楽しい。
勿論渡されたノートに色々と書き込みもする。
流石道明、篠ノ芽に比べると扱われるデッキが広く、また構築精度も平均的には高い。まあ僕が見た限りではちょっとした抜けとかあるからその辺は指摘させてもらうけど。
1年、2年と回ってきたので次は3年の居るエリアとなる。
とりあえず日野君の卓から見ていこう。相手は大崎だった。時間的に今は3戦目かな? 最初は中戸さんと当たってた筈だし。
「やあ日野君、調子は……良さそうだね」
「海も大変そうだが頑張ってくれ。後でフリプに付き合うからさ」
「OK、ありがとう。それで大崎は……」
「なあタケちゃん俺ここから巻き返しってできる?」
大崎よ……それは正直マナーが悪いぞ。
……しかし頼まれたから検討はしてあげよう。同じクラスの誼だ。
「んー盤面とダストがこれだし……。ちょっと手札見せてね……これだと4ターン前ならなんとか行けたかもしれないけどもう無理かな。頑張ってね」
「無慈悲ィ……!」
このデッキでここから拮抗まで引き上げるならノってる日の風見くらい出来ないと無理だ。従って今の大崎では無理である。
もう少しで日野君の適正リーサルに入るから余計に。
「海、今俺たち7ターン目なんだけど……」
「大崎はビート寄りだから早期に楔打ち込まないと日野君に善戦は難しいんだよね……日野君はそのままプレイ続行でいいんじゃないかな? 3連プレミとかしなければ勝てるよ」
3連プレミでまあギリ優位まで落ち込むかな? って感じなのでまあ多分大崎は負けてしまうが、最後まで足掻いて何かを掴み取って欲しい。
「海……なんか昔より強くなってないか?」
「僕も成長期だからね!」
「理不尽な存在過ぎるだろ……」
「フリプの時は気合い入れ直さないとな……」
ひらひらと手を振り次の卓へ。今度は銀舎君と金目さん。
「や、さっきぶりだけど調子はどうかな?」
「正直やり難い……」
「なんであたしが道明の副将とやる羽目に……!」
銀舎君はビート適性、金目さんはコントロール適性。
僕の適性的にビートデッキは扱い辛いので、篠ノ芽で金目さんとやり合える格上のビートデッキ使いは必然葉山先生か適性デッキ握ってる時の小岬さんか遊びに来てる時のサキちゃんかという非常にバランスの悪い3人が候補だった。
時間が取れない超格上2人と格上食いが得意なミサイル1人という育成には向かない3人なのでどうしようもない。これは僕も頭を悩ませていた所だ。
なのでこの組み合わせは多分葉山先生が決めたやつかな? 正直助かった。僕は対コントロールでなら教導は出来るけど、扱うビートダウンは握れるとはいえ純ビートダウンじゃないしあんまり教導して良い物じゃない。
「まあこれも良い経験だよ。銀舎君を上手くいなせてるみたいだしまだ踏ん張ってね」
「コントロール使いって金目さんみたいなタイプも居るんだな……」
「そうそう、結構珍しいんだよね格上食いが出来るコントロール使いって。そういう意味で期待株だからビシバシ扱いてやって欲しいな」
「聖岳に期待されてるとか怖いよ!」
金目さんが泣きそうな声で僕に文句を言う。でも銀舎君に善戦出来るなら多分壁越えはもう少しだから頑張ってほしい。
「今の金目さんはおそらく日野君や銀舎君相手ならギリギリ食えるか食えないかくらいにはなれるから落ち着いてプレイしてみてね。本気の最適性ならともかく今なら2人とも卒業直前の頃の近山先輩よりは1枚落ちるくらいだからまだ詰みではないよ。それじゃ別の卓見てくるかな」
「めちゃくちゃ怖いこと言ったな……!? もうちょい気入れてやらなきゃ……」
「えー近山先輩よりは……? やっててそうは思えないんだけどなあ……」
金目さん達の卓も見終えたので残りのレギュラー2人……中戸さんから探す。
さてそれじゃ中戸さんは……あそこか。
「前のターンにプレイした『時代の風』の効果により私のドローしたカードを公開しますね。引いたのは『帳簿精査』、『時代の風』をプレイ時に宣言した偶数コストのカードである為、次のあなたのターン終了時まで私のリソース上限値と保有値が倍となります。では6リソース支払い手札から『帳簿精査』をプレイ。プレイ時に追加で3リソースを支払います。次のあなたのターンのみ、あなたのリソース上限が2減少し、ターン終了時にリソースが残っていた場合残っていた値×3のダメージを与えますね。2枚伏せてターン終了です」
「うェ……キッツ……」
中戸さんの方は今日も【行商】が安定して回ってるみたいだ。相手の子が物凄い目つきになってるけど、これが【行商】ぶん回しによるものなのか、それとも中戸さんの殺人的プロポーションによる悲しいくらいのスタイル格差によるものなのかはちょっとわからない。
中戸さんの最適性テーマである【行商】は古くからあり、実装当時から今に至ってもまだ扱いが難しいテーマだ。これは【行商】がマッチを仕手戦に見立てたテーマであり、時には計画的に、あるいは運に頼って自身のリソースを増やし、相手に不利を背負わせるコントロール系のデザインとなっている。その為ビートダウンに向いたカードはやや少ない。ない訳ではないけどね。
僕としては計画的ならともかく運に頼る必要があるのが厄介で、適性があるこの世界でも【行商】を安定して回せるプレイヤーはテーマ適性の合致が必須と言われているくらい。
そういう意味では中戸さんは非常に才能に恵まれていると言えよう。
彼女の適性の伸びは今のレギュラー組だとおそらく1番低く頭打ちも近いが、中戸さんは珍しく【行商】をほぼ安定して回せる点と【行商】自体が性質的にメタり難いという部分や回りさえすればほとんどのデッキに微不利で済むという強みもあって重宝される立場にある。
プロとしてなら安定していぶし銀に活躍できるだろうし、企業リーグが主軸なら相当に大切にされる事だろう。
強さの上限はほどほどに収まるが、それ以上に希少価値が高いプレイヤーだ。気質的にユーティリティプレイヤーを目指してるのも強いね。
「中戸さんは調子が良さそうだね」
「私のホームショップとか篠ノ芽だと皆慣れてるけど、そういえば知らない人相手だと凄くビックリされるの忘れてた……」
「【行商】は難しいテーマだからね……」
僕は扱えるけど安定化は難しい。強く動かすなら博打プレイしないとだから性格的にも合わないのが悩ましいテーマだ。
「聖岳君に言われると自信無くすんだけど……私より強く回せるし……」
「僕は強く回せるけど、中戸さんほど安定はしないから……」
「仮に100戦やったら何回くらい事故起こすの?」
「試した事はないけど、僕なら多分10〜20回くらいじゃないかな? 事故は構築次第で減らせるけどそれだと純【行商】じゃないからなあ……中戸さんだと純【行商】で事故率3%切るくらいだし自信持って良いと思う」
デッキを扱う際においてプレイのブレは御法度だ……と僕は考えている。なのでギャンブルデッキはあんまり触らない。研究の為なら触るけど。
「そう……かな……?」
「化け物が化け物と会話してる……」
「いや……私なんかより聖岳君の方が凄いよ?」
「えーっと君は……中学の頃は【継がれる詩】を使ってたね。久しぶり」
見た顔だなと思ったら同じ中学の子だった。確か日野君を慕ってた子のはず。多分。
「アタシの名前より先に得意テーマの方思い出したろテメーッ!
「久しぶり鹿江さん」
「今更名前呼んでも遅えよバーカ!」
「仲良かったの?」
「うーん……普通? 時折マッチして遊ぶクラスメイトだったかな」
鹿江さんは負けん気が強くて割と楽しかった覚えがある。
やっぱり勝つつもりで挑んで貰わないとね。
「中学入った時にアタシクラブ組だしちょっとここのPJ部の実力測ってみっかなって体験入部したらこいつに完膚なきまでにボコボコにされた」
現行の日本のルールでは、実力差を鑑みてか日野君や鹿江さんのようなクラブ組は、中学までの学生大会には出られない。
なので見識を広めるのも兼ねて入ってたりとか、とりあえずPJ触りたいな……で入部している人が多いそうだ。
「うんうん、あの体験入部は楽しかったね」
「完勝しててそんな事言う!?」
「サキさんや桜子ちゃんから聞いてたけど、本当に昔から変わんないんだね……」
中戸さんが消え入るような声でぼそっと言った。褒められてるのか貶されてるのかわからない!
「あ、それと鹿江さんはもうちょっと丁寧に盤面とか公開情報見た方が良いよ。次で対応できなかったら多分3ターン以内に負けるかな」
「え、マジ?」
「聖岳君そのアドバイスはよくないと思う」
おっと申し訳ない、これはマナー違反だった。
うーん気が緩んでるのか?
「あ、そうだねごめん。うーん……今中戸さんは鹿江さんに負ける気はする?」
「しない……かな? もう詰めに入り終わっちゃったしよっぽどの事が起きないと勝つかな」
「あっ凄い悔しい。足掻いてやろ」
鹿江さんの瞳に火が付いた気がする。これなら中戸さんにも学びがあるだろう。よかったよかった。
「その意気だよ鹿江さん。じゃあ頑張ってね」
「また後でね〜」
「あいつアタシのメンタルグチャグチャにするだけして去りやがって……!」
懐かしい人にも会えたし案外楽しいな講師側として動くのも。
さて後は小岬さんだと見回すと対戦終わっての合間に寄っているのか、人集りが出来ている卓があった。
近くに桜子さんの姿も見える。
「桜子さん、あの卓何かありました?」
「ああ海君か。なんとあの香奈ちゃんが長期戦しててねえ……」
「今日の小岬さんは……【ハートビート】だったかな。今何ターン目です?」
「20ターンは過ぎてるみたいなんだよね」
「凄いな……何やったら【ハートビート】で20ターン保つんだ……ちょっと見てみます」
ほんとわからん……何したんだ……?
「任せるよ。見終わったらちょっと葉山先生の方にノートを出しに行こうか」
「了解です。はーいちょっと通りますね」
「うにゅにゅ……」
その卓では、野生に身を堕とした小岬さんが手札を見ながら唸っていた。
「ひ……人の言葉を失っている……!」
「なんかこの子怖いよぉ……! げぇっ! 悪魔っ!」
小岬さんの対戦相手が僕の姿を見て身をのけぞらせる。僕なんかした?
「悪魔って何!?」
「勘弁してくれよ……なんでトラウマ生えそうな時にトラウマがやって来るんだよ……!」
「僕そんな酷い事してたかな?」
「完勝してからアドバイスして来るのは凡人にはダメージが大き過ぎるんだよぉ!」
対戦相手の子が悲鳴にも似た声でそう言う。
「そうかな……? でも桜子さんも度々言ってくれるからそうかも……」
「でも道明に入れてる時点で凡人扱いはされないのでは? 私はそう思った」
スンッと正気に戻った小岬さんが冷静にツッコミを入れる。
その見解は正しい。強豪校に入れてる時点で上澄みなのである。
なんなら篠ノ芽もPJに関しては上澄み側だ。
「急に人語を取り戻さないで!?」
「だよね。ありがとう小岬さん……ところでどうやって【ハートビート】で凌いでるの?」
「え? こう……次のターン危なそうだったらギュッてするからギュッとしなくなるまで動いて……動いてたらこうなってた?」
「お……おう……」
まるでわからん……!
後でサキちゃんに訊ねてみよう……多分答えてくれるだろう。頭良いし。
「勝てそうなら勝ちたいからもうちょっと頑張……みょる」
「あの……助言とかもらえる?」
「僕は【ハートビート】みたいな超高速型のテーマは苦手なんだ。だからちょっとこのパターンだと助言は難しいね……ざっと見たところまだ勝ちの目はかなり残ってるから頑張ってね。ところで君の名前を聞いて良い?」
聞かないと後々困りそうだからね。
返事は物凄く迷惑そうな声だった。
「
「これからよろしくね那須野君。それじゃまた後で」
「キャッキャッ……あ、それは『noisy』反応」
「急に正気に戻るのやめて! 怖いの!」
すまない……獣となった人相手のアドバイスは流石に僕にも出来ないんだ……。
しかし超高速型テーマで20ターン以上争うというのは凄い快挙だ。これも才能が花開いた一つの形なのだろうか? 人語を失うのはかなりのデメリットだが……。
◆
「ご苦労。俺と他の講師でデータを纏めてくるからしばらく好きにして良いぞ」
桜子さんと合流してから先生にノートを渡し、そのままマッチルームの端にある休憩スペースで喉を潤しつつお話する。
「休憩ついでに撮っといたページ見比べてみますか……」
「うーんこうして見比べると情報量の差が大きいねえ」
桜子さんのノートの写真はかなりスッキリしていて見やすいが、情報量としては穴が多い。
しかし僕のノートの写真はギッチリと書かれ見にくいものの、情報量が多い。
「この差は経験が大きいと思いますよ。桜子さんの事情も考えると相当見れてる方です」
「とはいえ……海君みたいに個々人の適性ってパッと見て分かるものなのかい?」
「パッととはいきません。大半は扱ってるデッキから推測したデッキ大系ですから構築デッキで判別してるのとあんまり変わりませんね。ただ……三年生は僕と同級生にあたるので僕が昔やった事あるプレイヤーも多いんですよ。なので割と細かく書かれてます」
そんな訳で僕の書いた1〜2年の担当部分はかなり端的だ。それでも参考にできそうなメモは色々書いてあるが。
「……その割には、覚えられてなくてショック受けてた子も多かったみたいだよ?」
「後々思い出してみたら確かにやった経験ありましたね……」
思い返してみると、那須野君はノーリミ中心のゆるっと遊んでいたプレイヤーだった。ゆるっと遊んでて道明に入れたのだから、世間的には彼もまた相当な上澄みという訳である。
「デッキテーマとかは覚えてたけど相手の名前は覚えてなかったパターンだね?」
「はい……」
「ゆっくりでも矯正していこうか……」
先輩に諭されてしょんぼりしていると、近頃妙に聞き覚えのある声が聴こえた。
「2人ともいったいどこ行ったん……居った! 先月ぶりやな!」
「サキちゃん! 久しぶりだね!」
「サキちゃんもう来てたんだ? これからお仕事?」
サキちゃんがおう、と手を挙げて空いてる席に座る。
「今はまだデータ纏めるの待ちやな。葉山センセが言うには15分くらいで行けるらしいわ……ところでクーちゃん来てへんの?」
「クランプスは実家でお世話されてるね」
GW中は母さんがウキウキでクランプスをお世話する事だろう。僕らもこの合宿が終わればそれぞれの実家で1日ずつお泊まりなのでお互いの両親が張り切っている。
「そか。久々に会いたかったんやけどなあ」
「15分で纏められるんだ……?」
「先生の場合は昔の経験もあってその手の作業は慣れてるでしょうからね」
それに他の講師の人も居るし。多分皆唐川理事長派なんだろうな今回居た講師陣。
「適性足りてへんのにトッププロの領域で殴り合ったのは伊達やないって事やな……それと桜子ちゃん、昨日も伝えたけどまた講義にタケ借りるで」
「海君が役に立つなら喜んで」
「聞いてないんだけど?」
今日は巻き込まれる日なのか?
僕の問いにサキちゃんはジトっとした視線で僕を見て言う。
「だってアンタ土壇場で言わんと受けてくれんやん」
「まあ……それはそう……講義の内容は?」
「チーム戦の考え方と道明の現状やな。その辺得意やろ? ウチの経験談の話もするつもりやからタケが適任やねん」
「得意というか僕が色々考えざるを得なかったのもあるよ。しかしそれだと日野君も……いや巻き込むのは銀舎君の方が良いか?」
「断りなく巻き込む前提で話が進んでいる……!」
先輩による良心の訴えは聞こえなかった事にした。
「篠ノ芽主体でやるのもちょっと感じ悪いしね。ここらで道明側にも花は持たせたいんだ……サキちゃん道明の知り合いとはもう顔合わせた?」
「アンタら探す前にしたで」
「OK。じゃあ色々詰めようか」
「やな!」
「ぼくも手伝える事はあるかい?」
「桜子さんだと今日よりは明日の方がありそうですね。今日の夜にでもその辺は話しましょうか」
「わかったよ。しかしプロ視点からの講義……ふふっ楽しみだねえ……」
パァッと花が咲いたような期待の表情で先輩が身を揺らしている。かわいい。
「桜子ちゃんに期待されると緊張するわ……」
「ミスらないように気をつけなきゃだ」
○
それから30分ほどして、色々準備を終えたサキちゃんと彼女に助手として拉致された僕は、マッチルームに備えられたちょっとした壇上でホワイトボードを前に立っていた。上にはスクリーン幕で遠目にも分かるようデカデカと僕らは映し出されている。
「おーし、ほんなら皆知ってそうやけど紹介から行こか。PJプロの蒲原サキです。今のレートは……3500くらいやったかな? トッププロって呼ばれてる層になるな。バリバリ稼ぐつもりやから卒業後にプロになるつもりの子はいつかウチとやり合うかもしれんな。ほんでこっちが……」
サキちゃんに促されて僕も改めて自己紹介をする。しかしこうも豪勢な場だとやっぱり緊張するな……。
でも桜子さんが見てるからしっかりしないとだ。
「助手として駆り出された篠ノ芽高校の聖岳海です……多分同級生の三年生なら僕の事知ってる人がちょこちょこ居るかな? でも道明の人で名前覚えてるのはあんまり居ないからそこはごめんね。当時使ってたデッキを教えてくれたら思い出せると思うんだけどやってみるまでわからないや……えー今日はサキちゃんに拉致されたので講義のお手伝いをします。とは言ってもサキちゃんからの質問に答えたり例を挙げたりってしていくだけになるけれど」
「両校の下級生の一部がなんでタケを呼んだんやろ? って感じで分かってへん顔してるから言っとくわ。ウチこいつに公式戦で勝てた事無いからな。ウチの配信観てる子に分かるように言うと、これが羆」
揶揄うような目線で僕を指すサキちゃんの姿に、観客が騒めく。
僕としては時の運もあると思うんだけどなあ……。
「フリプで勝ってる癖に……」
「本番で勝てんかったら意味ないやろがい!」
「まあそれはそうだけど……」
この辺の勝ち気な所は僕がサキちゃんを好ましく思う一因である。いつでも勝つ気概でプレイしてくれるからね。
まあ大抵僕が勝つけど。
「いつか負かしたるからな……おっしそれじゃあ漫才はこれくらいにして……始めよか。今日やるのはチーム戦についてと道明の現状についてや。色々と総合してやっていくからどっちかって言うと下級生向けの話題ではあるけど、上級生も将来役立つ部分があるかもしれへんからな。多分プロじゃなくて企業チームの方行ったりすると特に役立つで」
ちょっとサキちゃんは例を省く癖があるので具体例を挙げておく。
「これからならチーム戦になる大会……これからの季節だと『フォースリミットカップ』であったり国際交流戦のシーズンがあるからプロでも活用する場面はあるね。これから僕らが話す内容は後天的に身に付ける事が出来る技能でもあるから、今伸び悩んでる人は特に覚えてみると将来そこがウリになって役立つかもしれない。損はしないよ」
「それじゃ皆に最初の問題や。国内でチーム戦が1番盛んなのは大学までの学生戦やけど、道明や鳳みたいな全国常連校が必ず重視してる部分がある。これ分かる人は手ぇ挙げてー……やっぱ道明の子が大半やな」
道明の2年3年はほぼ手を挙げていた。なんなら挙げていない一部の子が隣に小突かれたりしている。
篠ノ芽は桜子さんに中戸さん、それに他にもチラホラとだが道明に比べると非常に少ない数だ。
「流石の常連校だね。質の平均はやっぱり高い。代わりに篠ノ芽は少なめだけど……手を挙げてるのは葉山先生からキッチリその方面教えて貰ってる人になるかな」
「全員に詰め込みってせんのやな篠ノ芽」
「誰でも学べはするけど有効に扱うにはいくらか素養も要るから、葉山先生が希望者には教えてる形だね。こういうのって裏方仕事になるから」
俗にサポーターって言われる役割である。プロでも雇っている人がちょこちょこ居るそうだ。
「ま、それは置いとこか。多分手を挙げてくれた子は分かっとるやろうけど、学生戦で重視されとるのは参謀役……作戦立てられる選手の有無や。道明やと金ちゃんやな」
「という訳で銀舎君も壇上に上がってねー」
「えっ……!?」
メモに書き込んでいた銀舎君が呼ばれて宇宙猫みたいな表情を見せる。そして隣の日野君に促されて壇上へ上がってきた。
「さっきも言ったけどおひさー。今からタケに例題として5人戦でのチーム編成言ってもらうからそれにどう組み換えるか答えてくれへん?」
「あ、ああ……」
「それじゃ言うよ。先鋒格上キラー、次鋒格上キラー、中堅安定性重視、副将僕、大将ムラ持ち最大Aプロ中堅クラス」
「副将タケ君なの反則だろ……」
「おいタケそれウチらが中3にエリア戦で当たった時の構成やろ」
「そうだよ。あの時は読みが当たって助かったね」
「コイツ……身内話なんやけど、ウチは中学時代にエリア予選でタケの学校と当たって見事に編成読み切られて副将でコイツにぶち当たって負けてるねん。3回の勝ち星をどう取るかがめちゃくちゃ響くんよなチーム戦……」
「エース1人じゃ勝てない。そこは編成考える人の腕の見せ所だ。うちの後輩だと……素質あるのは3人くらいか?」
覚えがあるようで銀舎君が頷きながらそう答えた。道明でも素質ある子は少ないんだなあ。
「大学のサークルや企業チームに入ると、エースか次点くらいで動けたり安定感が高くて参謀役出来る人はめちゃくちゃ重宝されるって聞くね。今からその枠を目指すのも遅くはないよ」
なので葉山先生の引退時は各所で争奪戦が凄かったらしい。以前本人が言っていた。
「一年弱あるからな。余裕や」
「とか言ってるけどサキちゃんは扱うデッキとは裏腹にめちゃくちゃ頭良いから余裕って言うのは難しいと思うよ。でもまあ一年半くらいかけたら物には出来るんじゃないかな」
「気軽に言ってくれるなあ……あ、できたよ。先鋒安定、次鋒俺、中堅格上キラー、副将リョウ、大将格上キラー」
「うーんこのマッチングだと多分負けるかなー……先鋒負け次鋒負け中堅勝ち副将勝ち大将負けになりそう」
想定としては風見次第なマッチだ。実際そんな編成にしたらプレッシャーで風見が体調を崩しそうだが……適性ムラは体調関係ないから安心だ。
「会場は盛り上がりそうやけどな」
「フリー枠にムラ持ちAプロ中堅クラスは反則だよ……リョウを出す所が難しいんだよな……」
「便利に使わせて貰ったよ。あの時は2人が部に居たらなーって思ってたけどまあ勝ったし良いかな」
同時に僕はクラブ入らなくて良かった! と思った一戦でもあった。入ってたら僕出られなくて多分負けてたと思う。
「今コースケはもっと強いけどな」
「ノってなくてAプロ下位くらいなんじゃないかなー今は」
「リョウも参謀役出来るようになってきたから成長はしてるんだけど、後には続かないんだよね」
「今年度で卒業になるからね」
「リョウの本分って選手やし参謀役としての役割は覚えんでも良い気はするけどな……」
と、そこに葉山先生が手を挙げてからマイクを取り、口を挟んだ。
「お前ら、雑談っぽいノリでめちゃくちゃハイレベルな話してないか?」
「そうかな……そうかも……」
「あっすんません! 話戻しますねー」
「申し訳ない……」
「ちゃんと戻るなら別に問題ない。講義内容は俺たちがそっちに丸投げしたからな……少し付け加えておくと、学校や企業チームのスカウトマンからするとこの3人の価値は凄まじい。蒲原プロと聖岳の2人は特に抜きん出ているが、銀舎もスカウトからすれば日野よりも価値があるものと見なされる。なので社会に出てからもPJを生業とするのであれば、自身の市場価値を高めるという意味でチーム戦について学ぶのは大いに有効だ」
葉山先生が話し終え、マイクを戻す。
話を聞いた銀舎君がちょっと嬉しそうに言葉を漏らした。
「そんな風に見られてたのか俺……」
「良かったね銀舎君。それでもプロとしてより大成出来るのは日野君の方だから苦しくもなると思うよ」
「そこはとっくに理解してるしなあ」
「お、良いこと言ったなタケ」
サキちゃんが雑談に突っ込んで話題の軌道修正をするようだ。
「ああ今の道明の問題点? 早めに突っ込むことにしたんだね」
「だってアンタらと居ったら雑談で半分くらい占めそうやし……」
「……俺はもう席に戻っても良い?」
「偶に話振るから椅子持ってきて座っといてや」
「ええー……」
「MC中のサキちゃん大抵こんなんだから諦めて持ってきた方が良いよ」
場を回すのが上手いのでちょこちょこPJ関連の特番にも呼ばれている。
「大抵ってなんやねん! さて今の道明の問題点については……まだ来てへんけど唐川理事長に頼まれたからどうしても入れなあかんねん。という訳で心して聴いて、篠ノ芽の子らは有効活用したってな」
「ウチの生徒の一部は話を覚えられるかどうかが問題だね……」
特に大崎や小岬さんが心配だ……。
「ほんじゃ挙げるでー……複数あるからな。まずひとつ、学生戦の全国大会を重視し過ぎて変な成長しとるプレイヤーが増え過ぎとる。強豪校やと東の鳳学院や九州のヒューイックスクール、東北の最上高専や北海道の星大附属に比べるとこの点は明確にズレとる。他校がプロシーンに向けてガンガン育成しつつ結果的に全国大会で成績残せとるのに対して逆の事しとるからな」
サキちゃんも気付いていたようだ。でも言い方的に卒業生の事前のデータと彼ら彼女らと実地でやってみてって感じっぽい。
「軽く見ていった感じ、本当ならもっと伸びる人がたくさん居るからね。チーム戦の話をした手前、前提をひっくり返すようで悪いけど、プレイヤーを本分とする人が参謀役としての学習を行なった場面は安定性がより高くなる傾向にある。だからプレイヤーとしてより高みを目指す時期はあんまりオススメは出来ない。ただ、銀舎君のように元々参謀役としての素質がある人は、逆にもっと上のレベルに行く事が出来る。こっちは素質持ちが少ないとされてるからその点には注意だけど、今伸び悩んでるのならどちらかを重点的に学ぶのも良いだろうね。その素質を確認するって意味では合わない学習にも意義はあるから。勉強から逃れられるって事ではないけどね」
僕の簡単な解説にうんうんとサキちゃんが頷き、続けた。
「PJプロは生涯勉強やからな。ふたつ、リョウや金ちゃんみたいな将来的なAプロ上位クラスを指導できる人が居らん」
「元Aプロ上位の指導者とか探すの難しいし人件費も高いからね」
最初に先生と話してた講師の安浦さんも僕の推測ではB上位くらいだと思う。なので単純に講師側の実力が合っていないのも全国大会に偏った原因ではあるのだろう。
「センセは例外な」
「なんで篠ノ芽に居るのか不思議なくらいだからね葉山先生」
「それと今のリョウや金ちゃんが十分強ない? って思っとる道明の子ら多いと思うけど、ウチらからしたらまだまだ育ち切ってへんからな2人とも」
おおっとまた抜けがあった。
「ちょっと補足しようか。サキちゃんや日野君のようなトッププロに行ける才能を持ったプレイヤーは困った事に、自分で勝手に成長出来ちゃうんだよね。なので極論指導者が居なくてもいつかその領域に手が届くとも言える。ただこの自己成長は正しく指導を受けられる場合に比べればとても遅く成長する形になるから、仕上がった頃にはもう歳でそう長くトッププロで争う事は出来ないって事も多く起きる。だからそういった他より抜きん出た人を正しく導ける指導者の存在は重要なんだけど……」
「今の道明には居らへんねんな。居って唐川理事長くらいなんちゃう?」
僕はまだ会ってないけどおそらくはそう。と言うか経歴的には時代を作ったスター選手なのでなんで理事長になってるんだって疑問もある。
「多分そうだね。葉山先生も該当するけど篠ノ芽所属なので除外だ」
「俺まだ伸びるの……?」
話を聞いていた銀舎君が意外そうに言う。これは最近伸び悩んでた感じかな? 格上挑戦したら伸びそう。
「僕の見立てだとそうだね。日野君には少し遅れそうだけど、いつか同じステージでやりあえる筈だよ」
「て事はリョウの方が成長は早いのか……」
銀舎君が考えるような仕草をした。今後の計画でも練り直してるのだろう。
「単に適性だけなら日野君の方が上だけど、銀舎君は他含めた総合力で対等にやれる感じがするね」
「なるほど……?」
日野君は感覚型なので風見に近い。最大出力が風見よりも落ちるが、代わりに安定性を手に入れたという感じである。プロとしては安定した成績を残しつつ格上食いも狙えるタイプで華がある。
銀舎君は逆にサキちゃんに近い理論型だ。実力差こそあるが、キッチリデータを収集しながら最適解を選んでいけるのでプロとしてはシーズン終盤が近付くにつれプレイのキレが上がっていく傾向だ。
まあサキちゃんは理論型とはいえシーズン関係ないレベルにまで仕上がっているが。
「おっと脱線したかな。ともあれ今の道明の現状は全国大会に勝つ為の体制になってしまっている。だからプロでの活躍を目指すなら役立たなかったりむしろ足枷になる事も多くある……というのがサキちゃんであったり葉山先生であったり……トッププロの領域を知る人の見解になるね。何か質問とかはあるかな?」
誰かが手を挙げた。目をやると、その人は椅子ではなく立っている上に普通に大人の人だった。
というか唐川理事長だった。
「実例として、日野君とのフリープレイをやってみて貰いたいのですが……」
「これは罠だ……!」
思わず僕は独りごちた。横から葉山先生が噴き出した声が聴こえた。
「普通に応えたったらええやん。今更リョウに負けんやろ?」
「すまん、リョウも強くなってるし昔ほどではないから胸を貸してやってくれないか?」
「まあやるなら勝つつもりでやるけどさ。日野君とは元々フリプするつもりだったし、ちょうど良い機会ではあるか……はーい日野君壇上に来てねー」
呼んでみると日野君も唐川理事長の方を向いて叫んでいた。
「リジチョー! 聞いてません! リジチョーがやるって話だったじゃないですか……!」
「大人は嘘は付かないが……間違いは犯すんだよ日野君……」
マイクを使って理事長は静かに答えた。
君も裏切り者か日野君……!
○鹿江華枝
ヤンキーっぽい風貌な絶望的スタイルの道明三年生。
小学校の頃から日野君を想っているが未だに伝えられていない。
なお銀舎君には素直に告ったらリョウと付き合えそうなのにな……と思われている。
○那須野眞
ポニーテールな道明三年生。
風見君と大崎君を足して2で割ったような人物であり、若干の巻き込まれ体質。
ゆるゆるしているが、一応道明側からのスカウト入学者なので学費を免除されているエリートエンジョイ勢である。