TCGクソザコナメクジ先輩と僕。   作:餅屋

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またしても大変遅れました。
なんか違うな……って書き直したりゲームに時間吸われたりが原因でした。結果文字数がなんかすごい事になっていますが気付かないふりをしてください。
ともあれ明けましておめでとうございます。今年もゆるゆるっと不定期に更新していくので元クソザコ先輩をよろしくおねがいします。

それと今回は先輩視点モードです。

最後の方に脚注が追加されました。


道明革命編2.GW合宿! 後編

 

「レギュレーションは?」

「スタンダードで頼む」

「OK、デッキ持ってくるね」

「プレイテーブルやで〜」

 

 壇上でワイワイとしている海君達を眺める。

 彼らはぼくの知らない海君を知っているというのはちょっとだけ羨ましい。ちょっとだけね。

 程なくして壇上にホロプロジェクターテーブルが運ばれ、スクリーンに映る光景も変わった。

 いや普通に観にくいなこの席の位置だと……。

 

「スクリーン消した方が良いと思うんだけどなあ……」

 

 隣の杓ちゃんもぼそっと呟いた。やっぱりそう思うよね? 

 

「多分観辛いやろうしスクリーンの方は消すでー」

 

 ありがとうサキちゃん。こういった時に気が回るあたり、やっぱり君のPJプロとしてのタレント性は高いよ……。

 

「こんで観やすくなったかな? ほんじゃ始めて〜」

 

 サキちゃんの声に応じて、2人が先攻後攻を決めた。今回はジャンケンらしい……海君が先攻。

 

「スタンバイからドロー、2枚伏せて『マーケット案内所』を場に出してからエンドまで」

「ターン貰って案内所の効果で2枚ドロー、3枚伏せ、1リソースで手札から『クアドラの信奉者』をプレイ、出た時に伏せが2枚以上ある為俺のライフ上限を1増やす。次にバトルに入る。信奉者でプレイヤーへ」

「反応は無し。チャンスステップをどうぞ」

「公開されたのは『捧ぐ龍の唄』、エンドだ」

「ターンを貰うよ──」

 

 お互い緩やかなスタートだ。

 日野君は【クアドラの咆哮】を使うのか。これ相手だと海君の方が分が悪い気がするが、海君なので多分問題になっていないと思う。

 むしろ採用テーマ的には不利対面で内心喜んでるかもしれない。

 

『マーケット案内所』を貼ったのを見るに、海君は体験入部の辺りから好んで使っている4種混合コントロールだと思う。昨夜頭を悩ませていたのを見たのでまた何か弄ったのだろうとは思うのだが、結局弄らずに終わる事もあるのでどうなってるのかはわからない。

 まあ海君は『マーケット案内所』を割と色んなデッキで使ってるから、ぼくの予想は3割くらいの的中率になるだろう。もうちょっとカードが見えるとハッキリするんだけどね。

 

 順調に状況が推移する。クアドラの性質もあってライフ差は広がり続けているが、まだまだやりあえる……というかもう少しターンが経ってからが本番になるはず。

 うん、4種混合コントロールだった。

 

 5ターン目、日野君が何かを感じたのか、空気感が変わる。何人か騒めいた音がしたから、多分精度が上がってくる。

 海君はいつも通り、平然とした表情だけどちょっと嬉しそうな感じがする。思ってたより強くなってたのかな? 

 

 8ターン目、次が海君のプレイングが明確に冴えてくるタイミング。2枚伏せ、日野君へハンデスを打ち込んで終了。

 返しに日野君が盤面を取りに行く……1体を処理して海君の場が空に。伏せは2枚残ってる。

 

 そして9ターン目、海君が何気なく口にした言葉で、マッチルームの空気は変わった。

 

「スタンバイから『マーケット案内所』の効果で3枚ドロー。エンドしてターンを渡すね」

 

 日野君の顔が強張る。

 

「俺のターン、スタンバイから『マーケット案内所』で2枚ドロー……すまん、長めに考える」

 

 事故……な訳ないよねえ……。

 

 ○

 

 日野君が明らかに悩ましい表情で何かを考えている。

 これはプロとしてはあまりよくない振る舞いだが、フリープレイなので目は瞑れる。しかし観客であるぼくらとしては、先程の海君の動きに何かの意味がある、という事を読み解かなければならない。

 ぼくは隣の杓ちゃんに声をかける。

 

「……杓ちゃんはどう思う?」

「多分……聖岳君がそうしたのには理由がある、と思うんだけど……わかんない。次の超過分の手札除外もあるし、どこまでアドバンテージが移ってるのか、読めない……」

 

 少し戸惑いの混じった声で杓ちゃんが言う。

 PJにおいて──1ターンの重みというのは凄まじいものがある。

 どれほど優位であっても1ターン分でひっくり返されるくらいに、その重みは大きい。

 

 であれば当然、海君が先のターンを捨てた事にはなんらかの意味があるはずだ。戦略上の、僕らがパッと気付く事のできない何かが。

 海君は手を抜けないから。

 勝つ事に、恐ろしいくらい真摯であるから。

 

 壇上を──特に講師陣を見る。

 葉山先生はいつもと変わらない……と思いきや指先が少し動いているから多分ぼくらと同様、その意図について考えているか双方の状況について再検討しているかな。

 安浦先生は首を傾げ、サキちゃんは少し意地悪そうに微笑んでいる。

 

「杓ちゃん、後ろの唐川理事長の表情って見れるかな?」

「えーっと……特に焦ったりとかはしてないね」

 

 それなら、やっぱりちゃんとこれには意味があるはずだ。

 トッププロの領域では、と付くけれど。

 考えてみよう。

 

 海君のデッキは最近使い倒しているビート系テーマ4種混合のアレ。

 日野君のデッキは【クアドラの咆哮】を主軸とした緑白赤主体の構成。クアドラはランプ寄りのコントロール系テーマであり、受けが非常に強いデッキだ。

 盤面コントロールに重きを置いており、多少殴った所でライフは回復されるし、ライフ上限を伸ばすし、メタキャラクターも搭載しているし、現在ライフに応じて効果を得るエクストラウィン持ちのフィニッシャーなんかも居る。緑白赤が軸であれば盤面コントロールしつつ制圧して殴り勝ち、赤によるバーンでの詰め、エクストラウィンが勝ち筋。

 しかしその反面イベントによって相手に触れるのは少し苦手なのだが……海君曰く、日野君も強いらしいからこの苦手な面は克服していそうだ。

 実際黒のカードが少し見えたりもしてるしね。

 

「えーっと……海君のダストが確か……」

 

 今落ちてるのだと【NO FUTURE】が割合として多……い……【NO FUTURE】? 

 

「あ……解けたかも……多分日野君は返しで殴れないと思う」

 

 ぼくの考えが合ってるなら多分あのカードが入ってて、海君は既に引いている。引いたタイミングまでは分からないけれど。

 

「何もされずにターンを渡されたのならアドバンテージの優位はまだ日野さんの側なんじゃ?」

「いや、さっきターンを渡した瞬間にもうアドバンテージが一気に海君の方に移ってると思う。普通のデッキなら一気に不利になる物だけど、今は殴るとクアドラの勝ち筋が一つめちゃくちゃ厳しくなる……はず」

 

 今の日野君のライフは22、一方で上限の方は33。クアドラのフィニッシャーの1体が持つエクストラウィンの条件はライフ値50以上。

 本来ならそこまで難しくはない。フィニッシャー本体が出たターンの終了時にライフ上限を5増加させて5回復するからだ。

 基本的には発動されると手は付けられない。だから伏せで飛ばすか、一度は許してイベントなどで処理するのがよく見られる。

 

 一方で海君のライフは今11。日野君の盤面が出せる最大打点は今の手札にブレイク5が居ることを考えても最大9。それも盤面が阻害されない前提で、今の伏せ2枚を見るならきっと難しい。

 

 現状見えていないカードも10枚程度と少ない。クアドラのカードプールと相性が良いとされるプールを思い返す。足りない。

 即時ブレイクバフが投入されているか? と問われれば、ぼくはNOと答えるだろう。だから次のターンで日野君が海君を殴り切れる事はない。

 この状況まで誘導した? 確信はないけど、否定もしきれない。

 

「クアドラの勝ち筋──もしかしてライフ参照エクストラウィンの方? 【NO FUTURE】だと……あっ『ノーモア』……」

 

 けれど、今のスタンダードでは別の回答も存在する。

 それが『流れ落ちるノーモア』というキャラクターを始めとした何種かが持つライフ上限変更能力だ。

 

「昨夜はちょっと長めにデッキ弄ってたからまた違う構成になってる気がするんだよね……」

「やりそう……」

 

『流れ落ちるノーモア』の最大の特徴はプレイヤーへダメージを与えた時、相手のライフ上限値をライフ現在値へ変更するというもの。

 他にもプレイヤーのライフ上限とライフ現在値の差に応じたコスト軽減に強烈な除去があるが、素のコストが25である事とコストに見合わず貧弱なステータスもあって採用枚数はそう多くならない。

 

 ましてや他の同様の上限変更効果を持つカードである『封氷のフーリッシュ』や、低い方のライフ現在値にお互いが現在値を合わせる『ライフチェーン』の方がロングゲームになりがちなコントロールデッキで扱うには向いている。

 

 コスト軽減が悪あがきに近い事もあり、純【NO FUTURE】であれば詰め札のひとつとして見る事もある、という塩梅なのがノーモア。主軸の詰めにはならないが、刺さるデッキにはとことん強力という評価に落ち着いている。

【NO FUTURE】が自傷型のテーマであるのに合わせて、ライフ上限と現在値の差によるコスト軽減をプレイ時の大前提としてデザインされたカードだ。

 

 海君が言うには、ビートダウン適性でも【NO FUTURE】自体の適性リーサルからは少し遅れてしまう人がよく採用するらしい。まあキッチリ回れば出す前に殴り切って勝てるもんね……。

 

 値段は……まああんまり人気があるって訳じゃ無いみたいで凄くお手頃だけど……イラストが割とホラーな感じだから。

 同じテーマの『"NoFuture"ボニー&クライド』なんかはとても高いんだけどね。そっちは今1枚8万円くらいだったと思う。ぼくは【NO FUTURE】テーマの世界観は荒廃しててあんまり好きじゃないけど、フレーバーテキストは好き。

 

 好きな人とは最後まで一緒に居たいっていう気持ちはわかるよ。それまでどんなに悪人だったとしても、善行を成したい時があるっていうのも信じたい。

 

「メイン、手札から5リソースと緑2枚を支払い『明日より来たるコルネリア』をプレイ。反応は?」

 

 コルネリアは【開拓団】の目玉レアだ。置物タイプだけど残すとかなり厄介……特にクアドラと組み合わせた場合はかなりどころか非常に厄介なので早期処理が求められる。

 

「伏せの『古い案内板』をプレイ。コルネリアを手札へ戻してね」

 

 あっやっぱり対処札伏せてた。

 

「まあ通らんよな……今そっちのライフが……11……」

「そっちがフルに殴れば5まで減るね。ちょうど『クアドラの逆鱗』が通れば勝てる打点だよ?」

 

 海君は和気藹々と雑談? をしながら判断の確認。雑談かな……雑談かも……。

 

「いや……殴らない。この後で通らない気がする」

「うーん残念……じゃあこうするとどうかな?」

「うぉ……幸助が言ってたのこういう事か……余計に殴れないな……終了だ」

 

 また助言とメタ仕草してる……葛里ちゃんがこれで泣かされてたな……。

 ちょっと日野君の目が動いてたのを見るに、彼はパパと同様に視覚に作用するタイプの超感覚持ちなのかな? 

 

「OK、ターンを貰って『マーケット案内所』の効果で3枚ドローして『闇市の妖精』と『ブラックリスト』を除外ゾーンへ──」

 

 最近海君のプレイの様子を見て、気付いた事がある。

 彼が助言するのは相手が実力的に下の場合だけ……だと思う。どんな結果であれ、自分とのマッチで気付いた部分を糧にして欲しいんだろうね。

 ただ、そうなると別の仮説が出る。

 

 海君よりも強いプレイヤーは、存在しないのではないか?という物だ。

 

 正直に言うと、そんな気はしている。

 ただ、成長次第では海君に勝ちうる……サキちゃんやワタル君のようなプレイヤーは存在しているのだろう。でなければ、サキちゃんとのフリプの後に感想戦で助言しているのに説明が付かないからね。

 いつかサキちゃんが海君に勝ち越しできるのか? と言われると疑問符は付くが、実力が近くはなっているのだろうと思われる。

 

 とはいえこれも……サキちゃんより劣るぼくが語るのは片手落ちだけどね。

 そう考えていたところ、杓ちゃんが呟いた。

 

「うーん……殴らないのが正解じゃない気がする……」

「多分だけど、ぼくはどっちも正解じゃないと思う……」

「なら正解は……?」

 

 杓ちゃんの疑問に、ぼくなりの解釈で答える。

 

「さっき選ぶ権利は日野君の方だったけど、どれを選んでも日野君が不利のままになる。不利の度合いが変わるだけ……多分……1番良いのは小型を少し並べてそのまま終了だったかも。手札の状況によるけどね」

「伏せが通らない場合もあると思うけど……」

「それは、ない」

 

 断言に近いけど、多分そんな気がする。

 

「海君のプレイで()()()()()()()()()()()……とぼくは思ってる。だからあの伏せも選択に応じて作用する物のはず」

「でも、あの1枚って最初から伏せて……いや……うーん……? ねえ桜子ちゃん、もしかしてだけど……」

「うん?」

「桜子ちゃんは……あの残ってる伏せを活かす為に聖岳君がここまでの筋道を日野君に沿わせたって考えてる?」

「………………うん」

「半分惚気だぁ……」

 

 杓ちゃんの小ボケは流しつつ、ぼくはそう考えている。これが贔屓目なのかどうかは分からないけれど。

 

「ううん……聖岳君がやるかやらないかだと……」

「やりそうじゃない?」

「そうだね……でもそれなら……聖岳君が私達じゃ指先も届かないくらいのプレイヤーって事になるけど……」

「今更だよ杓ちゃん」

「そう……かな……?」

 

 まだまだPJの道半ばなぼくでも、海君に限れば分かることはたくさんあるからね。

 

「8リソース支払い『原始の豊穣 クアドラ』をプレイ。そのままバトルフェイズまで」

「フェイズ突入時に伏せを反応、『ブラックリスト』。効果を処理するね──」

 

 でも今は、この対戦から学んでいこう。

 

 ○

 

「『大迷惑 D・ジェーン』による攻撃。10点、反応はある?」

「いや……反応は無い」

 

 18ターン目。17ターン目に少しプレイングが甘くなった日野君の隙へ海君が差し込み、そのままトドメまで持っていかれた。

 

「対戦ありがとう。勉強になった」

「こちらこそありがとう。今回のデッキなら、もっと伸びたら僕と勝ち負け争いは行けそうだね。伸びずに今のままなら別の合うデッキの方がいいかな……多分クアドラならプレイングの検討を密にした方が良さそうだね。クアドラはコントロール系の重たさはあるけれど、運用自体はビートダウンに近しいから相談するなら銀舎君が適任かな」

 

 海君がそう告げる。日野君が額を軽く掻きながら返答。

 て事は日野君はコントロールが得意ではあるけど適性はランプ系に寄ってる感じなのかな? 超長期戦は苦手な龍宮君というタイプなのだろうか? 

 

「耳が痛いな……ところで捨てた9ターン目、どちらが正解だったんだ?」

「ああ……あれはどっちでもないよ」

 

 日野君の疑問に、海君は事もなげにそう答えた。

 

「と言うと?」

「あの時使わなかったのは『均衡の天秤』。伏せを除去出来なければ日野君の場は僕より悪くなってた。だからあの時はそのまま動かずにこっちにターンを渡すのが1番被害が少なかった」

 

 うぅんぼくの読みがズレていた。あの伏せは『均衡の天秤』かあ。それなら確かに盤面を整えるのも悪手だ。

 

『均衡の天秤』は最近出た白の除去札チャンスだ。コストは重めだがアンタッチャブルすら除去する事、コントロールのように元々盤面にキャラクターがそこまで並ばないデッキと相性が良く、かなりの値段で取引されている。

 

「欲張り過ぎたか……」

「だね。伏せても良かったんだけど……クアドラの性質的に盤面渋滞が起きやすくなって難しいから……」

 

 クアドラは活かすにあたって盤面管理が重要だ。その分相手盤面も獲り易いが、相応にプレイングの難しさもある。

 

「手札も減り過ぎるから悩ましいんだよな。別のデッキにするべきだったのか?」

「今でも十分に強いと思うけどね。100回やったら20回くらいは負けるかも」

『2割負けなら中学頃のウチと同じくらいなんやから話半分に聞いときやー』

「──って言ってるが……?」

 

 今の日野君はサキちゃんよりは明確に劣るのか。覚えておこう。

 得意デッキの差もありそうだけどね。

 

「中学の頃なら10回あるかないかだったろうしなんなら僕も昔より成長してるからね。日野君もちゃんと強くなれてるよ。保証する」

「実感無いけどな」

『多分大半の子は9ターン目に何が起こってるかわからんかったやろうから解説挟むでー2人ともこっち来てな』

「はーい」

「俺もか?」

 

 日野君の問いに、サキちゃんが呆れたような声で答えた。

 

『何考えて停まったんか分からんかったら解説にならんやろ』

「確かに」

 

 言語化されないハイレベルなやり取りは下の者から見ると分かりにくい。それは優秀な人が集まる場でも変わらない。

 

「うし、ほんじゃ解説するで。簡単に言うと9ターン目にこの羆がターン捨てた事によって戦況が一気に羆側に傾いたんや。理由は……タケから答えてもらおか」

「最初に伏せておいた『均衡の天秤』が1番大きく働く場面があそこだったからね。殴って引っかかってくれると嬉しかったんだけど、日野君の今の強さを過小評価しちゃったかな。結果として被害が少ない選択肢を選べたのは良いね。ただ殴ってしまったなら僕が『均衡の天秤』を使わなかったとしてもトドメは早くなってたかな? ちなみに僕と同様に日野君が何もせず終了で返しても僕が先攻な分一歩早くなる。どれを選んでもあそこでスピードを同等以下まで揃えさせる形になるね」

 

 海君が答える。

 プロレベルのやり取りを解説付きで見れるのはありがたいけど……時期尚早な気はしなくもない。ぼくらに時間がないのは確かだけどね。

 

「そんな訳で今回タケがやったのはベテランのBプロがやったりする戦術やな。現役時代の葉山センセが得意やった戦術や。まあ本来は個人研究めちゃくちゃして成立する物なんやけど……次、リョウの方答えてや」

「あの時ターンを捨てられた瞬間動けなくなった。読みが外れたよりは読まれて外されたの方が感覚的には近かったか? それと手札が甘かったな……伏せ処理が出来れば殴っていたかもしれないんだが、それは悪手だと感じたな」

 

 言い方的に日野君は感覚型っぽそうだ。ちょっと見てみたいな日野君と風見君がプレイしてる所とか。

 

「格上相手での危機回避が働いてよかったやん。まあリョウ負けとるけど。タケ、あの時の手札は『ノーモア』あったよな?」

「あったね。実際に出たのはもう少し後になったけど、もしも殴られてたらノーモアとジェーンで決着が早まってたかな? そっちのルートなら14ターン目に勝ってたと思うよ」

 

「えーっと……ノーモアが出て1ターン許さざるを得ないし止めようとしても除去チャンスで無理、殴り掛かられるとしてジェーンが居るからライフ削りが早まって……粘れて14ターン目か……?」

 

 海君の言葉に日野君が再検討。

 パッとプレイング振り返れるから、やっぱりとても強いプレイヤーではあるんだよね。相手が悪かっただけで……。

 

「多分そうなるな。生き残るターンが延びるとしたら8ターン目までにプラン変えるべきやったわ」

「無茶を言う……」

「今回の日野君は自分のリーサル圏内に持ち込むまで超感覚に頼り過ぎてた感じだったね。参考程度で良いと思うよ? プロだと僕みたいにメタれる人も居るから。サキちゃんとかね」

 

 せやでー、とサキちゃんが口にし、腕を組みながら身体をほぐすためなのか背伸びして答える。

 

「ん……超感覚も善し悪しあるからな……後の動き読みやすいしウチは助かるわ」

「プレイスタイル見直しかぁ〜」

「補助輪みたいなもんやからな。頼り切りは身に付かんって事や。ウチもタケも超感覚は持ってへんけど」

 

 これはちょっとした助言にあたる。今のトッププロの領域で、超感覚持ちを公言する選手はそう多くない。

 

 理由は至って簡単で、その領域に辿り着くまでに相当な数が淘汰されるからだ。なので超感覚による読みを前提として新たに戦術を考えられるプロでなければ、トッププロへの壁は越えられないそうだ。

 なのでぼくとしては仮にパパがプロ復帰しても前ほど良い成績は挙げられないんじゃないかな? と思っている。

 

「ううむ難しいな……」

「多分道明の方は超感覚持ってる子も何人か居るやろから言っとくで。"それ"で上がれるのはA下位までや。頼り過ぎんようにしや」

「僕らみたいに挙動制御でメタれるとか無くても読み易いからね。超感覚持ちの人は」

「プレイングを最適化し過ぎやねんな。相手が最適な道ずっと歩いてきてたらハメ易いやろ?」

「だからAプロ中堅に入る頃には相手が動きを読み込めている前提でのプレイが多い。この辺りから試合時間が長引き易いのもその辺が原因って言われてるね」

 

 カイ君の言葉に頷き、サキちゃんが改めてマイクを取り、音量メモリを弄る。

 

『今この瞬間、まだPJプロになるつもりの子は手を挙げや』

 

 息を吸って彼女はそう言った。さっきよりも大きい音量だった。

 少し騒めく、1秒程だろうか? 

 まばらに衣擦れの音が響く……ぼくの傍からも。

 

 杓ちゃんは手を挙げていた。蜜実ちゃんに香奈ちゃんもだ。

 

『知っとる子も居るやろうけど、年々PJプロの実力はインフレを起こしてるって言われとる。ウチも最年少トッププロやし、実際今のトッププロの年代はかなり若い世代が台頭しとる。でもな、これからはこれまでよりずっとハードルが上がるで』

 

 これは事実。ここ10年ほどのA以上のプロプレイヤーの年齢層は年々若くなっている。それもあって、道明学園のプロ環境における凋落は外から見れば目立っている。

 

『道明の子は特にリョウをとんでもなく強い存在やと思ってるかもしれんけど、今はまだウチら最上位のプロからすれば片手で捻れる程度や。そこの羆が善意でアドバイスしてて、ここらのエリアだけでも上澄みは相当レベルが上がっとるのを加味してもな』

 

 今しれっと海君をトッププロとして扱ったからか、海君がジトっとサキちゃんの方を見た気がする。

 そろそろ諦めた方がいいと思うな……!

 

『──それでもここ数年で各地方の強豪校の座は揺らいでないって事は、この極地的なブーストに適応してる子らがちゃんと居るって事。油断なんて出来へんし、これからプロを目指す君らは一気に上がった環境に適応せなあかん。それでも目指すんなら……いつかウチとやってみようや』

 

 にぃっとサキちゃんが獰猛に笑う。

 うーん人気が出るのも頷ける、カリスマ性を感じる振る舞いだ。

 

「今の日野君はA中堅くらいだね。プレイングを磨けば今のままでもA上位まで行けるかな? トッププロにはまだだね」

「うーん遠く感じるが……」

「良かったら僕とネットで中継対戦でもするかい?」

「徹夜が増えそうだからよしとく……」

「タケ君の事知ってたら中継対戦するの自殺行為だって分かるし……」

「そんな〜」

 

 男子組がワイワイとしている。いいなあ。

 ぼくも海君とは大抵フリープレイをしているけど、ぼくが扱えるデッキは【散乱光】だけだから海君の身につく物はほぼない。ぼくがみっちり鍛えられている形でしかない。

 

『ここのアホの男子共は置いといて、今後のプロの道は狭くなっとるやろうけど逆に広がっていく部分もある。データ纏めてメタ考えていける専属サポーターなんかは今後かなり重要視されるやろな。せやからサッと諦める他にも道は色々あるで。むしろこっちの方が道が拓ける子も居るかもしれんな! そんな訳で予定しとった講話の大部分は終わりやから質問タイムやし手ぇ挙げてー……はい奥の……唐川理事。またかい!』

「めっちゃ手挙げるなあの人!」

 

 声に釣られて後ろを見ると、物凄く良い姿勢で手を挙げている唐川理事長の姿があった。

 唐川理事長の見た目はナイスミドルなのもあって結構なギャップだ……。

 

「リジチョーは先月からお茶目になってね……」

『めっちゃ急にキャラ変するやん』

「失礼、これは個人的な質問なんだが……篠ノ芽の聖岳君は適性や実力の把握が非常に得意だと葉山から聞いている。君が見た場合、今の日野君の実力は私よりも高いかな?」

「ほいタケ、答えてや」

 

 サキちゃんの催促に、海君は理事長の方を見ながら答えた。

 

「ん……まだ低いですね。あと一年で越えそうではありますが、今はまだ唐川理事長の方が強いです……唐川理事長もまだ伸び代ありそうですけどね。マッチすると詳しく分かりそうなんですが見た限りではその程度しかわからないです」

「ふむ……ありがとう。知りたい事が知れて助かった」

「いえいえ……というかどれくらいの才能なのかが分からないのは僕としては意外です。見抜いてたのかと」

「はは……私はあくまでもプレイヤーとしてが本分だったからね。適性を見抜いたりはそう得意ではないんだ……私が明確に葉山に劣る部分だよ」

 

 少し理事長の声に感情が籠っている。同期だって言うし色々あったんだろうな……。

 

「あっ凄い悔しそう!」

「海、そういう時はマイクオフ! マイクオフ!」

「俺から補足だ。あくまでも指導者としてはそこまでなのが唐川だな。とはいえ同系統……つまりコントロール系の選手の育成はできる。具体的には日野君だな」

「先生僕は?」

「……お前に教えられる奴が居たら顔が見てみたいね」

 

 些か大仰な身振り付きで葉山先生はそう答えた。ちょっと煽ってるなこれ。

 

「勝手に育つの極地やからなこの羆……」

「なあサキ、最近海が成長期らしくて前より強くなったって言ってるけど実際どうなの?」

「強なってるというか……以前より扱うデッキの範囲広がっとる気がするな……」

「最近のレギュは相性の良いカードが割と増えてねえ。相性でねじ伏せて無理やり回せるデッキも増えたんだ」

 

 海君は扱えるデッキが増える分にはほぼ喜ぶタイプだ。ただあんまりにも危険な……彼曰くよくないカードが野放しになってたり釈放されて成立するデッキだった場合はスンッてなる。

 

「タケのプレイ精度で扱える範囲広げられたら相手としてはたまったもんやないで……」

「自分より広い範囲扱える格上戦かあ……」

「さてそんじゃ他に聞きたい事ある人〜はい篠ノ芽の小岬ちゃん」

「はい! 意思疎通が出来ない精霊が後から意思疎通できるようになる事ってあるんでしょうか!」

「小岬ちゃん。ウチらは現場方やしそういうのはもっと専門のとこに聞いた方がええで」

「なら私がキンタロウの気持ちを察する事が出来るようになってきたのはいったい……!?」

 

 席で聴いていた葉山先生がマイクを持った。皆の注目がそっちに集まる

 

「あーちょっとした話だから教えておく。今彼女が言った例はあくまでも精霊側が成長して意思疎通出来るように成長している訳じゃない。逆だ。俺たちが精霊と意思疎通出来るように近付いていると言う方が近い。この現象は統計的には感覚型のプレイヤーに多いと言われてるので、もしも似たような経験をしている生徒が他にも居るならそのうち超感覚を得る可能性が高いとされている。たださっきも蒲原プロが言ったように、超感覚へ頼り切りでは天井は近いので励むように」

「昨年発表されたデータだな」

「忙しい身でしっかり目を通してて茶々を入れるんじゃねえ!」

「おや手厳しい……やはりお前が居てくれたらと思うよ」

 

 かつての好敵手だからか、当たりこそ強いが言葉自体は砕けている。普通に仲良いみたいだ。

 

「フゥー……喫煙所増やしてから言え」

「そうだそうだーっ!」

 

 葉山先生の後ろに居た安浦先生も同調していた。

 PJコーチ業ってストレス溜まるから喫煙者が多かったりするのかな……? 

 葉山先生が続ける。

 

「ともあれ、プロの実力のインフレが起きているのは確かに事実だが……これはあくまでもA以上のプロに限る。インフレに飛び込んで自分を担保に博打をするかどうかはお前らの自由だ。それはそれとして、この場にいる9割以上は俺にも勝てんからな。舐めてたらすぐ溺れるぞ」

「なんで先生無闇に挑発してるんです? 僕みたいに百人組手したいんですか?」

 

 本当にやるつもりなんだ……百人組手……。

 海君の言葉には安浦先生が答える。

 

「でも葉山先輩に勝てる生徒がほとんど居ないのは事実だからね。日野と銀舎除くと今のレギュラーと補欠組で勝ちの目見えるかなくらいだし」

「いや流石にレギュラーなら俺相手に4割は獲れるだろ……ロートルだぞ」

「しれっと勝ち越しする予測は譲ってへんな」

「獲れて4割か……うーん……なあタケ君、葉山先生ってどんなタイプ?」

 

 銀舎君からの質問に海君は少し考える素振りをしてから答えた。

 

「うーんこの人適性リーサル無くて適性無いデッキも経験値でぶん回して来るからどんなって言われても答えようがないかな……あっ僕よりは弱いよ」

「アンタより弱いのは何の慰めにもならんやろ!」

 

 おっしゃる通りだよサキちゃん……。

 そういえば以前雑談で言ってたなあ……先生に適性リーサル無い話……。

 プレイヤー全体で見ると適性リーサルが無い人はかなり居るが、Aプロ以上となると一気に数が減る。ましてやトッププロレベルに至っては国内の記録で確認されたデータ残ってても数人だ。

 やっぱり葉山先生は怖いタイプである。元々の適性考えると海君みたいなへんないきもの枠にされてそうだ。

 

「言うなよそういうのは……お前みたいにちょっと調子乗ってる奴をボコボコに出来なくなるだろ……」

「でも僕先生にだいたい8割勝ち越しですからね……先生僕の事なんだと思ってるんです?」

「近所で飼われてる虎」

「放し飼いの羆やろ」

「ラスボスかなあ」

「うーん……RPGの裏ボス?」

「好き勝手言うじゃん!」

 

 ここぞとばかりに散々言われてる……! 

 

「うっし他に質問ある? ないならこの辺で〆るけど……お、篠ノ芽の龍宮君」

「さっきの問答で気になったんですが、相手の強さを測る能力ってそんなに個人差が出るんでしょうか!」

「お前それついこないだやったろ龍宮ァ!」

 

 マイクもなしに葉山先生の叱る声が響く。いやほんと先々週くらいにやったとこだね……。

 

「まあまあセンセ待ったって……せやな。習ってる子も居るやろうけど改めて説明しよか。相手の強さ測るのは個人差めっちゃ出るけど、これ面白いのがこの技能の正確さにはPJの強さがあんま関係ないねん。タケやセンセみたいにプレイヤーとして強くて測る能力も正確な人も居れば、龍宮君や唐川理事長みたいにプレイヤーとして強いけど測るのは苦手って人も居る。なんならPJ全然やけど測るのだけめっちゃ得意って人も居るで。皆が知ってそうなのやと……アナウンサーの高坂さんって判る? そう、昔からPJグランプリで解説してくれてる人。あの人は実力自体はプロライセンス取れん程度やけど測る能力の方はめちゃくちゃ高いで。あれだけ測るの得意やと多分コーチ業でも大成したんちゃうかなー」

 

 少し豆知識っぽい話も加えつつサキちゃんが答えてくれる……ぼくは測るのが苦手だ。ただ、実戦を積むと結構伸びそうという海君の見立てがある。

 

「ウッス! ありがとうございます! ついでにこの能力伸ばす方法とかってありますか!」

「はーいこれは僕が答えるよ。伸ばすならいろんなプレイヤーとマッチの場数を踏むのが1番だね。できれば相手の手札は見えなくても良いからプレイログを自分で書いて残しておくと良いよ。そうすると感覚じゃなくてデータとして動きが判って強さとしてはこれくらいって位置付けがし易くなるからね」

 

 このマッチ時のデータを残す事も教えてもらってる。もう少しで脳内メモで用立てられそうだけど、これはぼくのマッチ頻度がそう高くないのが理由だからプロ目標レベルでマッチしてると流石にメモを残す必要がありそうだ。

 

「ウチとタケは書いたりしてへんな」

「俺と金ちゃんはだいたい書いてるな……」

「僕も昔は家に帰ってから覚えてるログのメモ取ったりしてた時期があったね。サキちゃんの方は素です。スペックがおかしいので」

「ウチがおかしいみたいな事言ってるけどこいつも小3の頃にはメモ取りやめとるからな」

「ちょうどその頃レギュ内のカード覚えてたら基本そっちで事足りるってことに気付いてね」

「補足だ。ログをメモするに越した事はないぞ。たまーに特殊な適性の奴が意味不明なデッキ握ったりする場合があるからな……そういう変な奴とのプレイログは宝になる」

 

 ああ……これ絶対店長さんの事指してるよ……と葉山先生の言葉に内心思ったぼくである。

 不思議な人だよねあの人……。

 

「PJで適性って才能が影響する部分は大きいけど、実力伸ばす方法は地道な努力の方がずっと多いんや。せやから伸び悩んだら気分転換も兼ねてちょっと別のアプローチしてみるとええで……もう質問はないか? ほんじゃ講義終わりで1時間昼休憩、サイン欲しい子は午後2時からのフリプタイムで時間取っとるからその時に頼むわ。ほんならまた後でー」

「ほぼ雑談ではあったが……蒲原プロを拍手で送ってくれ」

 

 葉山先生の指示に従い拍手で裏に去っていくサキちゃんを見送る。

 なんか……ぼくらが聞くサキちゃんの講義って雑談主体になりがちな気がする! 

 

 ○

 

「他所の学食を食べる機会なんて貴重だから新鮮だね」

「こっちの生姜焼き定食もかなり美味しいですね」

 

 さて結構為になった講義も終わり、お昼ご飯を海君とぱくついているぼくだ。

 海君は生姜焼き定食、ぼくは山菜天定食。

 ちょっと食べるのが先行したのでお茶でひと息ついていると、向かいの席に人が来た。

 

「すまん、相席いいか?」

「うんいいよ。さっきぶりだね」

「おや、日野君と……鹿江さんだったね」

「失礼するよ。聖岳達の席以外の択あったろうに……まあリョウが選んだんならアタシもここにするけどさ……ところで門倉さん、リョウから門倉さんが聖岳の彼女って聞いたけどマジ?」

 

 半信半疑という表情で鹿江さんが訊ねてくる。

 

「そうだね。海君とはいつも楽しく過ごさせてもらってるよ」

「まさかあの聖岳に交際相手が出来るとは……」

「桜子さんは大変可愛いから僕が交際できたのは幸運だったよ」

「嘘でしょ素で惚気てる……ベタ惚れじゃん……このPJ狂いにそんな事が……」

 

 衝撃映像でも見たのかな? という表情の鹿江さん。彼女は表情豊かで見てて楽しいね。

 

「ハナに門倉さんの事話したらやけに食いついてね……」

「ぼくが鹿江さんの助けになれると幸いだね」

「門倉さんには悪いけどアタシ聖岳とは悪い思い出の方が多いから……」

「例えばどんなだい? 色々矯正したい部分もあるからそういうのはどんどん話してくれると嬉しいな」

 

 いや本当にね! 物凄く矯正したいとこあるからね! 特に対人関係とか! 

 

「女子トークが始まってしまった今、僕らには縮こまって腹を満たす事しかできない……」

「まあ同性同士で盛り上がるみたいだから俺たちは男子トークでもしよう。さっきの講義対戦の感想戦をしたいんだが……」

「じゃあ順を追って何考えてたか答えていこうか……食べ終わってからね」

「だな」

 

 あっちも会話に華が咲きそうだ。食堂の何人かから視線がぼくらの席に刺さっているがぼくも含めて全員平気そうだからまあ大したことにはなるまい。

 

「聖岳は他人の認識がちょっとズレててさ……」

「あ、やっぱりかい? 最近薄々そんな感じがしてて近頃矯正に取り組み始めたんだよ」

「アタシは今でこそ以前のクラスメイトとしての認識だけどこれ中学卒業間際に話しててあいつがアタシの事クラスメイトって認識してなかったのが原因だからな」

「うわぁ……」

 

 ほんとにPJが認知のメインになってるんだなあ……。

 

「ねえ海君」

「どうしました?」

「大崎君と海君の関係は他人から見たら何に当たると思う?」

「クラスメイトですかね」

 

 ……うん。

 

「世間ではそれを友達って言うんだよ海君……」

「なる……ほど……?」

 

 20度ほど首を傾げながら海君は納得してくれたようである。これ多分蜜実ちゃんとかもクラスメイト判定だろうから後日矯正しよう……。

 

「ありがとう鹿江さん。早速役立ちそうだよ」

「あ〜……まあ……門倉さんも苦労しそうだな」

「長い目で矯正していかないとねえ……」

「ん……ヨシ今日の味噌汁は当たりだ。そういや門倉さんはPJの方はどうなんだ? 篠ノ芽だしそこそこ強いんだろ?」

 

 鹿江さんは汁椀を一口啜ってからひと息、ぼくにそう訊ねた。

 

「ぼくはちょっと事情があって最近まで全然だったんだ。だからプレイヤーとしてはまだまだだよ。海君が言うには道明の中の上くらいなんだってさ」

「ふ〜ん……適性はコントロール?」

「だね。厳密には違うみたいだけど、性質上コントロールになりやすいんだって」

 

 3年に上がってから発売された新弾で、カラーロック系のカードは少し増えたし、他にも相性が良いカードが見つかった……全部で6種類。

 なのでひとまずぼくのデッキは全て相性の良いカードで埋める事が出来ている……とはいかず、相性が悪いけどピン刺しのカードがまだ2種ある。これらは出来れば外したくないカードだから、スタン落ちまでは付き合っていきたいね。

 

「……良かったら、この後アタシとフリプに付き合ってくんない? アタシはビート寄り適性だからさ。対コントロールはなるべく色んな型と経験積みたいんだよね」

「喜んで。とはいえ海君の見立てではさっき言ったくらいの実力だからね。ぼくが勉強させてもらう立場になるけど大丈夫かい?」

「構わないよ。お互いメリットもあるだろうし」

「良いマッチにできるよう尽力させてもらうよ」

 

 と、そこに日野君が声を掛けてくる。

 

「そのフリプ、俺たちも横で見て良いか?」

「ぼくは構わないけど……」

 

 鹿江さんを見ると、顔をほんのり赤らめて悩んでいる表情だった。

 海君に視線を向けると、僅かばかりではあるけどうんうんと頷いている。

 なるほどこれはよくなさそう。

 

「……いや、やっぱり構うかな! 女子トーク二次会になりそうだから日野君たちにはご遠慮願うね」

「じゃあ僕らは午前のプレイログ見ながら検討と行こうか日野君。鹿江さん、よかったら桜子さんに色々教えてやってくれないかい? 彼女はこっちの選手としては出ないからね」

「そうか……ハナ、門倉さんの情報収集は頼むぞ」

「……オウ。任せな」

 

 もしこの場に店長さんが居たら多分倒れ伏してただろうな……。

 

 ○

 

 それから少し経って、ご飯も食べ終わってひと息ついたぼくと鹿江さんは、ちょっと早いがマッチルームの一角を占有して準備を進めていた。

 プレイマットヨシ! トークンヨシ! 

 

「アタシが先攻か。さっきはありがとね門倉さん。リョウに見られながらは流石に焦っちゃうから……2枚伏せて1リソース、『朝駆けのコロバシ』。先攻1ターン目であればプレイヤーへ攻撃できる。『to be too……』とは違って1回だけどこのターン中ブレイクが+1されるな。チャンス公開は『南風囃子』。2点で終了」

「ターンを貰うよ。3枚伏せてそのまま終了かな。ぼくも海君に見られながらはちょっと焦りそうだからお互い様だよ。様子を見るに……かなり長く想ってそうだね?」

 

 鹿江さんは……見えてるカード的に【風祝(かぜはふり)】だろうか? 緑を軸としたテーマで全色に渡るが必ず緑が含まれているビート……よりはコンボデッキの方がちょっと近いテーマかな? 

 より重く、遅くなった代わりに通せる打点が伸びた【バード】テーマが喩えとしては近いかも。

 

「10年以上だからさ。いやアタシに肝心な時の度胸が無いのが悪いんだこれはターンを貰って2リソース、『夕陽のキリヒメ』をプレイ。反応は?」

「通すよ。日野君はその……かなり女性に慕われそうだけど……」

 

 見目も良いしリーダーシップもある。多分性格も良さそうだ。異性から放っておかれないタイプだ。

 

「実際モテるよ。中学の時とか結構な人数に告白されてるしここ入ってからもちょこちょこある。毎回今はPJに集中したいって返事するから付き合った相手は居ないと思うけどさ……バトルに入ってコロバシでプレイヤーへ攻撃、反応どうぞ」

「あるよ。伏せの『眩い鏡玉』をプレイ。手札の全色カード……『答え待つもの』を公開。公開したカードと同じ色を持つ相手のキャラを各色1枚まで選び、このターン中ブレイクを-2するよ。対象は緑としてコロバシ、赤としてキリヒメだね……人当たりは比べ物にならないくらい良いけど、彼は海君に似てるんだねえ」

 

 雰囲気は結構違うけどね。海君はもっとこうふわふわしているし。

 

「チャンス公開は『雲雀東風(ひばりこち)』。手札に加えて……キリヒメはブレイク下がってて殴れないから終了だな。似てると言うか、目指してるんじゃないか? と、アタシは思ってる」

「と言うと? ぼくのターン、手札から『いのちの色』をプレイ。反応はあるかな?」

「通す。蒲原も含めてアタシら聖岳の同級生からしたらさ、アイツはPJやるにあたっての目標なんだよ。欠点も多いけど、それは日常的な部分であってことPJに関しては理想形が集まってるような存在な訳」

 

 日野君達だけでなくサキちゃんや風見君も似たような事思ってそうだ。

 

「公開は『答え待つもの』。リソース上限が2上がるよ。続けて2リソースと手札1枚で『色彩の大河』をプレイするね。一伊さん……海君のお父さんが言うところのプロに向きすぎてるって部分だよね。海君自身は判定が厳しいとはいえそこまで固執してない感じだけど……あっ反応あるかな? ごめんねつい話し込んじゃうね」

 

 どうも昔の話を聞けるのもあって処理が滞ってしまう。あんまりよくないプレイだ。

 

「いいよいいよ、フリプだし。大河は伏せの『一夜凪』で止める……それでリョウが初めて完敗した相手が聖岳でさ。負けて以来PJへの姿勢が一気にプロを目指す形に変わったんだよ。だからリョウにとって聖岳は、目標兼師匠みたいな状態になってるんだ。コントロール重視かランプ重視かの細かな差異はあるけど適性も割と近いし。それが大きいのか、色恋は二の次ってスタンスがずっと続いてる」

「ちょっと急いちゃったかな……ターン終了だね。鹿江さんはそれでも良いのかい?」

 

 そう訊ねると、鹿江さんはかぁっと顔を赤らめてぶっきらぼうに答えた。

 

「ターン貰うぞ。アタシはPJやってる時のリョウに惚れてるから、邪魔するのは違うかな……手札2枚伏せてから3リソース、『月光のモリカゼ』をプレイ、反応どうぞ」

「愛だねえ……モリカゼは通すよ」

「無事着地したからライフ回復かリソースブーストを選べる。今回はリソースブーストだな。上限1の保持1増加。門倉さんは、聖岳のどこに惚れたの?」

 

 質問返しだ。とはいえこれはクラスの皆からも訊かれ慣れてるからさっと答えられる。全部とも答えられるけど今回はやめておこう。

 なにせ進級早々浮かれたあまりに進路希望調査書でポカをやらかしちゃったからね! 

 

「ううん色々あるけども……1番はぼくに優しかった事かな? 今は違うけれど、会ったばかりの頃のぼくは人智を超えるくらいにPJが弱くて……留年もしちゃったからね。今握ってる最適性テーマも見つからずぐるぐると暗礁を彷徨ってるような状況だったんだ」

「えっ門倉さん一個上? アタシ敬語使った方が良い? あっバトル入るの忘れてた。入ってコロバシでプレイヤーへ、チャンス公開は『風林の老狼』で1点」

 

 口調こそ荒めだけど、鹿江さんは優しい人だと思う。……海君にはキツいけど、それは海君の振る舞いが原因だからちょっとぼくから文句を言うのはお門違い。今後鋭意矯正させていただきます。

 

「通すよ。ぼくはこんななりだから元々歳は間違えられやすいんだ。だから鹿江さんが喋りやすい形でいいよ」

「ありがと……人智を超える弱さって何……?」

「ぼくの事情はデータが集まったら何か発表されるかもだけど、今はまだみたい。ともあれ確率の壁を飛び越えて考えられる事故が常時起きてるような状態だったんだ。海君がしょっちゅう事故り具合に怯えてたから鹿江さんも当時のぼくのプレイログを見たらびっくりするんじゃないかな……」

 

 トッププロレベルのプレイヤーが揃って恐怖に慄くプレイログはある意味貴重だからね……。

 

「怯え……ちょっと見てみたいな……続けてキリヒメでプレイヤーへ攻撃、攻撃時にアタシへ1点、チャンス公開は『"風祝"(かなえ)』で3点だ」

 

 割と殴っては来るけど、盤面自体は強固ではないし並べてくる訳でもない。ただ【風祝】はデザイン的にはキーカードが複数あり、そこから得られるアドバンテージを餌にライフダメージへの対処を難しくさせるのが得意らしい。

 処理できそうなら盤面は処理したいところだけど、キーカードを処理できないと辛いから悩ましい所だ。

 

「通すよ。でも海君はそんなぼくの状態にも諦めず、自分のカード資産も引き出しながら少しずつデータ集めや特訓に協力してくれて、やっと見つかったのがこの【散乱光】だったんだ……まさか合うテーマがまだ出てなかっただなんて思ってもいなかったけどね!」

 

「うーん……モリカゼを疲労させてアタシのライフを1回復。それからエンド。苦労したんだな……いつ頃から付き合ったんだ?」

「ちょうど丸2年くらいになるね。ぼくの適性問題に本格的に取り組むのとほぼ同時に告白されたから……ぼくのターンでドロー……2リソースと手札1枚で『色彩の大河』、今度は通るかな?」

「こっちは通る……えっ聖岳の方から告白されたの!?」

 

 ちょっと大きめの声で鹿江さんが驚く。声量に釣られて隅のソファで何人か寛いでいた他の道明生徒から注目され、鹿江さんがなんでもないと言う風に手を振った。

 

「うん、一緒に帰ってた時にね……除外に送ったのは『光の三原色』、全色なので手札に『揺蕩うマアンナ』、『色彩の大河』、『未知色領域』、『虹見のスィラィ』、『新世界秩序』を手札に加えるよ。続けて1リソースと手札3枚、『未知色領域』をプレイ。反応はある?」

「えーあいつの告白する様子は想像付かない……あ、それは『一夜凪』で止める。カウンターある?」

「ううんちょっと困るね……通すよ。手札を1枚伏せてターン終了。鹿江さんは見当がかなり早いのかな?」

 

 ぼくがかなり見せているのもあるだろうけど、伏せでの止め所が割と的確な気がする。

 

「フルカラー揃いで分かりやすいのもあるけど、アタシは元からそういう適性だからな。強さはほどほどだけど、感知能力がかなり高いタイプ……らしい。聖岳の受け売りだけど」

「これは厄介だねえ……鹿江さんから見るとぼくはどう見えるのかな」

 

 海君の見当は見え過ぎててあんまり参考にならない……と、ぼくは思っている。

 ちなみに海君の感知能力は非常に高いが、具体的などの辺りまで行けるといった部分は基本的に適性の強さで判断しているそうだ。プレイヤー自身の努力込みなら都度それも含めて推測しつつ答えているらしい。

 

「うーんターン貰ってドロー……1枚伏せて手札の『風林の老狼』の効果が反応、アタシの場に『朝駆けのコロバシ』、『夕陽のキリヒメ』、『月光のモリカゼ』がある時、この3枚をダストに置いてコスト無しでプレイできる。着地時に反応はどう? ……適性の強さは十分、感知能力がまだまだなのを知識面で補ってる感じだけど……やりにくいかな」

「これは……通すかな……というと?」

 

 厄介なキーカードその1が来た。処理できないと辛くなるが、パワー、ブレイク共に程々なので処理しやすい部類ではある……。

 でも今後の2弾3弾を考えると盤面で処理したい……今はきっちり処理できる札が来てないのが悩ましい。別のカードの方を採用するべきだったかな? スィラィもちょっと条件あるし、困った。

 

「門倉さんは実戦経験が殆どないんだろ? ああこれはアタシ達みたいにPJ強豪校に通うレベルと比べたらって意味ね。経験に対してプレイングの基礎が仕上がり過ぎてるからめちゃくちゃやり辛い……あとプレイングのベースが聖岳に似てるのもあって余計に……5リソースに手札の緑3、『"風祝"叶』をプレイ。これは?」

「海君に似てるのは嬉しいね……2リソース支払い、そっちの手札3支払いに対して伏せの『スペクトラム』を発動、色指定は黒」

 

 こっちは止める。立ってるだけでぼくのデッキには天敵だからね……! 

 でも1度目だから止められてるけど2度目以降は基本リソースのみの支払いで対応してくるだろうから非常にやりにくい。

 

「うわっキツい……通して不発……だから門倉さんとは経験ある奴ほどやり辛いだろうな。聖岳以上にウチに対するジョーカーかも。大会出た事無いよな? バトル、『風林の老狼』でプレイヤーへ攻撃、チャンス公開は『雲雀東風』……ん、老狼の効果発動、公開されたカードが緑の【風祝】であれば除外して、次のアタシのターン始めにそれを山札の下に置き、そのカードのコスト分の一時リソースを得る。次ターンは実質9リソースだな。3点で終了」

「うーん困ったな……大会経験は無いね。それ以前の問題が多かったりしたから……ターンを貰ってドロー、手札から『オーロラの祝福』をプレイするよ。公開するのは『揺蕩うマアンナ』、全色なのでライフを8点回復し、6コスト以上のカードを公開したため2枚引くよ」

 

 老狼の効果で擬似ブーストがあるから、出来れば一度空にしたいんだけどまだ来ない。

 

「そっちは通す。やっぱデータ無いよな……うーん怖い伏兵」

「とは言え、今こうしてデータを取られてる訳だからね。少しは楽になるんじゃないかな? 手札を1枚伏せ、5リソースと手札1枚で『新世界秩序』をプレイ、除外ゾーンに送ってターン終了だね」

 

『新世界秩序』はパパから貰ったカードだ。相性激悪なので*1別のカードで無理やり引っ張ってくるしかないのが難点だけど、ぼくのデッキなら問題はないので1枚だけ入れてある。

 

「うっこれはキツイか……? 通してターンを貰うぞ。老狼の効果でリソースが+3。まあそうだけど……でもこれはデータ面よりは実際に相対して分かる部分が多そうだからあんまり参考には出来ないかな……響くなー秩序が……9リソース、再度『"風祝"叶』をプレイ。反応は」

「おっと、止めたいけど今は止められないね……」

 

 構築的にかなり相性が悪い。

『混淆』あたりを引き込めれば楽になるけど……それでも遅いね。

 

「今通ったなら少しは楽になりそうだな……バトルへ」

「厳しくなってきた……そういえば、さっきの講義なんだけど」

「攻撃時にチャンスステップ、公開は『荒ぶ北風』、手札に加えて3点……何か?」

「サキちゃんがプロになる人に挙手を求めた時、鹿江さんは挙げていなかった気がしてね」

 

 鹿江さんは割と目立つ風貌だ。すらりとしなやかなスタイルに切れ長の瞳がなんだか不良生徒っぽく感じて、印象が強い。道明に来た時に日野君の後ろでめちゃくちゃ不機嫌そうに海君を見ていた事もあり、特に記憶に残っていた。

 

「ああ、アタシはプロにはならないな。なるとしたらリョウの専属サポーターだ。続けて老狼で攻撃、チャンス公開は『月光のモリカゼ』。除外へ送って3点でターン渡すぞ」

「ぼくのターン……ぼくをこうしていなせてる以上、相応に強い筈だよね? それでもやっぱり目指さないのは何か理由があるのかなと思って……」

「簡単だよ。アタシじゃリョウ達が届く領域には至れないのが分かるからだ」

 

 彼女は蒲原さんくらい強かったら目指してただろうけどな。と続け、一息入れる。

 

「……それは、諦めになるのかな?」

「ある意味ではそうだな。門倉さんは、聖岳が勝つ為に適性を上げた時を見た事はあるか?」

「多分無いかな……デッキを回す為に上げてるのなら結構見てるけど……」

「まあアタシみたいなタイプじゃないなら多分大丈夫だろうけど……あれはさ、アタシみたいな感知能力が高いタイプの精霊憑きには猛毒だよ。頂点の見えない塔がいきなり目の前に出る感じだ。うっかり巻き込まれた同級生も何人か居て……そいつらは皆カジュアルなプレイヤーになっちゃったからな」

 

 なんとなく分かるだろ、と言いたげな表情をした。

 この感じだと、海君は道明には合ってなさそうだねえ。

 

「感知能力が高いからこそ、届かない適性の差が理解できちゃったのか。ぼくは無かった筈のものが見つかった形だからなあ……4リソースで『虹見のスィラィ』をプレイ。出た時の効果で3枚引くよ。反応はある?」

「通すが叶の効果が反応する。いずれかのプレイヤーが青か緑のキャラクターをプレイした時、相手の場のキャラを1枚選んで持ち主の手札へ戻せる。対象はスィラィ。アタシが今でも競技者として続けてるのはリョウが理由。ただ、あの時は多分聖岳も何か思ったんだろうな。憑いてる精霊に凄い剣幕で怒ってたよ」

 

 ああ、昔あったクランプスちゃんとの約束って言うのはこれか。

 昔話をこういう形で知るのはちょっと悪い気もするけど……。

 

「手札を2枚伏せて終了。多分その時の相手は、日野君だよね?」

「ああ。当時小1で上級生押し退けてアタシ達の入ってたクラブのエースだったし……そんなリョウが完全に封殺されて負けるなんて思ってもなかったよ。キンに至ってはしばらく絶句してたくらいだ。ターンを貰って除外のモリカゼを山札の下に送ってリソース+3。ドロー……5リソースで『こいかぜのフルール』をプレイ。通るか?」

 

 こう聞くと日野君も神童って呼ばれるタイプの人だよね。

 形の違う出会い方をした海君や風見君の幼馴染グループみたいだね。ぼくはそういう相手は居なかったから羨ましい。

 

「通すよ。となるとサキちゃんよりも早熟だったのかな……?」

「いや、その頃は蒲原さんが転校してくるより前だったはずだ。叶の効果は空撃ち、バトルに入って老狼で攻撃、チャンス公開は『"風祝"叶』……いやこれは悩ましいな……うーん……除外へ送って次ターンリソースが+8。3点」

「ならかなり小さい頃になるんだねえ……あれ、もしかして鹿江さんは海君や日野君とは学区が違った? サキちゃんと距離感ある感じだし」

「あー、アタシが合流したのは中学でだ。家はリョウの近所だけど、町が違うから隣の小学校だった。中学だと学区が広がって一緒になった形だ……叶で攻撃、チャンス公開は『朝駆けのコロバシ』で3点」

「なるほど……伏せ反応、『プリズムの航跡』をプレイ。手札から全色持ちのキャラクターを1枚公開し、そのキャラが持つパワー以下の攻撃中の相手キャラクターをダストに送り、そのブレイク分のダメージを与えるよ。公開するのは『揺蕩うマアンナ』で11000以下、ダメージは3点だね」

 

 やっと処理できた。ぼくが扱える少ないプールから、もうちょっと処理できる構築に変えた方が良いのかもしれない。

 

「うーんエンドだ。仕切り直しになったな……ところで会った時からちょっと気になってたんだけど……門倉さんの親戚に公式ジャッジの人が居たりしないか?」

 

 おや? パパの事を知ってる同年代の人と話すのは初めてかもしれない。

 

「ターンを貰ってドローするね。親戚というかぼくのパパがそうだねえ」

「……やっぱりか!? 髪の色と苗字でアレ? って思ってたんだよ!」

「3リソースで『色彩の大河』。通るかな? パパのファンなのかい?」

「通るな。ファン……なのか? 迅速な判断に憧れてはいるけど……」

 

 ジャッジとしての振る舞いで興味を持つ事ってあるんだなぁ……。

 

「先に言っておくけどママが嫉妬するしサインを書いてもらったりは出来ないからね……! 公開されたのは『スペクトラム』、『答え待つもの』、『混淆』、『静けさのパレット』、『星巡りの仔犬(スターシーカー・パピー)』だね。全て手札に加えるよ!」

「愛されてるんだな門倉ジャッジ……いやでも年末年始とか運動会シーズンとかちょっとした年中行事と重なった時の大会進行にはいつも居なかったし納得だ……フルカラーデッキは盤面押し込めるけど手札とかの優位の取り方エグいよな」

 

 それを思い出せるのはもう言い訳できないくらいファンの範疇じゃないかい? と思ったけど、言うのはやめておいた。

 なんだかショックを受けそうな気がするからね。

 

「だねえ……盤面はもう仕方ないって割り切ってるけど出来ればケアしていきたいよね……パパは普段はあんまり家に居られないけど、可能な限り帰ってきてくれる生活なんだ。3リソースに手札1で『静けさのパレット』をプレイするよ。パレットが出た時、ぼくのダストの『七つのオルファン』が反応して場へプレイ。パレットの効果で多色キャラクターは効果に選ばれない能力を得る」

「叶の効果で選べなくなってきたな……ううん門倉さんが愛されて育ってきたのが分かる。眩しい……」

「それと海君との仲はパパ公認だよ。それじゃあバトルに入るね」

 

 一昨日帰ってきた時も「おや、今日は海君は来てないのかい?」って言ってたし。

 海君はぼくの大事な人だからパパには渡さないよ! 

 

「反応はなし……もう籍入れたら? 法律上は大丈夫でしょ」

「それはお互い社会人になってからにしようって約束したからねえ。パレットでプレイヤーへ攻撃、チャンス公開は『混淆』。2点だね」

「通す。物凄い惚気を聞かされてる気がする……」

「実際惚気だからね! オルファンは対象変更に残しておきたいからやめとこう……じゃあターン終了だ」

 

 割と言われるからね。また惚気てるって! 

 

「さて、ドロー。展開はまだアタシが有利だな……多分後3手くらいで門倉さんは有効な手が打てないと詰むけどどうする? 伏せ1枚、4リソースで『月光のモリカゼ』をプレイしてバトルまで入る」

「反応はなし。ぼくは実戦経験が全然だし、最後までやらせてもらうよ。扱えるのが相性が良いかめちゃくちゃ悪いかだとやっぱりこの手のデッキ相手は辛いねえ」

 

 彼女はふぅん、と少し興味深そうにぼくを見つめ、テーブル上に視線を落とす。

 

「分かった。老狼でプレイヤーへ攻撃時にチャンスステップ、公開は『風林の老狼』、除外へ送り次のターン始めに6リソース補填して……エンドだな。いやしかし読み易くて助かるな……【行商】じゃないデッキ……」

「【行商】ってそんなに読みにくいのかい?」

 

 杓ちゃんが使ってるけどぼくは杓ちゃんとやった事ないんだよね。海君や葉山先生曰く、もうちょっと実戦経験積まないとボロ負けするらしい。

 

「んとな……【行商】はデザイン的にまず『当たり』と『外れ』があるから、読む必要のある択が単純に倍になるんだ。これに細分化された当たり方や外れ方の大きさで更に数倍、それとプレイヤー本人の適性による傾向があるから状況の優位が非常にわかりにくい。この単純に読むべき択の量が多いって特性が、回ってる時の【行商】の強さの6割くらいを担ってるって言われてる」

「そういう理由なのか……実際に当たるとそういう部分も見えてくるんだねえ……おっとターンを貰ってドローするね」

 

 単に読むだけなら今のぼくでも問題ないけど、肌感覚で後の相手の動きを推測となるとまだ全然さわりも掴めていない。

 どうやらぼくが杓ちゃんと練習するには、まずはさわりを掴んでからって事みたいだ。

 

「加えて言うとメインの勝ち筋が当たり型と外れ型で分かれてる上に自ターン中に負債を乗っけて相手の動きを縛っていくって部分はほぼ同様だから、型が見え辛いのも強みだな。そっちの……中戸さんは当たり型ベースだと思う」

「うーんどう動くべきか悩むね……海君はどっちの型なんだろうね?」

「性質的に好んで使いはしないだろうとは思うけど……両方使えそうだな……1番嫌なタイプの行商使いだ」

「ありそう……!」

 

 今度聞いてみよう。

 海君のことだから、多分扱えるけど好みじゃないから使ってないってパターンだと思う……運任せはあんまり好きじゃないみたいだからね。本気店長のデッキ知ってちょっとしょんぼりしてたし。

 

「さて、どうする? 散乱光がベースのデッキなら取れる手はそこまで多くない……とは思うけど」

「海君がさ、よく言うんだ。配られた手札で勝負しようって……だからぼくの考える手で最善を選んでいきたいね」

「聖岳らしい言い方……」

「まあ当人が相当にやってる適性なのはどうかと思うけどね! 2枚伏せ、4リソースで『虹見のスィラィ』をプレイ」

「同感。反応はないよ」

 

 やっと形勢を押し込める段階まで来たかな? 

 

「スィラィの出た時効果が反応、3ドローと場に全色キャラが居るので追加効果だよ。場にあるキャラクターを1枚選び、次の相手ターンの終わりまで、攻撃後にダストに置かれる効果を付与するね。対象は老狼の方」

「通す。んースィラィは先のターンで処理しといた方が良かったか……やっぱ使い所が難しいんだよな叶のバウンス……」

「とはいえ即処理以外で立ち続けるだけでも厄介なタイプだからね……1枚伏せてリソース1、手札から白を除いた各色1枚で『答え待つもの』をプレイ」

「反応無し……それよく持ってたな。高いだろ」

 

 鹿江さんの言う通り、『答え待つもの』も今は1枚2万円くらいにまでなっている。ちなみに『スペクトラム』は4万円近くにまで上がっていた。

 おかげでぼくのデッキはシングル買いで作ろうとすると、中々の金額を投資する事になるブルジョアデッキとなってしまった。

 答え待つものは来年でスタン落ちするから、その時に一気に値崩れを起こすと思うけどね。

 

「答え待つものは海君が相性良いみたいで譲ってくれたんだよ。出た当初にストックしてたみたいでまだ20枚くらいあるらしいよ」

「マジか……あいつに使われるのには遭いたくねえ」

「ではバトル、『答え待つもの』でプレイヤーに攻撃、鹿江さんへ4ダメージ、ぼくは4点回復し、山札から2枚をダストへ置いて老狼をダストへ送る。更にダストから『スペクトラム』を伏せる。攻撃時のカード名宣言効果も使うよ」

「宣言カード名は? 下なら確定してるけど」

 

 鹿江さんの言葉に、ぼくは首を横に振る。

 

「いや、勉強だからね。動きとしては弱いけど、山札の1番上を選ばせて貰うよ。【風祝】だから……『冬の西風(ならい)』、かな? チャンス公開は『七つのオルファン』」

「めくるぞ……当たりだな。本当に厄介だな……とりあえずこっちの場の何をダストに置く? 多分対象変更できる『こいかぜのフルール』だと思うけど」

 

 全部は見えなくてもテーマから内容を読み取る事は出来る。割とこの手の的中率も上がってきたし、目指せ4割的中だ。

 

「うん、フルールだね。フルールが落ちた事によりぼくがリシャッフルに入るので1点受ける。続けて『答え待つもの』で攻撃。黒効果で山札から2枚落としてそっちの伏せをダストへ、青効果はチャンスが落ちていない為不発、赤と緑で4点与えて4点回復するね」

「通すぞ」

「チャンス公開は『スペクトラム』……エンドだね……うーんちょっと足りない」

 

 こういう相手のライフが少しだけ残ってしまった時が1番怖い。かつての龍宮君なんかは普通に逆転勝ちしちゃうらしいし、大崎君や香奈ちゃんもしばしば巻き返して勝ってくる。

 

「アタシのターン……ラストターンかな? 6リソース補填、伏せ2枚から5リソース支払い『平等の魔術』をプレイ。指定対象はライフ。お互いのライフを合算し、2で割った値とする。アタシは4、そっちは24、割って14……手札を2枚伏せて7リソースに手札の緑1、『"集大成"椿』をプレイ。反応は?」

「伏せの『スペクトラム』を反応、緑2を白2へ」

「スペクトラムに反応、『一夜凪』。無効だ」

「通すよ。そのキャラの効果はどういうものだい? ちょっと見た記憶が無くてねえ……」

 

 一応公式サイトで一覧確認はした筈なんだけど……。

 

「ああ、椿か? 多分公式サイトのレギュ一覧とはイラストのバージョンが違うんじゃないかな……こないだのレギュ更新で復帰したアタシ達が産まれるよりも昔に出たプロモカードでな。相手の場のキャラ全体とバトル出来る能力を持つ。こいつの面白い所はチャンスステップはバトルの度反応するって部分にあるんだ。あと古いから同年代だと知らないプレイヤーが比較的多い……複数バトル系能力の元祖だから知ってる人は知ってるけどな。アタシは母さんから貰った」

「あっ! 海君が言ってた高額プロモカードのやつなんだね?」

「そういう事だな。対象は全てだから、こいつよりもパワーが高い相手にも挑む必要がある。その点は少しピーキーだが、今でも使い所を考えれば強力な1枚になる。バトル順はこっちが選べるから最悪でも自身のパワー以下の全体除去として機能するのが大きい」

 

 そんな鹿江さんの言葉を聞いて、ぼくの中にあった違和感が解消された。ビート適性と言うには少し不思議な触感は、ここにあったのだ。

 

「やっとわかったよ。鹿江さんは本来ならキャラによる盤面のやり取りが得意だからビートダウン適性って括りなんだね? 今回は……ぼくの構築もあってそこまでやり取りはしなかったけど」

「そういう事だ。本来なら老狼の処理を強要させて後続を動き易くさせたりもするんだが、今回はやらなかったな。じゃあバトル、椿で『答え待つもの』へ攻撃する際に椿の常在が反応、これにより攻撃対象は『答え待つもの』、『静けさのパレット』、『七つのオルファン』、『虹見のスィラィ』となり、順にバトルを処理していく。まず『答え待つもの』からだが、チャンスステップ時に伏せの『追い風』をプレイ。今攻撃しているキャラのブレイクをこのターン中+2で椿のブレイクが6」

「これで椿は貫通持ちだから2点が確定だね……ぼくの伏せは枯れてしまったし、打点差による貫通ダメージでここからピッタリ12点が通り……ぼくの負けになる。対戦ありがとうございました」

「だな。ありがとうございました。アタシが見たところ、門倉さんの盤面のやり取りによる想定がまだ甘い感じだ。そういうデッキが得意なプレイヤーとやれると良さそうだな」

 

 ふむふむ、と脳内メモに残しておく。

 今回は貴重な普通のビートダウン相手での動きを見れたから凄くためになったね! 

 

「ちゃんと殴るビートの動きの方が強く回せるけど……まあ気質だな。考え方の根っこは今から変えようと思っても難しいから、アタシがマッチ時の負荷を軽減してのプレイする時は今みたいなプレイングになる」

「かなり変則的な選手なんだねえ」

「その分広く相手取れるのがアタシの強みだ。ビートではあるけど相手の傾向でプレイングを切り替えて動けるから不利が付きにくい……【行商】とか聖岳の作る訳のわからんデッキでなければだけど」

「ううん難敵だ……しかしこうして教えてもらったからにはこちらも何か情報をあげられると良いんだけど………………そういえば」

「?」

「鹿江さんは、聖岳君に組んであるけど使ってないデッキがあるって知ってるかい?」

「……構築面の不備で完成塩漬けならよくありそうじゃないか……?」

「いやそれがねえ……1つだけ別のデッキケースに入れてあるんだよね。弄ることは結構多いんだけど、使ってる姿は見たことがないんだ」

 

 海君は雛型が出来たらテストプレイをするタイプなんだけど、その雛型すら出来てないみたいだから結構気になっている。

 

「……内容は見た事あるのか?」

「無いけど……ぼくは多分ハイランダーなんじゃないかなあと思ってるね。弄る時はいつも1枚ずつの変更だったから」

「聖岳の虎の子か……わかった。ありがとう覚えとく」

 

 かなり興味深そうな顔で鹿江さんは答えた。後で日野君……よりは銀舎君と対策を練りそうな感じだ。

 

「あっそうそう忘れてた。鹿江さん、ぼくとアドレスを交換しないかい?」

「ん、OKOK。ちょっと待ってな……アイコンの写真なんだこれ……毛玉?」

「家で飼ってる犬のバスカーだね。ママに憑いてる精霊なんだってさ。パパに憑いてる方の精霊曰く、結構凄い子らしいよ。喋れないししょっちゅう脱走してるから月に10日くらいしか居ないけど」

「アタシの精霊はリスだけど喋れるし……喋れない上にほとんど居ないってそういうタイプも居るんだな精霊……?」

 

 さて……そろそろフリプの時間だし他の人ともプレイしてみようかな? あるいは葉山先生の方で改めて纏めたデータを見せてもらうのも良いかもしれない。

 長い1日だけど、実りは多くなりそうでわくわくするね! 

 

 ○

 

 そうしてあっという間に時間は過ぎて夜。多分今の時間は10時くらい。

 大浴場を使い終えたぼくが自販機へ向かっていると、自販機傍の小さなテーブルでカードを広げて検討している海君の姿があった。横で日野君がソファの背もたれに寄りかかってうとうととしている。

 

「あ、桜子さん……何か飲み物を買いに?」

「うん。お風呂上がりでね」

 

 2人とも制服のままだし、もしかして今までずっとフリプしてたのかな……? 

 

「僕らは後で宿泊室のシャワーで済ませます……日野君は体力切れです」

「何時間対戦してたんだい?」

 

 海君の隣に座ったぼくの質問に、彼はこともなげに答える。

 

「7時間くらいですかね? 100人組手してくれるって言うんでやってたんですけど40人くらいで誰も挑んでくれなくなったので……」

「うーん容易に光景が想像できる……」

 

 それはそれとして7時間はしれっと言う時間ではないね……。

 

「それで銀舎君と日野君が代わりに連戦受けてくれたんです。30戦くらいしたかな? 終わってから感想戦してたら銀舎君は先に部屋に戻って、日野君も疲れてこのように。なので日野君が起きるまでデッキの検討してたんですよ」

「なるほど……あっこのデッキは……」

 

 横に置かれた見覚えのあるデッキケースから考えるに、今日鹿江さんと話していた件のデッキのようだ。

 

「暇見てよく弄ってる奴ですね。実戦ではまだ使ってないですが」

「見たところハイランダー構築だね。今日鹿江さんとちょうどこれについて話してたんだけど、このデッキに名前はあるのかい?」

「まだ無いですね。コンセプト自体も異質かつずっと未完成なので……良かったら桜子さんが名付けます? これを思い付いたのは桜子さんと会えたからなので」

「それは嬉しいね……まあまずはコンセプトを聞いてからじゃないと決めようがないよ。しかし海君がそこまで言うってなると相当な難物なのかな?」

「何て説明しようかな……うーん……」

 

 海君がPJに関してこう悩む事は意外と珍しくない……マッチ中は別だけど。

 

「そもそもこれは今の僕じゃ扱えないんですよ。机上論から組み上げた物でして」

「そうなのかい?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「うん……うん……???」

 

 それは……海君はやっぱりずっと強い適性のままなのは求めてないって事なのかな? 

 

「僕はよくやってますけど、マッチ中に1番隙が生まれるのはリーサルが取れる寸前のターンなんですよね。次が相手が事故ったターンとそのターンや状況に合わせた最適な札が来た時。これは教えたので分かりますよね」

 

 全然違った。普通に勝つ為の努力として出来たらいいなって願望だった。

 

「うん」

「付き合ってしばらくの頃なんですが、桜子さんとマッチしてる時にふと思い付いたんですよ。相手との適性の強さ次第で強い側の引きや展開が強くなるのなら、マッチしてる時に適性のコントロールが行えると仮定すると相手の隙を任意で作り出せるんじゃないかなって。なので是非名付けてくれると嬉しいですね」

「凄い推してくるね……このコンセプトが実現したら、日野君やサキちゃんが頭を抱えそうだね」

 

 もしこれを聞いてるのが葉山先生なら、無言で喫煙所に行ってたと思うよ。

 

「まあそこはどんな時も油断しないように慣れてもらうという事で……」

「うぅんスパルタだ……それなら、偶にやってる相性の悪いカードをわざと入れてるのは?」

「あれはカード側から僕に影響させてわざと事故らせてます。これは感知能力の低いプレイヤーの判断ミスが誘発出来るのでデッキを回す難易度が高くなり、相手も選びますが汎用性は結構高いんです。見せ札で対処の強要させるんではなく油断させてその後のルートを迷わせる形ですね。カード個別の適性がわからないと出来ない技術ですが」

 

 ぼくは個別適性が分からないからね。海君と過ごしていくうちに判別出来るようになると良いけど、以前先生も出来る出来ないの差が激しいって言ってたから分からないままかも。

 

「ぼくは海君が何を目指してるのか偶に分からなくなるよ……」

「今は……将来桜子さんを養うためにPJプロになるのでなるべく強くなりたいですね。それと勿論世界中のPJプレイヤーの実力を底上げしたいですね。説明可能な技術に落とし込めるのなら他の人にも教えられますから。なのでこの手の探求は僕のライフワークとも言えます……言語化はサキちゃんの方が得意なんですけどね」

 

 そんな言葉に、ぼくは笑みを抑えられなくなって彼に寄りかかる。

 

「ぼくらは2人して探求が好きなんだねえ」

「似た者カップルという訳ですね」

「似た者夫婦でも良いんだよ?」

「僕としてはいつ籍を入れても良いんですが……」

「……入れちゃったらお互い暴走しちゃいそうだから予定通り大学卒業の目処が立つまでやめとこうか!」

「……ですね!」

 

 ぼくらは清い交際をモットーとしているからね! *2

 

「うーんそれにしても……未完成ではあるけど完成したら……というよりは実現したら恐ろしい事この上ない……これってデッキの強弱や相性よりはプレイヤーの実力が勝敗に直接響くタイプになるよね?」

「理論上はそうなる筈ですね。実際どうなるかはまだ分かりませんが……」

 

 質問しながら、ひとつ言葉が思い浮かぶ。

 相性ではなくプレイヤーの質を問いかけるデッキで……。

 

「なら……『マスターキー』なんてどうだい? 何にでも合う鍵だ。……『リドル』も浮かんだけどこっちは同名のテーマがあるしね」

「マスターキー……うん、良いですね。じゃあ今日からこの子は『マスターキー』です。完成まで遠いけど頑張ろう……」

「この子……子はちょっと恥ずかしいな……それじゃあおやすみ海君」

 

 挨拶代わりにぎゅーっと彼を抱きしめる。お風呂上がりだから今のぼくはちょっと暑苦しいかもだけど。

 

「おやすみなさい桜子さん。明日もお互い頑張りましょうね」

 

 そうしてお互いにひらひらと手を振って別れ、ぼくも女子に割り当てられた部屋へ向かった。

 

「桜子ちゃんおかえり〜」

「ただいま〜疲れたから今日は早めに寝るね……」

「おやすみ〜」

 

 部屋では蜜実ちゃんがパジャマ姿で自分のベッドに寝そべり垂れていた。

 杓ちゃんの姿が見えないけど、あの娘は他の場所でフリプしてそうだ。となると香奈ちゃんも一緒なのかな? 

 

 今日は結構頭を使ったし、明日起きれるかな……? いやこれはぼくより香奈ちゃんあたりの方が危なそうな気がするけど……。

 不安だ……などと考えてベッドに潜り込むと睡魔がやって来るのはすぐだった。

 

 ○

 

 ──翌朝5時。ぼくら女子レギュラー組の面々は、香奈ちゃんがばね仕掛けみたいな勢いで飛び起きた拍子で起こされていた。

 

「ごめん習慣でいつもの時間に起きちゃった! しばらく外走って来るね!」

『キーッ!』

 

 爆速で持ってきていたジャージに着替えて廊下へ駆けていく香奈ちゃん……を追いかけて跳んできたキンタロウらしき影に手を振りながら、ぼくらは各々呟いた。

 

「うーん……大型犬……?」

「香奈が昨日帰ってきたのって0時過ぎなんだよね……信じられる?」

「アラームかけずにこの時間に起きられる人って存在するんだ……!?」

 

 杓ちゃん……言葉が強過ぎるよ……。

 

 

 

*1
『任せな(ウキウキ)』「今は来なくても良かったんだけど……」

*2
一緒にお風呂まではやりましたが誓ってえっちなことはしていません。




次話はいつものカード紹介、その次はif掲示板回です。
のんびりお待ちください。
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