TCGクソザコナメクジ先輩と僕。   作:餅屋

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昨夜寝落ちしたので投稿です。
手札計算は一応していますが作者は鳥頭なので時折間違う場合があります、ご了承ください。
それと総合日刊1位を取れていたそうで、読者の方々にお礼申し上げます。

7/26 先輩の使った【ドンケルハイト】の処理がすっぽ抜けていたので書き足しました。
7/27 最後の方に先輩のプレイログについてを少し加筆しました。


5.先輩と小旅行 後編

 

「こうも暑いと外に出る気力も失いますわ……」

「ウチはお店が繁盛するからありがたいんだけどね」

 

 都内某所の喫茶店にて。

 西陽が差し始め、茹だるような暑気になりつつある外に戻らなければならないという未来にため息を吐きながら、赤い髪を適度に短く整えた少女はアイスコーヒーを一口飲んで顔馴染みの店長にぼやいた。

 カウンター席に置かれているスマートフォンが僅かに振動する。SNSからのおすすめ通知によるものだった。

 意思の強さを感じさせる緋色の瞳が幾らか動き、訝しげに眉が顰められる。

 

「学生チーム戦の動画がバズってる……?」

「PJかい?」

「はい。全国決勝とか大舞台もまだやってへんので対戦の動画がバズるなんて早々無いはずなんですけど……」

 

 通知をタップしてリンクに飛ぶ。動画タイトルは『CエリアU-18チーム予選決勝 大将戦』。

 ──違和感を感じる、再生数ではない……別の部分に。

 そうだ時間だ。再生時間が短過ぎる。いくらなんでも5分で大将戦が終わるなんて事は本来ならあり得ない。

 程なくして選手が現れる。双方が知っている顔だった。

 

「あっ」

 

 そのうちの片方──彼女にとって忘れられない記憶を作った少年が、微塵も重圧を感じていなさそうな表情で立っている。

 再生アプリをタスクキルしてコーヒーを一息に飲み干す。

 

「ごめん店長、お会計お願いします。ちょっと用事ができたんで」

「急ぎっぽいからつけとくよ。また来てね」

「おおきに、それじゃっ!」

 

 早歩きで涼しい店内から外に出て、まず少女は電話を掛ける。

 

「もしもしマネージャーさん? ちょっと急用で16時半以降で羽田から大阪までの精霊便を1席取りたいんやけど……ええ、はい、助かります。ほんなら今から空港向かいますんで。ちょっと他にも連絡取りたいとこあるんでそれ済んでから諸々伝えますわ。帰りはちょっとわかりませんが明日までには戻ります。では……さて後は出てくれるとええけど……出たか」

『ふぁいもしもし……誰ぇ?』

 

 電話越しに如何にも寝起きという具合の声が聞こえた。いつものように昼寝でもしていたのだろう。

 

「おいコラコースケェ! アンタなんでウチにタケが学生戦復帰しとるの教えてくれてへんねん! しばくぞォ!」

 

 旧友である少女からの怒りの電話に、コースケ──風見幸助の眠気は一気に吹き飛んだ。

 少女の名は、蒲原サキといった。

 

 ◆

 

 合宿所での打ち上げという名の焼き肉会兼買い出しがあったので、結局今日は泊まって明日帰宅する事になってしまった。

 合宿所で色々教えてやってくれと頼まれたから仕方ない。それなら泊まり込みでガッツリやろうかという気分にもなったので。

 

 僕がちょっと頑張ったのもあってPJ部は秋から大変そうだしね。

 

 先輩は親御さんに連絡済みなので問題ない、問題なのは僕の方……というかクランプスの方だ。

 

「出る前に泊まりになるかもしれないって言っておくべきだったかも……あれ、風見からメッセージ来た」

「確か先日久々に会ったって友達だったね」

「ですね。こんな時間に連絡来るの珍しいんだけど……あいつサキちゃんと連絡取れたんだ?」

 

 メッセージを読んだその時、葉山先生から声をかけられる。

 

「聖岳、今学校の方から連絡あってさ。お前とコンタクト取りたいって客が合宿所に来てるらしい」

「プロの蒲原サキでしょ。今友達からメッセージ来たので知りました」

「知り合いか?」

「小学校が同じなので……5年くらいしか付き合いなかったですけどね。あっちが転校しちゃったので、転校後は中学の時に大会で偶に会うくらいでしたし」

 

 高校入るのかなと思ったら即プロになったのにはちょっとびっくりした。

 先輩が僕から何かを感じ取ったのか、口を開く。

 

「今日イケイケのぼくにはわかる……聖岳君のこの話し方……付き合いがあった頃に何かやってるね?」

「5本先取でストレート勝ちして泣かせたくらいですかね? 後はまあフリプたくさんしましたね。僕がやった事ある相手だとビートダウンが1番強いですよサキちゃんは。ビートダウン同士の対決なら安定して勝てる国内プロは1人2人になるんじゃないかな」

「案の定やってんねえ!!!」

 

 先輩が猛抗議という具合に僕に引っ付いてくる。

 可愛い抗議だ。僕にはバフになる。

 

「まあ僕が勝ち越してるんですけどね。公式戦は多分全部勝ってるかな。とはいえ今やったら昔より強いだろうからちょっとわかんないですが」

「真面目に上に掛け合って聖岳の所属を卓戯同好会とウチの部との掛け持ち扱いにするべきか悩んできたな……」

 

 絶対やめてほしい。僕は今の先輩とのんびり出来る環境を気に入っているんだ。

 

 そんな事があり、僕らが肉をしこたま買い込んで合宿所へ向かうと、確かに見覚えのある顔の先客と、めちゃくちゃ縮こまっている小岬さんが居た。

 

「何でぇ? 何でここに最年少Aプロが来て私と話してるの……? 夢……?」

「せやから言うてるやんちょっと友達に会いに来ただけやって……あ、来たわ。小岬ちゃんありがとな暇つぶしに付き合ってもろて」

「そんな恐れ多い……これにサインください……」

「下手な字なのは堪忍してな!」

「家宝にします……」

「大袈裟やなあ」

 

 小岬さんがデッキケースにサインを貰って大事そうに抱えていた。

 プロやってんなーサキちゃん……小岬さんが限界化しそうだけど大丈夫? 

 

「久しぶりサキちゃん。何かあったの?」

「ウチの同中の精神メタクソにしといて何知らんわって顔してるんやしばくぞアホボケカス」

「あー氷川君の事? サキちゃんの元同級生だったのか。折れなかったら彼強くなれるよ」

 

 その時の立場によって扱うデッキを切り替える覚悟ができたらかなり伸びるんじゃないかなあ。レギュに対するカードプールへの理解力向上とかは言わなくてもするだろう。

 

「そら良かったわこっちも氷川に連絡とってケアした甲斐あるわ。そんな事よりアンタ学生戦復帰したんやったらコースケ伝で教えてくれたって良かったやん!」

「復帰……? してないけど。風見とまた会ったのも最近だったからあいつがサキちゃんと連絡取れるのはさっき知ったよ」

「ほんならあの大将戦の動画はどういう事やねん」

「助っ人。そこの小岬さんの代打……動画って何?」

「代打にアンタ使ったら後から苦労するやんか……そんでSNSでバズってるでアンタの虐殺」

 

 虐……殺……? したつもりはないんだけど。

 サキちゃんがスマホでバズり元を見せてくる……ウワーッ! 3桁万バズしてる! しばらく大会に出たくない!

 

「試しにブラフ貼ったら綺麗に引っかかってプレミしてくれたからサクッと介錯しただけなのに……」

「だけ?」

「だけ……?」

「だけかな……だけかも……」

「あっそれと葉山先生でしたね? AランクPJプロやらせて貰ってます蒲原サキと申します。急に押しかけてすみませんご飯代出しますんで御相伴に与ってもよろしいでしょうか?」

 

 うわあ急に落ち着くな! 

 

 ◆

 

「美味い! 美味い!」

「お肉が焼けたよ!」

 

 男子部屋のリビングにテーブルを並べ、男女混合9人で卓を囲んで肉を貪っている。もっと野菜買った方が良かったかもしれん……。

 先輩は野菜ばかりをはむはむと食べている。かわいい! でももっと食べてください。

 

「ほんでな、ウチがタケもあの強さやとプロになるやろなあって思ってたらこいつ普通に進学したんや……信じられへんよな。バケモンみたいな強さしとるんやしなるやろ普通」

 

 サキちゃんは先輩と中戸さんの間に座る形となり、食べたり焼いたりしつつ懐かしい話をしていた。

 

「プロになったからといって強くなる訳じゃないし……」

「いつか逆転したるからな!」

 

 箸で人を指すんじゃないよ! 

 

「知らない頃の聖岳君の話を聞けるのは楽しいねえ……」

「桜子ちゃん可愛いから借りて帰ってもええか?」

「先輩が望むのなら渋々……」

「ぼくは聖岳君の所にしか行かないねえ!」

 

 先輩は天使だった……。

 

「若いって良いよなって聖岳と門倉見てると思うわ」

 

 葉山先生が缶ビールを開けながら呟いていた。

 肉も食わずに酒しか飲んでない気がする。

 

「そんで今夜はタケがPJの色々教えるんやったな? ウチも手伝うで」

「助かるよ」

「ウチとタケが教えるんなら銭取れるで。コースケがおったらもうちょい楽なんやけどなー……」

「先生も参加してくださいよ元プロでしょ」

「えぇー……」

 

 元日本PJ選手権4位の姿か……? これが……? 

 食べながらで行儀はあんまりよくないが、とりあえず今日のおさらいから行くかな。

 

「じゃあ今回はひとまず復習って感じにするけど、今日の僕の大将戦で何したのか分かった人は挙手お願いします」

 

 ……なんでサキちゃんと先輩と先生しか手を挙げてないんだよ! そんなんだから僕からすると全国優勝の目が見えないんだぞ! 

 

「やった事自体は従来の【バード】相手ならマストカウンター決めれたと思わせての本命イベント通して殴り勝ちやな」

「多分先攻1ターン目でテーマ見えてからブラフ用のクエーサー引っ張って来る事決めたよね」

「聖岳お前2ターン目開幕で相手のデッキほぼ把握してよっしゃ殺したろってしたろ」

 

 理解者側の各々が答える。

 

「しましたけど」

「……???」

 

 スタンダードレギュなら10枚も見えたらデッキの中身はほぼ分かる。レギュ内で使えるカードを覚えてたらすぐだ。

 

「あっこれ()()()()()()()()分かっとらんな他の子」

「ぼくもわかんないけどね」

「桜子ちゃんは適性がまだわからんのやったな。それならしゃーないわ」

「そもそも学生に想定させるステージじゃないからな聖岳が見てるゲーム盤は……」

 

 もしかすると今日は僕が悪し様に言われる日なのか? 僕は首を傾げる。

 烏龍茶を一口飲んだサキちゃんは、利き手の人差し指を立てて言った。

 

「端的に言うと、タケの見とる盤面はプロの、それもトップレベルの世界や。レギュに応じたカードプールや各テーマの把握は当然大前提、対面しとる相手の挙動から展開の状態を読み込み、お互いの展開の推移から相手に憑いとる精霊の適性を感じながらプレイしとる。ほんでタケはこれを自然体でやれてしまうから普通のプレイヤーとの意識差がめちゃくちゃあるんや。タケは小学生同士の5先でこれやってくるんやで頭おかしい奴やと思うやろ? はよ直して欲しいよな」

 

 皆やらないの!? マジで!? あんなに勝ちたがってるのに!? ってなったのは中学に上がってより強くなったサキちゃんと感想戦してた頃である。

 今はそういう事もあるんだなぁと理解した上でマッチに手を抜かないだけだ。

 

「それはともかくキミら学生がタケを参考に真似できるような物は殆どない。でもタケを含めたプロが行なってる事で誰にでも出来る物が一つだけある」

 

 ナチュラルに人をプロ枠にしないで欲しい。

 なんやと思う? とサキちゃんが訊ねると、隣の先輩が答えた。

 

「使えるカードプールや各カードのテーマとの相性把握くらいは僕らでもできるねえ」

「桜子ちゃんの言う通りやね。まあ無理なら分担して覚えたらええ。チーム戦ならポジションによってデッキ性質の合う合わんもあるからな……全国上位常連の強い学校ならその辺加味してチーム編成してる筈や」

「葉山先生は当然その辺知ってるけど教えてませんでしたよね?」

「ウチのPJ部は環境に対して緩めだから……真面目にプロ目指してる奴は道明学園とか行くし」

 

 道明学園は全国優勝もしばしばする大学付属高校だ。僕も昔来ないかと誘われたが立地がクソだったので断った。もうちょっと文明の香りを漂わせてから誘って欲しい。

 それはともかくウチも一応近場のプロ目指してる子がよく来る部活なんだし教えた方が良いと思うんですけど。

 まあ高校時なら適性任せで伸ばすのも悪くないと思う。そもそも才能の芽がないと上にはいけないので。

 

「この感覚の実例でも見せよか? タケ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「全部合ってるかは分かんないけど挙げれるよ。枚数も」

「枚数も込みならレシピシートに書いてウチに渡してくれ。貰ったら氷川に聞いて答え合わせしたるから書いてみ」

「それならちょっと小さいちゃぶ台借りるよ」

 

 まず【夢見の調律師】と【奏の楽園】と【閉演】と【アズーロの前奏】が骨子部分だから4積みで……。やってた時の感覚的にフィニッシャー枠の【荘厳のダイナスティ】や【大楽曲・静謐】は2積みで……。

 

「書けたよ」

「サンキュ、ほんなら氷川に送っとくで。返事はどうやろな」

「コワ〜……」

 

 大崎が怯えているっ! 

 でもこれ誰でも出来るようになるからね。各々の自由枠はともかく、骨子部分を変えるのは難しいからそこを知っておくだけでもプレイングの質が全然変わる。

 あとはこれらテーマ毎の骨子情報を各ポジションの向き不向きに合わせて振り分けつつ皆で覚えれば暗記苦手でもほぼカバーできるでしょ。

 学校の勉強より楽だよ。

 

「そんでタケ、今日の氷川のデッキに弱点補強の対象取らない除去が入ってないって確信した原因は?」

「【夢想楽土】だとテーマ外の汎用札が入ってたらもうちょっと慎重に動かなきゃだし、手札補給のスピードも僅かに落ちるから先攻2ターン目の動きでああこれ入ってないなって。それと氷川君が多分青カードへの適性あるから余計に入れ辛いんだよねあの辺の除去。元々枠も少ないし」

 

 適性あるからって適性に合うカードを入れ過ぎるのもよくないんだ。

 困らない程度で自分から適度に事故らせるのも大会シーンだと案外重要になる。目眩しみたいなもんだね。

 

「対処能力高めようとしたら動きが阻害されるのはスタンダードレギュで【夢想楽土】がメタデッキに入りきれない理由やからな」

「それにプロ戦想定だと山札一周する前にバレるんだよね。その辺が入ってるかどうかってのが」

「難しい所やなー……ほんで別軸フィニッシャーで【答え待つもの】を採用した理由は?」

 

 そこ聞く? 

 

「僕は引ける。あと使ってて楽しい」

「1番答えにならん答えを言ってどないすんねん!」

 

 ぺんっと頭をはたかれた。

 

「【バード】デッキなら除外による圧縮と性質上の手札補給のし易さでサーチ無しでも手札に引き込みやすい点、【虹のフラミンゴ】が全色持ちだから【答え待つもの】のコスト参照にも使い易い点、手札コストの条件こそぱっと見重いけどアドバンテージ的には2種使えればお釣りが来ると見て良いのでフィニッシャーとしては単独性が高い点、山札が数周してるなら【鷹の目】無しでも再回復パンチの目処が生まれる点、【クエーサー】引き込みによる伏せ除去か相手に打ち消しの空撃たせがし易い点、そして何よりも見えたら見えたで相手が警戒してくれる点」

「アンタのやらかしのせいで夕方ごろから急騰しとるんやからな【答え待つもの】が。久々に見たわこんな跳ね方してるの」

「パック剥いたら出ておーこれは皆使うだろうなあと思ってたら全然安くてビックリしたよね実装当初」

「プロとアマチュアで手札への感覚がかなり違うんよなPJ」

 

 アマチュアの方がプロよりも圧倒的に数が多いので、今回のようにアマチュア側に訴求出来る事件があると対象が市場から一時姿を消す、と言うのは結構起こる。

 でも【恵みの滴】なんかは双方がバリバリ使ったので最終的にパックを剥くしかねえ! という根本的解決に至っていた。

 

「この感覚について補足しとくと、手札は温存し過ぎるもんやない。PJは手札上限に対して手札補給が頻繁過ぎる気があるからな。使うべき時は使ってええ」

「よく手札超過で除外される人は特に考え改めた方が良いよ……聞いてるかい大崎。君の事だぞ」

 

 俺!? という顔を大崎がする。お前だよ。

 適性的な問題もあるし今使ってるデッキには合ってる悪癖だけどそのままだと他の適性あるデッキが使えなくなるからなそれ。直せ。

 

「どの道黒入りのコントロールと当たったりすると徐に手札消えたりするしな。そんなら盤面取ってく方がずっとええわ……他なんか教える事ある?」

「僕らと普通の子達だと……あ。あれあったな、カード単位での適性」

「あれは才能いるからまあ別の機会でええんちゃう?」

「あの辺出来るようになると色々楽になるんだけどねー……」

「大学に進んだら習う奴だからお前らには言ってなかったが、カード単位の適性把握はAランクプロとしてやっていけるかどうかのボーダーになる。だからやれない奴は一生やれんしやれる奴はスッとやれる」

 

 先生による補足が入る。そんな後に習うのかこれ。授業でやった覚えがまるでない訳だ。

 

「僕は小学生になる頃にはなんとなくできたね。ハッキリ理解したのはそこから3〜4年してからかな」

「ウチは中学2年に入ったくらいやな。タケが言っとったのそういう事かって理解してプロになるの決めたんや」

「ちなみに俺はできないぞ。こう見えてもデータ型だから別になくてもなんとかやれてたが、今のプロ分類だとBランクに落ちるから国内4位にはなれなかっただろうな」

 

 しかし先生が出来ないのは意外だな……。

 他はなんかあったかな? たくさんあるな。

 

「それと僕からのアドバイスだけど、精霊はデッキに憑くのではなく人に憑くって事を覚えておいてね。先輩みたいに恐ろしい手札とか展開事故とかが頻発しないなら僅かでも適性あるって事。最適性デッキは変わらないけど、適性のあるデッキを最適性デッキの動きに限りなく近付ける事はできるんだ。だから適性が低いデッキを握って弱くなる事を恐れちゃいけない。またそのうち強くなれるよ」

「ぼくはまだ適性を探している最中だねえ……」

「それと今後誰かたまーに先輩とやってみてくれない? 色々と計測データが欲しくてね……今からでも良いよ」

「でもタケちゃん……! 肉が……! もう無い……!」

「それなら余計問題ないだろうがよー! えーっ!」

 

 いつの間に食ってたんだよ僕やサキちゃんや先輩はそこまで食べてないんだぞ! 

 

「良かったら2人ともぼくのを食べるかい? 貴重な講義の間に焼き過ぎると良くないなってしてたらちょっと取りすぎちゃってね。食べ切れそうにないんだ」

「なあタケ……桜子ちゃんはアンタには勿体無いんやない?」

 

 先輩の言葉に、冷たく僕とサキちゃんの視線が衝突した。

 

「蒲原さんの言葉は嬉しいけれど、聖岳君との先約があるからね。お友達なら良いよ」

 

 先輩の言葉で数秒間の冷戦は終わった。先輩が平和をもたらしたのだ。

 

 ◆

 

 ちょうど2人がプレイできるくらいの卓を挟み、サキちゃんと先輩と僕と先生を除いた皆が何やら緊張したような表情でお試し対戦が始まるのを待っていた。

 

「氷川から返信来たで。全部合ってて怯えてたから慰めといたわ」

「デッキの中身バレてるくらいでそんな怖がらなくても良いのに」

 

 次に活かそうくらいの姿勢であって欲しい。

 しかしサキちゃんは声を荒げて僕に文句を言う。

 

「アンタは昔から競技シーンに出る学生のレベル高く見積り過ぎや! ウチもコースケも他の強いのもアンタにどんだけ泣かされてここまで伸びたと思ってんねん! その癖別の用事あったら平気で出場せんから実力に対して危険性がイマイチ広まっとらんし! 中学上がって別エリアの奴とマッチしたら弱過ぎてびっくりしたんやぞこっちは!」

 

 サキちゃんは僕をなんだと思ってるんだ。

 

「別の用事の方が大事なら僕はそっち選ぶよ。でも泣かされても強くなれたならそれでよくない?」

 

 サキちゃんも風見もフリプで僕をちょこちょこ負かすくらいに強くなってくれたのは単純に嬉しい。

 勝ち越してるのは僕だが。

 

「こいつはホンマにもう……そんで桜子ちゃんの相手したればええんやな?」

「うん。それでやってて普段のプレイと違う感覚があったら教えて欲しいんだ。僕は後ろで先輩の手札見ながらプレイログ記録してくからサキちゃんは後でどんな手札だったか教えてくれる?」

「承ったで」

 

 プレイログは棋譜みたいなゲームの進行を仔細に記録した物である。全国大会の準決くらいになると公式サイトで配布されてたりするね。

 

「ほんじゃやってみよか。桜子ちゃんは大丈夫なんやね? 先攻は貰うで」

「勿論大丈夫さ。こんなに豪華な面子に手伝ってもらえるのは偲びない気持ちもあるけどね」

「スタンバイからドロー、手札から1枚を伏せ、1リソースで【to be too…】をプレイするで。こいつはゲーム中の1ターン目に限り、先攻後攻の制限さえ無視して2回攻撃できる。ほんならバトルに入ろか、1度目の攻撃、チャンス時のトップ公開は【0a NOT】、手札に加えるで。2度目の攻撃、今度は【ダストファンク】が公開、これも手札に加える。終了やね」

 

 特定条件での爆発的な優位効果を持つキャラが当然のように引けているのは、流石プロシーンで活動しているだけはある。アレ多分ピン刺しだろうな……引けるから。

 

「ぼくの手番、スタンバイからドロー……手札を2枚伏せて1リソースで【光導探索者】をプレイ。出た時の効果で山札から2コスト以下のカードを手札に加えシャッフルする……ハァーッ……」

「うおおおおおおおお‼︎」

 

 僕は恐怖しているッ! 

 

「なんややかましい、口にガムテ貼るか? 安くしとくで」

「プレイログに追加で付記しとくから後で読んだらわかるよ」

「ほんなら後で見させてもらうわ……」

「いや凄いなこれは……僕やサキちゃんにとっては新世界だ」

「そんなになのかい普段のぼくは……」

「でも立ち上がり的にはいつもよりは良い感じです。やっぱりコントロールの方が若干適性あるんでしょうね」

「一歩前進という奴だね? おっとすまない、ぼくは山札から【氷刃の鎖】を手札に加えるよ」

「目の前でイチャつかれるとめちゃくちゃ腹立つの今知ったわ……こっちの反応は無いで」

「ではバトルフェイズに移行、【光導探索者】で【to be too…】に攻撃するよ。チャンスステップ、公開されたのは【天塵の法則】、手札に加えるよ。そちらの反応はあるかな?」

 

 早速よくない回りだ。【天塵】はその性質上、テーマが割れると相手の攻め手が加速しやすい。加速されるとこちらの対処札が追いつかなくなってしまうので息切れする確率がかなり上がってしまう。

 序盤でベストなのはコントロール寄りの汎用的なイベント探索、例えば【光導探索者】のようなキャラを活用してトークン貯蔵の種となるイベントやチャンスを手札と場に貯めていけるのが望ましい。初手に【涵養の天文台】があるだけでも違うのだが、先輩は勿論引けていない。

 この感じだと4ターン目くらいに貼れるかな。その頃だとサキちゃんのビート相手には時間切れだ。

 分かっていたつもりでも下方向に凄まじい回り方をしている。

 

「伏せの【過剰分泌】が反応するで。1枚引いてから手札のキャラを1枚捨て、捨てたキャラのコスト+1以下のキャラをダストに送る効果や。捨てるのは【ハンドクラップス】。0コストなのでコスト1以下、【光導探索者】をダストに送るので以降のステップ処理は飛ばされる。そして【ハンドクラップス】は手札かフィールドからダストに送られた際に効果が発動、相手に1ダメージを与える。処理してもらってエンドやね?」

「うん、エンドだ。しかしプロともなればビートダウンでも綺麗な回り方をするんだねえ」

 

 ターンを渡して先輩がそう呟く。

 

「今後の新弾で最適性デッキ握れるようになるならサキちゃんのビートダウンは今の国内プロで頂点狙えるくらいですからね。あらゆる物がめちゃくちゃ綺麗に噛み合っていくのが見れるはずです。このバトルは覚えておきましょうね」

「なんやタケに言われるとちょっと照れるな……スタンバイからドロー、メインに入るけど反応はある?」

 

 極まったビートダウン使いの動きを目の前で見る経験は、本来とても貴重な物だ。

 僕は出会いと環境に恵まれて、それを容易に見れる状況になった。これは今の僕を形作る確かな糧として役立っている。

 だから先輩に適性がなくとも、何かしらの形で役立つ筈だ。

 理想的な動きという物は、その目で見るまで起こる事実を信じる事が難しい。しかし扱うデッキと高適性になるほど強いプレイヤーは、可能性が0じゃないのであれば結果を引き寄せる事ができる。

 これらが現実的に起こりうるという体験は、きっと試験でも役立つ。

 

「反応は無しだ……そういえば、さっき聖岳君と話していたように、やっぱりこうも不格好なぼくの回し方だと伏せも読めたりはするのかな?」

「ウチはタケほどおかしくないからカード名までは特定できへんけど、まあ効果的にこの辺やろなってのはなんとなく読めとるね。多分攻撃時に手札補給するのとさっき引っ張ってきてた【氷刃の鎖】かな」

「凄いね聖岳君。ぼくは君の事をまた見直しそうだ」

 

 それは嬉しい言葉だ。

 

「ウチがイチャつきの出汁にされたやと……!?」

「僕は先輩からの好感度超高いからね。好きな所も最低256個は言える。まず一つ、メンタルの強さ」

「照れるねえ」

「あんたらに付き合っとったら夜が明けそうやな……メインの続きやるで。手札を1枚伏せる。それからリソース2と手札の赤2枚で【0a NOT】をプレイ。プレイ時効果でフィールドの自分の【ハートビート】テーマのキャラを1枚選びダストに置く事で、このターン中このカードのブレイクは倍になる。ダストに置く対象は【to be too……】、これで【0a NOT】は6点やな。続けて【ダストファンク】をプレイ。プレイ時効果の処理に入るで。ダストボックスの【ハートビート】のキャラを1枚ゲームから除外する事で、このターン中自分のキャラを1枚選びブレイクを+2。除外するのは【ハンドクラップス】、対象は【0a NOT】、これで10点になるな。そんじゃバトル入るでー?」

「流れるように大火力……!」

「今の環境だと【ハートビート】は最速のビートダウンですからね。綺麗に回るととんでもない動きをします」

 

 ただし完璧に回せる人の数は少ないものとする。サキちゃんは例外だけど。

 

「【0a NOT】でプレイヤーに攻撃、チャンスステップ時に公開された【ダストファンク】を手札に加えるで。反応は?」

「伏せの【氷刃の鎖】をプレイするよ。このターン中、相手の場のキャラを1とダストボックスの青のカードの分だけ選択し、攻撃と対象変更をできなくするんだけど……ぼくのダストには青のカードがないので1体しか選べない。選ぶのは【ダストファンク】だね」

「ほんならウチのターンは終わりやね。聞いた通りプレイングは合ってるんやけど動きの出力が異様な低さやな……これは確かに適性ないって言われるわ」

 

 生きたTCG事故カタログが先輩だ。恐れよ。

 僕も恐れるくらいだぞ。

 

「この出力の低さのせいで【ゴールドラッシュ】みたいなサーチビートも微妙なんだよね……」

「せめて手札事故だけで済めばよかったんだけどねえ。ぼくのターン、スタンバイからドロー……リソース1と白1で【トリニティ・コール】をプレイするよ。3枚引き、その中にコスト3以下のキャラが居るならプレイ出来るんだけど……」

「居ませんね……」

 

 全部で16枚居る筈なんだけどな……3コス以下のキャラ……。

 

「もぬけの殻だねえ……ともあれ3枚ドローは出来てるので1リソースと白1青2、【停止したアストロラベ】をプレイ。ダストからこのカードと同じ色のイベントを選び、手札に加えるかチャンスをダストから直接伏せるかを合計2回選べるよ。ダストの【氷刃の鎖】をセットして【ドンケルハイト】を手札に加えるよ。そのまま【ドンケルハイト】をプレイ、僕の場に【天塵】のキャラが居るなら2枚引く。それじゃバトルに入る……【停止したアストロラベ】で【0a NOT】に攻撃。チャンスフェイズ時に公開されたのは【涵養の天文台】、手札に加え、更にチャンス発動、伏せの【叡智の泉】をプレイして3枚引き、1枚伏せる」

 

 アストロラベも良いカードなんだけど、こいつしかプレイできないって状況だとそれはそれで困る。今回は事前に【トリニティ・コール】が打ててるからちょっとマシだ。

 

「対象変更、【ダストファンク】へ。更にこちらもチャンス発動、【Like a Prayer】。このターン中ウチのキャラは場を離れへん」

「バトルするよ。アストロラベが疲労する。そのままターンエンドだね」

「ターン貰うであっ勝ったわ……桜子ちゃんの伏せカードはイベ止めれへんやろ? キャラも最初の1体は絶対止めれへんやろうし」

「【Realise】引いた? なら負けだね」

「こっち見もせずにカード当てんなや!」

「理想形で動くなら【Realise】かさっきのターンの動きのやり直しになるから僕じゃなくても当てれるよ」

「タケのそういうとこホンマムカつくわ……手札1枚伏せてからリソース2に手札の赤1で【Realise】をプレイするで。5ダメージをウチが受け、場のキャラのプレイ時効果が再発動される。反応は一応聞いとこか?」

「無いねえ……」

「今度の処理はさっきと逆やな。せやないと【0a NOT】がブレイク伸びんし。そんでまあ10点なんやけど……」

「もう1枚ファンクがあるから14まで伸びるね」

「せやな。そういう訳で【ダストファンク】をプレイ、今度は【to be too……】を除外しよか。ほんならバトルや。【0a NOT】でプレイヤーに」

「【停止したアストロラベ】に対象変更、伏せの【氷刃の鎖】も反応させるよ」

「伏せの【盲の一念】が反応や。攻撃対象が元に戻って14点でウチの勝ちやな」

 

 対戦が終わり、先輩がほっと一息ついて口を開く。

 

「おみごと。ぼくの負けだね……ここまで綺麗に対処されたのは流石に初めてだなあ」

「サキちゃん僕とやり過ぎてて下手なコントロールは纏めて轢き殺せちゃいますからね。サキちゃんはやっててなんか変な感触はあった?」

 

 僕の問いに、サキちゃんは首を傾げて答えた。

 

「特には感じへんな。ただ桜子ちゃんのデッキの回り方がおかしいのは確かに分かったわ。これは適性無しでも使えるデッキ見つけるの相当難しそうやな……」

「前途多難だね……」

 

 先輩の言葉が何故か静かになっていた室内に響く。今気付いたけどなんでこんな静かになってるんだ? 

 振り向くと、

 

「いやー良いもん見たわ。お前らの世代でAランクプロ目指すならアレ対処できないとダメだからな?」

 

 先生が飲み終わった空き缶をゴミ袋に入れ、新しい缶を開けながら部員ズに言う。

 

「ヤダ怖い……」

 

 大崎の震え声に、中戸さん以外が首肯した。

 中戸さんは強くなれそうでいいね! 

 

 ◆

 

「ほんでさっきあんたが言ってた桜子ちゃんのプレイログってそんなに凄いんか?」

「俺も見せてもらおうかな……」

「凄いよ。ほら見てよこの【光導の探索者】で山札見た時とか」

「「「うおおおおおおおお‼︎」」」

 

 先生が恐怖しているッ‼︎

 サキちゃんも恐怖しているッ‼︎

 釣られて僕もまた恐怖しているッ‼︎

 

「えっ凄……こんな固まり方出来るんやな……」

「これがいつも起こるってマジ……?俺ならPJ諦めてるわ……」

「ぼくにはこれが日常だよ。それにぼくにはやりたい夢があるからね!PJを諦める訳には行かないんだよ!」

 

 先輩が胸を張ってあっけらかんと答える。

 サキちゃんとは違い、その胸は豊かであった。

 

「メンタル強過ぎへん?桜子ちゃん」

「だから言ったじゃん僕の先輩の好きな所でメンタルって」

「これなら確かにタケが惚れ込んだのも理解出来るわ……桜子ちゃんタケの事頼むで……コイツ誰かマトモな奴が手綱握ってへんとすぐその辺の一般人の心折ってまうから……」

「任せたまえ!」

 

 先輩がフフン、と自慢げに鼻を鳴らした。

 僕らは畏敬の目で、思わず先輩を拝んだ。

 

 ◆

 

 翌朝、サキちゃんは朝イチの電車で東京に帰って行った。

 僕と先輩も普段通りの時間に起き、しっかり朝食を食べてからPJ部の皆に挨拶して帰路となり、今は駅のホームで電車が来るのを待っている。

 

「思ってたより観光できませんでしたね」

「観光よりも貴重な経験がたくさん出来たから大丈夫さ。蒲原ちゃんとの連絡先も増えたしね」

「次はシルバーウィークにでも来ましょう。今度こそ観光目的で」

「そうしようかな! その時はエスコートを頼むよ」

「勿論です」

 

 何があったのかは分からないが、一晩経ったら先輩のサキちゃんへの呼び方がさん付けからちゃん付けに変わっていた。

 

 ……僕は先輩に気付かれないようにサキちゃんに念を送った。

 




『クランプスは寝ていた。帰ってきたご主人から何故かアイスを貰えたので良い気分』
「今は翌日なんだよクランプス……」
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