あっという間に夏休み最終日。暑気は全く薄れる気配がなく、先輩の可愛さも全く留まることを知らない。
旅行から帰ってきてもお互い色々と立て込んでいたのもあり、今日は久々の『もいらい』での活動だ。
「お、タケちゃんに嬢ちゃんも久しぶり。なんか旅行ついでにやらかしたんだって? ところでこないだのCS予選前にレシピ渡した【災宴】コントロールはどうだった?」
会うなりモヒカンさんに例の動画の件を言われた。僕としては目立つのでしばらく大会に出る気がなくなる程度だからちょっと困るくらいだ。
しかし悪いことばかりではない。
サキちゃん曰く僕の被害に遭った氷川君は、サキちゃんの尽力という名の身内売り──売られたのは勿論僕だ──もあり、突然大会に現れた羆のようなものにちょっと肩を齧られた可哀想な新星として、同情の目を貰うことになりながらも今メンタル復活まで頑張っているのだという。
復活したら再戦はいつでも受け付けるから僕は楽しみにしているよ!
ともあれサキちゃんの身内売り作戦によって結構な数のPJプレイヤーへ僕の存在が認知されたらしい。流石プロ。
おそらく遠征しても僕に見当がついた人はもっと頑張って僕とPJしてくれるようになるはずだ。嬉しいね。
これ言ったらサキちゃんに「こういう時はウチにちょいキレるくらいしろや!」って怒られたけどなんでだろう。
少しの間大会出る気分にならない以外は僕にメリットでしかないのに怒る理由がないと思う。今度手の空いてる時にでも、サキちゃんと対話を試みる必要がありそうだ。
「個人でチューンしないと結構扱い辛そうですけど、アーキタイプは多分モヒカンさんのレシピの方が個々人の適性に寄せやすいから良いですね。こっちも勉強になりました」
「サンキュサンキュ、俺もあの日は親戚の法事あるの忘れてたから助かったよ」
風見と再会したCS予選の時の所感も伝えられたし、ひとまず溜まっていたタスクはいつもの試験と進級頑張るぞい! となった。
いつもの試験はなんとかなると思うんだけど進級の方がまだまだなんだよな……。来年は3年になるし、2年進級時のような先輩が回した際の各種データ他を纏めたレポート提出等では流石に無理だろう。その後に卒業試験も待ち構えているし。
「あらいらっしゃい、桜子ちゃんどう? 聖岳君とはちょっと進展した?」
「後はぼくが無事進級できるようになって時を重ねるくらいだね!」
「進級ってなるとやっぱり先輩の適性デッキを見つけられるのが一番の近道なんですよね……まあちょっと貸しとか伝手で取れる手も増えたので、2学期はもうちょっとアプローチ変えてみようかなって」
「頑張りたまえよ聖岳君。おねーさんは応援してるからバリバリ呼吸させてね」
「先輩が許すなら店長さんに呼吸させるのも吝かではありませんが……」
「ぼくは全然構わないよ!」
「先輩……あなたは天使だ……」
「桜子ちゃん……君は天使だ……」
「照れるねえ……」
頬を赤らめて照れ照れとしている先輩を、店長さんは慈しむような目で見て言う。
「聖岳君が協力してくれるまでは追い詰められてるような顔だった桜子ちゃんが、今はこんなにも自然体で居られる。ありがとうね聖岳君、きっと君のお陰だよ」
「そうかなあ……」
店長さんの言葉に、僕は先輩と関わった頃の事を思い出した。
◆
その日は雨が降っていた。
春先なのでまだ肌寒くもあり、イマイチ安定しない天気にしばしば文句を言っていた頃だ。
クラスメイトの大崎が、休み時間の雑談の途中に僕に話を振る。
「そういえば聖岳は部活どこ入るつもり? PJ強いって聞いたからやっぱPJ部?」
「かなあ……? どこでも良いんだけど、一人暮らししてるから時間拘束が短めの方が良いかな。とりあえず放課後一緒にPJ部行ってみる?」
「良いね、行こうぜ」
そんな受け答えをしながら、僕はちらりと少々変わった経歴の同級生──門倉桜子さんの方に視線を向けた。
少し眠たげな目の下には薄らと隈が浮いており、今日もいつものように──とは言ってもまだ数日だが──。メモ代わりらしいノートに何やら書き込んで首を捻っている。
「また聖岳が門倉さんの事見てる……一目惚れってやつか?」
「そういう訳じゃないと思うけど……」
「門倉さんめちゃくちゃ頭良いって話なのにPJだけ全然なのは不思議だよな」
「それな」
門倉さんはまあまあPJに力を入れている当校において、初めて学力を見込まれて入学した生徒なのだという。
しかしPJの実力は聞くところによればこの世のものとは思えないくらいに低く、それが原因で昨年は留年したらしい。PJの……それも実技試験以外は全く問題がなかったにも関わらずだ。
少しばかりPJに詳しいと自認する僕は、その点が非常に気になっていた。
「精霊が憑いてないくらいで、そこまでになるものなのか……?」
「何、門倉さんの事? 気になるなら訊ねてみたら?」
「昼休みにでも訊ねてみるよ」
「マジで訊く気の顔してんじゃん。凄いな聖岳」
凄いも何も、お互いに理解を深めなければこの謎の適性無しの事はさっぱり分からない。僕はこの頃からそう考えている。
……昼休み。相変わらず社会の授業はほんのり苦手だ。この前世の記憶がめちゃくちゃに邪魔をするただのデメリットでしかない。役立った場面も今のところない。なんだこれ原罪か? 助けて救世主。
「それじゃ訊いて来るね。ゴメン小岬さんちょっと席借りて良いかな」
「あたし昼はだいたい居ないから良いよー」
学食に向かう小岬さんの席を借りて良いか訊ねると、快諾してくれたので礼を言って移動した。
先輩は少食なのか、小柄な弁当箱を机の上に綺麗に置いた所だった。
「こんにちは門倉先輩、ちょっとお昼の間で良いので、僕の話に付き合ってくれませんか?」
「君は聖岳君だったね? 自己紹介の時にも言ったけど、ぼくは恥ずかしながら君たちと同級生だからね、先輩と呼ばなくても良いよ」
「いえ、申し訳ないんですが僕の方がなんだかむず痒いので、門倉先輩と呼ばせて貰います」
「仕方ないな……なら名字を付けずに先輩とだけ呼んでくれ。その方があだ名っぽいからね。ぼくの好みだ」
「OKです」
僕と先輩の道が交わる事になったきっかけは、この時だ。
◆
それから数日。
昼休みに先輩と話す事は、何故だか僕と先輩の日課となった。大崎達に揶揄われたものの、そういう関係って訳ではなく純粋に先輩の目標を応援したくなったのが大きい。
「聖岳君は飽きたりしないのかい? ぼくはPJのあるある話みたいな鉄板の話題は持っていないんだけど……」
「楽しいですよ。先輩が調べてる適性無しの場合はデッキに何が起こるかって話とか。精霊が憑いてないにしてもここまでのは初めてです」
「聖岳君はめちゃくちゃPJ強いもんね……僕からすれば羨ましいよ」
先輩が元気のない笑みを浮かべて言う。その表情がなんとなく嫌に感じたのは気のせいだったろうか? 今ではわからない。
「僕はマッチに手を抜けないので……やれる事を全部やると大抵勝ってるだけです。それでもたまに負ける事はありますしね」
「参考までに訊いてみても良いかい?」
「じゃあ今日は僕がどういう盤面を見ているかの話でもしましょうか。これ気づけたのは中学入って友達に指摘されてからだったんですけど……」
僕は先輩と話した。話しかけてから2週間が経ち、放課後も話し合うようになり──時折議論となった。
土曜日に待ち合わせて、近くの飲食店で日が暮れる頃まで討論をしたりと僕と先輩が一緒に居る時間が加速度的に伸びていく。この頃には大崎達もすっかり慣れて何も言わないようになっていた。
最初に話してから1月と半分──ゴールデンウィークが明けた頃、担任の葉山先生からある種のクレームめいた注意が飛んできた。
「お前ら流石に……部活の申請書を出せ……!」
「「あっ」」
僕と先輩はすっかりその事を忘れていたのである。僕は一度見学に行ったPJ部辺りで良いかなとなるが、おそらく入れないであろう……元PJ部の先輩はどうしたものかと思う。
先輩と話すのは楽しい。
この時間が削られるのには、後の環境に慣れるまで結構なストレスを感じそうだな、と思っていたほどだ。
後に聞いた話では、その時の先輩も似たような物だったらしく、僕らは目を見合わせていた。
葉山先生がそんなぽんこつロボットさながらとなった僕らを眺めながら、ため息を吐いてから口にする。
「なんならお前らで同好会でも作るか? PJ部顧問としては聖岳は惜しいが、門倉が一度PJ部を退部してるからな……出戻りって訳にも行かんだろ。それなら同好会でも作って存分に話し合っとけ。あと聖岳は出来れば門倉にPJを指南してやれ」
「先生良いんですかそれ。職務怠慢というやつなのでは?」
「ほとんど毎日のようにPJに関して同級生が付いてけないレベルの話してたら分かるわ! これでも元プロなんだぞ!」
「元プロなのに僕に降参したんですか先生」
「うっかり手が出そうだ。それ以上その事について言うのはやめてくれ。消化するのにまだ時間がかかるんだ」
葉山先生はメンタル面がネックでプロ引退したのかな? 結構ニュースで見る話だ。
「申し訳ない葉山先生、ぼくらは楽しくてつい……」
先輩が頭を掻きながら言った。僕らは思っていたより目立っていたらしい。
「同好会……名前は何にしようかな」
「先輩PJ以外はボードゲーム得意ですし……卓上遊戯同好会で良いんじゃないですか?」
「ヨシじゃあ卓上遊戯同好会で決定! 部室は特にないからどっか外で活動しとけ! 以上!」
「強制的に決めるのはどうなんですか先生!」
「〆切をとっくに過ぎてるんだよ……!」
これは悪い事をした……僕らは先生にペコペコ頭を下げつつ、その場を去った。
そうして帰りを同道し、考える。
「活動場所はどうしましょうか……」
「決まった場所の方がいいよねえ……」
なんなら主目的を考えると、カードショップの方が都合が良い。スマホの地図アプリを起動し、近隣のカードショップを検索。その中からチェーン店を外していくと残るのは僅かな物。その上で駅から近いお店を探していくと、残ったのは一件。
それが『もいらい』だった。
「先輩『もいらい』ってお店分かります?」
「ぼくがよくお世話になってる個人ショップだね。程よくお客が寄ってて良いお店だよ! それと店員のモヒカンさんがPJ強いみたいだ。僕も去年相談に乗ってもらった事が結構ある」
「そこにしましょう」
「決めるのが早いね!?」
「これは僕の持論なんですが、普段からインパクトある外見だったり髪型だったりする人はPJ強いんですよ。モヒカンさんと呼ばれるともなれば本当に強そうです」
それには偏見があると言われそうだが少なくとも強い人って最低限派手目な髪色とかしてるからな……。
「言われてみればテレビに出るようなプレイヤーの人は、大抵印象に残る見た目をしている気がするね……。でもそれだと聖岳君が外れ値になるんじゃないかい?」
「僕はその……ファッション全然なので……」
「そういうのはそのうち教えてあげよう」
「助かります」
「それじゃあ『もいらい』まで案内するよ!」
10分後。
「今日が店休日なのを忘れていたねえ……!」
そんな訳で案内された『もいらい』の店先には、無情にも『本日休業』の看板が吊られていた。
しかし店内には灯りがついている。
「誰も居ないって訳じゃなさそうですね」
「多分モヒカンさんが中で作業してるんじゃないかな……うん?」
先輩と話していると、店内から足音が聞こえて誰かが出て来る。
確かに先輩が言う通りモヒカンだった。作業エプロン姿の。
なんかシュールだな……。
「店先に人影が見えたから何かと思ったら……どうしたんだ嬢ちゃん、今日は休みだぞ?」
「モヒカンさん!」
「本当はよくないが……知った顔だしな。ちょっとお茶くらいは飲んでいけ。そっちのボウズもな」
「感謝だよモヒカンさん」
「ありがとうございます……? 店員さんの名前は? 僕は聖岳と言います。先輩のクラスメイトで関係は……友達? かな?」
「友達だね!」
「聖岳君ね……。俺の事はモヒカンで良い。気に入ってるからな」
あだ名みたいな物なのかな。
僕らはモヒカンさんの厚意で『もいらい』に入らせてもらった。
よく整頓された店内はちょっと暗いが、お茶を頂くには特に問題なさそうな程度だ。
モヒカンさんが、樹脂製のコップにお茶を注ぎ終えて言った。
「そんで嬢ちゃんが来たって事はそこの聖岳君と何かあったんだろ? 大抵何かあるとウチに来てたしな」
「聖岳君はぼくの夢に協力してくれるそうなんだ!」
「そりゃめでたい。応援するぜ。それで聖岳君は……嬢ちゃんに一目惚れか?」
「そういう訳じゃないですけど僕にもちょっとした夢がありまして……先輩の夢が僕の夢と似ていたのでほっとけないんですよね」
僕の言葉に、ふぅん、とモヒカンさんが鼻を鳴らした。
「俺にゃあそうは見えんがね……。ま、嬢ちゃんに協力してくれる友人が出来たのは良い事だ。それで話は変わるんだが、
モヒカンさんにいきなりマッチに誘われた。
地元じゃないし僕の事知ってる人が居るとは考えにくいんだけど、もしかして昔地元の大会とかでやった事があったりするやつか? それともこの世界で割と見る人となりの判断に対戦する方か?
でもこの人僕の下の名前知ってるし前者かも。
「もしかして昔対戦した事があったりしましたか? 申し訳ないです僕はモヒカンさんの事を覚えてないので……それと対戦は大丈夫ですよ。デッキもあります」
一応ノーレギュ構築もいつも鞄に入っている。使う事は早々無いけれど。
「いや? やった事はないが、ちょっと知り合いに君の事を聞いててな……そんな子が本当に居るのかって気にはなってたんだよ。あとはまあ、俺の個人的なもんだな……好奇心って奴だ」
「聖岳君は有名なプレイヤーなのかい?」
「地元ならともかくこっちで名前知られてるのかはわかんないですね……」
「特定の層に有名って感じだな。こっちにスペースがある。着いてきてくれ。本来なら飲食は制限してるが、今回は持って来ても良いぞ」
「僕は今飲み干すので問題ないです」
「ぼくは持っていかせてもらうよ」
パチン、とスイッチの音を立てて、対戦スペースの一角が明かりに照らされる。
僕が座った対面の椅子にどかっと座り、モヒカンさんが言った。
「それじゃ、一戦よろしくな」
「こちらこそ対戦よろしくお願いします」
◆
対戦を始めて10分ほどが経った。
先輩が横から見ながらよく動いている。気持ちがボディランゲージに出やすい性質みたいだ。
「いや本当に強いな……想定を遥かに超えてる。俺のターン」
早々にお互いのリソースは10に到達していた。僕は手札6場2伏せ4、相手は手札6場1伏せ5。ライフは双方満タンの25だ。
お互いにキーが揃い切っている訳ではないからか、少々膠着している。
というか揃い切ったらどっちかが負ける。お互いにそういうデッキだからね。
しかしやっぱりモヒカンさんは僕の予想通り強い! これはプレミすると負けてしまうかもしれない。楽しいね。
「ドローまで、反応は?」
「1リソースで伏せの【収奪】を反応させます。そちらの手札から自分で選んで貰って1枚ダストへ。僕は1枚引きます」
「了解だ。【神殺のサジット】をダストに置き、スタンバイに入る。7リソースで【紅のローラン】をプレイ。反応はあるか?」
「無いですね」
「了解了解……手札1枚で起動効果を使用し、そっちの伏せ札をダストに送るぜ……これかな」
「落ちたのは【タイムオーバー】。相手の効果でダストボックスに落ちた際も効果が発動し、フェイズを次の段階に進めます。バトルフェイズに入ります」
守りに便利な札が落とされる。落とされても効果が反応するのは良いところだ。
「了解、【紅のローラン】でバトルに入る。対象はプレイヤー、チャンスフェイズ時にトップ公開、【フォルトゥナの凍星】を手札に加える。対象変更や反応はあるか?」
「対象変更は僕の【スクリーマー】で。更にリソース1と手札の黒1を支払って伏せの【幽谷の祭】を反応、これに反応は?」
「【幽谷の祭】に伏せの【昇華】を反応、手札を1枚捨てて打ち消すぜ。反応どうぞ」
「無いですね」
おっとモヒカンさんはフィニッシュカードを引き込んだようだ。これは攻防がもっと激しくなるかな。
モヒカンさんは推定コントロール適性としては僕がやった中でも三指に入るくらい強そうだ。プレイヤーとしての強さなら僕の友達が常にノってるくらいかな?
世間一般の基準としてはとても強いくらいだ。自然と姿勢が正される。
彼が何者なのかは気になる所だが、今はそれよりもこの対戦を楽しみたい。
「【紅のローラン】がバトル、こっちの方がパワーが高いので残るんだが……」
「【スクリーマー】は『道連れ』*1を持っているのでお互いにダストへ」
「だな。しかしバトルには勝ってるので効果が発動する」
「ダストのチャンス設置ですよね」
「やっぱり知ってるか。伏せるのはまあ【昇華】だな……」
「うーんこの感触だと相当硬そう」
「そりゃあこっちも言いたい言葉だな。ここはエンドだ」
「ターン貰いますね」
堅い動きだ。この感触なら相当場数踏んでそうだし相手にキーカードがまた一つ渡った。
僕のデッキがハンデス*2札を積んであるデッキで助かった。そうじゃなきゃここまでは止めきれていないだろう。
「2人とも相手のデッキを理解して動いてる感じなのかな?」
「そういや嬢ちゃんだと経験上馴染みが薄いか? そうだな。相手のデッキは分かってる」
特にノーリミットレギュにおいて知識と経験は宝だと言える。
スタンダードよりも遥かに広いカードプールやテーマ、デッキアーキタイプが跋扈するこの世の終わりとまで言われたりする環境だからだ。しかしこのレギュばっかりは流石にPJを触っていた年数もかなり効いてくる。
知識として知っているよりは、実際に触って使っていたプレイヤーの方が有利になりやすい。なのでノーリミットは他に比べ、社会人が特に多いレギュレーションとなっている。
「王手がどの段階で来るのかをお互い理解してるんで、それをどうにかする為の攻防が続いてる感じになりますね。3ターン目くらいからその側面が加速したかな」
3ターン目で僕がピーピングハンデスを使える段階に入り、一気にアクセルが踏まれた。
モヒカンさん側がバレたなって判断して動くプランを変えたからだ。
「ぼくには体感出来ないけれど、時折ビートダウンよりもコントロールの方が展開が早いなんて言われる理由が掴めた気がするよ」
「教材としては豪華過ぎるくらいだな。このレベルの対戦を目の前で見れる事は中々無いから嬢ちゃんはラッキーだぜ?」
基本ルールの構造上ビートダウン優位になっているPJで、僕やモヒカンさんレベルのコントロール適性者同士がやり合う事は珍しいと言える。
プロも割とビートダウンが多いしね。全体の割合で言ったらビート6コントロール4くらいだから異様に健全だけど。
「僕はモヒカンさんとやれて嬉しいですよ。強いし」
「その歳でさして顔色も変えずに対応してるのには俺が自信無くしそうだがな……さてちょっと止まっちまったな。ターンの続きどうぞ」
ちょっとした雑談から話が弾んでしばしプレイが止まってしまうのもフリー対戦の醍醐味の一つではあるが、モヒカンさんの言う通りだ。ターンを始めよう。
「僕のターン、スタンバイからドローまで、伏せの反応はありますか?」
「ドローフェイズに手札を1枚捨てて【袋小路】を反応、今引いたカードを除外してくれ」
「こっちは反応無いので処理しますね。送られたのは【時の彼方へ】」
キーカードが1枚飛ばされた。もう2枚積んであるから王手に問題は無いけど、はっきりとした形で僕の方もフィニッシュカードが見えた形だ。
これはここから2〜3ターンくらいが勝負所かな。
「時折除外積んでたしやっぱそのデッキだよな……こっちのだとそれ防ぎにくいからどうしたもんかな」
「祈れば良いのでは?」
僕は嘯いた。
モヒカンさんは鼻で笑って答える。
「祈って勝てるなら、今頃プロは信心深い奴しか残ってないだろうな」
「祈りが効くならぼくがPJやる時もマシになったろうねえ……」
先輩も釣られて答えた。
「いいですね、両方とも好きな答えです。リソース2で【預言の虜囚】をプレイ、カード名を宣言し、そのカードのプレイを次の相手のターン終わりまで無効とします。僕が宣言するのは【昇華】。反応はしますか?」
「する。伏せの【光明】を反応で打ち消しだ」
うーんこの感触だと【昇華】以外にもう一枚打ち消しが埋めてあるかな……。
「OKです……ではリソース4で【チャンスタイム】をプレイ。自分の伏せ札が相手の伏せ札より少ないのなら同数になるまで山札の中から伏せる事が出来ます。反応はありますか?」
「【昇華】で打ち消しだ。手札を1枚捨てる」
「OKです。リソース3と手札の黒2で【知恵貪り】をプレイ。そっちの手札を見て3枚まで選び捨てさせます。これに反応は?」
「伏せの【魔力花火】を反応、1ダメージ受けて打ち消す」
感じていたモヒカンさんの挙動に変化がある。やっと埋まってそうな打ち消し札を削りきれたかな? 慢心は出来ないけれど。
「OKです。それじゃバトルに入って【フォーマルハウト】で【封神のハラバル】に攻撃、反応はあります?」
「無いな」
「ではチャンスステップにトップ公開、【時の彼方へ】を手札に。更にバトルで【フォーマルハウト】が勝った為、そちらの手札を見て1枚捨てさせます。これだと【アシャーの火】かな。エンドです」
今の状況だと詰め札に【フォルトゥナの凍星】はまだ捨てなくても問題ない。それよりもドローソースになるアシャーの方がよっぽど撃たれたくない。さっき頑張って傾けた天秤が数ターン分巻き戻るかもしれないからね。
「流石にハラバルが飛ばされたのは痛いな……俺のターン、スタンバイからドロー、反応は?」
「無いですね」
「侘しい手札だぜ……8リソースで【光芒の使徒 クーパー】をプレイ。効果で相手のキャラを1枚ダストに送り、そのコスト分のダメージを与えるんだが……」
「反応無しで。【フォーマルハウト】が場からダストに送られた時、除外されます」
「だよな。バトルに入るぞ、【光芒の使徒 クーパー】でプレイヤーに攻撃、効果で回復する。チャンスステップで【昇華】を手札に加える。これは、遅かったか……もう一度攻撃、チャンスステップに入る……」
撃つべきはここかな。
「反応あります。リソース1を支払い伏せの【知恵のイデア】をプレイ、僕はダストボックスから7枚まで選んでカードを除外し、除外した枚数分ドローする。ところでモヒカンさんはダストボックスの枚数は何枚ですか?」
「30枚だな……そのデッキ使ってるなら死の呪文じゃねえかよ」
「はい。ご存じですね? 僕は34枚なので4枚選んで除外し、その分ドローしますね。では続きお願いします」
「これは流石に負けたな……【幼体クラッグス】を手札に。終了だ」
「モヒカンさんも負けちゃう事があるのか……」
先輩が珍しい物見たなって顔で言う。多分この人ここら一帯だとトップクラスに強いんじゃない?
それはそれとして。
勝ちました(事前申告)。
「僕のターン、スタンバイからドローまで。反応はありますか?」
「ある。【袋小路】をプレイだ」
「では今引いた札を除外します。送られたのは【歴史喰らいのホワイダニット】です」
「ここでそれか……これは無理だな……」
「続けますね。1リソースと手札の青1枚で【水底のファムファタル】をプレイ。プレイ時効果で手札1枚とこのカードを除外し、相手のキャラ1枚を選びダストボックスに送ります。ファムファタルは次のターンに除外ゾーンにある時帰ってきますね。【光芒の使徒 クーパー】をダストに。続けますね。お互いのダストボックスの枚数が同じである為、9リソースと手札の黒1枚を支払い、【時の彼方へ】をプレイ。全てのプレイヤーは除外ゾーンのカードを全て山札に戻し、ダストボックスのカードを除外ゾーンに置きます。それとこのカードも除外します。キャラが居ない為バトルは飛ばしてターンエンドです」
「ターンが帰って来たが……、すまん、降参だ。ここまでフィニッシャーやらキーパーツを根こそぎ除外に飛ばし切られると勝ち筋が残ってない。対戦ありがとう。良いマッチが出来た」
「対戦ありがとうございました。また別の機会にフリー対戦お願いできます?」
「客が少ない時なら喜んで」
モヒカンさんと握手する。良い人だ。
ギリギリの対戦だったし……めちゃくちゃ楽しかった。あと1ターンズレてたら僕が負けてただろう。
「そういえば、ノーリミットだったのは何か意味が? やった感じAプロも余裕でやれそうな腕してますけど」
「単に俺の適性が融通利きにくいから十全に扱えて持ってるデッキがノーリミットレギュだけでな。それが原因でプロは目指さなかったんだが……ま、この辺はまた別の機会にでも話そう。俺も仕事があるしな……このままマッチに勤しんでたら店長に文句言われちまうよ」
「それもそうですね……また今度はお店が開いてる日に来ますね!」
「また明日ねモヒカンさん」
「おうまた明日な」
そうして僕らはちょっとした事を挟みつつ帰路に就き、翌日ちょっとぎこちない先輩を連れて事情を話した所快諾されたのである。
この時のモヒカンさんとのマッチはめちゃくちゃ楽しかったので、それから時折機を見計らってフリー対戦を申し込んでいる。本名は未だに不明だが。
◆
「いや違うよ店長さん」
先輩の声にふっと意識が今へと戻った。
楽しかったマッチの記憶は特に鮮明だ。この記憶力が少しは学校での勉強の方にも役立って欲しい。
PJのカードプールとかの記憶? あれは娯楽兼趣味なので覚えちゃうんだ。
「『もいらい』がなければ今のぼくたちもきっと無いから、お互い様さ!」
「という訳で今日もアストレアのパックと……うぉっ……前から欲しいって言ってたのとうとう手に入ったんですか」
僕は流石に目を瞠った。
特に貴重だったり高額だったりする物を置いているレジ内のショーケースで、クソデカい非売品の札と共に珍品が飾られていた。
非売品の札がデカ過ぎる。横に並べるスペースギチギチじゃん。
「そうなんだよ〜! 北海道の端っこの方にある私の親戚筋らしい古ーい個人店が廃業するって聞いたからさ、仕分け手伝いに行ったらなんとストレージに埋まっててさあ!」
この人とんでもねえ豪運してんな。先輩の手札より怖いんだけど。
「相場の半額くらいで譲ってもらえちゃってもうその場で小躍りしちゃったね!」
PJ最初期にデザインされたという【ジェネシス】テーマのコモンカードの1枚、【ワイズマン】。
ボロくてもアレ1枚でうん十万するって信じられないよね。コモンカードなのに。
トップレアともなれば億単位が付くとか聞いた事もあるが、そこまで行くと出回らなくなるので時折フェイクニュースがSNSで流れてきたりするくらいだ。
「店長さんこの店なる早で警備システム更新した方が良いですよ」
「大丈夫大丈夫! ウチはモヒ君が居るからね!」
店長の能天気そうな声がレジ周辺に響いた。
「だから店長それショーケースじゃなくて金庫に入れた方が良いですって……」
モヒカンさんの言う通りマジで金庫の中の方が良いと思いますよそれ。遠目で見ても美品だし、3桁万入ってさあどうぞな感じするから流血沙汰ならぬマッチ沙汰になりかねん代物なので……。
「ちょっと遠いから効果がよく見えないねえ……」
「先輩、スマホで調べましょ?」
「ぼくらには文明の利器があったんだったね! ……聖岳君、何故僕の頭を撫でるんだい?」
それは先輩が可愛いからに決まっている。
そのまま健やかに成長して試験突破しましょうね。