今回は対戦ないです。
目下の強敵であった中間試験が終わった。
先輩の適性が合うデッキは未だに判明していないが、他よりはマシだろうという事で構成される各カードが相互に作用するタイプのサーチビートダウンを組んで臨む事となった。常に一手以上遅れ続けるが、まるで動けないよりは良いだろう。という判断による物だ。
それに進級試験の際とは違い、通常の試験では各生徒の回し方に無駄が無いかやデッキ構成時に意図した動きが出来ているかを重視する。1年の頃に学んだこの採点形式を考えるに、先輩のクソザコ引きでもなんとか突破は出来る。はずだ。
僕と会う前に留年した大きな要因は、3学期の期末で先輩の実技のダメダメさを知りつつも、他の部分の優秀さから3学期の中間まではずっと擁護していた葉山先生ですらそれでもちょっと……って言葉を噤んだレベルの大事故を起こしたらしいのと、それにより進級試験というラスボスに門前払いを受けてしまったからである。
2年への進級をあの手この手で乗り越える事に成功はしたが、ギリギリと言うか葉山先生から「3年への進級はこれよりも良い結果を出すように」とも言われたので、全く油断はできない。
しかし今回は試験後の先輩の反応もあり、これは勝ったなと思っていた。
思っていたのだ。
帰りのHR、葉山先生が毎度の如くやる気のなさそうな風体で教室にやって来て、覇気のない声で口を開いた。
「今日は実技試験で再試になった者を伝えなきゃならん……呼ばれた奴は放課後マッチルームまで来るように。まず大崎」
「俺!?」
「お前は今年からPJ部レギュラーだからやり直し」
「マジか……」
妥当な理由である。多分試験中のプレイングを手癖でやってアウト食らったんだろうな。
先輩はおそらく大丈夫だろう。
「これまでにない手応えを感じたよ!」
とか
「聖岳君との頑張りが実を結んだね!」
とか言ってたし。めちゃくちゃ可愛かった。思わずハグしちゃったくらいだ。
「門倉」
「せ……先輩ッッッ!」
なっ……なんで………………。
先輩の方を見れば、古い格ゲーの敗北絵みたいな表情をして呆然としていた。
「うるせえぞ聖岳。試験中は良い感じだったが、リーサル見逃しが起きてたので再試だ」
それなら……悔しいけど仕方ないね……。
「金目も大崎と同じ理由で再試だ。小岬も同様だな」
ウチの学年のPJ部レギュラー陣は全員再試かなこれは。
金目さんは感覚派だからプール把握とか難航してるそうだ。
「この流れだと中戸も呼ばれると思っているかもしれないが、中戸は大丈夫だ。特に文句なし」
緊張した面持ちだった中戸さんはホッと胸を撫で下ろしていた。
「そして聖岳」
「先生の私怨入ってません?」
なぜ僕が再試になるのか。
ちゃんとプレイしたし試験官にも勝ったのに。
「1ミリとて入ってない。理由だが……試験にワンショットデッキ*1持ち込んでんじゃねえよ!!!」
先生が普段よりドスの利いた声で僕を叱った。
試験前日に思い付いて組んでみたら出来ちゃったからと持って行くのはやっぱりよくないらしい。
でも一つだけ言わせてほしい。
「ちゃんとスタンダードレギュで組みましたよ?」
「そういう意味じゃねえよ!!! もうちょい抑えたデッキ使えって言ってんだよ! お前と当たった試験官が宇宙猫になってて使い物にならねえからわざわざプレイログ確認して何あったか調べたんだぞ! ……という訳でデッキ変えてやり直し。次はちゃんとしたデッキを使え。嫌ならこっちからデッキ指定してやろうか? それと今度からお前の試験官は俺固定になる。俺の業務を増やしやがって……!」
「最新のメタテーマデッキだと【ハートビート】と【クインクス】以外なら一応回せはしますけど……」
「なら【クインクス】な。あれなら近山が持ってるから借りに行け」
鬼かな?
「鬼かな?」
「内心が漏れてんぞオイ」
僕は今から、入学以来最も辛い実技試験をやる羽目になるのかもしれない。
◆
そんな訳で普段放課後は実質PJ部の部室となるマッチルームまで、先輩や大崎達と一緒にやって来たのである。
中戸さんは「今日ホームのショップで夕方タイムセールあるんで部活休みます!」と走って行った。もしかして緊張した表情だったのはそれか?
マッチルームでは横のスペース部分でレギュラーを目指して検討している部員や、実際にマッチして回り方を確かめている組も居る。
この中の何人かは実際にレギュラーの座に登るのだろう。どれくらい残れるのかはその人次第だけど。
「うわ今日は葉山センセが普通に監督する気だ!」
「あたし傘持って来てないよ……!」
「こんな日に限って折り畳み傘を忘れている俺はゴミだよ……何もできないゴミだ……」
「俺は持ってる」
「賭けてもらう……その傘を……!」
葉山先生もうちょっと普通に監督業務した方がいいんじゃない? 教職兼任だから忙しいんだとは思うけど……。
あと今日は結構和気藹々としている。これは結構珍しい。全国大会も割と近いのにこの雰囲気なのは何かあったのかな?
と思っていたら、先輩も同様の事を考えていたらしい。
「ぼくが所属させて貰ってた頃よりも全体的に仲良さそうな雰囲気だね?」
「近山先輩が部長になってからゆるーくなったよ。
「そういえば巳蔵君はかなり必死だったねえ……結果は芳しくなかったみたいだけど……」
巳蔵部長……なんか覚えのある名前だ。昔マッチしたっけ?
「巳蔵……巳蔵……もしかして『道連れ』ビートダウン使ってて高校入った頃見学した時にマッチしてくれた人?」
やってたなそういえば。先日の氷川君みたいに適性のあるカードばっかり採用してたからデッキのバランスが崩れてた人だったはずだ。
【夢想楽土】はデッキ性質と理想の動き的に噛み合うから回せちゃうんだけどあの人のデッキは回せないタイプだったなあ。
「タケちゃんがスッと勝ってからいつも通り助言して、その後ウキウキで他の人にマッチお願いしてたなあの時。俺あれ見ててタケちゃんにPJ挑まんとこ……ってなったぞ」
「まあ、過ぎたことはいいよ。大崎も僕とやる?」
現状横で見た事くらいしかないから今でも直すべきところは言えるけど、助言の精度は上げたいんだよね。
「俺の話聞いててそれ聞くのおかしくない!? どういう情緒してんの!? 俺PJ部に入ってから巳蔵部長がマッチする時毎回ちょっと震えてから始めてたの見てるんだけど!?」
もしかしたら武者震いかもしれないだろ! *2
「復帰出来たら強くなれるから大丈夫だよ?」
結構な確率で見た事ない動きを確認出来て強くもなれるからメリットしかないと思う。
でもレギュラーの皆は全然挑んでくれないんだよね……中戸さんくらいか? ちょこちょこマッチしてくれるの。
良い人だ。
「聖岳君ってもしかしてあたし達のメンタルが形状記憶合金か何かで出来てると思ってたりする?」
金目さんがジトっとした目で僕を見てぼやく。
「ほら、合宿で皆プロ目指してるって聞いたし……負けても平気かなって」
「メンタルがやられる原因はそっちじゃないよ!?」
「聖岳君のこの辺の感覚は真摯ではあるけどもちょっとズレてるからねえ……」
雑談しつつ僕らが近山部長の姿を探すと、彼は奥の方の休憩スペースで何やら頭を悩ませていた。デッキ調整かな?
とりあえずデッキ貸してもらえるかお願いしなきゃだ。
「すみません近山部長、ちょっとお願いが……」
「あれ、聖岳君じゃん。何かあった?」
「ちょっと僕ら実技再試になっちゃいまして……」
後ろについて来てる皆を指しつつ答えた。
「大崎とかはまだ分かるけど聖岳君も?」
「僕は単にデッキの選択ミスですね。それで僕だけ葉山先生にデッキ指定されたんですけども、指定されたのが適性低めの【クインクス】だったので組んでないんですよね……」
僕とは相性が悪いから、動きは知ってるし扱える形にして組めるけど別に組むほどでもないポジションにある。
「ああ俺が貸したらいい感じ? 良いよ予選の恩もあるし。ついでに頼みがあるんだけど……」
「予選はむしろめちゃくちゃ警戒されそうなんであんまり恩じゃないと思いますが……僕にできる事なら聞きますよ」
実際中学時代のサキちゃんが、基本大将の枠に据えられていた僕を警戒しては何度もハシゴを外されている。僕が別の用事で休場したり出るつもりでも運悪く病欠になったりしてたから。
よく代打になってくれた風見には感謝するばかりだ。
「ありがたい……というか適性外でも使えるの?」
「今広げてるのは多分近山部長の【クインクス】ですよね? これくらいならまあちょっと手持ちのデッキからカード入れ替えれば扱えない事もないですね。【ハートビート】は無理ですが」
適性高めのカードで相性の悪いカードを押さえ込むのは、プロシーンにおける銀弾戦術としてよく使われる構築方法だ。
例としてサキちゃんだと今はまだ苦手だが、多分そのうち克服するだろう。
「……どうやるか見せて貰っても良い?」
「この構築だと……【必滅のバラージ】と【大粘波】と【必然的増殖】を入れ替えればまあ……」
「なら大丈夫……? なのか? それで頼みの方なんだけど、俺が全国本戦見るならここから変えれそうな枠ってあるかな?」
僕なら先述した銀弾で適度に目眩ししつつ進行するけど、近山部長だとまだやめた方が良いかな。普通にちょっと対応幅増やす方にしよう。
「んー合宿の時のフリプの感触だと……多分近山部長だと【大粘波】は合ってないと思います。【クインクス】が適性高めで使えるならウィニー系全般に適性あるでしょうし、詰め札増やすとかで良いと思いますが……苦手な状況ってあります?」
「硬い大型キャラが出てくるとちょっとやり難いかな……」
ウィニーだし詰めの段階でもなければステータスはあんまり高くならないもんね……永遠の悩みだ。
「なら【感染爆発】でも入れてみます? 処理しやすくなりますよ」
「アレ俺と相性良くないんだけど扱えるもん?」
「コストも詰め札の【オールフォーワン】と1しか差がないですから事故っても対処出来ると思いますよ? でもそれなら詰め札サーチの枚数もう1枚増やした方が良さそうですね……どっちか見せて引っ張れば相手に選択肢で悩ませやすくもなるので」
ちょっとの疑念は案外大きな隙になる。この【クインクス】であれば詰め札が既に手札にあるって疑念だ。そこから伝播して従来のテンポから崩れてもヨシ、相手が詰めの準備用に握るべきだった札を焦って切ってしまってもヨシだ。
「なるほど、試してみるよ。それじゃ、この【クインクス】は再試終わったら返してね」
「勿論です」
やっぱ苦手でもメタデッキは全部組んどいた方が良いかもしれないな……研究も出来るし……。
◆
近山さんとのちょっとしたやり取りはあったが、無事に再試が始まった。まずは大崎からだな。
本試験であれば色々な先生が試験官として担当するが、再試は基本的に葉山先生が担当となる。
その方が合否判定も早いし試験中の判定もより正確になるからだ。
喫煙を呼吸と呼ばれたりする頻度のヘビースモーカーだったりとちょっとダメな部分もある人ではあるが、ことPJにおいて葉山先生は優しくない。いやでも他の先生相手だと伝わらない部分で加点してくれたりもするからむしろ優しいかもしれない。
なんで道明学園じゃなくてウチ来たんだろこの人……あっちでも全然監督やれそうだけどな……。
そんな事を考えていたら、先輩とは正反対の隣に座っていた金目さんが、大崎のマッチ模様を見ながら僕に言う。
「大崎もセンス良いのにね……」
「小岬さんもだけど、ビートダウン得意で感覚先行だとどうしても理論的な部分は後回しになっちゃうから手癖で回す悪癖が付きやすいんだよね……」
「適性で付く悪癖ってあるのかい?」
先輩が不思議そうに言う。確かにこれ先輩だとちょっと分かりにくい奴だな。
「そうですね、ビートダウン適性はさっき言ったやつとか、感性的な部分が突出して伸びるので高精度に相手の伏せ札や手札を読むのはどうしても後から伸びる形になるって言われてます。コントロール適性の人は悪癖でも無いんですけど選手寿命が短くなりやすいって言われてますね」
「私は中戸ちゃんみたくキッチリ将来設計出来てないからさ〜、でもなるべく長くプロでやっていきたいよね〜」
中戸さんは既に自分が無理なくやれる階級のプロから引退後に監督とかコーチとか指導役に就任まで人生設計してる豪の者である。
僕の見立てだといぶし銀な強さのプロになれそうなので勿体無いな……と思ったくらいなので見立て上で分かっている上限の低さは惜しい。
才能だけなら葉山先生の正統後継者になれそうな気配がしている。
「ああなるほど、コントロール適性だと考え過ぎちゃうのか……」
「先輩も多分コントロール適性ではあると思うので適性デッキ見つかったら考え過ぎるようになると思いますよ」
「ぼくはそうならないように気をつけるとするよ!」
「桜子ちゃんそれは……取らぬ狸の……ってやつじゃない?」
「ぐぬぬ……!」
「先輩、どうどう」
先輩の唸り声はいずれ万病に効く。
とはいえ、実際目下の強敵である進級試験の目処は全然立っていない。
「桜子ちゃんも適性わかると良いんだけどね〜」
「触れる限りで僕らが生まれてからのテーマ試してみたけど全然なんですよね……」
「て事はもっと昔……? でもその時代になると手に入れるのも手間掛かるか大変になるかだよね……」
「あと進級試験ってスタンダードレギュなので……」
「死っ……!」
「これで【ジェネシス】が適性テーマだったとかなったらえらい事ですよ」
石油王じゃないと組めないぞあんなの。仮にそこ突破できても今度は流通の問題で詰みそうだ。
どうかそうではなくていてくれ。
「流石に【ジェネシス】は適性合ってても使う気にはなれないね……」
「あたしも嫌だな〜【ジェネシス】握るのは。適性あったとしても病みそう」
そりゃ分厚い札束握ってるような物だからね!
あ、大崎の再試終わったかな?
先生が喫煙所の方にフラフラ向かったので合ってそうだ。
「次先輩ですね、頑張ってきてください。手札には気を払って!」
「勿論さぁ!」
葉山先生が戻って来るのに合わせて先輩がとっとこ配置に就く。
でもあのデッキってちゃんと出すカード間違えないなら、いくら先輩でもちゃんと合格は貰えるくらいに組んであるはずなんだけどなぁ……。
そう考えていると先輩と入れ替わりに、大崎が戻って来た。
「お疲れ、再試は行けそう?」
「あ〜疲れた……。多分行けると思うけど手癖って言われても分かんないんだよな……」
「僕から言えるのは今のメインデッキより他の適性デッキを意識的に使った方がいいよくらいだね……」
マジでその悪癖直さないと次のレギュ変更で地獄見そうだぞ。
「外から見てて俺のプレイの改善点ってあった?」
「除外に飛ばすカードが多すぎるからもうちょっとライフに適切な量にしろ、除外に送る札はあと6枚くらい削っても問題なさそう、あと君の精霊の猫ちゃんは適性的にビート向けだけど、今のメインデッキは本来合ってないからにんげんはおろか……って思ってるんじゃないかな……」
精霊も千差万別なので会話できたりできなかったりするが、大崎に憑く精霊はできない側である。
メインデッキ以外使ってると露骨に機嫌良いからなあの猫ちゃん……。
今は大抵にんげんよ……って感じの顔してる。
「めっちゃ言うじゃん!」
「これでも大崎とはマッチしてないから甘めだよ。とりあえず悪癖は無くそう?」
「頑張らないと……」
「がむしゃらにやるよりはもうちょっと倫理観……おっと違った冷静さを持ってプレイしようね」
「倫理観ないのはタケちゃんじゃん!」
「まー中堅やるなら大崎にはもうちょっと安定した戦績になって欲しいよね。もしくはちゃんと担当してるポジションベースでの相手のデッキ傾向覚えて欲しいよね」
金目さんも言う時は言う。ぼくは覚えた。
「ウッスごめん……」
「先輩の方は……まあちょっと遅いくらいだからいけるかな……?」
「あー確かに調子悪い時のビートって感じだな……でも適性無しであんだけ回せるならアレで良いんじゃないか?」
「大崎、それならあの手札で詰めまで持って行けるのはここから何ターンくらい掛かると思う?」
「あれ確か【要塞都市】軸のデッキだよな……今場に2体居るしこっからだと5ターンくらいじゃないのか?」
「僕の見た感じだと多分8ターンくらいかかるよアレ」
僕の言葉に、大崎が困惑した表情で返した。
「ここから8ターン掛かったら負けでは……? いや試験だから勝ち負けはそんなに関係ないけどよ……えっそこでそれ引くんだ……」
「あのレベルに完成してるサーチビートでも常に後手になるくらいの超常現象が起きるのが先輩なんだ……」
「怖いよ〜!」
それでも心は折れないの凄いよね。
しかしこうやって見ているとちゃんと状況に応じてプレイ出来ている。ますます再試の理由が謎だ。
「なんで再試になったんだろ……」
「後で訊いてみたら?」
「そうする……」
観戦しながら雑談を続けていると、やっと決着が付く。あと3ターンあったらなんとか勝てたかもしれないが、カードゲームにおける3ターンとは果てしなく長い時間なので実質死刑宣告に近いという部分には目を瞑っておく。
でも先輩の表情を見るに今回は大丈夫かな。
「それじゃあたしも行くね〜」
金目さんがちょっと早めに配置に就き、
「先輩のマッチ見ててちょっと疑問だったんですけど」
「ん、なんだい?」
「リーサル見逃しの原因が分からなくてですね……」
本当に分からない。無力である。
先輩は僕の疑問に顔を赤らめて答えた。
「えーっとね……ぼくも疑問で再試前に当時の状況を思い出してみたら、とても恥ずかしい事なんだけど……」
「はい」
「何手か遅れていたとはいえ良い手札だったから浮かれちゃったんだ……」
「浮かれちゃった」
なんだこのかわいい生き物は。
僕に対して強過ぎる。
「だから言うのは恥ずかしかったんだよ!」
「かわいい。先輩は僕らがとうの昔に忘れ去った気持ちを今やっとゆっくりと体験しているのか……。かわいい」
「タケちゃん門倉さんに対してはしょっちゅう反応おかしくなるよな」
うるさいぞ大崎、僕は今感動の余韻に浸っているんだ。
◆
「お前次の試験はちゃんとしたデッキ持って来いよ。あと俺ノーリミットでやるからよろしく」
「権力ビートは嫌われますよ先生」
「お前用の特例だよ! 成績査定落とすぞ!」
僕の再試は今度こそ問題なく終わった(事後報告)。
トドメこそさせなかったが、僕と先生のマッチ模様をPJ部の面々がガン見するといった事故もあった。
まあ合格したのでヨシとしよう。
先輩も他のPJ部の面々も無事合格はしたようだし、帰りに『もいらい』に寄ってまた新しいパックでも買うかな……と考えつつ、先輩と連れ立って近山部長にデッキを返しに行く。
「2人ともお疲れ様。門倉、お前ちゃんとデッキ回せるようになったんだな……」
「今日のデッキは少し遅れるから勝つのは難しいけどね。でも昔よりはずっと進んだよ!」
先輩が恒星の如き笑顔で答えた。光が強過ぎて灼かれそうだ。
しかし近山部長も先輩の事は心配していたらしい。これは少なくとも僕を含めて、プロを目指せるくらいに才能がある人ならおそらく一般的な反応でもある。
僕らは先輩がPJで日常的に遭う事故をまず体験できないからだ。
近山部長は先輩から僕にも向き直って言う。
「確かに返してもらったよ。それで聖岳君は本当にプロ目指してないの? あんなに強いのに?」
「今日は本来適性外なので全然ですよ。プロは大学卒業してから考えようかなって……」
学歴ないと怖いって普段は存在感が薄い前世の記憶君がうるさいから……。
「俺ならもうなってるだろうな……勿体無いとは思う。でもまあ本人の希望通り好きに生きていく方が聖岳には良いのかもしれない。性格的にもな」
「部長もプロ志望ですよね?」
「そうだな。どこまで行けるのかは分からないけどいつかはAランクに挑みたい所だ」
見立てから考えるに近山部長もAランクは行けると思う。どれくらい時間がかかるかは分からないが、そこは本人の経験と努力次第だろう。
「僕としてはどうせAプロ目指すなら頂点に挑むのを目標にした方が良いと思いますけども……僕も応援しますよ。あと相談に乗ったりもね」
「困った時は連絡するかもしれないな。その時は是非」
「アドバイスは1マッチで引き受ける事にしてるので、その時を楽しみにしてますね」
「それはもう対戦するのが目的になってないか!?」
そうですけど……。
でも頂点を目指そうとしてもまずサキちゃんという門番を倒すクソ難易度ミッションが待ち構えてるんだよな今……。
もしかすると近山部長は頂点挑めないかもしれねェ……僕はそう思ったが、口にはしなかった。
何が起こるか分からないのが、カードゲームに関わる全ての妙であるべきだと思っているからだ。
巳蔵元部長……人の心がほぼ無い時代の聖岳君にエンカウントした被害者の1人。プレイヤーとしての強さは……ノッてない日の風見君よりちょっと下くらい。