TCGクソザコナメクジ先輩と僕。   作:餅屋

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ちょっと遅れました。
今回も対戦はないです。


8.先輩達とPJ公式生放送。

 

 その日の『もいらい』は、いつになく人が多かった。

 理由は単純、PJ公式アカウントによる定例の生放送配信を大画面で観れるからである。

 

「今日は制限改訂もあるしシングル在庫もたくさんハケそうだねー」

「そんな事言ってて在庫増えるだけって可能性もゼロじゃないですよ」

 

 現代において、大抵のカードショップには大型モニターが設置されている。

これには平時は適当な過去の配信が流されたり、あるいはプロの試合が流されていたりしてちょっと手の空いたプレイヤー達の暇を慰めたりBGV代わりとして活躍している。

 それは規模としては小さな『もいらい』でも例外ではなく、公式からの生放送配信がある日には馴染みの客達が足を運ぶ事が多い。

 驚く発表はその場で他の人と分かち合いたいという気持ちは大きいからね。

 

「制限解除されたカードがぼくの適性に合ってるとか……しないかな?」

「なると良いんですけどどうでしょうね……」

 

 そんな訳で、僕らはいつもの3倍くらいに人口密度が膨れ上がったマッチスペースに並んで座り、生放送が始まるのを待っていた。

 

「新弾情報も楽しみだねえ……」

「どうか先輩の適性テーマが……いやカードでも良いので増えますように……!」

「頼むぜタケ坊、門倉ちゃんの未来と俺たちの正気の為にも……祈れ!」

 

 僕に祈るよう頼む『もいらい』常連の香宮さんは蒸れにくそうな……禿頭の、おに……おじさんである。

 僕らとは『もいらい』に居る時間こそ違うが、時折会う事もあるのでそこそこ会話をするようになった。篠ノ芽高校のOBでほどほどに強く、先輩の超常的な事故能力を知るうちの1人だ。

 ちなみにまだ三十路を迎えたばかりらしい。お辛いでしょう……そのお歳でその頭部の防御力は……。

 

「ちょっと進展しそうなので香宮さんにもちょっと手伝って欲しい部分あるんですよ古い収録テーマカードになるんですけど」

 

 あわよくば【ジェネシス】とか持ってないかな……。

 

「【ジェネシス】とか言わないでね?」

「……チッ」

 

 やれやれ、僕は舌打ちした。

 流石に持ってないかあ……。

 

「今の舌打ちは【ジェネシス】って言う気だったよね?」

「じゃあ【滋養】とか【八景】とか【龍樹】とかあの辺ので……」

 

 そっちなら【ジェネシス】に比べたら最近の収録だしもっとチャンスあるでしょ。

 最近(【ジェネシス】から10年後)だけど。

 

「その辺も俺の世代よりもっと前の奴じゃん!」

 

 あの辺は再録も香宮さんが学生でバリバリやってた頃よりかなり前か結構後だったはずだ。

 香宮さんの世代がちょうど上の3種のテーマは再録込みでも触りにくかった頃になるんだよな。

 

「冗談はさておき今だとギリギリ手に入りにくい12〜18年前くらいのカードがあるならちょっと触らせてもらいたいんですよね。その辺りなら香宮さんのストレージにも眠ってそうですし」

「門倉ちゃんの適性確認ならそりゃ協力するけどよぉ……俺も流石にその辺りのはプロ目指して頑張ってた頃だし他のカード欲しくて随分昔に手放してるからキーカードになるやつはあんまりねえぞ。適性確認ってなるとちょっと触れるプール広げる為にも友人にも声掛ける事になるから多少時間は掛かる」

 

 そこまでしてくれるならありがたい限りだ。これも先輩の人徳かな? 

 

「遅くても年内で構いませんよ」

「それなら大丈夫だな。夢雨(むう)ちゃん! ちょっとそのうち店のスペース貸切り頼むかもだけど良い? スケジュールは決まり次第伝える形になるけど」

 

 夢雨とは店長さんの名前だ。

 歳のいった常連の人は店長さんを下の名前で呼びがちだ。

 店長さんが若過ぎるのもある。確か今20代半ばくらいだし。

 店長さんが考えるそぶりもなく答える。

 

「その日の日程にもよるけどなんとかするからイイヨッ! 呼吸のお礼だよ」

「サンキュー!」

 

 店長さんのこういう所が根強い常連さんを確保する秘訣なのかもしれない。

 

 ◆

 

『それではエラッタ情報のコーナーです』

 

 生放送の開始から幾らかコーナーが進み、プレイヤーには重要な部分に入ってきた。

 普段は無いコーナーではあるが、今回はあるらしい。その時によってあったりなかったりだ。

 

「お、今回はあるのか。俺の手持ちに影響無いと良いけどなあ」

「ですねー」

「ぼくにはあんまり関係ないけど影響は少ない方が良いよね」

 

 先輩は自らの不遇があっても、PJ全体のプレイヤーの事を心配する。

 そこも数ある好きな所の一つだ。

 

『【答え待つもの】の再攻撃効果をプレイターンのみではなく永続化、その代わりにターン中1度までの発動とさせていただきます。後日エラッタ後のカードを各認可店舗に送らせていただく為、使用プレイヤーの方々は最寄りの認可店舗で該当カードの交換をお願い致します』

 

 なにっ!? 

 

「ぬああああ!!! 僕の【バード】コントロールー!!!」

 

 まあまあ頑張って組んだのにーっ! 

 

「タケ坊!?」

「聖岳君のやらかしで結構暴れたみたいだからね……【答え待つもの】によるワンショット構築……」

 

 いつかのサキちゃんの予想が当たってしまった。これは悔しい。

 確かにあの氷川君の大バズりの一件で、僕以外にも数多く居る【答え待つもの】を扱えるプレイヤーによってあのカードをフィニッシャーにしたデッキはかなりの数増えた。

 特に効率よく運用できる【バード】コントロールのような、相手の山札の上下確定によるワンショットギミックはメタデッキの一つとして頭角を現し始めていた。それはそのまま各プレイヤーによる研究も進んできたという事である。

 だからこのエラッタという結末でなくとも別の形でしっぺ返しは食らっただろう。

 

「まあ楽しめる分は遊ばせてもらったしエラッタ入ってもまだまだ強いからいっか……。プレイコスト増加とかパワーやブレイクへの影響じゃないから構築の根本が変動する訳じゃない……それに効果永続化したなら相手が注意すべき火力を持った囮にも使えるようになったって事だし、単純な弱体化でも無いから全然アリだ。むしろこうなると即効性と囮を兼ねて白コスト効果はよっぽど刺さる時でも無いと見ない方が良いか? 相手の盤面触れたりこっちの盤面固められる赤青黒コストあたりを優先で扱うべきなのか? でもそれだと回数回して実戦性がどれくらい変わるか試してみた方が良さそう……また日程近い大会出るかな……今度はスイスドロー式にしよう。囮運用も考えるなら他にも影響出るから帰ったら弄り直さなきゃだ。再行動がターンに1度なら単発のイベントでの確定よりはトップ確定の自動効果持ちのキャラやエリアイベント……1番使いやすいのは【予知夢の天狐】、けどアレはレギュ違うからノーリミット用、スタンダードなら【漂う第六感】と【開眼の禊場】……それに……」

 

 それはそれとして対応が早くて僕としては結構残念だ。また別のデッキを考えて遊ぶ余地が出来たのはとても嬉しい事ではあるが。

 

「タケ坊ってさ……」

「よしなよ香宮さん。ぼくは聖岳君のこういう所も好きなんだ」

「良いねえ若人……」

「照れても何も出せないねえ!」

「僕も先輩の好きな所は言えますよ。とりあえず一つ、ふわふわの髪質」

「えへへ」

「うわあ急に正気に戻るな!」

 

 先輩に好きな所を言われたのであれば僕も対抗せざるを得ないのでそう言われても……。

 

『続いては新弾情報となります……』

 

 生放送の本題に入り、俄然スペース内が騒がしくなる。

 

「お、きたきた。楽しみだなあ」

「僕は最適性のパーツが増えたら嬉しいんですけども……」

「新テーマ楽しみだねえ」

 

 新テーマは僕も楽しみだ。先輩の適性が分かるかもしれないという希望も含めて。

 

「タケ坊は門倉ちゃんとは違って適性凄く広いんだったっけ?」

「僕はコントロール系全般が高くて、その代わりに最適性にあたるデッキデザインがもっと高いですね。ビート系も【ハートビート】くらい先鋭化していないならリーサル遅れますけど扱えなくもないように組めますね」

 

 そういう時の調整によく付き合ってもらう風見曰く、僕が調整するとリーサルが遅れる代わりに軽い妨害札とか除去札とかコントロール系のカードを従来のデッキよりも盛るからめちゃくちゃやりにくいらしい。すまない風見、それでも頑張って凌いでくれ。

 僕の扱うビート系デッキの完成は君が9割凌げなくなったらなんだ。

 でも僕があれこれして扱えるように出来るのは風見が最適で扱えるリーサルラインのテーマまでになる。サキちゃんのリーサルラインまで行くと扱えない。

 あそこまで行くと早過ぎて普段との感覚の差異が激し過ぎる。あとクランプスの寝つきも悪くなるのでよっぽどの事が無ければ握れない。

 

「格ゲーの壊れキャラの紹介だよぉ……」

 

 先輩がそうぼやき、それに香宮さんが頷きつつ僕に訊ねる。

 

「そういやタケ坊はプロになんないの? 全然できるでしょ?」

「僕は個人的な物なんですけど大学くらいは出ておきたいんですよね……」

「聖岳君くらいだとプロでも生涯現役でやれそうだけどねえ……」

 

 今の世界最年長プロが70代の人だったはずだ。国内だと60代だったかな。

 それでも老いれば読みは冴えてもなんでか腕が落ちてくるらしく、Aランクプロになると生き残れるのは50代前半まで、というのが通説である。

 しかしそれとはまた別にある、単純に大会参加に全国飛び回るのが辛くてパフォーマンス落ちるという説を僕は推したい。

 

「生涯現役は流石に……。それに人生何が起こるか分かんないですからね」

「そりゃそうだが……でもタケ坊は俺みたいな凡人とはまた見える物が違うのかもしれんな」

「香宮さんもBプロまでならいけそうですけどね、どれくらいの時間が必要なのかまでは分かりませんが」

「言うねえタケ坊……」

「皆自分の才能の限界に行く前に諦めるんですよね。なんでか分かんないんですけど」

 

 僕からすると皆もっと強くなれる、と思う。

 なので気付いてなさそうな部分への助言もするしデッキ調整のフリプにも喜んで付き合おう。

 しかし両方不評である事には嘆くばかりだ。

 最近はクラスでも僕とフリプしてくれる人があんまり居ない。遊びに行ったりは付き合ってくれるんだけど。

 

「自分の才能限界が分かる奴も少数なんだぞ? しかしタケ坊だとスタートラインからして違う感じがするから中々コメントもし辛い……」

 

 僕だって最初は弱かった。PJのちょっぴり独特な盤面制限がかなりの難敵だったのは懐かしい思い出だ。

 僕も保育園の頃は父さんに習いながら強くなったが、小学校に入る頃には母さんが相手してくれるか自習が専らとなっていた。ちょうどその頃は父さんの仕事が忙しくなっていた為である。

 忙しい数年が終わっても今度は実力差が生まれ過ぎててこりゃダメだ……! となってしまったが、それでも父さんは母さんと同じく心が強えプレイヤーなので年一くらいで僕に営業用デッキの相談をしてくる。

 聞く所によると営業マッチ成績1位不動の座を守り続けているらしい。

 しかし強さ的にはトントンくらいな筈の母さんにはよく負けてる姿が見られるので、世の中不思議な物である。

 

「ぼくは夢の方向性が似てるからかなんとなく言いたい事はわかるよ。皆が適性関係ない全身全霊でマッチできる世界は確かに見たいよね」

「聞きました香宮さん? 先輩はすごいですよね。可愛い」

 

 先輩の夢とは、適性不明でもさっさと適性が合うデッキでPJが出来るように適性判断装置を作りたいという物だ。僕はめちゃくちゃ応援している。

 まあこの夢の関係で先輩の進学先が難関大となり、篠ノ芽高校進学からの留年コンボを食らっていた訳だが……今は僕が居る。

 

「タケ坊は数分に一度門倉ちゃんとイチャつかないと死ぬの?」

「おそらくは……」

 

 今となっては僕が先輩と会ってない世界とか考えたくもない。おそらく先輩ニウムの欠乏によりPJ部に入ってから何事もなく高卒プロになっていたか、高校中退プロ入りでもしていた事だろう。

 それはそれでサキちゃんとか強い面々とたくさんマッチできるから悪くない未来だが、先輩が居てくれる今とは比べるべくもない。

 

「マジ顔で言うの!?」

「なのでぼくらは恋人で協力者なんだよ!」

「やだこの子達イチャつく事に全く躊躇いがない!」

 

 愛は世界を救うとかよく言われるが、そうでなくとも個人を救う事はめちゃくちゃ頻繁に起きていると僕は思っている。

 

『新テーマカードの一部をご紹介。まずはこのカード、3コストで赤青緑の【開拓団の実務班】』

 

「お、新カード先見せだ」

「良い色のカードですね」

「今年は複数色を保有するカードが多めの年だねえ……」

 

『新テーマである【開拓団】は、中速以後のビートダウン系のテーマでありながら条件を満たすと効果によるエクストラウィンを狙えるデザインとなっています。プレイヤーの皆さんも是非組んでみてくださいね』

「なんとなくだけどぼくとは相性が悪そうだねえ……」

「俺と相性良さそうなデザインだな……」

「ここだとモヒカンさんも適性高そうですね」

「そうなの!?」

「モヒカンさんの適性って正確にはコントロールじゃなくてド派手な効果らしいんですよね。なのでエクストラウィン系ともだいたい相性良いそうです」

「知らなかったそんなの……」

「有料だけどお茶欲しい人は手を挙げて〜1杯50円ね」

 

 一息入れる為なのか行われた店長さんの飲み物いかが? にはその場のほぼ全員が手を挙げた。

 

『続いてはこのカード、5コストで黒の【地獄道の牢主】』

 

「次は……黒単色か……相性悪いんだよな俺」

「ぼくより良いから頑張って!」

「僕は相性良い部類ですね」

 

 プレイ時効果も優秀だしいざとなったらフィニッシャーにもなれそうで良いカードだ。タイプとしては【夢想楽土】のダイナスティに近い。

 これは結構高くなるかもしれない。

 

「新テーマである【五道】テーマはコントロール寄りのデザインとなっています。先ほど紹介した【地獄道の牢主】のように重要なカードは単色である事が多く、相手を止めるためのイベントやチャンスにはコスト代替が容易な複数色が多いデザインです。他のデッキにも流用しやすいと思われるので、別のデッキから【五道】に入るプレイヤーも見られるだろうと想定されています」

 

 そんな紹介の声を聴きながら、僕はいつものように店長さんに声を掛ける。

 

「店長さん、牢主は初動だけ少し買取り強化した方が良いかもです」

「活躍しそう?」

「9割くらいは」

「理由はー?」

「ちょっと長くなりますが……今はビートテーマが優位なんですけど、それって例えばコントロール側が一旦相手の手札枯らさせて相手が立ち直るまでの猶予を作りにくいとか、対処札伏せても相手の物量に押し負けて削り切られ易いからなんですよね。牢主みたいなワンチャン初手で投げられる複数ハンデス持ちのキャラが来るんならコントロールかハンデス軸を扱うプレイヤーがピンポイントに買い求める可能性が高いです」

 

 キャラが立ってくれるのが本当に偉い。

 防御に使えるし5コストだから軽量除去の範囲を外れる場合もあるのがありがたすぎる。

 

「なるほど……モヒ君達にも意見聞きつつ調整してみるね〜」

「参考になれば幸いです」

 

 店長さんは何故かよくカードの初動価格やその時の立ち回りについて人に訊く。

 大抵はモヒカンさんがフォローできるが、モヒカンさんの主戦場はノーリミットである為初動のスタンダードレギュへの触感はどうしても机上的なものになりやすい。

 なのでそういうカードの予想は僕や他の人のように、出入りする常連達でフォローしている。僕らが香宮さんと知り合ったのもその流れだった。

 

「店長さんも大変だねえ……」

「夢雨ちゃんも適性が一点特化してるタイプだからなあ……」

「そうなんですか?」

「夢雨ちゃんの時は偶々適性カードが学生時代にスタンダードレギュに来てくれたんだ。その辺もあって門倉ちゃんに良くしてくれるんだろうな」

「良い人だよね!」

「なるほど……」

 

 だから新弾出る時はカードの売れ筋とかを人に訊く事が多いのか。

 しかしそれだけ適性尖ってるなら店長さんとやってみたさあるな……PJ……。

 

 ◆

 

 PJの生放送配信は大抵結構長い。というのも、さっきやっと終わった新テーマカードの紹介がめちゃくちゃ尺を取るのだ。

 ちなみに今回の紹介カード数は35種、つまり最低限それだけのデッキアーキタイプが増えるって事だ、ワクワクするよね。

 僕も相性の良さそうなテーマがあったのでかなり楽しめそうだ。実際触ってみるまでどうなるか分からないが、デザインを見た限りではかなり適性的にも合いそうなので久々にノーリミットの本気デッキに近い出力で回せる物が作れるかもしれない。

 

 PJの新弾テーマはその時によって幅はあるけど毎弾30〜40種くらい増えるし、収録枚数も相応にめちゃくちゃ多いので1弾分だけでも全種揃えるのは一苦労する場合がある。

 ただ適性というスピリチュアルなものがあるこの世界では、自分に合ったカードが来やすい。なのでデッキを組むだけならむしろ楽かもしれない。

 パックを剥けば適性のないカードも出にくい程度なのでコレクター的にも安心! 

 ただ収録されてる全種揃ってたっけ……? って数えるのはまあまあめんどくさい。なにせ物量があるので。

 

『続きまして全レギュレーションでの新制限、制限解除のお知らせです』

「おっ全レギュだと期待できるかも」

 

 去年や一昨年はノーリミットのみとかレギュレーション限定での制限が多かったので少し嬉しい。

 

「聖岳君的には解除されると嬉しいカードがあったりするのかい?」

「ありますね。解除されるとノーリミットの本気デッキがフルパワーまで行けるやつが」

「ああ、例の葉山先生を泣かせたと聞く……」

「解除されると盤面完成まで2ターンくらい縮むので助かるんですけどね」

 

 盤面完成といっても僕のではなく相手の盤面がだけど。

 アレ解除されないかな、無理かな……。

 

『今回は2種のカードが新制限行き、3種のカードが制限解除となります。施行は来月1日からとなるので大会出場を行う予定のある方はご注意ください』

 

 これは変化結構大きいな? 

 

『現在トップメタの一角となっている【災宴陵墓】の大会シーンにおけるデッキ内の採用率とマッチ中のシナジーを見直した結果、【壺天将】を2枚制限とします。これにより最序盤から発生していた盤面の継続した安定性が担保し辛くなり、また後続にあたるキャラクターも纏めて制限できる為施行に至りました』

 

 結構なざわめきが店内に起こった。【災宴】ともなれば握るプレイヤーも仮想敵として見ていたプレイヤーも多く、かなり予定が崩れるからだろう。

 スマホが震えたので確認してみると、風見からの嘆きのメッセージが送られてきていた。

 スタンプ爆撃はやめるんだ風見! また新しいデッキを握る日が来ただけなんだよ! 

 

「風見が壊れちゃいました」

「確かこのテーマのデッキ使ってたんだったね……お気の毒に……」

 

 僕の言葉に、先輩が心底気の毒そうに呟いた。数度会っただけの相手にすらこの反応、やはり天使なのかもしれない。

 

「こりゃあ高校PJ全国大会がめちゃくちゃ荒れるぞ……」

「篠ノ芽はレギュラーに握ってる人居ないんでそこは良かったですよ……」

 

 香宮さんの言う通り多分めちゃくちゃ荒れる。

 道明学園とか今頃凄そうだな……。ガッツポーズする生徒とこの世の終わりみたいな顔してる生徒で入り乱れてるんじゃないか? 

 でもまあ【災宴】のデザインを壊さないようにかつ制限入れるってなると、【壺天将】の制限が1番無難だと思う。

 レアリティ的にも出やすいしバニラだし中継ぎとしてなら代用も出来なくもないだろうし。盤面の処理はちょっと難しくなると思うけど。

 

『次の紹介となります。様々な場面において気軽に代替コストとして扱える事が問題視された為、【欣喜雀躍】を3枚制限とします』

「ぬああああ!」

「聖岳君!?」

 

【欣喜雀躍】は何もしてないじゃないか! 

 ……いやちょっとしたな。なんなら僕も悪さしたな。

 こないだ作って試験に持って行った合法版害鳥ワンショットのパーツに使ったし。バリアントヴォイス使うなら入れない理由無いもんな……。

 というかこれ【バード】作ってる人達が狂ってそうだ。【バード】にとってそれくらいには重要なカードだったから。

 

「あ、サキちゃんからメッセージ来てる」

『氷川が生贄になった甲斐はあったやんな!』

 

 僕はそっと既読無視をした。

 後で返信しよう。

 

「蒲原ちゃんに返信しなくても良いのかい?」

「これだと帰ってからちょっと返すくらいでも良いかなって思いまして……」

「後で返信するってこっちから伝えておく……『続きまして制限解除カードの発表です。1枚目は【ズウェイロゥの穴あき袋】となります』

「うぉ……アレ帰ってくるのか……」

 

 僕は無言でガッツポーズをした。

 ついでにサキちゃんにも【酔人】の画像を送り返信すると、爆速でスタンプが返ってくる。

 囚人の猫を、看守の犬が牢屋に蹴り込む図だった。相当ご不満なようだ。

 

「わっびっくりした……良いカードなのかい?」

「あんまり良いカードではないんですけど僕には良いカードですね。本気デッキをスタンダードで組んだ場合、去年のレギュ落ちついでに禁止カードに送られたキーカードの代替になるので」

「ああ……良いカードではないってそういう……」

「ただ専用のデッキじゃないと機能し辛いのでそこが難点です」

「タケ坊の適性エグいんだな……」

 

『このカードに関してはスタンダードレギュでは十全に効果を発揮する事が難しい点、以前は上位互換にあたるカードが存在したが、現在は制限中なので下位互換であるこのカードの方は解除するべきなのではないか? という声が挙がった為です。では次の紹介です──』

 

 今夜は枕を高くして眠れそうな嬉しいニュースをありがとう、PJ公式。

 

「聖岳君が楽しそうだとぼくも嬉しいね!」

 

 そんな僕を見る先輩の言葉は、喧騒の中でもはっきりと聞こえる。

 僕は嬉しさのあまり、つい先輩を抱きしめていた。

 

「おっと、聖岳君も大袈裟だねえ……」

 

 そうちょっと照れ気味に言いつつ、先輩も抱きしめ返してくれる。

 

「ヒョエッ……!」

 

 その様子を見ていた店長が、黄色い声を上げてレジカウンターの中でぶっ倒れた。

 皆急いで近づいてみると、床に鼻血が垂れている。どうもアオハル許容値が一瞬で溜まって限界を迎えてしまったらしい。

 

「その……ごめんなさい……」

「これは……流石にぼくらが悪いね……」

 

 他の常連客達と共に店長に他の怪我がないかを確認しつつ、僕らは皆に謝り倒した。

 近頃は先輩の可愛さで僕のブレーキが壊される事が多すぎる。

 水垢離でもした方が良いのかもしれない。

 

 

 

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