独りにしませんいつまでも 作:残念G級
誰一人話すこともなく、ただ目の前の大型モニターに映る光景に言葉を奪われていた。
今モニターに映し出されているのは現在行われているチーム戦の映像。
そこには残りの生存者たちが同じ場所で最後の乱戦を行っていた。
有利なのは味方がいる太刀川隊と東隊。それぞれ2人ずつ残り、嵐山隊は隊長の嵐山ただ1人。本来なら、数の優位を生かしたりして戦闘が運んでいくものだが、今あげた部隊はただ一人を標的に、まるで手を組んでいるかのように即席の連携を繰り広げていた。
その3部隊から標的にされてなお生きている隊。
もともと戦闘員が1人だけという異質の部隊である一ノ瀬隊。その唯一にして最強の隊長であり戦闘員の一ノ瀬真昼。
彼は今、モニターの向こうで前人未到の5対1を行っていた。
ボーダー内でも屈指の実力を持つ5人をもってしても攻めきれないその姿は、まさしく戦に君臨する鬼のようであったと、彼らの戦闘を観戦している他の隊員全員が思ったことだった。
戦鬼たる真昼と真正面から刀を交える太刀川は背に伝う冷や汗を感じていた。
どんなに孤月を振るってもなお傷一つ付けれないどころか、今この瞬間において、太刀川は一切孤月を振るうことを許されていなかった。
(…反撃できねぇっ!?)
オフ状態の孤月を振るう。一撃を振るうとなぜかその孤月を空中へ置くように放った。
そしてすぐさま腰に差している2本目の孤月を抜くと逆袈裟切りのように太刀川へと振るう。
そしてまた空へ置くと1本目の孤月をキャッチしては再度振るう。
孤月はオフ状態の時、切れ味はなくなりただの頑丈な棒へと変わる。だが、それでも斬る容量で振るい当てれば相手は衝撃によって行動は難しくなる。
振るって置いてキャッチして振るってまた置いて。
まるでジャグリングかのようなその攻撃は、孤月本来の重さを込みして無理に斬りつけるよりも速く追撃が出来るよう、最適化されたものだった。
その連撃は一度ハマれば一切の反撃を許さない。
太刀川はまさにその状態だった。ジャンプ台トリガーであるグラスホッパーを踏もうとしても太刀川が踏むよりも早く孤月で破壊されてしまうため一時離脱もできない。
一切ダメージを受けないためベイルアウトもない。
太刀川は僅かの反撃も許されずただ攻撃を受けていた。
だが、それだけが真昼の恐ろしいところではない。
今、真昼を攻撃しているのは太刀川だけではなく、その場に残る生存者全員が真昼へと攻撃している。
太刀川以外の攻撃手段は基本的に射手トリガーによる中距離戦。主に使っているのは既存のアステロイドや真昼自身が開発したハウンドやバイパーである。
しかも出水、二宮、加古はその射手トリガーを使う才能が十二分にある者たち。
そんな彼らは現在、自身が放つ弾がことごとく相殺されていることに焦りと悔しさ、そして密かに怒りを覚えていた。
それもそのはず。嵐山の突撃銃による射撃も合わせて四人が全員真昼へと弾を放つも、真昼の細かく分割したバイパーがその全てを撃ち落としていたのだ。
どんなに複雑な弾道を引いても、威力也弾速を上げても、真昼の半径5mよりも内側に入ることは無かった。
まるで真昼の放つ弾の一発一発が意思を持っているかのように、正確な弾道を引いていたのだ。
真昼のトリオン量は過去の人体実験の影響もあって膨大なものになっており、今射撃戦を行っている4人のトリオン量を合わせてもなお勝る。
そしてトリオンを正確に感知できるのと世界をスローモーションのように見せる、対戦闘に置いて絶対的な力を誇るサイドエフェクトを持つ真昼に勝つのはなかなかに難しい。
だが、このサイドエフェクトの同時使用は脳に大きな負荷を与えるため、長時間戦闘には向かない。
なので、普段は片方だけを使っていたりオンオフを切り替えたりしているのだが、今の真昼は同時使用で5人の猛攻を対処している。
そのため、早急に勝負を終わらせるべく、真昼は動き出した。
メインサブどちらもバイパーを使用しての
本来なら何分割にするかをイメージして行うのを真昼はそのセンスを持って直感で最適な数へと変えていく。
その分割スピードは、キューブを出して分割するまでに1秒もない。
周りからは突然大量の数の弾が展開されているように見えることだろう。
数多の星屑へと姿を変えたバイパーは先ほどまでの防御を主軸とした動きではなく、完全に相手を撃ち落とす動きへと変わった。
全ての弾が一切の統一性もなく二宮たちを襲う。
弾速を極限に上げた弾と威力を上げた弾を分け、威力重視の弾で相手の弾を相殺しつつ、威力の優った残りで相手のシールドを広げていく。
そして弾速重視の弾で死角からの攻撃を行う。
射手はその攻撃方法の特性上、四肢を破壊されても他のポジションと違ってそこそこに戦うことが可能である。
だが、トリオン漏れは必ず引き起こすため四肢の破壊が無駄ではない。
それは真昼も分かっているため、その大量の弾数をふんだんに使い、多角的な攻撃を行っていく。
相手の視界に入る情報を多くさせるために複雑な弾道を引いていく。
嵐山を除く三人は射手トリガー持ちのため、リアルに弾道を引くことが出来る。
そのため、目の前に広がる無数のバイパーを消すため防御よりの弾を放つがその判断が仇になった。
真昼と違って全員シールドを使わないと全ての弾を回避することはできない。
そのため自身の弾トリガーとシールドの併用をしているのだが、その物量に死角の守りが疎かになり、何発も身体に穴が開いていく。
そして4人を相手取りながら、今もなお太刀川を抑えている真昼。
4人に被弾したことを確認すると、その一瞬の隙を見逃すことはせず、勝負を終わらせる。
瞬時に足からスコーピオンを使用。モールクローを行い地面からT字に枝分かれさせ、太刀川の両足を切断。
体勢が崩れた太刀川の胴体にすぐさまグラスホッパーを押し付け突き飛ばす。
すぐさまメインの孤月を起動し、必殺の一撃を発動させる。
「…旋空孤月」
自身の身体を軸にして一気に回転する。その勢いを利用して振るわれる旋空は正確に4人の首を斬り落とした。
しっかりと首の高さが合うように先ほどのバイパーで足を削っていたことに気づいた二宮はその相手を確実に殺す徹底した戦術に戦慄すると同時に驚愕の顔を向けた。
もともと隊としても個人でも何回も手合わせしてもらったからこそ気づいていた真昼の戦い方。
実践を想定しても確実に相手が死ぬ急所、心臓、首、脳を的確に破壊するそのクセとも言える殺り方に、前々から真昼にどこか危うさを感じていたのだ。
そして今回も一発で戦闘不能になる首を斬り落とされた4人は一気にベイルアウトした。
回転させた身体を太刀川の方に対面した位置で止まると、右手に持つ孤月をまるで弓を引くようにググっと腰に添えた。
太刀川との距離はおよそ30m。踏みこみからの旋空孤月でも距離を詰めれて20mなため、余裕はある。
グラスホッパーで突っ込んできたら太刀川の方もカウンターでの旋空を発動すればいい。
どちらにしろ次で決まると考えた太刀川は次に起こる光景に全ての考えが間違っていたことに気づく。
「旋空孤月」
真昼が取った行動はグラスホッパーで近づくことでも、薙ぎ払うような旋空孤月でもなく、
旋空は効果時間を短くすればその分ブレードが伸びるトリガーである。そのため真昼は効果時間を切り詰めて現在最長の20mを誇る踏みこみ旋空を超える、突きでの旋空を行った。
その不意を突かれた攻撃方法に思わず反応が鈍った太刀川。
そして、本来線の攻撃を行う旋空は防御が比較的しやすい。それも同じ孤月使いであればなおさらである。
だが今回の突き旋空は攻撃面が小さい点での攻撃。
この一撃でトドメを指すなら、真昼の今までの戦い方で狙いどころが胸・首・頭のどれかだと読んだ太刀川は瞬時に防御態勢を取ろうとするも、想像よりも速く伸びる真昼の孤月に間に合うことなく額を貫かれた。
それは太刀川の頭を貫通し、最長で35mは伸びた。
「…これは完敗だな」
『戦闘体活動限界 緊急脱出』
額から亀裂が走りそのまま光の柱へとなった太刀川。
こうして初のチーム戦は東隊や太刀川隊、嵐山隊という猛者たちを抑えての7点という大量得点を持って勝利となった。
戦場マップから自室へと転送された真昼は、目の前で俯き表情の視えない三上が立っていた。
OPの服の上から着ている真昼と同じ隊服のパーカー。少し大きめのせいか、普段よりも小さく見える三上のその姿に、首をかしげる真昼。
「どうした歌歩」
「…わからないんですか」
なんとか言葉を出そうとするその三上の声はか細く震えていた。
なにを、そう聞こうとした真昼よりも早く三上は言葉を紡いだ。
「…なんで…なんで訓練なのにあんなに無理をするんですか。確かにこれは戦闘訓練でも実践を想定してのものなので、手を抜くのは褒められたものではないのはわかります。それでも、真昼さんならあんなにサイドエフェクトを使わなくても勝てるんじゃないですか。わたしにはサイドエフェクトとかないですし、少しばかりの知識しかないです。でも…」
ぐっと両手をその胸の前で握ると、意を決したように三上は真昼の顔を見上げてまるで訴えるかのように言った。
「少しの期間でもあなたの近くで見ていたから分かるんです!戦っている時の真昼さんも、終った時の真昼さんも、どっちも辛そうなんです。真昼さんのサイドエフェクトが脳に大きな負担を与えるのは知ってます。だからこそ、無理をしてほしくないんです。私は真昼さんの過去を知りません。でも、時々玉狛の皆さんや忍田本部長と話ている姿を見て、何となくですが、何かあったんじゃないかなって思うんです。それに、迅さんにお願いされたんです、真昼さんを支えてあげてくれって」
「迅に…」
「今のわたしは頼りないかもしれないですけど、でもいつかはわたしも皆さんと一緒に真昼さんの傍で支えていきたいんです。だから、これからもっともっとOPの腕を磨きます。わたしが真昼さんの眼になります。少しでもその力を使わなくても全力を出せるようにしますから。だからお願いします。…無理をしないでください」
ポロポロと涙を流す三上。今日ずっと我慢していたものが溢れたのかその涙は止まらない。
OPは同隊員の戦っている姿がその手元のモニターに映し出される。
一ノ瀬隊は真昼のサイドエフェクトの能力的にあまりOPの援護というのが他の部隊よりも重要ではない。
そのため、比較的落ち着いて解析などをすることが出来るため、着実にスキルを磨くことができるのだが、今回はその余裕が三上を苦しめていた。
特に、余裕があるために見えてしまう真昼の戦っている姿。
普段の真昼を知っているものであればあるほど、その差は浮彫になる。
いつも優しく見守ってくれるその暖かい瞳とは違う、ただ敵を殺すためだけに動く人形の様な感情の一切がない抜け落ちた冷たく暗い瞳。
圧倒的なその戦闘力はかっこいいと思う反面、躊躇なく人間の急所を破壊する真昼の戦闘方法を三上はモニター越しで見ていて怖いと思ってしまっている。
まるで知らない相手を見ているかのようなその姿。
三上はそれをずっと我慢していた。
それが決壊してしまったが故の涙。そんな三上の心情を、まだ人の心をしっかりと察することが出来ない真昼は、完璧に読み取ることはできていないが、それでも三上に何かしらの心配をかけていたのはわかった真昼。
「また、なにか歌歩に迷惑をかけたのか」
「いえ、わたしが勝手に悩んでいるだけで…」
「それでも、だ。ごめん、色々と心配をかけて」
「わ、わたしもごめんなさい。まだ全然知り合って間もないのに」
「それは関係ないし、もう同じ隊の仲間でもある。俺が歌歩の優しさに甘えていたのも事実だ。だから…」
真昼は自身の指にある黒い指輪を優しくなぞりながら、三上へと視線を移す。
「ちゃんと話す。俺の過去やこの指輪の事も全部」
どこか切なそうなその真昼の表情に、三上は胸の奥底が苦しくなる感覚に襲われつつも覚悟を決めた。
これにて初のチーム戦は一ノ瀬隊の完全勝利で終わりました。
真昼君のジャグリング孤月戦法は、ある作品の壊れた刃さんの戦い方を参考にさせていただきました!
終わり方が少し無理やりですが、そこは御愛嬌ということでお願いします!
それではまた近いうちに話を上げられたらと思うのでよろしくお願いします!