独りにしませんいつまでも 作:残念G級
「本部、こちら一ノ瀬。トリオン兵3体、回収頼む」
綺麗に両断された3体のトリオン兵を背に本部へと通信を入れる真昼。
朝から防衛任務を行っているため、本日何回目かのその連絡は必要最低限のものとなっていた。
今回のシフトは朝からのため、中学校に通う同隊の三上は登校していて不在。
そのため、久しぶりのワンオペを務めているのだが、真昼は今回出てくるトリオン兵たちのある行動に疑問を抱いていた。
(今日出てきたトリオン兵の全てが南方面に進んでる…。それも学生の下校時刻になってから。
いつものトリオン兵とは明らかにおかしい行動をとっていることに怪しんだ真昼はまもなく防衛任務の交代時間であるため、本部に戻りつつ、自身のサイドエフェクトの一つであるトリオン感知の効果範囲を最大限伸ばす。するとトリオン兵が向かおうとしている方角に一つのトリオン反応を感知した。
(…まるで靄がかかったかのように上手く認識できない。なにかしらのトリガー反応はないから敵ではないのは確かか。引継ぎまで残り数分、トリオンの質は少しだが覚えた。任務終わりに行くか)
真昼は敵ではないと判断したためすぐにその人物の下へは向かわず、警戒はしつつも任務を引き継いだ後にその場に向かうことを決め、本部の方へと向かい、次のシフトに入っている隊員へと引き継いだ。
それから外出理由を作りに一度自室に戻り、買い物を装って本部を出た。
その間一度もサイドエフェクトを解いていないため、件の人物はその場から動いていないことを確認済みである。
そのため一直線にその場に向かうと、ちょうど反応と被るようにゲートが発生した。
「(ピンポイントでのゲート発生…勘が外れたか。)…こちら一ノ瀬、ゲートが目の前に発生したため対応する。回収班の手配だけ頼む」
本部に通信だけ入れてゲートの方へ向かう。すると、ゲートから出てきたのだろう、主に捕獲と砲撃を担当するトリオン兵─バンダーが暴れていた。5階建てビル程の巨体を持つバンダーは地を這ってまるで得物を捕食するよう行動をとっている。
その先にはランドセルを背負った少女が襲われ一生懸命逃げていた。
それを確認した真昼は一先ず少女の保護を優先するため、メインとサブのグラスホッパーと脚にトリオンを回し脚力を強化してまるで弾丸のような速度で移動した。
少女の前で再度グラスホッパーを展開し勢いを上手く殺して少女を抱きかかえた。
「…無事か?」
「…は、はい」
恐らく突然知らない人間に抱きかかえられている状況に頭が追い付いていないのだろう、困惑した表情を浮かべながら返事をする。
怖かったのか、ギュッと真昼の首にまわした手に力が入っていた。
真昼はバンダーから一旦距離を取り少女を優しく降ろした。
「とりあえずあれ倒すから逃げずにここにいてくれ、出来るか?」
「は、はい。…大丈夫です」
少女の返事に頷く真昼は孤月を抜いてバンダーの方へ向かおうとすると、何かに引っ張られその場に止まり、引っ張られた方へと振り向くと、自身でも無意識なのだろう、驚いた顔をしながら震えた手が真昼の服を掴んでいた。
その手をジッと見る真昼、そして自分の突然の行動に気づいた少女は慌ててその手を放して、自身の胸に抱いた。
「ご、ごめんなさい!わたし、勝手に、その…」
完全にお怯えているその姿は少女と真昼の体格差も相まって捕食者と獲物の光景である。
真昼は少女のトリオンが先ほど感知したものと一致しているため、この少女がずっとこの場にいたことはわかっていた。何か訳アリか、と把握した真昼はとりあえず少女を落ち着かせようとその場に膝をついて目線を少女と合わせ、手を少女の方へと向けた。
なにか怒られると思ったのか、眼を瞑り我慢しようとする少女だったが、その手はそっとその小さな頭に乗せられた。
「…え?」
ゆっくりと眼を開けると、少女の目の前には眼を細めて優しく微笑む真昼の姿があった。
それからゆっくりと落ち着かせるように頭を撫でる真昼。
「ここにいるからもう怖がらなくていい。もう震えなくていい。我慢しなくていい」
恐怖で震える心を包みこむように、少女に言葉をかけていく。
優しく聞き心地に良いその声が少女の緊張や恐怖を溶かしていく。
その時、今まで我慢していたのだろう涙が少女の瞳からあふれ出た。
真昼は少女を抱き寄せてはその小さな背中をトントンと撫でて落ち着かせようとする。
「よく頑張った。お前は偉いよ。このままあいつを倒すからもう少し待てるか?」
真昼の質問に少女は小さく頷いた。
「よし、良い子だ」
真昼は少女を抱きかかえたまま、バイパーを展開し、キューブ状ではなく、まるで夜空に浮かぶ星の海のように小さなサイズの球状へと分割した。
「…きれい」
思わず少女の口からこぼれたその言葉を聞きながら、真昼は目標の方へ視線を移す。
真昼にとってはただの的でしかないバンダーは、砲撃を行うためのチャージを開始していた。
だが、それを許すほど真昼は優しくない。
数多の星へと姿を替えたバイパーの数はおよそ1,000。そのバイパーは全てが全く違う動きをなしてバンダーへと襲い襲い掛かっていった。
まるで鳥籠のように相手を囲み、じわじわとその装甲を削っていき、最後は弱点である頭部をハチの巣にしてトドメを指した。
その後本部へバンダー討伐の連絡だけをして、落ち着いてきた少女を抱きかかえてその場を後にした。
「ありがとーございやした~」
それから道中のコンビニで飲み物を買った真昼は、少女の家の近くだという公園に来ては少女と話していた。
「…なるほどな。前にトリオン兵に襲われ、話を最初から信じてくれた友達も襲われ連れ去られたか。千佳の話は分かった。辛いだろうに頑張って話してくれてありがとう」
「い、いえ!わたしこそ、話を聞いてくれたり、助けてくれてありがとうございました。このジュースも美味しいです!」
真昼が助けた少女の名は雨取千佳。まだこの世界でボーダーが表舞台に出ていない頃にトリオン兵に襲われた経験を持ち、まだ当時はネイバーやトリオン兵という存在が知られていなかったため、学校の子や家族に話しても信じてもらえなかったが、その中で唯一千佳の話を信じてくれた友達がいたが、その子も後に襲われ行方不明になった。それから千佳は誰にもそういった話をすることは無く、ゲートが発生した時は一人孤独に身を隠してひっそりと耐えていたらしい。
まだ小学生の子どもがトリオン兵から教われる恐怖を我慢して隠れてるなど到底無理な話だ。
ゲートが発生したことを知らせるあの警報が鳴るたびこの少女は、自分のせいで誰かが襲われるかもしれないと、恐怖や悲しさなんかを独りで抱えていたのだろう。
何回も狙われるその原因は十中八九、千佳が持つ莫大なトリオン量が原因だろう。だが、それを説明したところでそれが改善されるわけでもなく、むしろ彼女の不安をさらに煽る可能性もあると判断した真昼はそのことは本人には伝えなかった。
「ボーダーに相談するつもりはあるのか?」
「…あまり誰かの迷惑になることはしたくないんです。…ごめんなさい」
「謝ることじゃない。その考えは今回の場合余り褒められたものじゃないが、他人を思いやる考えをその歳で持てるのは立派だ。やっぱり良い子だな千佳は」
ポンポンと再度頭を撫でる真昼。そしてその真昼を見ては先ほどとの反応は変わり、頬を染める千佳。恥ずかしさと真昼が良い子だと言ってくれたことの嬉しさで、照れて何も言えずただ撫でられるのを気持ちよく受けているだけである。
しばらくそれが続くと、いい加減小学生の千佳を返さないといけないため、撫でる手を止める真昼。
離れた手に思わず、「あっ…」っとどこか寂しそうな声が漏れた千佳。
その声はしっかりと真昼には聞こえていたため、クスクスと笑う真昼に、恥ずかしそうに両手で顔を隠す千佳。
すると真昼は懐から一枚の紙を千佳に差し出した。
いつの日かの防衛任務で三上たちに渡した名刺である。
それを千佳は呆けた顔で受け取った。
「それは俺の連絡先。トリオン兵に襲われた時でも、また頭を撫でてほしいときでもなんでもいい。なにも迷惑だなんて思わないから連絡したくなったらしろ。必ず来る」
それは千佳にとっての夢のような宝物であった。自分の話を信じてくれるだけでなく、今までの自分の事を褒めてくれて、認めてくれて、言ってほしい言葉をくれる、まるで絵本の中の王子様のような優しく手暖かい人。
頭を撫でてもらった時、胸がドキドキして身体がぽかぽかしたこの感覚はよくわからないけど、またできればお話したいって思った人。そんな人の連絡先を貰えたのだ、しかも名刺なんて大人みたいでかっこいいなと眼を輝かせる千佳。
ただの紙切れなのに、まるで凄い高価なものを貰ったかのような反応をする地下に思わず頬が緩む真昼は、先ほどと同様に頭を軽く撫でるとベンチから立ち上がる。
「ほら、もう遅い。家の前まで送るから行くぞ」
「…はい!ジュースごちそうさまでした!」
ニコニコと笑顔で真昼の手を握る千佳。
この出会いが近い未来で大きく影響することは、この時の二人は知らなかった。