独りにしませんいつまでも 作:残念G級
死神は自身がいるところとは反対方向に集まているトリオン反応を静かに見つめている。
サイドエフェクトの効果によって、そのトリオン反応が誰の物なのかまで正確に把握できるため、敵が誰でどこに配置しているかが手に取るようにわかっていた。
(遠距離持ちが高台、他はその下。各隊員の位置が僅かにずれていることから各部隊で動くのではなく、ポジション別での動きが濃厚。連携で動くというよりかは生存を目的とした編成か)
得られる情報でいくつかの仮説を立てる。誰が戦術を練ろうと圧倒的な力の差があればそんなものは関係ない。
死神は先ほどから感じる自身を射抜くかのような視線を送る主へと興味を移す。
視覚を強化し、はっきりとその姿を紅い瞳に映した。
自身を見つめる未来視の力を持つ青年。
いつもの飄々とした雰囲気はなく、その表情からは真剣さとこの戦いにおいてどれだけ本気で臨んでいるかがはっきりとわかった。
(どんな未来を視ているかはどうでもいい。今この瞬間は、俺はお前らを仲間だとも家族だとも思わない。ただ殺すべき敵だ。地獄も知らず、ただのんきに他国へ訪れた愚者。自身を正義だと信じて疑わない哀れな者の集まり。誰一人、生かして返さない。絶望を教えてやる)
「総員戦闘準備!」
迅はすぐさま真昼の変化を感じ取り、素早く指示を送る。迅が感じた変化、その正体はすぐに自分たちへと降り注いだ。
「中距離部隊は弾をできるだけ削れ!その後ポジションごとに固定シールドで防御!」
巨大なトリオンキューブが
『爆撃注意!バイパーのフルアタックによる
素早く三上が攻撃の正体を突き止め全隊員に通信を流す。
圧倒的なトリオン量を誇る真昼の十八番とも言える技の一つ、メインとサブどっちにも装備しているバイパーでのフルアタック─
天高くに上げたバイパーが、まるで罪人に裁きを与える星屑かのように、どこまでも追い続ける技。もともとバカでかいサイズのトリオンキューブは細かく分割してもなお威力は十分なモノになる。その弾数は真昼の戦闘センスと研磨により、現在はフルアタックで4000を超える。しかもその全てが違う弾道を描きリアルタイムで迫る。
空に絶望という名の天蓋が形成される。
すぐさま二宮、加古、出水、京介、小南、東、嵐山隊が降り注ぐ弾を削る。
だがどうやっても足りるわけがない。ただ真っ直ぐに降り注ぐならまだしも、降り注ぐ星屑は厭らしくも相殺しようとする弾を避けていく。
それでも、ボーダーの精鋭たちはその意地を見せ、星屑の数を1000発ちょっとは減らすことに成功した。
これ以上は無理と判断した全員が急いで密集し集中シールドで防御を行う。
周囲の建物諸共破壊されていく。運が良いことにシールドは貫通することは無かったが、それでも一気に周囲の景色が変わり、ジワジワと地獄が近づいている。
死神が誘っている。
スターレインが終わりシールドを解除しようとしたその時、東は急いで真昼の存在を確認する。レーダーなどで位置は変わっていないことは把握できているが、それでも追撃が無いとは思えなかったから。そうして確認したその瞬間、真昼がこちらに向けていた正体を、
そして彼の頭上に浮かぶ巨大なトリオンキューブ。先ほどのバイパーと見た目は同じだが、わざわざまたバイパーを使うとは思えない。そこで、東はこの戦いが始まる前に全体で作戦会議を行った時に迅が教えてくれたことを思い出した。
それはこの戦いが始まる前日。決戦日に近づくにつれ、迅が視れる未来がより鮮明になっていった。
今回の真昼のトリガー構成、これが分かるだけでもかなりのアドバンテージを得られるだけでなく、より確実な戦術が組める。
そのため、来る決戦に向けてあの日、真昼と対立する場面に全員が会議室へと集まていた。
「なるべく戦術を練るのに時間を割けたいから、早速本題に入る。全員の前に配ってあるその紙に、真昼のトリガー構成が載ってる。ほぼこれで決まりだ」
全員が配られた紙に視線を移す。そこには真昼の写真と共にトリガー構成と、その特性や使い方の予想がびっしりと記されていた。
「やはり真昼はトリガー枠を拡張しているか」
リストを見たレイジがぼそりと呟く。レイジが言っていたように、手元の資料に記された真昼のトリガー構成は通常のメインとサブを合わせての8枠ではなく、その数は元の数と比べても脅威の2倍である16枠。レイジの14枠よりも多いそれは、おそらく全ボーダー隊員の中でも間違いなく最多だろう。
「やっぱメインはオルサイズか。つーことはあれか、間合いは近接というよりも中距離か?懐に入るのも一苦労だぞあれ」
太刀川が資料をぺんぺんと叩きながら意見する。確かに真昼の使うオルサイズはその巨大さゆえに近距離というよりも中距離戦が向いている武器である。他の誰かがオルサイズを使えば、簡単に隙が生まれ間合いを詰めることが出来るのだが、使い手が真昼となれば話が変わる。太刀川はその性格上、この中で誰よりも真昼と戦ってきたからこそわかる。真昼とオルサイズは相性が良すぎるのだ。
やればやるほど、どう攻略すればいいのか分からない。あの太刀川ですら、今までオルサイズを使う真昼に1勝もできないでいるのだ。
「特大なレーザービームを可能とする拳銃も恐ろしかったが、何よりも気になるのがこの【クロノス】というトリガーだな。迅の予知ではオルサイズ専用のオプショントリガーということだが、この『詳細不明』というのが気になるな。迅、視えた範囲でいい、どんな風に視えたのか教えてくれないか」
嵐山の質問に迅は難しそうに唸りながらもぼんやりとその説明をし始めた。
「まじでどう言ったらいいかわからないんだけど、おそらくは…」
そうして説明をしていくなか、東はその内容を聞きながらも、リストに載っているあるトリガーに注目していた。
それは自身の知るトリガーのなかで、おそらく最も真昼のトリオン量を活かせるもの。
特に、こと
「全員すぐにその場から逃げろ!エスクード持ちは退路に数枚出せ!」
今度は東から出された指示にすぐさま全員が対応。各OPが瞬時に弾道を予測し送る。
瞬間、地獄の入り口が産声を上げた。
10個に分割されたトリオンキューブが、ほぼ直線に投げ込まれる。そしてさらに追撃と言わんばかりに、真昼が構えた狙撃手トリガー最高威力を誇る
それはもはや狙撃なんていう枠組みには当てはまらない。放たれた弾の弾道にそびえたつ建物が全て破壊される。空からは絨毯爆撃、前からはシールド諸共全てを容易く破壊する砲撃が何発も撃たれる。
あのボーダーの精鋭部隊がただ逃げるだけの選択を余儀なくされていた。
どれだけ逃げても、反撃できなければ攻撃が止まることは無い。
そのため、迅は自身の未来視を使って爆撃を避け、自身の手に持つブラックトリガーを起動する。
迅の持つブラックトリガーの名は【風刃】。その能力は視覚で捉えられる範囲での遠隔斬撃を可能とするもの。
そしてその斬撃は起動者のトリオン量によって増減する光の帯の数分可能にする。
迅のトリオン量で生成される帯の数は11本。迅はそのうちの6本をすぐさま放つ。
建物の壁だろうがその表面を伝播させて、その斬撃は真昼の下へとたどり着く。
トリオン本能を感知できる真昼には当然このような攻撃は当たらず、その場から飛び降りることで回避する。
だが、これで攻撃の手が一時的に止まったため、その間に陣形を立て直す。
「今真昼が移動を開始した。全員陣形を組みなおして警戒してくれ。OPの皆さんは真昼の動きを確認しといてくれ」
迅は全員に通信で指示を出しながら先ほどの攻撃で受けた被害を眺めた。
数分前まで普通の街並みだった場所がものの一瞬で壊滅状態になり、辺りはただ火の海に包まれた戦場へと変わり果てていた。
迅の経っている場所が、まるで天国と地獄の境界線のようになっていた。
トリオン体なのにも関わらず冷や汗が頬を伝う。
ボーダー最強の力の一端を嫌でも痛感した迅は、風刃を握る手の力が強まった。
後ろから、陣形を立て直した精鋭部隊が合流する。
「迅、何か視えたか?」
レイジが迅の隣に並びながらレーダーで真昼の位置を確認する。真昼はバッグワームを装備していないため、常にレーダー反応がある。
今はゆっくりと歩いているのだろう、建物を避けながら徐々に近づいている。
「一旦爆撃が来る気配はない。さっきまでの爆撃も肩慣らしみたいなものだ。本番はこっからだ」
「肩慣らしだろが何だろうがどうでもいいわよ」
「…小南」
「正直、遠征だとかはどうでもいい。ただあたしはもう昔みたいに弱くない、もうあいつの隣で一緒に戦えるって証明しなくちゃいけないの。あんたたちがどれだけやられようと、あたしは気にも留めないから」
「…わかってるよ。この中で一番火力があるのは小南だ。嫌と言われても小南には前に進んでもらうさ」
玉狛支部の面々が話ていると、前方の建物が次々と切断され倒壊していく。
それはどんどん近づいていき、それを行った人物はやがて迅たちがいる道路の対角線上へと現れた。
死神の象徴たる大鎌を引きずりながら現れたその人物は、迅たちと向き直る形で止まった。
「…真昼」
「おーおー来たな真昼のやつ。やっぱ今日はやる気満々だな」
「集中しろ太刀川。先ほどの派手な爆撃といい、今日のあいつは最早いつもの戦術ではない。今まで以上に手ごわいぞ」
『…真昼さん』
真昼の姿を捉えた迅と太刀川、風間、そして三上がそれぞれの反応を溢す。
いつもの優しい面影は今の真昼にはない。
何も動きが無い真昼に警戒が強まる。すると、突然真昼の頭上に巨大なトリオンキューブが生成された。
それは分割されることは無かったが、その代わり今まで見たことがない現象が迅たちの目の前で起こっていた。
「ちょ、太刀川さんあれは」
「ん~
「…二宮さん」
「見たことがない現象だ。俺には何が起きているかわからん」
出水が太刀川に、三輪が二宮に、それぞれの隊で個人的に真昼と戦っている回数が多い隊員に、真昼が今行っていることを知っているか確認するも、太刀川も二宮も初見の反応を示した。
真昼の頭上に浮かぶトリオンキューブはみるみる小さくなっていき、やがて真昼の胸の前で手のひらサイズへと収まった。
すると真昼はその小さくなったキューブを両手の掌を合わせる形で押しつぶした。
一体何を、一同がおなじ疑問を浮かべたその瞬間、真昼はその両手を大きく広げると、中からまるで槍のような形をした光り輝くトリオンの塊が誕生した。
それを右手で握ると、まるで槍投げをするかのように振りかぶる。
『膨大な量のトリオン反応を感知!密度数値が異常です!」
「全員、前方に集中シールド!エスクードも多重生成!」
三上がすぐさま分析した情報を全隊員に流す。それを聞いた、この隊での司令塔を担う迅がすぐさま次の指示を出した。
基本的に迅はこの戦いで常にサイドエフェクトを使い未来を視続けているのだが、現状、指示を出すときに若干の遅れが出ている。というのも、迅のサイドエフェクトというのは、確定した未来だけが視れるのではなく、
その中でも真昼との戦闘は、視える可能性の未来が多い、または視ても意味のないほどの広範囲攻撃などが飛んでくるため、ほぼ未来視が当てにならないというのが迅の負担をさらに増していた。
そして今回の未来も同じく、迅が視えていた真昼の未来はいくつもあった。
当然、今起きようとしている未来も視えてはいたが、実際に起きる可能性は低い未来だったため指示を出す判断が遅れたのだ。
それに加え、目の前で真昼が引き起こした現象は本来あり得ないものだった。
弾トリガーを使う際に出現するトリオンキューブは必ず本人のトリオン量の最大サイズが現れる。そこかからサイズを縮めるとなると、それは弾を分割するしかない。
だが、真昼が行ったのはそのトリオンキューブを分割せずにサイズを縮小させ、さらにはその形すら大きく変形させたのだ。トリオンというものを知っている人ほど、この現象を目の当たりにした時の衝撃は大きかった。
凄まじい速度で投擲されたトリオンの槍は、地面を抉りながら真っ直ぐに迅たちの下へと放たれた。
何重にも合わさったエスクードに当たった瞬間、眩しい光が周囲を包みこみ、時間差で大きな爆発音が鳴り響いた。あまりの衝撃に大地は揺れ、周囲の建物は爆発による衝撃波で硝子は砕け、耐えられず根元からへし折れ吹き飛んでいく。
着弾した場所を中心に大きなクレーターが出来るも、着弾地点が迅たちよりもだいぶ放れていたからかベイルアウトを意味する光の柱は登っていない。
だが明らかに規格外すぎるその威力を放ったトリガーの正体はメテオラだというのはわかった。真昼ほどのトリオン量があればこのような惨劇も引き起こせるだろうことも一同は理解できている。だがそれでも威力が増しているのではないかと考えた三上はすぐさま先ほどの攻撃の正体を分析する。
弾の基盤となったのはメテオラ、これは間違いない。
なら今突き止めなければいけないのは、その威力がました原因と変形させた方法。新しいトリガーかと一瞬考えがよぎるが、迅の未来視で真昼のトリガー構成は割れている。
ならば最初から真昼が持っていたもの、もしくはできていたことというものになるが、真昼がこれまで行ってきた全ての戦闘ログが頭に入っている三上は、今さっき真昼が見せた現象は初見であることに気づく。
ならばメテオラのトリガー事態を改造したか。
『(それと、真昼さんのあの投擲速度もおかしかった。恐らく身体機能をサイドエフェクトで強化してるんだ。そうなると、少なくとも真昼さんは感知と身体強化を同時に使ってる。やっぱり無茶して…あれ、そういえば真昼さんのサイドエフェクトって真昼さん自身のが身体機能強化、それで陽菜ちゃんからもらったのがトリオン感知と…
あることに気づいた三上は急いで通信を全体に入れつつ、話す対象を司令塔である迅に絞った。
『皆さんも聞いて下さい!先ほどの真昼さんの攻撃は真昼さんのサイドエフェクトでトリオンの形を変形させた威力重視のメテオラです!おそらくあの巨大なトリオンキューブを圧縮させることで、着弾時に急激に基に戻ることで圧縮が解放され、その力を利用して威力が底上げされているんだと思います!
この攻撃をする時、真昼さんは、感知、身体機能強化、トリオン変形の三種のサイドエフェクト効果を使っています!真昼さんの持つサイドエフェクトはデータ上は二種類ですがこれらの効果を分けると実質三つの能力をもち、どれもが使用時に脳に負担を与えるものなので、連発はできません。また、もしまたあのような攻撃をしてきても連発はできないはずです!使用直後、もしくはその後の戦闘では疲労が蓄積され隙もできやすくなるので、元の作戦を継続しつつ狙っていて下さい!』
「「「了解」」」
「ありがとう三上ちゃん。これでだいぶ戦りやすくなった」
三上の分析を聞き、一同はその情報を頭に入れ戦闘態勢に入る。
前方には大きなクレーターが出来ており、何重にも張ったエスクードは跡形もなく吹き飛んでいた。
これまでの攻撃を喰らっても誰一人落ちていないのは運が良いとしか言えない。
前方からゆっくりと歩いてくる死神は、血のように赤いその瞳を輝かせてはこれから刈り取る命を視界に映す。
やがて自身が作り上げたクレーターを挟んで、迅たちと対峙する。
「よお真昼。随分と派手なことをしてくれちゃって。もう少し手を抜いてくれてもいいんじゃない?」
「あれで死ぬ程度ならボーダーなんかやめろ。自分が弱者だと気づけず力を過信し奪われる。自身が正義だと疑わない貴様らが向こうの世界に行った時に引き起こされる未来だ。あちらの世界では奪う行為が正当化される。強者は奪い、弱者は全てを奪われ、踏みにじられ、嬲られる。それが向こうの理だ。この世界では奪うことは悪だ。だが奪う行為を正当化できず、正義であり続けようとする貴様らは、向こうの世界では弱者になる。だから今日ここで教えてやる。貴様らは正義の弱者で悪の俺に奪われるだけだと。そして二度と向こうの世界に行きたいという戯言が吐けないようにしてやる」
命を刈り取る大鎌を迅たちに向ける。
死神が命を摘み取る未来まで残り5秒
〈トリガーセット〉
【メイン】
オルサイズ改 旋空 幻踊 ?
孤月 スコーピオン バイパー アイビス
【サブ】
シールド エスクード スパイダー メテオラ
アステロイド(拳銃) スコーピオン バイパー グラスホッパー