独りにしませんいつまでも 作:残念G級
ちょっと、持病の調子が不安定で元気な時との波が激しく書き進めませんでした!
間が空いて話の作りがおかしくなっているので、タイミングを見計らっていつか書き直します!
一先ず更新しますというのと、話を先に進めていきたいという意味も込めて、投稿させていただきます!
駄文ですが、楽しんでいただけると嬉しいです!
あれから迅たちの猛攻を真昼は軽々躱し、対して迅たちは苦しい顔をしながらもなんとか真昼の攻撃を防ぐという、お互いに攻撃を仕掛けてはそれを防ぐという激しい攻防が続いた。
皮肉にもこれまでの戦いで戦闘員が減ったことにより、数の多いOPが役割分担をしてすぐに真昼の攻撃を分析したり、ほぼ専属でサポートすることで適切な回避行動ができるようになったのだ。
だが、本来ならその程度で真昼の猛攻を防ぐことは不可能に近い。ならどうして防げているのか。それは三上が考案した今回の作戦にあった。
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「今回の戦いですが、勝利するための前提条件が1つだけあります。それは、どれだけ真昼さんに長時間サイドエフェクトを使わせられるか、です」
真昼との決戦前日、全員で最後の作戦会議をしていると彼のOPである三上がモニターを使って説明し始めた。
「わたしは戦いについてはよく分かりませんが、真昼さんのOPをやっていてわかっていることがあります。…おそらく皆さんも感じているかもしれませんが、真昼さんはこのボーダーという大きな組織の中で、一番強いです。ここにいる誰よりも…」
いつもの可愛らしい雰囲気を一切感じないほど真剣な表情をする三上は淡々と事実を述べていく。
「真昼さんの強みを挙げると、まず純粋な戦闘能力と圧倒的なトリオン量、そして瞬時に戦術を組み立てたり逆に相手の狙いを看破する頭脳、その場に適したトリガーに切り替えたりする技術、そして戦闘において大きなアドバンテージを誇る二つのサイドエフェクト。細かく言えばもっとありますが、今回はまとめて挙げさせてもらいますね」
モニターには真昼の戦闘シーンが切り抜かれた画像がいくつも映し出され、いま三上が挙げた真昼の強みが記載されていた。
「これだけ見たら真昼さんとの戦闘は正直無謀だと感じますが、今回においてはこちらが圧倒的有利な部分があります。それは…
三上の発言と共にモニターの画面が切り替わり、真昼のサイドエフェクトの能力が詳細に書かれたものが映し出された。
「推測にはなりますが、今回の真昼さんはほぼ常時、感知のサイドエフェクトを使っていると思います」
「…なるほど。こっちの位置や狙撃、弾トリガーやバッグワーム、カメレオンの奇襲を警戒してってことだな」
「そうです。こちらの有利な点である〈数的有利〉には戦闘で使えるトリガーの種類が多いということにも繋がります。取れる戦術が多いだけでも真昼さんの思考を削れます」
三上の説明に、さりげなくその内容の開示をしながら納得する東。
「迎撃をするためにも真昼さんは必ず感知のサイドエフェクトを常時発動してきます。ただ、これだけではあの真昼さんを倒せる条件を達成できたとは言えません。真昼さんの持つ二つのサイドエフェクトには、その肉体に負担が大きいものがあります」
「…超身体機能強化」
ぼそりと小南がつぶやく。今回真昼と戦う者の中で最もボーダーの古株で真昼との付き合いが長い小南は真昼自身が持っていた超身体機能のサイドエフェクトがどれだけ強力で辛いモノなのかを知っている。
「このサイドエフェクトの具体的な効果ってなんだ?前に真昼自身から聞いたことはあるが、要は脳の処理速度を強化して視える景色をスローモーションにしてるんだろ?使ってるときのあいつはそこまで辛そうには見えなかったぞ」
太刀川が飲み物を飲みながら疑問を吐き出すと、それを聞いた小南が過去の真昼のことも含めて話し始めた。
「今はそういう風に上手く使ってるけど、それは陽菜ちゃんのサイドエフェクトである感知とトリオン操作の操作の効果を応用して生み出したものよ。もともとの真昼のサイドエフェクトはそんな便利なモノじゃなかった…」
まだ小南がボーダーという組織に入りたての頃。大人達に混ざってる自分と同年代の双子の兄妹。
色んな才能に恵まれた二人だったが、決まってその二人の朝は決して幸せそうなものではなかった。
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ!?」
小南が朝方に当時のボーダー本部に訪れる時、本部内ではほぼ毎回真昼の苦痛に悶える叫ぶ声が響いていた。
それを陽菜と二人の父親である新希が介抱している姿が小南の視界に写る。
陽菜は自身の兄が苦しむ姿に涙を流し、新希はタブレットを眺めながらなにやら険しい表情を浮かべていた。
しばらくしてなんとか落ち着いた真昼は気絶したように眠り、小南は新希たちに先ほどの真昼のことを聞いた。
そこで小南が聞いたのは、真昼の持つサイドエフェクトのことだった。
“超身体機能強化”という名のその力は、人間の持つあらゆる機能が強化されるというものだった。
その説明を聞いた瞬間、もの凄く強い力なんじゃないかと思った小南だったが現実はそんなに甘くはなかった。
詳しく聞くと、どうやら強化される機能は日によって変わるらしく、得られる恩恵も上昇値もランダムだという。
つまり、ほぼ毎日別のサイドエフェクトの効果に悩まされ、いくら努力してそれに慣れようとしても日を跨いだら切り替わってしまうため、完璧に使いこなすのは難しいらしい。
それを聞いた当時の小南は絶句した。サイドエフェクトを持たない小南からしたら、最初はそういった特別な力を持っているだけでなんか強そうで良いな、と思っていただけに、ものによっては生きている事すら辛いと感じてしまうのではないかと感じたのだ。
それから小南は自分にできることは少ないかもしれないが、なるべく早めにボーダー本部へと脚を運び、真昼のサポートをしようと決めたのだ。
「その後、陽菜ちゃんたちの協力や本人が慣れたってのもあって、日常的に困らないレベルになったのよ。ただ時折あたしたちに隠れて苦しんでるのを見たことがあったから、いくら今コントロールできたとしても長時間使用は負担があるんじゃないかしら」
過去の話も踏まえた小南の話に、各々の反応はまちまちだった。その中でもサイドエフェクト持ちである迅や菊地原はその力に振り回される辛さを知っている。ただ、知っているからこそ、一つの力だけでもこうして慣れて上手く付き合うまで苦労したのに、それが毎日違う力に苦しまされるとなったら一体どれほどの辛さをその身に受けたのだろうとも思った。
「桐絵ちゃんの話で出た通り、真昼さん自身のサイドエフェクトである超身体機能強化は強力である反面で負担も大きい。なので、これと感知をどれだけ併用させ真昼さんの体力を削れるか、これがこちらが取れる真昼さんに勝てる可能性がある唯一の作戦です」
グッと自身の小さな手を握る三上。彼女の表情はどこか葛藤が見えた。
誰もが彼女のその表情を見て、こんな手段を取りたくなかったのだろうと推測した。
それもそうだろう、誰が想い人が苦しむ作戦を立てたいというのだろうか。
だが、今回の戦いはそれでも勝たなければいけない。
なぜなら、もしこの戦いで破られれば、一ノ瀬真昼事態がこの玄界からいなくなってしまうかもしれないのだから。その身を血で染め、死ぬまで孤独を味わうことになるかもしれない。
真昼とある程度付き合いがある者なら誰も知っているのだ。
一ノ瀬真昼は表に出さないだけで“孤独が嫌い”だということを。
想い人が自らを犠牲にして孤独を歩もうとしている。
先日の自分達に放たれた真昼の持つ最大の殺気と怒り、その理由がこっちの身を案じての行動ということ理解しているからこそ、彼の手を離さないために今回の戦いで彼の弱点を徹底的に突くと三上は決めたのだ。
「なので、近・中・遠距離、そして全体のサポートをする部隊に分けます。そして陣形を組み真昼さんと一定の距離を取り、常に感知と身体強化のよる脳の強化を使わせます。真昼さんが狙うはおそらく短期戦であり前半から猛攻を仕掛けてくると思います。なので最初はどれだけその猛攻に耐えられるかが勝負の鍵です。こちらの優位点である人数を減らされてしまうと勝率はかなり減ってしまい、その隙を速攻で狙われます。なので、誰が墜とされてもすぐに対応できるように、様々なパターンを組みましょう。わたし達に出来る限りのことを尽くさないと、真昼さんには絶対に勝てません」
覚悟の決まったその三上の眼差しに全員が頷き、同時に身を引き締める。
それほどまでに相手は強敵であることを再認識し、その後、全員で作戦を立てたのだった。
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「脳に負荷を与えるのが作戦か。そこまで耐えられると思われているのは不愉快だな」
「流石のお前もこのメンツだと厳しいだろ?」
「未来視で防御が得意でもやりようはある。それに風刃は近づかれたら終わりだぞ、迅」
ヒットアンドアウェイに勤め時間を稼ぐ迅たち。だが、それを当然読んでいた真昼は、この状況で最も距離を取らせたくない迅へと距離を詰める。
本来ならトリオン体に筋力差というのはあまり関係ない。基本的な機動力などは自分の想像力で決まる。なのだが、トリオン体のコントロールが上手く、サイドエフェクトの能力でトリオン体の強化ができる真昼は別。
こうして鍔迫り合いの状況になれば、真昼の方に分がある。
現に、迅は真昼に押され始めた。
「だけど、こうして真昼を止めることで出来ることはある」
真昼を囲み襲うハウンドの嵐。レイジ、二宮、加古の援護射撃は様々な軌道を描きくそれを、真昼はバイパーを展開、その瞬間に迅が後ろに飛び距離を取るも、一旦それを無視してハウンドを全て相殺する。
防いだ際に生じた煙を真昼はオルサイズを素早く降ることで払うと、次の一手が繰り出された。
真昼の頭上から大斧を振り下ろす小南、背後からカメレオンで姿を隠して接近していた風間、迅のいた正面を太刀川の旋空が放たれる。
「…クロノス」
太刀川の旋空を受け止めたオルサイズの刀身が淡く光る。それを確認した小南と風間はすぐさま自分の前にシールドを展開。すると一瞬でそのシールドが斬られては砕け散る。小南は脇腹を微かに斬られ、風間は近づきすぎたために左腕を斬り落とされながらもそれぞれ上手く真昼から距離を取った。
小南に関しては距離を取る際にメテオラを至近距離でお見舞いするも、簡単にシールドで防がれていた。
またも生まれる煙幕。それを狙い、再度ハウンドの嵐と迅の遠隔斬撃が放たれる。が、これも地面から斜めに生やされた複数のエスクードが、まるで蕾のように真昼を包んで攻撃を防いだ。
「…っ!全員跳べ!」
迅の突然の叫びに似た指示が響く。全員が反射的にその場で大きく跳躍すると、地面と水平に飛んでくる真昼の巨大な斬撃。
一定の広さを保って展開されたエスクード蕾の中で、一回転しながらのオルサイズ旋空。
一瞬で全員の脚が切断された未来を視る事が出来たことで出来た回避。
もし回避が間に合わなかったら、そのまま負けが確定していたことが分かっていた迅は冷や汗をかきながら重い息を吐いた。
「よく躱すな」
「それが取り柄なものでね」
「未来視…か。その眼はちゃんと勝利を視えているのか?」
「…どうかな。未来は無限に広がってるからな。最善の未来へ行くために今俺は動いているんだよ」
「…最善の未来だと?この戦いに勝ち、遠征に行くことがお前の言う最善の未来に繋がるのか?」
「そうだ…って言ったら真昼は負けてくれるのかな?」
正面で向き合う迅と真昼。その表情はお互いに真剣なものだったが、真昼の方がどこか余裕のなさそうなモノへと変わっていた。
「遠征に行くのが最善。それはその遠征先で何が起きるのかも含めてのものなのかは俺の知る由は無い。だが少なくとも近界に行くことは許さない。
「…」
「何も奪われたくない、外の力を知らない、悪になる覚悟もない。こんな奴らが迎える未来は悲劇しかない。
正面を向いているはずの真昼の瞳にはなにも写っていなかった。しいて言うならどこまでも暗くどす黒いナニカ。それが真昼に視る世界を染めていた。
記憶になくともその時に生まれた痛みが自信の身体に刻まれている。
「奪われないようにするには奪うしかない。だから俺は奪う。奪う行為が悪であると自覚してもなお、俺はこの身を堕とし続けた。その覚悟を持つことが出来なかった、理想を語るしかできない貴様らにこの戦いを譲るつもりはない」
目にも止まらぬ速度でオルサイズを振り回す。
瞬時に旋空を起動し、まるで巨大な鞭のような刃が全員を襲う。二宮たちはもともと距離を取っていために避けることが出来たが、太刀川の左腕が落とされた。
小南と二宮のメテオラもクロノスで防いでいく。
「弱者が語る理想は戯言でしかない。自分の力を過信し、自分なら何でも守れると息巻いた弱者の結末を貴様らは知っているはずだ。失う痛みを知っているはずだ。それなのに……それなのになんでわからない!?」
オルサイズの勢いが増していく。その威力は次第に風を纏い、周囲の瓦礫が巻き込まれて空へ舞っていく。
「いい加減自覚しろ!貴様らは弱い、力も
身体能力を最大限まで強化させた真昼が繰り出すオルサイズの乱撃が、その凄まじい威力に寄り真昼を囲むように竜巻が生まれる。宙に舞った瓦礫が真昼を守る盾になっていた。
「教えてやる。あの日、愚かな弱者だった一ノ瀬真昼がどのような結末を迎えたか」
大振りの横薙ぎが繰り出される。宙に舞った瓦礫が迅たちに降りかかる。間を縫うように旋空やバイパーが繰り出され、迅たちはシールドを展開しながらもなんとか避けていく。
防戦一方、そんな状態が続いていたその時、ある人物が斬り落とされた太刀川の腕が持っていた孤月を真昼目掛けて思い切り投げ放たれた。
片手で投げられた孤月を掴み、飛んできた方向へと視線を移す真昼。その瞳に写る人物は真昼画よく知る人物だった。
「…っさい」
両手の小型の片刃斧を握る手が強まる。
俯き、肩が震える人影。
「…るっさい」
いつものの長髪と違い、綺麗に切り揃えられたボブの髪。
バッと顔を上げると、そこには普段の明るく眩しい笑顔はなく、涙を流すその瞳は怒りを込められ真昼を捉えていた。
「うるっっさい!!」
小南の怒声が戦場に響いた。
予想外の反応に真昼はわずかに瞳を見開いた。
「それ以上、あたしの憧れた男の子を馬鹿にするのは許さない!例えそれが真昼本人だろうと絶対に!」
「お前の憧れなぞどうでもいい。誰が何を言おうとあの日の全てを奪われた一ノ瀬真昼は弱者だ。自分の力を傲り、戯言を吐き散らし無様に奪われた愚者だ」
「やめてッ!真昼は弱くない!誰よりも強く優しくてあたしがずっと追いかけてた子よ!どんなに奪われても戦うことをやめなかった、誰よりも強い子が一ノ瀬真昼なんだからっ!」
「優しさがなんだ。戦うことをやめなかったからなんだ。強ければ俺はこうなっていないんだよ。この身は血で汚れず、半端な人形に成り下がることもなく、隣には陽菜がいるはずだ。……現実を見ろよ!憧れは現実を隠す!今お前が見ているのは、憧れを言い訳に現実を無視しているだけだ!」
「だったらなんであたしや迅、レイジさんはここにいるのよ!?あの日のあんたが奪われるだけの弱者って言うなら、なんであたしたちは奪われてないのよ!?あんたよりも弱かったはずなのに、あたしたちは今も生きてる!それはあの日の一ノ瀬真昼が守ってくれたからじゃないの!?」
「……っ!」
動きが止まった真昼に小南は大斧を振り抜く。
不意を突かれたからか、なんとかオルサイズを盾にするも、あまりのパワーに受け止めきれず、ビルへと吹き飛ばされる真昼。
「奪われたものはあるのは認めるわよ!でもそれはあんただけの責任じゃない!あたしも弱かったから!あの時、陽菜ちゃんに庇われなければ…きっと陽菜ちゃんは今も生きてた。あの日のあたしが弱かったから、陽菜ちゃんも真昼も奪われた!大切な人を、大好きな人を奪われた!あんたが受けた色んな傷も、陽菜ちゃんがブラックトリガーになっちゃったのも、元はと言えば全部あたしが弱かったから!でも今はあの時とは違う!少しは強くなった!真昼程ではなくても、あんたの背負ってるものを少しでも一緒に背負えるようになれたから!だから少しは……あたしたちにも責任を負わせてよ!」
小南桐絵は弱い奴が嫌い。これはボーダーで彼女を知っている者のほぼ全員が認識していることだ。
だが、その理由または経緯はほんの一部の者しか知らない。
ただ、知っている者は全員がその理由も経緯も納得している。
そして、全員共通して“自身の弱さを憎んでいた”。
その感情が、共通している全員の中で一番大きく小南が抱えていたもの。
自分が弱いせいで、尊敬し愛する人を目の前で奪われたのだから。
弱いと何もできないと、奪われるだけだと知ってしまったから。
だから、小南桐絵は弱い奴が嫌いなのだ。
だから小南は今まで抱えていた全てをぶつける。あの日、目の前で失ってもなお、いつか必ず帰ってきてくれると信じて、ただ力を求めた。
もう奪われないように。
もう独りで背負わせないように。
強さだけをただ追求してきたのだ。
小南は察したのだ。ここしかないと。自身の言葉を届けるなら、面と向かって言い合えるのは、この戦いでしかないと。
「あんたが今こうして目の前にいるのは、あの日からずっと諦めないで戦ってくれてたからじゃないのっ!本当に弱い人なら、きっとその時に心が折れてる……でも真昼はずっと戦った。奪われるものは多かったかもしれないけど、でも
「……」
小南の言葉を聞いて壁に打ち付けられるも倒れない真昼だったが、ただ俯いていた。彼の頭に反響する小南の声に乗せられた言葉の数々。それと同時に微かに流れるかつての記憶。声にはノイズが走り、光景は靄がかかったかのように視る事が出来ない。
やがて亀裂が走り、ポロポロと砕けては朽ちていく。
その破片を一人の少年が泣き叫びながら拾い集めるも、残酷にもその手からすり抜けさらに粉々に堕ちていく。
どれだけ必死に手を伸ばそうと足掻いても空を切る。
やがて少年は現実を知り、ただ膝を抱えて泣く。少年を照らしていた光ですら、見るも無残に散っていった。
闇が全てを呑みこむ、何も見えず、得られる情報はただすすり泣く声が聴こえるだけ。
その声すらどんどん小さくなり、そして消えた。
「……っ!」
突然動きが止まった真昼に視線が集まる。戦場で対峙している小南たちや何かに驚いている迅、作戦室でこの戦いを見守る三上たちも、モニター越しに真昼を視ていた。
「まひ…っ!?」
小南が手を伸ばそうとした瞬間、真昼は右手で拳を握ると、それを後ろの壁になっているビルへと殴りつけた。何度も何度も、まるで癇癪を起した子どもみたいに。
「奪われて……ない、だと。ふざけるな…ふざけるな!!全部じゃないだと?!現実が見えていないのなら教えてやる!一ノ瀬真昼はあの日にもう死んだ!全てを踏み躙られ奪われ死んだ!弱かったから死んだ!自分の力を驕っていたから死んだ!最早ここにいる一ノ瀬真昼は亡霊に過ぎない。感情は抜け落ち、肉体は化物へと作り替えられた。汚され嬲られ堕ちたこの身体は悪に染まりきってる!照らしてくれる者はもうすでに奪われた!!覚めない夢に囚われるお前らにもう一度言ってやる!
お前らと共に過ごした一ノ瀬真昼は
ビル壁を殴り続けていた真昼。その拳には怒りが込められており、限界を迎えた壁は亀裂が走っては崩れていく。降ってくる瓦礫を鞭のようにしならせたスコーピオンで細かくブロック状にしては小南たち目掛けて蹴り飛ばしてはグラスホッパーも併用して飛ばしていく真昼。
トリオン体に直接的なダメージは無いが、それでも直撃すればその際に発生する衝撃は受ける。
それは小南たちも十分理解しているため、走りながら避けては真昼の動きを見逃さないように注意深く観察していく。
「…もう一ノ瀬真昼は死んだんだ。そうだ。もう死んだ。陽菜も奪われた。だから俺に残ってるものなんか何も…。そうだ、約束したんだ。約束しかない。それしか残されてないんだ。でも約束ってなんだ。一体何の約束が俺に…。あぁ、壊すんだ。全部。壊さなきゃ。でも何を?目の前にいる敵兵を壊すんだ。それが任務で俺は今戦場に立っていて殲滅しなければ。約束を彼女と戦場に一ノ瀬真昼は壊れ…。」
すると、徐々に身体をふらつかせ、焦点の合わない目を向けて片手で頭を押さえながらぶつぶつと呟く真昼。明らかに様子がおかしくなっている真昼を視て驚く小南たち。だが、その姿を見た迅は自身の未来視で視えたものが確信へと変わった。
『…全員、いいか?』
内部通話を全員につなげる迅。すると、真昼の様子がおかしいことに戸惑う小南が一目散に迅に反応した。
『迅!どうしよう、真昼の様子が!』
『落ち着け小南。迅、どうした?』
今にも泣きだしそうな表情を浮かべる小南を落ち着かせるレイジ。一先ず、迅の話が進まないことにはできることがないため良い判断と言える。
『…未来が大きく変わった。今の真昼は当初の予定にもあったサイドエフェクトの疲労と、さっきの小南との話で精神的に不具合のようなものが起きてる』
『…不具合って』
『さっきの真昼の言葉を借りるなら、あの日連れ去られ奪われ続け弱者として死んだ真昼、記憶を失くし奴隷兵として生きてきた真昼、そしてこっちに帰ってくる時みたいに陽菜ちゃんと交わした約束だけを目標とした真昼。これらの精神意識が浮上して混ざってる状態が今の真昼だ。視える範囲で、しばらくはこっちに攻撃してこない。その代わり、サイドエフェクトを無意識に全開してるのかこっちの攻撃も防がれる。まあ予定通りサイドエフェクトを使わせてることになるから、ラッキーだと思ってくれればいい』
『…あの状態の真昼を放っておいて大丈夫なのか?』
この場で小南と迅の次に付き合いが長いレイジが真昼の状態を確認する。真昼のサイドエフェクトは脳に負担がかかる。一定のラインでは疲労だけで済むが、度が過ぎればどうなるかわからない。それをレイジは心配しているのだ。それはモニター越しで観ていた三上も同じだった。一ノ瀬隊のOPとして傍で見てきたからこそ、脳の負荷の重さを理解していたから。
『あまりよくはない。でもだからと言って急ぎすぎるとこっちがやられる。真昼がこっちに帰ってきてから俺の未来視で視えづらくなってる。いつまた視えてる未来が閉じられるかわからないから少し慎重に行きたい、けど…』
ちらりと迅は真昼へと視線を移す。苦しそうに頭を押さえてもがいている真昼の姿が迅の瞳に写った。
明らかに正常ではない。むしろ壊れかけていると言った方が正しいだろう。
『そんな余裕はないね。このままだと真昼が保たない。レイジさんと加古さんと二宮さんはサポート。アタッカーは距離の詰めすぎないように動いてくれ。攻撃の手は止めないで、最後の一撃は小南、そこまで全員で繋げる』
『『『了解』』』
「敵は、殲滅…全部…壊れろ!!」
真昼は全力で地面を踏み砕く。地面が砕け砂埃と共に衝撃波が迅たちを襲う。
全員がその場から回避すると、その退路に向かって迫るバイパー。レイジが自分と二宮、そして加古を守るようにエスクードを展開。それと同時に各OPが全員分のバイパーの弾道予測を全員に送信。それを受け取ったサポート組が的確に迅たちのバイパーを相殺していく。
『攻撃が単調になってるな。思った以上に削れてたのか?』
『真昼の変化を見るに、小南と言い合ってから崩れ始めたように見えた。本人も想定外のなにかが起きたのだろう』
『…なら攻めるなら今か…いや、油断できないなら削れるまで削った方がいいでしょ。…小南、できるか?』
『待て太刀川!それはリスクがでかい。今は迅の判断に任せた方が…『いや、大丈夫だ風間さん。太刀川さんのプランで行こう』っ迅!?』
『大丈夫だ。他の誰かならともかく、小南の声は真昼に届く。俺のサイドエフェクトがそう言ってるんだ』
真昼は迅たちに近づかれたくないのか、バイパーを放ちながら、自身を囲むようにエスクードを展開していく。
まるで迅たちの存在を拒絶するかのように。
「俺は彼女との約束を果たす!帰るんだ!彼女のために!もう奪われないように!だから邪魔だ!お前らは邪魔だ!もう何も奪わせない!もう俺から何も奪うな!さっさと全員壊れろぉ!!」
真昼の技である
そしてその突っ込んでくる小南目掛けてオルサイズを振るう真昼。
だが、その瞬間、真昼を囲む無数のトリオン反応が感知に引っかかる。
先ほど太刀川が斬ったのは小南から真昼までの一直線上にあるエスクード。遮蔽物として囲むように展開したエスクードはまだ生きている。のにも関わらずそのエスクードを意にも返さず迫るトリオン反応。その正体は…。
「邪魔だ!」
迅の持つ風刃の遠隔斬撃。遮蔽物を無効化できる斬撃が真昼を襲うも、真昼は脳の処理速度を最大限に強化し、自身の視える世界の時間を遅くさせる。真昼を囲む風刃の斬撃数は6。その全てをオルサイズで捌き、さらには小南の首へと刃を振るう。小南の大斧よりもオルサイズの方がリーチ長い。
「っ!?」
獲った、真昼がそう確信したその瞬間、真昼の視覚情報が途切れた。
サイドエフェクトの酷使による脳の限界。
もはや精神的に不安定な状態でしかも記憶も混濁しているため、途中から的確にサイドエフェクトを行使することが出来なかった。真昼はその状態まで自身に問題が起きていることに気づけなかった。
「真昼っ!」
小南の声が真昼の頭に響いた。
「さっきからあんたらしくない事ばっか言って!何が一ノ瀬真昼は死んだよ!だったら今あたしたちの前にいるのは誰なのよ!」
「っ!」
「あたしたちはもうあんたに守られるだけじゃない!もうこれ以上奪われないように強くなった!だからっ!」
小南の大斧がオルサイズをはじく。その威力に思わず身体が仰け反り体勢を崩す真昼と、はじいた勢いを利用して大斧を振り上げ追撃の構えを取る小南。
「あんたの抱えてるもの、さっさとこっちに寄越しなさいよっ!」
体勢を崩した状態でオルサイズを振るうのは不可能と判断した真昼は、小南の大斧を振り下ろす腕の軌道上にグラスホッパーを二枚設置。
「あたしをっ…!」
だが、その二枚をレイジの弾丸と迅の遠隔斬撃が破壊する。
「あたし達をっ…!」
すぐさま小南との間に集中シールドを展開するも全力で振るわれた大斧の威力に無残にも砕かれた。
巨大な双月の刃が真昼に迫る。
「舐めんじゃないわよぉぉぉ!!」
刃が真昼のトリオン体を抉るその瞬間、小南は一瞬真昼を視た。
その小南が視た光景、それはこうして対峙するずっと前、真昼がこっちの世界に帰ってきてからたくさんの時間を共に過ごしてやっと見せてくれるようになった、まるで宝物を見守るような優しく微笑む真昼の表情だった。
地面を大きく抉る強力な一撃が、確かに真昼を捕えた。