独りにしませんいつまでも   作:残念G級

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未来

あれから、俺が起きたことを聞いたのかたくさんの人が俺の前へ現れた。

小南、レイジ、忍田、林藤、城戸、ゆり、桐山、そして保護対象だった瑠花、クローニン、陽太郎。

本当にたくさんの人が俺の前に来てくれた。

 

血だらけになったベットは流石に良くないから、いろいろ掃除や手当をした。

それから迅は、みんなが集まったことを機に色んなことを俺に教えてくれた。

俺のいた世界がここだったこと、俺はボーダーという組織の創設メンバーであり、いろんな研究や開発をしたり、ボーダーの仲間と切磋琢磨していたこと。

そしてある日、ボーダーの同盟国が戦争を行うためその助けに向かったこと。

そこで俺は、敵国に連れ去られる陽菜を追ってゲートに飛び込んだこと。

そして一週間前に俺は命からがらこの玄界に戻ってきたこと。

 

本当にたくさんの事を教えてくれた。

正直その話を聞いてなにか思い出だせたというわけではないが、でもなんだか、失くしていたものの一部が見つかったような気がした。

 

俺のために話してくれたのだ。だったら、俺も彼女達に話さなければいけない。

知ってほしいんだ、彼女が、陽菜が生きてきたことを。

どれだけ頑張ってきたか、どれだけここにいるみんなの事を大切に想っていたか、愛していたか。

だから話そう。聞いていて気持ちのいい物ではないだろうけど。

 

俺は彼らにこれまでの事を話した。

連れ去られた後の事を。

奴隷になった。毎日が戦争で、誰かが悲鳴を上げては死んでいって。

人体実験を受けた。感情が、記憶が、壊され、ただの兵器へと生まれ変わるように。

人を殺した。敵味方問わず、罪のない人々も関係なく。

今思えば、陽菜は泣いていたのだろう。いつも彼女は戦場で頬を濡らしていた。

表情を崩さす、ただ眼を腫らして。

感情を、記憶を取り戻すその瞬間まで、陽菜は泣いていた。

兵器になってもなお、彼女の根底にある優しさが残っていたのだと。

俺は全て話した。

陽菜が黒トリガーになったことを。

陽菜との約束も。

 

「これが、ここに来るまでの俺と彼女の話だ」

 

音はなかった。涙を流す者、眉間にしわを寄せる者、険しい顔の者、みんなそれぞれの表情を浮かべていた。

それが俺たちを想ってのものだというのはなんとなくわかった。

それがどこか嬉しくて歯がゆくて、でもなんだか、大切にしたいと思わせてくる。

ハッキリと記憶はないけど、でもずっと陽菜が帰りたがっていた理由みたいなのが分かった気がして。

 

「…俺は、これからどうしたらいい」

 

「…そうだな。真昼は何をしたい?なんでもしていいんだよ真昼は」

 

「俺は…」

 

やっと帰ってきたのだ。

覚えていないが、陽菜と約束した帰る場所というのはおそらくここなのだろう。

ならば俺はここにいた方が良いのだろう。

今はまだ、俺自身のやりたいことが見つからないから。

ただ、陽菜は記憶をなくす前、言っていた気がするのだ。

帰る場所が大好きなのだと。

皆といたあの場所が大切で大好きな宝物なのだと。

だったら俺は、陽菜に生かされたこの命を、あの子が大好きだったもののために使いたい。

そう思った。

 

「…俺には何もない」

 

「…」

 

「お前たちが話してくれた思い出も何も今の俺には残っていない」

 

本当の事だ。陽菜との最後の日、断片的には思い出せたがそれでも陽菜と一緒に旅をしていた間にその記憶も壊れた。いや、壊した。進むために。

 

「俺に残されたものは、あの子の、陽菜の想いでだけだ。

囚われた時もあの子はずっと言っていた。帰りたいと、みんなと会いたいと。時が経つにつれ壊れていくギリギリまで、陽菜はお前たちを、この世界を想っていた。

俺は…陽菜(あの子)に生かされた。陽菜の想いを継いだ。なら俺は、あの子が好きだったこの世界のためにこの命を使いたい」

 

思わず手に力が入る。ああ、そうだ。俺には何もない。俺の中は空っぽなんだ。そんな俺を動かしているのはきっと…

 

「…あの子の意思だけが俺を動かしているんだ。だから…」

 

そっと目をつぶる。確かに陽菜の意思で俺は動いている。今までも、そしてこれからもそれは変わらない。

ただ陽菜、一つだけ、俺の意思で動くことを許してほしい。

 

「…陽菜の愛したお前たちを、この世界を、この居場所(ボーダー)を、俺は見守っていくよ。…だから迅」

 

俺は迅の眼を見る。先ほど迅が自分のサイドエフェクトの事を言っていた。未来予知という規格外の力。だが万能というわけではないのだろう、その話をしていた時の彼の眼はどこか悲しそうな、辛そうな眼をしていた。

あの目を俺は知っている。たくさんの救えたかもしれない命をその手から取りこぼしたのだろう。自分を責める眼。その眼は、戦場で表情を変えず涙を流す彼女の眼とどこか似ていた。

俺はその眼が嫌いだ。見ているこっちまで思わず涙を流しそうになる。痛くないのに痛いのだ。

感情も痛覚も失った人形になってもなお、この痛みは辛く苦しいのだ。ならまともな人間である迅はもっと苦しいだろう。

陽菜と同じ眼をするお前には、俺は苦しんでほしくない。

陽菜とお前が重なるから、だから、その苦しみは俺も背負おう。

あの日、戦場を眺める彼女に手を差し伸べることが出来なかったから。

 

「…ああ」

 

「俺の事を親友だと言ったお前に頼みがある」

 

今度こそ、差し伸べるように。

だからごめん陽菜、俺の意思を入れることをどうか許してほしい。

 

「…俺を使え。お前の力で陽菜の願いを叶えてほしい」

 

迅の瞳が僅かに揺れる。俺の意図が視えたのかどうなのかはわからない。

すぐには無理かもしれない。

でも俺はこいつを助けたいと思う。

陽菜と同じ眼をしたこいつを。

過去の俺とは全く別の俺の事を、親友(・・)だと言った迅を。

 

「…ああ、任せとけ、親友」

 

額に付けていたサングラスをかけて俯く迅。

表情が視えなくなったが、その頬に流れた雫はあの日のものとは違って視えた。

 

 

 

 

それから真昼は退院するまでの間、リハビリや検査などはもちろんだが、その他にひたすら玄界の事について勉強をしていた。

真昼の年齢は現在15歳。真昼は覚えていないが、アリステラの戦争から約2年経過していた。

本来の15歳は今年受験生である。ボーダーの伝手で高校に入学することはできるが、勉強はできるに越したことはないという林藤たちの考えで、真昼は今、小1から順番に勉強テキストを行っている。主に迅や小南、レイジにゆりが主体となって教えていた。

元々、真昼は幼少のころからボーダーのシステム開発なんかに携わっていたこともあって、他よりも頭が良かった。それは双子だからか陽菜もまた同様に頭が良く、二人が年上関係なく皆に勉強を教えている光景は日常だった。

そのせいか、記憶を失ってもなお真昼の学習能力が高く、あっという間に真昼の学力は中学生の範囲を終え、高校三年生の範囲まで進んでいた。

ここまでくると教えられる人間も限られてきて、真昼の病室へたくさんの学習本が入った紙袋を持っていく城戸が目撃されていた。

 

 

そうして真昼の退院日。深く古い傷跡や手術痕は消えなかったが、それでもたくさんの夥しい傷は治っていた。

結局、真昼は記憶も戻らず、痛覚も失ったままだ。

それでも、毎日迅たちがお見舞いに来た影響からか、前よりも表情は柔らかくなった。

だが、少しばかり問題も起きていた。

それは、真昼は陽菜の姿を無意識に追いかける。

それが鍵になっているのか、真昼は女の子に優しい。特に自分と同じ年か、年下の子に対して。

ただ、戦場にいたり実験の影響か、真昼の精神年齢は異常に高い。

それもまた判断材料になっているのか、基本誰にでも優しい。

同性だと、圧倒的年上感がない限りは無意識にお兄ちゃんが出るのだろう。

それらを踏まえ、改めて問題点をまとめる。

真昼は女の子に対しては、無意識に陽菜を重ね、とことん優しくなり甘やかす究極のお兄ちゃんになる。

そしてたちが悪いのは真昼の容姿である。

美少女と間違う程の綺麗な顔立ちは、真昼が入院している病院内で噂になっており、それは院内だけでなくなぜか院外にも広がっていた。

時折、関係者でもないのに噂の真昼を一目見ようと病院に来ては警備員に連れてかれる人がいたほどだ。

そんな最早女の子キラーと化した真昼の毒牙に掛かった者が現在二人。

まず第一号が小南。もともと小さい頃から真昼に対して一定の想いを向けていたことはボーダーにいた者の中では有名な話だったが、今回それに拍車がかかっていた。

真昼に勉強を教えている時も、休憩がてらに雑談を交えるときも、小南はその照れや恥ずかしさから終止顔を真っ赤に染めては眼の焦点が合わないほどにグルグルしていた。

ここまでくるとしばらくはまともに会話することは難しいだろう、とは林藤の判断だ。

そして第二号が、忍田瑠花という少女である。

性は忍田真史と同じだが、この二人に血縁関係はない。

彼女は2年前に滅んだ国家【アリステラ】の王族。あの日、真昼たちの護衛対象の一人である。

彼女は真昼が玄界に帰って来た時もその場にいた。

あの日、真昼と陽菜の運命が狂ったあの戦争の日から、瑠花はずっと真昼たちに対して自責の念を抱いていた。

そんな彼女は真昼が帰ってきた後、償いのような意も込めてなのか、小南に負けず劣らずほぼ毎日、真昼のもとへ訪れていた。

瑠花が真昼とすることは決まってお話だった。

勉強はまだあまり教えてあげられるほどではなかったから、学校での話や日常生活での話。

その話を真昼は優しい眼差しでわずかに微笑みながら静かに聴いていた。

おそらく自分がこんな表情をしていることに真昼は気づいていないだろうが。

ただ瑠花にはそんなことは関係なく、最初の動機は償いという暗いものだったそれは、だんだん真昼に会いたいという純粋な好意に変わっていた。

最も、瑠花はその自覚はまだないが。

 

 

 

「…お世話になりました」

 

「「「「うぅ…またね、真昼君っ!」」」」

 

真昼が退院するとき、仕事中にも関わらず院内の看護師たちがドバドバと涙を流して見送っていた。

彼女らも真昼の毒牙(ただ強い顔面)に掛かったのだろう。あまりにおかしいこの光景を見て、迅は苦笑いを浮かべては少し引いていた。

 

(…真昼、お前は近い将来、女の子関係には苦労するぞ。俺のサイドエフェクトがそう言ってる。

ただ、これは……まあこれはこれで面白いか。にしても、…多いなぁ)

 

羨ましいような限度を超えるとそれはそれで色々怖いか、となにやら唸る迅だった。

 

 

 

 

 

そうしてなんやかんやで退院を済ませた真昼は迅と共に、これから住む場所へと向かっていた。

1年前くらいに三門市で第一次大規模侵攻が起きてしまい、その範囲にあった真昼の実家は見るも無残に破壊されてしまった。

元々真昼母親が生まれてすぐに亡くなり、親子でボーダーに所属してから基本的に家へはあまり帰らず、ボーダー本部で暮らしていた。

だからか、実家はあまり物がなかった状態だったのは、真昼の事を思えばよかったのかもしれない。

真昼は現在、無一文家無しの天涯孤独の身。

記憶もない彼だが、幼少のころからほぼボーダー本部に暮らしていたため、思い出の物なども本部にそのまま置いてある。そのため、昔の事を思い出すきっかけになるものがあるかもしれない。

そういった理由もあって、真昼は現在、これから自分が住むことになるボーダー本部に向かっているのだ。

 

「ここが…ボーダー本部か」

 

しばらく迅と一緒に歩いていた真昼は目的地に着いたことでその建物を見上げた。

川のど真ん中に建っているそれは、家というよりも何かの施設を連想させる。

 

「どうだ、かっこいいだろ」

 

「そうだな、周囲の環境もあってどこか落ち着く。良い本部だな」

 

「だろ~?ちなみに、ここはもう本部じゃない。正確には旧ボーダー本部だな。今は玉狛支部っていう俺たちのチームの基地になってるよ」

 

「そうだったのか。じゃああのトリオンで出来ているでかい建物がボーダー本部か?」

 

真昼は他の建物と比べてもでかすぎるそれを指さして、問いかけた。

 

「そうそう。あれが今のボーダー本部。結構最近できたんだよ。あっちには城戸さんとか忍田さんがいるよ」

 

「城戸がボスらしいな。でもなぜ別なんだ?対立関係なのか?」

 

「あははは、ん~別に凄い仲悪いってわけじゃないよ。ただ考え方がちょっとすれ違ってる感じ」

 

「そうか。それで、俺はどっちに住んでいいんだ?」

 

「真昼は今日からこっち!玉狛支部!ただ、城戸さんと忍田さんが本部にも真昼専用の部屋を設けるって言ってたから今度そっちの話も聞きに行こうか!まだ建物だけ大きいだけで人全然いないから、色々部屋余ってるの。良かったな!」

 

「そこまで仲が悪いわけじゃなくて安心した。ずっとお前たちの仲が悪いんじゃ、陽菜が悲しむ」

 

「…そうだな。これからちょっとずつでも昔みたいに戻れたらいいな」

 

迅はそう言うとどこか遠くを見つめていた。

迷子の子猫のように、寂しそうなその眼を見た真昼は、そっと手を迅の頭へと伸ばした。

あやすように、優しく丁寧に迅の頭を撫でる真昼、対して迅はというと、顔を真っ赤にして口をパクパクと金魚みたいに開けていた。

 

「…俺、一応お前より1歳年上なんだけど」

 

「なぜ今年齢の話をしてる?悲しそうな顔をしていたから撫でてるだけだ」

 

「…お前のそれ同性にも発動しやすいの!?」

 

「何のことだ?」

 

「…あ~もういいです。ったく、俺はお前の未来が心配だよ。主に異性関係の」

 

「…だからなんの話だ?」

 

「そんな鈍感系みたいなのやめろ!」

 

そんなやり取りを交わしながら、二人は玉狛支部基地へと入っていった。

 

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