独りにしませんいつまでも 作:残念G級
銃声が聞こえた時は、まず立ち止まらないことが大切である。
というのも、まず銃声というのは、弾丸を射出する時に生じる、雷管内の起爆剤が着火し火薬を燃焼させ、大量の高温高圧ガスを発生させその高圧ガスが銃口から放出された際に急激に膨張し、周囲の空気を激しく振動させることで発生する。
なので、姿は視えず銃声だけが聴こえた時は、その前に発生する起爆剤が着火した音を聞いた瞬間に身を屈めたり横に飛ぶなどの対処をする必要がある。
そして無事避けれたら、次に迎撃を行う。
武装をしていないのなら周囲を確認して武器になりそうなものを探す。
今回は背負っていた荷物の外収納にあったペンを使う。
身を屈めていたため、敵の足元を確認し、人数を把握。
クツの大きさから大まかな敵の体格を割り出しておく。
そして確認が出来たらすぐにペンを抜き、鋭い方であるペン先を握りしめ、敵の喉もと目掛けて刺せb…「真昼っ!」
突然迅に名前を呼ばれたことに驚いて思わず動きを止める真昼。
攻撃されたのになぜ止めるんだ、とこちらに発砲した敵を確認しようと顔を見ると、そこには顔色を真っ青に染めて今にも泣きだしそうな小南がいた。
そして周囲を確認すると、入院中に何回もお見舞いに来てくれたレイジやゆり、瑠花、林藤にクローニンに抱かれている陽太郎までいた。
みんな手元には煙を出す可愛らしい装飾をされたカラフルな筒を持っていた。
壁には【真昼、退院おめでとう!&真昼、陽菜おかえり!!】と書かれたプレートがかけられていた。
色んな装飾がされているそれは何かのパーティー会場のように華やかだった。
そう、これは真昼の退院祝いと陽菜と一緒に帰ってきたことのお祝いだった。
そして彼らが持っていたものは、大きい音と共に紙吹雪が舞うあのクラッカーだった。
明らかにやらかした真昼。
まあつい最近まで戦場にいたため、銃声のような大きな破裂音には敏感になっている。
当然クラッカーの存在も知るわけない。
よく考えてみればわかったことなのだが、サプライズで喜ばせてあげたい、楽しんでもらいたいという彼女たちの真昼と陽菜に対しての想いの方が強かった。
純粋な善意でやってくれたことは瞬時に分かった真昼は、一瞬で小南の喉元に向けたペンを放り投げてはその場で、目にも止まらぬ速さで頭を地面に付けた。
いわば土下座である。
入院中、なんかの本で、日本人の最大の謝罪をするときは土下座である、というのを目にした真昼はこの数秒でその知識を思い出し、実行したのだ。
誰もが認めるほど美しいフォルムの土下座。恐らく土下座の教本があるのなら、確実に見本として扱われただろうその完璧な土下座を行う真昼。
迅たちはあまりに真昼の予想外の行動にただ圧倒され、静寂が空間を支配していた。
「…大変申し訳なかった」
その静寂を最初に打ち破ったのは真昼だった。
弱々しいその声音なんとか耳を澄ませてやっと聞こえるほど、小さなものだった。
それはそうだろう、迅が急いで声をかけていなかったら、小南はおそらくそのまま喉元にペンをぶっ刺されていたのだから。
迅が間一髪で止めれたのも、突然視えた未来に驚いて咄嗟に出たに過ぎない。
「…今、俺は小南を…確実に殺そうとした。取返しのつかないことをしようとした。本当にごめん」
一切顔を上げない真昼は謝罪を続ける。その声はわずかに震えているようだった。
まわりはただ声が出せずにいた。
状況が整理出来ていないのだろう。
当然だ、彼らからしたらクラッカーを鳴らした瞬間には、真昼が小南の喉元にペンを突き立てていたのだから。
そこまでに至る真昼の動作を、誰も目で追うことが出来なかったのだ。
すると、殺されそうになった本人である小南はというと、俯いて表情は視えないが身体がプルプルと震えていた。
「…うぅ、うわあぁぁん!ごわがっだぁぁぁ!!」
小南の限界が来た。
滝のように涙を流す小南は腰が抜けたのかその場で座り込むとそのまま土下座する真昼の上に覆いかぶさった。
「ま”びる”のばがぁぁ!ごろ”ざれるがどおも”っだぁぁぁ!ごわがっだぁぁぁ!!」
泣きながら真昼の頭に抱きつく小南。自然と真昼の首に回した手が、彼の首を絞める形になっているが、そんなことに気づかない小南はさらに力を入れる。
それを甘んじて受ける真昼は、本当に大事にならなくてよかったと安堵していた。
ごめんごめんとずっと小南に謝る真昼。
その光景はそのあと30分ぐらい続いた。
そして現在、真昼たちはみんなで作ってくれたごちそうを囲っていた。
パーティー帽を被る真昼の膝上には、すっかり泣き止んでは現状にご満悦の表情を浮かべる小南がいた。
先ほどの真昼の行動を理由に、小南は彼に色々やらせると決めたのだ。
その第一歩がこれである。
小南は切り替えが早かった。
殺されかけたのにも関わらず、小南はそれを逆に利用しようと考えたその肝の据わりっぷり、おそらく彼女の心臓には毛が生えているどころか鎧を着ているに違いない。
そんな心臓に鎧を着ている小南は、真昼の上に座ると真昼に食べたいものを指示してはそれを取らせ、自分の口にあーんと運んでもらっている。
傍から見たら親鳥と小鳥である。
そんな見ていて恥ずかしいことを平気でやっている小南、そしてそんな彼女を呪い殺しそうなほど睨んでいる少女が一人。
その名も忍田瑠花。
ちゃっかり真昼の隣に陣取っている彼女はあわよくばご飯をあーんしたり逆にしてもらったり…なんて企んでいたのだが、まさかその光景を別の子がやっていてその光景を見せつけられている現状に、瑠花は心底怒っていた。
(…なんでこうなるのよ!?)
まるで射殺さんばかりの睨みを小南に向ける瑠花。その眼は怒りかもしくは悔しさからなのか分からないが揺れて潤んでいた。
この日のために一番気に入っているドレスも着て髪も綺麗に整えて準備万端だったのに、結果はこれである。
泣きたくなる気持ちも理解できる。
ギュッとテーブルの下でスカートの裾を握りしめる。
思わず俯く瑠花。
そしてその様子を隣で見ていたクローニンは内心冷や汗が噴き出していた。
どうしようか、泣いてしまうのではないかと心のチビクローはてんやわんやだ。
そんな彼の心情など瑠花には関係ない。
うるうると涙が込み上げてくる。
(不味い、このままだと泣いちゃう…せっかく楽しい席なのに…)
我慢しようとしてもそれが逆効果になる。
どうしようと、皺になるスカートを見つめている瑠花に、話かける人物がいた。
「…瑠花」
「えっ…」
いつもこちら側が話しかけていたから、あまり聞かなかったその声。
だから毎回、真昼が相槌を打ってくれた時や少し話してくれた時の声を瑠花は大切に覚えていた。
いつも優しい顔で微笑みかけてこちらの話を聞いてくれる、一緒にいて落ち着く人。
どこかふわふわするこれを瑠花は知らない。
でも真昼を大切だと思っていることだけはわかっている瑠花。
そんな人から突然声をかけられたのだ、反応が遅れるのも自然だろう。
「どれ食べたい?これとか美味しいよ」
真昼はラザニアをスプーンで一口サイズに切り取ると、そのままそれを瑠花の方へと向けた。
「え、ちょっ、これ…」
「食べてみな?きっと気に入るよ」
ほら、と少し口角が上がった笑顔をする真昼。
そのまま瑠花の口元へとスプーンを近づけると、瑠花はしばし葛藤した後、パクっとそのラザニアを口に入れた。
もぐもぐと味わう瑠花だったが、
(うぅ…心臓がうるさすぎて全然味が分からない…!)
あまりの緊張と恥ずかしさと嬉しさとと言った色んな感情が混ざって、せっかく念願のあーんをしてもらったのにそれどころではなかった。
「どうかな?」
「…お、美味しい」
「それは良かった。他は何が食べたい?遠慮せず食べな。言えば取ってあげるから」
「…ありがとう」
ずるい。これはずるい。こんなの知らない。さっきから心臓がうるさい。まるで自分の身体じゃないみたい。
ふわふわして考えがまとまらない。でもどこか気持ちよくて、くせになりそうなこの感覚は嫌いじゃない。
もっと聞きたい、もっと知りたい。最初は償いのつもりで会いにいってたのに、いつの間にか会いたくて行ってた。最初は病院に行くとき少し憂鬱だったのに、いつのまにか学校が終わってすぐ走ってた。早く話たくて、早く長く一緒にいたくて。
まだこの感覚はよくわからないけど、とりあえず今は…
「…じゃあそれとそれも食べたい!私も小南みたいに食べさせて!」
あなたの事をもっとたくさん知りたいから、もっともっと話しかけるね!
だから小南、そんなに睨んでもこれはやめないから!!
バチバチと火花を散らせる二人の少女を、真昼以外の全員が暖かい眼でながめていたのであった。
それからパーティーは夜になるまで続いた。
皆でいろんなゲームをしたり、話をした。
ボーダーの事も学校の事も、他にも色々。
途中、真昼が風呂に入った時、その風呂に突撃しようとした少女二人を止めるというプチ騒ぎがあったが、今は皆落ち着いて各々好きに過ごしていた。
そこで真昼は現在、迅と林藤と向かい合っていた。
なぜか真昼の両隣にはそれぞれ小南と瑠花がいるが、はしゃぎすぎたのか今は座って眠っている。
真昼は二人にそれぞれブランケットをかけてから座ると、林藤が話を始めた。
「さて、それじゃ真昼のこれからについて話すか!」
林藤は真昼の前に複数枚の書類を出した。
「まず、真昼は学校に通うつもりはないか?」
「学校…か」
「そうだ。といっても、通うのは高校生になってからだけどな」
「高校…義務教育後の育成機関か」
「お、おぉ、なんか言い方硬いな。まあいいか。んで、お前は今15歳だから本来なら中学校なんだが、ちょっとこっちの都合でな。今年いっぱいはボーダーに協力してほしいんだ」
「それは構わない。だが具体的に何をしたらいい?」
「おおよかった!それで内容だが、まずボーダーに正規で入隊してもらいたいってーのが1つ。次にボーダーの研究に力を貸してほしい」
「入隊の件は構わない。それで研究というのは何をする?腹を掻っ捌けばいいか?」
「いやいや違う!そうじゃねえから安心してくれ。お前さんがこっちに来た時に一緒に来た艇あるだろ?まずはそれを一緒に調べてほしい」
「あれは普通に調べられるだろ…あっ、そういうことか」
「そうだ、あの艇にはロックがかけられていてな。登録されたトリオンを持つ者以外、反応どころかドアすら開かない。登録されてるのは真昼だろ?」
林藤の出した資料の中に、遠征艇の写真があった。
記載された情報には遠征艇のサイズや重さなど簡単な情報しか表記されていなかった。
「別にいいが、あの艇は他の奴には使えないぞ?」
「お?というと?」
「あれは俺が敵の艇を奪って色々改良した艇だ。奪われないようにと色々いじくったから、改良には結構かかるぞ」
「あらら、そうだったの。まあそれはそれでいいか。それでも少し見せてほしいんだ。本部のエンジニアたちが興奮してやまないんだ」
「わかった、協力する。それで結局研究とは?」
「それは主にトリガー開発の研究だな。ボーダーとは言っても、トリオンやトリガーについてはまだまだ未知が多い。だから少しでも研究を進めたいんだが、今はまだ人材不足。そこで真昼の知識を借りたいっつーわけだ」
「了解した、それじゃいつ俺は本部に行けばいい?」
「うし、なら早速明日からいいか?もちろんもう少し休んでもいいが」
「いや、俺も
「そっかそっか。それは助かる。んで、もう1つお前に渡し物があるんだよ、迅」
「お、やっと出番だ。というわけで、ほれ真昼。これ」
林藤から指示を受けた迅は、懐からあるものを取り出した。
それは手のひらサイズの入れ物のようなものだった。
「これは…」
「
「これが、俺の」
「そうだ。今ボーダーでは様々なトリオンの研究や開発を行ってる。それにはお前や陽菜ちゃんが残してくれた研究資料を参考にしたものも多い。だが、その中でもお前が使ってたそのトリガーは攻撃力トップだよ。いや本当に規格外もいいとこ。馬鹿トリオン喰うけどな」
その迅の話を聞いて苦笑いを浮かべる林藤。
「まあ一応、本部からもトリガーホルダーは貰えると思うけど、それはもともとお前のものだからな。ラッキーだと思って2つ持っておきな」
「わかった。ありがとう」
「よーし!それじゃ話はまた本部でかな」
「うし!じゃあボス、俺は真昼を部屋に案内してくるよ」
「よろしくな迅。それじゃ、真昼」
「ん?どうした林藤」
「陽菜ちゃんも、改めておかえり」
「…ああ、ただいま」
真昼はそのあと小南と瑠花を各々の部屋に運んだあと、迅と一緒に真昼の部屋へと向かった。
道中、どこか懐かしい感覚に包まれる真昼。
彼の壊れた記憶に残るそれが僅かに反応している。
そして真昼の左手にある指輪もまた、彼の指を締め付けていた。
「ここがお前と陽菜ちゃんの住んでいた部屋だよ。掃除はいつもみんなでやってるから綺麗なままだと思うよ」
1つの扉の前に止まった真昼と迅。目的地の部屋なのだろう、確かにちゃんと部屋には真昼と陽菜の名前が刻まれたプレートが付けられていた。
「そうか、ありがとう」
そう言って真昼は部屋のドアを開けた。
少し古びたドアの音を聞きながら、真昼は部屋に入った。
中にはベットと机が2つずつあり、壁を埋め尽くすたくさんの本。
そして写真立てがいくつか置いてあった。
真昼は部屋を見渡す。やはりどこか懐かしい。懐かしい匂いは心を落ち着かせ、どこになにがあるのか探すよりも、体が勝手に動く。不思議な感覚。
そのまま飾られた写真立てを覗く。
写っているのは、真昼と陽菜と父親。
自分の覚えている姿よりもだいぶ幼い容姿。ただ自分の知る陽菜の面影はあるな、と素直に思う真昼。
記憶を失う前に撮られたのだろうが、今の真昼にはその時の記憶がない。
だが写真にはちゃんと彼女が写っており、改めてここに過去の自分たちがいて、ちゃんと帰ってきたんだと実感する。
他の写真を見てみると、玉狛支部を背景に集合写真を撮っているものがあった。
そこに写っている数人は迅や小南といった見知っている人たちだったが、他の人は知らなかった。
前のボーダーは他国の戦争に助力していたと迅が言っていたことを思い出した真昼。
だったらここに写っていて知らない人たちというのは、おそらく戦場で死んだのだろう。
弱ければ奪われるだけだ。この世の不利益は全て当人の能力不足。これが現実なのだ。
そっと写真を撫でる。覚えていないが、この人たちが陽菜が戻りたがっていた場所。
(そうか、ここが)
改めて認識する。やっと帰ってこれたんだ。そしてここが彼女が守りたかった場所なんだ。
この場所を、世界を彼女は…
守ろう。この場所を、みんなを。俺の全てをかけてでもちゃんと。
「…ただいま、みんな」
真昼はその写真を抱きしめる。
優しく、宝物を包み込むように。
その姿を静かに見守っていた迅。
「…おかえり、真昼、陽菜」
その頬に伝う雫は月明りによって輝いていた。
ありがとうございました!
次回から本部隊員の人たちと関わっていけるかなと思います。
現在、真昼たちの時間軸は原作開始の3年前ぐらいになりますので、BBFで確認しながら徐々に話を展開できたらと思いますので、引き続きよろしくお願いします!