独りにしませんいつまでも 作:残念G級
真昼が本部に行ってからしばらくたった。
現在ボーダーでは新しい弾トリガーの開発が進んでおり、空前絶後の弾トリガーブームが起きていた。
今までボーダー内では主に近接戦闘のトリガー開発に力を入れており、バランス重視の刀型である孤月、迅が開発した変幻自在のブレード─スコーピオンが戦闘員の間でよく使われる攻撃用トリガーとなっていた。
そして次点で使われるのが弾トリガー系統に入る、銃手と射手のトリガー─アステロイド。
ただ、このトリガーは射手の場合、攻撃できるまでに決まった工程が必要になるため、なかなか扱いが難しく、使用者はトリオンに恵まれた極少数でしかない。それらを改良して作られたのが銃手用なのだが、これもまた、メインを張れるようなポテンシャルはなく、実質ブレード型の攻撃用が人気を誇っている。
一応、遠距離に特化している狙撃用もあるが、影の活躍というのもあってあまり目立っていない。
そんな使用トリガーの片寄りが起きていたボーダーで、なぜ弾トリガーブームが起きているのか。
それはある人物が開発した
今まで、弾トリガーというのはアステロイドという、トリオンを実体化し、高威力の弾丸へと替えて攻撃するという、見た目が少しファンタジーよりのトリガー1種だった。
銃手用なんかはイメージしやすく、ただ具現化した銃型の弾になるというもの。
言ってしまえば、戦術などに汎用性などがなかったのである。
そこで開発されたトリガーというのが、その弾トリガーであるアステロイドを基盤に、色々な変化や効果を付与してみてはどうかというものだった。
まず1つ目が、名を【
その名の通り、着弾時に爆発し広範囲を攻撃できるトリガー。
トリオン量を調節することで爆発の規模を設定でき、地雷のような罠としても使うことが出来る。
次に2つ目、【
弾道を自由に設定でき、遮蔽物を避けたり、予期せぬ方向からの攻撃を行える。制御は難しいがリアルタイムで軌道をコントロールでき、まさに千変万化の攻撃を可能にした。
3つ目が、【
対象を自動追尾する。追尾方法は、トリオン体の反応を追いかける〈探知誘導〉、視線で対象を正確に追う〈視線誘導〉の2種類がある。弾速が速すぎると誘導性能が発揮できないという欠点があるが、バイパーより使いやすさがある。
最後に、弾専用のオプショントリガーである、
直接的な破壊力がない代わりにシールドをすり抜ける特性を持っており、着弾すると重石のようなものが突き刺さり、動きを拘束する効果がある。
ただ、重量などの効果にトリオンが消費されており、弾速が遅く、トリオン消費が激しいなどの難点がある、ややクセがあるトリガー。
以上4種のトリガーが新しく弾トリガーに追加されたことにより、弾トリガーでの戦い方に幅が広がった結果、ボーダー本部で弾トリガーが大流行しているのであった。
そんな活気的なトリガーを開発した張本人である一ノ瀬真昼は、ある部屋にて4人の正隊員と戦っていた。
「秀次、もう少し踏み込みは深くした方が良い。姿勢も低くすることを忘れずに。それと狙撃はもう少し上手くならないと無駄にトリオン消費してるだけだよ。鉛弾はそんなに無駄撃ち出来るものじゃない」
「ック!はい!」
「加古は弾と近接の使い分けが上手い。その手足の長さは今の戦術と合ってる、…が、まだ動きに無駄が多い。近接戦の動きに慣れてないのは仕方ないが、それではただの的だな」
「あら、手厳しいわね」
「二宮はハウンドの使い方が良いな。メテオラの威力も申し分ない。だが些か火力頼りの脳筋だな。他2人の隙をカバーしているようで、その威力が邪魔になってる。多いトリオン量に振り回されてるな」
「…ちッ!」
真昼は右手に孤月を持ち、周りを弾トリガーを浮かせて待機させている。
真昼と同じ孤月を持つ三輪とスコーピオンを使う加古は真昼に対して近接戦を仕掛けていた。
まだ14歳で身体が少し小さい三輪はその身軽さを存分に利用し素早い連撃を、加古はそのすらっとしたモデル顔負けのスタイルの良さで、長い手足から変幻自在のスコーピオンを剣にしたり時には身体から生やす
「…他の人なら今ので決まってただろうけど、俺に狙撃は効かないし隠密なんかも無駄だぞ、東」
「流石だな、真昼」
「戦術としては悪くなかった。前と違い加古を秀次のフォローに入れたことで、チームの離脱が遅くなった。良い戦術だ蓮」
「褒められたわね、嬉しいわ」
真昼は冷静に戦場や戦術、4人の動きを観察し的確なアドバイスを送りながら、攻撃を加えていく。
三輪と加古には受けを主にした孤月と近接格闘の動きの中でスコーピオンを生やし確実にダメージを与えていく。
時折飛んでくる二宮の弾は空中待機させておいたバイパーで一発残さず相殺し、余った弾で全方位射撃。
ボーダーで最初の狙撃手としてこの3人を率いる東に関しては、その狙撃の腕と殺気を悟らせない技術はボーダー内で右に出る者はいないだろうが、真昼は自身のサイドエフェクトで狙撃が効かない。それどころか、レーダーによる探知を遮断していても、真昼の前では意味がないのだ。
だがそんなことは何度も戦っていてすでに把握している東は、自身の事さえも囮にした。
的確に東の命を奪うよう動くバイパーは、二宮の弾を全て相殺したのもあって残り全て。
リアルタイムで弾道を引いているため、意識は東に行っている。
それを理解している三輪と加古は真昼の死角からの追撃を行う。
獲った
真昼に向かってそれぞれの刃を振るう2人を見て二宮は確信する。
いや、この場にいる全員が真昼を倒したと確信していた。
だが、それは確信から盲信へと変わった。
「…旋空孤月」
眼にも止まらぬ神速の居合。
『『『戦闘体活動限界
突然告げられた敗北のアナウンス。胴体が斬り飛ばされた3人はぺきぺきと身体に亀裂が入る。
その刹那の光景に誰も声が出ずにいた。それも無理はない。
なぜなら真昼が孤月を抜いて3人を攻撃し納刀するまでの動作で、誰一人、その真昼の持つ孤月の刀身が視えなかったのだから。
これには思わず遠くでバイパーで撃ち抜かれた東も、モニター越しで支援していた月見蓮も苦笑いを浮かべる。
最早笑うしかない。
こうして東隊は5対1なのにも関わらず、真昼に大敗した。
(これで7戦7敗か…難しいなどうも)
東は崩れ行く身体を見ながらこれまでの戦歴を思い出す。
ボーダーでは戦闘員1人以上最大4、戦闘でに支援を担うオペレーター1人で隊を組むことが出来る。
そのなかでも東隊というのは、ボーダー内でも類稀なる戦闘センスを持つ4名が戦闘員として隊を組んでいる、いわば不動の本部最強部隊である。
その最強の部隊がたった1人の相手に対して手も足も出なかった。
東隊全員がベイルアウトしたことにより戦闘が終了。
真昼も東隊の作戦室へと戻る。
すると東隊の全員は席に座っており月見が淹れてくれたのだろう各々の飲み物が用意されていた。
真昼の席には真昼の好物であるイチゴオレが置かれていた。
「さて、それじゃ真昼、毎度悪いが反省会をお願いしてもいいか?」
「わかりました。それでは早速始めましょう」
それから真昼は隊全体の戦術の善し悪しはもちろん、個人での動きなんかも細かく話していく。
この反省会は東が直々に真昼にお願いしたものだ。
そもそも東と真昼の出会いはスナイパーの訓練室だった。
「…凄いですね。経験者かなんかですか」
「ん?いや、ここに来てから訓練したんだ。えっと、君は」
「あ、すみません。一ノ瀬真昼です」
「真昼か、俺は東春秋。よろしくな」
「よろしくお願いします」
「真昼もポジションはスナイパーなのか?」
「いえ、ただ一通り全てのトリガーは使っておこうかなと」
「なるほど、木崎と同じか」
「隣、いいですか」
「お!せっかくだしな、一緒にやろう」
もともと落ち着いた雰囲気を纏う2人だからか、周囲が謎のほわほわに包まれながら話が進み、2人で狙撃訓練を行っていた。それから少しずつ会話することが増えていった。
そんなとき、真昼の強さを知った東は真昼に今回のような戦闘訓練をお願いしたのだった。
「だいたいこんなところですかね。でも最初に比べたら全員動きがよくなってましたよ」
「ははは、真昼にそう言われると自信が付いてくるな」
「確かに一ノ瀬のアドバイスはためになる」
「そうね、いずれは私も隊を持とうと思ってるんだけど、入ってくれないかしら」
「加古さんの隊に一ノ瀬さんが入ったら凄い強そうですね」
「三輪君も作る時は誘ってみたら?」
「なんでそんなニヤニヤしてるんですか、蓮さん」
東隊で談笑していると真昼のスマホに連絡が入った。
それは夕方からの防衛任務を知らせるものだった。
「それじゃこれから防衛任務なんで、僕はこれで失礼します」
「なんだ、真昼は今日防衛任務か」
「はい。それじゃトリガー変更もするので。またいつでも連絡下さい」
「おう、ありがとな。真昼も防衛任務気を付けてな」
東の言葉に真昼はペコっと会釈して東隊の隊室を後にしたのだった。
その日の防衛任務にて
真昼は現在基地から少し離れた地点を1人で巡回をしていた。
真昼が防衛任務に入る時、基本的には1人でのシフトが多い。というのも、現在のボーダー隊員が少ないというのもあるが、一番の理由は真昼の実力にあった。
真昼は他の隊員と比べても頭いくつ分か抜きんでた実力を持っている。
並大抵のトリオン兵なら一度に数十体が出てきても街に被害が出ることは無いだろう。
そんな実力を持つ真昼は戦闘員としての才能だけでなく、オペレーターとしての才能も持っている。
もともと旧ボーダー時代は陽菜と共に戦場に立ちながら、サポート専用トリガーである【サポーター】を使って戦況を細かく分析し、仲間に的確な指示を出していた。
そして現在ボーダーのオペレーターで使われている技術はこの【サポーター】の機能の大半を利用しているため、言ってしまえば真昼はボーダーの元祖オペレーターと言っても過言ではない。
現に今も真昼は巡回をしながらサポーターで、常にゲートが開かないか確認をしている。
つまり、真昼がシフトに入る時は、隊員とオペレーターが1人で完結するため、他の隊員を休ませることが出来るのだ。
それこそ、その真昼の働き方を知った月見なんかはよく真昼のオペレーターを担当すると言ってくれていたが、真昼が毎度それを断っていた。
そうして1人任務を行う真昼。その時、サポーターにゲート反応が発生。防衛ラインぎりぎりの場所だったため、全速力で向かう真昼。
ゲートが発生してからわずか1分で現場に駆け付けると、3人の少女がトリオン兵のモールモッドに見つかり襲われそうになっていた。
真昼はすぐさま少女たちとモールモッドの間に移動すると、思いっきり蹴り飛ばした。
「…怪我は?」
「アタシたちは皆無事です!」
「そうか。すぐに終わるから一旦待ってろ」
そのまま腰に差した孤月を構える。対してモールモッドは蹴り飛ばされたことで標的を真昼に変えたのか、そのまま勢いよく走ってくる。
「…旋空孤月」
真昼が必殺の居合を行う。瞬きの間に真っ二つになったモールモッドを見て、言葉を失う3人の少女たち。
追加のゲート反応がないことを確認した真昼は、おそらく力が抜けたのだろう、その場にぺたんと座っている少女たちに近づいては目線を合わせるために膝をついた。
「無事か?」
「は、はい。ありがとうございました!」
3人の内、眼鏡をかけたおかっぱ頭の少女が元気な笑顔で頭を下げた。
全員同じ制服を着ていることから同じ学校の生徒なのだろう。1人の少女の容姿が他2人よりも幼さそうだったからもしかしたら私立の小学生かと考えた真昼だったが、彼女らの制服についている校章が中学生の三輪が着ている制服についているものと一致したため、聞くよりも前に中学生だとわかった。
「それで、お前たちはここになんのようだ。ここは危険区域内だ。遊びで来たなら危ないぞ」
「…すみません。あたしたち明後日からボーダーのオペレーターで入隊するんですけど、その前に1回見てみたいねって話して少しだけ入っちゃいました」
聞いた話によると、この眼鏡おかっぱの宇佐美栞、確かコンビニの雑誌の表紙で見覚えがある少女─小佐野瑠衣、そして3人の中で一番小柄な三上歌歩は同じ中学の同級生で、近いうちにボーダーに入ることが決まっており、それで前もって少し本部を見てみようと、ほんの少し危険区域に入ってしまったらしい。
本来なら本部に保護してもらって、おそらく記憶封印措置がされるだろう案件だ。それかボーダー入隊権利の剥奪か、どちらにしろ3人からしたら悪い結果になるだろうことは明確だ。
真昼はしばし考える。
幸い、ここに3人がいることは真昼しか知らない。シフトが1人でオペレーターとも繋いでいないため、正直に言うと隠蔽が可能なのである。
3人を見ると、彼女らも自分たちの立場がかなり危ういことに気が付いたのかサァーッと顔色が悪くなっていった。三者三様のリアクションをする彼女らを見て、思わずクスッと笑みがこぼれた真昼。
すると不思議なことに3人がピタッと動きを止めた。
先ほどまで2人、真昼を見る目がどこか輝いていたのだが、今やそれが全員へと変わっている。
ちなみに先ほどから一言も話していない三上はずっとぼーっと頬を赤らめながら心ここにあらずな状態だ。
明らかに3人とも様子がおかしいな、と思っている真昼は、ここにいつまでもこの子たちを置いておくわけにもいかないと彼女たちの事をどうするか決めた。
「俺がなにか言わなくても反省してるみたいだし、今回はもうお帰り」
「…え、いいんですか?」
「いいかどうかと言われると正直ダメだろうけど、ボーダーに入ると覚悟を持って決めてくれたなら、あとは今後に期待ってことでいいだろ。一応これもっていけ」
真昼は懐から名刺を3枚出すと各々に渡した。上層部から1人で防衛任務に入ると決めた時に何かあったとき様で持っておけと作らされたものだ。使いどころが分からなかったが、まさかこういう時だったかと咄嗟に思い出したのであった。
「俺の名前と連絡先が書いてある。目撃者はいないと思うけど、今回のことでボーダーの奴からなにか言われたらそれ見せて俺に連絡させろ」
真昼は3人にそう伝えると順番に頭を撫で、その場で帰るよう諭した。
宇佐美たちは真昼に深く頭を下げると、走って街の方へと帰っていき、真昼はその姿をしっかり見届けるとそのまま任務を再開するのであった。
真昼とわかれてからの3人は帰路を歩く道中、先ほどの事について話していた。
「いや~なにも処罰なくてよかったね」
「一ノ瀬さん?が見逃してくれたんだね」
「ほんと危なかった。これは入隊日までおとなしくしてた方がいいね」
「そうだね、にしても一ノ瀬さん綺麗な顔だったね。声聞くまで女の人だと思ったよ」
「それね、あんな綺麗な人初めて見た。言葉出なかったわ」
「ほほう?瑠衣ちゃんが言うんなら相当だね。モデルさんとか見てたら眼とか肥えちゃいそうだけど」
「いやいや、あんな綺麗な人ほんっといないから。肌のお手入れとかなにやってるんだろ、気になる」
「確かに本当に綺麗だったねぇ。是非とも眼鏡をかけてほしい」
宇佐美と小佐野はきゃいきゃいと真昼の事で盛り上がっていた。だが、先ほどからずっとだんまりの三上に気づいた2人は、トリオン兵に襲われたことに恐怖を感じているのかもしれないと心配し、三上に話しかけた。
「歌歩ちゃん大丈夫?どこか体調悪いなら少し休む?」
「平気?歌歩」
「ふぇ!?あ、ううん!大丈夫だよ、ありがとね2人とも」
「何かあったの?」
「…かった」
「「ん?」」
「一ノ瀬さん、かっこよかった」
「「わかる、凄い分かる」」
3人はこのあと家に帰った後も、3人で電話をしては真昼の事を話していたのであった。